とある魔術の禁書目録 自作ss保管庫

05章-1

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5.最終日


「ん・・・・・・」

頬に暖かさを感じて目を覚ます。
寝ぼけ眼のままベッドから起き上がり窓へと視線を移す。
少し霧が出ているようで景色は良く見えないが雲が出ている様子は無い。

「・・・・・・いつの間に寝ちゃったんだろ?」

御坂美琴は首を傾げながら寝巻きのまま洗面台へ移動する。
いつ寝てしまったか分からないが十分睡眠をとったようで体は軽い。
冷たい水で顔を洗って意識を覚醒させる。
思考能力が少しずつ回復していき徐々に昨日のことが思い出されていく。

「・・・・・・当麻」

思い出された中で愛しい人の名前を一番に呟く。
まだ完全に思考は戻っていないので顔はうまく想像することができないが
名前を言っただけで幸福感を味わえた。
しばらく笑ったままの自分の顔を呆けたまま見つめていたが
突然彼女の耳に大きな音が侵入してくる。

「誰?」

音の正体は携帯だ。
自分の机の上のぎりぎりの位置においてあったので音と振動で落ちそうになっている。

「あ・・・ぶな」

タイミング悪く机から落ち床に落ちる手前で携帯を掴む。
そして携帯の画面に目を移すと

「――――!と、当麻!」

着信した名前を確認して一気に眠気が弾け飛ぶ。
覚醒した意識でしっかりと通話のボタンを押し一言も漏らさないようにと
耳にしっかり携帯を押し当てる。

「も、もしもし」

やはり好きな人との電話は緊張してしまいすらすらとしゃべることが出来ない。

『お、おっす』

電話越しにだが上条の声が聞こえほっと安心する。
声が聞けただけで嬉しくなってしまうのだから相当だなぁと自分で自覚しながら挨拶を返す。

「あの、えと・・・・・・おはよぅ、当麻」

『あ?あぁ、おはよう美琴』

挨拶すらぎこちなくなってしまったが『おはよう』なんていう挨拶は
上条と交わしたのは初めだったので美琴としては当然だった。

「ど、どうしたの?こんなに朝早くから」

まだ霧が出るくらいの早朝だ、きっと大事な用があるのだろう。
まさか上条が「朝一番に声が聞きたかった」なんて事を言うような
気障な人間でない事は美琴は知っている(たまに無意識で気障なことをいうが)。
というよりも美琴としてはそんな理由だったら嬉しさで意識を失ってしまうんじゃないかと不安になる。
それではせっかく電話をしているのに意味がない、もったいない。

『えーっとだな・・・・・・その、お前今日は空いてるか?』

―――――――デートの誘い?

そんな考えがよぎり一瞬意識が飛びそうになるが必死に抑える。
冷静に声を分析するとそんな感じの声ではなく頼み事をするような感じなので
少し残念な気がしたがそれよりもなんだろうという気持ちの方が強い。

「なに?何か相談事なの?」

上条が何か相談するのは極めて珍しい。
もともと人には相談しろというくせに自分の事は省みない彼の性格だ
美琴は相談事であれば槍でも降ってくるんじゃないのと思ってしまった。

『まぁ、相談って言うよりはお願い、だろうな』

とりあえず聞いてくれないかと言ってくる彼の言葉に了承の言葉を返した。


         ☆


午前十時ごろ、御坂美琴は住み慣れた第七学区から少し離れた第十三学区にいた。
小さな子供が喜びそうなぬいぐるみや服が売っている商店街の道の真ん中にある
噴水の前でキョロキョロと周りを見回している。
第十三学区に常盤台のお嬢様が来るのはかなり珍しいのか
道を行く人(といっても小学生ばかりだが)には奇異な目で見られている。

(待ち合わせの場所、まずったかなぁ)

人を待つとすれば目立ちやすい場所がいいと思い先に来て
待っている場所を教えたのはいいが、考えてみれば自分の場所を
衛星を使ってGPSデータを送ればすぐに見つけれるので待ち合わせ場所は失敗したといって良い。

(当麻だけなら良いんだけどなぁ)

そうだ、彼女の待ち人である少年とだけならば何の問題もないし
見られたって少し恥ずかしいぐらいだ、だが今回は違う。

(美春もくるし、あんまり目立ったら駄目よね?)

