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上条さんと美琴のいちゃいちゃSS/一本の白き道/Part01 - (2011/03/07 (月) 16:44:43) のソース

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#navi(上条さんと美琴のいちゃいちゃSS/一本の白き道)

とある右手の名誉挽回(キューピッド)


 いつもと変わらぬ朝だった。
 ちょっと違ったところがあったとしたら、少々寒かったくらいだろうか?
 何れにせよ、この学園都市に7人しか居ないレベル5の第3位。御坂美琴にとっては、いつもと変わらぬ朝……のはずだった。

 彼女には想い人が居る。
 かつて学園都市に裏切られ、地獄の底に追い落とされた自分を、助けを求めたくても誰にも言えなかった自分を、あの鉄橋の上でつい零してしまった『助けてよ……』の一言を聞いたかのように現れて、彼にしかできないやり方で自分を大切な妹達と共に地獄の底から救い出してくれた人。
 1万人以上の大切な家族を失った私に向かって『それでも、お前は笑ってて良いんだと思う』なんて気障なセリフを言ってのけたアイツ。
 そう、不幸なツンツンウニ頭の高校1年生。上条当麻、その人である。

 昨日の夕方久しぶりに、その上条の姿を美琴は見た。別に探していたつもりはない(と美琴本人は言うだろう)が……。
 放課後、彼の行動パターン(スーパーの特売日巡り)を見越して待ち伏せするのは、彼女の放課後のお楽しみの一つなのだが、出会ったにしても、上条十八番の“スルースキル”が発動し無視されるか、得意の“フラグ体質”で自分以外の女の子とイチャイチャ(少なくとも美琴にはそう見える)を見せつけられるか、子ども扱いされるかのどれかだ。
 そうなると美琴はいつもの如く怒り、思いの丈(我が侭?嫉妬?)を公称10億ボルトとも言われる【雷撃の槍】に載せて、彼に向かって放つのだが、その攻撃はあの日の鉄橋の上を除けば、1度たりとも彼に当たったことはない。彼の右手に宿る能力。【幻想殺し(イマジンブレーカー)】が彼女の放った攻撃をモノの見事に打ち消すからである。

 繰り返すが、昨日の夕方、御坂美琴は上条当麻の姿を久しぶりに見かけた。
 上条の姿を見るのは実に3日ぶりのことだった。正直、この3日間は美琴にとって長かった。
 自分が知りうる限りの上条の行動パターンを使ってサーチしてみた(実際、一昨日などは友人の初春の協力の下、第7学区の全監視カメラをハッキングしたりもした)が、彼は何処にも現れなかった。

 美琴にしてみれば、1日に1度は彼の姿が見たいのである。彼の声が聞きたいのである。
 顔を見ることが出来ただけでドキッとする。話が出来た時はもっとドキドキする。一緒に居られるだけで、会話が出来るだけで、もう自分としてはたまらなく嬉しい。
 もし恋人同士になれたなら……。そんなことを想像するだけで、美琴は幸せ一杯になれてしまう。
 でも、それを素直に言うことがどうしても出来ないでいる。
 そしてその自分の想いに素直になれないもどかしさが、【雷撃の槍】に姿を変え、彼、上条の元に飛んでいくのだ。……が、上条本人にしてみればたまったものではない。如何に自分の右手に、超能力だろうが魔術だろうが異能の力ならば全てを打ち消す【幻想殺し(イマジンブレーカー)】と呼ばれる力が宿っていても、あの【雷撃の槍】は怖い。当たれば間違いなく死ぬだろうから。

 美琴が上条の姿を街で見かけなかった理由。彼はこの3日間、カゼをひいて寝込んでいたのだ。
 上条が寝込むその前日は珍しく雪が降った。この冬一番の冷え込みを記録した日でもあったのだが、その日彼は相変わらずの人助けをした。
 何をしたかまでは敢えて言わないが、何処かの誰かにフラグを立てたのは確かなようだ。だが今それはさして重要ではない。だがその人助けをする中で彼は、今年一番の冷え込みであるにもかかわらず、しこたま汗をかいてしまったのである。
 その後、学生寮に戻った彼は着替えもソコソコに食事を取ると、満腹感と疲れていたこともあってウトウトと眠ってしまい、しっかりと風邪を引いてしまった。という訳である。
 『ナンとかは風邪を引かない』とは言うものの、無茶をすればこの時期風邪を引いてしまうのは当然のこと。上条当麻はその無茶をしてしまったのである。
 ま、いつもの不幸(自業自得)と言ってしまえばそれまでなのだが……。

