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上条さんと美琴のいちゃいちゃSS/7スレ目短編/883 - (2010/04/11 (日) 19:03:52) のソース

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 上条当麻は飲んだくれていた。
「ぶわああああああああああっ、つちみかどぉおおおおッ」
 付け加えると、泣いていた。
 いわゆる泣き上戸という奴だ。
「ハイハイカミやん、ほれぐーっと行くんだにゃー」
 上条の差し向かいで酒を勧めるのは上条の友人・土御門元春。
 現在二人はとある居酒屋で飲んでいた。
 未成年飲酒ではない。
 上条も土御門も進学し、現在は大学三年生。
 今年、二人の入っているサークルに新入生が一人として寄りつかなかったので、二人で寂しくコンパの反省会ならぬ飲み会をやっているのであった。ちなみに元デルタフォース(三バカ)の一人、青髪ピアスは所属サークルが違うのでここにはいない。
 土御門は上条のコップにビールを注ぎながら、
「そんなに泣くくらいだったら最初から引き留めれば良かったんだにゃー。お嬢様だって大学に入ったら新しい環境で新しい出会いが待ってるんだぜい? 多少は浮かれたくもなるってもんぜよ」
「うう、そうなんだけどさ。俺が止める権利も何もないし、アイツ男にも女にもモテるからきっと今頃どっかのイケメンにお持ち帰りされたりして……うわあああああああああん!」
 それともアイツが自分からお持ち帰り!? などと叫んで泣きながらぬるくなったビールを呷る上条。
 上条が油で煤けたテーブルに突っ伏して泣いている理由。
 それは上条の腐れ縁にしてケンカ友達、御坂美琴が大学に入学して最初の新歓コンパに出かけたからだ。
 土御門もぐいっとビールを飲んで自分のコップを空にすると枝豆をかじりながら、
「……カミやんもアレだにゃー。そこまでご執心なら告白すれば良かったのに」
「ばかやろう! 俺は、俺は一回告白したんだぞぉ! しかもお前らに唆されて!! そしたら、そしたらさ……ひっく」
「そうなんだよにゃー。あのお嬢様、絶対カミやんに気があると思ったから背中を押したのに。まさかカミやんを振るとは夢にも思わなかったぜよ」
 すいませーん、こっちに一本追加ー、と忙しそうに席を回る店員に声をかけてビールを注文する土御門。

 上条は思い切って美琴に告白した。
 ケンカ友達でも付き合いが続くと何となく相手の考えてることが分かるようになって、『あ、コイツもしかして俺のことちょっとは好きでいてくれてるんじゃないかな』なんて思えて。
 そう思ったら、悪い気はしない。
 だんだん上条の気持ちが美琴への恋に変わる頃、
 告白したら、見事に玉砕した。
 あの日の記憶が色褪せることはない。
 上条当麻の人生の中でビールよりもほろ苦い思い出だった。

 土御門はよく冷えた瓶ビールを店員から受け取ると、自分と上条のコップにとぷとぷと注いで
「何でカミやんはその後、お嬢様にもう一度アタックしようと思わなかったのかにゃー? 一度振られたくらいでめげるカミやんなんておかしいぜよ」
「だって、だってよ……普通に毎日学校で会うんだぜ? 口聞くのも恥ずかしいのに今更もう一度なんて言えるかよぉ……うう、みさかぁ……」
 ぐすっと鼻をすすって注がれたビールをちびちびと飲む上条。
 美琴は常盤台中学を卒業した後、上条の通うとある高校に入学した。
 常盤台中学で大学レベルの学問を修めた美琴としては、そこから先の学業についてはどこで学んでも同じだからと、ほぼノリで上条のいる高校を受験したのだった。
