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上条さんと美琴のいちゃいちゃSS/11スレ目短編/772 - (2010/08/01 (日) 21:42:58) のソース

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「…あの人、私と同じ目をしてた…」

 あの女性ヴォーカルと視殺戦を展開した美琴は、結局立ち去ることが出来ず、彼女たちのゲリラライヴに最後までつきあう羽目になってしまった。
 ノリノリで最前列に陣取っていた緑色のジャージの御一行様は明らかにご機嫌な状態らしく、演奏を終えたバンドメンバーと何やらボケだかツッコミだかよくわからない会話で盛り上がっているようだったが、美琴は当然その輪に加わることはなく、なぜだかまた目が合ってしまった女性ヴォーカルに軽く黙礼すると、足早にその場を離れた。
 携帯を取り出して時間を確認すると、時刻はもうすぐ23時になろうとしていた。
 昼間はあれほどうるさかった蝉たちの合唱も今はもうない。
通りに人影はほとんどなく、ただ天上に浮かぶ月だけが美琴の姿を見つめていた。

(仕方ないわね。あの馬鹿は今度逢った時に制裁するとして、今日のところは帰るとしますか)

 上条当麻との夜通しの『追いかけっこ』で何度か朝帰りしたこともある美琴だったが、今朝は(非常に不本意ながら)その上条との『逢引』現場を寮監に押さえられてしまっている。
 普段ならルームメイトの白井黒子がうまくごましてくれることも多いのだが、本日は当然の報いとしてマークがキツくなっていることが容易に予想できるため、あの寮監相手に白井がごまかしきれているとは考えにくい。
 ましてや、本日の門限破りの原因が、白井曰くツンツン頭の殿方絡みであることが既に明々白々であることまで考慮に入れると、そもそも彼女が偽装工作を行ってくれているかすら疑わしかった。
 となれば、品行方正なお嬢様(のはず)であり、寮生たちの模範たるべき超能力者(レベル5)としては、今宵の上条捕捉作戦はこのあたりで断念し、(今さら感はあるものの)学生寮へ戻らざるを得ないだろう。

 不承不承、足早に寮へと歩を進める美琴だったが、話し相手もなくただ機械的に足だけを動かしていると、よみがえってくるのは先ほどのゲリラライヴの光景であり、普段からヴァイオリンを嗜み、音感に関しても人並み以上なこのお嬢様は、印象に残ったフレーズを無意識のうちにハミングしていた。
 あの4人組のバンドに遭遇したのはまったくの偶然であり、実際に美琴が演奏を聴いていた時間も10分程度に過ぎなかったのだが、その内容はライヴハウスでの本格的なステージに期待を抱かせるのに十二分なものだったようだ。

(あのバンドのライヴ、行ってみよっかな。ライヴハウスだったら演奏する曲だって多いだろうし、何たってあんな野外で私の足を止めさせたあのヴォーカルが、まともなステージでどんな歌い方をするのか気になんのよねー。それにしても、何なのよあの歌詞は!ホントに言いたいことが行間から滲み出て丸わかりなクセして言い廻しが素直じゃないっていうかじれったいっていうか、アレじゃ聴いてるこっちが気が気じゃないわよ。あの4人のうち誰が詞を書いてるのか知らないけど、そいつは相当難儀な性格よね)

 『お前にだけは言われたくねーよ』というツッコミを入れたくなることを別にすれば、ここまでは至極ごもっともなご意見であったのだが、徐々に美琴の意識は暴走をはじめた。

(でも、そもそもライヴハウスって、中学生ってOKだっけ?もしかして、保護者同伴じゃなきゃ駄目とか?保護者…年上……なっ、ちょ、待っ、なんでアイツ!?ア、アイツとふたりでライヴハウスって、それってデ、デデデ、デートみたいじゃない!ち、違うわ、アイツはあくまでついでの付き添いであって、私はただ純粋に音楽を楽しみたいだけなんだから!!まぁ、付き合わせるんだからチケット代くらいは私が出してあげてもいいけど……そんでもって、ライヴが終わった後は一緒に食事でも……って、あれっ!?ライヴの日程ってそもそも何日だったっけ?)