 そんな不幸な出来事など知らぬ御坂美琴は、昨日の夕方久しぶりに見かけた上条に声をかけたが、体調不良の上に十八番“スルースキル”が発動。しっかりと無視されてしまった。
 で、何時もの如く彼女は怒り、何時ものように【雷撃の槍】を浴びせかけ、最終的には夜中まで追いかけっこをするハメになってしまったのである。
 彼女にしてみれば久しぶりに上条と一緒に居られて満足(?)だったのかもしれないが、上条にしてみれば病み上がりには厳しすぎる『不幸』であった。
 そして迎えた、少し冷え込んだ次の日の朝がやって来た。
 そう、いつもの朝がやって来た……はずだった。

「ハァ……不幸だ……」

 いつもより少し冷え込んだ朝。
 いつもの口癖を吐きながら、トボトボととある平均的な高校までの通学路を歩く上条当麻の姿があった。
 何がそんなに“不幸”なのか?
 まず、人助けをしたのは良かったが、その事が原因ではないモノの、自分の不注意で風邪を引き、出席日数が足りないにもかかわらず、また学校を休まなければならなくなった。
 部屋で寝ていた間は、食欲もなく、また食材もほとんどない状態で、3日間をほとんどスポーツドリンクだけで過ごすことになってしまった。
 そして、少し体調がマシになったからということで買い物に出てみたら、しっかり美琴と追っかけっこをする羽目に陥った。
 そしてトドメが待っていた。
 今日は土曜日、本来ならば学校は休みのはずである。にもかかわらず、彼はいつものように学校に通う道を歩いていた。
 実は昨日の夜、御坂美琴との追いかけっこを終えて、疲れた身体を引き摺るように寮に戻る途中に、携帯に留守電メッセージが入っているのに気付いた彼はそれを確認した。留守電が入っていること自体に、彼の“不幸センサー”はビビビッと反応を示していたのだが……。やはり彼の“不幸センサー”は相当なレベルでそれをキャッチするらしい。
 留守電メッセージの主は、彼の担任であり、学園都市の七不思議にも名を連ねる幼児先生こと、月詠小萌であった。因みに上条はこの先生に頭が上がらない。

『上条ちゃ~ん、おバカの上にカゼを引いて休んだので補習なのです~。明日の朝、いつも通り学校に来るのですよ~』

 という非常にアリがた~いメッセージがしっかりと録音されていた。で、そのメッセージに従っての今日……という訳ある。

「……不幸だ……」

 とブツブツ呟きながら、トボトボと通学路を歩く姿は正に“不幸”を絵にしたようであった。

 その“不幸”な少年は、いつものように例の自動販売機の前を通りかかった。
 常盤台のお嬢様の回し蹴りを毎日のように喰らっているその自販機は、ボロボロになってはいるモノの、まだまだ現役を引退する気はないらしい。
 その自販機を見て、昨夜の追いかけっこを想い出してしまったのか、“不幸”な少年は『ハァ……』と溜息を一つつくと、また通学路をトボトボと歩き出した。その時……

「ちょっと、アンタ!待ちなさいよ!!」

 と、いきなり呼び止められた。
 そこにはベージュのブレザーに紺系チェック柄のスカート、上条の知らないキャラクター系のマフラーとお気に入りのミトンの“ゲコ太(上条にはカエルにしか見えないが)”手袋をした御坂美琴が立っていた。

「何だ御坂か……」

 この一言がいけなかった。
 実は彼女は朝早くから、上条がここを通るのをずっと待っていたのである。
 彼女は昨日のことを謝ろうと思っていた。
 3日間会えなくて心配していたことを伝えようとしていた。
 そして、出来ることなら自分の胸の内を彼に伝えようと思っていたのである。
 そんな決心をしている彼女への第一声が