美琴の未来の娘である美春も今回は来る。
いることに関しては何の問題もない、むしろ美春と一緒にいられる時間は楽しい。
小さな子なので可愛いということもあるだろう。
けれど知り合いにでも見られればかなり問題だ、どうやって取り繕うか
姉妹、または親戚の子といえば何とか通るかもしれない
しかし上条も来るのだ、上条に関してはどう説明すれば良いか
そこまで考えて美琴はあまり知り合いのいない第十三学区を選んだ。

(気をつけるのはあすなろ園の子たちだけだし、何の疑問も持たないでしょ)

いっそ上条も兄ということにしようか、そうしよう、そうすればいい。

(美春も当麻と私のこ、子供だし、どこか似てるから大丈夫よね)

ナイスアイディアじゃないか、自分で一人で納得する。
一人で勝手に顔を真っ赤にして「やー」とかいってるお嬢様はすでに不審者だ。

「・・・・・・何してんのお前?」

「ひゃっ!!」

突然声をかけられてビクッと背筋を伸ばす。
ゆっくりと振り向くと上条と美春がいた。

「ママ、おはよー」

美春がぴょこぴょことアホ毛を動かして美琴に抱きついてくる。
ママと呼ばれ周囲を気にするが、周りの人には聞こえていなかったようだ。
美琴は安心して、美春の頭を撫でた。

「おはよう、美春」

優しく撫でてあげたのが気持ちいいのかえへへと満足そうに笑って美琴から離れない。
暫く撫でてあげようと思い撫でながら上条のほうを見る。

「わりぃな、無理言って」

上条のほうは少し周りを気にしながら顔の前に手を立ててあやまる。

「うぅん、大丈夫、私もこの子と一緒にいると楽しいし」

「そうか、なら良かった」

まだ申し訳なく思っているのか上条の表情は複雑そうだった。
美琴としては上条には何も気にせずにいて欲しいので少し不服だ。

「そういえば、どこにいくかは決まってるの?」

その話は携帯ではしていなかったので上条には考えがあるのかと思い振ってみる。

「その事については安心しろよ、決まってる」

上条は面食らった顔もせず真顔のまま答えた。
そう、と美琴は言って撫でていた手を止めて美春の小さな手を握る。

「じゃ、行きましょ?」

そういって歩き初める。

商店街を抜けるとチラホラと学校が見えてくる。
大きなものから小さなものまで様々で休みにもかかわらず
学校の前をうろうろしている子供たちと何度もすれ違った。

(チャイルドエラー・・・・・・?)

そうかもしれない。
最近でもニュースでチャイルドエラーの数が倍近く増えたということを言っていた。
第十三学区は小学校や幼稚園が集中している保育系統の学区だ。
当然ながら第七学区と違って小さな子供たちが多く住んでいる。
そして、学園都市に置き去りにされた孤児の子供たちが一番多いのもこの学区だ。
それを考慮してか学校内に大勢の人間が住めるようにしてある。

チャイルドエラー、それを思い出すと過去に起きた事件が思い起こされる。
幻想御手≪レベルアッパー≫事件、あれは事件の発端が実験の犠牲になった子供たちを救うためだった。
そしてその後に起こった乱雑解放≪ポルターガイスト≫もその子供たちが危機に陥った。

(・・・・・・この子は、大丈夫よね?)

手を繋いで歩いている美春に顔を向ける。
未来の学園都市はどうなっているのだろう、親も一緒に住めるのか。
当瑠や美春の口ぶりからして一緒に住んでいる様子だった。
理事長が変わったのか何かして制度が変わったのだろう。
現在の学園都市では都市内に保護者が入る事はそう簡単に出来なかった。
子供が薬物投与などの危険なものに関わっているのだから当然だ。
反対するために直談判にでる親も珍しくは無い。
しかし、そうなると未来では危険な実験は出来ない。

「ママ?どうしたの?」

声をかけられてはっとする、美春が美琴の顔を凝視していた。
その表情には不安とか後ろ向きな気持ちがない笑顔。

(守りたい)