 上条が玉砕した後も、美琴は頓着することなく上条と友達付き合いを続けていたが、手ひどく振られた上条としては嬉しさ半分失意半分の何とも微妙な高校生活を送った。
 上条が大学に進学した後は二人の友人関係も途切れると思っていたが、何だかんだで上条が美琴と会う回数が減ることはなかった。大抵は上条の友達がらみだったり美琴の友達と一緒だったりしたが、遊んだり出かけたりとつかず離れずの関係が続いていた。
 上条はコップをドン!! とテーブルに叩き付けると、
「うう、土御門。やっぱりさ、御坂ってモテるし、今夜あたりはどこかの誰かと行くとこまで行っちゃうのかなー?」
「あのお嬢様がか? 身持ちは堅そうだからそんなことはないと思うんだけど、どうかにゃー? 大学デビューって言う言葉があるくらいだし……っと、カミやん? ケータイが鳴ってるぜい?」
 んん? と、酔っぱらって真っ赤な顔の上条がポケットの中をゴソゴソと探る。
 上条は若干怪しげな手つきでポケットから振動を繰り返す携帯電話を取りだし、パカッと待ち受け画面を開く。
 番号は美琴から。
 噂をすれば影ぜよ、と土御門が密かに呟くが上条の耳には入らない。
 上条はブルッと体を震わせて背筋をバキィン!! と伸ばすと、酔いの醒めぬ親指で通話ボタンを押し、携帯電話を耳に当てる。

 御坂美琴はうんざりしていた。
(話の種になると思って一回くらいは参加してみようかと思ったけど)
 美琴は両脇を見知らぬ男子学生に固められ、テーブルの向かいも三人ばかり男子学生が並ぶという、質問に次ぐ質問の集中砲火を浴びていた。
『へー、美琴ちゃんって名前なのか。似合ってるね』
『かわいいねー。どこの高校出身?』
『ああ、君が噂の「超電磁砲」だったの? 名前は知ってるけど初めて会うよね? これを機会に友達にならない? ケータイの番号教えてよ。俺も教えるからさ。ハイこれ名刺ね』
『彼氏いんの? いないんだったら俺立候補しまーす! この際ここで俺達恋人同士になっちゃわない? なーなー良いだろ美琴ちゃん?』
『写メ撮って良い?』
 他のテーブルについた女子学生達からの視線が痛い。男共が美琴のいるテーブルに押しかけて、結果的に彼女達はあぶれてしまったのだ。
(好きでこんな状態になった訳じゃないんだけどね)
 美琴は辺りをキョロキョロと見回し、げんなりした。
 本日は新歓コンパだった。
 美琴はとある大学に入学し、ただ今ピカピカの大学一年生。
 たまたま新入生オリエンテーションで隣同士になった女の子から『これからコンパがあるんだけど一緒に行かない?』と誘われて、断るのもなんだかなあということで、美琴は見知らぬ居酒屋の一角に席を占めている。
 美琴は酒を勧めてくる彼らに『私まだ未成年ですから』と笑顔で牽制しつつ、内心でうんざりしながら
(何でもっと強く止めてくんないのよ、あの馬鹿)
 美琴がコンパに行くと言ったら無関心を装って『そ、そうか。楽しんで来いよー』と告げたツンツン頭の男に向かって心の中で悪態をつく。
 美琴はコンパ開始五分で同席した男子学生全員から名刺を受け取った。
 会社員でもないのに何で名刺なんか持ってんだろうコイツら、と美琴は疑問に思う。
 目当ての女の子に自分を売り込むための、ナンパ目的で彼らが名刺を作っていることを美琴は知らない。ここを出たらこんな紙切れ全部燃やしてやろうと美琴は考える。
 酔っぱらって顔を真っ赤にした男子学生が座敷の隅で何やら叫んでいる。
 どうやらカラオケなしで校歌か何かを歌い出したようだ。
 どいつもこいつも騒がしい。
 静かでゆったりとした環境が好みの美琴としては、この正反対の状況にはいつまでたっても慣れそうになかった。
