第四章『水曜日 ~Le Messager~』
目の前に座る少女は、無言でお弁当の鶏の唐揚げを食べていた。
姫神秋沙も、無言でお弁当のおからハンバーグをつついている。それは昨日話題にあがったから、作ったものだった。
二人は向かい合って座っているにもかかわらず、さっきから会話は全くない。
別に険悪なのではなく、単に気まずいといった感じの雰囲気だ。
姫神秋沙も、無言でお弁当のおからハンバーグをつついている。それは昨日話題にあがったから、作ったものだった。
二人は向かい合って座っているにもかかわらず、さっきから会話は全くない。
別に険悪なのではなく、単に気まずいといった感じの雰囲気だ。
この空気に耐えられなくなった姫神は、思い切って口を開く。
「御坂さん」
「姫神さん」
美琴も同時に言葉を発し、二人の声が重なった。
姫神は、一応年上と言うことで「お先にどうぞ」と美琴に発言権を譲る。
「御坂さん」
「姫神さん」
美琴も同時に言葉を発し、二人の声が重なった。
姫神は、一応年上と言うことで「お先にどうぞ」と美琴に発言権を譲る。
「えーっと、姫神さん。さっきの話なんだけれど……」
はっきりしない小さな声で、美琴は問いかけてきた。
さっきの話と言えば、上条にブラのホックを外されたことだろうか。
さっきの話と言えば、上条にブラのホックを外されたことだろうか。
「ま、まさか、アイツと姫神さんって……」
美琴の声は、今にも消え入りそうになっている。
嫌な想像が現実になって欲しくはないけれど、聞かずにはいられない。そういう風に見えた。
嫌な想像が現実になって欲しくはないけれど、聞かずにはいられない。そういう風に見えた。
ブラの件は、喉に里芋を詰まらせた姫神を、上条が介抱してくれたときに起きた「事故」に過ぎない。
しかし、その背景を意図的に隠すことで別の意味に解釈される。
上条が自らの意志で外したと。
しかし、その背景を意図的に隠すことで別の意味に解釈される。
上条が自らの意志で外したと。
本当のところ、怖く感じているのは姫神の方だった。
彼女が体験入学してきて今日で三日目。
二人の様子を見るにつけ、上条が美琴に対して心を許しているようにしか感じられなかったからだ。
しかも彼女は、「押し倒された」とまで言っている。
だから、姫神はムキになっていたのかもしれない。
気がついたら嘘ではないにしても、思わせぶりなことを言ってしまっていた。
彼女が体験入学してきて今日で三日目。
二人の様子を見るにつけ、上条が美琴に対して心を許しているようにしか感じられなかったからだ。
しかも彼女は、「押し倒された」とまで言っている。
だから、姫神はムキになっていたのかもしれない。
気がついたら嘘ではないにしても、思わせぶりなことを言ってしまっていた。
「別に付き合ってるとかない。安心して。」
「じゃあ、さっきのって」
「じゃあ、さっきのって」
少し安心したように、でも不安は拭いきれないといった感じで彼女は聞いてくる。
付き合ってないとしても、一夜を共にしたとか、そういう想像をしてしまっているのだろうか。
付き合ってないとしても、一夜を共にしたとか、そういう想像をしてしまっているのだろうか。
「何があったかは教えない。けど。付き合ってもないし。そういう関係になったこともないから。」
なんとなく、すべて話すのはためらわれた。
いつから自分は、こんな嫌な性格になったのだろうと自己嫌悪に陥りそうだ。
でも、それくらい彼は姫神の中で大切な存在なのだと、今更ながらに思う。
いつから自分は、こんな嫌な性格になったのだろうと自己嫌悪に陥りそうだ。
でも、それくらい彼は姫神の中で大切な存在なのだと、今更ながらに思う。
彼は、三沢塾の件で助けてくれた。大覇星祭でも助けてくれた。
自覚できるほど表情の読みにくい、自分の心を読み取ってくれた最初の人。
そして何より、自分のことを守ると決めてくれた人。
彼の口から直接言われたわけでもないのだが、彼の行動を見ていればそう思えた。
自覚できるほど表情の読みにくい、自分の心を読み取ってくれた最初の人。
そして何より、自分のことを守ると決めてくれた人。
彼の口から直接言われたわけでもないのだが、彼の行動を見ていればそう思えた。
そんな上条の事を姫神は失いたくなかった。
こんな事になるくらいなら、さっさと告白しておけば良かったと姫神は後悔する。
確かに告白しようとしたことは何度もあった。だが、彼の不幸体質の所為か、すべてが空振りに終わったのだ。
でも、それでも、チャンスは何度もあったはずだ。自分から向かっていったら、チャンスなんて作れたはずだ。
もしかすると、姫神はどこかで安心していたのかもしれない。不幸な彼には彼女など出来るはずないと。
確かに告白しようとしたことは何度もあった。だが、彼の不幸体質の所為か、すべてが空振りに終わったのだ。
でも、それでも、チャンスは何度もあったはずだ。自分から向かっていったら、チャンスなんて作れたはずだ。
もしかすると、姫神はどこかで安心していたのかもしれない。不幸な彼には彼女など出来るはずないと。
だが、今は違う。
目の前にいる少女は、姫神に焦燥感を与える。
彼に一番近い場所にいるはずのインデックスと対面したときにも感じなかった焦り。
それは理屈とかではない。本能がそう警鐘を鳴らすのだ。
目の前にいる少女は、姫神に焦燥感を与える。
彼に一番近い場所にいるはずのインデックスと対面したときにも感じなかった焦り。
それは理屈とかではない。本能がそう警鐘を鳴らすのだ。
この少女は、上条と結びつくのではないかと。
「御坂さん。あなたの体験入学が終わるまでに。私は。上条君に告白する」
思わず口から出たものは、自分自身でも驚いてしまうような内容だった。
目の前の少女は突然の言葉に絶句する。なにせ、いきなり宣戦布告されたのだから。
しかし、美琴は意を決したように、
目の前の少女は突然の言葉に絶句する。なにせ、いきなり宣戦布告されたのだから。
しかし、美琴は意を決したように、
「私も、告白するから」
と、姫神の挑戦を受けた。
さっきまでの消え入りそうな声とは打って変わって、はっきりと、そしてしっかりとした言葉だった。
