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#navi(上条さんと美琴のいちゃいちゃSS/11月22日は何の日?)

いちゃいちゃ年末年始!


「あ、美琴ちゃーん! 当麻くーん! こっちこっちー!」

 御坂美鈴はそう言うと元気に手を振り自分の現在位置をアピールしていた。
 12月29日。上条当麻と御坂美琴は神奈川にある実家の最寄り駅まで移動しており、結構早めに学園都市を出てきたのだが、ここについたのは昼を過ぎたところだった。

『まもなく3番線に、普通――――』
『ドアが閉まります。ご注意――――』
『駆け込み乗車はお止め下さい―――』
『まもなく2番線に、快速――――』

 朝実家に向かう電車の中で美琴が美鈴から迎えに行くよメールが届いて駅のホームまで来てくれたらしい。
 電車到着を告げるメロディーと一緒に駅員の声がホームに響いており、今から遊びに行くのか人で結構な混雑をみせるホームは上条と美琴の姿を隠していたが、駅員に注意されながらも備え付けの椅子の上に乗って探してた美鈴が上条のツンツン頭を探し当てたというわけだ。
 神奈川には雪は降ってなかったが、ホームに降りる前にチラッと見た電車内の天気予報では気温は最高で11℃となかなかの寒さで、コートやマフラーや手袋をしてる人がほとんどだ。
 もちろん上条もクリスマスの時に美琴に貰った緑のマフラーで鼻まで隠すとガクガクと震えているのだが、自分の胸元にばっちり「とうま」「みこと」とあるバカップルマフラーに上条はここにつくまでとても恥ずかしい思いをしていた。ちなみに美琴は全然平気だった。むしろそのマフラーを見られては『「とうま」と「みこと」はこんなにもいちゃいちゃなんですよ』という感じに心底ご満悦のようだ。
 ところで、帰省と言っても別に何するわけでもなく、ただ実家に帰るだけなので上条の荷物は着替えと財布、携帯くらいなもんだが、そんな上条の小さなバッグに対し、美琴のバッグはどこかに旅行に行くのかと思うほど大きな物だった。
 美琴曰く「女の子には色々必要なの!」という事らしい。今日は公園で待ち合わせして駅に向かったのだが、その時美琴が重そうに持っていたので上条が今まで持ってあげたが何が入ってるんだと思うほどの重さだった。着替えだけじゃここまで重くならないし…、うーん。

「美鈴さん、すみません。お待たせしましたー…と、母さん。久しぶり」
「当麻さん。こんにちは。…あらあら、そのマフラー。うふふ」
「え? あー…、これは―――」
「ふんふん。美琴ちゃん、なかなかよく出来てるじゃない。何回やり直したの?」
「べっ、別にいいでしょそんな事! …あ、詩菜さん。こんにちは。お久しぶりです」
「こんにちは、美琴さん」

 美鈴の隣には詩菜が座っており、会った瞬間にマフラーの事でからかわれた。…当然だけど。
 ちなみに指輪の件も壮大にからかわれそうだが、二人は手袋をしていたので気付かれなかった。…今のところは。
 ところで上条に関しては完璧主義の美琴にとってはプレゼントも完璧でなければ気が済まなかったらしく、ちょっとでもマフラーに綻びが出たり見た目が悪くなろうものならまた一からやり直しては編みこんでいたのだ。とても気が遠くなりそうだったが、美琴はこれをプレゼントし巻いてくれる上条を想像するだけで嬉しくなり全然苦ではなくふにゃふにゃしながら編んでいたらしい(白井談)。

「あら? 当麻さん、その顔の絆創膏は?」
「え? あー、まぁ、うん。ちょっとね」
「?」

 その美琴の愛がこもっているマフラーで隠れてはいたが、上条の右頬には絆創膏が貼られていた。もちろん怪我をして張っているのだが原因は白井黒子。
 マフラーの件で怒りのボルテージが最高潮まで上がっている白井にとって追い討ちをかけるが如く指輪の一件で、またも夜なべでやすりをかけていた鉄矢で勝負を挑んできた。
 流石レベル4の白井は学習し、上条の隣に美琴がいない時を狙ったが学校が休みな事もあり、指輪の事もあった美琴は起きるや否や大急ぎで上条の元へ向かって現場に鉢合わせたというわけだ。
 美琴は愛しのダーリンが負傷(かすり傷)してる姿を見た瞬間にレベル5の雷神になり白井(と上条)に恐怖を与えた。白井は一瞬にして上条から離れ地面に顔ドラムして謝ると、上条もつられて謝った。…何故だ。理由は怖かったから。

