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上条さんと美琴のいちゃいちゃSS/一端覧祭大騒動/Part02 - (2011/04/03 (日) 23:21:17) のソース

*一端覧祭大騒動 2
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「うだー。ジャンケンなんてこの世から滅びちまえばいいんだー」

同じ頃の第七学区。
どよーんとした目をしながら、そんな事を天に向かって呟くのは超絶不幸少年上条当麻だった。
その手には大量の袋がぶら下がっており、歩く度にガチャガチャという、いかにも重いですよとアピールしているような音が鳴っている。
そう、上条のクラスではあくまで『公平』にジャンケンで買い出し役を決めた結果、『偶然』にもこの少年が当選したのだった。

そして朝からいつも以上の不幸の連続で半ばヤケクソ気味になっている上条の目にふと飛び込んできたのは、足元に転がった一つのスチール缶。
上条は立ち止まると、まるで魚の死んだような目をしてその缶をじっと見つめ、終いには「ふふふふふふふふふ」と怪しく笑い始める。
周りを歩く学生達はそんな上条にドン引き状態だったが、そんなものは今の上条の目には入らない。

(オーケー、オーケー。大量の荷物にスチール缶、このシチュエーションは経験済みだ。
 つまりアレだろ、前みたいに缶を避けようとすればまた風で転がって……って事だろ?
 まったく、あまく見られたもんだ……俺が同じ過ちを犯すと思うかぁぁぁあああああああ!!!)

すると上条は完全勝利の表情を浮かべると、足を大きく上げて力強くそのスチール缶目掛けて踏み出した。
…………当然と言うべきか、缶は動かなかった。その結果、上条は本当にキレイに缶に足を取られていた。

「ですよねええええええ!!!!!」

なんとも間抜けな断末魔と共に後ろへ倒れ込んでいく上条。
もう既に頭の中では袋の中身が盛大に散らばるところまで想像できており、袋の口を縛っておかなかった自分を恨んでいたのだが……。

「……ってあれ?」

背中が地面にぶつかる痛みもなければ、ガッチャーン!という物が散乱する音も聞こえない。
気付けば上条はごく普通の木製のベンチに座っていた。

「へっ、ベンチ?? こんなとこに?? なんで??」

倒れる瞬間に都合良くベンチが現れるなんてそうそうある事ではない。特に上条の場合は。
しかし現実にベンチはあった。
上条の危機を救って、どうだと言わんばかりに堂々と存在していた。

「まったく……あなたは何をやっていますの?」

その時、すぐ隣から聞こえた声に上条は思わずビクッと肩を震わせる。
そしてバッと勢い良くそちらを向いた時、全ての謎は解けた。

そこにいたのは大能力者(レベル4)の空間移動能力者(テレポーター)、白井黒子だった。


「いやーそれにしても助かったぜ、サンキューな」

「構いませんわ。それにあんな所で荷物をばらまくのも周りの迷惑になりますので」

数分後、ベンチは元の場所に戻され、上条と白井はそこに並んで座っていた。
ちなみに二人の間にはお互いの荷物が置いてあり、どこか距離感がある。
しかしそれでも美琴やインデックスがこんな光景を見たら、たちまち不機嫌にもなりそうだが。

「それにしてもそんな大量の買い出し、なぜ念動力者ではなくあなたがやっていますの?
 無能力者では効率が悪いでしょう」

「あのな、どの学校も常盤台みてーにレベル3以上ばっかってわけじゃねーの。
 こんな大荷物をどうにか出来る念動力者なんてのはウチの学校じゃ珍しいし、そういう奴は学校でもっと重要な仕事やってんだよ」

「あぁ、そういうことですの」

上条の高校は常盤台なんていう有名校とは違い、いたって平凡な学校だ。
そんな普通の学校にはレベル3なんていう優等生は少なく、学校トップである事も多い。
それだけレベル4、レベル5なんていうものは別次元の存在なのだ。

「あ~ところで……さ。えっと、御坂はやっぱまだ一端覧祭の準備か?」

「えぇ、おそらくそうでしょう。
 二年生の方々も確かまだ準備に追われていたと思いますわ」

「そ、そっかそっか。ならいいんだ、うん」

「?? 何をそんなに挙動不審になっていますの?
 お姉様にどういったご用件で?」

上条の態度に白井は不審そうに眉をひそめて尋ねる。
対する上条はどう答えようか悩んでいた。
今までの白井の行動から考えても、真正直に御坂を誘うなどと言えば鉄矢が飛んできてもおかしくない。
かといって細かい事情を説明しようにも、魔術なんてものの事を話すわけにはいかないし、事を大きくもしたくない。

(適当な事言って誤魔化そうにも相手は白井。たぶん上手くいかないだろうな……。あーもうしょうがねえ!)

