とある魔術の禁書目録 自作ss保管庫

06章

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エピローグ


「……」

目を開けると真っ白な景色が目に入ってくる。
眩しいとは思わない、どうやら光では無いらしい。
御坂美琴はキョロキョロと視線を動かすとそこによく知った人物が佇んでいることに気づく。

「おや?起こしてしまったかい?」

カエルによく似た顔をした初老の医師が少しだけ申し訳なさそうな表情で立っていた。

「あ……いえ」

寝起きのせいで思考はおぼつかない。
気分が悪そうに見えたのかカエル顔の医者は首を傾げる。

「……ふむ、気分が悪い?水でも飲むかい?」

すぐに医者が部屋を横切った看護婦を呼び止め
ペットボトルの飲料水を受け取り手渡してきた。

「すみません」

一言断って水を飲む。
渇いていた喉に水が通り、潤った水分のおかげか思考も大分回復してきた。

「大丈夫みたいだね?」

「はい」

どうやら診察の必要もないみたいだ、と言って医者は頬を緩ませた。

「そういえば、いい夢見てたみたいだね?」

「え?」

「見る気は無かったんだけどね?ずいぶん幸せそうな寝顔をしてたから」

寝顔を見られた、それはかなり恥ずかしい事で頬が一気に紅潮する。
だが、気になったのは医者の言葉だった。

(夢……?うぅん、違う)

あれは過去の記憶だ、決して夢ではない。
思考は完全に回復していた、昨日の事もはっきりと思い出した。

「昔の事を思い出してたんです」

「昔の事?」

「はい、私のとても大切な記憶、大事な思い出」

「……彼の事かい?」

そう言われて、熱を持った顔が更に熱くなる。
嬉しい事も恥ずかしい事もある思い出だったからだ。
ただ、彼だけのことではない。

「もちろんそれもあります、だけど彼とはまた違った、大切な人との思い出なんです」

医者はそうかい、と自分の事のように笑う。
そして、外を見ると一層に皺を寄せて満面の笑みになって美琴を振り返った。

「昔話は二人でするといい……」

医者はそこで言葉を切り、美琴から視線を逸らして言葉を続けた。
すこしだけ、にやりといじわるな表情をして。

「いや、“三人”かな?」

直後にドタバタと騒音が美琴の耳に入ってきた。

「……?」

「さて、邪魔者は退散するかな?」

医者は部屋のドアを開ける。
美琴の視界に入ってきたのは取っ組み合いをする三人組だった。

「院内で暴れんなっつってんでしょうが!!何度いや気が済むんですか!」

一人は四十台くらいの中年の女性の看護士だ。
美琴も顔を合わせたことがあり、何度も彼の事で『お世話』になった。

「美琴!美琴!!どこだ!!」

もう一人はツンツン頭をした青年……は看護師の女性にぶん殴られながら
美琴の名前を叫び続ける、正直言って迷惑な客だろう。

「おい!ババァ!あのガキはどこだ!?さっさと吐けこらァ!」

最後の一人は、よく見えなかったがチラチラと白髪が見える。
ツンツン頭の青年と同じくらいの身長で年も近いことだけはわかった。
口調が汚く、誰かを探しているらしい。

「バ……あなたは隣の病室!それで、上条さんはここ!」

ゴキッと嫌な音がしてツンツン頭の青年……上条当麻が美琴の部屋に放り込まれ
もう一人の方はずるずると引っ張られ、視界から消えた。
最後にカエル顔の医者がニヤニヤといやらしい笑顔でゆっくりとドアを閉めた。

「「……」」

美琴と上条の二人の間で暫く沈黙が続く。
じっと上条は美琴を見つめ、美琴は耐え切れなくなって目線を逸らそうとしたとき

「美琴ーーーーーーーーーーー!!」

上条が美琴に抱きついてきた。
ぎゅぅっと思いっきり抱きしめられる。

「ちょ!ちょっと、痛いって!」

かなり強い力で抱きしめられているのか骨がおられそうな気がし身震いをする。

「わ、悪い、嬉しすぎて、我を忘れてた」

美琴の抗議が通じ抱きしめていた力が弱まる。
今度は優しく包み込むように抱きしめられ、痛みはなくなり心地よさが体に広がっていく。
その時間が数秒続き、体が解放されると上条は真面目な表情になっていた。

「昨日はごめんな、美琴が大変だったのに……」

本当はすぐに駆けつけたかったんだが、と心底申し訳なさそうに謝る
上条に美琴のほうが罪悪感を感じてしまう。

「し、仕方ないわよ、当麻も仕事探すの大変なんだし」

そういうと上条はそうか、といって胸をなでおろし近くの椅子に腰を下ろす、二人の会話に区切りがつけられた。
上条と美琴……二人の交際が始まって六年が経過していた。
上条は就職活動真っ最中の大学四年生、そして美琴は大学二年生と両方ともに成人となり
関係はより深まっている、両家の親とも公認でだ。
現在はマンションで二人で同棲生活を営んでいた。

「……そうだ、美琴」

美琴が少し今までの事を振り返っていると上条がふと思い出したように
美琴の寝ているベッドの隣を見る。
それに気付き、美琴は体を少し動かし上条の見たいものを見せる
きっと上条が一番に確認したかった事だからだ。

「騒いでたけど、ぐっすり眠ってるわ」

そこには、二人の大切な新しい命がすやすやと寝息を立てていた。

「……この子が」

上条が愛おしそうに『命』を撫でる。
待ち望んでいた、逢いたいと願った三人の子供。
その一人がようやく目の前に生まれてきてくれた。

「美琴、ありがとう、本当に……この子を産んでくれて」

「……お礼を言うんならこの子に言ってあげて?」

眠っている赤ん坊を見て美琴は言う。

「そうか?」

「そうよ、この子が私たちを引き合わせてくれたんだから」

上条は納得した表情で赤ん坊に礼をする。

「そうだな、ありがとな……『当瑠』」

その子の名前を呼び、ニカッと笑う。
赤ん坊、当瑠は眠ったままだが、表情はとても安らいでいた。

「……なぁ、美琴」

「何?」

当瑠を見つめたまま上条は美琴に囁くように声をかけてくる。
それには一つの決意があるように見え、美琴は少しだけ身構えた。

「仕事、決まったんだ」

それは、一つの約束が果たされた事を告げていた。

「本当!!?良かったじゃない!」

心のそこから嬉しくて、一瞬そのことを忘れて美琴は祝福してしまう。
喜んだ後に約束を思い出し、一気に気恥ずかしさが増す。

「……うん。だからさ、いいよな?美琴」

「あ、うぅ……そっか、うん、約束、だもんね」

約束は、上条が大学三年生の時に交わされたものだった。
なかなか内定の取れなかった上条は美琴にある決意を告げた。
美琴にとっては歯がゆいもので、交わされてから、今までの一年間は少しだけ苦しかった。
本来、子供が出来る前に美琴が上条としたかった誓い。
愛するもの同士が誓い合う、儀式。





「美琴……俺と、結婚してくれ」




二人が夫婦になること。
美琴が『上条美琴』になることだ。
ずっと待っていた、一つの到達点。
まだまだ、先はある、まだ逢うべき人がいるが二人の関係の終着点。
答えは、決まっている。
上条と歩んでいきたい、一緒に生きていきたい。
ずっとずっと……





「よろしくお願いします―――――あなた」




体を抱き寄せられ唇を重ねる。
深く、深く愛し合う。
未来を紡ぐ、とある二人の物語はまだまだ終らない。






――――――とある未来へ繋げていく為に

END


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