「上条さんと美琴のいちゃいちゃSS/とある未来の・・・/03章-2」の編集履歴(バックアップ)一覧はこちら

上条さんと美琴のいちゃいちゃSS/とある未来の・・・/03章-2 - (2010/05/09 (日) 08:58:55) の最新版との変更点

追加された行は緑色になります。

削除された行は赤色になります。

---- #navi(上条さんと美琴のいちゃいちゃSS/とある未来の・・・) 「くそ!遅かったか!」 一人悪態をつく少年。 方々を走り肩を上下に震わせて呼吸は荒いが疲れた様子は無い。 むしろ少年の表情には焦りや不安の色が強い。 少年、当瑠は観覧車を見る、観覧車内の電気は点いておらず動きは止まってしまっている。 (何処にいやがる・・・・・・?この広場のどこかにいるはずだ・・・・・・!) 周りを見てもそれらしい人物はいない。 いや、そんな簡単に見つかったのではここまで彼は苦労をしていないだろう。 爆発が起き、観覧車内の操作盤と電源が破壊された。 観覧車にいる人達は最上級の人質として出来上がっている。 犯人は一向に見つからない、悪い方向にしか状況は動いていない。 「おーい」 イライラしているところに声をかけられる。 忌々しそうに振り返ると、風紀委員の腕章をつけた少年が手を振っていた。 「なんだ?」 能天気な少年の仕草に多少の怒りを覚えた声で返事をする。 少年の方はそんなことを気にせずになれなれしく近付いてくる。 当瑠が部外者である事は気がついていないようだ。 「いい報告だぞ」 ――――いい報告? それはつまり、犯人が捕まったと言うことだろうか? 「どういうことだ?」 表情と声色で続きを促すと少年は手をひらひらとさせて続きを話し始める。 「犯人グループの一部が捕まったんだ」 「一部・・・・・・?やっぱり団体犯だったか」 だが、一部を捕まえただけではお話にならない。 主犯格の者を捕まえなければ今以上の爆発がおき客は木っ端微塵だ。 「主犯格は捕まっていないけど、犯人グループのアシを捕まえた」 少年は当瑠の様子など全く気にせずに続ける。 「アシは大能力者≪レベル4≫の透明化≪インビジブル≫で 自身は勿論、他者も姿を消すことが出来るらしい」 「それで今まで姿が見つからなかったのか」 「あぁ、それと今もう一人の犯人も追跡中だ」 「主犯か?」 少年は首を振る。 「いや、大能力者≪レベル4≫の肉体強化系の奴だ」 「学生のテロ行為か・・・・・・」 今まで出てきたレベルの者たちから予測して言う。 外から来たもののテロ行為であればもう少し迅速に事は進むだろうからだ。 そして、レベルの高い者たちはそこに自惚れて、自分の存在を見せ付けたがる。 何も知らない一般の生徒や関係のない一般の人々を巻き込む形で。 「アシの奴が捕まったのなら能力の方も解けているだろう」 少年は手を腰に当てて周りを見る仕草をする。 だが彼にとっての怪しい基準のものがいなかったらしく少し落胆した表情をする。 「・・・・・・肉体強化の奴は何処に・・・・・・?」 唐突にそれが気になってきた、なぜかは分からないが、重要な気がしたからだ。 「確実な場所は分からん・・・・・・ただ、広場の方向に走っていったらしい」 だからここに来たんだけどな、と少年が言ったところで当瑠は気づいた。 (広場・・・・・・追跡しているのは多くの風紀委員と警備員 多くの人、人質代わりの観覧車の客・・・・・・) 爆弾の威力を最も知るのに最適な場所は・・・・・・? 最も効率的に多くの人間を犠牲にするには・・・・・・? 肉体強化の能力者が広場の方向に逃げている理由は・・・・・・? ならば犯人のいる場所は・・・・・・? 「―――――ッ!この場所か!」 時間帯からしても今ここが一番犠牲者が多く取れる場所だ。 そして、逃げている能力者の意図は報復の意味を持っているのだろう。 (大量の風紀委員と警備員の被害者を出すためか・・・・・・) 肉体強化の能力者と風紀委員と警備員が集まったところで 爆弾は盛大に周りを破壊しつくす。 当瑠の頭に倒れている人達が浮かんでくる。 その中には彼が大切に思っている人の姿もある。 「誰にも邪魔されずに隠れていられる場所・・・・・・」 あの場所しかない。 「あ!おい!何処行くんだよ!」 少年が呼び止めようとしたが当瑠は止まらずに走り出す。 また無視しちまったな、と思いながら。 ピリリリリ、と飾り気もない無機質な音が暗闇の観覧車内に響く。 慌てて携帯を取り出し、着信者の名前を見ると『馬鹿』と表示されていた。 「もしもし?」 少しだけ緊張して通話が開始する。 『お前、今何処にいる!』 焦ったような『馬鹿』の声が耳を突き刺す。 「どこって・・・・・・観覧車だけど観覧車も止まっちゃうし」 答えると、くそ、と『馬鹿』がイラついた声を出す。 「どうしたのよアンタ・・・・・・?」 『馬鹿』の声で何かあったと確信し心配した声をかける 隣に疲れて眠ってしまった少女がいるが、彼女をギュッと抱き寄せる。 意味がないと思いながらも、こうしていないといけない気がしたのだ。 『・・・・・・美詠』 『馬鹿』が絞り出すように声を上げる。 やはり何かあったのだ、そして『馬鹿』はまた一人で解決しようとしている。 「なによ・・・・・・また勝手に!なにしようってんの!? まさか、観覧車が止まった事と関係あんの!?」 声を荒げてしまったが。 『馬鹿』はただごめん、と呟いてあやまるだけだ。 「・・・・・・ごめんって、なによ」 どうせ聞き出そうとしても『馬鹿』が答えないのは分かっている。 分かってはいるが、話してくれると淡い期待を持って聞く。 『・・・・・・悪い』 ―――――やっぱりそうだ、コイツはいつも答えてくれない。 「切るわよ」 ぶっきらぼうで自分勝手に怒ってることは分かる。 だが、美詠はもっと自分を信頼して欲しいからこそ『馬鹿』に怒りをぶつけた。 『美詠』 もう一度、『馬鹿』が彼女の名前を呼ぶ。 「なに?」 今までと全く違った声色に驚くが、それは表に出さないで なるべく怒っているのを強調する。 『・・・・・・お前の事は必ず守る』 「――――――な!!」 突然の言葉に作っていた声が一気に崩れ、驚きの声を上げてしまう。 「なななな、なに言ってんの!?そ、そな、い、いきなり!」 言葉を反芻しようとするがうまく舌は回らない。 『馬鹿』の方はそんな事は全く気にしない。 『・・・・・・じゃぁ、美春のこと頼む』 「――――ちょ!?ま、て!」 とめようとしたがプツッツーツー、通話終了を知らせる音が鳴り。 その後は何度かけても『馬鹿』は電話に出なかった。 風紀委員や警備員を出し抜くなんていうのは案外簡単なものだ。 とある場所で一人の高校生くらいの少年がククッと低く笑う。 自分の計画は完璧だ、と少年は満足げに椅子に深く掛けなおす。 ――――初めは軽い気持ちだった。 自分の能力で何か作ってみよう、そんな所だった。 レベルも上がったし、もっと広い範囲の事ができるはずだ。 ――――だが、出来たのは。 実験に使用した場所を破壊し尽くすような爆発。 散らばる破片に自分の体を地面から引き剥がすような爆風。 今でもそれは少年の目に焼きついていた。 ――――これで、もっと僕の力を見せ付けてやる。 自分はレベル4だ、レベル5には劣るもののそこらの能力者には到底たどり着けないレベル。 レベル2、レベル3、そんなのはクズみたいなものだ。 自分の能力の強力さなら同じレベルの奴にだって負けない。 ――――今までの僕の見方を変えてやる。 レベル3ときに馬鹿にしてきた奴等が腰を抜かすような 自分に跪いて、詫びてくるような、そんな事をしてやろう。 ――――証拠の隠滅も準備はできている、後は実行に移すだけだ。 部屋に掛けられた時計に目を向ける。 時刻は六時五十分になる頃だ。 ――――あと十分。 そう、後十分であの周囲は爆発で木っ端微塵になる。 人間の悲鳴、崩れ落ちる乗り物、守れなかったと悔しがる風紀委員、警備員。 それを間近で見れたなら・・・・・・少年は今までにない高揚感を感じている。 そして、今は気絶している従業員の男に一度目をやる。 