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上条さんと美琴のいちゃいちゃSS/一端覧祭大騒動/Part01 - (2011/04/03 (日) 23:19:27) のソース

*一端覧祭大騒動 1
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東京西部を開発して作られた街、学園都市。
人口のおよそ八割を学生で占め、外とは20年以上差があると言われる科学技術を用いて、超能力開発などというものも行っている極めて変わった街だ。
外ではバケツのような清掃ロボットが徘徊し、風力発電のための風車がやたら多くあり、さらに自販機はゲテモノだらけと色々と外とは違っている。
しかしそんな街でも高い壁で区切られた外と同じく、少しずつ昇り始めた太陽の恩恵を受け、穏やかな朝の時間が過ぎていた。

「…………はぁ」

ここはそんな朝日が差し込む常盤台寮の208号室。
その住人のうちの一人、御坂美琴はカエルのパジャマを着たまま枕を抱き締め、重い溜め息をついていた。

「お姉様……こんな良い朝ですのに、そんな溜め息はやめてくださいまし」

「だ、だって……」

そんな美琴をやれやれといった感じで注意するのは同居人の白井黒子。
まだ朝早い時間という事もあってか、髪型はいつものツインテールではなく全て下ろしている。
いつもと違って少し大人っぽく見えるというのは美琴も気付いていたが、何か癪なので口には出さないようにしている。

「大方、例の殿方……上条さんと一端覧祭をまわりたい、という事でしょう?」

「う、うん……」

「それなら電話かメールで約束を取り付ければ良いだけでしょう。
 そんなモジモジ悩んでいなくても……お姉様らしくないですわ」

美琴はまだパジャマのままだが、白井は朝の準備を整えながら会話をしている。
今日は土日でもなければ祝日でもない。学校もあるいたって普通の平日だった。

「そんな簡単にはいかないわよ! それに私ほら……フラれちゃったし」

「お姉様……」

急に少し暗くなった美琴の声に、白井は一旦朝の準備を中断し美琴の方を見る。
美琴は少し俯いて、枕を抱き締める力を強くしていた。
その様子はどこか父親が帰ってこなくて寂しがっている子供のようだ。

そう、御坂美琴はつい最近上条当麻に告白し、そしてフラれていた。


数日前、上条の事で脱け殻のようになってしまった美琴は学校帰りにフラフラと学園都市をさ迷うのが日課になっていた。
そしていつも辿り着くのはあの鉄橋。
自分はこんなにも上条に依存していたのかと我ながら呆れる美琴だったが、それを自嘲できる気力も起きない。
その日はいつも通り鉄橋から川の先……夕焼けに染まる海の方をしばらく眺めていた。そしてもう少ししたら寮へ戻ろう、そう思っていた。
周りの人間はそんな美琴の変化に皆心配していたが、それが上条のいない世界の美琴の『日常』だった。

そしてそれは美琴の『日常』を壊すようにやってきた。
美琴の後ろから聞こえてきた足音……誰のものかなんとなく分かった。
いや、というよりはそうあって欲しいという美琴の願望だったのかもしれない。
だがその後すぐ聞こえてきた声……それは聞き間違えようのないずっと想っていた者のものだった。

「何やってんだよ、お前」

上条当麻だった。
以前に自分を絶望の中から救いだしてくれた時と同じ台詞で現れ、また自分を救ってくれる。
美琴はそれがあまりに嬉しく、思わず泣き出しそうになってしまうのを懸命にこらえる。

しかし対する上条はというと、あの時と比べて心底驚いているようだった。
おそらくこんないつもの美琴を知っているからだろう。
上条はあたふたと「あの時はホントゴメン!」やら「わざわざロシアまで来てくれたっていうのに……」やら謝罪の言葉を並べ始めたが、美琴にはあまり聞こえていなかった。

