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上条さんと美琴のいちゃいちゃSS/5スレ目短編/393 - (2010/03/07 (日) 14:33:13) の編集履歴(バックアップ)




「お嬢様方、おヒマなら一緒にラブコメでも致しませんか?」

 高い背丈、短いがツンツンにした金髪サングラス男が、声を掛けてきた。不良っぽい高校生というところか。
(あー、久々のナンパだ! …御坂さんといると、なかなか声掛からないのよねー)
 佐天涙子は口にクレープを運んでいた手を止め、ベンチの隣に座っている御坂美琴を窺う。
 常盤台の制服を来た女の子込みのグループに、声を掛ける勇気ある男子生徒は、そうはいない。
 美琴はいぶかしげな顔をしていたが、やにわに立ち上がった!

「どこに隠れてる!アンタいるんでしょ!?」
 美琴が周りの隠れられそうな場所を睨め回すと、ひょいっと木陰からこちらもツンツン頭…少し長めで黒髪だが…が現れた。
「やっぱりバレましたかー」
「…ったく!」
 佐天は目をパチクリさせている。


 4人は第21学区自然公園に向かうため、最寄のバス停に向かっていた。
 ナンパ男、土御門元春が舞夏の兄と分かり、佐天と美琴は警戒心を解き、土御門と上条当麻に付いて来た。
 ちなみに元々白井黒子と初春飾利との4人で遊ぶ予定だったのだが、急の仕事で2人は来れなくなっていた。

「昨日転入生が入ってきたんだにゃー。それで歓迎会をしようぜってことになって」
「次の休みにヒマなやつ全員参加で、自然公園でバーベキューでも、ってな。今日は下見ってこった」
「へえ~、仲のいいクラスなんですねえ」
「ウチは特別だと思うんだぜい。ま、今回は入ってきたのが美女だっつーのもあるかもしれんがにゃー」
「ほ~…」
 美琴は上条をチラッと見る。

「ああ、カミやんとはもう既に親密だぜい。もう早速2人っきりになっている姿が目撃されてるにゃー」
「てめえ土御門!余計なこと言ってんじゃねええ!」
「ほほう…今日の下見も、彼女のためなら、と?」
「ちげえよ! 俺は宿題やらなかった罰!土御門はガッコサボリの罰だ!」
「アンタ結局宿題できなかったの?あっきれた」
「なに言ってやがる、お前が最後の日邪魔したんだろーが!」
「なに言ってんのよ!手伝ってあげたし午前中だけじゃないの!そもそも夏休み何日あると思ってんの!?」

 佐天は土御門のアロハシャツをちょいっと引っ張り、
「このお二人ってどーいう関係なんですか?」
「オレもわからんにゃー。でも少なくとも2日前、そのお嬢様がカミやんに抱きついて、そのあと2人でデートしたらしいのは知ってるぜい」
「デ、デートォ!?抱きついたっ…?」
 ひそひそ声で話していたわけでもないため、言い合いをしていた上条と美琴も大慌てで反応した!
「土御門!てっめえワケわかんねえ解説いれんな!」
「さ、佐天さん!勘違いしないで!デートじゃないし、色々複雑な事情があるの!」

「早々に痴話喧嘩はじめといて、何いってんだかだにゃー」
「少なくとも御坂さんの、その人に対する接し方は、白井さん以上に心許してる感じがしますよー?年上なのにアンタ、とか」
「そそそんな事ないって!ここ、コイツとはケンカ友達なの!普段から罵り合ってるから、こんななの!」
「ちょっとまて御坂。それじゃ俺が中学生相手に大人げなく罵ってるみたいじゃねーか!」
「なによいつもガキ扱いして!話しかけたらスルーするし!」
「触らぬ神に祟りなしっつーだろが!取り扱い間違ったらビリビリされるのに、付き合ってられっか!」
「その態度がムカつくって言ってんのよ!」

「また始まりましたよ?」
「…先行くにゃー」

 ◇ ◇ ◇

 佐天涙子は驚いていた。御坂美琴にこんな仲の良い男の友人がいたことに。
 恋人という雰囲気ではないが、さっき言った通り、かなり心を許している様子だ。
 きっと凄い能力を持っていて、…って、御坂さんが認めるぐらいなら相当のレベル?

