例えばこんな、トゥエンティアフター
ポケットに入れていた携帯電話が鳴り、1回のコールで切れた。
「ワンギリかよ……って、電源切り忘れてたか」
さっき時間確認した時だな、と思いつつ、ゲコ太ストラップに指を引っ掛けたところで、上条当麻の動きが止まる。
アンテナのないこの雪原で、なんで鳴る?アラームなどセットしていない。
一つだけ、鳴る可能性はある。相手が、近距離にいる場合のハンディアンテナサービスなら。
一人だけ、思い当たる人物がいる。でも、それは。
上条当麻は振り返る。
偵察部隊が帰ってくるまでの小休止。前にはエリザリーナ部隊の男たちがおり、後ろには誰もいないはず――
そして、立ちすくむ。
隣にいたレッサーは、いぶかしげに見比べている。その、3人の日本人を。
未来永劫、並んで立つと思われなかった2人が、少し離れた場所の雪の積もった枯木の横で立っている。
数時間前に戦ったばかり――しかし、先程のような荒々しい気配は皆無の、一方通行。
そして、見慣れた制服ではなく防寒仕様の私服で、右手はPDA、左手は携帯を持って、頬を赤らめた、御坂美琴。
上条の動揺をよそに、まず一方通行が、遅れて御坂美琴が、上条当麻の前までやってきた。
沈黙を破ったのは、一方通行だった。
「……俺ァ、あの大食らいのシスターがどこにいンのか聞きに来ただけだ。すぐに戻らなきゃなんねェ」
「あのメモ見ての行動だってのは分かるけどさ、……インデックスの事知ってたのかよ」
「あァ、死ぬほどハンバーガー食わせた事がある。……ここにはいねえンだな?」
アレ自体はそこにはない――つまりここにはいない、とエイワスには言われたが、確認せずにはいられない。
「ああ、ロンドンにいる。俺がここでケリつけねえと、アイツは動ける状況じゃない」
「ちっ……」
一方通行は少し考え込む様子を見せる。
上条は美琴に顔を向けた。
レッサーは無言で、美琴と美琴の持つ携帯電話を凝視している。
「で、御坂。お前は何で……ここに? しかも何で一緒なんだ、お前の天敵だろ、コイツは」
予想通りの質問。
衛星通信モードのPDAを擬似アンテナ局(機械を騙してるので通話はできないが)にして、コールして注意を引く。
振り向いた少年に、決めていた言葉を伝える。うん、それだけだ。
「わ、私は――」
◇ ◇ ◇
―――数時間前。
「さてと……どうしたもんかしらね…」
御坂美琴は広大な雪原に立ち、悠然と見渡す。
雪も降っておらず、天気も良く風もないが……とにかく何も無い。
美琴は、すうぅっと息を吸い込んだ。
これだけ広ければ、心の中でつぶやく必要も無い。
「御坂美琴 見・参! あの馬鹿は、どっこだあぁぁぁぁぁぁ~~~~!」
30分ほど前、パラシュートで降りてきたところだが、…いま自分がどこにいるか分からない。
学園都市の敵の敵は味方かしらということで、最後に上条当麻の足跡が記録されていたエリザリーナ独立国同盟を目指し、
爆撃機から飛び出してきたのだが、なんせパラシュートを使うのは初めてである。
更に空中でロシア兵等に見つかって撃たれるケースも想定し、防弾装備も着込んだので、不自由この上ない。
結局、狙撃される事は無かったが、風に流されるまま、降りやすそうな広大な場所に着地してしまった。
防弾装備を脱いで、周りを確認する――領域としては、エリザリーナ独立国同盟国内のはずだ。
PDAのMAP機能も目印がないので使いづらい。コンパス機能を使っての方角しか分からない状況である。
「ああ、パイロット褒めてくるの忘れてた」
美琴はそれでもあまり焦燥感もなく、ブツブツ呟きながらカンでエリザリーナ独立国同盟の拠点を目指す。
上から降りてきた時に、この方向に道らしきものがあることだけは確認してある。
爆撃機の中から、使えそうなものが詰まったリュックを拝借してきたので、何とかなるだろうとお気楽なものである。
ただひたすら、美琴は歩く。雪の深さは5~6センチといったところである。
思い立って、砂鉄剣を試してみる。
雪の中から黒煙が上がり、それは美琴の手元で一本の棒となる。
「よし、これも問題無し」
雪そのものも、美琴にとっては電気分解の対象として使い易い部類のものである。
野暮ったい厚着と、この寒さでの動きの鈍りさえ分かっていれば、戦いに不安要素はあまり無いようだ。
「ほんと、アイツ見つけるだけね、問題は…」
道らしき場所にたどり着いた美琴は、ふーむと唸る。
たくさんのトラックの轍が見受けられ、その上には雪は積もっておらず、完全に凍りついてもいない。
「……これは結構最近に通ったってことよねえ」
タイヤの跡から方向を察するに、目指す拠点の方向からある目的地に向かっているような気がする。
逆に辿っていけば着く…だがロシアのトラックなら、むざむざ敵の巣へ、だ。
うーん、と考え込んでいた美琴の視界に、微かに動くものが見えた。
「あら?こっちに向かってくる…トラックかな」
拠点の方向から、一台のトラックがやってくるようだ。
かなりのスピードだ。
美琴はカバンをゴソゴソと探り、大きな白い布を振り回した。
白旗で、まずはコミュニケーションを、という狙いである。
別にロシア兵なら、あのパイロットと同じ運命にすればいいし、ともう思考が物騒なことこの上ない。
トラックは美琴の前で、止まってくれた。
金髪碧眼の男が運転席の窓から顔を出す。
『こりゃまた可愛らしいお嬢ちゃんだな。また日本人か』
『こ、こんにちわ。ま、またって日本人がいるんですか?』
得意ではないが、ロシア語で美琴は返す。日本人なんて、そういるとは思えない。いきなりアタリ!?
