5.最終日
「~~~♪」
鼻歌を歌いながら商店街を歩く。
一人でいたのならそれは不審がられるかもしれないが今は隣に人がいる。
美詠はハート型のペンダントを揺らしながら上機嫌だ。
隣の人物、当瑠は怪訝そうに美詠を見ている。
一人でいたのならそれは不審がられるかもしれないが今は隣に人がいる。
美詠はハート型のペンダントを揺らしながら上機嫌だ。
隣の人物、当瑠は怪訝そうに美詠を見ている。
「なぁ」
「なに?」
チャリ、とペンダントを揺らして振り向く。
店を出る前に何度も見た当瑠の姿をもう一度確認する。
特徴的な茶色のツンツン頭、整ってはいるもののすこし気だるそうな表情
そして、銀色のペンダントだ。
店の中では彼の鈍感さに改めて愕然とさせられたが怒るのを我慢して
ペンダントを買った甲斐があった。
だが、当瑠が気になっているのはペンダントらしい。
店を出る前に何度も見た当瑠の姿をもう一度確認する。
特徴的な茶色のツンツン頭、整ってはいるもののすこし気だるそうな表情
そして、銀色のペンダントだ。
店の中では彼の鈍感さに改めて愕然とさせられたが怒るのを我慢して
ペンダントを買った甲斐があった。
だが、当瑠が気になっているのはペンダントらしい。
「なぜ私めの名前でなく貴方様の名前が彫られているんでせう?」
「私が買おうとしたのにアンタがこれ買っちゃうからでしょ?」
これ、とハートのペンダントを指差して美詠はなんとなしに返す。
本当はどちらも当瑠に買おうと思っていて悩んでいたものだ。
それを自分のために買うと勘違いした当瑠がペンダントを買ってしまった。
結果的に当瑠からのプレゼントということで美詠なりにかなり嬉しかったし
そのお返し、という名目で自分の名前を彫った銀色のペンダント当瑠に渡せたので結果オーライだ。
本当はどちらも当瑠に買おうと思っていて悩んでいたものだ。
それを自分のために買うと勘違いした当瑠がペンダントを買ってしまった。
結果的に当瑠からのプレゼントということで美詠なりにかなり嬉しかったし
そのお返し、という名目で自分の名前を彫った銀色のペンダント当瑠に渡せたので結果オーライだ。
「いや、だから、なんでわざわざお前の名前をと聞いているわけでして」
「彫ってる途中でアンタが買うから変更するわけにもいかなかったのよ」
ちなみにそれは嘘だ、本当は彫る直前だったが何とかそれを隠して
店員に作業を続けさせ、作り上げた。
店員に作業を続けさせ、作り上げた。
「・・・・・・そんなにイヤなの?」
チラチラといちいち気にしながら当瑠に問いかける。
確かに恋人でもない女の名前が彫ってあるペンダントをつけているのは
もしかしたら好きな女子がいるかもしれない男にとっては煩わしいかもしれない。
でもそれだったら美詠ははっきり言ってほしかった。
確かに恋人でもない女の名前が彫ってあるペンダントをつけているのは
もしかしたら好きな女子がいるかもしれない男にとっては煩わしいかもしれない。
でもそれだったら美詠ははっきり言ってほしかった。
「い、いや!違うぞ!上条さんは美詠さんのことが嫌いというわけでなくてでしてね
あー!そんな目で見るな!見るんじゃない!見ないでくださいの三段活用!
はいはい分かりました!私めはただちょっと気恥ずかしいだけでして本当はむちゃくちゃ嬉しいんですことよ!」
あー!そんな目で見るな!見るんじゃない!見ないでくださいの三段活用!