「土御門さんたちって、どんな能力をお持ちなんですか?」
「オレたちは無能力者だぜい。オレは『肉体再生』、軽い傷口が治る程度だにゃー。カミやんは何もなし」
「む、無能力? あ、あたしも無能力者ですけど、…あの人も?」
 佐天は振り返りながら上条を見る。上条と美琴からは5メートルほど離れている。
「…カミやんは何か危険を冒すたびに、無意識に女性とフラグを立てる能力、なら持ってるらしいんだがにゃー」
「フ、フラグ…」
「佐天サンも気を付けた方がいいぜい。上条当麻とフラグが立つと、友情が壊れるかもしれんにゃー」
「い、いやそれは無いですよー!」
「ボートが転覆して、投げ出された。溺れそうになっているところを命がけで救ってくれた…なんて話が思い浮かぶぜい」
「あはは…ボートには近づかない様にしますね…」


 上条と美琴は、土御門と佐天から遅れて歩いている。
「んで、昨日はあれからどーなったのよ。そもそもアレは何だったの?」
 美琴が聞いてるのは、昨日の地下街テロである。

「特に何もねえ。帰ったよ。何があったかも良くわかんねえし」
…シェリーやゴーレムの話をしても、美琴は分かるまい。上条は黙っていることにした。
「ふーん。まあ今日は黒子たちが現場検証手伝っているみたいだから、またいずれ判明するとして…」
 美琴はちょっと口ごもった後に、
「…あのシスターは、何なの?やたら仲良いみたいだけど?」
「ん~…」
「『心配ないよ、とうまは必ず帰ってきてくれるから』な~んてノロケてたわよ?」
「うぐっ…」
「命の恩人とも言ってたわよね?」
「なんですかその浮気調査みたいなのは?」
「ちちち違うわよ!誰だって外国人の知り合いがいたら何で?って思うでしょーが!」

 上条もこの話は困る。なんせどうインデックスを助けたかの記憶もなく、また一緒に住んでると言うわけにもいかない。
「まあ色々あってだな。危ないところを助けたら、懐かれたってところだ」
「何よー、ごまかして…」
「じゃあ逆にアイツがお前の事聞いてきたと仮定しよう。…シスターズの事話して良いってのかよ?」
「うぅ…」
「人の命絡んだような話は、それだけ深い事情あんだよ」
 美琴は言い返せず、ムスッとして上条を睨むに留めた。

「しかし、お前ってこういうナンパな誘いにホイホイ付いて行っちゃうタイプだっけ?意外だったんだが」
 上条は美琴の機嫌が悪くなった気配を感じ、茶化すように言った。
「行く訳ないでしょー。アンタがいたから別にいいかって気分になったのと、場所にちょっと興味があって」
「場所?自然公園がか?」
「うん、ちょっと前にポルターガイスト事件で立ち入り禁止になったじゃない。その後どうなったのかなって」
「ああ、今回の下見もそのせいだ。目的の広場とか使えるかどうかのチェックだな」
「それに数年行ってないんだけど、噂では夕方の湖畔がとっても綺麗なんだって。一度見てみたいとは思ってたのよね」
「ほほ~」
(…カップルでね)
 と、美琴は心の中で言葉を継ぎ足す。夕方の自然公園は、デートスポットで有名だった。

 バスの停留所が見えたので、上条と美琴は前の2人に追いつくべく、足を速めた。


 ◇ ◇ ◇

 第21学区はいわば学園都市の水源である。
 ダム周辺は緑に恵まれた自然公園となっており、キャンプやバーベキュー、日帰りトレッキングにも使われる憩いの場所となっている。
 ダムの湖畔では湖上を楽しむ足こぎや手こぎのボートを貸し出しており、日中はもちろん、夕方が特に人気で、
湖面に夕陽が映ってキラキラと輝き、吸い込まれそうなほど美しいひと時を演出してくれるため、学校帰りのカップルがよく使っているらしい。

 上条達は第7学区から第15学区を抜けて、第21学区「自然公園南口」停留所でバスを降りた。
「そういや誘っておいてなんだが、門限とかは大丈夫かにゃー」
「あたしは大丈夫」
「私は…ちょっと黒子に連絡しとこうかな。まあ大丈夫ってことで」
 夕陽を待っていたら間違いなく門限には間に合わない。しかし、来たからには見逃す気はない。

「そんなに遅くなるかねえ?1時間もあればチェックできるだろ?」
 美琴が突っ込むより早く、土御門が上条の頭をはたく。
「カミや~ん。既に目的は変わってるんだぜい?今はお嬢様とのダブルデートがメイン、調査なんざオマケだぜい」
「だっ、だぶるでーとぉ!?」
「…その認識がないのは、カミやん、たぶんお前だけだ」
「みっ、御坂!お前もそのつもりなのか!?」
 上条は唯一味方じゃないかと思われる美琴に振る。
「デ、デートって改めて言われると恥ずかしいけど。2vs2で遊びに来てるつもりではあるわよ?」
「ダブルデートは気楽でいいですよねー。それに今日は頼れる人たちばっかりだしー」