『ああ、さっき日本人2人を乗せて拠点へな。アンタも学園都市の人間だろ?』
『ええ、そうです。人を探してるんですけど、その人かもしれません』
その大男は、ちょっと空を見上げると、
『乗る勇気があるか?招待するぜ』
『え、いいんですか?逆方向じゃ…』
『ここから歩けとは言えねえさ。あとは俺を信用してくれるかどうか、さ』
『信用します!』
無敵の電撃姫ならではの、無用心さである。
『んじゃ助手席に乗りな。15…いや10分程で着く』
『ありがとうございます!』
Uターンしたトラックに揺られながら、美琴は早速気さくな大男に話しかけた。
『助かりました。パラシュートで降りてきたまでは良かったんですが、右も左も分からなくって』
『ハッハッハ。パラシュートたあ豪快だな。嬢ちゃんの探している相手の名前は?』
『トーマ=カミジョウです』
『ほっほう!今度は日本人の彼女か!』
ピクッ、と美琴のこめかみが動く。
『ご、ご存知なんですか…今度は、ってどういうことですか?』
『アイツには可愛らしいイギリス人がいつもピッタリとくっついていたぞ。通訳のようだったが』
あんの野郎……
『ただ、そういう事なら逆方向だなこりゃ。かといって前線のあっちに連れてく訳にいかねえしな…』
『じゃあ日本人というのは別の人ですか』
『ああ、何故かアイツとその男が戦ってな。最後に立っていたのはアイツだった。特に大きな怪我もなかったな』
美琴はまったく意味不明な上条の行動に首を傾げる。
『その倒された男もそうだが、一緒にいた幼い女の子の容態が悪くてな、それで連れてきたんだが…』
そういって金髪大男は美琴を見つめる。別に余所見した所で車が事故る要素はない。
『お嬢ちゃんの妹といっても通じる女の子だな…どことなく似てるな』
美琴は一瞬シスターズを思い浮かべたが、それなら双子と言うはずだと思い直す。
上条の許に向かいたかったが、今一番大切なのは情報だ。何も知らず向かっては、ただの足手まといになる。
『気になりますね。その男の人に会ってみたいので、やはり連れて行って下さい』
到着するまでに、ざっと情報は手に入った。
どうやら今回、フィアンマと呼ばれる男が元凶で、上条当麻はその男を倒すため動き回っているらしい。
所々に『魔術』という言葉が出てくるが、ローマ正教にはそういうコードネームを冠する科学的超能力があるとは聞いている。
それならば、上条の動き回る意味がわかる。普通の戦争で、上条の出番などあるはずがないのだ。
外の世界にいる超能力者。美琴の未知の世界。
(ほんと色んな事に首突っ込むんだから…)
別の日本人の男というのも気になる。しかも女の子を連れた?そんなワケありの男をアイツが倒した?