 美琴は慌ててさっき受け取って制服のポケットに突っ込んだままのチラシを取り出して詳しくチェックしてみる。
 寮の彼女の部屋にはテレビはないし、そもそも流行りの音楽番組などにあまり興味がある方ではないのだが、それにしても聞いたことのないバンド名だった。
 歌を聴いた時には学園都市の外のアーティストなのかもしれないと思ったが、もしするとアマチュアバンドなのかもしれない。

(そういえば、さっきこのチラシをくれた人も芸能事務所の人って感じじゃなかったわね。あれっ?9月3日って、広域社会見学の出発日じゃない)

 広域社会見学とは、9月3日から10日までの8日間、日本の学園都市からランダムに選ばれた学生達が世界各地へ遠征する勉強会、実質的にはほとんど修学旅行のようなものだ。反対に、世界各地から日本の学園都市へ子供達を招いたりもしている。
 美琴達もアメリカ西海岸に作られた娯楽と映画の超巨大人工島、通称『学芸都市』へ派遣されることになっていた。
 ちなみに『達』というのは、どういう偶然か同じグループになったルームメイトの白井黒子、そしてこの夏に親しい友人になった柵川中学の初春飾利と佐天涙子のことなのだが、いずれにせよ、れっきとした学校行事である以上、ライヴは諦めるしかなさそうだ。

(んー……。やっぱライヴは無理かぁ。そういえば、もうすぐ広域社会見学なのよねぇ…8日間、8日間もアイツの顔を見られないのかぁ、って何考えてんのよ私!?別に今までだって会いたくて顔を合わせてたワケじゃないし、別にあの馬鹿の顔なんてちょっとぐらい見られなくたって…見られなくたって……な、なんともないんだから………)

 最近、いつもこんな感じなのだ。
 まったく別のことを考えていたはずなのに、いつの間にか上条当麻に結びつけてしまう別の人格がいるかのようだった。
 『自分だけの現実』(パーソナルリアリティー)を揺るがす程の正体不明な感情。
 強固な 『自分だけの現実』(パーソナルリアリティー)を構築できたからこそ超能力者(レベル5)になれた美琴にとって、本来制御不能な感情などありえないはずだった。
 だが、美琴の中心軸を揺さぶり続ける正体不明の『それ』は、なんとかココロの中に押し留めようとする美琴の意識を翻弄し、暴れ回る感情はまるで上条との『繋がり』を求めるかのように外へと噴き出していく
 表に出してはいけないと思っているくせに、その実『それ』を押さえつけることに苦痛を感じている自分がいるのだ。

 あの闘いの前日、とある公園の美琴御用達の自販機の前で悄然と立ち尽くすツンツン頭の少年の姿を発見し、渋る彼からあの故障自販機に二千円札を呑み込まれたことを白状させた時、美琴の脳裏に再生されたのは自分自身の黒歴史とでもいうべき光景であったにも関わらず、彼との『繋がり』を意識して動揺してしまい、その照れ隠しから、本気で落ち込んでいる上条を大声で笑い飛ばしている自分がいた。

 また、『繋がり』といえば、これは美琴は知る由もないことなのだが、彼女の趣味(ライフワーク)であるコンビニでの立ち読みのせいで、とある不幸な少年が縁がボロボロになったマンガ雑誌を毎週買う羽目になってしまっている珍現象だって、もし彼女が知ってしまえば、到底平静でいられることではないだろう。

 8月21日、最弱の無能力者(レベル0)のクセに『美琴とその妹達を守るため』に学園都市最強(アクセラレータ)に挑み、文字どおり身も心もボロボロになって、立ち上がる事すらできなくなった上条の姿を見た時、敵が勝てる相手だから誰かを守りたいのではなく、誰かを守りたいからこそ勝てない敵とでも闘えるのだと知った。
 死の恐怖を振り払い迷わず戦場に飛び込んだ。
 そして、もう動かないはずの手を伸ばし、それでも自分を止めようとする彼の叫びを全身で受け止めた時、自分の生命が木っ端微塵に打ち砕かれようとも、『それでも彼に生きていて欲しい』と願った。
 この少年のためになら命を失ってもかまわないと想った自分がいた。
 そして、その少年 --
 上条当麻は、神様にすら不可能だと思われた、誰一人欠ける事なく、何一つ失う事なく、みんなで笑ってみんなで帰れる幻想(ゆめ)のような世界を、その拳ひとつで切り拓いてくれた。

