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上条さんと美琴のいちゃいちゃSS/2スレ目短編/196 - (2010/03/13 (土) 15:03:52) のソース
*とある二人の教育実習(キンダーガーテン) #asciiart(){{{ 「おーす御坂。珍しいな、こんな朝っぱらから」 上条当麻は自分の少し前を行く、見慣れた後ろ姿に向かって声をかけた。 早朝の憂鬱な道のりに道連れができたと喜び、上条は駆け寄る。 「あん? ……ああ、おはよう。アンタは朝から元気ね」 若干不機嫌気味に、声をかけられた御坂美琴が答える。 いつもより美琴のテンションが低いのは、朝食を抜いたとか上条に逢えた事への照れ隠しなどではなく、単に今日の都合が自分の意に染まぬ物であるからだ。 「いやー、これからちっと面倒な用事で出かけるんだけど、てくてく歩いていくのもつまんねーと思ってたらお前の姿見かけたからさ。平日の朝からこんなところで会うなんて奇遇だな」 「そういえばそうね。何? アンタもこっち方向に用事があんの?」 美琴は努めて平静を装い、人差し指で自分の前方を指し示す。 「ああ。だから方向が同じなら途中まで一緒に行かねえか?」 「え? ええ。いいわよ。私も一人でつまんなかったところだし」 上条は歩く速度を美琴のそれに合わせ、肩を並べる。 「しっかし、一端覧祭の振替休日とはいえ貴重な休みをつぶさなきゃいけなくて不幸だと思ってたけど、御坂に会えてちっと不幸が減ったな。旅は道連れ世は情けだ」 「あ、ああ、そう。それはよかったわね。アンタの不幸指数が下がって」 二人はその後雑談に興じるが、信号を渡っても歩道橋を降りても角を曲がって道が分かれる様子はない。 「……なあ御坂。こんな朝早くからお前はどこに行くつもりなんだ?」 「そう言うアンタこそ、どこへ行こうってのよ」 上条はとある施設の前で足を止め、看板を指差す。 「ここなんだけど」 「……、へ、へぇ、本当に奇遇ね。私もここに用があんのよ」 その施設の名は。 ――さくら幼稚園、という。 「上条当麻さんと、御坂美琴さんね。お話は聞いています。今日一日よろしくお願いしますね」 上条と美琴の前で、眼鏡をかけたポニーテールの先生が軽く頭を下げる。 先生は上条に青の、美琴にピンクのエプロンを渡すと『そこの隅で着替えてくださいな』と職員室の一角へ誘導した。 「お、おい。お前何しにここに来たんだ?」 学ランの代わりに羽織ったスタジアムジャンパーを脱ぎながら、上条が尋ねる。 「そ、そう言うアンタこそこんなところで何やってんのよ。ま、まさかアンタ、とうとうロリコンに走って……?」 エプロンに腕を通しながら顔を青ざめさせる美琴に 「ちっ、違えーよ! 俺はな――」 上条が今日ここへ来た事情。 それは欠席や遅刻が続き、とうとう補習や追試をフルに使っても単位の埋め合わせができなくなったため『上条当麻は欠席がちだが地域社会に貢献する好青年』というアピールで下駄を履かせて進級への温情を与えようという、高校側の苦肉の策によるものだった。だったら振替休日も補習に当てればいいじゃないかと思うところだが、あいにくこの期間を使って一端覧祭で運び込まれた機材や資材類を搬出するため、現在は校内への立ち入りが禁止されている。 「穴埋めの利かない記憶術(かいはつ)に補習の時間を振り分けると、追試で何とかなる他の教科の分が間に合わねえんだと。んでその辺を大目に見てもらうために『上条当麻イメージ向上大作戦』として、こうやってボランティアに勤しんでるわけだ。今日はここで一日先生をやるんだよ。そう言う御坂は?」 「へっ? わっ、私? 私もそう、ボランティアよボランティア。地域社会に貢献しましょうって奴? アンタと同じ一日先生よ」 「へえ……。お前は俺みたいに単位が足りない、って言うのと違うみたいだしな。積極的にこういう事に参加するなんて、お前良いとこあるじゃないか」 すごいなお前見直したよ、と上条は美琴の意外な一面を見て笑顔になる。 その実、美琴は美琴で (ま、まずい。