 上条は、自分の思考がつくづく守りに入っていることに気付いた。折角の女の子との機会を、プラスに見ていなかった。
 天上から見下ろす者がいれば、それは、腹ペコシスターの攻撃に備えた、自己防衛機能なのだ、と指摘しただろう。


 佐天は土御門に耳打ちする。
「どうします?組み合わせ替えます?」
「…佐天サンが嫌じゃなければ、オレはこのままでいいと思ってるにゃー。あのウブな二人ウオッチングする方が楽しいぜい」
「まったく同意です!上条さんともいつか話したいと思いますけど、今日に限らず会えそうだし」
「決まりだな。このままで…ラストはあの2人をボートに乗せちまうぜい」
「ふふふっ、ラジャー、ですっ!」

「土御門さんて、結構しっかりした感じね。もっと見た目通り軽薄なのかと思ってた」
 美琴はつぶやく。佐天に対する物腰や態度が、普通に先輩っぽい感じに気さくだ。
「地肌に直接アロハシャツ、そしてハーフパンツ。青のグラサンに金の鎖の金髪大男。どこの不良かよって感じだけどな。
ケンカは俺よか強えし、知識もハンパねえしな…アイツの正体は俺もわかんね」
 前で何やら仲良くこそこそと話している姿を見て、美琴はふーっとため息をつく。
(あれはあれでお似合いだなあ。私たちもどう見られてんのかしら…)
「どうでもいいけどさ」
「ん?」
「土御門は『さん』付けで呼んでますが、俺は『上条さん』とか呼ばれないんですかね?」
「アンタはアンタであってアンタ以外の何モノでもないわよ。それとも後輩キャラで『当麻先輩♪』って言って欲しい?」
「…いや、いいです…背中がぞくっとしました」
 お互いが墓穴を掘ったような表情になって、赤くなった2人は黙り込んだ。

 ◇ ◇ ◇

「じゃあ、デートはデートでいいんだけどさ、やることは先おさえとこーぜ」
「わかったぜい。んじゃ、まずバーベキューのできる場所だにゃー。あんまりレンタルのとこから遠いのはキツイぜい」
「そりゃ近くにあるんじゃねーのか? 地図で見るとこっちだな…」

 上条と土御門があれこれ言いながら見てまわっているのを、美琴と佐天は付いて行く。
「あーいうの見てると、高校って楽しそうですねえ。特にこのお二方みたいに引っ張る人がいると」
「うん、すごく羨ましい。こっちは規則だの派閥だの、一々息が詰まりそうでうんざりするわ」
「じゃあ土日はせめて上条さんに遊んでもらうとか…」
「そうね…って違う違う! 佐天さん、なな何言ってんのよ!」
「深い意味はないですよー? 恋人とか関係なしに、先輩に遊んでもらうのは普通ですし」
「そ、そうかもしんないけどさ…」
 佐天は確信した。美琴は上条ネタに相当弱いと。
 完全無敵のスーパーお嬢様が、ファンシーグッズネタ以外で見せた隙に、佐天は舌なめずり状態である。


「この辺…かねえ」
「おー、あそこにバーベキューやってる奴らがいるぜい。ちょっくら聞いてくる」
 そういうと土御門は走っていった。
「緑がいっぱいで、いい場所ねえ」
「ですねえ、…あ、ボート乗り場も見えますねー」
「事件の影響も全然なさそうだな。問題無し、っと」

「ねえ上条さん、また別の機会に企画しません?あたしココ気に入っちゃった!」
「あー、いいんじゃねえ?今度の結果はまた教えるよ」
「約束ですよー!御坂さんも当然行きますよね?」
「わ、私? う、うん行っていいなら…でも」
「でも?」
「IH代わりに使うのはヤメてね…あれ疲れるの」
「誰がお前をそんなレアな使い方したんだ…思いつきもしねーよ!」

 やがて土御門が戻ってきて、上条と作戦を練り始めた。
「とりあえず、ここで器材・食材・炭から全て借りたり買えたりするらしいにゃー。コスト無視なら手ぶらでOKだぜい」
「コスト最優先だろ。金曜日にスーパーの特売で買い込んで、その日の夜に全部切ってクーラーボックスに放り込もうぜ」
「んじゃセットだけ借りて、あとはめいめい持ち込むかにゃー」