「ねえねえ美琴ちゃん、大学には慣れた? 分かんないことがあったらどんどん聞いてね。俺美琴ちゃんのためだったら何だってするからさー」
 酒臭くなった隣の男が、美琴に親しげに声をかけてくる。
 つか、一八歳になった女を捕まえて、母親でもないのに『美琴ちゃん』は止めて欲しい。
 美琴は事務的な笑顔を作って、
「あはは、ありがとうございます。でも私、自分のことは自分でやるのが好きなんで」
 かわいげのない女と思われそうな、典型的な台詞を選んで吐いてみる。
 正直言って、このどんちゃん騒ぎの中にいるのはそろそろ限界だった。
 抜けだそう。
 美琴は座布団の上から立ち上がる。
 テーブルの向こう側でずっと美琴の様子をちらちらと伺っていた男子学生が、
「あれー? 美琴ちゃんどこ行くの?」
「えっと……お手洗いに」
「どっちか分かる? 俺案内してあげるけど。何だったらついて行こうか?」
 美琴と二人きりになるチャンスを待っていたらしい彼は、腰をすいと浮かせて立ち上がろうとする。
 美琴は小学生じゃあるまいしトイレについて来るって何なのよ、とムカムカする気持ちを何とかなだめて
「さっき店員さんに教えてもらったんで大丈夫ですー」
 ちょっと科を作るように答えると素早く座敷席の入り口へ。
 新歓コンパの会費は全部男持ち、と聞かされているので抜け出したところで良心は咎めない。
 美琴はパンプスを履くと、コンパ参加者に気づかれないようトイレとは逆方向に向かって店内の細い通路を歩き、店員にぶつかりそうになりながら足早に店の外へ出た。
 ここは第五学区だった。
 第五学区は主に大学生が居住するエリアだ。
 美琴が今まで暮らしていた第七学区と違い、この学区に完全下校時刻というものはない。店の並びや品揃えも中高生を相手にしていた第七学区とは異なり、ぐっと大人向けのそれに変わっている。
 夜の街は飲んだくれて肩を組んで騒ぐ学生達やグループを作って闊歩するナンパ待ちの女の子達などで溢れかえり、賑やかで騒々しい。
 そんな彼らを横目で見ながら、美琴は手元の小さなハンドバッグから携帯電話を取り出して、今頃一人で暇を持て余しているであろう誰かを迎えに呼び出そうと、登録番号のリストを開く。
 御坂美琴は超能力者(レベル5)だ。さらに言うなら学園都市第三位の実力者だ。
 美琴に声をかけてくる身の程知らずを電撃で追い払ったことは中学生時代から数えあげたらきりがなく、美琴がその気になれば辺り一帯を黒こげにすることも可能なのだ。
 美琴は一人で部屋まで帰れない訳ではない。
 でも、何となく一人で帰りたくない。
 コンパの参加者に声をかければそれこそ『俺が送ってあげるよ』という立候補者がうじゃうじゃ発生するだろうが、下心丸出しの彼らに頼むのはごめんこうむる。
 美琴は慣れた手つきで携帯電話のボタンを操作すると、リストの中のとある名前にカーソルを合わせた。

 電話の相手はやっぱり美琴だった。
 美琴のいる場所は上条と同じく繁華街らしい。
 声が聞き取りづらいのか、美琴は大声を張り上げて
『もしもし? 私だけど、アンタ今どこにいんの? 周りがずいぶん騒がしいみたいだけど外に出てんの? 暇なら迎えに……』
「……んだよ、御坂か。……いま土御門と……飲んで……ひっく」
『ちょ、ちょっとアンタ、酔っぱらってんの? アンタ私よりお酒弱いのに何やってんのよ?』
 えらそうなことを言っているが、実は美琴も酒に弱い。
 上条が泣き上戸なら、美琴の場合は母親譲りの絡み上戸だった。
 上条は美琴の驚いたような言葉に、
「こ……これがあ、これが飲まずに……うっぷ、いられるかあっ」
『いきなり何よ? 意味不明に怒鳴られたって分かんないんだけど』
