5.最終日
「……は、あ……」
唇が離れ、切なげな息が漏れる。
当瑠は美詠のその吐息と呆けた表情にもう一度したくなってしまうが
それを必死に堪え、美詠から体を離す。
当瑠は美詠のその吐息と呆けた表情にもう一度したくなってしまうが
それを必死に堪え、美詠から体を離す。
「……どういう、つもり?」
当瑠の体が離れたからか美詠の意識はそれで戻ってきたらしい。
当瑠自身はまだ美詠の見せた事の無い女性としての表情が忘れられず
まだして欲しいとねだっているように見えてしまい、ごくりとつばを飲み
平常心を取り戻そうとする。
当瑠自身はまだ美詠の見せた事の無い女性としての表情が忘れられず
まだして欲しいとねだっているように見えてしまい、ごくりとつばを飲み
平常心を取り戻そうとする。
「どうもこうもねぇよ、いました事が俺のお前への気持ちだよ」
勢いでしたつもりは無い。
本気の自分の気持ちを伝えたつもりだ。
本気の自分の気持ちを伝えたつもりだ。
「……そっか、アンタは私のこと好きでいてくれたんだ、いつ、から?」
もじもじと指を絡ませて上目遣いに美詠が当瑠をみる。
その表情は当瑠にとって毒でしかない。
理性を壊す、甘い毒だ、一度覚えれば病み付きになってしまう。
その表情は当瑠にとって毒でしかない。
理性を壊す、甘い毒だ、一度覚えれば病み付きになってしまう。
「……わかんね、一目惚れかもしんねぇし、今回の計画を聞いたときからかもな。
だけど、ずっと気になってはいたんだと思う」
だけど、ずっと気になってはいたんだと思う」
「そうなんだ、ずっと……。
私、出会った時は凄く暗かったけど」
私、出会った時は凄く暗かったけど」
美詠が顔を上に向ける、初めてあったときの事を思い出しているのだろうか。
確かに初めてであった美詠はその頃の同年代の子供と思えないほど暗かった。
みんなで遊んでいる中、当瑠がベンチに座って眺めているのを見つけたのが出会いだったと記憶している。
羨ましそうに、それでいて悲しそうにしてる表情が見捨てられなくて当瑠が声をかけた。
確かに初めてであった美詠はその頃の同年代の子供と思えないほど暗かった。
みんなで遊んでいる中、当瑠がベンチに座って眺めているのを見つけたのが出会いだったと記憶している。
羨ましそうに、それでいて悲しそうにしてる表情が見捨てられなくて当瑠が声をかけた。
「なんか放っとけなかったんだよな、それで無理やりお前を輪の中に引っ張ったら―――」
「お兄ちゃんに殴られたわね、アンタ」
いきなり現れた白髪の少年にぶん殴られ、そのままマウントをとられ喧嘩になった。
喧嘩に決着はつかず、その後当瑠は白髪の少年に出会うたびに追い掛け回される破目になった。
喧嘩に決着はつかず、その後当瑠は白髪の少年に出会うたびに追い掛け回される破目になった。
「今もいきなりぶん殴ってくるけどなアイツ」
「そう、ね、お兄ちゃんぜんぜん変わらない、過保護って言うか」
「シスコンだ、病気だよ、アレは」
話しているうちに先ほどのキスの事など忘れて昔話に花が咲く。
当瑠にも、美詠にとっても共有する日常に戻るための大切な思い出だ。
暗い雰囲気も消えてしまい、美詠にも笑顔が戻る。
当瑠にも、美詠にとっても共有する日常に戻るための大切な思い出だ。
暗い雰囲気も消えてしまい、美詠にも笑顔が戻る。
「……そういえば」
昔話にも途切れがきて不意に美詠が一つの疑問を思い出した。
「お父さんとの約束ってなんだったの?」
そのとき当瑠の中の時間が止まる。
ぎぎぎ、と美詠から顔を逸らし不適に笑った。
ぎぎぎ、と美詠から顔を逸らし不適に笑った。
「ははは――――なんのことでせうか?」
