とある魔術の禁書目録 自作ss保管庫

05章-3

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5.最終日







赤の景色。
視線をおろすとそこに『人だったもの』が転がっている。
中身の無い、ただの人形だ。

―――――どうして?

自分にこんなものが宿ってしまったのだろう。
望んで生まれたわけじゃない。
望んで手に入れたわけでもない。
望んで

―――――壊したわけじゃない

小さな体を動かして、自信が生まれた場所を目指す。

―――――おとうさん?おかあさん?

『だれ』が父親で『だれ』が母親なのか分からない。
そもそも両親などいただろうか、いたといえるだろうか。
私には、父と母が多すぎた。

―――――レベル6≪絶対能力者≫生産計画

父と母たちはその実験の被験者だ。
高校生の能力者はもちろん年端のいかない少年、少女をも被験者とし
能力者を人工的に作る実験だった。
様々な能力者の細胞を使い能力者を作り出す。



ベースとなる素体は≪超電磁砲≫が使われた。



私の身体は借り物だ。
私の脳には学園都市に存在した七人のレベル5をはじめとする能力者の
データが全てが入っている。
能力者の自分だけの現実、パーソナルリアリティを全て把握する事で
新たな能力が誕生する、全ての能力を司る能力者が現れる。

―――――だが私の脳は能力を吸収したと勘違いした

約九万人の脳≪スペック≫から生まれた能力者は
触れたものを吸収し別の物質に構築する能力を持った少女。
吸収構築≪ドレイン≫、今までに無い能力者の誕生に研究者たちは嬉々した。

―――――レベル6でなくてもレベル5なら作り出せる

『神ならぬ身にて天上の意思に辿り着くもの』をいつか作り出せる
いつかそこに辿り着く才能を持った『完成品』が生まれる。
能力者が増える事で現在≪いま≫を超えた九万以上の人の身体を持った
『化物』を作れると彼らは確信した。

ただ、それはかなわぬ夢となり闇に消えた。

―――――ワタシガコロシタカラダ





「ひ――――ぃぃぃ!」

情けない声をあげて男が這いつくばる。
周りには同志と信じた仲間と思っていた『物体』が転がっている。
『物体』には表情が無い、全て吸収されたからだ。
ドレインは吸収したものを物質に変えてしまう。
生きたものは作り出すことは出来ない。
生命体が吸収されれば吸収した生命体の形を持った『物』しか生まれない。

「たすけ、たすけて!たすけてくれ!」

制御したつもりの、手なずけたはずの『化物』が牙を剥き
同志たちを次々と殺していった。
そして、『化物』は目の前でゆらりと幽霊のように手をだらんとさせて
手の動きに合わせるようにふらふらと男との距離を詰めている。

その手には能力で作り出した鉄の塊を握り締めていた。

「い、やだ!死にたくない!死にたくない!」

身を震わせてしりもちで後ずさりをする
ドンと衝撃が背中に伝わると男の表情は一層青ざめた。
前方の『化物』の姿を確認する。

「ひぃ!」

男は目の前の『化物』の素体の少女の現在の容姿を知っている。
年齢は男の方が上だが、大学生に見えるくらいのスレンダーで美しい顔立ちの女性だ。
だがどうだろう、今の目の前の『化物』は目を充血させて無造作に伸びた髪は
昔に見たホラー映画の女を思い起こさせ、小さな身体に見合わない鉄の塊を軽々と振り回す。
とても男が目を奪われた女性に成長するとは思えなかった。