『何だ御坂か……』

 だったのだから、彼女にしてみれば“カチン”と来るのは当然である。
 コレが『よう』とか『オス』とか簡単な挨拶と取れる言葉であったなら、もう少し話は変わったかもしれないが、デリカシーに欠け、鈍感で女性の扱いに関しては正真正銘の【レベル0】の上条らしい反応は、美琴の神経を逆撫でするには充分すぎる一言だった。

「いきなり『何だ』は無いでしょうがぁぁぁああああああああ!!!!!」

 そう叫んで彼女はいつものように【雷撃の槍】を飛ばす。
 上条は上条で、いつもの如くそれを右手で打ち消そうとした。
 ……ところが……。

 上条の足下に小さな水たまりがあった。それは今朝の冷え込みでうっすらと氷が張っていたのである。
 上条の足はその氷に足を取られた。
 【雷撃の槍】を打ち消そうと前に突き出された右手が上を向く。
 その上を向いた右手に向かって【雷撃の槍】が飛ぶ。

バチバチッ…パキーンッ!!

 【雷撃の槍】が何かに当たった音と、【幻想殺し】が【雷撃の槍】を打ち消す音がほぼ同時に聞こえた。

「え……?」

 御坂美琴は、一瞬何が起こったのか理解出来なかった。

 いつもならば、上条は何食わぬ顔で自分の【雷撃の槍】を打ち消すはずだった。
 そう、打ち消す“はず”だった。
 しかし今日は違った。
 上条は足下の氷に足を取られ、転倒しそうになった。
 前に突き出された右手がわずかに上を向き、その手首の辺りを【雷撃の槍】が直撃したのだ。
 【雷撃の槍】は手首を伝わり【幻想殺し】に触れ、そのほとんどは打ち消され無効化された。
 だが、若干のタイムラグがあった。

“バチバチッ…バチバチッ……”

 上条の全身がわずかに帯電している。
 目の前で起こったことが信じられず、呆然としていた美琴が慌てて上条に駆け寄る。

「え……ウソ……ウ、ウソ……ハッ! だ…大丈夫?」

 声をかけた途端、上条の身体が“グラリ”と傾き、美琴に寄りかかってくる。

「え?……あ……う、ウソ……」

「ぐ……う……クッ……」

「あ……ご、ゴメン……ごめん…なさ……い」

「く……あ……」

「あ……ああ……ど、どうしよう……ね、ねぇ……しっかりして」

「み……さか……カエ……ル先生……のトコに……」

「え?」

「カ……エル先……生の……トコに……」

「あ……うん……分かった、分かったから……もう喋らないで」

「このこ……と……は誰……にも言う……な……」

「喋っちゃダメよ!」

「イイから!!」

『ビクッ!?』

「イイから……誰……にも……言うな」

「で……でも……」

「倒れ……てた……オレを……く……お…お前が……見つけた……」

「な、何を言ってるの?」

「そう……言う……んだ……イイ…な」

「そ、そんなこと……できな「イイな!!!」…い……」

 美琴が放った【雷撃の槍】は【幻想殺し】がその効果を打ち消すほんの一瞬前に上条の全身を襲っていた。
 だが、上条はその【雷撃の槍】を耐えた。鉄橋の時と同じように。しかし……あの時とは体調が違いすぎた。
 満身創痍になりながらも、上条は美琴に今の出来事を隠せと言う。
 美琴はパニックに陥っていて、正しい判断ができない。
 今は上条の気迫に押され、彼の言う通りにしているだけだ。
 そこに渾身の一言である。
 今の美琴に、上条に逆らう術はなかった。

 美琴が呼んだ救急車で上条はカエル顔の医者こと冥土返し(ヘブンキャンセラー)の居る病院に搬送された。
 上条に言われた通り『道端に倒れていた』と事情を説明し、美琴は救急車で病院に同行した。