「え~とだな、一端覧祭を一緒にまわって欲しいんです、はい」

「…………それでフった手前、なかなか話し出しづらいと」

「あ~やっぱりあれってフった事になるのか……そうだよな……。
 ……って、え!? 白井お前何故それを!?」

申し訳なさそうにガシガシと頭をかいていた上条だったが、白井の思わぬ言葉に硬直する。
白井の方はなんともいえない表情……いやどちらかというと呆れているような表情を浮かべていた。
そして白井は小さく溜め息をつき、口を開く。

「もう既にお姉様から聞いていますわ。
 ですが今はその話よりも……って何をやっていますの?」

今度こそ呆れ果てた声をだす白井。
そんな白井の目の前には両腕で頭をかばって縮こまっている上条の姿があった。

「い、いやきっと鉄矢やらドロップキックやらが飛んでくるかと……」

「……はぁ。そんな事しませんわ。
 むしろあなたが中途半端な気持ちで告白を受けたりなんかしてたらやっていましたの」

白井はかなり大袈裟に溜め息をつくと、やれやれと頭を小さく振る。
そして上条はそんな白井に驚き、目を見開いて顔を上げる。
今までの白井の行動から見ても、上条の返事云々以前に、美琴が上条に告白した。その事実だけで嫉妬による怒りに身をまかせて襲いかかってくると思っていたからだ。

「えーと、御坂が俺に告白したって事に対しては何もなし……?」

「まぁ妬いていないと言えば嘘になりますわね。でもお姉様の笑顔のためならばそれくらい我慢する事に決めましたの。
 それにお姉様が誰を想っていようとも、黒子がお姉様を想い続ける事は変わりませんので」

「そ、そうか……」

上条はこの目の前の中学一年生の大人ぶりに内心舌を巻いていた。
自分がこのくらいの時は絶対にこんな考え方はできないし、それは他の大多数と比べてもそうだろう。
そして目の前の少女にここまで言わせるのは、やはりそれだけ美琴の人格にそれだけ惹かれるものがあるということだ。

(そんなやつが何で俺なんか選ぶのかねえ……)

途端に美琴を尊敬する者達に申し訳なく思ってしまう上条。
相手はレベル5のお嬢様で、後輩にここまで尊敬されているほどの人望もある凄いヤツ。
一方こちらは万年レベル0の上に勉強までダメで補習常習者の典型的落ちこぼれ。クラスの奴等とは上手くいっているが、それもただバカやって騒いでいるだけだ。
そんな二人が仮にいくとこまでいったとしても、その一生を出来る女に支えられていく惨めな光景が浮かび上がる。

「それで……なぜ急にお姉様をお誘いすることにしましたの?」

「え、あ~それはだな……」

突然の白井の声に現実に引き戻された上条は、こんどこそ言いづらいところを突かれ言葉を濁す。
考えてみれば『そういう風に見た事ない』とまで言った相手をわざわざ期待させるてからかっているようにも思える。
上条はそんな誤解だけは避けたい、と口を開き始めるが……。

「べ、別に御坂をからかっている訳じゃねえんだ!
 ただそのなんつーか、色々と複雑な事情がありまして……」

「………………」

やはりどうしても曖昧な言い方をしてしまう上条。
対する白井はまさに無表情といった感じでじっと相手の顔を見つめていた。
そんな白井に恐怖を覚えた上条は、こんどこそ鉄矢が飛んでくると思っていたが、

「……まぁいいですの。言いづらいようですし深くは聞きませんわ」

「え、それでいいの??」

「なんですの? ここから根掘り葉掘り追求されて答えなければ攻撃開始。そんなものをお望みですの?」

「い、いやいやいや! 上条さん決してそのようなドM人間ではありませんのことよ!?」

案外あっさりと引いてくれたことにまたもや驚く上条。
ここまで前の印象と違うと、もはや別人のようにも思えてくる。

「これでも少しは信用していますのよ。
 仮にもお姉様のお選びになられた男性なのですから、わざわざお姉様を悲しませるような事をしようとはしないだろうと」

「あぁ、そんな事は絶対にしない。それは約束する」

そこはハッキリと力強く宣言する上条。
何か買い被られ過ぎている感じもしたが、美琴を悲しませるようなことはしない。それだけは堂々と言うことが出来る。
そしてそれを聞いた白井は口元を緩め、小さく頷く。