まさか寮則違反の累積で一日勤労奉仕をする事になりましたなんて言えないじゃない) 常盤台中学の範たるべきエースは度重なる寮則違反で寮内清掃や校内清掃を繰り返していたが、さすがにこれ以上人目につく罰則を与えるのは常盤台のイメージを著しく損ねると、学校側は美琴に『あくまでも自主的に』ボランティアに参加するよう命じた。美琴は休日を取り上げられ、学校側としてもボランティアに参加する美琴の姿を『常盤台中学の学生の嗜み』として前面に押し出せると、まさに一石二鳥の懲罰だ。ちなみに美琴と同室で同類で同罪の白井黒子は『風紀委員の活動』があるためひとまずのお目こぼしをもらっている。 「はは、ははは、ははは……。きょ、今日一日、お互い頑張りましょ……ははは」 上条の純粋な尊敬のまなざしに耐えきれず、常盤台中学のエースは泣きたい気分を押し殺して引きつった笑みを返した。 一時間目は『おうたの時間』だ。 「はーいみなさん注目してください。今日は、当麻先生と美琴先生がみんなのクラスに来てくれました。今日一日、仲良く遊んでくださいね」 「「「「「はーい!!」」」」」 二〇人ほどの園児達を目の前に、上条と美琴は声を合わせて『よろしくお願いします』と挨拶する。二人の胸にはそれぞれ「とうま」「みこと」と書かれたチューリップ型の名札がつけられている。 「それでは、私は事務仕事が残っていますのでお願いしますね」 ポニーテールの先生は二人に後を任せると教室を出て行った。 「ねーせんせいおうたおうたー」 ポニーテールの先生が姿を消すと、園児達が一斉に二人を取り囲む。新人先生が珍しくてしょうがないのだろう。興味深そうにエプロンを引っ張ったり、中には上条の体によじ登ろうとする猛者もいる。 「な、なあ御坂。おうたの時間って何やるんだ?」 「そこにオルガンがあるから、それを弾いて子供達と一緒に歌うのよ」 「俺オルガンなんて弾けねーんだけど」 「私も弾いた事ないけど、たぶんピアノと同じでしょ」 美琴はオルガンの前に置いてあった椅子を引いて座り、オルガンの蓋を開ける。鍵盤を二、三本軽く指で押し 「ちょっと音が狂ってるけど、何とかなるわね」 近くに差しかけられていた楽譜を広げた。 「……、すげーなお嬢様。お前何でもできんじゃねーの?」 「私にだってできない事もあるわよ」 美琴が苦笑する。 「ハープやバスドラムはやったことないもの」 それ以外ならできるのかとツッコミたくなるのを上条は喉元で押さえる。 「とにかく、子供達も待ってるし始めましょ。それじゃみんなー、元気に『チューリップ』歌いましょー!」 園児を意識してか美琴は先生っぽい口調で促し、オルガンを弾く。メロディに合わせて園児達の最大音量によるソプラノと美琴のメゾソプラノが和し、ハーモニーを生み出す。 (そういやコイツの歌って初めて聞くけど、これだけの人数にかき消されないし結構良く通るじゃねーか。天使の歌声、とまでは行かないけど何て言うかこう……癒される? いやいや、チューリップで癒されるとか何考えてんだよ俺) 「? ほらぼけーっとしてないでアンタも歌うの」 上条の視線に気づいた美琴が『アンタ何やってんの?』と首をかしげる。伴奏と歌に気を回している分上条の様子には気づいていないならしい。 「とうませんせー、いっしょにうたってうたってー」 上条は子供達に頷くと、その声に合わせてたどたどしく歌い始めた。 二時間目はお絵かき、間に昼食を挟んで午後は保育の時間だ。 保育と言っても『お外で元気に遊びましょう』という、いわば自由活動時間に当たる。 教室でおとなしくしている事に飽きた園児達は一斉に敷地に飛び出し、めいめいがクライミングウォールや砂場を占拠するべく走っていく。子供ってのはつくづくパワフルだなとぼんやりしていると 「みことせんせー、砂場でおしろづくりしよーぜー。むてきのようさいだー」 「とうませんせー、高い高いしてー」 二人はそれぞれ園児達に手を引っ張られた。やはりというか何というか、美琴には男の子達が、上条には女の子達がなついている。 (相手は小さい子供達とはいえ、どうしてアイツはあいもかわらず女の子に囲まれてんのよ) ここまで考えて、自分よりはるかに年下の子供達にまでやきもちを焼くなんてどうかしていると美琴は思い直す。 (今日はボランティアで来てるんだから先生役をしっかり務めないとね。アイツの事は気になるけど、今日だけは後回し) 美琴は一つ頭を振った。 「よーし、先生頑張っちゃうぞ。トンネルも作ろっか」 美琴は園児達に混じってしゃがみ込むと砂をパンパンと叩いて固め、城の形に整え始めた。 遊んでくれとねだる園児達を一人一人抱き上げて、リクエストの『高い高い』をしながら上条は目線で美琴の姿を追う。 園児達に囲まれて、美琴が声を上げて笑う。 派手に砂をかけられて時には困ったように。 城が徐々に形作られて行く様を見て嬉しそうに。 (アイツ、あんな顔して笑えんじゃねーか。俺と一緒の時とは大違いだな。やっぱ子供好きなんかね) 「せんせー、とうませんせー?」 園児の一人が上条のエプロンを引っ張る。どうやらほったらかしにしてしまっていたらしい。 「ああ、悪りぃ悪りぃ。先生ボケっとしてたな。何しようか? 高い高いか? お馬さんか? それとも飛行機びゅーんが良いか?」 「とうませんせー、ずっとみことせんせー見てるけど、みことせんせーの事好きなの?」 「え? い、いや先生は別に美琴先生の事は見てないぞ? お砂場チームが楽しそうだなーって思ってな」 「すなばはいつも男子が『なわばり』ってとっちゃうから。みことせんせーもとられちゃったの? せんせい?」 「い、いや? 別に美琴先生は取られてないぞ? うんうん」 「せんせー? あーやしーなー」 「あーやしーなー」 園児達の無邪気な追求に上条は冷や汗をかく。女の子は男の子よりませていると言うのは本当だったんだなと、上条はこの時身をもって思い知らされた。 「とうませんせー、みことせんせーのことすきなんでしょー?」 「さっきからずっとみことせんせーの事ばかりみてるもんねー」 「けっこんするのー?」 「みことせんせーにふられちゃったらわたしがけっこんしてあげるー」 「えーだめだよ、とうませんせーはみことせんせーとけっこんするんだから。あーちゃんにはけんいちくんがいるでしょー?」 「とうませんせーはみことせんせーがだいすきなんだよねー?」 園児達の包囲網がさらに上条を追い詰める。 (こ、子供達って無邪気で悪意があるワケじゃないから下手な返事もできねーし。どうするよ。御坂、お前ならこんな時どうする?) 上条は砂場で園児達と遊ぶ美琴に、救いを求めるまなざしを向けた。 砂山の向こうとこっちから同時に穴を掘って、その真ん中で園児の手が美琴に触れた。 「よし、トンネル完成ー!」 「わーいわーい!」 綺麗に真ん中がくりぬかれた砂の城を囲み、園児達と美琴が拍手する。 「ねー、みことせんせー。好きなおとことかいるのかー?」 美琴の隣で砂を固めていた園児が美琴に尋ねる。 「ひゃっ、ひゃい?」 唐突な質問に、美琴は思わず舌を噛みそうになった。 「せんせーにかれしがいないんだったらオレがかれしになってやんよー」 「よーすけ、そんなこといってっとみかちゃんがまた泣くぞ―?」 「みことせんせーのかれしはとうませんせーにきまってんだろー? きょうは『ふうふ』で来てんだから」 「僕しってるよー。『どうはんしゅっきん』っていうんだよね、せんせー?」 「どっ、同伴ッ!?」 五歳の子供の口から飛び出た、歳に似合わぬとんでもない単語に美琴が慌てふためく。 「へー僕どうはんしゅっきんってはじめてみたー」 「なにいってんだ。いつもあーちゃんとけんいちがやってるじゃないか」 「なーんだ、あーちゃんとけんいちってどうはんしゅっきんだったのかー」 「あの、あのね? 同伴出勤って言うのはそういうんじゃなくてね?」 臨時でも先生の端くれとして園児達の間違った知識を正そうと美琴は頭の中の知識をフル回転させるが、あいにく子供向けの都合の良い言葉が出てこない。 「じゃあみことせんせーはけんいちのなかまだなー」 「どうはんしゅっきんどうはんしゅっきんー」 子供達に冷やかされ、どうした物かと頭を抱えて美琴は悩む。 (うーん困ったな。間違った知識を覚えんのは子供の教育上良くないしかといって下手な事は教えられないわね。子供好きそうなアイツなら何か良い方法知ってるかな……) 美琴はこの場を切り抜ける手段を求めて上条のいる方へ振り向いた。 そこで二人の視線が交差した。 