はいはい分かりました!私めはただちょっと気恥ずかしいだけでして本当はむちゃくちゃ嬉しいんですことよ!」
「本当?」
必殺の(とは言うものの美詠自身にその自覚は無い)上目遣いで当瑠を見つめる。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・はい」
当瑠は静かに頷ずいた。
☆
「・・・・・・できた!」
人気のない公園内に少女の達成感に満ちた声が木霊する。
「ん~中々の出来じゃない?」
出来上がった作品、砂場に作られた城に見惚れながら呟く。
城の周りには四つの塔が立っており、城を守るための外壁はもちろん
外の堀まで精巧に造られていた。
大きさも二人で造ったにしてはかなり大きめで子供向けの遊び道具の
結構高価なミニチュアの家を連想させる。
城の周りには四つの塔が立っており、城を守るための外壁はもちろん
外の堀まで精巧に造られていた。
大きさも二人で造ったにしてはかなり大きめで子供向けの遊び道具の
結構高価なミニチュアの家を連想させる。
「ママのおかげだよ!」
同じように見とれながら見ている美春も嬉しそうに両手を上に挙げて手放しに喜んでいる。
それは美琴の一番見たかった美春の表情であり、彼女に自分が母であることを自覚させた表情だ。
造り上げるのに苦労した分返ってきた報酬が大きく美琴は疲れも吹き飛んでしまった。
それは美琴の一番見たかった美春の表情であり、彼女に自分が母であることを自覚させた表情だ。
造り上げるのに苦労した分返ってきた報酬が大きく美琴は疲れも吹き飛んでしまった。
「よしよし、それじゃこれ写真でも撮っておきますか?」
せっかく造った物を何もせずに崩してしまうのはもったいない、そう判断して美琴は
自分の携帯を取り出しカメラ機能を起動させる。
自分の携帯を取り出しカメラ機能を起動させる。
「みはるもいれてー!」
美春が無邪気にはしゃぎながらカメラの範囲内に入ってくる。
だが、肝心の城の前に仁王立ちするように立ってしまっているので
メインが移り変わってしまったものが撮れる。
美琴は苦笑しつつ自分の位置を動かして再度シャッターを切る。
若干斜めになったものの城と美春の全景が撮れた写真が出来上がった。
だが、肝心の城の前に仁王立ちするように立ってしまっているので
メインが移り変わってしまったものが撮れる。
美琴は苦笑しつつ自分の位置を動かして再度シャッターを切る。
若干斜めになったものの城と美春の全景が撮れた写真が出来上がった。
「ママ!ママもいっしょにはいろ!」
「分かった分かった、ちょっと待ってなさいよ」
言いながら美春と真逆の方に顔を向ける。
そこにはベンチに座って『私関係ありませんオーラ』を放つ上条がいた。
ただ美琴から見たらそう見えるだけでその実、上条自身は娘と一緒になって
無邪気に遊んでいた美琴が可愛く見えたのが恥ずかしくて目線を逸らしている、ということには美琴は気付かない。
そこにはベンチに座って『私関係ありませんオーラ』を放つ上条がいた。
ただ美琴から見たらそう見えるだけでその実、上条自身は娘と一緒になって
無邪気に遊んでいた美琴が可愛く見えたのが恥ずかしくて目線を逸らしている、ということには美琴は気付かない。
「当麻ー」
声をかけるとゆっくりと顔が動き美琴と上条の目が合う。
上条はやり取りの方が聞こえていないのでどうしたと疑問の表情だ。
上条はやり取りの方が聞こえていないのでどうしたと疑問の表情だ。
「ちょっとこっちにきて写真とってくんない?」
携帯を指差して言うと上条も合点がいったのか緩慢な動きで
美琴と美春のところまで歩いてくる。
美琴と美春のところまで歩いてくる。
「写真とんの?」
美琴の目の前まで来て携帯を受け取りながら疑問を投げかけてくる。
「私と美春の合作よ?残さずに壊しちゃうなんて勿体無いわよ」
じゃお願いね、分かりましたよと言葉を交わして美琴は美春の隣に行く。
美琴は美春と背を合わせるため中腰になる。
美琴は美春と背を合わせるため中腰になる。
「じゃ、いくぞー」
上条が声をかけてくる。
後数秒すればシャッターが切られ二人の写真が出来上がるはずだった。
後数秒すればシャッターが切られ二人の写真が出来上がるはずだった。