「ドウシテ」

突然『化物』が呟いた。
老婆のようにしわがれた声で小さく呟いている。
普段の歳相応の高い声ではない。

「ドウシテ、コンナコトスルノ?」

実験は残酷なものだった。
まだ歳が二桁も超えない少女の身体に様々な薬物を使用し
少しでも悲鳴を上げれば死なない程度に身体を傷つけた。


いつ死んでも分からない状況で、実験途中に暴走を起こした。


「オナジクルシミヲ」

「イッシュンジャタリナイ」

「サイゴノヒトリハ」

「イチバンツライメニ」

途切れ途切れにぶつぶつと呟いて男との距離を詰める。
最後の力を振り絞り、男は身体を動かすが思うように動かない。

「――――あ」

見れば、足が鉄の塊で潰されていた。

「ぎゃああああああああああああああああ!あし、あ、し、し!」

ぐりぐりと鉄の塊が動き神経が繋がったままのつぶれた足は尚も
痛みを男の身体に伝わらせる。

「アナタハヒトリ?」

すっと鉄の塊を持ち上げて『化物』は問う。
男は叫び続けかれた喉で最後の返事をする。

「……ひとりじゃない」

直後に視界は漆黒になり、ぐしゃりと何かが潰れる音がした。





「……わたしは」

取り返しのつかないことをしてしまった。
意識が戻り周りを見渡せば表情の無い『人形』とぐしゃぐしゃになった何かの塊。
なによりも胃から競りあがってくる物を吐き出す事から始めた。
吐しゃ物のはずなのに胃に入っていたものが水分だけだったせいか
液体が吐き出されただけだった。

「う……うぅ……」

自分が化物だと自覚した。
我を忘れて全てを壊すなんてことは理性の無い動物と変わらない。
そして、壊し方が理性の無い動物より遥かにたちが悪い。

「わたしは人じゃない」

小さな身体を一人で抱いて少しでも落ち着かせようとする。
だが無駄な事だ。
震えが止まるはずが無い。

周りの壊れた景色は私を責めたてている。
研究者たちが悪いのではない、彼らは与えられた仕事をしただけだ。
モルモットである自分の実験をしただけ。
そのモルモットが逃げ出して、勝手に殺された。
作られたおもちゃの手で殺された。

「ひぐ……うぇ……」

感情が相応の反応を示す。
脳のレベルはすでに同じ歳の遥か何倍だ。
だが、能力を抑えているときはただの『子供の化物』で
死には悲しみ、傷つけられれば痛みを感じる。
子供のはずだ。

「うく……ひっく」

腕を伸ばし落ちていたものを手に取る。
能力で作り出した、鉄の塊の欠片だった。
欠片の先端は鋭く尖り、頭部に刺し込めば一発で意識を手放すだろう。
腕を振り上げる。

「死んじゃえ」

自身に向けた言葉だった。
振り上げた腕で死ねばいい、人殺しの化物はそれであっさりと死ぬ。
同時に、ばかげた計画の実験も終る。
少なくとも自分は解放される、ずる賢い考えも持っていた。

「ばいばい」

思い切り振り下ろした腕は―――――――







「クソガキが……勝手に逃げてンじゃねェよ」






父の手で止められた。

「―――?」

訳が分からなかった。
どうして化物の見放さず見殺しにしないのか。
掴まれた右手首が少し痛む。

「……これはてめェがやったのか?」

「……」

痛いのは言わずに首を縦に振る。
父は表情を少ししかめさせたが向き直ると腰を落とし視線を合わせた。

「ここで起こした事は忘れろ」

「え?」

「これはてめェがやったンじゃねェ、俺のした事にしろ」

ますます分からなかった。
そのときは父とは初対面だったため警戒していた。
それなのに警戒していた男は自分をかばおうとしていたのだから当時の私には
狂人か何かにしか見えなかった。