「くく・・・・・・コイツも吹っ飛ばすのも良いかもな」 そういえば、人間に対しては直接使ったことは無いなと思い 気絶した従業員に手を向けてみる。 演算をして、計算の答えを出して、念じれば、あの爆死させれるし 起爆型に調整してやれば人間爆弾の完成だ。 「試してみるか?」 答えは返ってこない 「――――させるかよ」 はずだった。 「なんだ、お前・・・・・・」 少年は自分の目の前に立っている茶色のツンツン頭の少年を睨み付けて言う。 だが、ツンツン頭はそんな言葉を無視してある場所に目を向ける。 「・・・・・・」 ツンツン頭が見ていたのは倒れている従業員だった。 そして、少年の方を見ないまま従業員の男に近寄ろうとする。 「まて!」 止まる事を予想して叫ぶ。 予想通り、ツンツン頭は足を止めて少年の方を向く。 「この人に何をした」 刺すような視線でツンツン頭は睨み返してきた。 その表情には怖気づいてしまう気迫があったが、息を呑むのも我慢する。 「・・・・・・は、死んでなんかいねーよ」 ツンツン頭は睨んだ表情を戻さないが少年の方に体を向き直した。 「・・・・・・てめぇ、自分が何してるか分かってんのかよ」 ギリッと音が聞こえるくらいにツンツン頭が拳を握る。 目に見えない気迫が更に増した気がして少年はジリッと後ずさりをする。 「・・・・・・何をしてるか?だって」 精一杯の虚勢を張る。 声は上擦っていないが、いつ裏返るか分からない。 元々計画に発見される事は考えていなかった、≪インビジブル≫の仲間が捕まったのが誤算だった。 あの野郎油断しやがって、すでに捕まった仲間に悪態をついても仕方がないのは分かっている 目の前の事に集中しなければいけない事も。 「見りゃぁ分かるだろ?」 目の前、邪魔なツンツン頭の男。 自身の能力――――能力?そうだ、自分にはこれがある。 意識を集中させる、目の前の男を殺す、殺す、殺す、一瞬で演算は終了し 目の前のツンツン頭を爆死させる準備が整う。 「てめぇを殺そうとしてんだよ!!」 その瞬間にぐにゃりと空間が歪む。 ツンツン頭の表情はその時にも変わらない。 「死ね!」 声に反応するように歪んだ空間が爆発した。 観覧車が止まって五分ほどたっただろうか。 御坂美琴は極度の緊張状態にいた。 理由は簡単だ、好きな人と暗闇の中で二人っきりでいる、それだけだ。 「・・・・・・」 暗闇の中で全く話さない、沈黙が続いている。 気まずい、暗いせいで表情も見えないのでなんて声をかけたらいいのかも分からない。 「あの・・・・・・えっと・・・・・・」 どうしよう、どうしよう、どうすればいい? さっきまでは手を繋いでいただけの幸せだったのに、他に何もいらないくらいだったのに こんな暗闇に放り出されて何をすればいいのだろう。 「な、なかなか直らないわねー」 ・・・・・・返事は返ってこない。 なんで止まるのよ、動いていればいつかは終るのに、二人でいるだけでいいのだから 景色を見て、二人で綺麗だねって言って、目が合って、恥ずかしくなって いつの間にか終って、楽しかったね、また乗りたいねって、それでいいのに (どうしてこうなるのよー!) 暗闇の中で二人っきりなんて不味過ぎる、どうしようもない はやく直って、満足したから、今日はこうれでもういいから。 (お願い神様!) 普段から神様など信じない彼女だが今だけは、図々しいと分かっていてもだ。 「~~~~!」 手を組んで念じていると、突然向かい側で座席のなる音がする。 前に座っていた少年が動いたのだ。 「え・・・・・・?」 そして、隣で音がしたと思っているといきなり体が横に動いた。 いつの間に?考える暇もなく、恐らくだが、少年の胸に飛び込む形になる。 「あ・・・・・・」 体温と体温が重なって暖かく感じる。 抱きしめられている。 確信できた、腕が肩と腰辺りに当たっている。 少しだけ強い力加減で離さないと主張するように抱きしめられていた。 「御坂」 耳元で囁かれた。 いきなりでビクッとなってしまうが最小限に抑えて返事をする。 「な・・・・・・に?」 「・・・・・・しても、いいか?」 「え?」 しても、とは何だろうか。 こんな暗がりで何をするのだろう、少し考える。 (暗闇で二人っきり、密室で・・・・・・しばらく動きそうにない乗り物) 思いつけば、顔が熱でも出たみたいに熱くなった。 「えっと、わたし、その・・・・・・」 「嫌?」 嫌なわけがなかった。 キュッと抱きしめられていた強くなる。 それが心地よくて、胸も熱くなっていく。 心臓の鼓動は信じられないくらい早くなっていた。 しても、いいと思う。 思っていたよりもはやくその時が来ただけだ。 「・・・・・・いいよ」 そう言うと、体が横たわるように後ろの押された。 押し倒され、暗闇の中で二人の距離が近付いていく。 死んだ、目の前にいた男は跡形もなく消えただろう。 なにしろレベル4の威力だ、まともに喰らえば一たまりもないどころか 痛みすら感じられず死ねるはずだ。 爆発の後のため、煙で視界が悪い。 「ざまぁみろ、僕に楯突くからだ」 鼻で笑ってやる。 そうだ、これでいいじゃないか、弱い者がいくらかかってこようと 圧倒的な能力で薙ぎ払ってやればいい。 それだけで済む。 時間は六時五十六分、間に合った。 爆発の騒ぎを聞きつけて風紀委員や警備員が突入してくるだろう。 「ここから離れるか・・・・・・」 ついでに気絶している従業員も消しておくかと考える。 目撃者がいればそれだけで捕まる確立は格段に上がる。 捕まるのは真っ平ごめんなので、少年はあまり迷うことなく従業員に殺意≪能力≫を向ける。 ―――――さぁ、吹き飛べ。 そう念じた瞬間。 「――――――あが!!?」 吹き飛んだのは自分の体の方だった。 「な、に!!?」 まさかもう突入された?近くにいたのだろうか? 何の能力?武器?様々な疑問が浮かび吹き飛んだ体を起こして 吹き飛ばした人物がいる方向を睨みつける。 「は?」 立っている人物には見覚えがあった。 だが、信じられなかった。 そこに、爆発に直撃したはずのツンツン頭の少年がいたからだ。 「こんなもんかよ・・・・・・レベル4ってのは」 ツンツン頭はほとんど無傷で立っていた。 理由は全く分からない、本気では無いとは言え、生身の体で耐えられる規模の爆発ではなかった。 爆破地点を間違えたのか?それもない、確実にあの男がいた地点で爆破させたはずだ。 「な、んで!!?」 殴られた痛みも忘れて声を出す。 ツンツン頭はなんでもないという顔をして、あるところを指差した。 「これのおかげだよ」 ツンツン頭の指差した方向は、少年の作った『物』の一部だ。 予備というわけではないが、隠れ家の地雷代わりだったり、威嚇、緊急の攻撃用に 作り置きしておいた『爆弾』だった。 「爆発と爆発が重なると相殺するよな?」 作り置きの爆弾の威力は最小限に抑えたものだ。 「賭けだったけど、成功してよかったぜ」 高い威力の爆発を弱い爆発で止める話は聞いた事はある。 しかし、何故奴が爆弾を持っているのか。 「ま、さか・・・・・・!」 仲間に作り置きを渡しておいた事を思い出す。 ツンツン頭は風紀委員の腕章をしている。 捕まえた仲間から、爆弾を回収していれば・・・・・・。 少年の表情でツンツン頭は理解したのだろうにやりと笑った。 「間に合ってよかった、間に合わないんじゃないかと内心ひやひやしてたけどな」 だが、コイツはまだ油断している。 「一度守ったくらいで得意になってんじゃねぇよ!」 空間を歪ませ、爆発を発生させようとする。 「―――――・・・・・・」 ツンツン頭が右手を振る。 「――――な!?」 瞬間、空間の歪みが消えてしまう。 「てめぇの能力は空間からの爆発だよな」 ツンツン頭は笑った表情を崩さない。 確かに、少年の能力は空間爆破≪バースト≫と呼ばれるもので 対象となる物体やそこにある『空間』の位置から演算をしその場所 もしくは物体を爆発させる能力だ。 だが、触れただけで消えるなんていうのは聞いた事がない。 むしろ歪みに巻き込まれて爆発に巻き込まれるだけだ。 それが理解できずに怒りに任せてもう一度演算を開始する。 「―――――何で消える!?」 しかし、やはり空間の歪みは爆発の瞬間に何事もなく消えさってしまう。 