美琴にはずっと言いたかった言葉があった。

それは「べ、別にたまたまアンタを見つけただけで……」などといういつもの素直になれない言葉ではなく……。
「このバカ!!」などという自分をここまで心配させた事に対する怒りでもない。
上条がいつもトラブルに巻き込まれるのは知っていたが、心のどこかでは最後には帰ってくる、そう思っていた。
しかしそれは間違っていた。上条は本当にギリギリの世界で生きていて、一歩間違えばいなくなってしまう。そう思い知らされた。
だから美琴は絶対に後悔しないように少しだけ自分に素直になることにした。
こうやって学園都市で上条と話す、そんな日常がかけがえのないものなんだと気付いたのだから。

美琴はうっすらと涙を浮かべながら上条を見つめた。
夕日に照らされたその顔は困惑の表情を受けべていたが、目の前にいるのは幻想でも何でもない上条当麻だった。
その事を再認識し、以前までの自分の『日常』が戻ってきた事を感じ、さらに涙が溢れだした。
美琴は止めようのない涙を隠すように少し俯き、そして……。

上条の胸に飛び込み、「愛してる」と一言告げた。

上条は抱きつかれた瞬間は「ぜ、零距離ビリビリだけはご勘弁を!!」などと見当外れなことを言っていたが、その後に続いた美琴の言葉に「……はい??」と固まった。
美琴は上条の胸に顔を埋めたまま状態のまま返事を待っていた。
というのも今の美琴は涙を浮かべている上に顔も真っ赤でとても上条に見せられるものではなかったからだ。
しかし上条が「え~と、ドッキリ成功!の看板はどこかな~」やら「ま、まさか精神系の能力者の仕業か!? そういえば常盤台には心を操るレベル5が……」などと言い始めたのを聞き、そうも言ってられなくなった。
美琴は恥ずかしさをこらえ顔を上げると、上条をじっと見つめて自分は本気だと怒った。
それを聞いた上条はここで一番の驚きの表情を浮かべたが、やがて目を閉じると「う~ん、う~ん」と唸り始め、なにやら必死に考え始めた。
そして返ってきた答えは……。

「えーと、悪い俺お前の事そういう風に考えた事なかったから……」


あぁ、やっぱり。それが美琴の心の反応。美琴はある程度その答えは予想していた。
今までの上条の行動を見れば、こんな言葉が返ってくるのはごく自然なことだろう。
後悔はしていない、してはいないのだが……。
やはりそれを直接言われると、やはりなにか苦いものが心に広がるのを感じた。
それでもそんな上条の申し訳なさそうな顔を見ていると、どこか暖かい気持ちにもなるのが不思議だった。
美琴は上条から離れ、涙をぬぐい

「じゃあこれからアンタを振り向かせていくからヨロシク!!」

と力強く宣言すると、一番の笑顔を見せつけた。
美琴としては諦めるなんて選択肢はまったくない。
それこそレベル1からここまで上り詰めたときのように、目の前に壁があるなら乗り越えればいいのだ。
上条はそんな美琴に圧されながらも「お、おう……」とだけ答えた。
美琴は上条のその中途半端な反応に不満を見せる様子もなく満足げにしていた。

その日の夕焼けに負けないくらい美琴の心は明るく、その表情は綺麗なものだった。


(そうは言ったものの……)

時は戻って朝の常盤台寮。
美琴は朝食のために白井が出ていった後も、部屋でうじうじとしていた。
そろそろ準備を始めなければ遅刻してしまうのだが……。

(冷静なってみると、『そういう風に見た事ない』ってのは大問題よね……。
 振り向かせるとか言っておいて、どんな顔して会えばいいのか分からないってどうなのよ)

美琴はあの告白以来、上条に会っていなかった。
というより美琴が上条の通りそうな道を避けていた。以前までとはまったく逆の行動だ。
しかしこのままではいけない、それは美琴自身が良く分かっていた。

(だ~やっぱりこんなの黒子の言う通り私らしくないわ! とにかく今日アイツを誘う、それでいいわ!!)