お互いの顔に引きつった笑いが浮かぶのを見て、それぞれが置かれた状況を一瞬で理解する。ついでに『もしかして今そちらもヤバい局面ですか?』と同時に手なんか振ったりしてみるが、だからといってこの場を乗り切る名案が浮かぶわけでもない。 「わーいわーい、とうませんせーとみことせんせー見つめ合ってるー」 「やっぱふうふだもんねー」 「とうませんせーみことせんせーのこと大すきだっていってたもんねー」 「ばっかだなみことせんせーだってとうませんせーのことだいすきなんだぜー?」 「そんなのあたりまえだろー、ふたりは『こいびと』どうしなんだからー」 「え? いやちょっと待ってねみんな私は別にアイツ、じゃない当麻先生とは特に何もなくてね? もしもしよい子の皆さん私の話を聞いてますか?」 園児にまで話をスルーされ、気がつくと美琴は上条の隣に立たされていた。 左右から子供達に冷やかされ、上条と美琴が見つめ合ったまま凍り付く。 「な、なあ御坂。何でこんなことになってんだ?」 「そ、それは私の方が聞きたいわよ。アンタ、子供達に何吹き込んだのよ?」 「わーい、とうませんせーとみことせんせーがないしょばなししてるー」 「とうませんせー、ふうふなんだからみことせんせーにきすしてー」 「「「きーす、きーす、きーす、きーす!」」」 園児達の容赦ない追撃は続く。 「………………」 「………………」 下手に口を開けば子供につけこむ隙を与えてしまうと、上条と美琴は共にうつむいて口を閉じる。 「みことせんせーまっかになってるー」 「とうませんせーもまっかっかー」 「「「きーす、きーす、きーす、きーす!」」」 「「「きーす、きーす、きーす、きーす!」」」 園児達にはやし立てられ、二人は再度顔を見合わせる。 「…………どうする?」 「どうするって、それは……」 上条は息を一度大きく吸い込んで、止める。 「…………御坂」 「…………何?」 「一瞬で済ませるから我慢してくれ」 上条が美琴の肩をガシッと掴むと 「へっ?」 次の瞬間、何かが美琴の頬に軽く触れた。 「…………ちょ、ちょ、ちょ、ちょ、今、アンタな、な、な、何を」 予期せぬ感触に、美琴が狼狽しながら頬を押さえる。 「よい子のみんなー! これでいいかなー?」 最大限の作り笑いと共に、上条が園児達に向かって無理矢理陽気に呼びかける。 「「「「「「「「「えーーーーー?」」」」」」」」」 即座に大ブーイングが帰ってきた。 「え? 何で? 何で?? 先生、美琴先生にちゃんとキスしたじゃないか」 「とうませんせーそれちがうよー」 「きすってこういうのだよー」 園児達に『あーちゃん』と呼ばれていた女の子と『けんいち』と呼ばれていた男の子が上条と美琴の前に並ぶと『キス』を披露した。この二人はどうやら園児達公認のカップルらしい。 「……こ、子供ってのは無邪気で良いな……」 「ばっ、馬鹿な事言ってないでよ。大体アンタがこの子達に乗せられてあんな事するから……」 目の前で繰り広げられた現実に、上条と美琴は逃げ出したくなる両足を必死で押さえる。まかりなりにもボランティアで来ている以上、園児達を放り出すわけにはいかない。 だからといって無茶な要求を聞く事などできない。 「「「きーす、きーす、きーす、きーす!」」」 「「「きーす、きーす、きーす、きーす!」」」 子供達の声は止まず、逃げられぬよう二人を取り囲む。 「……どうする?」 「……、どうするって、子供達の前で教育に良くない事できるわけないでしょ」 「その子供が目の前であれやってんだぞ。俺達逃げられると思うか?」 「……だけど……それは……」 「はーいみんな、おやつの時間ですよー」 崖から落ちるまで後二歩、のところで二人に救いの手が差し伸べられる。 「「「「「「「「「わーい!」」」」」」」」」 園児達は教室のドアを開けて手を振るポニーテールの先生に向かい、まるで今の騒ぎがなかったかのように一斉に駆けだして行った。 「「た、助かった……」」 上条と美琴は顔を見合わせて大きく息を吐いた。だが、美琴は上条を見ると顔を赤くし、怒ったように肩を聳やかせて背中を向ける。 「あ、お、おい?」 