「演算は」 ツンツン頭が一歩近付く。 「―――ッ!」 「『爆発の位置を指定し、爆発が起きる直前』までだ」 後ずさりをするが、距離をまた詰められる。 「なら、爆発の瞬間に『演算外の物体』が介入してきたら?」 ダン!とツンツン頭が大きく踏み込む。 距離が大幅に近付いた気がして、後ずさりの幅も広がる。 「うわああああ!!」 少年は恐怖にでたらめな演算で能力を発動した。 でたらめな演算では大した威力もなく、爆破の範囲も小規模になる。 当瑠は爆発をとめることなく踏みしめた足を止めることなく更に距離を詰める。 小規模な爆発が起こり、煙が視界を遮り、体に小さな痛みを感じるがそんな事は気にしない。 目の前の敵との距離を詰めるのみだ。 「くそ!くそ!くそ!」 『敵』である少年が頭を振り乱してさらに爆発を発生させる。 今度は空間が歪むまでもなくポンッ!という音がするだけで不発に終る。 「どうしてだ!僕の能力はお前なんかより上のはずなんだ!」 ちくしょおおおおおお!と叫ぶ少年。 当瑠と少年の距離はすでに4mをきっている。 拳を振り上げ、狙いを少年の顔へ定める。 「能力なんかじゃねぇよ」 当瑠はそれが忌々しいものの元凶のように苦渋の表情をする。 「確かにてめぇは自分の努力で能力を上げてきた、それは認めてやるよ」 けどな、と当瑠は続ける。 「その力を向けるのが間違ってんだよ!どうして人を傷つける事にしか使えねぇんだ!」 距離は残り2m程度になる。 握る拳にさらに力が込められていく。 「お前の大切な人を守るとか、目の前で悲しんでいる人、悩んでいる人のために使えないのかよ!」 距離はついに1mをきる。 「俺にはそんな大層な能力なんかねぇ、拳を握って振る事しか出来ないんだよ!」 拳にはどんな異能も打ち消してしまう能力は無い 10億Vの電撃も触れたものを吸収して別のものに構築する力も 時を超える能力もその拳には宿っていない、ただの無能の不良の拳だ。 「ひっ!」 少年が小さな悲鳴を上げる。 腕を顔の前で交差させるが、もう遅い。 「自分に何が出来るのか、いっぺん頭冷やして考えて見やがれ!」 「ぎ・・・・・・ぃぃぃい!」 少年のガードの間を拳は通り抜け、直撃する。 ミシッと骨の軋む音がはっきりと聞こえ少年は吹き飛ぶように床に転がった。 「俺とてめぇの違いはレベルじゃない」 吐き捨てるように当瑠は呟く。 少年と当瑠の違いは単純な事だ。 彼にはただ一人、守るべき少女がいる、ただ、それだけの話だった。 「・・・・・・」 殴り飛ばされた少年はピクリとも動かない。 気絶したわけでは無い、呆然と天井を眺めるように仰向けになっている。 「手間かけさせやがって・・・・・・」 やれやれと殴った手をさすりながら倒れている少年に背を向けて 気絶した従業員に近寄る。 「怪我は、特にないな・・・・・・医務室にでも運ぶかな」 幸い従業員に怪我はなく。 気絶したのは睡眠薬か何かを使われただけのようだ。 全体重が体にのしかかり多少重いが、肩を貸して医務室に運ぶ準備をする。 「――――クク」 突然、少年が低く笑った。 仰向けになったまま体をぴくぴくと震わせる。 「なんだ?」 おかしくなってしまったのかと少しだけ心配する。 縄か何かで縛り付けておこうか、そう思って縄のようなものを探す。 「おまえさぁ・・・・・・忘れてんじゃねぇか?」 ひひと今度は高く笑うと、腕を上げる。 「・・・・・・!」 少年はまだ動く事ができる、気絶はしていない。 そういえば自分は爆弾を止めにきたのだ、少年を殴りにきたわけではない。 「後十秒で時刻は七時かぁ・・・・・・時間通りだぁ」 ははははは!と高笑いをして上げた腕の拳を握り締める。 「残念だったなぁ!守りたいものが守れなくて!」 木っ端微塵だぁ、と満足げな声をし、握り締めた拳の力を緩め手を開く。 「な・・・・・・」 やめろ!と叫んでも遅い事はわかっている。 無駄だと焦りながら部屋の時計に目を向ける。 時計の針はちょうど七時をさしていた。 残り一分ほどで時刻は七時となる。 美詠は観覧車の中で寝ている美春の頭を撫でながら、溜息をついた。 「ったく・・・・・・ホントにあの馬鹿は」 考えている事は時自分と美春を放って、どこかに行ってしまった少年の事だ。 ――――いつもそうだ、自分が置いてかれる。 追いかけても追いかけてもいつも距離を置いてくる。 追いついたと思ったら、いきなり違う方向に走り出して どこに行ったか分からなくなる。 「真っ暗で外も見えないし・・・・・・」 本当は遠くの学区の方は光がついていて薄っすらと観覧車の中は見えるし 景色も少しは綺麗なのだが、幾分光が少ない。 「・・・・・・寂しい」 同伴者は寝ているし、ここにあの少年がいたら二人っきりだ。 それを想像してブンブンと頭を振る。 (だー!なんであいつのこと考えなきゃいけないのよ!) あーもう!と頭を抱える仕草をしたところで美詠の視界がパッと明るくなる。 「!!」 暗闇からの突然の光にまぶしくて目が眩む。 「・・・・・・わ・・・・・・ぁ」 観覧車内に入ってくる光は電灯だ。 そして、照らされた車内から外を見ると見えたのは 星のように輝いた学園都市の風景だ。 一つ一つの建物から連続して、繋がるように光がともっていく様が あまりにも幻想的でいて、計算された美しさだった。 時刻は七時、光に呼応するように観覧車も動き始めた。 いつまでたっても爆発は起きない。 七時をすでに二分は過ぎているのだが、人の悲鳴も爆発の振動も 当瑠には聞こえてこなかった。 「な・・・・・・んで・・・・・・?」 犯人の少年の慌てた声が計算外のことが起きた事を暗に示している。 「間に合ったみたいだな」 当瑠はしばらく立ち尽くしていたが後ろからの突然の声振り返る。 「おまえ・・・・・・さっきの」 そこにいたのは情報の提供をしてくれた風紀委員の男だった。 「犯人の確保に感謝する・・・・・・安心しろよ爆弾は回収済みだ」 にこりと人懐っこさが現れたような、人がいい笑顔をして 男は犯人の少年に近付いていく。 「回収?どうやって・・・・・・爆弾を解除した?」 犯人の少年は分けが分からないという顔をして 風紀委員の男に立たされ手錠を掛けられる。 男は笑った表情を変えないまま口を開いた。 「空間移動≪テレポーター≫をなめるなよ?レベル4はお前だけじゃないんだよ 爆弾はテレポートで学園都市にあるシェルターまで運ばせてもらったよ」 ほら、行くぞ、とまだ納得がいかないと言う顔をした犯人の少年を促し出口まで向かう。 「―――――あぁ、そうそう」 思い出したように当瑠の方を真面目くさった顔をして振り返った。 「風紀委員の権限を無断で使用したアンタも来て貰おうか?」 「へ?」 それは困った事になる。 自分は未来から来た人間だ、過去の人間にこれ以上介入するわけにはいかないし 捕まればいつ解放してもらえるか分からない。 妹の美春の能力の不安定さから言っても自分の時代に帰れるのもいつか分からなくなってしまう。 ダラダラと嫌な汗が流れていく。 「あ、ははは・・・・・・なんのことでしょうか?」 そう苦しい紛れに答えると男はもう一度にこりと笑う。 「いっとくけど俺は結構腹黒いよ?」 そういえば知り合いにもむちゃくちゃ危険なレベル4のテレポーターがいたなと 知り合いを思い出して身震いすると共に当瑠はここから立ち去る事を決意した。 「ははは・・・・・・失礼しましたあああああああああ」 あっははー冗談冗談という声が背中から聞こえた気がしたが 当瑠にはそれを理解する余裕はなかった。 「はー・・・・・・やっと降りれたぁ」 美詠は美春を片手で抱きかかえながらのびをする。 そして、自分の前方をしっかりと確認する。 「あー・・・・・・なんか声かけれる雰囲気じゃないわね」 見ているのは一組のカップルだ。 無論それは上条当麻と御坂美琴の二人であり、美詠は姿を確認したが 二人を追いかける気力はなくなってしまった。 上条と美琴が肩を寄せ合って歩いているのだから邪魔するのは野暮というものだ。 (でも、なんで二人ともあんなにボーっとした顔してたんだろ?) 横顔だけ確認したため確証はなかったが、上条も美琴も恍惚としたような 心ここにあらずという表情をしていた。 