この子にはずっと笑顔でいて欲しいと思う。
子供の笑顔は人を幸せに出来るが、その笑顔はその子が幸せであることを示している。
裕福だとかお金がある、物で出来るものではない。
どれだけその子を大切に出来るか、そんな愛情だと美琴は考える。
そんな事は偽善だという人もいるかもしれない、良い子ぶってるとも思う
ただ、それでも美琴は今の自分の気持ちを大切にしていきたいと思った。

「・・・・・・」

握った手を少しだけ強くする。
痛く無いくらいに握ったつもりだが美春は驚いた顔をした。

「ママ?」

「大丈夫、なんでもない」

前を見ると上条が先を歩いていた。
美琴たちが離れているのに気づいていないのか
ほかに気にすることがあるのかぼぅっとしている。

「お父さん先行っちゃってるし、走って追いつこっか」

にこりと笑ってあげると美春も嬉しそうに一気に驚いた表情から笑顔に戻る。

「うん!!いこいこ!」

ぐいっと美琴を引っ張って美春が駆け出す。
思ったよりも力強く引っ張られて体制を崩しながら上条に追いかける。

(思いっきりタックルでもしてやろうかしら)

ニヤリとそんなイタズラを思いついて上条のもとへと二人は駆けて行く。


         ☆


報告、上条当麻は激しく動揺している。
歩いていたら突然背中に何か当たったと思ったら
体が二、三cm浮き一m吹き飛んだ。
そしてのしかかる何か(何か柔らかいものが当たった気がする)から何とか這いずり逃げ走ったのだ。

「何で逃げるのよ!」

四、五分は走ると先ほどの衝撃の正体が肩で息をしながら現れた。
衝撃の正体、御坂美琴は背中に娘である美春を背負っている。

「い、いや、だっていきなり何があったのかと・・・・・・」

母娘二人からの強力アタックをくらったのはまだ良い。
二人の体重は軽いものでタックルと言うよりはただ抱きつかれたぐらいだ。

「あんたが先に行っちゃうからでしょ!」

「うっ!」

ずいっと美琴が距離を縮めてくる。
普段はあまり近付いてこないくせに怒っていると一気に距離をつめてくるので
顔と顔が近付いてしまう、しかも怒っているからか本人がそれを気にしない。
上条としては嬉し恥ずかしだが美琴を友人と思っていた頃と違い
恋愛対象、しかも好きな人となっている今の状況だ、かなり意識をしてしまう。

「ちょっと、こっち見なさいよ!」

自然と顔を逸らしてしまったらしく美琴に顔を向かされる。
美琴よりも上条の方が七cmほど大きいため見下ろすかたちになるが
美琴の顔を見るとどうしても目線が下に下にいってしまい
目から逸れ、整った鼻、柔らかそうな唇、(自己主張が薄い)胸と最後に

(―――――っ!!私めはな、何を考えているんですかー!?)

徐々に鼻の下が伸びているのが分かる。
自分のそんなイヤらしい幻想をぶち殺したいが異能の力で見ている幻想ではない
上条の幻想(もとい妄想)は彼の右手では打ち消すことは出来ない。

「だ・か・ら!何で目を逸らすのよ!」

美琴はいつ電撃を出すか分からないほどまで怒りだしている。
この状況を打破するにはどうすればいいか、上条はひたすら考えた。

(美琴が喜こびそうなことって何だ?)

何よりも今は美春がいる、下手な行動を取れない。
というよりも美琴が喜びそうなことよりも自分が喜ぶことしか思いつかない。
抱きしめるとかキスとか・・・・・・それ以上のことだ。

(うぉおおおおおおお!また変な事考えてるうううう!)

ダンッと、気づけば美琴の両肩に手を置いていた。
自分の邪まな気持ちを綺麗さっぱり切り替えるためだ。
目を逸らすなと言われたのであれば素直に目だけを見ようと考えじっと見つめる。