美琴はバチン!と一発両頬を叩くと、勢い良く立ち上がり学校の支度を始めた。
良く晴れた穏やかな朝。美琴の勝負の日が始まる。


「またモヤシ!? そうめんといいモヤシといい、やっぱりなんかの魔術の一種!?」

「うるさいうるさい! 上条家の家計簿は火の車なんです!!」

とある学生寮の一室。
そこでは朝っぱらから食卓を巡ってちょっとした騒ぎが起こっていた。
主に文句を言っているのは、白いティーカップのような修道服(安全ピン付き)を着た銀髪碧眼の外国人シスター。
イギリス清教の誇る魔道書図書館、禁書目録(インデックス)だ。
しかし一般的には『美少女』というカテゴリに入るであろう、その良く整った顔立ちは今は不満げにむくれている。

そしてそのシスター相手に軽く涙目になりながら反論しているのがこの部屋の主であるいたって普通のレベル0の高校生上条当麻。
今まさに美琴を悩ませている張本人なのだが、本人もまた悩み多き学生のようだ。

「まったく、インデックスといい御坂といいどうしてこうも上条さんを困らせるんですか!」

「むっ、短髪が何!? ちょっと詳しく聞きたいかも!!」

「だ~なんか変なとこに飛び火したああああ!!」

思わず美琴の名前を出してしまい、さらにややこしい事にしてしまった上条。
もちろんあの事をインデックスに言うつもりはない。
告白なんか他の人に言うべきものではないだろうし、何よりそれでインデックスに丸かじりにされるのは目に見えている。

(そういやあれ以来御坂と会ってねーな……)

実は顔を合わせにくいのは美琴だけではなく、上条も同じだった。
いくら超鈍感男であってもあれだけ真正面から告白されれば意識せざるを得ない。
学校の帰り道もバッタリ出会せたりしたらどうする、今まで通り普通に話せるのか、などと少しそわそわしていたり。
そんな自分に「中学生かよ……」と呆れたりもするが、今までこんなことがなかったのだから仕方ないなどと勝手に結論付けたりもしていた。

「ちょっととうま! 聞いてるの!?」

「えっ、あぁ聞いてるぞ!! いいか、だからモヤシはだな……」

「今はモヤシじゃなくて短髪についてなんだけど!?」

「えぇ……まだ続いてたんですかそれ……」

「だいたいとうまはいつもいつも……」

なおも追及するインデックスに曖昧にはぐらかす上条。
徐々にインデックスの怒りのボルテージが上がっていくのは目に見えていたが、上条としてもあの事を言うつもりはない。
さてこれはどうしたものか、食べ物で釣ろうにも金が……などと困っていると、

ピンポーン!と突然上条家にチャイムの音が鳴り響いた。

「おぉ! 誰か来たみたいだぞインデックス! じゃあこの話はまた今度な!」

「あっ、ちょっととうま!?」

助かったとばかりに上条は学生鞄を掴み、慌てて玄関先まで走っていく。
後ろで「帰ったらじっくり話してもらうんだよ!」などと聞こえてきたような気がしたが、空耳だということで処理した。

(しっかしこんな朝っぱらから誰だ?)

このナイスタイミングにチャイムの主には感謝している上条だが、ふとそんな事を疑問に思った。
こんな朝っぱらからうさんくさい訪問販売なんてものもないだろうし、いつも一人で登校しているので、「一緒に学校いこ!」などと女の子が訪ねてくるなどというステキイベントもない。
そんな事を考えた上条は扉の向こうの未知の存在に多少ワクワクしてきたのだが、

「おーす、カミやん。ちょっと話いいかにゃー?」

そこにいたのは隣人の土御門元春という、なんともひねりのない結果だった。

「なんだ土御門か」

「親友に対して何だとは酷いぜい」

上条はなんだか拍子抜けして溜め息をつくが、土御門はいつも通りヘラヘラしている。
上条と同じく土御門の方も既に制服姿で、アロハシャツの上に直接学ランを着ているのだが、さすがにそろそろ寒いんじゃないかと上条は思っていた。