「わかったか?返事はいらねェ、首を振れ」

強引に頭に手を当てられそのまま首を縦に振らされた。
あまりに乱暴で理不尽と思ってしまった。
理不尽と思えた。

「……おら、いつまでもぼけっとしてンなよ」

手を引っ張られる。
身体は抵抗の意思も示さないままふらふらと動く。

「どこに、行くの?」

辛うじて、掠れた声を搾り出す。
恐ろしかった、行く先が分からないことも、目の前にいた人物の不可解な行動も
自分がこの人物を壊してしまうかもしれない事も。

「あァ?決まってンだろ、帰るんだよ」

「かえ……る?」

帰る場所など無い、あったというならばその場所はすでに自身の手で壊している。
強く手を引っ張られ、父が顔を覗き込む。

「家になァ」

そして、私は家族を手に入れた。




「おい!美詠!!」

必死に声をかける。
一番聞きたくない言葉を一番聞きたくない人物から聞かされてしまった。
それだけで当瑠の心が揺さぶられる。

「……さわら、ないで」

「―――――っ!?」

肩に乗せていた手を払いのけられた。
美詠の表情は俯いていて見る事は出来ない。
見れたとしても見たく無かった。

「――――当麻さんと美琴さんの所に行きましょ」

すっと立ち上がり部屋から出て行こうと玄関へと足が向かう。

「美詠……」

「今日中に戻らないと未来が変わっちゃうんでしょ?
あの人達に迷惑は、かけられない」

当瑠は立ち上がれなかった。
立ち上がれば美春の能力で未来に帰らなければならない。
帰らなければならないが、事情が変わってしまった。
まだ帰るわけにはいかない。

「……そうやって動かないでどうするつもり?」

背を向けたまま美詠は話す。
こちらを向いてくれないのはどうしてか、当瑠にはわかっている。

「美詠、お前未来に帰ったらすることがあるんだろ?」

「……なんで」

小さな肩がピクリと動いて、それで図星だと分かる。

「絶対能力者を作り出す計画、その実験がまた開始されたらしいな」

「―――――……どうして」

「知ってるかって?」

知ってるの、と続けようとした美詠の言葉を当瑠は遮る。
過去に戻る本当の理由はそこにあった。
父と母に会うのなどは建前だ、そのために美春を騙した。

「やっぱりあの人はお前の父親だよ、どうして血が繋がってないんだろうな」

「――――お、父さんが?」

「あの人はスキルアウトの俺なんかよりずっと学園都市の裏を知ってる
お前がどんなに隠そうとして、一人で解決しようとしても分かっちまうんだよ
裏を知ってるってことを差し引いてもな」

美詠の肩がまた震える。
震えている姿はどこからどうみても、人間だ。
当瑠はゆっくりと立ち上がり、話を続けた。

「……お前はたった一人で計画をとめようとした。
ちょうど俺たちが未来へ行く一週間後と決めてだ。
それが実験が再開される日だったから、お前と同じ運命の『人間』を生まれさせたくなかったから」

美詠の父から聞かされたのは、彼女の生い立ちから全てだ。
何故話してくれたのかは当瑠には分からない。
美詠の育ての母、そして美詠の兄、家族の人間しか知らない事を伝えてくれたのか。

「聞かされたときは、冗談だと思ったぜ。
俺の知ってるお前はガサツで短気でいつも喧嘩腰でお嬢様だとは思えないような奴。
ま、出会ったときはお前も小学生だったから素直で泣き虫だってことも知ってるけどな
……俺にとってお前は本当に幼馴染の『女の子』だよ」

幼馴染って言ったときお前の兄貴にぶん殴られたけどな、と言って言葉を締める。
真実を知っている当瑠に対して美詠がどんな反応をするのか
どう思うのか、思ってくれるのか知りたかったからだ。

「……アンタは、どうしていつもいつも厄介ごとに巻き込まれるのかしらね?」

ポツリと呟くように言う美詠はいまだに背を向けたままだ。
それが当瑠は悲しかった。
自分と向き合ってくれないのか、家族の言葉では駄目なのか。
ならば当瑠自身の声ではもう彼女には届かないかもしれない。

「こんな奴と関わっちゃってさ、お父さんも、お母さんもお兄ちゃんも迷惑してるよね」

「迷惑?」

「私は化物だから、誰も巻き込みたくなかった。
自分勝手だって思うかもしれないけど、これは私の問題だから。
私以外の誰にも傷ついて欲しく無かった」

その言葉が癪に障った。
美詠だけの問題、誰にも傷ついて欲しく無い、迷惑。
当瑠は拳を強く握り締める。
ぎりという骨の軋む、皮膚が擦れあう音がする。

「……何が迷惑なんだよ」

「……そうでしょ?お父さんもお母さんもお兄ちゃんも
学園都市の裏を知ってるから実験をとめようとしてる
血も繋がってない私を家族にしてしまったから、そんな事になった」