「バレバレの誤魔化ししてんじゃないわよ、確かに言ったわよ
『親父さんから約束があったんだけど』って」
『親父さんから約束があったんだけど』って」
「……言わないぞ」
隠しても無駄なのは初めから分かっていることで
言った事は素直に認める、だが言うのは恥ずかしかった。
言った事は素直に認める、だが言うのは恥ずかしかった。
「言いなさいよ……つーか本当に約束なの?脅しじゃなくて?」
どちらかと言えば、美詠の父親にはそれがぴったりだ。
当瑠も約束と言うよりは警告だと判断している。
当瑠も約束と言うよりは警告だと判断している。
「……無理」
当瑠は断固として拒否をする。
だが、当瑠が彼女を見ると美詠には切り札があるらしくにやりと笑っていた。
頬は赤く染まっていたが。
だが、当瑠が彼女を見ると美詠には切り札があるらしくにやりと笑っていた。
頬は赤く染まっていたが。
「私にキ、キスした事お父さんに言うけどいいの?」
当瑠の表情は一気に青ざめた。
「おま……!!馬鹿!言うなよ!あの人には絶対言うなよ!」
「あらーん?もしかして私関連の事?」
「うぐっ!」
「言えばお父さんには言わないけど?白状する?」
完敗だ、勝てるわけが無い。
美詠ならともかく、美詠の父親は当瑠では手も足も出ないほど凶悪で
学園都市では誰も勝てないんじゃないかと当瑠は思っている。
当瑠は瞬時に身の安全を確保する事にした。
美詠ならともかく、美詠の父親は当瑠では手も足も出ないほど凶悪で
学園都市では誰も勝てないんじゃないかと当瑠は思っている。
当瑠は瞬時に身の安全を確保する事にした。
「言います、だから見捨てないで」
「よろしい」
だが言うのは前述通り非常に恥ずかしい。
しかも破ってしまった約束だ、いずれはばれるだろう。
それまで自分の寿命はどれくらい余っているか。
少しでも長く生き延びるかに思考はシフトチェンジしていた。
しかも破ってしまった約束だ、いずれはばれるだろう。
それまで自分の寿命はどれくらい余っているか。
少しでも長く生き延びるかに思考はシフトチェンジしていた。
「……」
「どうしたのよ?」
「……いや、なんと言うか本当に言っていいものか」
学園都市で過ごした日々が一瞬フラッシュバックする。
もしかしたら俺、死ぬかもしれないなとしみじみと感じ。
死ぬ前に目の前の少女に気持ちを伝えられて良かったなどと現実逃避をし始める。
長く生き延びられるか、答えはNOだ計算するまでも無い。
もしかしたら俺、死ぬかもしれないなとしみじみと感じ。
死ぬ前に目の前の少女に気持ちを伝えられて良かったなどと現実逃避をし始める。
長く生き延びられるか、答えはNOだ計算するまでも無い。
「……に……たら……ろす……って言われた」
か細い声のせいか美詠にはよく聞こえなかったらしく
耳を近づけてきた。
耳を近づけてきた。
「え?小さくて聞こえないわよ?もう少し大きく」
伝われば少女はどんな反応を示すだろうか。
すっと深呼吸をして、『警告』している彼女の父の表情を思い出す。
すっと深呼吸をして、『警告』している彼女の父の表情を思い出す。
―――――当瑠の出発前日
「……なぁ、本当に俺でいいのかよ?」
とある公園のとある自販機の前で二人の男性が話している。
自販機に背中を持たれかけさせた30代後半の白髪の男性と高校生の少年、上条当瑠だ。
自販機に背中を持たれかけさせた30代後半の白髪の男性と高校生の少年、上条当瑠だ。
「なンどもいわせンじゃねェよ、てめェしか適任はいねェだろうが」
白髪の男性は預けていた背中を自販機から離す
足が悪いのか右手に持った現代的なデザインの杖で体を支え