さっきまでの消え入りそうな声とは打って変わって、はっきりと、そしてしっかりとした言葉だった。
「それでこそ。ライバルね」
「誰かに奪われるくらいなら、玉砕覚悟で告白した方がマシかなって」
「嘘。はじめから告白する気だったくせに」
「バレた?」
「うん。御坂さんは本当に顔に出る。ポーカーは上条君以外と。やらない方がいいと思う」
「誰かに奪われるくらいなら、玉砕覚悟で告白した方がマシかなって」
「嘘。はじめから告白する気だったくせに」
「バレた?」
「うん。御坂さんは本当に顔に出る。ポーカーは上条君以外と。やらない方がいいと思う」
緊張していた美琴の表情が和らいだ。
つられて姫神も笑う。おそらく上条以外には分からないほどの、表情の変化でしかないだろうが。
つられて姫神も笑う。おそらく上条以外には分からないほどの、表情の変化でしかないだろうが。
「それと。私たちがいがみ合うのはやめましょう。上条君が悲しむから」
「そうね。自分のせいで争いが起こるの、アイツ嫌がるだろうし。
それに、アイツのこと抜きにしたら、私たち友達でしょ?」
「そうね。」
「そうね。自分のせいで争いが起こるの、アイツ嫌がるだろうし。
それに、アイツのこと抜きにしたら、私たち友達でしょ?」
「そうね。」
美琴は姫神にまっすぐな視線を向けていた。それだけで、なんとなく負けたような気になる。
しかし、この闘いだけは負けるわけにはいかない。
何よりも大切な存在を失いたくない。奪われたくない。
その決意を胸に、ランチタイムは過ぎていった。
しかし、この闘いだけは負けるわけにはいかない。
何よりも大切な存在を失いたくない。奪われたくない。
その決意を胸に、ランチタイムは過ぎていった。
「さてと、御坂。帰るか!」
放課後、掃除やらなんやらの雑事の終わった上条が声を掛けてきた。
そこ声と共に、教室中の視線が美琴と上条に集まる。特に女子の視線を痛いほどだ。
「あらあら、一緒にどちらまで帰られることやら」とでも言いたそうな突き刺すような視線だった。
昨日、一昨日と補習で上条は居残っていたので、美琴は彼と一緒に帰るというのは初めてであり、つまり、この針のむしろ状態も初めてである。
上条の補習のない日は、クラスの女子の間で争奪戦が繰り広げられているのかもしれない。
しかし、このような状況に至っても、上条は平然としている。というより、全く気付いてすらないない。
どれだけ鈍感なのかと思った美琴は、小さくため息をついた。
「で、姫神さんは?」
わざとクラスメイトに十分聞こえるような大きな声で、美琴は上条に問いかける。二人きりじゃないのよ!と言外に含ませて。
空気が少し和らいだと思ったのだが、
「あいつ、少し遅れるって。吹寄に用事を頼まれたらしい。だから直接、俺の家に来るってさ」
オーディエンスは『俺の家』という部分に敏感に反応してしまったようだ。二人で行くなら私も!と言いたげな顔に変っている。
「そう。じゃあ、さっさと帰るわよ」
美琴はそういうと、長居は無用とばかりに上条の腕をガシッとつかみグイグイと引っ張っていく。割り込む隙なんて与えないとの意思表示だ。
結果、教室の女子たちは美琴の早技についていけず、上条を見送ることしか叶わなかった。
放課後、掃除やらなんやらの雑事の終わった上条が声を掛けてきた。
そこ声と共に、教室中の視線が美琴と上条に集まる。特に女子の視線を痛いほどだ。
「あらあら、一緒にどちらまで帰られることやら」とでも言いたそうな突き刺すような視線だった。
昨日、一昨日と補習で上条は居残っていたので、美琴は彼と一緒に帰るというのは初めてであり、つまり、この針のむしろ状態も初めてである。
上条の補習のない日は、クラスの女子の間で争奪戦が繰り広げられているのかもしれない。
しかし、このような状況に至っても、上条は平然としている。というより、全く気付いてすらないない。
どれだけ鈍感なのかと思った美琴は、小さくため息をついた。
「で、姫神さんは?」
わざとクラスメイトに十分聞こえるような大きな声で、美琴は上条に問いかける。二人きりじゃないのよ!と言外に含ませて。
空気が少し和らいだと思ったのだが、
「あいつ、少し遅れるって。吹寄に用事を頼まれたらしい。だから直接、俺の家に来るってさ」
オーディエンスは『俺の家』という部分に敏感に反応してしまったようだ。二人で行くなら私も!と言いたげな顔に変っている。
「そう。じゃあ、さっさと帰るわよ」
美琴はそういうと、長居は無用とばかりに上条の腕をガシッとつかみグイグイと引っ張っていく。割り込む隙なんて与えないとの意思表示だ。
結果、教室の女子たちは美琴の早技についていけず、上条を見送ることしか叶わなかった。
無事学校を脱出することに成功したのだが、冷静になった美琴は上条の腕をつかんだままであることに気づく。
少し位置を変えるだけで、腕を組むこともできる。
上条の手を握れば、もっと親密な距離になれる気もした。そう、恋人同士のように。
しかし美琴は少し考えてから、逆に上条の腕をつかむのをやめ、二人の距離を離す。
名残惜さを少し感じてしまうが、
(……やっぱり、ここは正々堂々と…………)
と思う。今ここにいない姫神に遠慮した考えだった。
少し位置を変えるだけで、腕を組むこともできる。
上条の手を握れば、もっと親密な距離になれる気もした。そう、恋人同士のように。
しかし美琴は少し考えてから、逆に上条の腕をつかむのをやめ、二人の距離を離す。
名残惜さを少し感じてしまうが、
(……やっぱり、ここは正々堂々と…………)
と思う。今ここにいない姫神に遠慮した考えだった。
姫神の宣戦布告によって、今までのように恥ずかしいだの、怖いだの言ってられる状況ではなくなってきている。
いや、そういう気持ちは依然としてあるが、それを度外視できるほどの危機が迫っていると言った方がよいかもしれない。
今ここで上条の手を握り、驚いている彼に告白する。そのことは、簡単に思いついていた。
しかし、姫神のことが美琴の心にストッパーをかける。
彼女は用事を頼まれている状態。そんな彼女を尻目に告白するのはフェアじゃない気がした。