「それで、一緒に学校いこうってか?
 どうせもう舞夏の手料理を分けてくれるなんてビッグイベントもないだろうし」

「ははは、前にあんな事になってさすがに俺も同じ過ちは犯さないぜよ。
 今日はちょっとした『お仕事』の話だ」

「………………」

「いや~そんなあからさまに嫌な顔をしても向こうは待ってくれないぜい?」

土御門が言う『お仕事』。
わざわざ上条に言ってくるという事はそれはほぼ確実に魔術関連であり、さらに危険な可能性も高い。
大覇星祭の件やフランスの件など、上条は今までの経験からその事を良く分かっていた。

「……で? 今度はどんな魔術師が攻め込んできて世界の危機なんだ?」

「分からない」

「は?」

それでも放っておけないのが上条であったが、土御門のなんとも間抜けな返答に目を丸くして固まる。
二重スパイの情報通である男がこんなにあっさり分からないなどと言うのは珍しかった。

「今回は情報が少なすぎて、向こうの素性も目的もさっぱりなんだにゃー。
 ただ何らかの方法で学園都市に侵入したっぽい……てとこだ」

「おいおいおい! アバウトすぎ!!
 てかいい加減ここも魔術師侵入しすぎだろ! セキュリティはどうなってんだよ!」

インデックスから始まり神の右席まで多種多様な魔術師の侵入を受けてきた学園都市を本気で心配してみる上条。
確かにどの魔術師も一癖も二癖もある者ばかりだったが、インデックスは意図せずに入ってしまった事や、テルノアが「甘い」などと言っていた事からどうしてもここの安全面を疑ってしまう。

「まぁまぁ、なんだかんだこの街とオカルトは対極の位置にあるにゃー。
 だから対策もしにくい……てのがあちらさんの言い分みたいだが、うさんくさいもんだ」

土御門は首を少し動かし、何やら遠くの方を見るようにするが上条には何をしているのか良く分からないようだ。
実は土御門の見ているのは「窓のないビル」なのだが、一般人にはあまり理解することもできないだろう。

「……? まぁとにかくそのお仕事ってのは侵入者の魔術師を探すのを手伝ってくれって事か?
 けどこの右手は人探しにはなんにも役に立たねえだろ」

「いやいや、そうでもないぜい。カミやんはそれの価値を軽く見てるにゃー。
 つまりそれがここに存在している、それだけで十分役に立つって事だ」

「はい? どゆこと?」

「カミやん、あの戦争の裏話ってのはこっちの世界じゃ意外と広まってるんだぜい?
 つまり神の右席のトップがあんな事をしてまで手に入れたかったモノがここにあるって事は……」

「……狙いは俺。つまりエサになれってか」

土御門の言葉を引き継ぎ溜め息混じりに答える上条。
確かに今までの侵入者達を思い出してみても、狙いは俺もしくは禁書目録(インデックス)というのが多かった。
つまりわざわざこちらから探さなくても向こうから勝手に現れる。そこを狙うということだろう。

「……ん、まてまて。それってインデックスのやつも危ないんじゃないか?
 俺アイツ置いて普通に学校なんて行っちゃっていいのかよ?」

「禁書目録はイギリス清教の人間だ。そっちの方で護衛がつきますたい。
 心配すべきはむしろ科学サイドの人間の方ぜよ」

「なっ、そっちの人間にも手を出すつもりかよ!!」

戦争というものは起きてしまったが、これまではそれを回避するために科学と魔術の交戦は避けられていた。
それが今ではこうも変わってしまったのか、と上条は焦りを隠せなかった。

「向こうの狙いはいわゆる『上条サイド』全体にあると見ていいと思うぜい。
 こっちの世界でも今まで以上に危険な存在として警戒さているからな。
 それで、カミやんの周りの科学サイドで力を持っているのは誰かにゃー? 一番に狙われるとしたらそこぜよ」