おそらくは能力者とは思われるが…それならば自分の名を知っている可能性が高い、と思う。
上条と戦ったのなら、あまり気安く話せる相手ではないかもしれないが、日本語で情報を集めたい。
(ま、何とかなるよね……)
到着して、金髪碧眼の大男は、早速日本人のところに案内してくれた。
『本当は先に責任者のエリザリーナに挨拶してもらうべきなんだが、今相当バタバタしていてな。後で呼ぶ』
『はい。何から何まですみません』
『なーに、アイツの知り合いなら。エリザリーナが絶対的な信頼をしているようだからな』
またフラグ!?と美琴は余計なことを考える。
『この扉をあけ、通路を曲がって奥の部屋だ。男は目覚めて、女の子の看病しているらしいから、静かにな』
そういって大男は戻っていった。
美琴は軽く深呼吸して、部屋に入る。パチパチ、と暖炉で木が爆ぜる音が聞こえる。非常に暖かい。
通路を曲がると、人影が見えた。
「こ、こんば……」
日本語で挨拶しようとした美琴の舌が凍りつく。
振り向いた男も、目を見開く。
「……アクセラレータ!!」
◇ ◇ ◇
――時は戻り、御坂美琴は上条当麻と対峙する。
「わ、私は……助けがいるかなと思ってさ、アンタの手伝いに来たのよ。他に目的は、ない……わ」
――アンタにあの時の借りを返しに来たのよ。
――地下鉄のシャッターの件の貸し、取り立てに来たわよ。
――学園都市は鉄壁の防御でさ、LV5がやることないから来たのよ。
色んな言葉は浮かんだが、シンプルに。コイツも遊びに来てるわけじゃ、無い。
「て、手伝いって……それだけかよ!」
何考えてんだコイツは、というのが上条の感想である。
ピンポイントに此処にたどり着いているのも、よく考えなくても尋常ではない。
「えー、色々と聞きたいんだが……」
「どうぞ。」
「何故俺が此処にいると?」
「ハッキングして、調べた」
「……どうやってロシアに?」
「爆撃機奪って、パラシュートで降りた」
「……どうやってここまで?」
「蝋を塗った板履いて、アクセラレータの爆走タクシーで」
「どんだけ無茶苦茶なんだオマエは……」
上条は愕然として、照れ隠しのように口をヘの字にしている美琴を見つめる。
いつもの上条なら、一言帰れ、というところである。しかし、どうみても帰る手段を切り捨てて、この少女はやってきている。
「あとね、アンタとある組織に狙われてたわよ。道中でぶっつぶしといたけど」
「……はい?」
「詳しくはまた後で話すけどさ、連れてる子の身許が怪しいのも狙われた理由の一つっぽいんだけど……」
レッサーはギクリとした。美琴はそんなレッサーに視線を走らせる。
上条が口を開こうとした時、先に一方通行が口を挟んだ。
「なァ上条……そっちの話は後でやってくンねェか? あのガキ一人にしておくのはちとまずいンでなァ」
「あ、ああ。分かった」
一方通行は顎をしゃくって、少し離れた場所に促す。
2人の少年が離れ、2人の少女が残された。
御坂美琴とレッサーが見つめ合う。上条の側にいるなら日本語が通じるはずだ、と美琴は話しかける。
「……御坂美琴、よ。あなたは?」
「レッサーです。そのストラップは……なるほど、あなたがいるから、あの男は私の魅力になびかないのです……ね!」
レッサーは『上条を取り込む作戦』への追及を避けるため、奇襲に出た。
返事を返すやいなや、レッサーは美琴のブラウンのスカートを正面からまくりあげた!
スカートを押さえ込んだ美琴は、真っ赤になってレッサーに怒鳴りつける。
「な、なにすんのよアンタ!」
「短パン……!? あの男は短パンフェチだったか……不覚! 私のせくしぃ下着に興味がないわけだ!」
レッサーは美琴をじろじろと見つめる。
「年は同じぐらいですかね……出るとこ引っ込むとこは私の勝ち。おかしい、せくしぃ度では……あの男はロリコン!?」
「なに初対面で失礼なこと言ってんのよ!」
『ロシア語は話せる?』
『話せるわよ』
『英語は……できるよね流石に』
『もちろん』
「通訳としては互角……後は、腕前……」
レッサーは槍を握り直し、尻尾をぴょこぴょこ動かす。
美琴はどうやら自分を値踏みしているようだ、とため息をつきつつ、両手を下ろして電撃発動の構えをさりげなく取る。
と、その時上条が走りよってきた。
「おーい待て待て。御坂、お前能力見せようとしてないか?」
「え? ん、まあ話の流れ次第では見せようと思ったけど。ダメなの?」
「ここは学園都市じゃない。誰が見ているかわかんねーのに、底を見せんな。今は戦争やってんの忘れんなよ」