別に三人そろったときに告白しようだなんて思わないのだが、隙を狙ってする気は起きない。
告白するとすれば、彼女にも「ちょっと待った」と割り込む程度の余裕を与えておきたかった。
このことは、別に姫神と約束したことではない。美琴が勝手に決めたことだった。
しかし、なぜか美琴は不思議と思う。姫神も同じように考えてくれているだろうと。
なにせ、上条を好きな者同士の『友達』なのだから。
いや、そういう気持ちは依然としてあるが、それを度外視できるほどの危機が迫っていると言った方がよいかもしれない。
今ここで上条の手を握り、驚いている彼に告白する。そのことは、簡単に思いついていた。
しかし、姫神のことが美琴の心にストッパーをかける。
彼女は用事を頼まれている状態。そんな彼女を尻目に告白するのはフェアじゃない気がした。
別に三人そろったときに告白しようだなんて思わないのだが、隙を狙ってする気は起きない。
告白するとすれば、彼女にも「ちょっと待った」と割り込む程度の余裕を与えておきたかった。
このことは、別に姫神と約束したことではない。美琴が勝手に決めたことだった。
しかし、なぜか美琴は不思議と思う。姫神も同じように考えてくれているだろうと。
なにせ、上条を好きな者同士の『友達』なのだから。
「御坂、元気なさそうだけれど、大丈夫か?」
考え事をしていて俯いていたのを上条が勘違いしたのだろう。心配そうな声で話しかけてきた。
「別になんでもないわ。ちょっと考え事してただけ。」
「そうか。ま、何かあったら言ってくれよな。タダでさえ他の学校に来てるんだから、慣れないこととかあるだろ?」
「そんなことないわよ。みんな親切だし、仲良くしてくれるしね。これもアンタのおかげね。色々気を遣わせたみたいだし」
美琴が体験入学に来てから、案内係になった上条には色々と世話になっていた。
教科書のコピーに始まり、移動教室の場所など教えてもらったり。
なによりクラスメイトの輪の中に自然に入っていけたのも、上条のおかげだと思う。
この高校に来て分かったことだが、上条はクラスのムードメーカー的な存在だった。
彼と一緒にいるだけで、たやすく他のクラスメイトと仲良くなれる。
見ず知らずの人がたくさんいる環境に来た美琴にとって、彼ほどありがたく感じた存在はなかった。
まだ、体験入学は中間地点といったところだが、美琴は素直に彼に感謝の言葉を投げかけたのだった。
考え事をしていて俯いていたのを上条が勘違いしたのだろう。心配そうな声で話しかけてきた。
「別になんでもないわ。ちょっと考え事してただけ。」
「そうか。ま、何かあったら言ってくれよな。タダでさえ他の学校に来てるんだから、慣れないこととかあるだろ?」
「そんなことないわよ。みんな親切だし、仲良くしてくれるしね。これもアンタのおかげね。色々気を遣わせたみたいだし」
美琴が体験入学に来てから、案内係になった上条には色々と世話になっていた。
教科書のコピーに始まり、移動教室の場所など教えてもらったり。
なによりクラスメイトの輪の中に自然に入っていけたのも、上条のおかげだと思う。
この高校に来て分かったことだが、上条はクラスのムードメーカー的な存在だった。
彼と一緒にいるだけで、たやすく他のクラスメイトと仲良くなれる。
見ず知らずの人がたくさんいる環境に来た美琴にとって、彼ほどありがたく感じた存在はなかった。
まだ、体験入学は中間地点といったところだが、美琴は素直に彼に感謝の言葉を投げかけたのだった。
「そんなことねーよ。ただ、『不幸』にも抽選でうちの高校に来てしまったのだとしても、楽しんでもらいたかったからな」
彼のその言葉に、美琴の心がチクッと痛む。未だに嘘をつき続けていることに。
美琴が希望してこの高校へ体験入学に来たのだ。ハズレどころかアタリといってもよい。
しかし、自らが望んできたことをいうのは告白に近い。
今すぐにでも本当のことが言いたいのだが、姫神のことが引っかかってしまって言葉に出せなかった。
「……ありがとう。ちゃんと楽しんでるわよ」
美琴は、ニコッと笑顔をうかべながら言葉を紡ぐ。
体験入学に至ったいきさつには触れられなかったが、『楽しい』という気持ちに嘘偽りはない。
彼のその言葉に、美琴の心がチクッと痛む。未だに嘘をつき続けていることに。
美琴が希望してこの高校へ体験入学に来たのだ。ハズレどころかアタリといってもよい。
しかし、自らが望んできたことをいうのは告白に近い。
今すぐにでも本当のことが言いたいのだが、姫神のことが引っかかってしまって言葉に出せなかった。
「……ありがとう。ちゃんと楽しんでるわよ」
美琴は、ニコッと笑顔をうかべながら言葉を紡ぐ。
体験入学に至ったいきさつには触れられなかったが、『楽しい』という気持ちに嘘偽りはない。
上条もそれを見て安心したのか、
「そりゃよかった。ってか、御坂。今日は素直だな。おとなしいと逆に調子狂いそうだ」
と、少しおどけた感じでしゃべる。美琴は少し諦めたように、
「へぇ~じゃあ、超電磁砲でも受けてみる」
と、スカートのポケットからコインを一枚取り出しながら言う。
「い、いやいや。そうじゃなくて!」
慌てた上条が、右手を突き出しながらバックステップで距離を取っていた。
「冗談よ。アンタの言いたいこと分かるわよ。いつもみたいにバカやってる関係がいいって事でしょ?」
「うーん。まぁ、そういうことかな」
「そりゃよかった。ってか、御坂。今日は素直だな。おとなしいと逆に調子狂いそうだ」
と、少しおどけた感じでしゃべる。美琴は少し諦めたように、
「へぇ~じゃあ、超電磁砲でも受けてみる」
と、スカートのポケットからコインを一枚取り出しながら言う。
「い、いやいや。そうじゃなくて!」
慌てた上条が、右手を突き出しながらバックステップで距離を取っていた。
「冗談よ。アンタの言いたいこと分かるわよ。いつもみたいにバカやってる関係がいいって事でしょ?」
「うーん。まぁ、そういうことかな」
はじめから超電磁砲を飛ばす気などさらさらない。そんなことをしても何も解決しないのも分かっている。
美琴は気付いてしまったいた。今まで告白が出来なかった理由を。