自販機にいくらかの札を入れ飲み物を購入した。
足が悪いのか右手に持った現代的なデザインの杖で体を支え
自販機にいくらかの札を入れ飲み物を購入した。
「……俺じゃ、足手まといなのか?」
「言うまでもねェよ、てめェはレベル0だぜェ?」
自販機から出た飲み物を飲み白髪の男性は苦い顔をし
「飽きたな」と言って一口しか飲んでいないその缶をぽいっと投げ捨てる。
「飽きたな」と言って一口しか飲んでいないその缶をぽいっと投げ捨てる。
「……じゃァなァ、ガキはさっさとクソして寝やがれ」
よろよろと少し危なっかしいが慣れた動きで白髪の男性は公園を離れる。
遠ざかっていく背中を見つめながら当瑠は携帯を取り出し、ポツリと呟く。
遠ざかっていく背中を見つめながら当瑠は携帯を取り出し、ポツリと呟く。
「美詠のやつ、今日は電話かけてこねぇな……」
遠ざかっていたはずの背中がピタリと止まった。
「……?」
どうしたのかと首をひねると、すっと男性が振り返り
振り返ったと思ったその瞬間には、当瑠の目の前まで移動していた。
振り返ったと思ったその瞬間には、当瑠の目の前まで移動していた。
「あァ?うちのクソガキがどうしたってェ?」
先ほどまでよろよろだったはずの体は今は二つの足でしっかりと立ち
体を支えていた杖はつく部分がなくなりコンパクトに右腕のもち手の部分に収納されていた。
体を支えていた杖はつく部分がなくなりコンパクトに右腕のもち手の部分に収納されていた。
「は……はは、あのですね、美詠は」
「美詠ィ?」
「み、みみみみ!美詠さんはですね、何故か最近夜に私めにいつも連絡を取るんですよ
十一時とか十二時、あ、一時のときもあったかな?と、とにかく夜、寮の自分の部屋から
私に電話かメールかをしてくるんですよ!」
十一時とか十二時、あ、一時のときもあったかな?と、とにかく夜、寮の自分の部屋から
私に電話かメールかをしてくるんですよ!」
「……」
ぽりぽりと首筋を掻き当瑠を睨みながら何事か思案した男性は
数秒すると突然、表情を歪め、笑い出した。
数秒すると突然、表情を歪め、笑い出した。
「はっ!ハハハ!あァそうだったよなァ……てめェはあいつの息子だって事
すっかり忘れてたぜェ……あァそうだァ油断してた、俺とした事がわらっちまうぜェ……!」
すっかり忘れてたぜェ……あァそうだァ油断してた、俺とした事がわらっちまうぜェ……!」
「え?は?あのぅ……」
「なァ」
「は!はい!何でしょう!」
カカカと笑い、男性は話を続ける。
「俺はさァ、自分の息子も娘もよォ誰といようがあんま気にしてねェンだよ
俺にとって邪魔だったり、鬱陶しい奴だったら話は違うんだがなァ
俺に干渉しなけりゃどうだっていいんだよ」
俺にとって邪魔だったり、鬱陶しい奴だったら話は違うんだがなァ
俺に干渉しなけりゃどうだっていいんだよ」
「は……はぁ……?」
けどな、と更に話は続く。
「けどなァ、一応、娘は寮に一人で暮らさせてるんだよなァ
年頃の女が年頃の男に夜、毎日連絡取るってのは不味いンじゃねェか?と思うわけでよォ」
年頃の女が年頃の男に夜、毎日連絡取るってのは不味いンじゃねェか?と思うわけでよォ」
まァこれは嫁の自論だけどなとそこで言葉を締めくくる。
暫く二人の間で沈黙が続く。
暫く二人の間で沈黙が続く。
「……………」
「……………」
男性は探るような目つきをし、舐めるように当瑠の顔を眺める。
そして当瑠は蛇に睨まれたカエルのように蛇の長い舌に舐め回されるしかない。
そして当瑠は蛇に睨まれたカエルのように蛇の長い舌に舐め回されるしかない。
「お前に言っておく事があるンだけどよォ」
「な、何ですか?」