「そういえば父さんと旅掛さんは?」
「当夜さんは御坂さんのお宅で大掃除のお手伝いをしてますよ」
「美琴ん家?」
「そうなの。昨日は上条さん家一緒に大掃除したから、そのお詫びって事で手伝ってもらってるのよ」
「じゃあ俺も行くかなー。どうせ暇だしー」
「おっと。いいのいいの。前にも言ったけど当麻くんは上条さんの家で美琴ちゃんと夫婦生活してもらわなくちゃね♪」
「あぅ…」
「家じゃ6人も入るのは厳しいので年越しだけは御坂さんのお宅に来てもらう事になりますけど…、それまでは楽しんでください」
「んー…、でもなぁ。父さん達が掃除してんのに…」
「あー大丈夫大丈夫。もう終わるからさ。だから早く行きましょう~♪」
「ふぇ!? 私達と一緒に来るの!?」
「当麻さん達家の場所知らないでしょ? 前住んでたマンションとは別の所に引っ越したんですよ」
「それに迎えに来た以上、見届けるまでがガイドの務めよん♪」
「あぅ…」
「はは」

 上条一向は美鈴と詩菜を先頭に上条と美琴が後を追っていく。つい最近もこんな感じの事があったが、それからの一ヶ月が濃すぎて何だか遠い昔のように感じる。
 美琴が何やら大人しいのは、美鈴が出発する際に「では、新婚さんご案内~」とか言ってくれたお陰で美琴はあうあうしっぱなしだからだ。
 あうあうしている美琴を横目に、楽しそうに話しながら前を行く美鈴と詩菜を横目に、上条は地元の景色を見ていた。

「そうそう美琴ちゃん?」
「…ふぇ?」
「学園都市製の指輪はそう簡単に錆び付いたりしないんだって」
「ゆっ! …びわ?」
「料理の時はつけたままでも汚れないから大丈夫ですよ」
「…なっ、ななななんで。…アンタ! まさか母達に言いふらしたんじゃ!」
「はいぃぃ!? 待て待て待て! なんで俺がそんな事―――」
「じゃ、じゃあ何で指輪の事母達が知って―――」
「手袋の上からでも美琴ちゃんが左手の薬指を撫でてれば何となく分かるわよん」
「るぅぅぅ…」
「…お前じゃねぇかよ」
「あぅ…」
「大切なのはわかるけど、あまり当麻くんに苦労かけちゃダメよ?」
「あぅ…」

 もうバッチリ見破られていた。この二人を前に隠し事は不可能だ。別に隠してたわけではないけど。
 そして上条と美琴は、何かあったら真っ先に美鈴と詩菜に伝えようとこの時決心したようだった。

         ☆

「はーい! 新婚さんの愛の巣に到着~♪」

 そしてやってきた上条の実家。大きめのマンションなのは見た目と受け箱の数が物語っている。部屋の前まで行かなくてもエレベーターホールに受け箱があるので郵便屋さんも楽チンだ。この件数を走って回るのは骨が折れる。絶対手紙が来る度に舌打ちされるだろう。書留とかは怒りで破かれかねない。
 詩菜は「お部屋は…、ここです」と部屋番号がついているポストと指差すと美琴に鍵を渡した。

「…あれ? 母さん達部屋まで来るんじゃないの?」
「私達はもう家に戻るわよん。長旅で疲れてるかもだし今日はゆっくりしててね。明日にでもこっちに顔出してくれればいいからさ」
「何かすみません」
「いいえ。それと…、美琴さん?」
「は、はひ!」

 不意に呼ばれたのか美琴の声は裏返った。それは上条の実家に興味津々だったことと、これから起こる上条のとのラブラブ新婚生活にふにゃーしかけていたからなのだ。

「冷蔵庫の中に食材が入ってますので何でも使ってくれて構いませんから」
「そっ、そんな悪いです! 夕食なら私が買って―――」
「まぁまぁ美琴ちゃん。余りもので作るのも主婦としての第一歩よ」
「しゅっ―――!?」
「限られた食材の中でいかにしておいしい料理を提供できるのかが腕の見せ所なの!」
「そ、そういう事ね!」
「そういう事よ! そら! 行って来なさい美琴ちゃん!」
「わかった! ほら当麻! 行くわよーーーーっ!!!」