「なんだよーうみさかぁ、いまごろ隣にイケメンでもはべらせて自慢ですかあ? いいよなーちっくしょーモテモテでうらやましいですねー、ひっく。こちとら野郎二人で飲んでますよー。もしかして美琴センセーはあ、お持ち帰られちゃったんですかあ? エロエロのベロベロでおつかれさまですねー」
『もうすでに言ってることが支離滅裂じゃん!? アンタできあがってんの?』
 携帯電話越しの美琴があーもー迎えに行ってあげるからどこにいるのか今すぐ教えなさい!! と叫ぶ。
 上条は携帯電話から一度耳を離すと
「なにい、美琴センセーが俺をお持ち帰りですかあ? かみじょうさんは無能力者(レベル0)ですからなんにもできませんよー?」
『あーあーはいはい話は後で聞いてあげるから、とっととGPS認証サービス用のコードメールを送りなさいよ』
 まともに取り合おうとしない美琴の言葉に対して、んだとお!? と叫ぶ上条の手から、土御門が携帯電話を取り上げる。
 彼はまるで自分の所有物みたいに上条の携帯電話を何やら操作すると、『コードメール、送っといたぜい』と楽しげに笑って返した。
「……土御門が送ってくれたってさ」
 美琴の声が途切れた。
 おそらくメールを確認しているらしく、ピ、ピ、ピ、と電子音が続いて、
『……ん。届いた。……あれ? アンタずいぶん近くで飲んでんのね。ここからだと歩いても五分かかんないじゃない。今からそっちに行くからおとなしくしてんのよ。くれぐれもお店の人に迷惑かけないようにね』
 それじゃ、と通話は一方的に切られた。
 上条はつながらなくなった携帯電話をしばらくの間ぼんやりと見つめて、それからパチンと片手で畳んで、ズボンのポケットにしまう。
 騒がしい店内でも上条と美琴の会話は漏れ聞こえていたらしい。
 向かいの席で土御門がニヤニヤ笑いながら
「お姫様を迎えに行くどころか、お姫様が迎えに来てくれるんだって? うらやましいにゃー。これってうちの舞夏だったら『自力で帰ってこい』って冷たく切り捨てられる場面だぜい?」
「……知らねえよ。単にアイツが世話焼き好きのお節介なだけだろ?」
 上条は酒臭い息を土御門に吹きかけて、
「……うっぷ、気持ち悪りぃ。土御門、へ、へるぷみー……」
「カ、カミやん? ここで吐くんじゃねーぜよ? 吐くならトイレに行くんだにゃー! ほらこっちこっち、俺につかまれって」
 血相を変えた土御門が古ぼけた椅子を蹴って立ち上がり、まだ吐くんじゃねーぜよと口元を両手で押さえた上条を担いで店の奥へ連れて行く。

 ガクン、と体が揺れた。
 上条が座っていたのは、客に何度も蹴りを入れられてボロボロで、そろそろガタが来そうな居酒屋の木製椅子ではなかった。
 革張りのシート。
 タクシーの後部座席によくある、最大三人で横一列に腰掛けるシートだった。
 上条はドアにもたれかかり、寝ぼけ眼を手でゴシゴシとこすりながら
「……あれ? 俺は一体今どこにいんの?」
「……ったく、あきれたわね」
 本当にあきれた、としかたとえようのない声が聞こえる。
「何にも覚えてないの? アンタを迎えに行ったら完全に酔いつぶれてたから、土御門さんに手伝ってもらってタクシーに乗せたのよ」
 助手席に座っていた美琴が振り向いた。
 さっきの振動はタクシーが目的地に到着してブレーキを掛けた時のものらしい。
 美琴はタクシーの運転手に料金を支払うと、さっさと降りて後部座席へ回る。酔いでぐたーっとなった上条の手を引っ張り、タクシーから引きずり下ろす。
 引きずり出された上条は地球の重力に逆らえず道路にべちゃ、と座り込んで、
「……もう食えねえよ……」
「どんだけ愉快な夢見てんのよアンタ!?」
 美琴が良いから立ちなさいよ、と上条の手を掴んだ。
 上条は美琴の肩を借りて立ち上がり、見慣れぬ景色をキョロキョロ見回すと、
「……ところでここどこだ?」