「てめェがどう思おうがそれは勝手だ、気にしねェよ好きにしろ」
「…………」
「俺もお前のことをどう思おうが勝手だからよォ、忠告しておくぜェ?」
ビッと当瑠に指を差し不適な笑顔を更に不適に歪めた。
「俺の娘に手ェだしたらぶっ殺すぞ、クソガキ」
当瑠は返事をする事ができなかった。
「……お父さん」
「あの人自覚あるのかないのか知らないけど、相当親バカだぞ」
当瑠は小さな頃に見た美詠の父の姿も思い出す。
美詠が嬉しそうに当瑠を紹介すると顔をまじまじと見られた後、蹴られた。
その他にも何故か超高速の石が頬を掠めたり、いきなり歩いている地面が崩れて落ちそうになったり
あまりいい思い出は無かった。
美詠が嬉しそうに当瑠を紹介すると顔をまじまじと見られた後、蹴られた。
その他にも何故か超高速の石が頬を掠めたり、いきなり歩いている地面が崩れて落ちそうになったり
あまりいい思い出は無かった。
「――――俺、嫌われてるのか?」
命が惜しかったら本当に美詠をあきらめるしかないかもしれない。
少しだけ後悔する。
少しだけ後悔する。
「お母さんに似てるからかなぁ?美春ちゃんにも優しいけど」
「…………」
美春とは兄妹なのに釈然としない。
「……あのさ、あんたはどう思ったの?」
面白くないと当瑠が思っていると、突然、美詠が当瑠に質問をしてきた。
だが、何の事か当瑠には分かっていた。
だが、何の事か当瑠には分かっていた。
「殺されると思うので手は絶対出さないようにと――――ぐえっ!」
言い終える前に美詠から格闘家もびっくりな頭突きが飛んでくる。
「な、何よそれ!ほかに思う事ってあるんじゃないの!?」
美詠が距離を一気に詰める、当瑠の頬はその行動で紅潮し、わたわたと慌てた後
目を合わせないように視線を泳がせた。
目を合わせないように視線を泳がせた。
「いや、どっちにしろ手を出してしまったと言うか……」
あらぬ方向に腕を動かし空を切る行動を始める。
美詠は訳が分からない当瑠の動きに首を傾げるしかなかった。
美詠は訳が分からない当瑠の動きに首を傾げるしかなかった。
「その、えぇっと……す、好きな女の子と二人っきりの状況なんて耐えれるわけない、だろ?」
「ッッ!!?」
「だから、うん、俺は後悔してない……美詠の事は変わらず好きだ」
「……ぅ、そう、そっか……後悔して、ないん、だ……」
そう呟いたきり美詠は黙ってしまった。
二人の間に暗い沈黙ではない、気恥ずかしさが残る沈黙が続く。
当瑠は美詠の顔が直視できず、美詠は当瑠の言葉で何も言う事ができない。
二人の間に暗い沈黙ではない、気恥ずかしさが残る沈黙が続く。
当瑠は美詠の顔が直視できず、美詠は当瑠の言葉で何も言う事ができない。
「そうだ」
「え?」
何か思い出したように当瑠は動き出す、その手には携帯が握られていた。
本来すべき事、父に連絡を取ることを思い出したのだ。
本来すべき事、父に連絡を取ることを思い出したのだ。
「そろそろ落ち合わないとな、美春が寝ちまう」
「あ、そっか……」
二人きりのこの時間は残り少ない、すでにタイムリミットは近づいており
遅れれば、二人の未来が変わるどころか通じ合ったばかりの気持ちは無かった事になってしまう。
無論、当瑠・美春の消滅でだ。
遅れれば、二人の未来が変わるどころか通じ合ったばかりの気持ちは無かった事になってしまう。
無論、当瑠・美春の消滅でだ。
「……親父の番号を開いてっと」
後は通話ボタンを押せばそれで終わりだ。
上条と美琴に話が伝わり、美春の能力で未来に戻ればいい。
だが
上条と美琴に話が伝わり、美春の能力で未来に戻ればいい。
だが
「……み、美詠?」