 そして美琴は駆けて行った。

「…何か手馴れてますね。美鈴さん」
「ふふん。当麻くんはまだまだね」
「じゃあ当麻さん。私達は、これで」
「うん。ありがとな、母さん。美鈴さん」
「いいのいいの♪ もう親戚になるんだしさ♪」
「…今の、美琴には聞かさないでくださいよ。絶対ふにゃーってなりますんで」
「あはは」

 上条は美鈴と詩菜を見送ると、先程詩菜が美琴に部屋の番号を教えていた事を思い出し実家である部屋へ向かう。
 夏休みにエンゼルフォールで吹っ飛んだ一戸建てとは違い、当夜と詩菜の新居はどこにでもありそうなマンションで、ブラウンがベースの見た目レンガみたいなつくりだった。一階のエレベーターホールを抜けると左右に無数にある部屋。外からは見えないように木で玄関側は隠れているし、家族で住んでるのが多いのか砂場や自転車置き場にはシャベルだかスコップだかとバケツ、三輪車などがあった。

「えっと確か…、ここだよ……な?」

 上条は実家であろう部屋の前まで来るとぴたりと止まった。何故か。玄関前に血まみれのシスターが横たわっているわけでもなければ、三毛猫のノミ取りをしているわけでもない。では何故か。理由は―――

「表札が『上条 当麻 美琴』になってる…。はぁ…、美鈴さんだな、こんな事するの…」

 その頃―――

「へっくちぃ!」
「あらあら、大丈夫ですか美鈴さん?」
「あー…、大丈夫です。きっと美琴ちゃん達が部屋に着いたんですね」

 そして場面を戻し、上条当麻。

「でもおかしいな。こんなん見たら美琴ならふにゃーってなって玄関前で転がっててもおかしくないのに…、迷ってまだ来てないのか?」

 上条はうーんと唸るが鍵は美琴が持ってるしどうする事も出来ないので待っている事にする。
 しかしもしかしたらこんな表札の事などスルーし、部屋の中にいるかもしれない。そう思った上条は取っ手に手をかけ、回すとガチャっという音と共に扉が開いた。

「あれ、開いてる。やっぱり美琴はもう中にいるの―――」
「お帰りなさい、当麻ー♪」
「かぁー…」

 上条が玄関のドアを開けると、部屋の奥からパタパタと元気にエプロン姿の美琴が駆けて来た。緑ベースの可愛らしいゲコ太エプロン。手にはおたま。もう完璧に『上条美琴』モードになっている。

「お風呂にする? それともご飯? そっ、それとも…わたっ、わたわたっ私―――」

 バタン。扉を閉めた。これ以上聞いてはいけない。いや、いけなくはないんですが聞くと全ての予定が狂うと言いますかやることやってしまうと言いますかごにょごにょ…。

「ふぅ」
「ちょっと! なんでドア閉めるのよ! せっかく愛しの奥さんが出迎えてあげたのに!」
「うおおおおおおっ!!!!???? いつの間に! お、落ち着け美琴たーーーーーーーーんっ!!!!」
「たん言うなって言ってんでしょうがーーーーっ!!! ふにゃーーーーーーーーーーっ!!!!」
「待て待て待て! ここで電撃はやめろーーっ!! 色々焦がすぞ! 表札焦がすぞ!」
「…はっ!」
「……………………あ、あれ?」
「焦げちゃうのは、困る…」
「えっと…、美琴、たん?」
「えへ、えへへ」

 美琴はゲコ太の携帯を取り出すとカメラでカシャカシャと色々なアングルから写真を撮り始めた。どうやら美琴は表札を見てふにゃーとする事は無かったが、代わりに『上条美琴』としての責任感が芽生えたようだ。
 しゅ、主婦の仕事は夫の出迎えでしょ? だっ、だからその…やったんじゃない。あぅ…。

「へぇ…、ここに父さん達住んでるのか」

 上条は先程撮った表札が映っている待ち受け画面を見ながらニヤニヤしている美琴の腕を引っ張って部屋の中に入ると、キョロキョロと部屋を見渡した。流石学園都市とは言っても寮の一室をこの部屋とは広さが段違いで、リビングやキッチンの他に洋室一部屋、和室一部屋ある。2LDKってやつか! …いいの? つかダイニングって何でせう?