――――御坂美琴は失念にしていた、上条当麻が不幸だということに
――――上条当麻は油断していた、今までの自分が幸福すぎたことに
「へへ、いっちばんのりー!」
ドン、と表現するのが正しいだろうか、上条の体が突然浮き上がり
体制を崩しながら美琴のほうに向かってくる・・・・・・否
体制を崩しながら美琴のほうに向かってくる・・・・・・否
苦労して造った城にだ。
ドシャァと盛大な、そして豪快な快音を立てて造り上げた城が上条の体重で崩れていく。
「・・・・・・あれ?みことねーちゃん?」
そんなとぼけた声が美琴の耳に入ってきた。
一瞬呆然とした美琴だったがその声にはっと我に帰る。
視線を倒れた上条から声の聞こえた方に移すと美春と同じか、少し上くらいの少年が
不思議そうな表情で美琴のほうを見ていた。
視線を倒れた上条から声の聞こえた方に移すと美春と同じか、少し上くらいの少年が
不思議そうな表情で美琴のほうを見ていた。
「あ・・・・・・あぁ・・・・・・」
絶句する。
美琴はその少年に見覚えがあったからだ。
それと同時に一気に不安が上乗せされていく。
子供たちが少年に連れられるように寄ってくる。
美琴はその少年に見覚えがあったからだ。
それと同時に一気に不安が上乗せされていく。
子供たちが少年に連れられるように寄ってくる。
「ほんとだ!みことおねえちゃんだ!」
「なにしてるのー?」
続々と子供たちが美琴の目の前に立ちはだかるように視線を向ける。
子供たちは美琴が去年の夏休みに出会い、そして美琴が一番に注意していた
『あすなろ園』の子供たちだった。
子供たちは美琴が去年の夏休みに出会い、そして美琴が一番に注意していた
『あすなろ園』の子供たちだった。
「ど、どうしてここに?」
普段は園内の運動場で遊んでいる子供たちだ
特別な用事でもない限り運動場の遊具で遊び足りているはずだし
わざわざ来るとは思いもしなかった。
子供たちはその質問に顔を一瞬だけ見合わせ美琴のほうに再度顔を向けると
特別な用事でもない限り運動場の遊具で遊び足りているはずだし
わざわざ来るとは思いもしなかった。
子供たちはその質問に顔を一瞬だけ見合わせ美琴のほうに再度顔を向けると
「きょうはおでかけのひなのー!」
――――あー、なーるほど、遠足みたいなものなのねー
「不幸だ・・・・・・」
砂場に倒れ伏しているツンツン頭の少年の口癖を思わず呟く。
まさしく最悪のタイミングだったといっていい
幼稚園や保育園、その他子供を預かる施設の数々が
普段行かない場所に行くことを企画するのは当たり前だ。
遠出の行事が小学校や中学、高校の特権ではない。
長期休暇なのに行事を計画したのは『あすなろ園』だからだろう
長い休みに出かけることを知らない子供たちのために今日、この日を選んで
子供たちを連れてきたのだ。
肝心の先生がいないのが不思議だが、お手洗いにでも行っているのかもしれない。
まさしく最悪のタイミングだったといっていい
幼稚園や保育園、その他子供を預かる施設の数々が
普段行かない場所に行くことを企画するのは当たり前だ。
遠出の行事が小学校や中学、高校の特権ではない。
長期休暇なのに行事を計画したのは『あすなろ園』だからだろう
長い休みに出かけることを知らない子供たちのために今日、この日を選んで
子供たちを連れてきたのだ。
肝心の先生がいないのが不思議だが、お手洗いにでも行っているのかもしれない。
「ねぇねぇ」
「え?」
一人の女の子がくいくいと自分の袖を引っ張っている。
短いブラウスなのでその子との距離は近いが驚きはしない
だが美琴は不吉な予感がしていた。
短いブラウスなのでその子との距離は近いが驚きはしない
だが美琴は不吉な予感がしていた。
「このおにいちゃんはだれ?」
どうすればいいだろう。
答えは用意していたはずなのにそれが答えられない。
思考が飛んでしまっているのかもしれない。
答えは用意していたはずなのにそれが答えられない。
思考が飛んでしまっているのかもしれない。
「え、えぇっと、その、コイツは私の・・・・・・」
「わかった!こいびとでしょ!」
「!!!!!!???」
その子にとっては些細な一言だったかもしれないが
美琴には何よりもすさまじい威力を持った一言だ。