「私の住んでる部屋のそばよ。あの居酒屋からだとアンタの部屋は遠いし、こっちに連れてきた方が面倒なさそうだからね。ほら自力で歩いてよ。アンタ重いんだから」
「……わー、とうとうおれも年下のオンナノコにおもちかえりはつたいけーん♪」
「こっ、こっちが大変な思いしてんのに一方その頃アンタは何喜んでんだこらーっ!」
「……、優しくしてね。俺初めてだから」
「それはアンタが使う台詞じゃないっつーの! つか、酔っぱらうとお馬鹿全開になるのかアンタは!?」
 美琴は上条のふらふらになった手を自分の肩に回させて、どうにかこうにか上条を歩かせる。
 上条は美琴の肩を借りながら、俺何でここにいるんだっけと酒精まみれのぼんやりした頭で考える。
 酔っ払いに前後の状況など分かる訳もなく、上条は美琴に担がれるようにしてエレベーターに乗り込み、美琴の部屋に足を踏み入れた。

 ゲコ太のマスコット付きペットボトルキャップが並んでいた。
 その全てと目があったような気がして、上条は思わずひ……ッ、と息を飲む。
 一つ二つならかわいく見えなくもないゲコ太でも、それが本棚の一角にずらっと鎮座していればちょっと引く。いや、かなり引く。
 上条はペットボトルキャップゲコ太ーズを指差して、
「……ずいぶん集めたな」
「そんなでもないわよ」
 特に大人買いとかしてないから、と上条の方を見向きもせず台所スペースから美琴が告げる。
 初めて訪ねた美琴の部屋は、上条の予想に反してシンプルだった。
 セミダブルベッドと勉強用の机。
 何やら難しそうな本がいくつも並んだ本棚。
 部屋の真ん中に置かれたローテーブルといくつかのクッション。
 ベッドカバーもカーテンも壁紙も、常盤台中学の学生寮にで用意されていたような素っ気ないものを使用していた。
 上条はフローリングの床に座り込んだまま、へえ……、と美琴の部屋をぐるりと見回して、
「もっとゲコ太グッズが氾濫してるかと思ったんだけどな。壁にはポスターがベタベタ貼ってあってさ」
「持ってるけど、表に出してないだけよ。大学生にもなってゲコ太じゃ笑われそうだしね」
 だったら今ここにいる俺は笑っても良いのかな、と上条は考える。
 美琴が台所から戻ってきた。手には水の入ったガラスのコップを持っている。
 美琴がはい、と差し出すコップを受け取って、上条は一息に水を飲み干すと、
「……さんきゅー」
 水の代わりにまだ酒臭い息を吐き出す。
 居酒屋では大して飲まなかったし、飲んだ分だって吐いてしまったのだからさっさと醒めても良さそうなものだが、血液中に取り込まれた分は都合八時間経過しないと分解されないのだ。
 美琴は上条のすぐそばにクッションを持ってきて座ると何やら心配そうな表情で、
「アンタはお酒飲むの止めた方が良いんじゃない? 体質に合ってないと思うんだけどさ」
 上条はお前だって大して強くねーだろが、と美琴の言葉を聞き流すと、
「そういや今日の新歓コンパ、何か収穫あったか? 楽しかったか?」
「あんなのやかましくてうるさくて騒々しいだけじゃない」
 それって全部同じじゃねーかと思ったが、ここでツッコんだら負けだ。
 一方の美琴は淡々と、
「アンタに聞いてた話と全然違った。騒ぐのは嫌いじゃないけどさ、私は音楽でも聴きながら静かに本を読んでる方が良いわね。……つか、アンタは本当は、今日のコンパに私を行かせたくなかったんじゃなかったの?」
 美琴の指摘が図星だと言いたくない上条は、
「……実際に行ってみて判断すんのはお前だし、俺がどうこう口出しできる問題じゃねーだろ。少なくとも俺の時は楽しかったぜ? あそこで気があった女の子とその後付き合いだしたしな」
「でも、別れちゃったんでしょ?」