「洋室は父さん達の寝室か…、寝るとしたら和室だなー」
「ね、寝る!? もう寝るの!?」
「へっ? いえいえ、寝るとしたら…ね」
「なんだ」
「それよりお腹空きません? もう昼過ぎだし…朝は売店のおにぎりだけだったし…、上条さんのお腹が悲鳴をあげてますよ」
「そ、そう? じゃあ私が作ってあげる! 何がいい?」
「冷蔵庫の中には何が入ってたの?」
「ん? ちょっと待ってね」
「どきどき」
「えっとー、豆腐、白菜、ネギ、白滝、お肉…とか?」
「それは鍋をしろと言っている!」
「鍋?」
「でも昼から鍋は重すぎるなー。鍋は夜にして、昼は軽くトーストとか―――」
「鍋ってなによ。使うの?」
「え? まさか美琴たん…、鍋知らないなんてことは…?」
「ふぇ? ……し、知ってるわよ! 鍋でしょ! 私も鍋にしようかと思ってたの!」

 そう言って美琴はバッグを取り出した。
 それはとてつもい重さを誇った美琴のバッグ。そして美琴がジッパーを開くとそこには―――

「えっと…、鍋でしょ? 鍋鍋…」

 タウン○ージクラスの料理本が10冊くらい出てきた。美琴はそれをピラピラと捲ると『鍋』について調べ始める。

「…」
「えっとえっと…あ、鍋にも色々あるのね。ふんふん…、冬には温まるキムチ鍋がオスス――」
「美琴たん」
「メ?」

 上条はそんな美琴に胸打たれ思わず抱きついていた。だって可愛いのだもの。健気なのだもの。

「あ、あの…! そのっ…」
「お前、可愛いな」
「かわっ、いっ! ………………ふにゃー」

         ☆

「そういえば『アレ』持ってきてくれた?」

 美琴はふにゃーから帰ってくると、昼食のトーストを頬張りながら上条に話し出した。マーガリンにレタス、トマト、ベーコンエッグを挟んだサンドイッチ。うまい。

「アレ?」
「アレよアレ! 昨日言ったでしょ! まさか忘れたんじゃ…!」
「あー、アレね。はいはい持ってきましたよっと」

 上条はバッグに腕を突っ込むとゴソゴソしだす。美琴は相当に『アレ』が楽しみなのか体をソワソワさせ、目はキラキラと輝いていた。

「あら…。確かバッグに入れたと思ったんだけど…」
「えぇっ!? 嘘でしょ!? あれほど忘れないでって言ったのに…! ちょっとバッグ貸して!」
「ど、どうぞ…」

 バッグを受け取った美琴はセール品のカゴに入っている商品を物色するように中を必死に漁る。
 その必死さは異様で、目には涙も。

「ない…、ない」
「あー…」
「うぅ…、やっぱりない。楽しみにしてたのにぃー…」
「あ、あの…美琴たん?」
「ふぇぇぇぇ…」
「はぁ…、ちゃんと持ってきましたよ」
「ぇぇぇ…え?」
「じゃーん。実は着てきましたー」
「あ…」

 上条と美琴が話していた『アレ』。それは―――

「寒かったから着てきたんだけど…、俺のワイシャツなんて何に使うんだよ? 言っとくけど俺2着しか持ってないんだから汚したり無くしたりするなよな?」
「あは、うんうん! 大丈夫大丈夫! 着るだけだから!」
「へ? 着る…の? じゃあ洗濯しないと―――」
「ふぇ? まっ、待って!!!」
「な、なんでしょうか」
「えっと、その…あの……、そのままで、いい…」
「え? でも…朝から着っぱなしだからさ。冬だけど汗とかで―――」
「い、いいから! 貸して…」
「……まぁ、美琴がいいならいいけど。…ほらよ」
「あは。コレよ、コレ! ありがとう当麻!」

 美琴は上条からアレこと上条のワイシャツを受け取ると、ゲコ太のグッズが手に入ったかのようにぎゅーっと慎ましい胸で抱きついた。

「そんなの着てなにするんだよ?」
「何って。お泊りのパジャマは彼氏のワイシャツって決まってるんじゃないの?」
「はい? み、美琴たん。どこでそのような情報を…」
「舞夏から」
「舞夏さーーーーーーーーーーーーーーーーーんっ!!!」