観覧車内で何かあったのだろうか?そう考えるが何も思いつかなかった。 「お!美詠か!」 そこで声をかけられる。 その人物は予想が出来た美詠は振り返ると同時に怒りを露にした表情に変えた。 「・・・・・・どこに行ってたのよ」 姿を確認した時、声をかけた人物、当瑠の姿がボロボロだったのに気づいて 作った怒りの表情が解けてしまいそうになったが何とか堪える。 「えっと・・・・・・やっぱ怒ってます?」 「あったりまえでしょうが!!馬鹿!」 ひぃっ!と当瑠が情けない声を上げるが気にせずに続ける。 「アンタはレベル0なのよ!なんでレベル5の私を頼んないのよ! 手伝ってくれって言ってくれればいいじゃない! なんで無関係のアンタがそんなにボロボロにならなきゃいけないのよ!」 何も言わせないつもりで言った言葉。 だが当瑠は美詠が言い終わると言葉を返してきた。 「レベルなんか関係ねーよ」 「はぁ?」 「レベルだとかそんな事以前にお前は女の子じゃねーか どうして男の俺が女のお前を危険な目にあわせなきゃいけねーんだよ」 「―――――――ッ!」 『女の子』といわれて一気に顔が紅潮するが、俯いてふっと息を吐くと顔を上げ当瑠を見据える。 「・・・・・・そう・・・・・・ちょっとアンタ目ぇつぶりなさい」 突然の言葉にキョトンとする当瑠。 「あ?何でだよ」 「いいから!」 「わ、わかったよ」 強く言うと渋々といった表情で目をつぶる当瑠。 美詠は目をつぶったのを確認すると近くにあった小石を拾う。 ・・・・・・レベル5の彼女にはそれが十分な『凶器』だったからだ。 (ま、これくらいで十分よね) 拾い上げた小石を吸収し再構築する。 彼女の右手には小石ではなく『手甲』が作り出された。 (本当は蹴りの方が得意なんだけどなぁ) 『常盤台中学内伝 おばーちゃん式ナナメ四五度からの打撃による故障機械再生法』 をよく使う彼女の得意体術は蹴りなのだが、今回は殴打の方がすっきりするので手甲を選んだ。 ちなみに美詠がもっと機嫌が悪い時に扱う故障機械再生法は運が悪ければ 矛先が人に向けられる 『常盤台中学内伝 おばーちゃん式ナナメ四五度からの打撃による人間攻撃法typeデストロイ』 となるのだが、その話は今は置いておくことにする。 「しっかり目ぇつぶってなさいよ・・・・・・」 すっと場慣れした感じの構えを取る美詠。 石で作られた『手甲』はいいかんじに馴染んできている。 「レベル5なめんじゃないわよ、この路地裏の不良があああああああああ!」 ゴキッと嫌な音がした。 当瑠は顔面に石をもろにくらい地面に叩きつけられた。 「いってえええええええええええええええええええええ!」 意識が飛ばなかったのは奇跡に近い。 当瑠は真っ赤に腫れ、今にも血が吹き出そうな顔を押さえて美詠をにらむ。 「てめぇ!死んだらどうすんだ!」 「うっさい馬鹿!死ね!不良集団の頭やってるからって調子乗ってんじゃないわよ! レベル5を甘く見すぎなんだっつの!くそ馬鹿!」 この野郎!と当瑠がフラフラと立ち上がり拳を前に突き出す。 「てめぇ!俺を馬鹿にするのはいいけどスキルアウトの仲間を馬鹿にするのはゆるさねぇぞ!」 「はっ!何をムキになってんだか、そこらのチンピラの寄せ集めでしょうが」 馬鹿にした表情をして言う美詠に更に腹を立てる当瑠。 「チンピラの寄せ集めじゃねぇ!俺のいるチームはな! かつて駒場さん浜面さん半蔵さんという偉大なレベル0が所属していたチームであってだな!」 「黙んなさい!どっちにしろ不良の集まりでしょうが!」 ギャァギャァと言い合う姿はどこかのかつての二人にそっくりで 今にもそのかつて二人のように追いかけっこでもはじめそうな雰囲気だ。 ただ、美詠が自分を女の子と見てもらえた事を心の底で喜んでいるのを当瑠は気づいていなかった。 上条当麻と御坂美琴は夜の学園都市の町を歩いている。 二人の距離は朝と考えるとかなり近付いているが本人たちは気にしていない。 これが当然の距離だとでも言うように肩を寄せ合っている。 「「・・・・・・」」 先ほどから一言も会話を交わしていないのだが考えているのはほとんど同じ事だ。 『遊園地』の観覧車内であった事、それが二人の考えている事だった。 あの時二人の距離はほとんどゼロになった、それは変わりない。 (・・・・・・はぁ) 上条は一人、美琴に聞こえないように溜息をつく。 二人の距離がゼロになり押し倒された美琴は覚悟を決めたよう目を閉じた。 そこまでは良かった、だがそこからが問題だった。 (ヘタレだなぁ俺・・・・・・) 目を閉じた美琴の姿に逡巡し顔を近づける。 後一押しだったのだ、後ほんの数センチで一線を越えていただろう。 そのままなし崩しにとても表現できないところまでいっていたかもしれない。 だが、あくまでそれは想像の域だった。 「・・・・・・意気地なし」 そういわれたのを思い出す。 ・・・・・・結局上条は美琴に何もしなかった。 ただ押し倒して、抱きしめただけでそのまま時刻が七時となり 観覧車が動き始め、明かりがついて慌てて美琴から離れてしまった。 そして、ろくに景色も見れないまま観覧車を降りて『遊園地』からでた。 「もう、着いちゃうわね」 ふと声をかけられて意識を周囲に戻す。 その場所は美琴の住む常盤台の学生寮の近くで、上条は寄せていた体を美琴から離す。 上条としては名残惜しいがあの距離のまま寮まで行くわけにもいかない。 二人の距離が自然と朝と同じような、手を繋ぐのもぎりぎりの距離になる。 「・・・・・・手」 「なに?」 上条が美琴に手を差し出す。 「暗いしさ、その、繋いでてもわかんないだろ?手、繋がね?」 このまま離れた距離のまま歩くのがいやだった。 上条が美琴に微笑むと美琴は顔を少し赤くする。 「・・・・・・うん」 小さく頷いて上条の手を握った。 上条はまだ少しだけ繋いだ瞬間はドキリとしてしまったが 美琴の手を握り返すと残りの距離を惜しむように歩き出す。 沈黙がまた二人を包む。 そっと上条が美琴の横顔を見ると、寂しそうな顔をしていた。 まだ離れたくない、そういっているよう思えて上条の心臓が高鳴る。 「・・・・・・」 美琴が上条の視線に気づいて上条のほうを向く。 そして、目が合うとやっぱり顔を少し赤くして、しかし笑顔を見せてくれた。 上条は抱きしめたくなる感情をぐっと抑える。 視線を合わせたままだと感情に流されてしまう。 きっと離れれなくなる、予感ではなくそれは確信だ。 考えているうちに常盤台の寮の門になっていた。 「今日は楽しかった、ありがと」 「・・・・・・あぁ、喜んでくれて嬉しい」 まだ一緒にいたい、行かないでくれ。 そう言いたかったが言い出せずそのまま別れる。 言うぐらいも出来ないのか、意気地なし、と自分を叱咤する。 足取りは重い、何度も振り返りそうになる、そこにまだ美琴がいる気がしたからだ。 だが振り返る事は出来ない、すれば多分あの位置に戻ってしまう。 美琴に迷惑は掛けたくない、だが一緒にいたい。 心の中の葛藤は強くなるばかりだ。 (御坂・・・・・・俺はお前の事・・・・・・) 考えるまでもなかった、自分で確認する必要もない。 上条当麻は御坂美琴を一人の女性として、恋愛対象として見ている。 今までどうしてそんな目で、気持ちで見れなかったのだろうか もっと早く気づけばよかった、もっと彼女の事を深く知りたいと思えばよかった。 歳なんて関係ない、中学生?高校生?たかだか二年の事じゃないか。 大人になればその程度の歳の差の付き合いなんて当たり前だ。 ―――――本当は気づかないフリをしていただけなんじゃないか? 愕然とする。 周りの目を気にして彼女の事を真正面から見ようとしていなかった。 なんで今の今までそんなくだらない事を意識していたのだろう。 もう、隠す事は出来ない、しない。 誰になんと言われようと変わらない絶対的な抑えられない感情に気づいたから。 「好きだ」 目の前にいなければ伝えられないのに、どうして今は言えるんだ。 今日だって言える時はいくらだってあったじゃないか。 「好きだ」 呟いても伝えたい本人はいない。 面と向かって言える日は来るだろうか。 上条は一人、美琴への気持ちばかり考えながら帰路を歩く。 繋いだ手の暖かさの名残を感じながら。 ---- #navi(上条さんと美琴のいちゃいちゃSS/とある未来の・・・)