 その翌日、負傷した上条を入院先の病院に見舞った際も、彼の病室が少し前に自分がキャパシティダウンでダメージを受けた時に担ぎ込まれたのと同じ病室だと気付くと、不謹慎だとは思いつつも自然と笑みがこぼれてしまった。

 そして、これだけのことをなし得た少年は、美琴に何の見返りも求めなかった。
 あの虚空爆破(グラビトン)事件の時と同じように、それがさも当然のことであったかのように振る舞い、あまつさえ、妹達が生まれてきた事は誇るべきことなんだと言ってくれた。
 あまりのことに息を呑む美琴に、「お前は笑って良いんだよ」と、その少年ははにかんだような笑顔をくれた。

(お手製クッキーの件はとりあえず保留よね。今度、土御門にでも教えてもらおっかな…)

 思えば、この8月21日を境に『それ』は大きく変質したような気がする。
 美琴が以前にも増して、あのツンツン頭の少年を探して街をさまよい歩くようになったのもこの日からだ。
 美琴が知る上条当麻は夏休み中だというのにいつも制服姿で、その決まり文句は「今日も補習」だったので、美琴はその言葉だけを頼りに上条の通学路と思しきエリアで待ち伏せたり、彼の学校の周りを探し回ったりして、実際に彼を捕まえることに成功したこともあった。
 その一方で、美琴はこの一週間海原光貴につきまとわれていた。
 海原の顔を見たくないのであれば寮から外出しなければいいだけのことだったのだが、上条捜索と海原と遭遇してしまうリスクを秤にかけた結果、結局は上条を探すために街へ繰り出しては海原に捕まってしまい、特にこの数日間はターゲットである肝心の上条を見つけることができないのに、海原には遭遇してしまうという悪循環に陥っていた。
 そして、今日、夏休み最終日に起きた事件……

 美琴は知ってしまった。
 なぜ、彼らふたりが殴り合っていたのか。
 誰を巡って。
 誰のために。

 美琴は聞いてしまった。
 上条当麻の誓いの言葉を。
 誰のための。

(アイツは無自覚でああいうことを言うヤツなのよ、別に私が特別って訳じゃないんだから!)

 それでも、否定のために振る首の動きは止まってしまう。
 分かっているはずなのに、止まってしまう。
 あの時と同じように。

(ア、アイツが、私のことを特別って思ってんなら、さっきだってどうしてあの馬鹿は私のことをさんざんさんざんさんざんさんざんスルーすんのよ!こ、こんなの勘違いに決まってんじゃない!勘違いだって分かってんだけど…、だけど……)

 何故、あの少年のことを考えると自分のココロはこんなにも千々に乱れるのだろうか。
 美琴は自分自身のココロがわからない。
 でも、もうこの感情を押さえつけるのは限界だった。

 そして、自分のココロ以上に理解できないのが上条当麻のココロだった。
 頼みもしないのに勝手に駆け付けてくれて文字どおり命懸けで闘ってくれたかと思うと、こちらからのアプローチには検索件数ゼロ件で華麗なスルー。かと思えば、人のいないところで勝手にあんなことを誓ってしまうあの馬鹿のココロが分からない。
 自分のことを『特別』だなんて想ってもいないクセに……
 それなのに、あの時の上条からは迷いや逡巡はまったく感じられなかった。

(アイツは私のことをどう思ってるんだろ?ケンカ友達?腐れ縁??そもそもアイツは私のことを女の子として見てくれてるのかな……)

 美琴にとっては、現在真剣且つ切実な悩みなのであるが、『自分からは決して殴らずに、美琴に散々殴らせておいて全弾完璧にガードして、電池切れを狙う』という上条の闘い方を冷静に分析すれば、前段についてはともかく『女の子として見られているかどうか』なんてことは一目瞭然なのだが、美琴の認識では、今夜のことも含め、はっきりいって上条にまともな扱いを受けているという感覚がないのだ。
 唯一の例外といっていいのは、8月上旬にあった盛夏祭での出来事だった。
 盛夏祭とは、通常は一般に開放されていない常盤台中学学生寮が、年に一度夏休み期間中のある一日だけ、招待客にのみ限定で開放されるイベントである。
 その時美琴は、寮生一同からの推薦で、ステージイヴェントとしてヴァイオリンの独奏を披露したのだが、ステージ開始の直前、どういう訳か楽屋裏に現れた上条当麻は、なぜかいつもと様子が違っていた。
 人の顔を見るといつだって『ビリビリ』としか言わないようなヤツが、何度リピートしても赤面して身悶えするしかない、あの超弩級に恥ずかしい、とんでもないセリフを口走ったのだ。