タイミングとか周りがどうこうというのでなく、それは彼にも自分にも、その準備が整っていないのだ。
告白という雰囲気を二人はまだ作れない。いつも互いにその雰囲気をつぶしてしまう。
そんなことではいつまで経っても現状維持だ。美琴は小さな声で、
「それじゃあダメなんだって…バカ」
と、つぶやく。
自分に対して言ったのか、上条に対していったのか、曖昧な言葉だった。
今の関係を壊したい。そして次の一歩を踏み出したい。
そういった気持ちが、その言葉には込められていた。
美琴は気付いてしまったいた。今まで告白が出来なかった理由を。
タイミングとか周りがどうこうというのでなく、それは彼にも自分にも、その準備が整っていないのだ。
告白という雰囲気を二人はまだ作れない。いつも互いにその雰囲気をつぶしてしまう。
そんなことではいつまで経っても現状維持だ。美琴は小さな声で、
「それじゃあダメなんだって…バカ」
と、つぶやく。
自分に対して言ったのか、上条に対していったのか、曖昧な言葉だった。
今の関係を壊したい。そして次の一歩を踏み出したい。
そういった気持ちが、その言葉には込められていた。
「なんか言ったか?」
「なんでもないわよ!調子乗ってるとホントに電撃飛ばすわよ!」
「あぁ~わ、わかったから。ビリビリやめて!」
「なんでもないわよ!調子乗ってるとホントに電撃飛ばすわよ!」
「あぁ~わ、わかったから。ビリビリやめて!」
電撃も何も出していないにもかかわらず、彼から懇願するような声が響く。
やっぱり、この関係はしばらくは壊せそうにないのだろうか。
やっぱり、この関係はしばらくは壊せそうにないのだろうか。
今までは宝物を扱うように、壊したくないと大切にしていた。
だが、一歩先に進みたいと思っても壊せなかった。
自分の気持ちが変わろうとも、「壊せない」ということには変わりがない。
何かが足りないのだ。壊すための何かが。
それが何なのか、全く見当がつかない。
でも、見つけなければならない。このままだと、いつまでたっても「バカやってる」友達のままだ。
恋人という関係には到底なれっこない。
しかも、時間も差し迫っている。グズグズしていたら、姫神と結ばれてしまうかもしれない。
このときを逃したら、本当にチャンスは巡ってこない。
だが、一歩先に進みたいと思っても壊せなかった。
自分の気持ちが変わろうとも、「壊せない」ということには変わりがない。
何かが足りないのだ。壊すための何かが。
それが何なのか、全く見当がつかない。
でも、見つけなければならない。このままだと、いつまでたっても「バカやってる」友達のままだ。
恋人という関係には到底なれっこない。
しかも、時間も差し迫っている。グズグズしていたら、姫神と結ばれてしまうかもしれない。
このときを逃したら、本当にチャンスは巡ってこない。
空を見上げると、沈みかけた太陽が空を赤く染めている。
強くなってきた冷たい北風を頬に受けながら、美琴は思うのだった。
強くなってきた冷たい北風を頬に受けながら、美琴は思うのだった。
バスを降りるとそこは、学生寮の建ち並ぶエリアだった。
上条はしばらく歩いていて、何の変哲もない学生寮に入る。彼が日々を過ごす場所だ。
初めて案内される彼の住まいに、美琴はドキドキしながらついていく。
何の変哲もない場所のはずが、美琴にとっては常盤台の学生寮以上に特別な場所に思えてくる。
上条はしばらく歩いていて、何の変哲もない学生寮に入る。彼が日々を過ごす場所だ。
初めて案内される彼の住まいに、美琴はドキドキしながらついていく。
何の変哲もない場所のはずが、美琴にとっては常盤台の学生寮以上に特別な場所に思えてくる。
エレベータを降り、廊下を進む。彼の部屋へ近づくにつれて、心拍数はどんどん上がっていった。
彼はドアの前に立つと、ポケットから鍵を取り出し、ロックを外す。
その一つ一つの動作を美琴は固唾をのんで見守っていた。
まるでドア一枚隔てた向こうには、自分の知らない世界が広がっているかのように。
その一つ一つの動作を美琴は固唾をのんで見守っていた。
まるでドア一枚隔てた向こうには、自分の知らない世界が広がっているかのように。
ドアが開かれると、上条は、「汚い部屋だけど、あがってくれ」と、美琴を案内する。
美琴は一歩一歩を踏みしめながらドアへと進む。
それは、マラソンのラスト百メートルのように、今までの苦労を思い出して感慨に浸るような気分かもしれない。
今まで来たいと思っていても来られなかった上条の部屋に、今やっとたどり着いたのだ。
ここがゴールではないことも、これから先も長い道のりが待ち構えていることも分かっている。
でも、確実に上条に近づけていることがうれしかった。
「お邪魔します」
ドアをくぐった美琴は、丁寧な口調で告げる。中からは当たり前のように、何の返事もない。
後ろからドアを閉めるバタンという音が聞こえ、世界の出入り口がすべてふさがれた。
美琴は、、彼と二人っきりになったことを認識する。
(……アイツと二人っきり…………)
今、彼女の緊張は、蜘蛛の糸の上で綱渡りをしているように、ギリギリのところでバランスを取っていた。
美琴は何とか落ち着こうと小さく息を繰り返すのが、全くと言っていいほど緊張は解けない。
美琴は一歩一歩を踏みしめながらドアへと進む。
それは、マラソンのラスト百メートルのように、今までの苦労を思い出して感慨に浸るような気分かもしれない。
今まで来たいと思っていても来られなかった上条の部屋に、今やっとたどり着いたのだ。
ここがゴールではないことも、これから先も長い道のりが待ち構えていることも分かっている。
でも、確実に上条に近づけていることがうれしかった。
「お邪魔します」
ドアをくぐった美琴は、丁寧な口調で告げる。中からは当たり前のように、何の返事もない。
後ろからドアを閉めるバタンという音が聞こえ、世界の出入り口がすべてふさがれた。
美琴は、、彼と二人っきりになったことを認識する。
(……アイツと二人っきり…………)
今、彼女の緊張は、蜘蛛の糸の上で綱渡りをしているように、ギリギリのところでバランスを取っていた。
美琴は何とか落ち着こうと小さく息を繰り返すのが、全くと言っていいほど緊張は解けない。