---- #navi(上条さんと美琴のいちゃいちゃSS/とある未来の・・・) 3.惹き合い 「くそ!遅かったか!」 一人悪態をつく少年。 方々を走り肩を上下に震わせて呼吸は荒いが疲れた様子は無い。 むしろ少年の表情には焦りや不安の色が強い。 少年、当瑠は観覧車を見る、観覧車内の電気は点いておらず動きは止まってしまっている。 (何処にいやがる・・・・・・?この広場のどこかにいるはずだ・・・・・・!) 周りを見てもそれらしい人物はいない。 いや、そんな簡単に見つかったのではここまで彼は苦労をしていないだろう。 爆発が起き、観覧車内の操作盤と電源が破壊された。 観覧車にいる人達は最上級の人質として出来上がっている。 犯人は一向に見つからない、悪い方向にしか状況は動いていない。 「おーい」 イライラしているところに声をかけられる。 忌々しそうに振り返ると、風紀委員の腕章をつけた少年が手を振っていた。 「なんだ?」 能天気な少年の仕草に多少の怒りを覚えた声で返事をする。 少年の方はそんなことを気にせずになれなれしく近付いてくる。 当瑠が部外者である事は気がついていないようだ。 「いい報告だぞ」 ――――いい報告? それはつまり、犯人が捕まったと言うことだろうか? 「どういうことだ?」 表情と声色で続きを促すと少年は手をひらひらとさせて続きを話し始める。 「犯人グループの一部が捕まったんだ」 「一部・・・・・・?やっぱり団体犯だったか」 だが、一部を捕まえただけではお話にならない。 主犯格の者を捕まえなければ今以上の爆発がおき客は木っ端微塵だ。 「主犯格は捕まっていないけど、犯人グループのアシを捕まえた」 少年は当瑠の様子など全く気にせずに続ける。 「アシは大能力者≪レベル4≫の透明化≪インビジブル≫で 自身は勿論、他者も姿を消すことが出来るらしい」 「それで今まで姿が見つからなかったのか」 「あぁ、それと今もう一人の犯人も追跡中だ」 「主犯か?」 少年は首を振る。 「いや、大能力者≪レベル4≫の肉体強化系の奴だ」 「学生のテロ行為か・・・・・・」 今まで出てきたレベルの者たちから予測して言う。 外から来たもののテロ行為であればもう少し迅速に事は進むだろうからだ。 そして、レベルの高い者たちはそこに自惚れて、自分の存在を見せ付けたがる。 何も知らない一般の生徒や関係のない一般の人々を巻き込む形で。 「アシの奴が捕まったのなら能力の方も解けているだろう」 少年は手を腰に当てて周りを見る仕草をする。 だが彼にとっての怪しい基準のものがいなかったらしく少し落胆した表情をする。 「・・・・・・肉体強化の奴は何処に・・・・・・?」 唐突にそれが気になってきた、なぜかは分からないが、重要な気がしたからだ。 「確実な場所は分からん・・・・・・ただ、広場の方向に走っていったらしい」 だからここに来たんだけどな、と少年が言ったところで当瑠は気づいた。 (広場・・・・・・追跡しているのは多くの風紀委員と警備員 多くの人、人質代わりの観覧車の客・・・・・・) 爆弾の威力を最も知るのに最適な場所は・・・・・・? 最も効率的に多くの人間を犠牲にするには・・・・・・? 肉体強化の能力者が広場の方向に逃げている理由は・・・・・・? ならば犯人のいる場所は・・・・・・? 「―――――ッ!この場所か!」 時間帯からしても今ここが一番犠牲者が多く取れる場所だ。 そして、逃げている能力者の意図は報復の意味を持っているのだろう。 (大量の風紀委員と警備員の被害者を出すためか・・・・・・) 肉体強化の能力者と風紀委員と警備員が集まったところで 爆弾は盛大に周りを破壊しつくす。 当瑠の頭に倒れている人達が浮かんでくる。 その中には彼が大切に思っている人の姿もある。 「誰にも邪魔されずに隠れていられる場所・・・・・・」 あの場所しかない。 「あ!おい!何処行くんだよ!」 少年が呼び止めようとしたが当瑠は止まらずに走り出す。 また無視しちまったな、と思いながら。 ピリリリリ、と飾り気もない無機質な音が暗闇の観覧車内に響く。 慌てて携帯を取り出し、着信者の名前を見ると『馬鹿』と表示されていた。 「もしもし?」 少しだけ緊張して通話が開始する。 『お前、今何処にいる!』 焦ったような『馬鹿』の声が耳を突き刺す。 「どこって・・・・・・観覧車だけど観覧車も止まっちゃうし」 答えると、くそ、と『馬鹿』がイラついた声を出す。 「どうしたのよアンタ・・・・・・?」 『馬鹿』の声で何かあったと確信し心配した声をかける 隣に疲れて眠ってしまった少女がいるが、彼女をギュッと抱き寄せる。 意味がないと思いながらも、こうしていないといけない気がしたのだ。 『・・・・・・美詠』 『馬鹿』が絞り出すように声を上げる。 やはり何かあったのだ、そして『馬鹿』はまた一人で解決しようとしている。 「なによ・・・・・・また勝手に!なにしようってんの!? まさか、観覧車が止まった事と関係あんの!?」 声を荒げてしまったが。 『馬鹿』はただごめん、と呟いてあやまるだけだ。 「・・・・・・ごめんって、なによ」 どうせ聞き出そうとしても『馬鹿』が答えないのは分かっている。 分かってはいるが、話してくれると淡い期待を持って聞く。 『・・・・・・悪い』 ―――――やっぱりそうだ、コイツはいつも答えてくれない。 「切るわよ」 ぶっきらぼうで自分勝手に怒ってることは分かる。 だが、美詠はもっと自分を信頼して欲しいからこそ『馬鹿』に怒りをぶつけた。 『美詠』 もう一度、『馬鹿』が彼女の名前を呼ぶ。 「なに?」 今までと全く違った声色に驚くが、それは表に出さないで なるべく怒っているのを強調する。 『・・・・・・お前の事は必ず守る』 「――――――な!!」 突然の言葉に作っていた声が一気に崩れ、驚きの声を上げてしまう。 「なななな、なに言ってんの!?そ、そな、い、いきなり!」 言葉を反芻しようとするがうまく舌は回らない。 『馬鹿』の方はそんな事は全く気にしない。 『・・・・・・じゃぁ、美春のこと頼む』 「――――ちょ!?ま、て!」 とめようとしたがプツッツーツー、通話終了を知らせる音が鳴り。 その後は何度かけても『馬鹿』は電話に出なかった。 風紀委員や警備員を出し抜くなんていうのは案外簡単なものだ。 とある場所で一人の高校生くらいの少年がククッと低く笑う。 自分の計画は完璧だ、と少年は満足げに椅子に深く掛けなおす。 ――――初めは軽い気持ちだった。 自分の能力で何か作ってみよう、そんな所だった。 レベルも上がったし、もっと広い範囲の事ができるはずだ。 ――――だが、出来たのは。 実験に使用した場所を破壊し尽くすような爆発。 散らばる破片に自分の体を地面から引き剥がすような爆風。 今でもそれは少年の目に焼きついていた。 ――――これで、もっと僕の力を見せ付けてやる。 自分はレベル4だ、レベル5には劣るもののそこらの能力者には到底たどり着けないレベル。 レベル2、レベル3、そんなのはクズみたいなものだ。 自分の能力の強力さなら同じレベルの奴にだって負けない。 ――――今までの僕の見方を変えてやる。 レベル3ときに馬鹿にしてきた奴等が腰を抜かすような 自分に跪いて、詫びてくるような、そんな事をしてやろう。 ――――証拠の隠滅も準備はできている、後は実行に移すだけだ。 部屋に掛けられた時計に目を向ける。 時刻は六時五十分になる頃だ。 ――――あと十分。 そう、後十分であの周囲は爆発で木っ端微塵になる。 人間の悲鳴、崩れ落ちる乗り物、守れなかったと悔しがる風紀委員、警備員。 それを間近で見れたなら・・・・・・少年は今までにない高揚感を感じている。 そして、今は気絶している従業員の男に一度目をやる。 「くく・・・・・・コイツも吹っ飛ばすのも良いかもな」 そういえば、人間に対しては直接使ったことは無いなと思い 気絶した従業員に手を向けてみる。 演算をして、計算の答えを出して、念じれば、あの爆死させれるし 起爆型に調整してやれば人間爆弾の完成だ。 