 病院に搬送された上条は、冥土返しの治療を受け、今はいつもの病室で眠っている。
 美琴は上条に付き添い、ベッドの横にパイプイスを置き、そこに座っている。
 先程、冥土返しに呼ばれ、治療の結果、命に別状はないこと。後遺症の心配もないことを告げられた。ただ、ここ数日まともな食事をしていないことや、体力がかなり落ちていること。体調が万全でないので回復には時間がかかるであろうことも同時に説明を受けた。
 その上で、再度上条を発見した際の状況説明を求められた。最初美琴は上条に言われた通りのことを言おうとしたが、病院に着いた頃よりパニックから抜け出していたこともあって、上条に言われた通りにしている自分に対し自己嫌悪に陥り、結局何も言えなくなってしまった。
 美琴の様子を見ていた冥土返しは事情を察したのか「彼に感謝することだね」とだけ言って、肩をポンと叩くと、部屋を出ていった。

 今、美琴の目の前で上条は寝息を立てている。
 その顔を見ているだけで、美琴は罪悪感に押し潰されそうになっていた。

 いつものことだった。そう、いつもやっていることだった。
 深く考えていなかった。彼なら大丈夫だと思っていた。いや、そんなことすら考えていなかったのかもしれない。
 無視されることもあった。子ども扱いされることもあった。だから、いつも振り向いて欲しくて、自分だけを見て欲しくて、自分の能力を使っていた。彼なら大丈夫だと、受けとめてくれると勝手に思い込み、何も考えずに全力で……。
 それが……こんなコトになるなんて……。

 “最愛”の人を自分の能力でもう少しで殺してしまうかもしれないところだった。自分が唯一自分で居られる居場所を、【常盤台の超電磁砲(レールガン)】ではなく、【御坂美琴】という十四才の少女として自分を見てくれる人を、傷つけてしまった。
 それに、上条の言う通りにしなかったら、自分は犯罪者になっていただろう。上条はあの瞬間にもそこまで考えてくれていたのかも知れない。
 この事実が目の前に迫って来る。あの瞬間の光景が目に焼き付いて離れない。
 逃げ出したい。でも、逃げ出すことはできない。そんなことをすれば、美琴は二度と上条に会うことすらできなくなるだろう。何故かそれだけは理解出来た。その想いだけが、今彼女をこの場に押し留めている。
 もし今、上条が目覚めたら、自分は何と言えばいいのだろう。
 どんな顔をして会えばいいのだろう。
 湧き上がる一つ一つの疑問が彼女をどんどん追い詰めていく。
 自分がしてしまったコトが時間を過ごすほどどんどん重くなってゆく。自分で自分を責めている。自分が自分を押し潰してゆく。
 彼が目覚めた時、自分はどうすれば良いのだろう?
 考えても答えが出るものではなかった。でも、その答えを求めずにはいられなかった。
 だがその答えを見つけることはできなかった。
 今の美琴は、上条の顔を見ながら、ただただ涙を流すしかなかった。

 ふと気がつくと、眠る上条のとなりでベッドに突っ伏している自分に気がついた。
 窓の外は既に暗くなっていた。
 自分は泣き疲れて眠ってしまっていたのか。……とボンヤリとそんなことを考えていた。
 何かが頭の上に乗っているのに気がついた。
 それは上条の右手だった。
 いつものように自分の電撃を止めるように優しく、フワリとその右手が頭の上に乗っていた。
 まるで、泣いている自分を慰めるように。その髪を優しく梳くように……。

 眠っているにもかかわらず、自分を心配してくれるような上条の優しさが美琴は嬉しかった。
 でも同時に申し訳なさが溢れ、自分自身を許す気にはどうしてもなれなかった。
 (私はここに居る資格がない)
 その結論に至ってしまった彼女は、頭の上に乗っている上条の右手をそっとベッドの上に降ろすと、イスから立ち上がり部屋を後にしようとした。

 その時だった。
 上条がゆっくりと起き上がってきた。
 だがそれは、明らかに違和感のある起き上がり方だった。
 どこも力の入っている様子はない。どう見ても寝ている状態のままだ。何より手を支えに使わずに……。なのに上体がゆっくりと起き上がってくる。まるでマリオネットが起き上がるような感じだった。
 そして上条の瞼は閉じられたままだった。閉じられたまま、上条の顔がゆっくりと美琴の方を向いた。
 美琴は何が起きているのか分からず、ただ呆然とその様子を見ているしかなかった。