美琴が玄関から一歩振り込んだ瞬間、二人きりの世界に、けたたましい電子音が鳴り響いた。
別にやましいことをしているわけではないのだが、それだけでビクッとなってしまう。
蜘蛛の糸が切れ、谷底へ落ちていくような感覚におそわれた。今確実に心臓が止まっていたと思えた。
別にやましいことをしているわけではないのだが、それだけでビクッとなってしまう。
蜘蛛の糸が切れ、谷底へ落ちていくような感覚におそわれた。今確実に心臓が止まっていたと思えた。
美琴が振り返ると、音の主が上条の携帯電話だとわかる。
美琴とは打って変わって、平然とした表情の上条がポケットの中から携帯電話を取りだして通話を始めた。
美琴とは打って変わって、平然とした表情の上条がポケットの中から携帯電話を取りだして通話を始めた。
「あ、先生。――え?あ~――――はい。わかりました。」
上条が電話を切ると、慌てたように、
「すまん、御坂。学校に食材忘れてきた。取りに行ってくるから、ここで待っててくれ」
「ちょ、ちょっと」
「あーそれから、飲み物とか冷蔵庫に入ってるから適当に飲んでていいぞ。なんなら、ご飯作り始めててもいいから」
そこまで言って、上条は美琴の返事も聞かずに飛び出していった。
美琴は、突然の出来事に緊張から一気に解放されてはいたが、その反動でただ突っ立って彼を見送るしかできなかった。
美琴は、しばらく玄関で呆然としていたが、ふと我に返り、
「私を放っておいて、何やってるのよ……」
と、呆れながら奥の方へ足を進める。たどり着いた先はキッチンだった。
他人の家で勝手な行動をするのはどうかと思ったが、家主の許可も一応ある。
緊張のあまり忘れていたが、そもそも今日美琴が来たのはレシピ研究をするためな訳だし。
「すまん、御坂。学校に食材忘れてきた。取りに行ってくるから、ここで待っててくれ」
「ちょ、ちょっと」
「あーそれから、飲み物とか冷蔵庫に入ってるから適当に飲んでていいぞ。なんなら、ご飯作り始めててもいいから」
そこまで言って、上条は美琴の返事も聞かずに飛び出していった。
美琴は、突然の出来事に緊張から一気に解放されてはいたが、その反動でただ突っ立って彼を見送るしかできなかった。
美琴は、しばらく玄関で呆然としていたが、ふと我に返り、
「私を放っておいて、何やってるのよ……」
と、呆れながら奥の方へ足を進める。たどり着いた先はキッチンだった。
他人の家で勝手な行動をするのはどうかと思ったが、家主の許可も一応ある。
緊張のあまり忘れていたが、そもそも今日美琴が来たのはレシピ研究をするためな訳だし。
キッチンを見回すと、一人暮らしの男子学生とは思えないほど、綺麗に整っている。
洗い物が残っているが、その皿の数からすると朝食に使ったものだろう。
朝の慌ただしい時間に洗い物をしないというのは、主婦でも普通にすることなので、取り立てて問題とは思えない。
部屋の方も散らかってないので、掃除もまめに行っていると思われる。
美琴の知識(多くは、マンガから仕入れているのだが)では、男の部屋というものは足の踏み場もなく、
キッチンのシンクには、何日前に使ったのか分からない皿が重ねてあるものと思っていた。
多少偏見が混じっているような気もするが、女子校に通っていて、
しかも男の部屋に入ったこともない美琴には、仕方のないことなのかもしれない。
そんな美琴だからこそなのか、それとも女の感なのか、
「もしかして、誰かと一緒に住んでるとか?」
と、思ってしまう。
洗い物が残っているが、その皿の数からすると朝食に使ったものだろう。
朝の慌ただしい時間に洗い物をしないというのは、主婦でも普通にすることなので、取り立てて問題とは思えない。
部屋の方も散らかってないので、掃除もまめに行っていると思われる。
美琴の知識(多くは、マンガから仕入れているのだが)では、男の部屋というものは足の踏み場もなく、
キッチンのシンクには、何日前に使ったのか分からない皿が重ねてあるものと思っていた。
多少偏見が混じっているような気もするが、女子校に通っていて、
しかも男の部屋に入ったこともない美琴には、仕方のないことなのかもしれない。
そんな美琴だからこそなのか、それとも女の感なのか、
「もしかして、誰かと一緒に住んでるとか?」
と、思ってしまう。
まず同居相手として思い浮かんだのが、銀髪碧眼のシスター。
上条と一緒にいるところを何度も目撃している上、学園都市内で宗教関係とおぼしき人間が住んでいるのも不思議だ。
あまり考えにくいが勝手に進入していた場合、当然住む場所はない。
なので、厄介ごとに首を突っ込む上条が、彼女をかくまっているというのは、ありえなくもない。
ただ、あのシスターが家事をやっているところが想像できないのが難点か。
上条と一緒にいるところを何度も目撃している上、学園都市内で宗教関係とおぼしき人間が住んでいるのも不思議だ。
あまり考えにくいが勝手に進入していた場合、当然住む場所はない。
なので、厄介ごとに首を突っ込む上条が、彼女をかくまっているというのは、ありえなくもない。
ただ、あのシスターが家事をやっているところが想像できないのが難点か。
他にも、姫神やスパリゾート安泰泉で出会った少女など、考えればいくらでも心当たりが出てくる。
とはいえ、いくら考えたところで答えなど出るはずもなく、
「家事も出来るマメな男子学生ってことよね」という、ある意味正しい結論で自己完結させた。
とはいえ、いくら考えたところで答えなど出るはずもなく、
「家事も出来るマメな男子学生ってことよね」という、ある意味正しい結論で自己完結させた。
そして美琴は、制服の上着を脱ぎブラウスを腕まくりする。
上条が戻ってくるまでの間、ボーッとしているのも何だかなと思ったので、レシピ研究の準備でもしておこうと思ったのだ。
冷蔵庫を開けてみるのだが、ほとんど何も入っていなかった。
確か上条は立ち去る間際、食材を取りに行くと言っていたので、下準備は彼が帰ってきてからでないとできそうにない。
とりあえず、冷蔵庫に入っていたヤシの実サイダーのペットボトルを開けて一口飲む。