「いやぁ…そんなぁ……スゲー綺麗だと思います」

 『ボムっ!』という擬音が聞こえてきそうな勢いで美琴の顔が朱に染まった。
 胸の鼓動は何かが解き放たれたかのように急激に跳ね上がり、それと反比例するように全身の随意筋が弛緩して身体から力が抜けていってしまう。
 あの時のことを思い出すだけで、とても冷静ではいられないのだ。
 『にへらっ』と、だらしなく緩んだ口元を、辛うじて生き残っていた理性をフル回転させてどうにか起動させたリョウテでバンバン叩くという荒っぽいやり方で無理矢理引き締め、意識的に大きな深呼吸を繰り返すことでどうにか現実世界に復帰した美琴だったが、一時的にパニック状態に陥ったことにより、逆に今まで気付けなかった違和感に気付いてしまった。
 あの時は色々テンパっていたので気付けなかったが、今になって考えてみると、あの時の上条の美琴への接し方は普段の彼からは考えられない程不自然なものであり、まるで目の前にいる少女が(不本意ながら)あの馬鹿曰く『ビリビリ中学生』だと気付いていないかのような、明らかに不可解な態度だった。

(ちょっと服装が変わったくらいで誰かもわからなくなるほど薄っぺらいつきあいでもなかったでしょうが!?それとも、もしかしてアイツって、ああいうおとぎ話の世界から抜け出してきたお人形さんみたいな女の子が好みなのかしら?そういえばアイツ、会うたびに「常盤台のお嬢様ってのは…」とかナントカ言ってたような気がするし…まったく、女の子に対して夢見てんじゃないわよ!でも……ってことは、私が変わればあの馬鹿は私のことを単なるケンカ相手とか腐れ縁とかじゃなくって、ちゃんと女の子として見てくれるってこと?)

 あの時着ていた白いロングドレスはもちろん美琴の自前であるのだが、常盤台中学は年中無休で制服着用が義務付けられているので、あんな機会でもない限り再び御披露目するのはかなり難しい話だ。
 『女の子らしさ』といっても、その方向性は様々なので、とりあえず自分の身の回りで一番女の子らしいと思う知り合いを脳内検索してみると、最初にヒットしたのは初春飾利だった。

(初春さんかぁ。いかにも女の子ってカンジで思わず守ってあげたくなるようなタイプよね。あの花瓶みたいな花飾りもかわいいけど…)

 一瞬、色とりどりの花飾りを頭に載せた自分の姿を妄想してしまったが、美琴はその『幻想』を瞬時に電撃で焼き払った。

(無理…絶対に無理よ…こんなの私のキャラじゃないわ)

 ほとんど自爆に近い『幻想』に身悶えしつつも、それでも何かがココロに引っかかっていた。
 求めている答えはすぐそこに転がっているはずなのに、視界は薄ぼんやりとしていて手を伸ばしても掴めない、そんなもどかしい感覚がそこにあった。
 恥ずかしさになんて負けたらダメだ。こんな時は思考を止めずにひたすら攻め続けなければ望むモノは掴めないと、美琴の経験則が訴えかけていた。

(じゃあ、あの時の私と普段の私が違ってたところは……)

 あの時身に着けていた装束は、白いロングドレスとそれに合わせた白いローヒール、首には黒いチョーカー、そして髪には……

「あれっ…!?」

 輪郭すらハッキリしなかった世界に一筋の光が差し込んできた。
 光は徐々に力強さを増し、その輝きは美琴の心を覆っていた霧を晴らしていく。

 数日前 --
 気の置けない友人たちとショッピングに出掛けた美琴は、偶然立ち寄ったファンシーショップで、とあるアイテムを購入していた。
 『それ』は決して少女趣味全開なモノでも、ましてや高価なモノでもなく、美琴自身なぜ『それ』がそんなにも気になったのか、その時はわからなかった。