恋人、今の自分たちはそう見えただろうか、遠目から見て
客観的な視点で二人のやり取りを見て思っただろうか
小さな子供の言葉だと分かっていてもそう見えたのなら、嬉しい。
美琴には何よりもすさまじい威力を持った一言だ。
恋人、今の自分たちはそう見えただろうか、遠目から見て
客観的な視点で二人のやり取りを見て思っただろうか
小さな子供の言葉だと分かっていてもそう見えたのなら、嬉しい。
「は・・・・・・あはは、ちが、うわよ?コイツはただの、ただの友達で」
それでも恥ずかしくて、恋人とはいえなかった。
未来ではそれ以上かもしれない、だが今はまだ告白だってしていない
上条のほうも意識はしてくれていると思うが何もしていないし、されてもいない。
子供たちは不審そうに、信じていないような顔つきだったが
すぐに笑顔になって美琴の隣にいる美春を引っ張る。
未来ではそれ以上かもしれない、だが今はまだ告白だってしていない
上条のほうも意識はしてくれていると思うが何もしていないし、されてもいない。
子供たちは不審そうに、信じていないような顔つきだったが
すぐに笑顔になって美琴の隣にいる美春を引っ張る。
「じゃぁ、このこはおねえちゃんのいもうとでしょ?いっしょにあそんでもいい?」
それも違う、その子は自分の娘だ。
そう思って言おうとしても流石にそれはいえない、絶対にだ。
そう思って言おうとしても流石にそれはいえない、絶対にだ。
「え、えぇ、この子も喜ぶと思うから・・・・・・美春?いいかしら?」
美春は上条に城を崩されてから一言も言葉を発していなかったが
泣いてはいなかったらしく、美琴が聞くと迷いも無く頷いて
泣いてはいなかったらしく、美琴が聞くと迷いも無く頷いて
「うん!たくさんのほうがみはるもたのしい!」
言いながらあすなろ園の子供たちと遊具の方へ走っていった。
ホッとそこで息をつく。
かなり緊張したが相手の方が勘違いしてくれて助かったと胸をなでおろして
美琴は次の問題に目を向けた。
ホッとそこで息をつく。
かなり緊張したが相手の方が勘違いしてくれて助かったと胸をなでおろして
美琴は次の問題に目を向けた。
「・・・・・・当麻、そろそろ起きて?」
先ほどからピクリともしない上条に声をかける。
それでも上条は体を起こさない
暫くしても起き上がらなかったら腕を引っ張って体を起こしてやろうか
それとも電撃を使ってショックで強制的に起きあがらせるか
どちらかをしてやろうといつまでも起きない少年を見て思った。
それでも上条は体を起こさない
暫くしても起き上がらなかったら腕を引っ張って体を起こしてやろうか
それとも電撃を使ってショックで強制的に起きあがらせるか
どちらかをしてやろうといつまでも起きない少年を見て思った。
☆
ベンチに座りながら手元に先ほど買ったジュースを流し込む。
いつもと違って黒豆サイダーやらいちごおでんにカレースープでもない
普通のコーラだが何か物足りなく感じてしまい顔を少ししかめる。
缶ジュースを持ったままわいわいと騒がしい声の方に視線を向けると
ツンツン頭の少年がアホ毛の少女をはじめとした子供軍団に囲まれていた。
高校生の少年が珍しいのか子供たちは「でっけー」とかまるで少年が巨人かのように驚いている。
巨人(仮)である上条は少し黒焦げた服を着てどうしたものかと焦った表情をしながら
囲んでいる子供たちから逃れるためか追いかけっこを始めた。
逃げながら助けを求めようとしているのかチラチラとベンチに座っている御坂美琴を見る。
美琴は助けようともせずにただただ上条を目線で追うだけだ。
いつもと違って黒豆サイダーやらいちごおでんにカレースープでもない
普通のコーラだが何か物足りなく感じてしまい顔を少ししかめる。
缶ジュースを持ったままわいわいと騒がしい声の方に視線を向けると
ツンツン頭の少年がアホ毛の少女をはじめとした子供軍団に囲まれていた。
高校生の少年が珍しいのか子供たちは「でっけー」とかまるで少年が巨人かのように驚いている。
巨人(仮)である上条は少し黒焦げた服を着てどうしたものかと焦った表情をしながら
囲んでいる子供たちから逃れるためか追いかけっこを始めた。
逃げながら助けを求めようとしているのかチラチラとベンチに座っている御坂美琴を見る。