 議論は更に続いたが、横から聞いている美琴と佐天は、あまりの上条の主婦的発想に笑いをこらえきれずにいた。
「ア、アンタそうまで店ハシゴして、どれだけのコストダウンになるってのよ…」
「か、上条さん…その皿にラップ巻いて洗わずに済ますなんて発想…うぷぷぷ」
「うるせー!物事は積み重ねが大事なんだっ!」
 女性陣もアイデアを出しながら話しあっているうちに、夕暮れも近くなっていた。


「おっし、じゃあこれで決まりだ。明日これで発表して、集金しようぜ」
「おっつかれさーん。じゃあ暗くなるまで、あとはブラブラするかにゃー…カミやん、ちょっと」
 土御門は上条の首をヘッドロックで固め、引きずっていった。
「何すんだテメーは!」
「いーからカミやん、…今から別行動にするぜい?」
「…!」
「常盤台のお嬢様を、ちゃんと楽しませてやるんだぜい?別に熱い仲になれとは言ってない、ボートに乗るなり好きにしろ」
「お、おま…」
「じゃ1時間後に、バス停で。健闘を祈るぜい」
 上条は呆然と、2人の処へ戻る土御門を見送った。

「もしもし黒子?ちょっと今佐天さんと自然公園に遊びに来ててね…そう、21学区の」
 その頃、美琴は黒子に遅れる旨を伝えていた。
「そうねえ、2時間は遅れないと思うけど…悪いけどよろしくね」

 その時。
「佐天サン、それじゃあ行くとするかにゃー」
「はぁ~い。じゃー御坂さん、また後ほど」
 え?と美琴が状況が判断出来ないところに、
『お姉さま…? いま殿方が佐天さんをお呼びになりましたよね…?』
「え?えーとその」
『誰と一緒にいるんですの!?殿方込みで遊んでいるんですの!?』
「べ、別に誰でもいいでしょーが。じゃ、じゃあよろしくね」
『に、2時間とはもしや!ご休憩の2時間!?ゆ、ゆるせ』
 ワケの分からない事を言い出した黒子を無視して、美琴は電話を切った。

 それよりも。
 今、戻ってきた上条と2人きりで、見つめ合っているこの状況の方が、問題だった。


「あ、あいつらいつの間にこんな仲良く…どこに行ったんだろーな。1時間後にバス停で、って言われたけど」
「そ、そうね。さ、佐天さんもやるなあ…あは、ははは」
 2人で結構今日は話していた。が、2人きりになった途端、同じ調子で話せない。
「えーと…そういえばお前夕方の湖畔がみたいって言ってたよな?行ってみるか?」
「う…うん」
「ああ、そこに小さな階段があるな。そこから下の水辺に繋がってそうだぞ」
「そ、そうね」

 美琴にとっては、上条は『ちょっと気になるアイツ』というポジションである。
 命の恩人でもあり、感謝してもしきれない恩がある。
 そんな人と、肩を並べて2人きりで憧れていた景色を見る――美琴は、完全に舞い上がっていた。
  

(これは…気まずいっ!)
 湖畔にたどり着いた上条の感想が、それである。
 混んではいない。が、見事にカップルばかりである。
 4人がけのベンチは全て埋っており、2人で贅沢に使っているが、割り込むものなどいないだろう。
 そんな空気の中、微妙な距離で水辺に沿って歩いている上条と美琴は、完全に浮いている。

(だめだ、恋人同士のフリをしてこの空気を逃れたとしても、今度は2人の距離感が危なくなる…)
 この空気に当てられて、何をやってしまうか上条も自制する自信が無い。
 美琴は何を考えているのか、うつむいて上条の後を付いてくる。

 意を決した上条は振り向いて、左手を差し出した。
「え?」
「ボート乗ろうぜ、御坂」
 おずおずと、美琴は右手で上条の手をとる。
「急ごう、ベストポジションがどこかわかんねえし」
「よし、行こっ!」
 2人は軽く駆けるようにボート乗り場に急いだ。お互いの手を意識して…


「あ、来たぜい」
「正直、ここの雰囲気は乗らざるを得ませんよね…」
「乗られると、それはそれでウオッチングは難しいにゃー」
「10分後ぐらいに、こちらも乗ってみます?」
「オーケー。それでいくぜい」
 土御門と佐天は顔を見合わせて、頷く。

 しかし2人は、乗ることはできなかった。…それは。


 ◇ ◇ ◇

 簡単な説明を受けて、上条と美琴はボートに乗り込んだ。手漕ぎボートだ。
 陽が落ちる前に必ず戻ることを言い含められた。そして小声で、身を寄せ合う時はバランス考えてな、とも…