「あなたからのお誘いならばお姉様は必ずお喜びになりますわ。
 早くお誘いになってくださいな」

「そっか、それならいいんだけどな」

「……ではわたくしはそろそろ失礼しますわ」

一通り話したいことは話したのか、白井は再び荷物を持ってベンチから腰を上げる。
一瞬再び両腕にかかったその重さに少し顔をしかめる白井だったが、気を取り直して常盤台の方向へ体を向ける。
だがそこでふと何かを思い出したように動きを止めると、クルリと振り返って再び上条の方を向いた。
上条の方はまだベンチに座っている状態のままだったので、白井が見下ろす形になる。

「そうそう、言い忘れていましたが、あなたももう『御坂美琴の周りの世界』の一員なのですよ? ですからそれを守ると言うならば少しはご自分の事も大事になさってくださいな。
 まぁ人の為に後先考えずに突っ込むあなたですし、きっとお姉様もあなたのそういった所もお好きなんでしょうから強くは言えませんが」

「あ~善処します……」

「それに一応わたくしもあなたには命を救われた身。
 お姉様を抜きにしてもほんの少しは心配しているかもしれませんわよ?」

「ははは、そりゃどうも」

白井は最後に不敵に笑ってそんな事を言うと、今度こそヒュンという音と共にお得意のテレポートで上条の前から姿を消してしまった。
残された上条はしばらくぼーっと白井がいた所を眺めていたが、「よしっ」と小さく呟くとポケットから携帯電話を取り出した。
そのまま開いてカチカチと手早く操作する上条。
画面にはアドレス帳から呼び出した御坂美琴の連絡先が浮かび上がっていた。


大分日も落ちてきた第七学区。
昼間は多くの学生で賑わっていたが、完全下校時刻も近くなった今では道行く人達も少なくなっている。
そんな中、とある自販機前で一人の女子生徒が特に何も買うこともせずに、ただ立ち止まっているのはそれなりに変わった光景だった。
しかもその服装はベージュのブレザーに紺系のチェック柄スカート。どこにいても気品爆発な常盤台中学の制服なのだからなおさらである。
しかし当の本人はそんな事に気を止めている余裕はないらしく、なにやら真っ赤な顔をしてブツブツと延々と独り言を呟いていた。

「どどどうしよう、そろそろ来るわよね……! ま、まったくこんな時間に何の話かしら!! ま、まぁ私にも話はあるんだけども!!」

そわそわと時計を見ながら手をモジモジと絡ませる常盤台のエース、御坂美琴。
時計を見るのもこれで何度目かもわからない程だった。確か最初見たときは長針は今と同じぐらいの位置だったが、短針が一つ前の数字を指していた気がする。
昼間に突然の上条からのメールが来た時、美琴はその他大勢の生徒と一緒に学校で一端覧祭の準備中だった。
やはりというべきか、上条の着信音は特別なものにしてあるのだが、作業中はマナーモードに設定していた。
その結果、「黒子あたりからかな~」などと開いた美琴はその送り主を見て思わず「ふにゃ!?」などと可愛らしい声をあげ、周りの生徒に驚かれたのだがこれはまだいい方だった。
次に震える指先でそのメールの中身を開いたとき、ついに美琴はプルプル震えて真っ赤になった上に漏電し、割と大騒ぎになってしまったのだった。

「そそそれにしても急にあんなメール……私にもこ、心の準備ってもんが……!!」

上条が送ったメールは『話があるから会いたい。放課後に例の自販機前とか大丈夫か?』といったものだった。
これは上条の書き方にも問題があったのかもしれないが、それにしても美琴には効果抜群だった。
ちなみに上条にはそのままメールで誘うという方法もあったはずだが、それは土御門の「そういう事は直接言わないとダメにゃー」という言葉により選択肢から消えていた。

「え、えっと……アイツが来たらなんて話だそう……。
 私のキャラ的には『遅い! どんだけ待たせんのよ!!』……とか?
 ダ、ダメよ! そんなんじゃいつまで経っても今までの関係のままじゃない!」

なおも真っ赤な顔のままブツブツとそんな事を呟き続ける美琴。
幸い人通りは少ないのだが、こんな姿を知り合いに……特に佐天あたりにでも見られでもしたら、そのネタで一月はからかわれることだろう。
だが今の美琴にそんな事を考えられる余裕なんてなかった。
レベル5のハイスペックな頭脳は既に稼働率100%で、その全てを上条の事に使っていた。