美詠の手で当瑠の携帯は取りあげられる。
そして、携帯はテーブルの上に置かれ、携帯を持っていた美詠の手は当瑠の腕に絡みついた。
そして、携帯はテーブルの上に置かれ、携帯を持っていた美詠の手は当瑠の腕に絡みついた。
「まだ時間はあるわよね」
「……あと一時間くらいは余裕があるかもしれないけど」
日が変わるまでまだ四時間近くある。
上条と美琴がうまく動いていれば第七学区、もしくは同時に動いて落ち合う事もできるかもしれない。
もちろん、賭けの要素も含んでくるが
上条と美琴がうまく動いていれば第七学区、もしくは同時に動いて落ち合う事もできるかもしれない。
もちろん、賭けの要素も含んでくるが
「……もう一回、して?」
「……………………………………はい?」
この娘は何を言っているんだろうか。
して、と言うのは当瑠が美詠にした事、つまり
して、と言うのは当瑠が美詠にした事、つまり
「い、今だったら、どれだけしてもお父さんたちは分からないし、キス、して、欲しい」
口付けだ。
「え、いや、美詠さん?あの私めは確かに貴方様にですね、き、キスはしましたよ?
ですけどこの残り時間ですることは他にも……」
ですけどこの残り時間ですることは他にも……」
「か、帰ったら、あんまりできないかもしれないし、あ、アンタだったら私はいいから」
「俺も、できるならしたい、けど、だけど、親父たちの事も、心配、で
いや、美詠の事は好きだぞ?うん、キスだってしたいし、今も抱きしめたい衝動を我慢しているわけでして
あの、上条さんの理性はこの二人の空間で飛ぶ寸前でもう狼になりかけでして――――」
いや、美詠の事は好きだぞ?うん、キスだってしたいし、今も抱きしめたい衝動を我慢しているわけでして
あの、上条さんの理性はこの二人の空間で飛ぶ寸前でもう狼になりかけでして――――」
当瑠はもう自分でも何を言っているのか分からない状況だ。
好きな女の子から求められている、嬉しくないはずが無い
今何かすれば、そのまま言葉通り理性が吹っ飛んでしまうくらいぐらついている。
人並みに女性との関係に興味がある思春期の当瑠は限界だった。
目を逸らそうとしてもチラチラと美詠の方を見てしまい、顔を真っ赤にしている
美詠のうぶな可愛らしさに勝てそうに無かった。
好きな女の子から求められている、嬉しくないはずが無い
今何かすれば、そのまま言葉通り理性が吹っ飛んでしまうくらいぐらついている。
人並みに女性との関係に興味がある思春期の当瑠は限界だった。
目を逸らそうとしてもチラチラと美詠の方を見てしまい、顔を真っ赤にしている
美詠のうぶな可愛らしさに勝てそうに無かった。
「……うん、だから、はい、美詠、その、うん」
当瑠の理性は、男としての我慢は、思いは―――
「――――――好きだ」
一言で、完結し少女を抱き寄せ、唇を重ね合わせる。
そして、華奢な体を優しくゆっくりと押し倒した。
そして、華奢な体を優しくゆっくりと押し倒した。
想いを伝え合った、上条と美琴は第七学区へ向かうバスに乗っていた。
終電ぎりぎりのバスに駆け込み少々運転手を驚かしたが幸い乗客はおらず
邪魔される事無くゆったりとした空間を過ごしていた。
終電ぎりぎりのバスに駆け込み少々運転手を驚かしたが幸い乗客はおらず
邪魔される事無くゆったりとした空間を過ごしていた。
「美春、寝たままね」
美琴がぽつり、と呟く。
その隣には愛娘となる美春がおり、単調なリズムで寝息を立てている。
そして、それを挟むように上条が優しい目で見つめていた。
その隣には愛娘となる美春がおり、単調なリズムで寝息を立てている。
そして、それを挟むように上条が優しい目で見つめていた。