美琴は助けようともせずにただただ上条を目線で追うだけだ。
(結局あすなろ園の子達の面倒も任せられちゃったわね)
遅れてきた保母さんに安心して任せられるといわれ子供たちの面倒を見るように言われた。
保母さんは買出しがあるからといって後でまた迎えに来るといってもう二時間は帰ってこない。
よほど買うものがあるのだろう、まさか子どもたちのことを忘れるはずが無い。
保母さんは買出しがあるからといって後でまた迎えに来るといってもう二時間は帰ってこない。
よほど買うものがあるのだろう、まさか子どもたちのことを忘れるはずが無い。
「ぎゃあああああああああああああ!」
いきなりの悲鳴に思わず腰を浮かすと上条が子供たちに再度囲まれて
逃げ場を失い全方位から集団タックルを喰らっていた。
美春たち五、六歳の平均体重が19kg~21kgだとしても数十人ものしかかれば
200kg以上ある計算になる、60kg以上の上条でもひとたまりもないし
大人でも軽く押しつぶされる重さだ、下手すると(しなくても)大怪我するだろう。
逃げ場を失い全方位から集団タックルを喰らっていた。
美春たち五、六歳の平均体重が19kg~21kgだとしても数十人ものしかかれば
200kg以上ある計算になる、60kg以上の上条でもひとたまりもないし
大人でも軽く押しつぶされる重さだ、下手すると(しなくても)大怪我するだろう。
「どうだ!おれたちのほうがつよいぞ!」
子供の中でもリーダー格、ガキ大将らしい男の子がガッツポーズをとっている。
一体何の勝負をしていたか分からないが、どうせまた女の子に手を出したとかそんなところだと美琴は判断する。
(上条に意識は無いので彼がロリコンということではないはずだ)
一体何の勝負をしていたか分からないが、どうせまた女の子に手を出したとかそんなところだと美琴は判断する。
(上条に意識は無いので彼がロリコンということではないはずだ)
「ちょっとちょっと、大丈夫?」
流石にいたたまれなくなって上条に救いの手を差し伸べる。
「ふふ・・・・・・子供たちは話を聞いてくれません」
今にも泣きそうな表情で枯れる直前の花みたいにしおらしく上条は小さな声で呟く。
だが、子供たちは容赦なく上条を下敷きにし続けている。
だが、子供たちは容赦なく上条を下敷きにし続けている。
「怪人ツンツンネズミめまだしゃべるげんきがあったか!」
どうやらヒーローごっこをしていたようだ。
子供のネーミングセンスにすこし苦笑をしてしまったが
肝心の子供たちは名前などどうでもいいようでかなり本気で拳を上条にぶつける。
子供のネーミングセンスにすこし苦笑をしてしまったが
肝心の子供たちは名前などどうでもいいようでかなり本気で拳を上条にぶつける。
「あだだだだ!てめぇら少しは手加減しろ!」
「それ!じゃくてんをつけー!」
「うわ、やめろって!いだ!髪が!やめろ!それ針じゃねぇって
あ、いやー!抜ける抜ける!若干十六歳にして禿げになる!」
あ、いやー!抜ける抜ける!若干十六歳にして禿げになる!」
死ぬーと真面目に顔を引き攣らせて表情をゆがめる上条の顔は
とても表現できるような表情ではなくビニール袋みたいに引っ張られて
ひどい有様だ。
とても表現できるような表情ではなくビニール袋みたいに引っ張られて
ひどい有様だ。
「ぷっ!あ、ははは!何その顔!く、ふふ」
堪らなくなってひーひーと女の子がするとは思えない笑い方で
美琴は腹を抱えて笑う、上条が物凄い笑える顔で抗議をするが聞いていない。
美琴は腹を抱えて笑う、上条が物凄い笑える顔で抗議をするが聞いていない。
「おい!笑ってないで助けろよ!う、ぎぎ!」
そんな抗議をする上条の引っ張られる力が急速に抜ける。
上条が不思議そうにのっかている子供を見ると娘の美春がキョトンとした顔をして
上条の頭に生えていた糸のようなものを数本握っていた。
上条が不思議そうにのっかている子供を見ると娘の美春がキョトンとした顔をして
上条の頭に生えていた糸のようなものを数本握っていた。
「あ、かみぬけたよ」
可愛らしく、だが天使とはいえない笑顔になって握った掌を開く。
風が吹き上条の自慢のツンツン頭の一部はふわっと浮いてどこかに運ばれていってしまった。