         ☆

「風呂あがったぞー」

 上条はタオルでふにゃふにゃになった元ツンツン頭を拭きながらリビングへと歩いてきた。昼過ぎに駅へ着き、そこから色々と騒いで昼食を取っていたのでもう夕方になっていた。
 今日の夕食はキムチ鍋と決定したので、準備といえば白菜と豆腐と切ってご飯を炊くくらいなので先にお風呂を済ませていたというわけだ。

「当麻おかえりー」

 美琴はリビングで料理本を読んでいた。初めてのお泊りなので、上条がお風呂に入ろうものなら「背中洗ってあげる!」と言って聞かなかったのだが、上条が「鍋は奥が深いので勉強しなさい」と言うと美琴は必死になって料理本を読んでいたのだ。もう美鈴さん並に美琴の扱いに慣れつつある上条当麻。

「お湯加減バッチリなんで美琴も入って来れば?」
「うん…、もう少し……」
「…。風呂上りで食う鍋はうまいだろうなぁー」
「…!」
「風呂に入れば後は飯食って歯磨いて一日終わりだから遊んでられるんだけどなぁー」
「…!!」
「まぁ今日は疲れたんで美琴たんが風呂に入ってる間に寝てしまう可能性も―――」
「わ、私お風呂入ってくる!」

 そう言って美琴は風呂場へと駆けて行った。もう上条は美琴マスターのようだ。

「鍋なんてお嬢様はやらねぇんだろうなー。食材全部入れて煮込むだけなのに…どれどれ? ふんふん…やっぱ最後はご飯入れますよねー」

 しばらく上条は美琴の料理本を呼んでいると突然バタンっという音がした。どうやら美琴がいる脱衣所の方から聞こえてきたが…。

「…? 美琴…?」

 上条は美琴の名前を呼ぶが返事はない。ちょっと前に風呂場のドアが開く音が聞こえたので今は脱衣所にいるのだろうが。そして上条は脱衣所の前までいくと再度美琴の名前を呼ぶ。すぐそこに美琴がいるのは何となく気配で分かるのだがやはり返事は無かった。

「みーこーとたー…・・、み、美琴! ど、どうしたんだ!」

 二つの意味で万が一に備えて脱衣所のカーテンを開けた上条は相当に焦った。理由は目の前にワイシャツと短パン姿の美琴が床に倒れていたから。
 そして当麻は美琴を抱きかかえると安否を求めた。

「み、美琴! どうしたんだ! 一体なに―――」
「ふにゃー」
「がぁぁぁ…? って、え? ふにゃー?」
「ふにゃー、ふにゃにゃー?」
「えぇっと…、美琴…たん?」
「ふにゃふにゃにゃー…」
「ど、どうしたの?」
「ふにゃっ…、ふにゃにゃにゃふにゃにゃーにゃにゃにゃにゃー」
「『えっと…、当麻のワイシャツを着たら』」
「ふにゃーにゃにゃっにゃっにゃ、ふにゃー」
「『何か気持ちよくなっちゃってふにゃー』」
「ふにゅ…」
「…」

 上条当麻は御坂美琴の言語を完璧に理解していた。稀にしか見れないふにゃ語を話す美琴で、英語も満足に出来ない上条だが、一ヶ月前に一級ふにゃ語通訳の資格を取ったのでリーディング出来る。つまりは上条は二ヶ国語話せるということなのだ! …履歴書にはかけないが。
 そしてここで美琴がふにゃーした理由をおさらいしておこう。つまり美琴はパジャマに上条のワイシャツを着ようとしたまでは良かったのだが、学園都市からここまで来るまで着っぱなしだったワイシャツは上条の匂いが染み付いており、それを着たが最後常に上条に抱きしめられている感覚に陥り耐え切れなくなってふにゃーとしてしまったようだ。

「美琴たん? そんなんじゃ何も出来ないから普通のパジャマにお着替えになられた方が―――」
「ふにゃっ!」
「いやって言われましても…」
「ふにゃっふにゃ、ふにゃっ!」
「いやでもですね? そんなタコみたいにふにゃふにゃな軟体動物になられていたんじゃ何も出来―――」
「…ふぇぇ」
「あーわかった、わかりましたよ。いいですいいです着てていいです」
「…えへ」