 白井黒子には、「また、そのように子供っぽいモノを…お姉様には他にもっとふさわしい品がありますのに…」と渋い顔をされた。
 初春飾利には、「御坂さん、かわいいです、ステキです」とキラキラした目で見つめられた。
 佐天涙子だけは何も言わなかったが、その代わり何か意味ありげにあまり上品でない笑みを浮かべていたような気がする。

 結局、美琴はココロが命ずるままに『それ』を買ってしまったのだが、寮に戻って考えてみても、どうして『それ』が欲しかったのかがわからず、あの日以来『それ』はきるぐまーの中に押し込められて、ベッドの下で日の目を見ないまま今日に至ってしまっている。

 でも、今やっと気付けた……
 ようやく最後のピースが繋がったのだ。
 理由は明白かつ明快。
 あの時はわからなかった、美琴が『それ』を欲しいと思った本当の理由、それは…


「そっか……、私、アイツに見て欲しかったんだ」


 あの時の『カケラ』を身につけることで、上条に自分を意識して欲しかった。
 ちゃんと女の子として見て欲しかった。
 もう一度「綺麗だ」って言って欲しかったのだ。

 パチパチッ!と美琴の前髪辺りで静電気のようなモノが弾け跳ぶ。
 感情が極限まで高ぶった事による軽度の能力の暴走だが、それでも美琴は自分でも意外なほど素直に、やっと導き出した答えを受け容れることが出来た。
 ホントは答えなんてとっくに分かっていたのかもしれない。
 昼間の恋人ごっこの最中に、上条から『俺はお前のことなんて何とも思っていませんよ』的なこと言われた時、何故あんなにもココロが揺らいだのか。
 あんなにもココロが痛かったくせに、あんなにも必死になってその感情の暴走を押し留めたくせに、今さらどんな言い訳をでっちあげればこの答えを否定できるというのだろうか。
 美琴は改めて過去の記憶を辿り、今日までの自分の上条への言動をリピートしてみる。

「私を無視すんなーーっ!!」
「ビリビリじゃなくて御坂美琴っ!!」
「ちゃんと私の相手をしろーーっ!」
「ビリビリ言うな!私には御坂美琴ってちゃんとした名前があんのよ!」
「わったしっにはー、御坂美琴って名前があんのよ!いい加減に覚えろド馬鹿!!」
「待ったーー!?って言ってんでしょうが無視すんなやゴルァーーっ!!!!」
「ふざ……っけんなーーーいつもいつもいい加減にしろアンタはあああ!!」

 気恥ずかしさで気を失いそうになった。
 そして、ようやく自覚する、こんなにも自分の感情はダダ漏れだったのかと。
 すべての叫びに共通するのは『私を見て!』という強烈な想い。
なら、それは名門・常盤台中学のエースにして、学園都市に7人しかいない超能力者(レベル5)としてキチンと認識しろということなのか?
 答えはもちろん『NO!』だ。
 確かに最初の頃こそ、思いがけず自分の電撃が効かない自称無能力者(レベル0)の少年を、学園都市第三位のプライドに賭けて打ち負かすために追い回していたのだったが、自慢の電撃も10億ボルトの雷撃の槍も砂鉄の剣も代名詞である超電磁砲もさらには全身全霊を出し切った手加減一切無しの落雷すら通じず、最後はココロまで折られて完敗を認めざるを得なくなったあの時、あの少年と初めて出会った時からゆっくりとココロの奥底で育まれていた正体不明な感情が、空っぽになった美琴のココロを占拠して、日々その勢力を拡大しながら今日に至っているのだ。

 とあるツンツン頭の少年を探して街をブラつく。
 とあるツンツン頭の少年を待ち伏せする。

 一見変化がないように見える美琴の行動も、あの頃とは目的が変わってしまっている。
 もう、かつての安っぽいプライドなんて、今の自分にとってはどうでもいいことなのだ。
 その証拠に、どの言葉からも『私を、御坂美琴という女の子をちゃんと見て』という感情がこぼれ出し、暴れ回っているではないか。
 それなのに…

(ここまでしてるっていうのに、なんでアイツはいつもいつもいっつも私のことだけ検索件数ゼロ件なのよっ!?)