「お前に告白した時にはもう爆睡中だったからな」
「いきなり近くのベンチにおろしたのにね」
はぁ、と溜息をついた美琴だったがその横顔は嬉しそうに頬が緩んでいた。
両想いですれ違っていた気持ちが通じたのだから当然といえば当然だった。
上条も気持ちが同じで両想いだったことが嬉しく満ちて足りている。
両想いですれ違っていた気持ちが通じたのだから当然といえば当然だった。
上条も気持ちが同じで両想いだったことが嬉しく満ちて足りている。
「これで、恋人だよな、俺たち」
「当たり前でしょ?浮気とかしたら許さないから」
「……こっちのセリフだ、他の奴のところに行こうとしたら
そいつをぶん殴ってでももう一度お前を振り向かせてやるからな」
そいつをぶん殴ってでももう一度お前を振り向かせてやるからな」
右拳をぐっと握り締めて、上条は美琴を見つめる。
その様子に美琴はぷっと吹き出してしまった。
その様子に美琴はぷっと吹き出してしまった。
「アンタって結構独占欲、強いのねぇ、意外だわ」
「初恋が実ったので、手放したくないんですよ上条さんは」
「……ま、嬉しいけどね」
そう言って美琴は視線を窓に移す。
上条がその視線を追うと、バスは終点、第七学区の公園に着く直前だった。
上条がその視線を追うと、バスは終点、第七学区の公園に着く直前だった。
「後は、この子達を送り返すだけね」
「……そうだな」
本当は上条も美琴も子供たちを未来に返したくなくなっていた。
もっと一緒に暮らしたい、時が経てばまた会えるはずなのに、もう今生の別れのような気がしてならないのだ。
もっと一緒に暮らしたい、時が経てばまた会えるはずなのに、もう今生の別れのような気がしてならないのだ。
「着いたみたい」
キッとタイヤのブレーキ音が聞こえバスが停止する。
プシュー、プー、という聞きなれた音が鳴りバスの扉が開く。
上条が美春を背負い、美琴が先にバスを降りる。
ありがとうございました、その言葉を背後に聞き、バスはすぐに出発をした。
プシュー、プー、という聞きなれた音が鳴りバスの扉が開く。
上条が美春を背負い、美琴が先にバスを降りる。
ありがとうございました、その言葉を背後に聞き、バスはすぐに出発をした。
「……後三時間か」
日付の変更まで、残り僅かとなっている。
「連絡入れようか?」
美琴が上条の鞄から携帯を取り出してそれを差し出す。
上条はそうだな、と返事をし携帯を受け取り、数秒後、携帯を耳に当てた。
プルルルル、プルルルル、何回かのコールの後ガチャと繋がる音がした。
当然のことのはずが、上条は安心してしまう。
まだ、彼らはここにいる、まだ会う事ができる、それがとても嬉しかった。
上条はそうだな、と返事をし携帯を受け取り、数秒後、携帯を耳に当てた。
プルルルル、プルルルル、何回かのコールの後ガチャと繋がる音がした。
当然のことのはずが、上条は安心してしまう。
まだ、彼らはここにいる、まだ会う事ができる、それがとても嬉しかった。
『……親父か』
ひどく疲れた様子の息子の返答が来る。
寝起きなのか、それとも運動でもしていたのか、どちらかは分からないが
不思議と気だるさは感じられなかった。
寝起きなのか、それとも運動でもしていたのか、どちらかは分からないが
不思議と気だるさは感じられなかった。
「いま、俺の部屋だよな?そろそろ落ち合わないか?」
『……分かった』
一瞬の空白の後返事が返ってくる。
その後に美詠起きろ、と寝ていたらしい妹を起こし、まだ、とわがままを言う返事が聞こえる。
その後に美詠起きろ、と寝ていたらしい妹を起こし、まだ、とわがままを言う返事が聞こえる。
