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上条さんと美琴のいちゃいちゃSS/16スレ目ログ/16-172 - (2011/04/11 (月) 18:57:51) の編集履歴(バックアップ)
愛しき世界 2 二人の大能力者
第七学区に存在する『学舎の園(まなびやのその)』は、常盤台中学をはじめとする五つのお嬢様学校が敷地を出し合い、強固なセキュリティーを布いて造られた乙女の園。
古き良き西洋の建築様式に、学園都市の最新技術を融合させた街並みの中で頬笑む少女たちは温室の中に咲く花そのもの。
時計台の鐘がお昼の三時をつげるころ、学舎の園のゲート前で常盤台の制服を着たツインテールの少女、白井黒子が学生鞄をひざの前で持ち立っていた。
白井はスカートのポケットからリップのような形の携帯を取りだすと、携帯本体の溝から画面を引き出し、時刻を確認した。
当然三時の鐘が鳴ったばかりなため、時刻は三時ちょうど。
ため息をついて携帯をしまうと、青く澄んだ空に目を移した。
白井は今日、ある人物と待ち合わせている。
『風紀委員(ジャッジメント)』に所属していることもあり、時間に厳格な白井は待ち合わせ時間の十五分前から居るのだが、約束の三時を廻っても待ち人が現れないため少しいらついていた。
(人を呼び出しておきながら遅刻するとは、矢を一本くらい立ててやらなければ気がすみませんわ)
白井はスカート越しに“得物”の感触を確かめる。
白井が少々物騒なことを考え始めたところ、道路の向こうから銀朱色の髪を二つに結った少女が歩いてきた。
「ごめんなさい、待たせてしまったかしら? 今日は急にお願いをして悪かったわね」
白井の待ち人とは、去年の九月に『残骸(レムナント)』の件で敵対した結標淡希だった。
実は昨晩、白井の携帯に結標から「学舎の園を案内してほしい」という内容の電話が掛かってきたのだ。
いつどこで番号を入手したのか、去年やりあったのにどういうつもりなのかなど、聞きたいことは山ほどあったが、白井もどこか結標のことを気になっていたためその場では了解をした。
「いえいえ、お気になさらず。貴女がまともな格好でいらっしゃって安心しましたわ」
「失礼ね、私が常にあの格好しているとでも思っていたの?」
今日の結標は、胸にさらしを巻いてブレザーを肩から羽織った大胆な格好ではなく、きちんとブレザーの下にシャツを着用し、ネクタイを締めていた。
足元は上品な光沢を放つランプブラックのローファーに、アイボリーのオーバーニーソックス。
片手には学生鞄を提げており、エリート校の生徒として恥じない出で立ちだ。
あの格好で来たらどうしようかと考えていた白井であったが、杞憂に終わった。
「さあさあ、早く中へ行きますわよ」
落ち着いた歩調で学舎の園へ向かう白井の後に、笑みを浮かべた結標が付いて行く。
「常盤台中学、白井黒子さんの紹介ですね……はい結構です。中へお入り下さい」
ゲートの窓口で手続きを済ませると、白井と結標は学舎の園へと足を踏み入れた。
五○メートルほど続く長いゲートを抜けて見えてくるのは、異国に迷い込んでしまったかと錯覚してしまうような街並み。
最先端をゆく学園都市特有の無機質な建造物は一切見当たらず、見渡す限りに豪奢な建造物が広がっていた。
二人は噴水の前まで来ると一旦歩みを止め、白井は噴水の囲いに腰掛け居住まいを正し、結標は周りを見渡した。
「流石は学舎の園ね」
「こんなもの、非効率の極みですわ」
「あなたって夢が無いのね……それにしても何なのかしら? この視線」
白井と結標の二人組に、お嬢様たちが好奇の目を向けていた。
暗部組織で働いていた結標は気配などに敏感なため、少し鬱陶しく感じている。
「おそらく原因は貴女でしょうね」
そう言いながら白井は、自分の制服と結標の制服を一瞥する。