「え?ちょっと?どうしたの?」

突然の奇行に驚きを隠せない美琴があたふたとし始める。
怒りも吹き飛んでしまい、今度は美琴が目を逸らす番になる。

「美琴・・・・・・」

肩に置いた手に少しだけ力が入る。
妙な気を起こさないようにぐっと本能と戦いながら美琴を見つめ続ける。

「えぇっと・・・・・・と、当麻?」

ほんのりと美琴の頬が赤らんでいく。
目を合わせてくれないがさっきまでの自分と同じなのでそこはお相子だ、気にしない。

「・・・・・・いいたいことがあるんだ」

「う・・・・・・なに?」

妙な雰囲気になりつつある二人を美春が見ている。
面白いものを見るように表情はにやけているが二人は気づきはしない。
上条は一度息を吸って伝えるべきことを告げた。

「・・・・・・目的の場所に着きましたのでそろそろ入りませんか?」

当然のことながら返事は電撃でお返しされた。


         ☆


第十三学区にある公園は他の学区に比べて大きい。
美琴や上条がよく出会う第七学区の公園もそれなりの大きさだが
第十三学区のそれとには及ばないしそもそも低学年の子供たちが喜びそうな遊具がない。
どちらかと言えば景色を楽しんだりするための自然公園だ。
それに比べると第十三学区の公園は格段に遊具が多い。
そんな中美琴と美春は数々の遊具を使うことなく、砂場にいた。

「さーて、美春、何つくろっか?」

腕まくりをし近場にある砂をかき集める。

「おしろ!おっきなおしろがいい!」

美春はどこから持ってきたのか分からないスコップとバケツを振り回しやる気まんまんだ。

「お城ねぇ・・・・・・難しい注文ね」

砂場で遊んだことなどもう十年近くしていない美琴はいまいちイメージが浮かんでこないが
絵本や写真でみたことのあるものを作ればいいのだろうと決めて昔に読んだ絵本の挿絵に載っていた
城を記憶を搾り出して作り始める。

「まずどうするか・・・・・・大体のイメージは出来たけど」

砂に関わらず物を作るときに大事なのはその順番だろう。
何事も骨組みから作らなければならない、支柱から作らない建物が崩れてしまうのと同じだ
考えている内に美春のほうが作るイメージを固めたのか砂を集めていた。

「美春?お母さんはどうすればいいかな?」

作るものが決まっているのなら決めた者の指示に従おうと思い訊いてみる。
美春は集めている手を止めて自分の集めた砂を指差した。

「みはるとおなじものつくって!」

同じ大きさとまではいわないだろうが均等な数の建物や左右対称の城が作りたいことがわかる。
美春と同じものを作るのであれば簡単だ、美琴は美春の手元を見る。

「それは・・・・・・塔?」

先端が尖った棒状の建物、美琴の予想が正しければ塔らしきものが出来上がっている。
美春は口で答えずにご自慢のアホ毛を揺らして頭を縦に振った。
予想が正しいようで美琴は美春と同じものを作る為近くに寄って出来上がったものを観察する。

(おぉ、我が娘ながらなかなかな出来映えね)

五、六歳が作るものにしてはそれなりなセンスの建物だ。
贔屓目に見たわけではなく、多分他の人が見ても「いいんじゃない?」と評価するものだと美琴は思う。

「ママ、あとふたつそれつくって!」

ピースサインを右手で作りながら美春は新たに砂をかき集めている。
今度は大本でも作るつもりかその量は美琴の作った塔をはるかに凌駕している。
美琴は二つ返事で答えて美春の作った塔と自分の作った塔を見比べながら残りの塔の制作に入った。

(しっかり造ってあげないとね)

娘の喜ぶ顔が見たいがために文句を言わず手を動かす。
塔の先端部分、つまり屋根にあたる所だがこれとはべつに棒状の壁のものをつくる。
それと屋根を重ね合わせれば晴れて塔の出来上がりとなる。
工程は少なくそれほど難しくは無い、ただ造った後が大変だ。
作り上げた時は水分を使って繋ぎ止めているが水分が乾いてしまうとぼろぼろと崩れていってしまう。
水分が多ければしゃびしゃびになってこれもまた崩れてしまう原因だ。
つまるところ時間との勝負である。
出来上がった塔と出来上がっていく城らしき建物を作る美春に微笑みながら美琴は作業を続けた。


         ☆


様々な商品を扱う商店街は休みにもかかわらず多くの人でごった返している。
長期休暇とはいえそれもそろそろ終盤、遊び呆けていた学生たちは課題の片付けで忙しいはずだが
学園都市でも課題なぞどうでもいいという考えを持つ者の方が多いらしい。
周りを見渡せば腕を組み互いの顔を見ながら笑顔を見せるカップルや
見せ付けるようにいちゃいちゃしているカップル、それを嫉妬する者が多く見られる。