「試してみるか?」 答えは返ってこない 「――――させるかよ」 はずだった。 「なんだ、お前・・・・・・」 少年は自分の目の前に立っている茶色のツンツン頭の少年を睨み付けて言う。 だが、ツンツン頭はそんな言葉を無視してある場所に目を向ける。 「・・・・・・」 ツンツン頭が見ていたのは倒れている従業員だった。 そして、少年の方を見ないまま従業員の男に近寄ろうとする。 「まて!」 止まる事を予想して叫ぶ。 予想通り、ツンツン頭は足を止めて少年の方を向く。 「この人に何をした」 刺すような視線でツンツン頭は睨み返してきた。 その表情には怖気づいてしまう気迫があったが、息を呑むのも我慢する。 「・・・・・・は、死んでなんかいねーよ」 ツンツン頭は睨んだ表情を戻さないが少年の方に体を向き直した。 「・・・・・・てめぇ、自分が何してるか分かってんのかよ」 ギリッと音が聞こえるくらいにツンツン頭が拳を握る。 目に見えない気迫が更に増した気がして少年はジリッと後ずさりをする。 「・・・・・・何をしてるか?だって」 精一杯の虚勢を張る。 声は上擦っていないが、いつ裏返るか分からない。 元々計画に発見される事は考えていなかった、≪インビジブル≫の仲間が捕まったのが誤算だった。 あの野郎油断しやがって、すでに捕まった仲間に悪態をついても仕方がないのは分かっている 目の前の事に集中しなければいけない事も。 「見りゃぁ分かるだろ?」 目の前、邪魔なツンツン頭の男。 自身の能力――――能力?そうだ、自分にはこれがある。 意識を集中させる、目の前の男を殺す、殺す、殺す、一瞬で演算は終了し 目の前のツンツン頭を爆死させる準備が整う。 「てめぇを殺そうとしてんだよ!!」 その瞬間にぐにゃりと空間が歪む。 ツンツン頭の表情はその時にも変わらない。 「死ね!」 声に反応するように歪んだ空間が爆発した。 観覧車が止まって五分ほどたっただろうか。 御坂美琴は極度の緊張状態にいた。 理由は簡単だ、好きな人と暗闇の中で二人っきりでいる、それだけだ。 「・・・・・・」 暗闇の中で全く話さない、沈黙が続いている。 気まずい、暗いせいで表情も見えないのでなんて声をかけたらいいのかも分からない。 「あの・・・・・・えっと・・・・・・」 どうしよう、どうしよう、どうすればいい? さっきまでは手を繋いでいただけの幸せだったのに、他に何もいらないくらいだったのに こんな暗闇に放り出されて何をすればいいのだろう。 「な、なかなか直らないわねー」 ・・・・・・返事は返ってこない。 なんで止まるのよ、動いていればいつかは終るのに、二人でいるだけでいいのだから 景色を見て、二人で綺麗だねって言って、目が合って、恥ずかしくなって いつの間にか終って、楽しかったね、また乗りたいねって、それでいいのに (どうしてこうなるのよー!) 暗闇の中で二人っきりなんて不味過ぎる、どうしようもない はやく直って、満足したから、今日はこうれでもういいから。 (お願い神様!) 普段から神様など信じない彼女だが今だけは、図々しいと分かっていてもだ。 「~~~~!」 手を組んで念じていると、突然向かい側で座席のなる音がする。 前に座っていた少年が動いたのだ。 「え・・・・・・?」 そして、隣で音がしたと思っているといきなり体が横に動いた。 いつの間に?考える暇もなく、恐らくだが、少年の胸に飛び込む形になる。 「あ・・・・・・」 体温と体温が重なって暖かく感じる。 抱きしめられている。 確信できた、腕が肩と腰辺りに当たっている。 少しだけ強い力加減で離さないと主張するように抱きしめられていた。 「御坂」 耳元で囁かれた。 いきなりでビクッとなってしまうが最小限に抑えて返事をする。 「な・・・・・・に?」 「・・・・・・しても、いいか?」 「え?」 しても、とは何だろうか。 こんな暗がりで何をするのだろう、少し考える。 (暗闇で二人っきり、密室で・・・・・・しばらく動きそうにない乗り物) 思いつけば、顔が熱でも出たみたいに熱くなった。 「えっと、わたし、その・・・・・・」 「嫌?」 嫌なわけがなかった。 キュッと抱きしめられていた強くなる。 それが心地よくて、胸も熱くなっていく。 心臓の鼓動は信じられないくらい早くなっていた。 しても、いいと思う。 思っていたよりもはやくその時が来ただけだ。 「・・・・・・いいよ」 そう言うと、体が横たわるように後ろの押された。 押し倒され、暗闇の中で二人の距離が近付いていく。 死んだ、目の前にいた男は跡形もなく消えただろう。 なにしろレベル4の威力だ、まともに喰らえば一たまりもないどころか 痛みすら感じられず死ねるはずだ。 爆発の後のため、煙で視界が悪い。 「ざまぁみろ、僕に楯突くからだ」 鼻で笑ってやる。 そうだ、これでいいじゃないか、弱い者がいくらかかってこようと 圧倒的な能力で薙ぎ払ってやればいい。 それだけで済む。 時間は六時五十六分、間に合った。 爆発の騒ぎを聞きつけて風紀委員や警備員が突入してくるだろう。 「ここから離れるか・・・・・・」 ついでに気絶している従業員も消しておくかと考える。 目撃者がいればそれだけで捕まる確立は格段に上がる。 捕まるのは真っ平ごめんなので、少年はあまり迷うことなく従業員に殺意≪能力≫を向ける。 ―――――さぁ、吹き飛べ。 そう念じた瞬間。 「――――――あが!!?」 吹き飛んだのは自分の体の方だった。 「な、に!!?」 まさかもう突入された?近くにいたのだろうか? 何の能力?武器?様々な疑問が浮かび吹き飛んだ体を起こして 吹き飛ばした人物がいる方向を睨みつける。 「は?」 立っている人物には見覚えがあった。 だが、信じられなかった。 そこに、爆発に直撃したはずのツンツン頭の少年がいたからだ。 「こんなもんかよ・・・・・・レベル4ってのは」 ツンツン頭はほとんど無傷で立っていた。 理由は全く分からない、本気では無いとは言え、生身の体で耐えられる規模の爆発ではなかった。 爆破地点を間違えたのか?それもない、確実にあの男がいた地点で爆破させたはずだ。 「な、んで!!?」 殴られた痛みも忘れて声を出す。 ツンツン頭はなんでもないという顔をして、あるところを指差した。 「これのおかげだよ」 ツンツン頭の指差した方向は、少年の作った『物』の一部だ。 予備というわけではないが、隠れ家の地雷代わりだったり、威嚇、緊急の攻撃用に 作り置きしておいた『爆弾』だった。 「爆発と爆発が重なると相殺するよな?」 作り置きの爆弾の威力は最小限に抑えたものだ。 「賭けだったけど、成功してよかったぜ」 高い威力の爆発を弱い爆発で止める話は聞いた事はある。 しかし、何故奴が爆弾を持っているのか。 「ま、さか・・・・・・!」 仲間に作り置きを渡しておいた事を思い出す。 ツンツン頭は風紀委員の腕章をしている。 捕まえた仲間から、爆弾を回収していれば・・・・・・。 少年の表情でツンツン頭は理解したのだろうにやりと笑った。 「間に合ってよかった、間に合わないんじゃないかと内心ひやひやしてたけどな」 だが、コイツはまだ油断している。 「一度守ったくらいで得意になってんじゃねぇよ!」 空間を歪ませ、爆発を発生させようとする。 「―――――・・・・・・」 ツンツン頭が右手を振る。 「――――な!?」 瞬間、空間の歪みが消えてしまう。 「てめぇの能力は空間からの爆発だよな」 ツンツン頭は笑った表情を崩さない。 確かに、少年の能力は空間爆破≪バースト≫と呼ばれるもので 対象となる物体やそこにある『空間』の位置から演算をしその場所 もしくは物体を爆発させる能力だ。 だが、触れただけで消えるなんていうのは聞いた事がない。 むしろ歪みに巻き込まれて爆発に巻き込まれるだけだ。 それが理解できずに怒りに任せてもう一度演算を開始する。 「―――――何で消える!?」 しかし、やはり空間の歪みは爆発の瞬間に何事もなく消えさってしまう。 「演算は」 ツンツン頭が一歩近付く。 「―――ッ!」 「『爆発の位置を指定し、爆発が起きる直前』までだ」 後ずさりをするが、距離をまた詰められる。 「なら、爆発の瞬間に『演算外の物体』が介入してきたら?」 