 上条は折れた。美琴を泣きモードにすると相当に面倒になるのはクリスマスの時に味わった。
 先程のワイシャツを渡す時もそうだが、楽しみや好きな物などお預けをくらうと14歳の実年齢よりも更に幼く泣きじゃくる習性があるのだ。恐らく美琴は自覚は出来てないだろうが、半年前に上条に出会うまではこんな状態になるなんて考えもしなかっただろう。

 Q1.一体誰だ? こんな美琴にしたのは。 A.上条当麻

         ☆

「はい当麻。あーん」
「あー…、むっ。ふぁふぃふぃ…」
「あっ、ご、ごめん。冷ましてなかった。ふー、ふー。はい、あーん」
「あー…、むっ。はふはふ」
「おいしい?」
「うん」
「えへへ」

 どうやら泣きモードの後はデレデレのようだ。クリスマスの時同様に一口ごとにあーんしてくるし箸は一組しかないし、隣に座ってテーブルは一辺しか使わないし。
 上条と美琴は鍋を囲み冬の寒さなどものともしていない。鍋の温かさもそうだが相当のいちゃつきっぷりでもう見てられない。
 しかし…、夫婦生活といっても上条の学生寮で過ごしている恋人ライフとあまり変わらない。つまりは寝る場所は違うだけでもうこの2人は夫婦なのだよ、きっと。

「明日は美琴ん家見てみたいなー」
「ふぇ? べ、別に普通の家よ?」
「…お前の普通は普通じゃないと思うんですが」
「本当に普通よ。お父さんは海外が多いからあまり大きい家だと掃除が大変だからって」
「ふぅん。そういえばいつも美鈴さん一人なんだよなぁ」
「でも寂しくはないみたいよ? 近所に詩菜さんいるからって」
「そっか。なんつーか、うん」
「うん? なに?」
「何か俺ん家と美琴ん家って何か仲いいよな」
「い、いい事じゃない。私はもっと詩菜さんや当麻のお父さんと仲良くなりたい」
「俺は…、あー美鈴さんも旅掛さんもあの性格だもんな。馴染むの早すぎた、うん」
「あはは。ホントよねー、子供の顔が見てみたいわ」
「…」

         ☆

「(どきどきどきどき…)」

 御坂美琴はドキドキしていた。夕食を食べ終わりさっきまでリビングで上条とじゃれていた美琴は、夜遅くなってきたのでそろそろ寝ようと夕食の片付けをし和室の襖の前でモジモジしている。
 美琴が洗い物をしている間、上条は歯磨きを済ませ先にベッドインしているはずだ。洗い物をしている時にチラっと横目で見たが、和室の中央に敷布団が二つぴったりと敷かれていた。
 寝ると言い出した美琴に対し上条は、布団を持って風呂場に歩いていこうとしたので美琴が洗い物を投げ出し足にしがみ付いて静止を求めた。上条は理性の壁だとかワイシャツの隙間だとか何だとか言っていたが美琴は屈しなかった。何故ならこの夫婦生活の楽しみは約9割この瞬間なのだから。学生寮とこの部屋の違い、それは門限なく一日中上条と一緒にいれる事にある。
 上条は風呂場がダメならリビングと言ったが、美琴はくっついて離れない。美琴慣れしている上条はこの状態の美琴は何を言ってもダメだという事を知っているので折れる他なかったのだ。
 あぁ…耐えてくれよ、俺の理性。

「と、当麻ー。おまたせー…」

 何をお待たせたのか美琴はそんな事を言って襖を開け入ってきた。和室の中央で並ぶ二つの敷布団。上条は離して敷いたところで美琴は必ず隣にやってくるので諦めたらしい。
 美琴は今からその布団で上条と寝る事になるのだと思うとふにゃーとなりかけるが、ふにゃーとなったら折角の夢の時間を棒にする事になるので何とか持ちこたえる。そして美琴は意を決し(?)電気を消して上条の隣の布団に潜って行った。