「やれやれ・・・・・・ここだけ気温が高く感じますなー」

熱々のカップルが集まる場所というのは人の密着度が高い。
この場合人混みと表現した方がいいのだろうが若干の私見、嫉妬が混ざっているため
嫌味やらの負の感情で人の多さではなくカップルのせいという意見が多いはずだ。
・・・・・・場所は第七学区商店街、上条当瑠は手をうちわ代わりにして汗をぬぐいながら悪態をついていた。

「そう?今日は例年通りの暖かさってニュースは言ってたけど?」

隣を歩いているのは美詠だ、美詠は外を歩くのが楽しいのか機嫌がよさそうに足取り軽く歩いている。
どうやら彼女にはこの暑さと刺すような(刺し殺すといった方が的確か)視線の理由には気付いていないようだ。

「姫、すみませんが私から少し離れてお歩きになられませんか?」

当瑠と美詠の距離は友人というには多少近い距離だ。
バランスを崩せばもつれて押し倒す嬉し恥ずかしイベントが起こりかねない。

「え?あ・・・・・・そ、そうね・・・・・・」

自然と近付いていたからか、美詠は当瑠との距離には気付いていなかったらしく
当瑠が言ってやっと気付き顔を少し赤らめて距離をとった。
当瑠を刺す視線が少しだけ和らぐ。

(危ない危ない、まさかこんな目に合うとは・・・・・・)

商店街に入った途端驚いたのは嫉妬側の男共の能力、嫉妬の炎≪ジェラシーアイ≫が発動したことだ。
一人でもそこらへんのレベル4くらいなら焼き殺せるくらいの炎を受けたときには何故か妙な罪悪感を感じた。
いつもその能力を発する側(と思いこんでいる)当瑠としてはその能力の恐怖は十分に分かっているので
早急な対処を決行し、実行に移すことに成功した。
美詠との距離が空いてしまったのは男心に多少残念だったが、平均点以上の女の子を連れて
この特殊な(レベル0でも持っている不可思議だが妙に納得できる)能力の中歩く勇気は当瑠にはない。
まして美詠は当瑠の彼女でもなんでもないのだ、そんな視線を受けるのはお門違いだ。

「ね・・・・・・ねぇ」

「あん?どうした?」

突然自分の視界に美詠が入り込んでくる。
先ほどから声をかけていたのだろうか美詠の表情は少し怒っているよう思える。

「さっきから考え事してるみたいだけど、何考えてんの?」

お前のことだよと言ったらどんな反応をするだろうか。
実際美詠のことを考えていたと言えば嘘ではない、だが多分美詠は怒ると当瑠は思う。
以前イタズラ心が芽生えて同じようなことを言ったらその日一日中追いかけられた。
あの時の美詠の表情といえば13日の金曜に現れる某有名映画の殺人鬼でも逃げ出すくらいの
恐ろしいオーラみたいな何かが出ていたので二度と妙なイタズラをしないと心に
決めたのを思い出して当瑠は思わず身震いした。

「・・・・・・親父達のこと、だな」

ここは無難な答えにしておくことにする。

「そう・・・・・・」

美詠は納得はした表情だがなぜか残念そうな声色だった。

「私のこと考えてたわけじゃないんだ・・・・・・」

「は?」

小さなか細い声だったので何を言っているか聞き取れなかった。
もう一回言ってくれと美詠を見ると、美詠の方は顔を真っ赤にして

「な、なんでもない!何も言ってないわよ!」

と否定するので紳士上条当瑠はそれ以上追求しない。
当瑠の三分の二は心遣いで形成されているからだ。

「あ、あのさ!私ちょっと気になる店があったからそこ行くね」

ぎこちない歩き方で当瑠から離れていく美詠。

「あ、おい!勝手にどっかいくなっつの!」

当瑠はどんどん離れていく美詠との距離を詰めるため追いかける。

「な、なんで付いてくるのよ!」

勝手に離れる人間を追いかけて何が悪いのかさっぱり理解できないが
美詠が怒鳴って言うので追いついた当瑠はとりあえず謝ることにした。

「えっと・・・・・・すいません」

「ま、まぁいいけど・・・・・・」

素直に当瑠が謝ったのが不服なのか腕を組んでいてあまり機嫌がよさそうでは無い。
もしかすると一緒にいるのがいやなのでは無いだろうか。

(でも外に行こうって言ったのはこいつなんだよなぁ・・・・・・)