「そりゃこっちで力を持った知り合いっていったら、レベル5の一方通行や御坂……っておいまさか」

ここで上条は土御門の言わんとする事が予想でき、固まる。
考えてみればそれは十分あり得ることだ。何より『前例』がある。
そしてそんな上条の様子を見て、土御門は珍しく真剣な表情になる。

「一方通行は問題ないだろう。バードウェイから話を聞き、今や魔術にも理解がある。実際に魔術師と戦った経験もあるしな。
 しかし超電磁砲の方はどうだ? 確かに魔術との接触がなかった訳ではないが、本人はその存在をまるで知らない」

「つまり……危ねえのは御坂」

「そうだ。だが彼女に魔術の話をしてこちらの世界に引き込むのは、カミやんとしても避けたいだろう?
 だからカミやん…………一端覧祭は彼女と一緒にいろ」

「…………は??」

土御門の最後の言葉に上条は思わず真剣な顔を崩し、なんとも間抜けな声をあげてしまった。
しかし今まで魔術やら侵入者やらの話をしていて、結論が「女の子と一緒に一端覧祭を回れ」だったらそんな反応も仕方ないのかもしれない。
その一方、相変わらず土御門は真剣な表情なのでなんとも奇妙な空気が漂っているような気がした。

「え、いや、なんでそうなる??」

「恐らく向こうが狙ってくるのは、警戒が一番薄くなる一端覧祭中だ。大覇星祭の時のようにな。
 そしてそんな中彼女と一緒にいて一番違和感がないのはカミやんだ」

「そ、そうかもしれないけどよ……」

「ん? 何か問題でも……ハハーン」

すると上条の動揺に土御門は何かに気付いたらしく、真剣な表情を崩してニヤニヤし始める。
上条はそんな土御門を見てかなり嫌な予感がした。
土御門はプロのスパイで、禁書目録争奪戦、三沢塾、絶対能力進化実験など様々な事件を知る人物だ。
それならばひょっとしたら先日の御坂との一件も既に知っているのではないか……と思ったのだ。

「あれか、常盤台のお嬢様と一端覧祭デートなんてクラスの奴らに知られたら……なんて考えてるのかにゃー?
 まぁそこは諦めるしかないぜよ。大人しく制裁と『中学生に手を出したスゴい人』の称号を受ける事だぜい」

「え、あぁ……ってその心配もあるのかぁぁぁあああああ!!!」

一瞬あの事までは知られていない事にほっと安堵する上条だったが、新たに判明した障害に頭を抱え込む。
そして瞬間的に上条は、一端覧祭後の上条裁判における裁判長の吹寄制理の冷ややかな表情に男共の恨みの視線、姫神の魔法のステッキまで鮮明に想像する。

「……不幸だ」

「まぁまぁ、女の子のために体張るのは男の役目だぜい?
 わざわざ遠回りして説明したんだから、『嫌です』は通用しないのは分かってるだろ?」

「はいはい……この上条、姫を守るためにその身も削る覚悟ですよっと……」

「その息だにゃー!」

上手く話をつけられた土御門に、問題山積み状態な上条。
学校へ行こうとエレベーターに向かうその足取りは対照的なものだった。


太陽も高く昇ったお昼頃。
学園都市にしては珍しく既に多くの学生が街に繰り出している。そして木材などを持っている者が多い。
今は戦争関係で延期になった一端覧祭の準備期間だった。

「はぁ……やはりこれは念動力者(テレキネシスト)の方が適任でしょう……」

そんな昼間から学生で賑わう大通りで大能力者(レベル4)の空間移動能力者(テレポーター)、白井黒子は一人ぼやいた。
その両手は様々な木材やら工具やら入った大きめの袋で塞がれており、疲労によりその端正な顔立ちも歪んでいる。
学園都市の有名校、通称「五本指」の内の一角である常盤台中学もまた、これから始まる一端覧祭の準備に追われていた。