 あれ? と上条は思った。
 その話は美琴にした覚えがない。
 上条は新歓コンパで知り合った女の子と交際を始めた。
 しかし実際に付き合いだしたのは新歓コンパから二年もたった後の話で、しかも三ヶ月経たずに別れた。
 その前にも別の女の子と付き合っていたのだが、大して長続きもせず別れている。
 別れた原因は上条にあった。

「ねぇ……私達、付き合おうか」
 唐突に切り出された美琴の言葉が理解できない。まだ酔ってるから聞き違えたのだろう。
 上条は赤ら顔のままで、
「は?」
「アンタがタクシーの中で酔っぱらって寝てる時、土御門さんからアンタのケータイに電話がかかってきてさ、その時聞いたんだ。アンタ、彼女ができても長続きしないんだって? 決まって最後に『誰か他に好きな人がいるんでしょ』って言われて振られるって」
「土御門の奴、余計なことぺらぺらしゃべりやがって……」
 腹を立てても電話の内容は取り消せない。
 美琴は上条の手から空になったコップを取り上げると、
「……あの時私が中途半端にアンタを振ったから、アンタはいつまでたっても未練を抱えて前に進めない。だからアンタの未練は私が断ち切ってあげる。それに、他の女じゃアンタの面倒見るの大変そうだしね」
「……んだよそれ。同情ならいらねーぞ?」
「別に同情じゃないわよ。っつーか、私がアンタを嫌いって一度でも言ったことある? 私があの時アンタに言ったのは『今のアンタとは付き合えない』これだけだったと思うけど?」
 あ、と呟く上条。
 美琴の言葉に小首を傾げて、
「……そうだっけ?」
「そうだっつってんでしょ! 振った本人が一字一句間違えずに覚えてんだから信じなさいよ!!」
「お前何年も前のこと良く覚えてんな……」
「当たり前でしょうが! 好きな人のことだったら何だって覚えてるわよ!!」
 美琴の言葉に上条はキョトンとした表情で、
「あの……御坂さん。つかぬ事をお伺いしますが……好きな人ってどちら様?」
「……アンタに決まってんでしょ。ったく、こっちは二度目の告白ずっと待ってたのにアンタいつまで経ってもビクビクしてるんだもん。仕方ないからアンタがどっかの女に振られたら、そのタイミングでアンタを慰めて告白しようと思ってたのに計画メチャクチャよ」
 上条は思う、だったら最初から振らないで欲しいと。
 あの日少年の純情を踏みにじった美琴は、
「アンタ、土御門さんや友達にけしかけられて私に告白したんでしょ? 土御門……妹の舞夏の方から聞いたわよ。アンタが『お嬢様を落として、ものにして来い』とか吹き込まれたって。私はゲームの景品じゃないわよ。そんな気持ちで告白されたってこれっぽっちも嬉しくない。だからあん時は断っただけ……女の意地って奴?」
 後はアンタの返事待ちよ、と美琴はそっぽを向いた。
 そこまで聞いた上条はその場で静かに土下座を決行し、
「お願いします! 俺と付き合ってください!!」
「言っとくけど、私は嫉妬深いわよ? 浮気なんかしたらタダじゃ置かないから」
 ふん、と横を向きながら何故か口元が嬉しそうに緩んでいる美琴。
 プライドも何もかなぐり捨てた上条は、
「この上条当麻、決して、決して浮気などいたしません!」
 まるでどこかの下っ端侍が名のある武家に仕官を申し込む時のように、ただただ平伏するばかり。
 これを逃したら三度目はないかもしれない。
 上条はそーっと顔を上げて美琴の様子を仰ぎ見る。
 美琴は顔を赤くしながら、
「い、言っとくけど、アンタから付き合ってくださいって頼み込んできたんだからね! そこんとこ間違えないでよね。あ、あと、告白して両思いになったからっていきなり手順すっ飛ばしてあれこれしたりしないんだから。さっ、さっ、最初はデート! デートからよ!! もちろんアンタがデートコースを考えてくんのよ?」