ダン!とツンツン頭が大きく踏み込む。 距離が大幅に近付いた気がして、後ずさりの幅も広がる。 「うわああああ!!」 少年は恐怖にでたらめな演算で能力を発動した。 でたらめな演算では大した威力もなく、爆破の範囲も小規模になる。 当瑠は爆発をとめることなく踏みしめた足を止めることなく更に距離を詰める。 小規模な爆発が起こり、煙が視界を遮り、体に小さな痛みを感じるがそんな事は気にしない。 目の前の敵との距離を詰めるのみだ。 「くそ!くそ!くそ!」 『敵』である少年が頭を振り乱してさらに爆発を発生させる。 今度は空間が歪むまでもなくポンッ!という音がするだけで不発に終る。 「どうしてだ!僕の能力はお前なんかより上のはずなんだ!」 ちくしょおおおおおお!と叫ぶ少年。 当瑠と少年の距離はすでに4mをきっている。 拳を振り上げ、狙いを少年の顔へ定める。 「能力なんかじゃねぇよ」 当瑠はそれが忌々しいものの元凶のように苦渋の表情をする。 「確かにてめぇは自分の努力で能力を上げてきた、それは認めてやるよ」 けどな、と当瑠は続ける。 「その力を向けるのが間違ってんだよ!どうして人を傷つける事にしか使えねぇんだ!」 距離は残り2m程度になる。 握る拳にさらに力が込められていく。 「お前の大切な人を守るとか、目の前で悲しんでいる人、悩んでいる人のために使えないのかよ!」 距離はついに1mをきる。 「俺にはそんな大層な能力なんかねぇ、拳を握って振る事しか出来ないんだよ!」 拳にはどんな異能も打ち消してしまう能力は無い 10億Vの電撃も触れたものを吸収して別のものに構築する力も 時を超える能力もその拳には宿っていない、ただの無能の不良の拳だ。 「ひっ!」 少年が小さな悲鳴を上げる。 腕を顔の前で交差させるが、もう遅い。 「自分に何が出来るのか、いっぺん頭冷やして考えて見やがれ!」 「ぎ・・・・・・ぃぃぃい!」 少年のガードの間を拳は通り抜け、直撃する。 ミシッと骨の軋む音がはっきりと聞こえ少年は吹き飛ぶように床に転がった。 「俺とてめぇの違いはレベルじゃない」 吐き捨てるように当瑠は呟く。 少年と当瑠の違いは単純な事だ。 彼にはただ一人、守るべき少女がいる、ただ、それだけの話だった。 「・・・・・・」 殴り飛ばされた少年はピクリとも動かない。 気絶したわけでは無い、呆然と天井を眺めるように仰向けになっている。 「手間かけさせやがって・・・・・・」 やれやれと殴った手をさすりながら倒れている少年に背を向けて 気絶した従業員に近寄る。 「怪我は、特にないな・・・・・・医務室にでも運ぶかな」 幸い従業員に怪我はなく。 気絶したのは睡眠薬か何かを使われただけのようだ。 全体重が体にのしかかり多少重いが、肩を貸して医務室に運ぶ準備をする。 「――――クク」 突然、少年が低く笑った。 仰向けになったまま体をぴくぴくと震わせる。 「なんだ?」 おかしくなってしまったのかと少しだけ心配する。 縄か何かで縛り付けておこうか、そう思って縄のようなものを探す。 「おまえさぁ・・・・・・忘れてんじゃねぇか?」 ひひと今度は高く笑うと、腕を上げる。 「・・・・・・!」 少年はまだ動く事ができる、気絶はしていない。 そういえば自分は爆弾を止めにきたのだ、少年を殴りにきたわけではない。 「後十秒で時刻は七時かぁ・・・・・・時間通りだぁ」 ははははは!と高笑いをして上げた腕の拳を握り締める。 「残念だったなぁ!守りたいものが守れなくて!」 木っ端微塵だぁ、と満足げな声をし、握り締めた拳の力を緩め手を開く。 「な・・・・・・」 やめろ!と叫んでも遅い事はわかっている。 無駄だと焦りながら部屋の時計に目を向ける。 時計の針はちょうど七時をさしていた。 残り一分ほどで時刻は七時となる。 美詠は観覧車の中で寝ている美春の頭を撫でながら、溜息をついた。 「ったく・・・・・・ホントにあの馬鹿は」 考えている事は時自分と美春を放って、どこかに行ってしまった少年の事だ。 ――――いつもそうだ、自分が置いてかれる。 追いかけても追いかけてもいつも距離を置いてくる。 追いついたと思ったら、いきなり違う方向に走り出して どこに行ったか分からなくなる。 「真っ暗で外も見えないし・・・・・・」 本当は遠くの学区の方は光がついていて薄っすらと観覧車の中は見えるし 景色も少しは綺麗なのだが、幾分光が少ない。 「・・・・・・寂しい」 同伴者は寝ているし、ここにあの少年がいたら二人っきりだ。 それを想像してブンブンと頭を振る。 (だー!なんであいつのこと考えなきゃいけないのよ!) あーもう!と頭を抱える仕草をしたところで美詠の視界がパッと明るくなる。 「!!」 暗闇からの突然の光にまぶしくて目が眩む。 「・・・・・・わ・・・・・・ぁ」 観覧車内に入ってくる光は電灯だ。 そして、照らされた車内から外を見ると見えたのは 星のように輝いた学園都市の風景だ。 一つ一つの建物から連続して、繋がるように光がともっていく様が あまりにも幻想的でいて、計算された美しさだった。 時刻は七時、光に呼応するように観覧車も動き始めた。 いつまでたっても爆発は起きない。 七時をすでに二分は過ぎているのだが、人の悲鳴も爆発の振動も 当瑠には聞こえてこなかった。 「な・・・・・・んで・・・・・・?」 犯人の少年の慌てた声が計算外のことが起きた事を暗に示している。 「間に合ったみたいだな」 当瑠はしばらく立ち尽くしていたが後ろからの突然の声振り返る。 「おまえ・・・・・・さっきの」 そこにいたのは情報の提供をしてくれた風紀委員の男だった。 「犯人の確保に感謝する・・・・・・安心しろよ爆弾は回収済みだ」 にこりと人懐っこさが現れたような、人がいい笑顔をして 男は犯人の少年に近付いていく。 「回収?どうやって・・・・・・爆弾を解除した?」 犯人の少年は分けが分からないという顔をして 風紀委員の男に立たされ手錠を掛けられる。 男は笑った表情を変えないまま口を開いた。 「空間移動≪テレポーター≫をなめるなよ?レベル4はお前だけじゃないんだよ 爆弾はテレポートで学園都市にあるシェルターまで運ばせてもらったよ」 ほら、行くぞ、とまだ納得がいかないと言う顔をした犯人の少年を促し出口まで向かう。 「―――――あぁ、そうそう」 思い出したように当瑠の方を真面目くさった顔をして振り返った。 「風紀委員の権限を無断で使用したアンタも来て貰おうか?」 「へ?」 それは困った事になる。 自分は未来から来た人間だ、過去の人間にこれ以上介入するわけにはいかないし 捕まればいつ解放してもらえるか分からない。 妹の美春の能力の不安定さから言っても自分の時代に帰れるのもいつか分からなくなってしまう。 ダラダラと嫌な汗が流れていく。 「あ、ははは・・・・・・なんのことでしょうか?」 そう苦しい紛れに答えると男はもう一度にこりと笑う。 「いっとくけど俺は結構腹黒いよ?」 そういえば知り合いにもむちゃくちゃ危険なレベル4のテレポーターがいたなと 知り合いを思い出して身震いすると共に当瑠はここから立ち去る事を決意した。 「ははは・・・・・・失礼しましたあああああああああ」 あっははー冗談冗談という声が背中から聞こえた気がしたが 当瑠にはそれを理解する余裕はなかった。 「はー・・・・・・やっと降りれたぁ」 美詠は美春を片手で抱きかかえながらのびをする。 そして、自分の前方をしっかりと確認する。 「あー・・・・・・なんか声かけれる雰囲気じゃないわね」 見ているのは一組のカップルだ。 無論それは上条当麻と御坂美琴の二人であり、美詠は姿を確認したが 二人を追いかける気力はなくなってしまった。 上条と美琴が肩を寄せ合って歩いているのだから邪魔するのは野暮というものだ。 (でも、なんで二人ともあんなにボーっとした顔してたんだろ?) 横顔だけ確認したため確証はなかったが、上条も美琴も恍惚としたような 心ここにあらずという表情をしていた。 観覧車内で何かあったのだろうか?そう考えるが何も思いつかなかった。 「お!美詠か!」 そこで声をかけられる。 その人物は予想が出来た美詠は振り返ると同時に怒りを露にした表情に変えた。 