実は「飲みかけ」の黒豆サイダーという誘惑に、打ち勝ったことはあったことは内緒だ。
料理の準備は出来ないので、シンクにある朝食に使ったとおぼしき数枚の皿を洗おうと考える。
美琴は蛇口をひねって洗い始めようとした瞬間だった。
加減が分からず適当にひねったため、蛇口から勢いよく水が飛び出たのだ。
その水がシンクに重ねてある皿に跳ね返り、美琴の方目がけて飛び散る。
果たして、美琴のブラウスはびしょ濡れになっていた。
「どうすんのよ。これ」
美琴は、冬の冷たい水を吸ってベタベタになっているブラウスに手をやる。
そして気がついた。ブラウスを通してブラジャーが透けてしまっていることに。
「ッ!!」
思わず言葉を失う。
よくよく考えてみれば、ここは上条の家だ。いつ彼が帰ってきてもおかしくない。
彼は学校に行ったようなのでしばらくは帰ってこないとは思うのだが、それまでに乾くという保証もない。
こんな姿は見られたくないと思案していると、今日は体育があったことを思い出す。
体操服の方はマラソンをした所為で汗まみれなので、袖を通すのはためらわれた。
気持ち悪いとかそういうのより、汗臭い服で上条の前に立ちたくなかったのだ。
だが、ジャージの方はマラソン中は脱いでいたこともあり、多分汗臭くないはずだ。
美琴は鞄の中に入ったジャージを取り出すと、そそくさと洗面所へ向かうのだった。
上条が戻ってくるまでの間、ボーッとしているのも何だかなと思ったので、レシピ研究の準備でもしておこうと思ったのだ。
冷蔵庫を開けてみるのだが、ほとんど何も入っていなかった。
確か上条は立ち去る間際、食材を取りに行くと言っていたので、下準備は彼が帰ってきてからでないとできそうにない。
とりあえず、冷蔵庫に入っていたヤシの実サイダーのペットボトルを開けて一口飲む。
実は「飲みかけ」の黒豆サイダーという誘惑に、打ち勝ったことはあったことは内緒だ。
料理の準備は出来ないので、シンクにある朝食に使ったとおぼしき数枚の皿を洗おうと考える。
美琴は蛇口をひねって洗い始めようとした瞬間だった。
加減が分からず適当にひねったため、蛇口から勢いよく水が飛び出たのだ。
その水がシンクに重ねてある皿に跳ね返り、美琴の方目がけて飛び散る。
果たして、美琴のブラウスはびしょ濡れになっていた。
「どうすんのよ。これ」
美琴は、冬の冷たい水を吸ってベタベタになっているブラウスに手をやる。
そして気がついた。ブラウスを通してブラジャーが透けてしまっていることに。
「ッ!!」
思わず言葉を失う。
よくよく考えてみれば、ここは上条の家だ。いつ彼が帰ってきてもおかしくない。
彼は学校に行ったようなのでしばらくは帰ってこないとは思うのだが、それまでに乾くという保証もない。
こんな姿は見られたくないと思案していると、今日は体育があったことを思い出す。
体操服の方はマラソンをした所為で汗まみれなので、袖を通すのはためらわれた。
気持ち悪いとかそういうのより、汗臭い服で上条の前に立ちたくなかったのだ。
だが、ジャージの方はマラソン中は脱いでいたこともあり、多分汗臭くないはずだ。
美琴は鞄の中に入ったジャージを取り出すと、そそくさと洗面所へ向かうのだった。
「よくよく考えると、結構恥ずかしいわね」
人の家で、しかも自分の好きな上条の家で着替えるというシチュエーションだけで、美琴は頬を赤らめる。
手慣れているはずのブラウスのボタンを外すという行為ですら、全くもっておぼつかない。
やっとの思いで、すべてのボタンを外してビショ濡れのブラウスをはぎ取る。
濡れた体を拭こうと、積み上げられたタオルに手を伸ばした瞬間だった。
人の家で、しかも自分の好きな上条の家で着替えるというシチュエーションだけで、美琴は頬を赤らめる。
手慣れているはずのブラウスのボタンを外すという行為ですら、全くもっておぼつかない。
やっとの思いで、すべてのボタンを外してビショ濡れのブラウスをはぎ取る。
濡れた体を拭こうと、積み上げられたタオルに手を伸ばした瞬間だった。
『バタン』という音が玄関の方から響き渡る。
(ア、アイツ帰ってきた!?!?)
時間的にはまだ帰ってくるはずはないのだが、途中で用事を思い出し引き返してきたのかもしれない。
そんなことを考えても仕方ないと、とにかくタオルでも何でもいいから体を隠せるものをと腕を伸ばす。
『ガッシャーン』
慌てたのがまずかったのだろう。洗面台に置いてあったコップと歯ブラシに腕が触れ、それが床に大きな音を立てて落ちてしまった。
その音を聞いて不審に思ったのだろう。洗面所のドアの取っ手がゆっくりと回されている。
(こ、このままだとマズイ!!)
冷静さを失った美琴だったが、そこでふと変な想像がよぎる。
(アイツが私の裸を見たら、女として見てくれるかも……)
それは、今日の帰りに気付いたことだった。上条と美琴との間には、何か足りないものがあると。
もしそれが、彼が自分のことを女として見てくれていないということなら、ここで打開できる気がする。
(って、訳ないでしょ!!)
思い直した美琴は、そのままタオルへと手を伸ばす。しかし、わずか一瞬ともいえる思考が命取りだった。
タオルを手に取ることも出来ぬまま、洗面所のドアは開け放たれていた。
(ア、アイツ帰ってきた!?!?)
時間的にはまだ帰ってくるはずはないのだが、途中で用事を思い出し引き返してきたのかもしれない。
そんなことを考えても仕方ないと、とにかくタオルでも何でもいいから体を隠せるものをと腕を伸ばす。
『ガッシャーン』
慌てたのがまずかったのだろう。洗面台に置いてあったコップと歯ブラシに腕が触れ、それが床に大きな音を立てて落ちてしまった。
その音を聞いて不審に思ったのだろう。洗面所のドアの取っ手がゆっくりと回されている。
(こ、このままだとマズイ!!)
冷静さを失った美琴だったが、そこでふと変な想像がよぎる。
(アイツが私の裸を見たら、女として見てくれるかも……)
それは、今日の帰りに気付いたことだった。上条と美琴との間には、何か足りないものがあると。
もしそれが、彼が自分のことを女として見てくれていないということなら、ここで打開できる気がする。
(って、訳ないでしょ!!)