「じゃあ普通に『話って何かな……当麻』で!!
 ……む、無理!! 私アイツを直接名前で呼んだ事ないじゃない!!!」

上条を名前で呼んだ事がない事に気付いたのは少し前の事だった。
美琴はそれからどうするかはずいぶん悩んだ。
呼び方はより距離を縮めるためにも下の名前にするとすぐ決めたのだが、問題はシチュエーションだった。
出会ってまもないのならまだしも、なんだかんだ半年近い付き合いになる。
それまでずっと『アンタ』やら『この馬鹿』などと呼んできたので、いきなり下の名前で呼び捨てにするのはなんだが気まずいのだった。

「れ、練習よ練習! えーと、アイツが目の前にいると想像して……」

そう言って目を閉じる美琴。
そしてレベル5の強力な自分だけの現実(パーソナルリアリティ)を構築しているその想像力で、鮮明な上条の像を浮かび上がらせる。
だがその鮮明さが美琴を追い詰める。

「え、えっと! と、とととと……とう……」

「何やってんだお前?」

「みゃあ!!!!!!」

想像ではない、現実での突然の上条の声に奇妙な声を上げる美琴。
真っ赤な顔をして振り返れば、やはりそこにいたのはさっきまで頭の中に作り上げていた上条当麻、その人だった。
どうやら美琴の反応に相当驚いたらしく目を丸くして固まっている。

「わ、悪い。そんな驚かせるつもりはなかったんだけどよ……」

「べ、別にいいわよ! 私が勝手に驚いただけだし!!
 それより話って何よ!! …………あ」

今や恥ずかしさのあまりリンゴのように真っ赤になっている美琴だが、勢いで言った自分の言葉に固まる。
さんざんシミュレーションしたのにも関わらず、結局今まで通りの言い方になってしまったからだ。

「あ、あぁ。話ってのはな……」

「ちょ、ちょっと待って!! 今のナシ!!」

「はい??」

慌てて遮る美琴にキョトンとする上条。
しかし美琴はそんな上条などお構いなしに何度も深呼吸すると、キッと何故かキツい目付きで上条を見つめる。
そんな目付きに思わず上条は一歩後ろに下がってしまうのだが、美琴にそんな事を気にする余裕はない。

「え、えっと、話って何かな……と、ととととう……と、とう……まぁ」

「…………えーとそんなに呼びづらいなら別に無理して名前で呼ばなくても……」

「そ、そんな事ないわよ!! とうまとうま当麻当麻!!!」

「分かった分かった! だからあんまり人の名前連呼すんなって!!」

もはや勢いだけで名前を呼びまくる美琴に慌て始める上条。
実は本人が意識しているわけではないのだが、今の美琴は涙目に上目使いという、男なら誰しもが思わず怯んでしまう状態だった。
そんな状態で名前を連呼され、さすがの上条もたじろぐしかなかったのだ。

「それで話っていうのは何……?
 あ、私にもと、当麻に話したい事あるから、なんなら私からでも……」

「あ~いやいや今言うって。
 えっとだな……その一緒に一端覧祭まわらないかっていう話なんだけど……」

「…………え?」

美琴は上条のその言葉を聞いた瞬間、周りの全てが停止したような感覚を覚えた。
これは夢、もしくは自分の妄想だとも思った。それだけ上条の言葉は現実味がないものだった。

「…………えっと、もう一回言って?」

「あ~一端覧祭を一緒にまわらねえか?
 まぁもう他に友達とかと約束があるならそれでも……ってうおっ!?」

頭をかきながら上条は歯切れの悪い言葉を並べていたが、急に中断された。
美琴が自分の胸に飛び込んできたからだ。

「え~と、御坂さん?」

「誘ってくれてありがと。凄く嬉しい」

「う、嬉しい?」

「好きな人が相手なんだから当たり前でしょ」

そう言って美琴はギュッと抱き締める力を強める。
その顔はやはり真っ赤だったが、嬉しさのあまり緩みきっている。
一方上条はあたふたしながら、周りに誰もいないかを確認していた。

「な、なんか、キャラ変わってねーか?」

「前のままじゃいつまでも私の事、女の子として見てくれないじゃない。
 それより……さ。当麻にもその……ギュッってしてもらいたいな……」

「いっ!?」

美琴は上条の胸から頭を離し、じっと見つめる。その体勢の関係でやはり上目使いだ。
それにより上条は思わず少しのけ反ってしまうのだが、美琴はそんなのはお構いなしである。
少しの間、二人の間にはなんとも言えない微妙な雰囲気が漂っていたが、やがて上条はその空いた両腕を微かに動かし始めた。