その行動に疑問を感じた結標だったが、すぐに意味を察した。
「なるほどね」
学舎の園は五つのお嬢様学校の敷地内であり、他校の生徒は学舎の園に属する学校の生徒に招待をされない限り入ることは出来ない。
この制度自体は知られているが、学舎の園で純粋培養された少女たちの交友関係は限定的であるため、外と交友のある者は極端に少ない。
したがって他校の制服を見るのは大変稀なことらしい。
その上、学舎の園で実質トップの位置づけである常盤台の制服を着た白井は、学舎の園内でも信望を集める御坂美琴の付き人としてそれなりに知られている。
その白井が今日は霧ヶ丘女学院のエリート高校生を連れているため、珍しく映っているようだ。
学舎の園で生活をしている少女たちは、日々他愛もない会話に花を咲かせている。
外を知らないため、学舎の園内で少しでも変ったことが起きると、あっという間に噂が広がるのだ。
それを心得ている白井にとって、今の状況は好ましくない
(わたくしはお姉様一筋ですのに、こんな女に浮気していると思われたら不愉快ですの)
『黒子……私より結標さんの方がよかったのね』
『さよなら……愛しの黒子』
(――はっ、お゛でい゛ざばぁぁぁぁああああああああ゛!!!)
悶々とする白井をよそに、結標は何かを見つけて嬉々とした表情をしている。
「ねぇ白井さん、あのお店でお茶にしましょうよ!」
結標が指したのは、二人が居る位置から二○メートルほど離れた位置にある洋菓子店。
クリーム色を基調とした外観は、遠目にも高級感が窺える。
マホガニーの看板には金色の字で店名が綴られており、一目で有名店であることがわかった。
「…………ええ、そうですわね」
虚偽の世界で何かに行きついた白井は、抜け殻のようになっていた。
クリーム色を基調とした店内の天井で煌めくのは、小ぶりながら美しいカットを施されたガラスのシャンデリア。
広さは一般的な喫茶店と大差ないが、猫足のテーブルとイスがゆったりと配置されているため、座席数は少ない。
砂糖の溶けた香りと、さまざまな種類の紅茶の香りが鼻腔をくすぐる店内の一角に、二人の鮮麗な女学生がテーブルを挟んで腰掛けている。
ベージュのブレザーに、紺系タータンチェックのプリーツスカートがエレガントな常盤台中学の制服を着た白井黒子。
褐返(かちかえし)色のブレザーとプリーツスカートがコンサバティブな印象の霧ヶ丘女学院の制服を着た結標淡希。
毛色の違う二人の女学生は互いに引き立てあい、店内に居るお嬢様たちの注目を集めている。
色とりどりのフルーツのジュレがクリームの上に輝くタルトを楽しそうにフォークでつつく結標と、美しい水色の紅茶を喫する白井は制服でなければ、どちらが年上か分からない。
「コホン」
白井はわざとらしく咳払いをしてみせる。
先ほどからずっとタルトにがっついていた結標の注意が白井へと向かった。
「それで貴女は一体なんの目的でこのわたくしに近づいてきましたの?」
「もちろんここに入るためよ」
「冗談も程々にして下さいまし。そもそもなぜわたくしの連絡先を知っていましたの?」
白井は気色ばみながらティーカップをソーサーに戻すと、結標の顔を真正面から見据えた。
結標は一旦フォークを置くとブレザーのポケットに手を入れて探った。
「こういうことよ……」
ポケットの中から出した手には携帯電話が握られていた。
結標は腕を伸ばし、銀色の四角く薄いデザインの携帯を白井の目の前まで突き出す。
白井は結標の意図がわからず眉間にしわを寄せている。
その様子に結標がニヤリと笑い、握っている手の小指と薬指を放す。
すると、その隙間にストラップが姿を現した。
黒い紐で繋がったそのストラップは、あまりにも携帯のデザインとは不釣り合いなピンク色のカエル。
「ピョン子ですわね? 貴女にこんな趣味があったとは意外ですわ」