 上条の瞼がゆっくりと開いてゆく。
 その目が美琴を捉えると、上条は“ニッコリ”と微笑んだ。
 その瞬間に美琴は直感した。
 『違う』と。
 目の前にいるのは間違いなく【上条当麻】本人だ。しかし、今自分の目の前にいる上条は【上条当麻】ではない。明らかに別人だ。その確信が美琴にはあった。

『やれやれ……しかし……困ったものだ。お前さんたちにも……』

「え?……な、何……」

『もう少し自分の気持ちに素直になれば、全ては解決するというのに……』

「な……何を……」

 明らかな“作り笑顔”のまま話し始めた上条に戸惑う美琴だったが、違和感はより大きくなっていた。だが、それ以上に自分の気持ちの核心を突かれ、何も言えなくなってしまう。

『まあ、こちらにも謝らねばならぬコトがあることだし、一応話だけはしておくとするか』

「……あ、アンタ……一体……」

『右手だよ』

「え?」

『私はコイツの右手だ』

「右手って、……まさか……【幻想殺し(イマジンブレーカー)】!?」

『その名で呼ばれるのは好きじゃない……が……仕方ないな……まあ、そういう事だ』

「そんな……信じられない……」

『信じる、信じないは勝手だ。……だが事実だ』

「……そ……そんな……あ……じゃあ……あの……アンタ……じゃなくって……当麻は?……当麻はどうなったの?」

『……フッ、さすがに気になるようだな』

「え……(ボンッ)」

『……分かり易いな……その気持ちを素直に出せば、こんなコトにはならずに済んだのにな』

「~~~~~~~~~~~~~~~(ぅ、うるさい……わよ)」

『ま、今回のことは良い薬にはなっただろ。早く素直になることだ』

「~~~~~~~~~~~~」

『心配することはない。この身体の持ち主には今、とある場所に行って貰っている』

「……とある場所?」

『詳しくは言えんが、私の“力”をも封じることが出来る場所だ。そこであることをして貰っている』

「……ある事って……?」

『これから起こることのための準備だと言っておこうか。これ以上は言えぬ。……さて、本題に入ろうか』

「え?……本題って……?」

『今日のことは……すまなかったな』

「え?……なんで、なんでアンタが謝る訳?」

『お前が放った【雷撃の槍】は、全身に回る前に打ち消そうと思えば打ち消せたんだが……』

「な……なんですって!?」

『ある方からの指示でああいう風にすることにした。そのせいでお前さんは傷ついてしまったからな。だから謝ったんだ』

「じゃ、じゃあ……当麻はこんな風に傷つかずにすんだってコトなの?」

『そういう事になるな』

「……それじゃあ、コレも……今日のことも……アンタが呼び込んだ“不幸”ってコト?」

『オイオイ、私はコイツを“不幸”にしたことはないぞ』

「なっ!?……何言ってんのよ!!アンタが右手にあるから“神様のご加護”まで消してるって……だから、当麻は“不幸体質”なんだって……」

『ああ、それか』

「ああ、それか……って、何を他人事みたいに言ってんのよ!?」

『言い出したのはあの【禁書目録】と呼ばれる銀髪のシスターだろう?……まったく、だから魔術なんてモノに関わってる奴らは……何を勘違いしているのやら。……それに、今日のことは何だかんだ言っても、お前さんにも原因があることだと思うんだがな……』

「うっ……そ、それは……そう……だけど……」

『……やはり……一から説明した方が良さそうだな……さすがに全てを明かすことはできんが……』

「……説明って?」

 【幻想殺し(イマジンブレーカー)】であるという上条が、少し考え込んだ顔をしている。
 普段の上条だったら、絶対にあり得ない顔だ。

『そうだな。今の機会をどう捉えるか。新たな“現実”を生み出すためには、“いつものまま”ではイカンからな。全てはその瞬間の“想い”が決めること。そう……大事なのは今、この子たちの未来を信じること……そして、今自分が出来ることに最善を尽くすこと』