「迷惑なら、見捨ててるだろうが」

「どうしようもないくらいのお人よしなのよ。
アンタと同じくらい善人で、闇に堕ちようとしている人は見捨てられない」

義務ね、しなきゃならないって思ってる。
美詠はそういって言葉を切った。

「傷ついて欲しくないのは皆同じだろうが」

「……」

「お前の家族だってお前の傷ついた姿なんて見たくない。
裏を知ってるとか知らないとかじゃねぇよ……大事だからだろうが
お前が『化物』なんかじゃなくて『娘』であって『妹』で『家族』だからだろ!?」

言葉をとめるつもりは無い。

「残念だけどな、お前の計画は進められねーよ」

「どういうこと?」

「お前がとめようとした実験はもうお前の親父さんの手で止められるからだよ」

「――――嘘」

そこでようやく美詠は振り返った。
ただ、表情は月明かりが入っていないせいで見る事ができない
だが、驚いている事は分かった。

「嘘じゃねぇよ、お前が未来に行った次の日には再開される予定地を全部潰すってよ」

「馬鹿じゃないの?そんなの無理に決まってる」

「お前がいったって結果はかわらねぇよ
むしろ学園都市の訳の分かんねぇ科学者の実験台にでもされるんじゃねぇか?
俺もお前もまだ子供だ、できる事なんて限られてる。
あの人はお前の父親、娘がそんな事になったら死んでも死に切れねえだろ」

そこまで言って当瑠は美詠に一歩近づく。
美詠は動かない。

「俺も同じだ、お前に傷ついて欲しくない。
お前が俺の前からいなくなっちまうことが嫌だった。」

「……何言ってんの?」

二人の距離は後数歩だ。

「……本当なら、お前の親父さんじゃなくて俺が実験の再開を計画した奴等を
ぶっ飛ばしてやりてぇんだ、でもそれは俺じゃ力不足だ」

当瑠は距離をまた一歩近づける。

「初めてだったよ、レベル0って事で悔しかったのは。
守りたいって思ってる奴の傷つく事をする奴らをぶっ飛ばせないで
結果を聞くことしか出来ない自分に腹が立った」

「アンタ、どうしたのよ?こっち来てから変よ。
アンタは私が生まれた理由とか、能力、私が今まで何してきたか聞いたんじゃないの?
どうして私と一緒にいるのよ、怖いとか思わないの!?化物だって離れないの!?」

彼女の叫びが聞こえた。
当瑠自身が初めて守りたいと、傷ついて欲しくないと思った少女の声だ。
彼女は自分を化物と言った、どうしてそんな事を言うのか悲しかった。
そこで、腹の立った理由が、癪に障った理由が分かった。

「じゃぁ、どうして――――」

部屋は暗闇だ、だが距離を詰めれば彼女の表情を見る事ができる。
後数歩の距離だ、震えているのがよく分かる。
はやく近くまで行きいと思った。

「どうしてお前は泣いてるんだよ……」

「え……?」

手を伸ばして身体に触れられる距離まで着く。
頬に手で触れる。
暖かいものが触れた手の甲を伝って床に落ちる。

「なん、で?」

「わからねぇのかよ」

「……?」

「お前自身が自分のことを『化物』だって思ってないからだよ。
お前がお前のことを『人間』だって思ってほしいからだ。
お前言ってたよな、『普通の女の子として』いたいって
まだ帰りたくないって、それがお前の本心なんだよ」