「場所は七学区の公園だ、初日の自販機辺りで待ってるからな」
『了解、三十分か一時間で着くよ』
「急げよ?美春も起こしとくからな」
『あぁ、なるべく急ぐ』
そこで通話は途絶えた。
「どうだった?」
美琴が少し心配そうな表情で聞いてくる。
その心配が杞憂である事を分からせるために上条は笑顔を見せ大丈夫だと言った。
その心配が杞憂である事を分からせるために上条は笑顔を見せ大丈夫だと言った。
「すぐくるよ、美春を起こしとこう」
背負ったままの眠り姫をおんぶから抱っこに換えて揺りかごを揺らすように
美春の小さな体を揺らした。
美春の小さな体を揺らした。
「……んぅ、あさぁ?」
まだ二、三時間しか経っていないのに娘の声は酷く懐かしく感じた。
起こしてしまったのは少しかわいそうだが、当瑠と美詠たちが未来に帰るためにも仕方ないことだ。
起こしてしまったのは少しかわいそうだが、当瑠と美詠たちが未来に帰るためにも仕方ないことだ。
「美春、起きたか?」
「ぱぱ?……まだおつきさまでてるよ?」
可愛らしい返答で返す美春に苦笑しながらも今から伝える事に心を痛める。
未来に帰らなければいけない事、まだ五歳にしかなっていない娘はどう思うだろうか。
駄々をこねてしまうか、泣き喚くか、どうなるのか、不安になってしまった。
未来に帰らなければいけない事、まだ五歳にしかなっていない娘はどう思うだろうか。
駄々をこねてしまうか、泣き喚くか、どうなるのか、不安になってしまった。
「美春、これから大事な話があるからよく聞くんだ」
「……?」
チラリと美琴のほうに目を向ける。
美琴も美春がどんな反応を示すのか不安らしくそわそわとしていた。
膝を屈め目線を合わせ、一度深呼吸をする。
美琴も美春がどんな反応を示すのか不安らしくそわそわとしていた。
膝を屈め目線を合わせ、一度深呼吸をする。
「……今日、お前は未来に帰らなきゃいけないんだ、お兄ちゃんとお姉ちゃんと一緒に」
駄々をこねれば、泣き叫べば、美琴と一緒に抱きしめようと心に決め、固く、目を閉じる。
「………………」
だが、待っているのは沈黙ばかり、一体どうしたのか
ショックで何もいえないのか、それともおお泣きする準備なのか、分からない。
ショックで何もいえないのか、それともおお泣きする準備なのか、分からない。
「……?」
閉じた目をゆっくりと開く。
「みはる、しってたよ」
「……え?」
意外な言葉、平然としている美春。
いや、ニコリと笑ってくれていた。
いや、ニコリと笑ってくれていた。
「……のうりょくしゃだもん、だから、みはる、きょうはパパとママとあそびたかったの」
だが、上条には美春が強がっているのはすぐに分かった。
笑っている美春の瞳からつー、と涙のしずくが頬を伝い上条の手のひらに落ちたからだ。
笑っている美春の瞳からつー、と涙のしずくが頬を伝い上条の手のひらに落ちたからだ。
「なかな、いもん!パパとママにはすぐ、あえ、るから!みはる、さいご、までなかないよ!」
ひく、ひく、としゃっくりが絶え間なく続く。
「みはる、パパとママのおしごとが、ひく、いそがしくて、あそんで、ひぐ、もらえなくて
さびしか、えぐ、ったの、だか、ら、おに、ちゃと、こっちにこようとおも、たの」
さびしか、えぐ、ったの、だか、ら、おに、ちゃと、こっちにこようとおも、たの」
美春の唇が震え、たどたどしく言葉が伝わっていく。
こんなとき、抱きしめてあげようと思ったはずの体は動かない。
美春が泣かないと決意しているからだろう、抱きしめてあげる優しさは
同時に美春の決意が砕かれたのと同じだ。
だから、上条は美春を抱きしめない、素直に泣いている事を認めさせない。