「上条先生、御坂先生もおやつの時間ですから中に入ってくださーい」 ポニーテールの先生に呼びかけられ、上条は気持ちを切り替えると美琴の背中を追うように小走りで教室を目指した。 (うわー、本格的に怒らせちまったかなこりゃ) 折り紙の時間も園児達を送迎バスに乗せるときも美琴は園児達に囲まれて楽しそうに笑っていたが、上条と目が合うととたんに不機嫌になってそっぽを向いた。最後に先生達に挨拶をして幼稚園を辞した後も、美琴は無言のままだった。 今も美琴は、上条の二歩先を歩いている。 「な、なあ御坂?」 「…………」 「そ、その……悪かった。軽はずみにあんな事して」 その一言で美琴がキッ! と上条を見つめる。 ああこれは完全にお怒りモードですねと観念し、 「みっ、御坂さん? ここはあのですね、電撃でも何でもあなたの気の済むようにしてくださってかまいませんから! 何でしたら不肖上条、ノーガードで全て受け止めますから!!」 上条はビクビクしながら美琴を見る。 「……ノーガードで受け止めんのね?」 美琴がニヤリと笑い、その眉がピクリと動く。 「い、いやあの超電磁砲とか砂鉄の剣はたぶん無理! きっと無理!! あれノーガードで受けたら間違いなく俺死ぬから!」 「受・け・止・め・ん・の・よ・ね?」 美琴の纏う殺気が質量を増す。 「ひ、ひぃぃ! せめて手加減お願いします……」 「じゃ、そこ動かないで」 「は、はい……」 上条は目を固く閉じ、両手を組んで判決の時を待つ。 できれば超電磁砲と砂鉄の剣と一〇億ボルトは勘弁してくださいと祈る。 体内電気をいじられんのもマンホールの蓋をぶつけられんのもオーソドックスな電撃も嫌だが死なないで済むならならこの際なんだってマシだと、上条は心の中で両手を合わせて祈った。 美琴の両手が、上条の肩にかけられる。 (き、来た! やっぱり体内電気操作系かクソ! あれやられると内蔵の位置が狂ったみてーになるけどそれで御坂の怒りが収まるならこの際仕方ない!!) 時間が止まる。心臓の鼓動が早くなる。 上条にとって永劫に続くとも感じられる一瞬の後、裁きの刃が振り下ろされる。 美琴の淡い桜色の唇が、上条の左頬に軽く触れた。 「は、はい……………?」 上条は目を開けた。 横を見ると、美琴が赤い顔のまま上条を睨んでいる。 「こっ、これで、おあいこ。人前でこんな事されたらアンタだって恥ずかしいでしょ?」 上条は改めて左右を見渡す。 二人は交差点の前で足を止めていた。 信号は赤で、車の流れを見る限り青に変わるまでもう少しかかりそうだ。 上条たちの背後と車道を挟んだ向かいには歩行者が並び、同じように信号待ちをしている。 「は、はは、ははははは、半殺しにされるかと思った……」 「……、半殺しよりはマシじゃない?」 「あ……ああ、そうかもな。女の子からのキスならな。うん、助かった……」 上条は頬に手を当てて美琴を見る。目が合うと、美琴の顔の赤みが増したような気がして 「……き、き、きききキスとか言わないでよ! 恥ずかしいんだから!!」 美琴は上条を置き去りに、信号が青に変わった横断歩道をつかつかと歩き出した。 「お、おい、待てよ、御坂!」 上条がその後を追いかける。何だかよくわからないけど怒らせたまま別れるのはまずいと感じて、上条はその背中に向かい 「お、お前さ、子供達とあんなに楽しそうに笑ってて」 「…………」 「何かすげー笑顔が無邪気だなというか」 「…………」 「う、歌もうまいんだな」 「…………」 「あ、あの優しさを俺にも向けて欲しい……なんて、ははは」 「……よ」 美琴が何事かを呟いて足を止めた。 「え?」 「あ、アンタが、その……えーい、私に変な事言わせんな!!」 美琴は今度こそ上条を置き去りにして走り出した。 「御坂? 待てってば、御坂!」 美琴はくるりと振り向いて 「競争よ! わ、私に優しくして欲しかったら私をつかまえてみなさい! ゴールは常盤台の寮! ハンデで能力は使わないであげる!!」 「え? 何? 競争すんの?? お、おいちょっと待てよ御坂! 御坂!!」 ここで置き去りにされるのはどこか、何故か寂しい。 夕暮れ空の下遠ざかる美琴の背中を追いかけて、上条は全力で走り出した。 }}} #back(hr,left,text=Back)