突然力が抜けて美詠はその場に座り込む。
同じように当瑠は美詠と視線を合わせて膝をついた。

「他の奴等がどう思ってるかなんて知らねえ。
だけどお前のことを化物だって言うやつがいたら俺は許さない
そいつをぶん殴って、お前に泣いて謝らせるまで殴ってやる」

「……馬鹿、よ、お父さんもアンタも、皆、馬鹿ばっかり」

ぎゅっとシャツの袖口を掴まれる。

「馬鹿で結構……分かったかよ?
お前が思ってるほどお前の世界は残酷じゃない
お前の願ってる幻想≪夢≫は俺が支えてやる、俺達が守ってやる」

「……あり、がと……ごめん、ね」

美詠が当瑠の胸に顔を埋める。
当瑠は抵抗せずに美詠の体を優しく抱きしめた。

「……あと、さ」

「何?」

当瑠は抱きしめたまま美詠の耳元に口を近づける。

「親父さんから一つ約束あったんだけど……ごめん」

「な、なんで謝るのよ」

突然の謝罪で美詠は困惑した声を出す。
だが、お構いなしに抱きしめた美詠の体を引き離し。







「んっ……!?」






当瑠の唇と美詠の唇を重ね合わせた。







「―――――っ!」

突然抱きしめられた。
今までで一番強い力で離さない事を主張して体が密着する。

「……馬鹿な奴だって思ってくれても構わない。
あんな小さな子に言われた事を気にしてる小さな男だって、でも俺は……」

上条が力を更に強くして美琴を抱き寄せる。
美琴はまだ思考が追いついていかない。
いきなり友達なのか、と聞かれて困惑していたら腕を引っ張られて強引に抱きしめられたのだから
上条のことを好きな人と思っている美琴はパニックになってしまっていた。

「俺は―――美琴のことが好きなんだ!
お前がただの友達って言った時は悲しかった胸が痛かった!
お前に起きてって言われても力が入らなくて、悔しかった!
告白も何も出来てなかったから、俺の事まだ意識してくれてないじゃないかと不安になった!」

「う……あ……」

美琴は何も言葉を返す事ができなかった。
違う、と声に出そうとしても突然の告白に頭が回らず口がパクパクと動くだけだ。
返事をしなかったせいか、上条は不安げな声を出す。

「……やっぱり、あの三人がいたからか?」

「……え?」

あの三人とは当瑠達の事だとすぐに分かった。
だが、何故あの三人が美琴が返事できない理由になるのか、それが彼女にはわからない。

「あの三人がいたから仕方なく、俺と一緒にいてくれたのか?
本当は、嫌々で……全部、演技とか、表面上、とか」

「ち、が……」

そんな事は無い。
初日に抱きしめられたのも、二日目のデートの約束も
勿論三日目のデート自体も、四日目に名前で呼ぶようになったのも
今日の事も、舞い上がるくらいに嬉しかった。
距離が近づけた事も今のように好きになってくれたことも全て美琴には素晴らしい日々だった。

「私、私は……」

「正直に言ってほしいんだ、俺の事……好き……か?」

「ぅ……あ……ぁ」

耳元で囁かれドクン、と心臓が高鳴る。
意識が飛びそうだった、それでも必死に耐える。
今意識を失ったら上条にどう思われるか分からない。
嫌われるとは限らないが、自分の知らない間に決め付けられるのは嫌だった。

「私は……当麻の事は……」

ぎゅっと目を瞑り、肺から喉、口へと順に全神経を集中させる。
言わなければならない……すっと口を開く。

「当麻の事……好き、だよ」

震える声で徐々に小さくなってしまい伝わったか分からない。
そのまま一度息を吸い言葉を続ける。

「あの子に彼氏かって聞かれたとき、恥ずかしくなったのよ。
好きだって事も伝えてなかったし、好きだって事も言われても無かったから
まだ恋人じゃないって思って、そんなの自惚れじゃないかって」

ゆっくりと上条の背に腕を回し抱きしめる。
数秒の沈黙の後上条の声が美琴の耳に届く。

「自惚れなんかじゃ、ない。恋人じゃないなんて事絶対無い」

「……当麻」

くいっと顎が動く。
目を瞑っていてもこの後に起こる事が美琴にはわかっていた。

「美琴」

名前が呼ばれて間もなく美琴の唇に暖かいものが触れる。
それが、上条と美琴の距離がゼロになった瞬間だった。


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