風が吹き上条の自慢のツンツン頭の一部はふわっと浮いてどこかに運ばれていってしまった。
「いやああああああああああ!」
「ぷ、くく、ひ!ははは!」
悲痛な上条の叫び声と美琴の笑い声が公園中に響き渡った。
☆
「・・・・・・・・・・・・・・・いってぇ」
夜六時、日が暮れ始め辺りも暗くなってきている学園都市第十三学区を
上条当麻は自身の象徴とも言えるツンツンヘアーをわが子のようにさすりながら
御坂美琴と肩を並べている
背中おぶった美春は心地よさそうに寝息を立てていた。
上条当麻は自身の象徴とも言えるツンツンヘアーをわが子のようにさすりながら
御坂美琴と肩を並べている
背中おぶった美春は心地よさそうに寝息を立てていた。
「大丈夫・・・・・・?く・・・・・・くく」
隣を歩く御坂美琴が笑いを堪えながら聞いてくる。
「お前。何で助けてくれないんだよ」
あの後結局何本か子供たちに持っていかれ本気で若禿げを心配したが
幸い上条の頭部状況はいたって正常、オールグリーンだ。
ただ確実に禿げ始める年齢が下がった事は否定できないだろう。
幸い上条の頭部状況はいたって正常、オールグリーンだ。
ただ確実に禿げ始める年齢が下がった事は否定できないだろう。
「だ、だって、おもしろすぎて・・・・・・ぷぷ!」
もう笑うのは大概にして欲しいと上条は思う。
美琴の笑った顔は見ていても別になんとも無いが今の顔は馬鹿にした笑顔だ。
どうしたって喜べない。
美琴の笑った顔は見ていても別になんとも無いが今の顔は馬鹿にした笑顔だ。
どうしたって喜べない。
「・・・・・・もういいよ、先に帰っちまうぞ俺」
ちょっと拗ねてみる。
「あ、ごめんごめん!も、もうわらわ、ない、か、ら」
効果は無いらしい。
笑わないといいながらもう限界が来ていて爆発しそうな勢いだ。
笑わないといいながらもう限界が来ていて爆発しそうな勢いだ。
「・・・・・・はぁ、不幸だ」
一番に嫌だったのは自分の変な顔を美琴に見られたことだ。
多分だが人生でかなり乗員見はいるくらい情けない顔をしていたに違いない。
男として、好きな女性に自分の変な、情けない表情は見られたくない心情なので
上条ははっきり言って落胆している。
多分だが人生でかなり乗員見はいるくらい情けない顔をしていたに違いない。
男として、好きな女性に自分の変な、情けない表情は見られたくない心情なので
上条ははっきり言って落胆している。
「もう!ごめんってば!先行かないでよ!」
好きな女性、美琴が少し心配げな声で出して追いかけてくる。
「お・・・・・・い!」
やわらかい感触がした。
美春を通して伝わってきたのは美琴の手の感触だ。
片手で抱えるように美春を持っているので片方は手持ち無沙汰だった。
その手が握られている。
美春を通して伝わってきたのは美琴の手の感触だ。
片手で抱えるように美春を持っているので片方は手持ち無沙汰だった。
その手が握られている。
「笑ってごめん―――――ね?」
その表情は卑怯だ。
嫌われたと思ったのか、一人で帰るのがさびしいのか
どちらかは分からないが不安げな表情のそれは男なら
あがく事も出来ず彼女に落ちてしまうくらいに魅力的な表情だ。
心音が一気に高鳴っていくのが分かる。
それと同時に嫌な事をもう一つ思い出してしまった。
嫌われたと思ったのか、一人で帰るのがさびしいのか
どちらかは分からないが不安げな表情のそれは男なら
あがく事も出来ず彼女に落ちてしまうくらいに魅力的な表情だ。
心音が一気に高鳴っていくのが分かる。
それと同時に嫌な事をもう一つ思い出してしまった。
「・・・・・・なぁ」
「・・・・・・何?」
言ってしまっていいものか逡巡する。
言えば上条の気にしたことなどどうあろうと解決する。
言わなければこのままの関係を続けられる。
上条の中で言いたくない気持ちが強くなる。
言えば上条の気にしたことなどどうあろうと解決する。
言わなければこのままの関係を続けられる。
上条の中で言いたくない気持ちが強くなる。
「・・・・・・いや、なんでも、ない」
どもってしまったことで美琴を不審がらせてしまったらしい
やめようと決めた上条を揺さぶるように詰め寄ってきた。
やめようと決めた上条を揺さぶるように詰め寄ってきた。