「さーてと、上手く進むかな~、っと」
「がんばれ~」
(えーと、力を込めるよりゆったり大きく漕ぐこと、だったな)
 オールは深く入れず、水を掻く部分だけが隠れるぐらいで漕いでみる。水をオールに乗せて運ぶ感じだ。
 思った以上にスピードが出て、美琴が驚いている。
「け、結構上手くない?ホントに初めて?」
「ああ、見よう見まねってヤツだけど…」
「調子に乗って、ひっくり返さないでよ…」
「…今の言葉、ナイスだ。確かに今、調子乗りかけてた」
 上条は少し手を休め、周りを見渡した。

「どこがいい?狙い通りに行けるかわかんねーけどさ」
「んーと…」
 ちゃぷん、ちゃぷんと水の音だけが聞こえる。もう他の音は聞こえない。
 太陽が次第に赤くなってきている。
「ベンチから見てる人の視線に入りたくないし…あの辺かなあ。ほら、あのボートある辺り」
「オッケー。そこまで行ってみるか」

 おおよその目的地にたどり着いてみると、ボート同士が干渉することもなく、スペースはたっぷりあった。
「ここで良さそうだな。もうすでにいい感じの湖面になってるぞ」
「そうねえ~。いい感じ…」
 湖面に夕陽が映ってキラキラと輝き出しているが、その状態がMAXかは分からない。
 しばらく2人は無言で、湖面を見つめていた。…無言ではあったが、さっきのような息苦しさはない。


「あの、さ」
「んー?」
「あの2人みたいに、真ん中で並ばない?」
 美琴が指さした先のボートでは、確かに真ん中で2人並んでいる。男がオールでボートが回転しないように調整してるようだ。
「…やってみっか。ゆっくり真ん中寄ってみてくれ」
 やってみると、意外に簡単で、安定感も悪くなかった。
 上条は左手でオールを調整してみたが、何とかなりそうだった。

 だんだん、湖面の夕陽がキラキラと輝きを増しだしてきた。
 その時、上条の右手をそっと掴まれた感触があり、横を見ると、湖面をうっとりと見つめている美琴の横顔があった。

 湖面の輝きは、美琴の顔もキラキラと美しく彩り…思わず上条は見入ってしまった。
「…綺麗だな」
「え?」 夢から覚めたような表情で、美琴は聞き返す。
「ああ、夕陽と湖面、ほんと綺麗よね…来た甲斐があったわ…」
「ちげーよ。お前だよ」
 美琴は、目を見開いて上条を見つめる。
「いや、俺はこんなセリフいうキャラじゃねーのは分かってる。
でも今さっきのお前には、…そのセリフを伝えておかないと、一生後悔する、そう感じた。あとで笑われるネタにされようとも。」

 みるみるうちに美琴の瞳は潤み、涙がこぼれ落ちた。

「お、おい」
「ごめん。もう嬉しすぎて耐えられない…またアンタに泣き顔見られちゃった」
「…」
「連れてきてくれて本当にありがとう。さっきの言葉もありがとう。…戻ろ。私はこの感動に浸ってる…」
「あ、ああ…」

 まだ美しい湖面の中、上条はボートを反転させ、漕ぎ出した。
 漕ぎながら自然と上条の目は美琴に向かう。美琴はうつむいたまま、宣言通り涙ぐみながら感動に浸っているようだ。
(我ながらクサいセリフ吐いちまったな…しばらくは寝る前に思い出して悶え苦しみそうだ…)
 でもまあ、喜んでくれたみたいだし、いっか、と上条は気合を入れて乗り場まで更に速度を上げた。

 わずか乗り場まで5メートルぐらいにさしかかり、上条が減速した、その時…
「カミやん、逃げろ!」
 その言葉と同時に、ボートが揺れたかと思うと、上条の目の前に常盤台中学の制服、のお尻が…
 上条はおそるおそる見上げると、ツインテールの悪魔が振り返ってこちらを見ていた。
 白井黒子は、全力の連続テレポートで、一気に自然公園に乗り込んできたのだ!
「…お姉様をこのように泣かせて。この類人猿め…覚悟はなさいまして?」
「く、黒子、ちょっと待ちなさい!これは違うの、泣かされたには泣かされたけど、でも…!」


 白井黒子が消え、ドロップキックの体勢で再び現れたとき――
 上条当麻のラブコメの、『コメ部分』が始まった。



おしまい。


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