 美琴にだって本当は分かっているのだ。
 上条当麻の鈍感さだけが原因なのではなく、自分の行動にだって大いに原因があるということを。
 客観的な視点で見ると、この娘はなんて粗暴なヤツなんだろう。
 仮に原因の大半が上条にあったとしても、会うたびに怒鳴りつけるどころか、生命の危険すらあるビリビリを叩きつけてくる電撃娘を『特別』として意識して欲しいなんて、自分勝手も甚だしいと思わずツッコミたくなってしまう。
 こんなアブない女の子を『特別』な存在として意識するようなヤツがいたら、ソイツはとんでもないマゾ太君か、重度のオプティミストに違いない。
 自分でもまったくもってお嬢様らしくないという自覚はあったのだが、これでは上条が自分のことをケンカ相手か何かとしか認識していなかったとしても仕方がないだろう。
 美琴は自分の事ながら呆れて、思わず深い溜息を漏らさずにはいられなかった。

(ひとりで勝手にテンパって、恥ずかしくなると電撃って、前に木山先生に言われたことがあったけど、やっぱり私ってツン………!?)

 ありえない、ありえないからと、美琴はブンブンブン!と勢い良く首を横に打ち振っていたのだが、だんだん否定のために振る首の動きが鈍くなっていった。
 そう、美琴は気付いてしまったのだ。

(今の私ってただツンツンしてるだけの嫌な女の子じゃない!?)

 美琴は表情を失い、わなわなと唇を振るわせている。
 頭が否定しようとしても、ココロは本能的に気付いているのかもしれない。
 ツンデレは相手にされてこそはじめてデレられるのだ。
 
(私がこんなんじゃ、いつかアイツにだってホントに相手にされなくなって……や、やだっ!それだけは絶対に嫌ぁっっっ!!)

 ココロが痛かった。
 不安が胃の中で渦巻き、無性に胸が苦しい。
 いつの間にか、呼吸さえうまく出来なくなっていた。
 必死にココロの均衡を保ちながら、ゆっくりと目を閉じる。
 いったいいつから自分はこんな弱虫な女になってしまったのだろうか。
 自分は、御坂美琴という人間は、目の前にハードルが置かれたら、それを乗り越えずにはいられないタイプの人間ではなかったのか。

 私らしくないな、と美琴は思う。

(このままじゃ、何もはじまらないわ。まず、少しづつでも私が変わらなきゃ、あのウルトラ鈍感馬鹿はきっといつまで経ったって気付いてくれないわよ。っつか、そもそも何で私がアイツのことでこんなに悩まなくちゃいけないのよ!)

 このまま負けっ放しで引き下がるなんて、そんなものはもう御坂美琴ではない。
例え些細なことでもいい。僅かなキッカケさえあれば、この閉塞した現状から一歩を踏み出すことが出来るはずだ。
 そして、そのキッカケとなるはずの『カケラ』は、きるぐまーの中で美琴からお呼びが掛かるのを今や遅しと待ちわびているのだ。
 重たい息を吐き出して、再び目を開けた時、美琴の瞳には闘志が甦っていた。

(そうよ、私は、私を変えてみせる。明日から『アレ』を着けて学校へ行くわよ!)

 努力をすれば必ず報われるってわけじゃないことぐらいよく分かっている。
 上条の右手には未だに全戦全敗な美琴なのだが、でも、この闘いは決して勝算ゼロの無謀なバトルなんかではない。
 何せ上条は(美琴的には)既に『前科持ち』なのだ。

(なーんだ、よく考えてみれば簡単なことじゃない)

 上条当麻が無自覚だというなら自覚させてやればいいのだ。
 傷ついても走り続け、望むモノは自らの手で掴み取る。
 それが御坂美琴という女の生き様ではないか。
 弱気になっていたココロに喝を入れ、美琴は両の拳をぎゅっと握り締めて気合いを入れた。



「覚悟してなさいよ。絶対にもう一度、アンタに「綺麗だ」って言わせてやるんだからっ!!」




 Aug.31_PM11:03 終了




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