「・・・・・・どうしたのよ?言いたいことがあるならちゃんと言って?」
当然二人の距離は近くなり、上条の頬は紅潮する。
きゅっと掴まれている手の力が強くなる。
だが痛みは無く、むしろ優しく包んでくれているような感覚すらある。
きゅっと掴まれている手の力が強くなる。
だが痛みは無く、むしろ優しく包んでくれているような感覚すらある。
「・・・・・・あのさ」
上条は美琴に屈した。
元から勝てる見込みの無い戦いだったのだから抵抗は無意味に等しい
それならばやる必要はなかったが美琴に上条が何を思っているか
何が嫌なことだったのか伝えたかった、そしてそれを聞くのが怖かったのだ
悩んだのは仕方の無いことだった。
元から勝てる見込みの無い戦いだったのだから抵抗は無意味に等しい
それならばやる必要はなかったが美琴に上条が何を思っているか
何が嫌なことだったのか伝えたかった、そしてそれを聞くのが怖かったのだ
悩んだのは仕方の無いことだった。
「今日の、ことだけど」
「今日?」
言いたい。
だが言った後のことが怖かった。
だが言った後のことが怖かった。
「美琴・・・・・・正直に答えてくれ」
妙に改まった顔をした上条に美琴は少したじろぎながらも
頷いて先を促す。
頷いて先を促す。
「分かった、それで?何なのよ?」
上条はすぅっと一度だけ深呼吸する。
彼の質問に美琴が肯定をしようが否定しようがどちらでも
上条の後の行動はすでに揺るぎないものになっていた。
彼の質問に美琴が肯定をしようが否定しようがどちらでも
上条の後の行動はすでに揺るぎないものになっていた。
「俺とお前はただの友達なのか?」
些細な一言だっただろう。
小さな子供が悪気も無く言った単純な疑問。
小さな子供が悪気も無く言った単純な疑問。
――――このおにいちゃんはだあれ?
答えに関してもそうだった。
――――コイツはただの友達で
『ただ』の友達。
今までならそれでも納得できた。
御坂美琴という一人の少女に対しての感情がその程度の時だったなら
その言葉は心が揺れる事はなかった。
だが、今は違う。
少女に対して友人としてではない恋愛感情以上のものを持ってしまった。
今までならそれでも納得できた。
御坂美琴という一人の少女に対しての感情がその程度の時だったなら
その言葉は心が揺れる事はなかった。
だが、今は違う。
少女に対して友人としてではない恋愛感情以上のものを持ってしまった。
――――自分の目の前にいて欲しい
離れるのが嫌になった。
視界にいるだけで心地よさを感じられた。
ずっと一緒にいるなんて無理に決まっている、そんなことは分かっている。
視界にいるだけで心地よさを感じられた。
ずっと一緒にいるなんて無理に決まっている、そんなことは分かっている。
――――それでも
それでも今いる時間、自分と絶対に離れなければいけなくなるまでは
――――友達なんかじゃなく
今の関係が不満だった。
初めはそれだけでよかった、どんどん足りなくなっていった。
初めはそれだけでよかった、どんどん足りなくなっていった。
――――それ以上の関係でいたい
突然背中の重みが消えた。
体はどこへとも分からず動く。
否、いくべきところは決まっていた。
体はどこへとも分からず動く。
否、いくべきところは決まっていた。
自身が愛する少女がいる場所だ。
☆
静粛、その言葉が一番適しているのではないだろうか。
あたりはすっかり暗くなり学園都市は夜の街へと姿を変えている。
その都市のとある学生寮の一室に二人の男女がいた。
あたりはすっかり暗くなり学園都市は夜の街へと姿を変えている。
その都市のとある学生寮の一室に二人の男女がいた。
「・・・・・・そろそろ、か」
外の景色と中の時計を交互に見ながら当瑠は呟く。
計算が正しければ今日の日付が変わる頃まで時空の歪みは発生しているはずだ。
それを超えればまた暫く未来には帰る事はできず、未来は変わってしまう。
当然、当瑠自身も存在しないことになり消滅することになる。
計算が正しければ今日の日付が変わる頃まで時空の歪みは発生しているはずだ。
それを超えればまた暫く未来には帰る事はできず、未来は変わってしまう。
当然、当瑠自身も存在しないことになり消滅することになる。
(俺が消えたら、コイツはどうなるだろう?)