思い直した美琴は、そのままタオルへと手を伸ばす。しかし、わずか一瞬ともいえる思考が命取りだった。
タオルを手に取ることも出来ぬまま、洗面所のドアは開け放たれていた。
「キャーーーー」
ブラジャー一枚の上半身という姿の美琴の悲鳴が、上条の家の洗面所に響き渡った。
彼女は恥ずかしさのあまり、なるべく見られないように身を縮こまらせて、目をつぶったまま立っている。
意外にも、ドアの前に立った人物からは何の反応もない。
美琴はおそるおそる目を開く。
が、そこに立っているのは上条ではなく、白い修道服を着たシスターだった。
彼女も、美琴の姿を見たまま身動きできずに固まっている。目の前の光景を理解できずにいるといった感じだ。
「な、なんでアンタがここにいるのよ」
美琴の言葉に、我に返ったインデックスが口を開く。
「た、短髪こそ、とうまの家にいるのかな?しかも、そんな格好で」
美琴は、自分の格好がどうなっているか思いだし、足下にあるジャージを手に取ると、そそくさとそれを身にまとう。
いくら女の子同士だからといっても、恥ずかしいものは恥ずかしいのだ。
彼女は恥ずかしさのあまり、なるべく見られないように身を縮こまらせて、目をつぶったまま立っている。
意外にも、ドアの前に立った人物からは何の反応もない。
美琴はおそるおそる目を開く。
が、そこに立っているのは上条ではなく、白い修道服を着たシスターだった。
彼女も、美琴の姿を見たまま身動きできずに固まっている。目の前の光景を理解できずにいるといった感じだ。
「な、なんでアンタがここにいるのよ」
美琴の言葉に、我に返ったインデックスが口を開く。
「た、短髪こそ、とうまの家にいるのかな?しかも、そんな格好で」
美琴は、自分の格好がどうなっているか思いだし、足下にあるジャージを手に取ると、そそくさとそれを身にまとう。
いくら女の子同士だからといっても、恥ずかしいものは恥ずかしいのだ。
「アイツに呼ばれたからここに来てるだけよ。着替えていたのは、洗い物をしていて濡れたから。
で、アンタはなんでここにいるの?まさか、アイツと一緒に住んでいるとか言わないわよね?」
で、アンタはなんでここにいるの?まさか、アイツと一緒に住んでいるとか言わないわよね?」
美琴はまくし立てるようにインデックスに言葉を投げかけた。
しかし、彼女はそれを聞いて表情をゆがめていく。まるで、この世の終わりのように。
美琴は、自分の言葉にそんな意味を含ませた覚えはないので、不思議に思っていると、
しかし、彼女はそれを聞いて表情をゆがめていく。まるで、この世の終わりのように。
美琴は、自分の言葉にそんな意味を含ませた覚えはないので、不思議に思っていると、
「なんで、とうまが来ないの?なんで、私が来ちゃうの?」
インデックスは、顔をさらに歪ませて言う。目から涙が止めどなく流れていた。
「ちょ、ちょっと。アンタ。何で泣いてるのよ??」
美琴は、インデックスがなぜここにいるのかという疑問も忘れ、彼女のことが心配になってくる。
インデックスは、その言葉で箍が外れたのか、駆け寄ってきて美琴に抱きついたまま、声を出しながら泣いていた。
美琴は、何も言葉を出せなかった。インデックスが泣いている理由が分からない。
だから、投げかける言葉も見つからなかった。
ただ、インデックスの泣く声が、狭い洗面所に響き渡るだけだった。
インデックスは、顔をさらに歪ませて言う。目から涙が止めどなく流れていた。
「ちょ、ちょっと。アンタ。何で泣いてるのよ??」
美琴は、インデックスがなぜここにいるのかという疑問も忘れ、彼女のことが心配になってくる。
インデックスは、その言葉で箍が外れたのか、駆け寄ってきて美琴に抱きついたまま、声を出しながら泣いていた。
美琴は、何も言葉を出せなかった。インデックスが泣いている理由が分からない。
だから、投げかける言葉も見つからなかった。
ただ、インデックスの泣く声が、狭い洗面所に響き渡るだけだった。
しばらく経って気持ちが治まったのか、美琴の胸に埋まるままではあったが、インデックスの泣く声がしなくなった。
そろそろ会話できるかなと思った美琴は、
「アンタ、何があったのよ。何でいきなり泣き出したわけ?」
と、いつもにらみ合っていた二人とは思えないほど優しい口調で話しかける。
インデックスは、美琴の胸から顔を放し、顔を上に上げると、
「とうまを。とうまを……私から、引き離さないで…………」
と、美琴にとっては訳の分からない返答をよこす。当然美琴は、「何言ってるのよ」とさらなる説明を求めた。
「とうまが、不幸体質ってのは知っているよね。あれは、神様からのご加護が右手で打ち消されてるからなんだよ」
そろそろ会話できるかなと思った美琴は、
「アンタ、何があったのよ。何でいきなり泣き出したわけ?」
と、いつもにらみ合っていた二人とは思えないほど優しい口調で話しかける。
インデックスは、美琴の胸から顔を放し、顔を上に上げると、
「とうまを。とうまを……私から、引き離さないで…………」
と、美琴にとっては訳の分からない返答をよこす。当然美琴は、「何言ってるのよ」とさらなる説明を求めた。
「とうまが、不幸体質ってのは知っているよね。あれは、神様からのご加護が右手で打ち消されてるからなんだよ」
彼があらゆる不幸に遭遇しているのは、理由抜きで納得できた。
ただ、学園都市に住む美琴にとって、神様云々という非科学な話はよく分からないのだが、インデックスは美琴の反応を待たずに続ける。
「だから、とうまは短髪の裸を見てしまうはずだったんだよ」
さすがに、美琴は口を挟まずにはいられない。全くもって思考が飛躍しすぎている。
ただ、学園都市に住む美琴にとって、神様云々という非科学な話はよく分からないのだが、インデックスは美琴の反応を待たずに続ける。
「だから、とうまは短髪の裸を見てしまうはずだったんだよ」
さすがに、美琴は口を挟まずにはいられない。全くもって思考が飛躍しすぎている。
「どういうことよ。分かるように説明して」
「不幸なとうまが、『偶然』女の子の裸を見てしまうっていうのはおかしと思わない?