美琴は上条の言葉に驚く。
「ああ…了解。控えとく」
上条は頷くと、また一方通行の方に戻ろうとして、振り向いた。
「レッサー、ソイツと力比べ考えてるならやめとけ。お前でも相手が悪すぎる、瞬殺されっぞ」
レッサーは今の言葉が信じられないといった様子で、眉をひそめている。
「私が……瞬殺……?」
美琴は片手で頭をポリポリと掻いている。
「アイツがああ言うなら、私の苦手な防御系じゃないみたいね。じゃあタイマンなら、カケラも負ける気しないわよ」
「……ひょっとして、れべるふぁいぶってヤツですか?」
「知ってるの?そう、私が第3位、あの白いのが1位、そしてそんな2人が勝てないのが、あの馬鹿ってワケ」
レッサーは先刻の戦いで、第1位の怪物っぷりをマトモに見た。
第3位が何割減の能力かは分からないが、あんなのと表彰台争いができる時点でケタが違うことは分かる。
「ひっじょーに悔しいですが、ここは賢明に動くとしましょう」
しゅるるっ、と尻尾を脚に巻きつけるように収納し、槍を雪に突き刺して手を離す。
「そうしてくれると助かるわ。私はアンタと敵対したいわけじゃないし」
「しかし、するってえと、上条当麻の恋人は、あなた?インデックス?どっちなんですか?」
「しっ、ししし知らないわよ!そんなのアイツに聞きなさいよ!」
さっきまで余裕たっぷりだった美琴が急に慌てだすのを見て、レッサーはニヤリと笑う。
(ほほう。これは……)
「……上条当麻が今やってる戦い、インデックスのためなのはご存知ない?」
「……!」
美琴の心に軽い衝撃が走る。つい上条の方を見ると、まだ一方通行と話し込んでいる。
「あらあら、そんなことも知らずにわざわざ追いかけて来たんですか?」
本来、こんな言い方はしないレッサーだが、『新たなる光』最強というプライドを傷つけられて、攻撃的になっていた。
「あ、アイツの目的は何でもいいのよ!助けになるんなら何でも!」
「健気ですねえ?無事解決して上条当麻とインデックスが抱き合ってても、横で笑って拍手するってことですね?」
ここまで挑発すれば、能力の片鱗を見せるかも、と攻撃に備えて身を固くしたレッサーだった……が。
御坂美琴はうつむいたまま、何も言い返さない。動かない。
(分かっては……いたのよね)
前の上条の電話はイギリスからだった。そこから薄々は感じていた。上条がインデックスのために動いていることは。
しかし改めて他人から口に出して言われると、……心が締め付けられる。苦しい。
さっきもインデックスの話題が出ていたが、心を殺していた。
そもそも、一方通行に、上条の書き置きを解き明かしてみせたのは、自分だ。
――アイツがこんなアルファベットの羅列を? うーん、INDEX…インデックスって子の本名かしらね、シスターなんだけど。
――シスターだと? 待て、あン時の大食らいシスターが確かインデックス……そォか、『とうま』を探してると……!
――なに一人で納得してんのよ?
――繋がりやがったぜェ! ちっ、クソムカつくが、またアイツに会って聞かなきゃなんねェか。
でも、アイツは好きだから助けるなんて発想はない……はず。
私や妹達の時も、よくわからないトモダチとやらの時も、ボロボロになりつつも私を振り切った時も。
余計なことを考えず、突き進む。
なら、私も余計なことを考えるな。……助けられるヒロインの座はあの子でいい。私だってあの子が笑う結末の方がいい。
私は、アイツの背中を守れればいい、今はただ、それだけ――
美琴は軽く深呼吸した後、顔を上げ、腕組みをしてレッサーを睨みつける。
「もう一度言うわ。私はアイツを助けに来た。……ここまでご苦労様、レッサー。」
雰囲気が変わった美琴に、レッサーは息を飲む。
「アイツは私が守る!アンタが何考えてアイツの側にいるか知らないけど、邪な事を考えているなら覚悟しておくことね!」
◇ ◇ ◇
(ふーん、挑発には乗らず、ですか。まあスキはありそうなので、とりあえず良しとしますか)
「別に変な企みはないですよ。ヘッドハンティングみたいなもんです」
「ヘッドハンティング?」
「彼の力は非常に有益ですから。我々の組織の味方になってくれれば、これほど心強いものはないので」
「……」
レッサーはある意味軽く考えているようだが、美琴はそれが上条の命に関わることだと知っている。
「で、手っ取り早く色仕掛けしてるんですがね。どうにも反応がなくて困ってたんですよ」
「あのね……」
呆れつつ、遠回しにでもその危険性について、美琴が一言言おうとした時。
ザシュッ!
