とある魔術の禁書目録 自作ss保管庫

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心を奪われ、射ぬかれ、包まれて



寮内調理室は大賑わいである。
チョコレートの甘ったるい香りがただよう中、御坂美琴も奮闘中であった。
美琴に関しては、何をしても噂に繋がっていくが、
今回は何といっても手作りチョコを作っている!ということで、周りは色めき立っている。

(まったくもう。ほっといて欲しいもんだわね)
美琴はトリュフを作っていた。
白井黒子が出かけているため、作れるチャンスは今しかない。
ぺろっ、と味見してみる。
(おっしOK、あとはラム酒だけね)

ンフフ、ンフフ、ンッフフ~と鼻歌交じりで、ラム酒の小瓶を取ろうとした、その時、
手が滑って倒してしまい、中身を全部あけてしまった。
あまりラム酒の匂いが好きでない美琴は、漂う匂いに顔をしかめつつ、腕組みした。
(あちゃー、参ったな)
周りのスズメたちに聞けばいくらでも貸してくれるだろうが、
そこを突破口に根掘り葉掘り聞かれかねない。

思案した後、白井黒子の調味料小箱を拝借し、同じラム酒ラベルの小瓶を発見した。
(黒子、借りるわよ)と感謝しつつ、必要なだけ借りて、また戻しておく。
・・・小さく赤い字で『特製』とラベルに書いてあったのに気付かず・・・


2月14日、上条当麻はやや緊張しつつ、恒例の自動販売機に向かっていた。
昨日、美琴から『チョコわたしたいから、いつもの自販機前で』
と、シンプルかつ直球なメールが届いていたのだ。
上条の頭の中を、義理だの本命だの毒入りだの言葉が舞い踊る。

御坂美琴は既に待っていた。
上条は駆け寄り、どう声をかけたものかと頭を掻く。
「来てくれて、ありがと」
(こ、こいつこんなキャラだっけか!?)
「あ、ああ。カミジョーさんは頂けるものは喜んで頂く主義ですから」

「え、えっとね。本命とか義理とかって話じゃなくて、こういうイベントでさ、何かやってみたいと思ってさ」
美琴は頬を赤らめて、視線は斜め下を向いている。
「作るところまではやったんだけど、その、上げる人いなくって。で、貰ってくれないかな、って」
(いかん、中学生にドキドキしてきた)
そういって美琴が取り出したのは、可愛らしい小袋。
「うわー手作りか。サンキュー御坂。ありがたく頂くよ」

中身はトリュフのようだ。
「今食っていいか?」
「うん!」
ぽいっと、口に放り込む。美味い.。
「こりゃうめえ.。上品な味だ・・・な?」
「良かったー♪・・・?」

「何だ・・・?体が熱い・・・ぞ。アルコールのせい・・か?」
「え?ラム酒がちょっと入ってるけど、酔うような分量じゃない、と・・・」
明らかに上条の様子がおかしい。
トリュフの材料はシンプルだし、こんな状態になる要素は皆無だ。
まさか・・・黒子の!


黒子特製の即効性媚薬は確実に上条に効いていた。
強烈に美琴を抱きしめたくなる。滅茶苦茶にしたくなる。
ドクンッ!
凄まじい情動が襲いかかってくる。

(これは・・・いや、アイツはこんなこと・・・)
(絶対に、絶対に、アイツを傷つける訳にはいかねえ!)
歯を食いしばり、耐え忍ぶが、正常な思考が徐々に薄れて行くのが分かる。

真っ青になって震えている美琴の姿が視界に入る。
「御坂・・・頼む」
「! な、なに?どうすればいい?」
「左か・・ら・・・電撃を・・・意識を・・・・・・飛ばして、くれ・・・」
「そん、な・・・!」
「お前、を・・・傷・・・」

御坂美琴は覚悟を決めた。一刻の猶予も無い。
自分が襲われるのはともかく、上条の人間としての尊厳が失われる。
逃げたら他人が危険だ。そして捕まったら、幻想殺しで抵抗もできない。
(ホントごめん・・・意識が戻ったら、何でもするから・・・)
アクセラレータと戦う前の、橋の上を思い出す。
(なんで私は・・・好きな男にこんな何度も撃たなきゃなんないのよッッ!)
ズバァンッ!! 左から青白い雷光が上条の体を貫く。