考えられるのは、見てしまうことが『不幸』だってことだと思う。
見てしまった後で、叩かれたりもしてるし。
見ようと思ってなかったものを見て攻撃されたんじゃ、割に合わないんだよ」
考えられるのは、見てしまうことが『不幸』だってことだと思う。
見てしまった後で、叩かれたりもしてるし。
見ようと思ってなかったものを見て攻撃されたんじゃ、割に合わないんだよ」
美琴は今日学校であったことを思い返す。
女子更衣室に「不幸にも」乱入した彼は、美琴自身を含めた女子全員から総攻撃を受けていた。
確かに、女子の裸を見てしまうのは幸運と呼べなくはない。
でも単に裸を見たいだけであれば、その辺の雑誌や深夜のテレビでも問題はないはずだ。
その上、しっぺ返しが来ない分、そっちのほうが安全ともいえる。
確か彼は去り際に「不幸だ」と叫んでいた。
幸不幸の基準は人によって違うが、上条にとってあれは不幸だったのだろう。
女子更衣室に「不幸にも」乱入した彼は、美琴自身を含めた女子全員から総攻撃を受けていた。
確かに、女子の裸を見てしまうのは幸運と呼べなくはない。
でも単に裸を見たいだけであれば、その辺の雑誌や深夜のテレビでも問題はないはずだ。
その上、しっぺ返しが来ない分、そっちのほうが安全ともいえる。
確か彼は去り際に「不幸だ」と叫んでいた。
幸不幸の基準は人によって違うが、上条にとってあれは不幸だったのだろう。
「それじゃあ、何で私はアイツに見られなかったのよ?」
「簡単なことなんだよ。とうまにとって、短髪の裸を見ることは不幸じゃないってことなんだと思う」
「簡単なことなんだよ。とうまにとって、短髪の裸を見ることは不幸じゃないってことなんだと思う」
涙を浮かべたインデックスが、いきなり突拍子もないことを口にする。
美琴は顔を真っ赤にしながら、慌てたように、
美琴は顔を真っ赤にしながら、慌てたように、
「そ、そんなわけないじゃない!」
と否定するのだが、インデックスは何のためらいもなく、
「考えられるのは、短髪が裸を見られた後に何も攻撃しないか、
とうまが短髪の裸を見ることの方が、攻撃されるよりもうれしいかのどちらかだと思う。
私は、後者だと思うんだけれど……そう思ったら、とうまがどっか行っちゃうような気がして…………」
とうまが短髪の裸を見ることの方が、攻撃されるよりもうれしいかのどちらかだと思う。
私は、後者だと思うんだけれど……そう思ったら、とうまがどっか行っちゃうような気がして…………」
と、最後の方は蚊の鳴くような小さな声で言った。
美琴は更に顔を赤らめるが、やっとのことで、インデックスが泣いた理由が分かった。
つまりは、美琴に上条を奪われそうで、しかも上条もそれを望んでいるように思ったのだろう。
ただ、その理由が、神のご加護云々というよく分からない話だったので、美琴は心から納得は出来なかったが、
このシスターに対して、その部分を否定しても仕方がない気がしたので、
美琴は更に顔を赤らめるが、やっとのことで、インデックスが泣いた理由が分かった。
つまりは、美琴に上条を奪われそうで、しかも上条もそれを望んでいるように思ったのだろう。
ただ、その理由が、神のご加護云々というよく分からない話だったので、美琴は心から納得は出来なかったが、
このシスターに対して、その部分を否定しても仕方がない気がしたので、
「前者よ」
「えっ?」
「だから、私はアイツになら裸を見られてもいいと思ってたの。多分、見られても攻撃しなかったと思う」
「えっ?」
「だから、私はアイツになら裸を見られてもいいと思ってたの。多分、見られても攻撃しなかったと思う」
正直なところ、もし上条に見られた後、自分がどうなっていたのか分からなかった。
いつものごとく、電撃の槍を放っていたと考える方が自然だ。
ただ、一瞬でも見られていいと思ったのは事実。
いつものごとく、電撃の槍を放っていたと考える方が自然だ。
ただ、一瞬でも見られていいと思ったのは事実。
でも、どちらにしても、目の前で泣いていた少女を突き放すようなことはしたくなかった。
自分でもなぜそのような気持ちになったのか分からない。
いつも誰かを助けるために行動するアイツに影響されたのかもしれないな、と美琴は思う。
自分でもなぜそのような気持ちになったのか分からない。
いつも誰かを助けるために行動するアイツに影響されたのかもしれないな、と美琴は思う。
そして、
「私もアイツのこと好きなのよ。でも、まだ決着はついてないわよ。アンタにだって、まだまだチャンスはあるってこと。
さっ、その涙、拭いちゃいなさい」
と、手近にあったタオルをインデックスに渡した。
「私もアイツのこと好きなのよ。でも、まだ決着はついてないわよ。アンタにだって、まだまだチャンスはあるってこと。
さっ、その涙、拭いちゃいなさい」
と、手近にあったタオルをインデックスに渡した。
「それから、アイツ今週中に二人の女の子から告白されるわ。私と姫神さん。
だから、アンタもモタモタしてると奪われるわよ。
ま、私も姫神さんも、アンタとアイツの関係を切り裂こうとは思わないけどね」
「短髪…………」
だから、アンタもモタモタしてると奪われるわよ。
ま、私も姫神さんも、アンタとアイツの関係を切り裂こうとは思わないけどね」
「短髪…………」
インデックスは、美琴から渡されたタオルを使うこともなく、顔をポカンとしながら美琴を見つめていた。
そして、思い立ったようにタオルで顔をゴシゴシ拭くと、
そして、思い立ったようにタオルで顔をゴシゴシ拭くと、
「分かった。とうまは渡さないんだから。
あと、お礼に一つ教えてあげる。とうまに告白しようとしても不幸が邪魔するんだよ。
だから、それに打ち勝つだけの力が必要なんだよ。
不幸なとうまが、倒れることなく色々な人を助けられていることが、多分不幸を打ち勝つための鍵だと思う」
あと、お礼に一つ教えてあげる。とうまに告白しようとしても不幸が邪魔するんだよ。
だから、それに打ち勝つだけの力が必要なんだよ。
不幸なとうまが、倒れることなく色々な人を助けられていることが、多分不幸を打ち勝つための鍵だと思う」
インデックスはそう言うと、今までとは打って変わったような笑顔になっていた。
「ありがとう。私もがんばるから」
美琴は、大きな力をもらったような気がした。
美琴はそのまま上条たちを待っていても良かったのだが、なんとなくそんな気分になれなかった。
今日は色々ありすぎて、気疲れしてしまったのかもしれない。
美琴は机の上に書き置きをして、彼の家から立ち去る。
インデックスも、単に忘れ物をして戻ってきただけらしいのだが、そのまま目的地へ向かっていった。
今日は色々ありすぎて、気疲れしてしまったのかもしれない。
美琴は机の上に書き置きをして、彼の家から立ち去る。
インデックスも、単に忘れ物をして戻ってきただけらしいのだが、そのまま目的地へ向かっていった。
空を見上げると、すでに真っ暗になっていた。
しかし、そこには無数の星が輝いていて、不安な気持ちなど全く生まれなかった。
しかし、そこには無数の星が輝いていて、不安な気持ちなど全く生まれなかった。