振り向くと、一方通行が凄まじい速度――ベクトル反射走法で帰ってゆく、その後姿が見えた。
上条と話がついたようだ。
上条は首をすくめて見送った後、美琴の方へやって来た。
「……アイツと和解、したのか?その辺は話題に出なかったけど」
「ま、休戦てとこね。許しも和解もしないけど……ラストオーダーを守るって言われちゃーね……」
「アイツも変わったみたいだな……ま、結論は後で出せばいいよな」
「で、アンタまたアクセラレータと戦って、しかも勝ったんですって? ……あんな怪物にどうやって勝てるのよ」
「今回はアイツ何かおかしかったからな。攻撃が単純で読みやすかったし」
そんなレベルじゃねえでしょ、とレッサーは横から激しくツッコミたかったが、じっと我慢して言葉を飲み込んだ。
「そんなことよりオマエだ!なんでこんなトコまで来てんだ!」
「だから手伝いに来たって言ってるでしょ!」
「手伝いのレベル超えてっだろ!女の子が戦争の最前線に来てどーすんだ!」
「め、迷惑だっての?レベル5が手伝うって言ってんのよ!?」
「ハッキリ言って迷惑だ。守りきれる自信がねえ、それぐらいヤバイ敵なんだ」
ぐっ、と美琴は唇を噛みしめる。
「お姫様扱いしないでよ!自分の身は自分で守る!」
上条は更に言い募ろうとしたが……
こんな所まで来たのだ、伊達や酔狂ではない。美琴なりに本気らしい。
「はあ~。……くっそ、もうしょうがねえな」
必死な顔になっていた美琴の顔が緩む。
「じゃあ、居ていいのね?」
「まあ来たことについてはもうとやかく言わねーよ。ただ、な……」
「何よ」
「お前がお嬢様なのが問題なんだ。アウトドアの経験ねえだろお前?そのカッコと、その荷物がなあ……」
上条は美琴のリュックを検分しだした。
「やっぱりなー、シェラフ入ってねえ…簡易食料は入ってるからメシは数日OKと……防寒が弱ぇな」
美琴はリュックを拝借したとき、大きな衣類の固まりのようなものを置いてきたのを思い出していた。
邪魔だったからなのだが、あれがシェラフだったか、と美琴は今さらながら悔やむ。
「も、毛布貸してもらえたら寝るのはなんとか……」
「アウトドア経験もねーくせに、よく乗り込んでくるなまったく」
「だって、アンタがッ……!」
思わず想いを口に出しかけて、美琴は押しとどまった。
上条の姿をTVで見て、そしてあの悪意ある指令を見た瞬間、上条の許へ行くことしか考えられなくなったのだから。
白井黒子は夢にも美琴がロシアに居るなどと思っていないだろう。誰にも言わずに飛び出してきた。
「毛布も実は使いきって在庫切れなんだわ。どうすっかな」
「え……そうなの……」
上条は少し考えている風だったが、あるトラックの方に向けて歩きだす。そして振り返りつつ美琴に手招きした。
「な…何?どしたの?」
走りよって美琴は上条の横に並んで歩く。レッサーもついてきた。
「お前に見せるべきかどうか迷ったけどさ、同行する以上隠しきれねーから、ちょっと見てもらいたいものがある」
「……?」
「毛布がねえってのもコレが理由だ。相当覚悟して見てくれ」
レッサーには入らないように合図を送り、上条と美琴はトラックの後ろに乗り込んだ。
そのトラックの中は、即席のベッドがしつらえていた。
幾重にも毛布がひかれ、走行中の振動ができるだけ患者の身に及ばないように。
近づくと、毛布の山の中から、……包帯と絆創膏で覆われた顔が見えた。
美琴は息を飲んだ。
それは、そうであっても自分の顔だと本能的に分かった。醜く、ボコボコに腫れ上がった顔であっても。
どれだけ殴打されたら、こんな顔になるというのか。もはや原型は、見受けられない。
「どういう……こと……?」
「シスターズ関連だとは思うが、ソイツが意識取り戻さないと何も分かんねえ」
「そんな……」
「顔の傷もひでえが、腕も折れてたりな。応急処置はしたけど。あと、後頭部のあたりもすごい裂傷があったんだが」
上条はショックを受け呆然とする美琴を見やる。
「不思議なことに血は誰かが止血してくれててさ。状態は安定してるから、意識戻ったら拠点に送るか決める」
「誰が……こんな目に?」
「……」
上条は一瞬ためらったのち、口を開いた。
「おそらく、アクセラレータ」
「そんな…!」
「俺のカンだけど、アクセラレータに挑んで返り討ちにあったんじゃないかと思う。このスーツ用らしき翼の破片が落ちてた」
上条は少し毛布をめくりあげ、白い戦闘スーツが露出している部分を見せる。
戦闘スーツは特殊構造らしく、どうしても取り外せなかった部位があった。
「この子が空中から奇襲したって言うの……?」
「状況から見ると、だけどな。止血もアクセラレータがやったんだろう。他に該当する奴がいないんだよ」
美琴はうるんだ瞳でそっと、顔の腫れ上がった少女に手を触れる。
「それにしても、ここまでしなくても……」