「わからない? あなたの近くにこういうのが好きな子がいるはずなのだけど?」
白井の身近にいて、お子様趣味な人物。
「――! お姉様……でも一体どうして……それにこれは」
結標に問われてから思い出したが、白井はこのストラップを知っている。
それは一週間ほど前に遡る。
白井は風紀委員の仕事で地下街のパトロールをしていた。
すると、携帯電話のサービス店と大きなポスターが目に入った。
『ただ今ハンディーアンテナサービスに加入するともれなく、ラブリーミトンのピョン子ストラップが付いてくる!』
白井はそれを見た瞬間、去年の九月三十日の出来事を思い出して発狂しかけたが、少ない理性でこれを制した。
前回は男女のペア限定だったため断念したのだが、ひょっとしたら今回はそうではないかもしれない。
サービス開始も昨日からなので、まだ美琴も知らない筈。
淡い期待を胸にポスターに駆け寄った。
そして規約を読み…………再び断念した。
というのも、今回は前回と違い女性同士のペア契約だったのだが『他校の生徒同士に限る』という規約があったのだ。
そもそも、ハンディーアンテナサービスとは、個人の携帯電話をアンテナ基地代わりにすることで、近くにアンテナ基地がなくても通話が出来るようにするというものだ。
おそらく、違う寮に住み、違う通学路の生徒同士に加入させることで、より広範囲にネットワークを構築させることが今回の狙いなのだろう。
白井はこれに肩を落とし、再びパトロールに戻った。
仕事を終えて寮に帰った白井を待っていたのは、いつになく上機嫌な美琴。
なんと、その手には先ほど見たピョン子ストラップが握られていた。
もしも白井が“あのポスター”を見ていなければ「お姉様ったらまた幼稚な物を……」と苦言を呈していただけだろう。
しかし、白井は知っているのだ、一体自分以外のどんな女と契約したのかを聞き出そうとしたが、美琴は「秘密!」の一点張り。
初春や佐天は風紀委員の支部に居たので違う筈。
それ以外だと婚后なども考えたが、残念ながらペア契約するほどの仲ではない。
書類を見れば一発でわかるだろうが、鞄や机を漁るというのは憚られる。
結局その日以降、ピョン子ストラップには触れないようにしていた。
「もうおわかりかしら」
結標の声に意識を引き戻される。
携帯電話はすでにしまわれ、再びタルトをつついていた。
「それにしても、一体いつの間にお姉様と仲良くなりましたの? わたくしの耳には何にも入ってきていませんわ」
「あぁ、それは私が秘密にしてもらっているからね」
結標は悪戯っぽくウィンクする。
タルトを食べ終えると、紅茶を口に含み、ゆっくりと瞬きをした。
すると、先ほどまでの余裕のある雰囲気を一変させ、憂いを帯びた表情で窓の外を見てゆっくりと語り始める。
「御坂さんと再会したのは三週間ほど前だったわ」
第三次世界大戦の終結とともに暗部組織は解体され、学園都市に人質にされていた少年たちは開放された。
結標は暗部から足を洗い、復学したが、長い間非日常の中に身を置いていた結標は、今の平和な学生生活に辟易としていた。
そんな退屈な時間をしばらく過ごしていたとある日、偶然にも街で美琴に出会った。
挑発するように話しかけたが、美琴は顔色一つ変えずに友好的な態度をとってきた。
怒るどころか、自分を心配してきた美琴に結標は放心しかけたが、美琴の意外な提案によって目を丸くする。
『私たち、今からでも友達になれないかな?』
結標は愕然とした。
発言そのものにも驚いたが、美琴がまとっている雰囲気そのものが衝撃的だった。
それは以前に戦ったときには感じられなかった優しさ。
妹達の未来を脅かし、白井を傷つけた自分を前に、なぜそのような顔が出来るのか、さっぱりわからない。
結標は美琴のペースに乗せられ、気がつけば美琴と何度か会うようになっていた。