「えへへ」
「…」

 美琴は隣から伝わる上条の温かさと行き使いに心底ご満悦のようだったが、当の上条はそんな事はなかった。

「(みっ、みっ、みっ美琴ォーーーーーっ!!! くれぐれも! くれぐれも上条さんの理性の壁をぶち壊す事はしないでくれよーーっ!)」

 もはや鉄壁という位を無くした上条の理性は脆く儚いものになっていた。このままでは本当に間違いを起こしかねない。

「当麻ー、寝ちゃったのー?」
「(あわわわわ…)」

 美琴の方に背中を見せて寝ている上条に対し、美琴はそんな背中をつんつんと突付く。その度にボロボロと崩れ落ちる理性はもう崩壊寸前だ。

「ぐ、ぐー…ぐー…」

 なので上条は必死に寝たふりをした。とても下手だったが。

「むぅ…、…。んしょんしょ…、えへ」
「…!」

 しかし頭の中が上条一色になっている美琴はそんな演技は見破れず、本当に寝てしまったと勘違いしてしまった。…が、それではこの余り余った何かを抑える事が出来ないので美琴は上条の布団に潜入し後ろから抱きつく事にした。
 上条はスウェットだが美琴の上半身はワイシャツに下着だけなのでその慎ましい何かと柔らかさに上条は噴火寸前だ! 今まで受けてきた電撃や龍の息吹などと比べ物にならない異能の力に、上条のイマジン理性が…イマジン理性がっ…!

 ……。

 上条当麻の意識はそこで途絶えた。

         ☆

 翌日。12月30日。
 上条は窓からの光で目を覚ました。結構寝ていたのか日は高そうだ。学園都市では部屋にインデックスがいるためか寝るのは浴槽だったので久しぶりにいい寝心地だったという事もあるだろう。

「……ん?」

 上条はそこで何かに気付く。腰の辺りに何かが巻かれていて背中には自分とは違う温かさを感じる。上条は恐る恐る振り返ると―――

「ふにゃー」
「みっ、美琴たーーーーんっ!!! ね、寝起きでそればばばばばばばばばばっ!!!!」

 ふにゃーした美琴がいたのだ。上条は強烈な目覚ましを喰らい、すぐに目覚める事が出来た。…とても危険な目覚ましなので、良い子の皆はマネしないようにね!

「と、当麻…あの…」
「…ん? どした美琴たん」

 しばらくしてふにゃってない美琴は抱きついたまま小声で話し出した。どうしたのだろう。何かあったのだろうか。

「……出来ちゃった」
「…………………………………………………………………は、い?」
「えへ」
「ま、待ってくれ美琴たん。今なんて?」
「ふぇ? だ、だから…、出来たって言ったの」
「…」
「…」
「う、嘘だ。上条さんは必死に耐えたたずだ。夜はぐっすり何事もなく―――」
「夜? 朝起きて作ったの」
「あ、朝だと!? 何してんだ早くっから! そ、それに作ったってなんだ! そんな事っ―――!」
「何を作ったって? それは―――」
「ぎゃああああああっ! 言わないで! それだけは言わないでーーーーーーーーーーーっ!!!!」
「はぁ? 当麻大丈夫? 朝食くらいで何をそんなに取り乱してるのよ?」
「………………………………………………………………………………………………………………………朝、食?」
「うん。…それ以外に何作んのよ」
「あ、あぁ。朝食ね! うんうん! 分かってた分かってた…って頬を染めながら上目使いで紛らわしい言い方すんな! 今日の朝メシは何なんですかちくしょーーーーーっ!!!!」
「な、なによ。さっきそれだけは言わないでって…」
「そ、そうね! 見てのお楽しみですよね! ほ、ほら美琴たん。朝メシ食いに行くんで離れてくださーい!」
「いや」
「ぶふっ! 即否定ですか?」
「さっきまで寒い所にいたので温まるまで離れませーん」
「離せー、美琴たーん」
「ふふぁー、ほっふぇふねるふぁー(ほっぺつねるなー)」
「美琴たーん」
「ふぁんひうにゃー(たん言うなー)」
「たーん」
「ひうにゃー(言うなー)」

 上条と美琴は寝起きでもバッチリいちゃついていた。もう何か…、何かもう…あの、うん。いちゃついていた。
 ちなみに上条は昨日の夜の事は何も聞かなかったらしい。美琴が普通なのであのままきっと寝たんだきっと。そうに違いない。いや、分からないけどね?
 こうして二人のいちゃいちゃ年末年始一日目は終わり2日目がスタートしたのだった。

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