「キレると止まんねーんだろう、アイツは。もしくは、ここまでやらなきゃ戦いが終わらなかったか……」
美琴がその少女の髪を掴むように触れたと同時に。
ミサカワーストはうっすらと目を開けた。
「だ、大丈夫?私が分かる!?」
「……お…姉様、か……ゴメン…ね~、貰った顔……こん…なにしちゃっ…てさ」
「無理してしゃべらなくていいからね!?」
「ミサカは…大丈夫…だよ。失血しすぎた……だけ…」
「名前だけ…聞かせて?」
「名前はない……けど……ミサカワースト、とでも……お姉様が助けた…シスターズの…次世代、サードシーズン・シスターズ」
美琴の受けた衝撃は、計り知れなかった。
同様に衝撃を受けた上条が怒鳴る。
「まてよ!あの計画は終わったんじゃねえのかよ!」
「そもそも…計画…レディオノイズ計画……も…絶対能力進化計画も…偽装……の…はず…」
「何ですって!」
「事実、ミサカは……二億ボルトクラス……レベル4に匹敵…するよ? これで欠陥電気…って言える?」
「そ、そんな…」
あまりの事実に、上条と美琴は声を失う。
そして。ミサカワーストはぽつぽつと語る。
――アクセラレータを精神的、もしくは物理的に殺すために生まれ、送り込まれた事。
――シスターズは感情が乏しいだけで、全ての痛み・恨みは忘れていない事。
――サードシーズンが始まれば、御坂妹をはじめ現シスターズは不要となる事。
――等々。
「ふっざけやがって!学園都市は何考えてやがんだ!」
美琴は黙ってPDAを取り出し、キャッシュに保存されたある画面を表示すると、上条に差し出した。
「ん、何だ?」
「読んで」
それどころじゃねえだろ、といった表情だった上条も、PDAに目を走らせるうちにこわばってゆく。
「俺を捕獲……死んでさえいなきゃ手段は問わず……」
「私はこの情報を掴んで、ここに来た。帰ったら、今度の敵は学園都市だと思った方がいいわよ」
静かに怒る美琴に、上条はゆっくり頷いた。
「学園都市は、アクセラレータや俺のような計算できない学生なんぞ、自由にさせる気まるでなし、か」
「クソッタレの上層部に、お仕置きしなくちゃね」
お上品とはいえない言葉を吐いて、美琴は決意を染み込ませるかのように目を閉じた。
「ミサカワースト、お前はこれからどうするんだ?」
「そうだね…死ぬルートしかなかったのに……戻ったらスクラップ……かな…」
「アンタは生きるのよ。カエル先生のとこにいくしかないのかな」
「俺たちにできるのはその程度なのが歯がゆいな」
「ミサカの…存在は……学園都市が許さないと思うから…たぶん、巻き込むよ……」
「わかった、お前は少なくとも俺と同行しろ。ケガの治りは遅くなるけど、ずっとここで寝てろ。街には戻らない」
「可能なら、それがいいわね。世話は私がする」
「やめた方が……打ち捨てて行った方が…いいよ」
「そんなことよりアンタ。その…さっき負の感情を拾いやすくなってる、って言ったわよね」
ミサカワーストは微かに頷く。
「そんな死ぬしか無い運命だったのに……私を恨んでないの?私のせいで、そんな……」
「ミサカネットワーク上には、…お姉様に対する恨みなど、無い。…生命を与えてくれた感謝しかない」
「…アンタたちってば……」
「恨みのようなもの、なら……一つは…ある…けど」
「え、何?」
「シスターズの恩人に対して。お姉様ひとりだけ…いつも、ずるい、という感情が…あるよ」
脳に意味が浸透するやいなや、真っ赤になった美琴は分かった分かったと手をバタバタして、話を止める。
横では上条が首を傾げていた。
再び眠りについたミサカワーストを置いて、2人は外に出た。
仲間はずれにされていたレッサーはブンむくれだ。
上条は空を見上げた。もう夜の気配だ。
「ここで野営だなこりゃ。朝一で国境越え狙いってとこだろうな」
「でしょうね。フィアンマの奇襲以外は、ここで攻撃を食らうことはまずないでしょう」
美琴は、野営というものの現実味に、不安を隠せずに居た。
さっき上条に指摘されたように、着替もシェラフもない。
上条はレッサーに耳打ちすると、もう一度ミサカワーストのいるトラックに潜り込んだ。
レッサーは美琴を見つめ、つかつかと近寄ると、ニヤけたような笑いを含んだ表情で話しかけた。
「んじゃ、行きますか」
「…どこへ?」
「トイレですよ。真っ暗闇でやるのは素人にはおすすめ出来ません」
「トト、トイレ?あ、え、でも、まだ……」
「真夜中、彼に懐中電灯で照らしてもらいながら、用を足すなんて、私なら耐えられませんよ」
◇ ◇ ◇
美琴はずどーんと落ち込んでいた。
学園都市にいればありえない経験をしたことと、その行為を…好きな人に知られているという事実。
(ほんとありえないってば……アンタのために来たんだから、責任とってね、って言いたいぐらいだわ!)