(さすがに疲れましたわ……ちょっと休憩しましょう)

白井は近場にあったベンチに腰かけると、袋を脇に置く。
そして高級そうなハンカチを取り出すと、額の汗を拭い始めた。
こんな普通の動作でもどこか上品に見える所はやはり常盤台生といった感じか。

常盤台は強能力者(レベル3)以上から成る高位能力者達の集まりだ。
買い出し一つにしても、いくらでも効率良く済ませる事ができる能力者はいるのだが、任されたのはテレポーターの白井だった。
その理由としてはやはり、重いものを持っていても高速で移動できる事にあった。
白井の連続テレポートはタイムラグ込みにしても、時速200kmを超える……だが。

(さすがにこんなに何度も連続テレポートしていると堪えますわ……)

買い出しも一回では済まなく、白井はもう何回も第七学区中の店と学校を往復していた。
そして疲れというのも、走った後に直接肉体にくるものではなく、頭からくるものだ。
11次元を扱うテレポートは、普通の能力よりも演算付加が大きく、外部からのちょっとした衝撃により演算不能にもなってしまうデリケートなものである。
試験勉強などで長時間集中した後の疲れ……そんなものに似ていた。

(というか仮にもそこそこ名の知れた学校のはずですのに、何でテレポーターがわたくししかいないんですの)

他に同じテレポーターがいれば白井の負担も減るだろう。
しかし超能力者(レベル5)を二人も抱える常盤台であっても、テレポーターは白井黒子ただ一人。
まぁ学園都市に58人しかいない珍しい能力なので、どちらかというとポピュラーな能力を伸ばす常盤台タイプではないのだが……。
白井本人は別にそれを誇りとも思っていなく、むしろ能力について話す相手がいないと不便に思っていた。
9月には珍しく同系統の能力者とも会う機会があったのだが、危うく殺されかけた事からあまり良い相談相手にはならなそうだ。

(それにしてもさすが第七学区。人の数が凄いですの)

ふと顔を上げて道行く人々の顔を眺め始める白井。
去年までは第十三学区の小学校に通っていたので、ここまで多くの学生が街に出ている光景はまだ珍しいものがあった。
制服もそれぞれ違ったものばかりで、存在する学校の数も相当のものだという事が分かる。
そして白井本人はあまり気付いていないようだが、その中でも常盤台の制服というものは目立つらしく、チラチラと白井を見ている者も多かった。

(お姉様……ちゃんと上条さんをお誘いになれたのでしょうか)

道行く人の中に学生カップルらしき者達が目につき、ふとそんな事を考える白井。
朝の美琴の様子はまさに乙女といった感じで、そこらの男なら即落ちてしまう、そう思うほどだった。
以前までの白井ならそんな美琴のそんな様子を見ようものなら、ハンカチを噛みちぎり、上条への恨み辛みを延々と口にしていただろう。
しかし今はそんな事もない。

あの戦争が終結してから美琴は目に見えて生気を失っていた。
白井がどうしたのかと尋ねても、ただ首を振るだけ。
それでもしつこく問い質した結果、原因は上条の不在である事。そして美琴が心に秘めた想い。それを知る事ができた。
美琴の上条に対する想いは以前からうっすらとだが気付いていた。
しかしいつかそれを美琴本人の口から告げられた時、自分はどんな行動をとってしまうのか白井は少し不安にも思っていた。
だが実際は、意外にも冷静に相槌を打っている自分がいた。

いや実は心の内では上条に対する怒りが渦巻いていた。
しかしそれは美琴を取られたという嫉妬からくるものではなく、こんなにまで美琴を悲しませた事に対するものだった。
白井は改めてハッキリと、自分は御坂美琴の事が大好きなんだと知る事ができた。
だからこそ美琴が想いを寄せる上条にはその隣に立っていて欲しい……つまりはそういう事だった。

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