「あの……御坂」
「なっ、何?」
「俺ってさ……お前にお持ち帰りされたんじゃなかったっけ? 俺こういうの初めてだから優しくしてくれると」
「いつまでそのネタ引っ張ってんのよ!? アンタまだ酔いが醒めないみたいだからいっそ外で寝かせてあげようか? 今ならベランダが空いてんだけどさ」
「うわぁごめんなさいごめんなさいごめんなさい!」
 上条、再び魂の土下座モードへ移行。
 この瞬間、二人の立場の強弱は決まったのかもしれない。

 三年と少しの時間が過ぎた。
 履歴書についうっかり『殺しても死なない、右腕を切り落とされてもへこたれない』と書いたら何故か面接官に気に入られて、上条は大学を卒業後小さな会社に就職した。
 美琴は大学四年生。
 その美琴が、上条の隣でこめかみに若干の青筋を立てている。
 上条は美琴の隣で眠そうな顔をしまりのない顔に変えている。
 ここは病院だった。
 二人は待合室に並んで座り、診察費の精算が終わるのを待っていた。
「……アンタさ」
 美琴はこめかみをひくひく震わせながら、
「私が妊娠三ヶ月って分かった瞬間『ばんざーい!』とか診察室で叫ぶんじゃないわよ! しかも私が『産んでも良い?』って聞く前に『責任取るからな』って大喜びしやがって。まさかアンタ……これ最初から計画してましたとか言わないわよね?」
「何言ってんですか御坂さん。お馬鹿の上条さんにそんな計画立てられる訳ないじゃないですか。大体、命というものは天からの授かり物ですよ?」
 白々しく上条が告げる。
 美琴は小さくため息をついて、
「……責任取ってくれるつもりがあるなら良いんだけどさ」
「一生かけて責任取るよ。順番がちょっと入れ替わっちゃったけどさ、……結婚してくれ、美琴」
「……プロポーズするにしたってもうちょっと場所ってもんを選びなさいよね」
 よろしくお願いします、と返事を告げる。
「生まれてくるのは二月頭か……卒業式とこの子がおなかの外に出るのとどっちが先かきわどいなぁ」
 美琴はふくらみの目立たない自分のお腹をそっと撫でると、
「……アンタの未練を断つつもりが、一生の付き合いになるなんてね」
「その分大事にするからさ。実はもう赤ちゃん名前辞典と育児雑誌を買ってあるんだよ」
「……気が早すぎじゃない? つか、いつから気づいてたのよアンタ?」
「うーん……先月くらい? なんかお前が体調悪そうにしてたから、日付数えてみてもしかして……って」
「気づいてるなら先に言いなさいよ!!」
 憤慨する美琴を上条は胎教に悪いから落ち着けとなだめながら、
「まあ、最悪大学は休学して、出産の方に専念だな」
「……私はもうちょっと後でも良かったんだけどね」
「子供、嫌いだったか?」
「そうじゃないわよ。……もうちょっとアンタと恋人同士でいたかったなーって、そう思っただけ」
「子供が生まれても上条さんの愛は変わらないから大丈夫だって。結婚してもデートはするし、家事も俺がちゃんとやるから、お前は子供の方に専念してくれ」
「……ありがと」
 どういたしまして、と上条は美琴の肩を抱いた。

 これからやらなくちゃならないことはたくさんある。
 つらいこともあるかもしれないけれど、美琴と、お腹の子と一緒だったらきっと乗り越えられる。
 何しろ男にも女にもモテる御坂美琴を妻に迎えるのだ。多少の苦労も不幸も苦にはならない。
 上条さーん、と受付の職員が上条を呼ぶ。
 入籍も結婚式もまだだけど一足先に夫婦になったような気がして、上条は一人、美琴に見つからないようこっそりと笑った。


完。

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