そんな美琴の心境を知ってか知らずか、上条は気さくに美琴に話しかける。
「んじゃ御坂。お前はこのシェラフ使え。俺が借りてた奴だけど」
「え…アンタはどうするの?」
「さっき、ミサカワーストから毛布を1枚貰ってきた。これで大丈夫」
綺麗な毛布は全部ミサカワーストに使ってしまっていた。
「い、いや、いいわよ!私が忘れたんだから!毛布でいいってば!」
「わざわざ来てくれたヤツに、風邪引くような事はさせねえよ。お前はゆっくり休め」
「で、でも」
「『こういうのは断った方が気まずくなんのよ~』なんてお前昔言ってたよな?そーゆーことだよ」
偽装デートの時の事を引き合いに出され、美琴はモゴモゴと口ごもる。
夜の帳が下りてきた。
満天の星空の元、美琴とレッサーはテントの中でシェラフにくるまっている。
ぼそっとレッサーがつぶやいた。
「行きたいんでしょ?行ってきたらいかがです?」
「な、なに言ってんのよ!」
「流石にね、毛布一枚でロシアの夜は厳しいですよ。後ろめたいんでしょ?」
「う……」
「あなたのその、ここまでやってくる積極性と、その消極性が、さっぱり理解不能です」
「あ、アンタのそういう勧める所が私には理解不能よ!」
「まあ、相当の奥手のようですし。行ったところで大したことはできないでしょうし」
「ぐ…」
「お好きに。私は寝ますよ。おやすみなさい」
「お、おやすみ……」
(複雑な思いはありますがね。しかし、この女を味方に引き込めば、上条当麻も芋づる式ってヤツですし)
レッサーは大義で動く。個人的な思いは奥深くしまいこみ、ぎゅっと目を閉じた。
美琴はそっとテントを出ると、真っ暗闇……ではなく、星明かりで非常に視界は良かった。
しかも、目的のトラックからランタンの明かりが漏れていた。上条は看病も兼ねて、トラックの中にいる。
さくっ、さくっ、とゆっくり雪を踏みしめ、美琴はトラックの後ろにたどり着き、そっと中を覗く。
上条は、ミサカワースト用簡易ベッドにもたれかかり、……なにやら話しかけているように見える。
美琴は無言で上がり込む。
上条は口を開きかけて固まった。シェラフを持ち込んできた美琴を見て、警戒信号が走ったらしい。
「何話してたの?起きてるの?」
「いや、寝てる……まあその何だ。負の感情なんてのに縛られんじゃねーぞってな。意識下にでも言葉が残ればな、と」
「ふーん……」
ちょっと美琴はジンときていた。上条のこういうところが、美琴には堪らない。
「で、そのシェラフは何だよ。看病は俺だけでいいぞ」
「え、えーと、一緒に寝ようかな、なんて……」
口をあんぐりとしている上条をよそに、こんなこと何でもないのよと言いたげに、美琴は早口で喋りだした。
「これ使ってみたんだけど、結構大きいわよ。2人で使っても問題ないと思う。
もちろん向き合ったら手足が邪魔だから、同じ方向に向いてさ。アンタの背中側に私、もぐりこむから」
ロシア製ミリタリーシェラフは耐寒に優れているが、さらにブーツを履いての重装備でも寝られるようになっている。
女性が使うには確かに大きく、並のシェラフのレベルではないが、しかし問題はそんなことではなく。
「年頃のお嬢様が、何を言ってるんでせう?」
「アンタが私をお年頃と思ってたなんて驚きだわ。まあ、遭難して身を寄せ合うのと、似たよーなものでしょ」
「いや、さすがにこれは。テ、テントに戻りなさい」
「妹もいるし、へ、変なことにはならないでしょ?」
ミサカワーストが起きる気配はひとまずないようだ。
「へ、変て?」
「知らないわよ!」
美琴は上条から、なけなしの毛布を奪い取り、下に敷くと、その上にシェラフを広げた。
「明日早いんでしょ?早く寝よ。さあ」
上条はこの誘いにすさまじく葛藤していた。
(何考えてんだこいつは! いや、俺が変な方に考えすぎ? で、でもこんな密着して寝るとか、やっぱマズイだろ!)
しかし考えていても、容赦なしに寒さはじわじわと侵食してくる。
美琴も少し震えだしている。
上条は覚悟を決めた。
「わ、わかった。じゃあ先に……」
シェラフに潜り込み、できるだけ後ろにスペースが出来るように小さくなる。
後ろから美琴がゆっくりと……上条に触れないように意識してるのか、あまり接触を感じないままに入り込んできた。
「ね、大丈夫でしょ」
「あ、ああ…」
二人は異常に緊張したまま、数秒固まっていたが、美琴がすぐ気付いた。
「あー。アンタの背中と距離とっちゃうと、冷気が入ってきちゃうのね……寒いわこれ」
「まあ、しょうがねえだろ」
美琴はここまできたら、と意を決した。
美琴はぴったりと上条に寄り添った。右腕は(痺れを覚悟して)折りたたみ、左腕は上条の体にまわして。
「腕邪魔だからそっちに回すわね。これで大丈夫かな」
上条にしてみればたまったものではない。年頃の女の子に背中から抱きつかれているのだ。
結局着替もなく、美琴は着たままの厚着である。体の凹凸が、上条に伝わっているわけではないのだが。
返事をしない上条を放っておいて、美琴はつぶやき出した。