「…………み、御坂!!」

「ふぇ!?」

しかし上条のその両腕は、美琴を抱き締める事なく両肩を掴んでいた。
それにビックリした美琴は思わず声をあげ、目を丸くして上条の顔を見つめる。

「た、たぶんお前何か勘違いしてんだよ!ほら御坂ってまだ中学生だし、まだ恋愛とかよく分かんねーだろ?
 お前ってやたら貸し借りとか気にするやつだし、今までの事もあってそういうのを恋かなんかと思い込んでるんだって!」

「………………」

「それにさ! お前もお嬢様だし、まだ男をそんなに見てきてないだろ!
 ちゃんと探せば俺なんかより良い男なんていくらでもいるし、わざわざこんなレベル0の馬鹿高校生選ばなくても……って何かバチバチいってますよ!?」

「もういいわ」

上条の言葉を聞いた美琴はそれだけ言うと、静かに上条から離れた。
もう辺りは大分暗くなっているので、美琴が纏っている青白い電気が良く見える。
上条はそんな美琴の様子にビクビクしていたが、そんな事は気にならないほど美琴は怒っていた。
その怒りはいつもの無視された時以上のもので、漂う電気量もかなり多い。上条の前でここまで強烈な電気を纏ったのは、おそらくあの鉄橋の一件以来だろう。
そしてそんな絶賛大激怒中の美琴がバチバチと電気を帯びる腕をゆっくりと上げると、上条はその防衛反応ですぐさま右手を構える。

「それなら私がどんだけアンタの事が好きなのか分からせてやるわ!!」

「…………は、はい!?」

強烈な電撃が飛んでくると思っていた上条だったが、変わりに飛んできた美琴の言葉に思わず間抜けな声を上げる。
一方美琴は怒りの表情のままその腕でビシッと上条を指し示していた。
いつの間にか口調もいつも通りに戻っており、呼び方も『当麻』から『アンタ』に戻っていた。

「そうね、そうよね! 私が甘かったわ!!
 アンタ相手だとまずそこから始めないといけなかったのね!!」

「ま、待て待て! お前何でそんなに怒って……」

「じゃあとりあえず一端覧祭中はアンタの腕から離れないから!
 それに事あるごとに抱きつくし、隙あらばキスして舌も入れるけどいいわよね!?」

「おい!!!! お前は俺を社会的に抹殺する気ですか!?」

「うっさいわよ!! アンタが悪いんだから、覚悟しておきなさい!!」

そこまで言った美琴はフン!と背を向けると、肩を怒らせてそのまま歩き去っていく。
一方上条はというと、あまりにも強烈すぎる美琴の宣言に口をパクパクさせて呆然としており、いつもの「不幸だああああ」という台詞も出てこないでいた。

だが少し歩いた後、美琴は急に足を止めて再び上条の方を向いた。

「あ、そうそう、言い忘れてたけど」

「まだ何か!?」

もはや美琴の一言一言に恐怖を覚えていた上条は、軽く涙目になりながら尋ねる。
しかしそんな上条と対照的に、振り返った美琴は怒りの表情から満面の笑みに変わっていた。

「一端覧祭デート、楽しみにしてるから!」


一方同じ頃、第七学区のとあるビルにおいて男にも女にも、子供にも老人にも、囚人にも聖人にも見える者はいつも通り静かに弱アルカリ性培養液の中に逆さまになって浮かんでいた。
学園都市統括理事長、アレイスター=クロウリー。
しかしその者は一つ、普段とは違ったものを見せていた。口元が小さく緩んでいたのだ。

「………………」

その逆さまの視界にあるのは一つのモニター。
学園都市に5000万機ほどばらまかれているナノデバイス、滞空回線(アンダーライン)から得た映像だ。
そしてそこに写っているものは、一方通行や浜面仕上などという『プラン』に影響を与えるものの情報でもなければ、先程の上条と美琴の微笑ましい光景でもない。
それは様々な最先端科学が集まる学園都市において、一際目立つ奇妙なものだった。

「なるほど、なるほど。『Mixcoatl』……か」

ピッ、ピッという電子音とコポコポという培養液が循環する音だけが支配する奇妙な世界に、どこか楽しげな声が響き渡った。


そういった様々な想いが交差する一端覧祭。
そんな学園都市でもいくつもない大イベントは数日後にまで迫っていた。

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