ふと隣を見る。
当瑠の隣には美詠が足を崩して大人しく座っている。
隣にいても問題は無いが狭い部屋に若い男女が二人きり、しかも隣り合って座るというのは
非常に精神衛生上宜しくない。
当瑠はなるべく意識しないように他のことを考える。
当瑠の隣には美詠が足を崩して大人しく座っている。
隣にいても問題は無いが狭い部屋に若い男女が二人きり、しかも隣り合って座るというのは
非常に精神衛生上宜しくない。
当瑠はなるべく意識しないように他のことを考える。
(取り乱すか?いや、コイツに限ってそらないか)
普段の態度から見てそう思う。
多分驚きはするが、ただそれだけだ、あまり悲しんでくれないかもしれない。
多分驚きはするが、ただそれだけだ、あまり悲しんでくれないかもしれない。
――――胸がざわついた。
「美詠」
名前を呼ぶと美詠の体がピクッと震える。
驚いたわけではない、声をかけられての単純な反応だ
そんな仕草が、可愛らしく見えて当瑠はドキリとしてしまった。
驚いたわけではない、声をかけられての単純な反応だ
そんな仕草が、可愛らしく見えて当瑠はドキリとしてしまった。
「なに?」
寮に帰ってからは一言も話さなかった彼女は少しだけ顔をしかめて当瑠を見る。
「いや、そろそろ帰らなきゃいけないなと思ってさ」
親父にも連絡とらないとな、と言葉を続けると美詠は無愛想にそうねとしか答えず
正面を向いてしまう。
正面を向いてしまう。
「・・・・・・」
会話が続かない。
酸素が足りないわけでは無いのに息苦しく暑くも無いのに汗が吹き出てくる。
酸素が足りないわけでは無いのに息苦しく暑くも無いのに汗が吹き出てくる。
「連絡、してみるか」
テーブルに置いた携帯を手に取り登録した父親の番号を呼び出す。
未来に帰れば、この時代の番号は必要なくなる、最初で最後の通話だ。
未来に帰れば、この時代の番号は必要なくなる、最初で最後の通話だ。
「とっ・・・・・・」
携帯の通話ボタンを押そうとした時に手から携帯を取り落とした。
手が滑ったわけではない、美詠に手首を掴まれたからだ。
手が滑ったわけではない、美詠に手首を掴まれたからだ。
「おい!」
「・・・・・・待って」
何をするんだと抗議をしようとする声は出せなかった。
美詠の顔は見ることが出来ず、掴まれた手首に視線がとどまる。
美詠の顔は見ることが出来ず、掴まれた手首に視線がとどまる。
「――――まだ、帰りたくないの」
「――――お前、まだ」
声には不安と怯えが混じっている。
当瑠にはその理由が分かる、ただ口に出すことは出来ない。
それが、彼女の存在の否定になるからだ。
当瑠にはその理由が分かる、ただ口に出すことは出来ない。
それが、彼女の存在の否定になるからだ。
「わがままだって事は分かってる、でも・・・・・・」
「―――やめろ」
「まだ『普通』の女の子としてここにいたい」
「やめてくれ、それ以上聞きたくない」
「だって私は・・・・・・」
「やめろ!」
耳をふさぎたかった。
だが、体は動かずまるで鉛でものしかかっているかのようだった。
それでも、いくら心で願っても美詠の言葉は止まらず
少年の最も耳にしたくない『呼び方』を告げる。
だが、体は動かずまるで鉛でものしかかっているかのようだった。
それでも、いくら心で願っても美詠の言葉は止まらず
少年の最も耳にしたくない『呼び方』を告げる。
「『化物』だから」