「ふ~、これでぬくぬく。シェラフなんて初めて使ったけど、こんなに暖かいなんてね~」
上条のツンツン頭がうっとうしいのか、美琴はベストポジションを探し始めた。
背中でごそごそ動く美琴を感じ、上条は。
とりあえず冗談ぽく返してみた。
「お、お前、俺をでかいヌイグルミ扱いしてねーか?きるぐまーだっけか」
「そうそう。抱き枕っていうにはアンタゴツゴツしすぎ」
美琴は結局、ツンツン頭は下手に距離を取るとどうにも邪魔であると判断し、額で上条の後頭部を押さえつけるようにした。
確かにこれで上条の髪が美琴を煩わせる事はなくなったが……
「御坂お前な!お前の息が俺の首モロ当たってるって!こんなの寝れるか!」
美琴の吐息が上条の首や耳に吹きかかる。こんなもの耐えられるワケがない。
「あ、ごめん。上むいて、かからないようにするね」
美琴は、幸せで一杯だった。正直、向い合ってとか、抱きしめられて、とかならば、緊張の方が大きかったかもしれない。
でも背中なら、緊張感も少なく、あまり照れずに抱きつくことが出来た。
そして上条は、背中に伝わる美琴の体温と、耳に入ってくる吐息の音によって、眠気が完全に吹っ飛ばされていた。
美琴が大きなため息をついた。
「よくよく、今日は私無茶苦茶してきたなあって思うわ……」
眠れない上条は、どうやら美琴が色々話したがってるのを察し、話に乗る。
「まったくだ。それはそうと、今、あっちはどんな状況なんだ?」
「ええとね……」
美琴はここ数週間の話をかいつまんで話し出した。
学園都市の鉄壁の防御の話には目を丸くし、出席日数の話では嫌な汗が出て。
「一端覧祭できんのかね、こんな状況で」
「みんな楽しみにしてるんだけどねー。戦争さえ終わってくれれば、すぐに開始出来る状況ぽいけど」
「準備なにも手伝ってねえから、つるし上げだな……」
「もし開催されたらさ、一緒に回らない?予定何も入れてないだろうから、埋めてあげるわよ」
「ああ、そうだな。俺記憶ねーから、色々教えてくれると助かる」
美琴は密かにガッツポーズである。
美琴は一方通行やインデックス、ミサカワーストに絡む話は避けていた。
今のこの時間、深刻な話で潰したくはない、という思いからだ。
「ところでさ、さすがに同じ体勢では痺れてきたんだけど、そっちはどう?」
「確かにちょっと寝返り打ちてえ」
「じゃあお互い反転しよ。別に腕こっちにまわしてきてもいいけど、変なトコ触らないでよ」
「う……」
美琴はぐるっと反転して後ろを向いた。痺れていた右手が開放され、気持ちいい。
上条もゆっくりと反転したが、……固まった。
(え~っと。これで御坂の体に手を回し、抱きしめる、と。……いやいやいやいや、これはマズイ!)
女→男なら、それほどでもない事が。
男→女なら、これほどまでに。
この時点で、美琴の髪の香りが上条の鼻孔をくすぐる。
そうして躊躇ってる間にも、隙間に冷気が入ってきており、せっかく温もったシェラフ内が冷えてくる。
「何してんの?寒いじゃない」
(ええい!御坂を妹と思え!変に意識するからダメなんだ!)
上条は美琴に体を寄せ、包みこむように優しく抱きしめた。
美琴の体がビクッと震える。
「あ、変なトコ触っちまったか?」
「ううん、大丈夫……むしろスキマで寒いから、遠慮しないで、もっと、……ぎゅっと」
上条は吹っ切れた。大きく身動きし、美琴を胸に抱え込むようにぴったり抱きしめた。
(つまんねー事考えるな、俺! ただ2人暖かくして寝るだけだ!)
「御坂、もう無理にでも寝ようぜ。明日は朝日が顔だす時にはもう起きなきゃなんねえぞ」
「う…うん」
「……来てくれてありがとうな御坂。おやすみ」
そうして上条は、変な意識が脳を支配する前に、温かい気分で眠りに落ちていった。
一方、美琴は。
上条を背に、涙をポロポロこばしていた。
ありがとう、って言ってくれた。……来て、良かった…!
美琴は上条に抱きすくめられながら、満たされつつ……眠りについた。
――起きる予定時間のやや手前で。
上条は左腕の痺れで目覚めた。まわりはまだ全く静かだ。
ぼんやりと、現状を認識する。ええと、昨日は……何故か御坂と一緒に寝る事になったんだよなあ、と……
じゃあ今、この俺が抱きしめているのは、御坂ということで……
美琴はまだ寝ていたが、いつ寝返りをうったのか、上条の方を向いていた。額が上条の顎の下にある。
上条は、可愛らしく小さくなっている美琴を抱きしめて、寝ていたようだ。
……守ってやんなきゃなあ。
自然に、素直に、上条はそう思った。
御坂って、こんなに小さかったんだな、とも。
いつも大きく見せているけど、等身大はこんな女の子だ。
あのPDAの情報を見て、コイツは全てを捨てて駆けつけてくれた。
全ては、俺を助けるために。
必ず守りきって、一緒に帰る。
――行くぜフィアンマ。お前に負けるわけにはいかねえ理由が、また増えた。
上条は改めて、すうすうと眠る少女を抱きしめる腕に、力を込めた。
fin.