上条当麻は、ゆっくりと崩れ落ちた。



腕を揉まれている感触を意識しつつ、上条はゆっくりと目を開けた。
どうやら美琴が必死に腕をマッサージしているようだ。手足が冷たくなっていた。
美琴が上条の様子に気付く。
「だ、大丈夫っ?」
「ああ・・・とりあえず・・・戻った、かな」
安心したのか、美琴は泣き出した。
「ごめんね・・・・ごめんね・・・」
「はは・・・あの時の再現なら、膝枕もお願いしようかな、てな・・・」

美琴はぐいっと涙を拭くと、上条の頭を起こして、膝枕の形にする。
「言って・・・見る、もんだな・・・はは、気持ちいい、な・・・」
「何でもするから。無理して喋らなくていいから!」
上条はしばらく喋らなくなった。目は薄く開けているので、意識はある様子だ。
美琴は膝枕をしながら、上条の指先などを揉んでいる。

「あれは・・・媚薬ってヤツかな。あんなに理性が暴走するものとは、驚いた。」
「黒子の調味料を考えも無く借りちゃってね。ほんとあの子は何持ってるのかと・・・」
「お前がそんなモノ・・・使う奴じゃないのは分かってるから。落ち込むな。」
「・・・なんでアンタが私を気遣うのよ。被害者なのに。」
「・・・あのシスターズの事が無かったら、俺も理性保てたかどうか、わからねえ・・・」
「え?」
「あん時のお前の、絶望の表情を2度と見るわけにいかねえと思うとな、何とか保てたんだ」
「馬鹿・・・ぐすっ」
涙がぽたぽたと顔に落ちてきた。また泣かせてしまったようだ。


美琴はようやく落ち着いたらしく、息を整えている。
上条も手足の痺れは取れてきていた。血が巡りだしたらしい。
いきなり、美琴は右手を上条の目の上にかぶせ、視線を隠した。
「おい?」
「えっと、・・・一つだけウソついてたのよねー」
「ん?」
「あのチョコレートは、・・・その、・・・本命、で・・・」

「え?」
上条は身を起こそうとしたが、美琴は上条の目を今度は両手を使ってふさいだまま、膝に押さえつける。
「だから本命だって言ってんでしょ!1ヶ月後返事するのよ、分かったわね!?」
「お、お前・・・」
「えーい、うるさい!以上!」
美琴は真っ赤になりながら押さえつける。

「はは・・・媚薬よりも電撃よりも、強烈なの食らっちまったじゃねーか」
「・・・!」
「ま、とりあえず、ちょっと立たせてくれ。それで抱きしめさせてくれ」
「え?え?」
「媚薬のとき、抱きしめるの死ぬほどガマンしたんだぞ。このままじゃ欲求不満で帰れねえ」
「よっきゅう・・・って!?」
言いつつ、美琴の手を優しく外して起き上がる。まだフラつくが、なんとかなるようだ。

横を向いて真っ赤になって座っている美琴の手をとり、立たせ・・・
そのまま、ぎゅっと抱きしめる。
「ちょ、ちょっと!ねえ・・・」
「ありがとな、御坂。お前に応えるには、解決しなくちゃならない事がある。待っててくれ。」
「・・・うん、わかった。待ってる・・・」

身を離し、上条は美琴の頭をくしゃっとなでた。
「じゃ、帰るか・・・体は大丈夫だから、ほんと落ち込むなよ?」
「ん・・・」
「チョコはどうすんだ?」
「私が持って帰る。さすがに・・・」
「お前食ったらどうなるんだろうなー」
「!」
「ものすごくエッチな御坂か・・・それはそれで・・・って冗談だ冗談!」
バチバチやりだした美琴を見て逃げ出す。
「んじゃカミジョーさんこっちだから!またな!」
「もう!・・・あの馬鹿・・・」
美琴は、走り去る上条を、姿が消えるまでずっと見つめていた。


「お、お姉様!黒子が、黒子が何をしたとおっしゃいますの!?」
「えーいやかましい!おとなしく殴られろっ!」
その夜、理不尽に枕で殴られる白井黒子の姿があった・・・


Fin.


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