「・・・・・・どこに行ってたのよ」 姿を確認した時、声をかけた人物、当瑠の姿がボロボロだったのに気づいて 作った怒りの表情が解けてしまいそうになったが何とか堪える。 「えっと・・・・・・やっぱ怒ってます?」 「あったりまえでしょうが!!馬鹿!」 ひぃっ!と当瑠が情けない声を上げるが気にせずに続ける。 「アンタはレベル0なのよ!なんでレベル5の私を頼んないのよ! 手伝ってくれって言ってくれればいいじゃない! なんで無関係のアンタがそんなにボロボロにならなきゃいけないのよ!」 何も言わせないつもりで言った言葉。 だが当瑠は美詠が言い終わると言葉を返してきた。 「レベルなんか関係ねーよ」 「はぁ?」 「レベルだとかそんな事以前にお前は女の子じゃねーか どうして男の俺が女のお前を危険な目にあわせなきゃいけねーんだよ」 「―――――――ッ!」 『女の子』といわれて一気に顔が紅潮するが、俯いてふっと息を吐くと顔を上げ当瑠を見据える。 「・・・・・・そう・・・・・・ちょっとアンタ目ぇつぶりなさい」 突然の言葉にキョトンとする当瑠。 「あ?何でだよ」 「いいから!」 「わ、わかったよ」 強く言うと渋々といった表情で目をつぶる当瑠。 美詠は目をつぶったのを確認すると近くにあった小石を拾う。 ・・・・・・レベル5の彼女にはそれが十分な『凶器』だったからだ。 (ま、これくらいで十分よね) 拾い上げた小石を吸収し再構築する。 彼女の右手には小石ではなく『手甲』が作り出された。 (本当は蹴りの方が得意なんだけどなぁ) 『常盤台中学内伝 おばーちゃん式ナナメ四五度からの打撃による故障機械再生法』 をよく使う彼女の得意体術は蹴りなのだが、今回は殴打の方がすっきりするので手甲を選んだ。 ちなみに美詠がもっと機嫌が悪い時に扱う故障機械再生法は運が悪ければ 矛先が人に向けられる 『常盤台中学内伝 おばーちゃん式ナナメ四五度からの打撃による人間攻撃法typeデストロイ』 となるのだが、その話は今は置いておくことにする。 「しっかり目ぇつぶってなさいよ・・・・・・」 すっと場慣れした感じの構えを取る美詠。 石で作られた『手甲』はいいかんじに馴染んできている。 「レベル5なめんじゃないわよ、この路地裏の不良があああああああああ!」 ゴキッと嫌な音がした。 当瑠は顔面に石をもろにくらい地面に叩きつけられた。 「いってえええええええええええええええええええええ!」 意識が飛ばなかったのは奇跡に近い。 当瑠は真っ赤に腫れ、今にも血が吹き出そうな顔を押さえて美詠をにらむ。 「てめぇ!死んだらどうすんだ!」 「うっさい馬鹿!死ね!不良集団の頭やってるからって調子乗ってんじゃないわよ! レベル5を甘く見すぎなんだっつの!くそ馬鹿!」 この野郎!と当瑠がフラフラと立ち上がり拳を前に突き出す。 「てめぇ!俺を馬鹿にするのはいいけどスキルアウトの仲間を馬鹿にするのはゆるさねぇぞ!」 「はっ!何をムキになってんだか、そこらのチンピラの寄せ集めでしょうが」 馬鹿にした表情をして言う美詠に更に腹を立てる当瑠。 「チンピラの寄せ集めじゃねぇ!俺のいるチームはな! かつて駒場さん浜面さん半蔵さんという偉大なレベル0が所属していたチームであってだな!」 「黙んなさい!どっちにしろ不良の集まりでしょうが!」 ギャァギャァと言い合う姿はどこかのかつての二人にそっくりで 今にもそのかつて二人のように追いかけっこでもはじめそうな雰囲気だ。 ただ、美詠が自分を女の子と見てもらえた事を心の底で喜んでいるのを当瑠は気づいていなかった。 上条当麻と御坂美琴は夜の学園都市の町を歩いている。 二人の距離は朝と考えるとかなり近付いているが本人たちは気にしていない。 これが当然の距離だとでも言うように肩を寄せ合っている。 「「・・・・・・」」 先ほどから一言も会話を交わしていないのだが考えているのはほとんど同じ事だ。 『遊園地』の観覧車内であった事、それが二人の考えている事だった。 あの時二人の距離はほとんどゼロになった、それは変わりない。 (・・・・・・はぁ) 上条は一人、美琴に聞こえないように溜息をつく。 二人の距離がゼロになり押し倒された美琴は覚悟を決めたよう目を閉じた。 そこまでは良かった、だがそこからが問題だった。 (ヘタレだなぁ俺・・・・・・) 目を閉じた美琴の姿に逡巡し顔を近づける。 後一押しだったのだ、後ほんの数センチで一線を越えていただろう。 そのままなし崩しにとても表現できないところまでいっていたかもしれない。 だが、あくまでそれは想像の域だった。 「・・・・・・意気地なし」 そういわれたのを思い出す。 ・・・・・・結局上条は美琴に何もしなかった。 ただ押し倒して、抱きしめただけでそのまま時刻が七時となり 観覧車が動き始め、明かりがついて慌てて美琴から離れてしまった。 そして、ろくに景色も見れないまま観覧車を降りて『遊園地』からでた。 「もう、着いちゃうわね」 ふと声をかけられて意識を周囲に戻す。 その場所は美琴の住む常盤台の学生寮の近くで、上条は寄せていた体を美琴から離す。 上条としては名残惜しいがあの距離のまま寮まで行くわけにもいかない。 二人の距離が自然と朝と同じような、手を繋ぐのもぎりぎりの距離になる。 「・・・・・・手」 「なに?」 上条が美琴に手を差し出す。 「暗いしさ、その、繋いでてもわかんないだろ?手、繋がね?」 このまま離れた距離のまま歩くのがいやだった。 上条が美琴に微笑むと美琴は顔を少し赤くする。 「・・・・・・うん」 小さく頷いて上条の手を握った。 上条はまだ少しだけ繋いだ瞬間はドキリとしてしまったが 美琴の手を握り返すと残りの距離を惜しむように歩き出す。 沈黙がまた二人を包む。 そっと上条が美琴の横顔を見ると、寂しそうな顔をしていた。 まだ離れたくない、そういっているよう思えて上条の心臓が高鳴る。 「・・・・・・」 美琴が上条の視線に気づいて上条のほうを向く。 そして、目が合うとやっぱり顔を少し赤くして、しかし笑顔を見せてくれた。 上条は抱きしめたくなる感情をぐっと抑える。 視線を合わせたままだと感情に流されてしまう。 きっと離れれなくなる、予感ではなくそれは確信だ。 考えているうちに常盤台の寮の門になっていた。 「今日は楽しかった、ありがと」 「・・・・・・あぁ、喜んでくれて嬉しい」 まだ一緒にいたい、行かないでくれ。 そう言いたかったが言い出せずそのまま別れる。 言うぐらいも出来ないのか、意気地なし、と自分を叱咤する。 足取りは重い、何度も振り返りそうになる、そこにまだ美琴がいる気がしたからだ。 だが振り返る事は出来ない、すれば多分あの位置に戻ってしまう。 美琴に迷惑は掛けたくない、だが一緒にいたい。 心の中の葛藤は強くなるばかりだ。 (御坂・・・・・・俺はお前の事・・・・・・) 考えるまでもなかった、自分で確認する必要もない。 上条当麻は御坂美琴を一人の女性として、恋愛対象として見ている。 今までどうしてそんな目で、気持ちで見れなかったのだろうか もっと早く気づけばよかった、もっと彼女の事を深く知りたいと思えばよかった。 歳なんて関係ない、中学生?高校生?たかだか二年の事じゃないか。 大人になればその程度の歳の差の付き合いなんて当たり前だ。 ―――――本当は気づかないフリをしていただけなんじゃないか? 愕然とする。 周りの目を気にして彼女の事を真正面から見ようとしていなかった。 なんで今の今までそんなくだらない事を意識していたのだろう。 もう、隠す事は出来ない、しない。 誰になんと言われようと変わらない絶対的な抑えられない感情に気づいたから。 「好きだ」 目の前にいなければ伝えられないのに、どうして今は言えるんだ。 今日だって言える時はいくらだってあったじゃないか。 「好きだ」 呟いても伝えたい本人はいない。 面と向かって言える日は来るだろうか。 上条は一人、美琴への気持ちばかり考えながら帰路を歩く。 繋いだ手の暖かさの名残を感じながら。 ---- #navi(上条さんと美琴のいちゃいちゃSS/とある未来の・・・)

表示オプション

横に並べて表示:
変化行の前後のみ表示:
目安箱バナー