そう、父である上条当麻が娘の美春を連れて外に行った一時間後くらいに
美詠が外に行かないかと誘ってきたのだ。
当瑠の方は断る理由もないし家の中にいるのは正直暇だったので特に悩まずに行く事を決めた。
そういうこともあった手前美詠が当瑠と一緒にいるのが嫌という事は無いはずだ。

「あのさ・・・・・・お前の行きたい店ってどんなのなの?」

美詠が別に自分といるのが嫌ではないと仮定して話しかけてみる。

「え?あ・・・・・・えと、あれ、なんだけど」

急な質問だったが美詠は答えてくれた。
どうやら自分の仮定は間違っていたわけではないようだ、当瑠は内心ホッとする。
そして、美詠が指を差した方向を見るとそこにあった店は

「アクセサリショップ?」

装飾類を取り扱った店だった。
その店はほとんど目の前にあって商品も僅かながら視界に入る。
ネックレスはもちろんペンダント・ピアス・リング等など大体のものは揃っているようで
品揃えも悪くはなさそうだ。

「・・・・・・アレにいきたいのか?」

『アレ』と表現するのはどうかと自身でも思ったが
美詠は小さく首を縦に振りゆっくりと店の方へと向かっていく。

「だから勝手に行くなっての!」

またも一言も返さずに行ってしまったお嬢様を当瑠は追いかける。

「・・・・・・」

追いかけた先のアクセサリショップで美詠は商品とにらめっこしている。
どうやら気に入ったものが二つあってどちらにしようか悩んでいるようだった。

「いつまで悩んでんだよ?」

待っていられなくなって声をかける。

「な!い、いきなり話しかけないでよ!」

よほど集中していたのだろう、ビクッと体を震わせて美詠が振り向く。
両手には種類の違うペンダントが一つずつ握られている。

「・・・・・・貸してみろよ」

その両方共を美詠からひったくる。
壊してしまわないように最小限の力で奪い取る。

「ちょ、ちょっと!」

何を焦っているのか分からないが無視しつつペンダントを見て見る。
一つはハートの形をしたペンダントで
ハートの中は空洞で小さなハートと大きなハートの二つが重なり合ったものだ。
もう一つ、こちらの方は飾り気のない銀色のペンダントで長方形の何も描かれていない四角がぶら下がっている。
当瑠には女の子の趣味はさっぱりなのだが女の子らしいもの、と言われればハートのペンダントではないかと判断する。

「・・・・・・この四角はなんだ?」

だが、飾り気のないペンダントのほうには当瑠には分からない別の意味が含まれているかもしれない
美詠はペンダントを見つめながら答える。

「これ、名前とか彫るのよ、その、家族とかこ、恋人とかの・・・・・・」

その場で作ってもらえるタイプのものらしい。
なるほど、ペンダントの飾られた棚を見ると達筆な時で『彫ります』と書かれた紙が貼られていて
見本のために『山田太郎』だとか何かのキャラクタが彫られたペンダントが掛けてある。

「ふぅん・・・・・・じゃ、こっちの方がいいんじゃないか?」

時間はかかるが愛着が沸くのは手作りのものだ。
当瑠は銀色のペンダントを手渡しもう一つのハートのペンダントをレジに持っていく。

「・・・・・・ちょ、あんたそれ買うの?」

信じられない、と美詠が驚いた表情をする。
それを生返事で返しつつ空気の方が入っていると自負する自慢(?)のサイフからお金を払い
店員が包装しようとする手を止めて美詠の前まで移動し

「ほい、こっちも欲しいんだろ?」

そのままペンダントを美詠の首に掛けた。

「――――は?」

「おぉ、女の子っぽくなったぞ、似合ってる似合ってる」

呆然とする美詠。
反応があまりにも薄くて当瑠は少し不安になってしまった。

「・・・・・・あれ?嬉しくないのか?」

「そ、そうじゃなくて!何であんたが買ってんのよ!」

「いや、だって、欲しいけどお金が足りないとかじゃないのか?」

一人の鈍感男の一言で沈黙が二人を包み込んだ。


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