「え?……何を?」

『……コッチのことだ。まあいい、一から説明をさせて貰おうか。……但し、言えぬコトもあるのでそのつもりでな』

「う……うん、分かったわ……」

『……とは言え、何から話せば良いものか……ウーム……』

「……あ、あの……さ……だったら……」

『ん?……何だ?』

「私から……質問しても……イイ?」

『フム……、その方が良いかもな。答えられることとそうでないことも別けやすくなるし……良かろう、まず何が聴きたい?』

「……アンタって……一体何なの?」

『フム、なるほど、さすがに直球勝負だな。そのストレートさをもっと素直にコイツに向かって出せれば……』

「い、いい、いいいいいいいらないコトは言わないでイイから……」

『フフッ……まあいいか。……まずは……私の正体が何なのか……だな?』

「……まさか、“言えない”なんて言うんじゃないでしょうね?」

『能力であろうと、魔術であろうと、【異能の力】とされるモノであれば、触れるだけで打ち消せる摩訶不思議な力。それ自体が能力なのか、魔術なのかすらも分からない。この学園都市最強の【レベル5】の第1位ですら、この力の前には為す術がなかった超希少価値の“力”……それがお前さんたちが【幻想殺し(イマジンブレーカー)】と呼ぶこの上条当麻の右手に宿る“力”のこと……だったな』

「そんな説明、わざわざ要らないわよ……それに……魔術って……なに?」

『まあ、そう言うな。お約束という奴だ。それに魔術は魔術だ。言わば“力”を行使出来ぬ者たちが、その“力”に対抗するために開発した技術。と言ったら理解が出来るかな?……まぁ、本来はどちらも【異能】というか【異端】の力なのだがな……』

「ちょ、ちょっと、魔術ってのが【異端】の力って言うのは分かるけど、能力が【異端】の力……って、どういうコトよ!?』

『オイオイ、それはおかしな話だな?』

「な、何がよ?」

『自分の知らない“魔術”は【異端】だが“能力”は違うってのは、おかしいんじゃないのか?私にとってはどちらも同じように“浄化”すべき対象でしかない』

「え?……“浄化”する対象?」

『そう。どちらも“神の理”から外れた力であることに何ら変わりはない』

「え……“神の理”から外れた……力って……、……そ、そんな……」

『勘違いして貰っては困るが、その力を行使することが“神の理”から外れているのではないぞ。まあ、大概は外れていることの方が多いんだがな。それ以上にその力を生み出すプロセスが“神の理”より外れている。という意味だ。お前さんたちが“神の理”から外れている存在だと言うことでもない』

「“力”を生み出すプロセスが“神の理”から外れている……?」

『お前はこの学園都市に巣くう【闇】の存在を知っているだろう?【暗部】と呼ばれる連中のことだ』

「!!!」

『お前たちが使う能力というその“力”は【暗部】の連中が“神の理”から外れた方法で開発したものだ。木山春生がその事を言っていただろう。『この学園都市は生徒たちの脳を日々開発している』と。そして彼女はその開発の犠牲になった子どもたちを救おうとしていたことも知っているはずだ』

「そ、それは……」

『もう一方の魔術にしたって同じコトだ。“神の理”の解釈をねじ曲げ、異世界の法則を無理矢理こちらの世界で自分たちの都合の良いように行使出来るよう術式を組上げている。この世の法則を歪めているとさえ言える。お前さんたちが使う能力に比べると、魔術は使っている奴がそれを分かっている分タチが悪い』

「……」

「その“神の理”から外れた“力”を“浄化”し、本来のあるべき姿に戻す。それが私の力だ」

「え?」

『この男が『神より貸し与えられし“浄化の力”』それが私だ』

「神様から貸し与えられた……“浄化の力”?」

『ああ、神の手と言っても良い。その中の一つでしか無いがな。神の手はこの星の人間の数よりも多い」

「神様の手……」

『但し、“神の手”とは言っても、人の身に宿る以上、制限がかかるのは仕方がないコトだ。神が使われるのではないのだし、元々人の身には剰るものだ』

「……制限……」

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