美琴と居ると、退屈に思えた平和な世界がとても大切な物のように感じられるようになる。
そしていつの間にかペア契約をさせられていたのだ。
「まぁこんなところよ。それにしても本当に不思議な子ね、御坂さん」
所々ぼかしながらも、語り終えた結標は晴れ晴れとした表情をしていた。
「そんなことがありましたのね。確かにわたくしたちには想像も出来ない域にいらっしゃる御方ですわ」
「うふふ、ちょっと癪だけれど認めざるを得ないわね」
少し暗くなった窓の外から射す太陽光が二人の笑顔を照らす。
振り返った美琴との再会。
今思えば御坂美琴という、途方もない優しさと強さを持った人間に惹かれてしまったのかもしれない。
でもそれは自分の目の前に居る少女にも言えることだった。
ボロボロになりながらも、信念一つで結標の前に立ちふさがった白井黒子。
(あのときは負けたけれど、今日は勝たせて頂くわ。白井さん)
白井は空になったティーカップを置く。
カチャリと陶磁器のぶつかる音が鳴った。
「それにしても」
白井は少し声のトーンを落とし、じっとりとした視線で結標を見た。
「なぜ突然わたくしに学舎の園に連れていけなどと仰いましたの? 行きたいのならお姉様に連れて行って頂ければよいのではなくて?」
白井は美琴と結標が自分の知らない間に仲を深めていたことが気に入らない、 あまつさえ自分の電話番号を断りもなく流した美琴に少しばかり腹を立てていた。
結標はウェイトレスを呼び、皿やカップを下げさせると、横に置いていた自分の学生鞄を探り始めた。
「まぁサプライズってところよ」
「はぁ……しらばくれるのですね。どうせろくでもない理由なのでしょうけど」
理由を追及しようにも、曖昧模糊に返す結標に白井は呆れ、もう一度大きなため息をつく。
結標は学生鞄から、はがきサイズの光沢がある紙のような物を何枚か取りだした。
右手の人差指と中指で、白井には何も出力されていない裏側が見えるように挟む。
それを顔の高さまで掲げた。
「ここからが本題よ。さっき言った通り、私は御坂さんに興味を持ったの。もちろん友人としてね」
「はぁ」
「興味を持ったらもっと知りたいと思うのは当然のことよね」
「そうですわね」
白井は相槌を打つことに徹している。
(流石ね)
結標は持っていた紙のような物を裏返しのまま、テーブルの上に置いた。
白井は先ほどから気になっていた紙のような物がテーブルに置かれ、そちらに視線を落とした。
重なっていて分からなかったが紙は三枚ある。
「ついこの間、偶然にも面白い物を見てしまったの。是非露払いを名乗るあなたにも見てほしくてね……撮ってしまったの」
(でも、その余裕も……)
紙の質からみて、おそらく写真であると推測していた白井は、結標の言葉で確信し、訝しむような視線を向けた
「まさか、お姉様のプライベートを写真に収めたということでしょうか? それならばわたくしは風紀委員として貴女を裁かなくてはなりませんわ!」
白井は凛とした声で告げる。
愛しのお姉様の露払いとして。
しかし、真剣な表情の白井に対し結標は不敵な笑みを浮かべた。
(ここでぶち殺してあげるわ!!!)
白井が空唾を飲んだ瞬間
――フッ
テーブルの上に裏返しで置かれていた写真が消えた。
それは結標の『座標移動(ムーヴポイント)』によるものだ。
瞬間的にテーブルから浮いた位置に出現した写真は、ちょうど白井の目の前で横一列に着地し、白井の視界に入る。
表に返された写真には、白井のよく知る人物が二人写っていた。
結標が白井を見ると、白井は小刻みに揺れ始め
「……………………ihhf殺wq」
――シュッ
突如虚空へと姿を消した。
その現場は、去年の残骸を巡る戦いのワンシーンを彷彿とさせるものだった。
「今回は私の勝ちね……ってあら?」
結標が辺りを見渡すと、恐怖に慄くお嬢様たちに見つめられていた。