こんなとき、抱きしめてあげようと思ったはずの体は動かない。
美春が泣かないと決意しているからだろう、抱きしめてあげる優しさは
同時に美春の決意が砕かれたのと同じだ。
だから、上条は美春を抱きしめない、素直に泣いている事を認めさせない。
「偉いね、美春、強い子だね」
美琴も上条と同じように目線を合わせるだけで美春を抱きしめない。
「お父さんと、お母さんに迷惑かけないようにって、思ったんだよね
我がままを言っちゃいけないって分かってるんだよね?偉い子だよ」
我がままを言っちゃいけないって分かってるんだよね?偉い子だよ」
「ママァ……」
「あり、がとね。私たちのこと考えてくれ、て」
美琴の目に涙がたまっていく。
上条の視界もかすんでいくが必死に堪える、きっと声を出せば泣いてしまうだろう。
上条の視界もかすんでいくが必死に堪える、きっと声を出せば泣いてしまうだろう。
「ママ、泣いて、る?」
「そう、だね……駄目だね、美春よりも年上なのに、泣き虫で、駄目だね」
「……ママ、良い子良い子」
美春が美琴の頭を撫でる、小さな手は美琴の髪を優しくなぞっていく。
その直後、耐え切れなくなった美琴が美春の体を抱き寄せた。
その直後、耐え切れなくなった美琴が美春の体を抱き寄せた。
「ありがと、ありがとね、美春―――――!」
「うん――――!」
別れの時は刻一刻と近づいていた。
「親父!」
あれから一時間が経ち当瑠と大きな袋を持った美詠が公園に到着した。
美琴と美春はすでに泣き止んで楽しそうに話をしている。
今ある時間を惜しむように、少しでも楽しく過ごせるように。
美琴と美春はすでに泣き止んで楽しそうに話をしている。
今ある時間を惜しむように、少しでも楽しく過ごせるように。
「当瑠――――――って、ん?」
そこで、違和感に気付く。
それは当瑠と美詠の距離、正確には二人の手の位置だ。
それは当瑠と美詠の距離、正確には二人の手の位置だ。
「お前ら、手を繋ぐほど仲いいのか?」
「「――――――――――!!!!?」」
今気付いたように二人が素早く繋いだ手を解く。
一瞬、俗に言う恋人つなぎに見えたのは錯覚だったのか。
だが、上条はあまりそこに突っ込まず、話題を変える事にした。
一瞬、俗に言う恋人つなぎに見えたのは錯覚だったのか。
だが、上条はあまりそこに突っ込まず、話題を変える事にした。
「いよいよだな」
「……あぁ、帰るときが来たみたいだ―――――美春!」
頬を赤く染めた当瑠が声を上げると、楽しく話していた美春が顔を上げ
座っていたベンチからぴょんと飛び跳ねており、パタパタと当瑠に走りよってきた。
座っていたベンチからぴょんと飛び跳ねており、パタパタと当瑠に走りよってきた。
「もう、いっちゃうの?」
残念そうな表情をする美春に当瑠は仕方ないだろと言ってなだめる。
美春も覚悟は出来ているようで、うん、と頷くとゆっくりと移動し、公園の真ん中あたりで左手を使い空を切った。
美春も覚悟は出来ているようで、うん、と頷くとゆっくりと移動し、公園の真ん中あたりで左手を使い空を切った。
「……あれ、が」
「そう、時空の歪みだよ、俺たちの未来へ帰る出入り口」
ゴゴゴという重いものを引き摺ってでる音がして開いたのは真っ黒な空間。
それが渦を巻いて人が入るのをじっと待っている。
それが渦を巻いて人が入るのをじっと待っている。
「……入れば、戻っては来れないのか?」
「悪いけど、この時代にはもう来ない、元々来ちゃいけないんだ、今回だって無許可で此処に来てる」
分かりきった事だが仕方の無い事だった。
美詠と当瑠がその空間に近づいていく。
美詠と当瑠がその空間に近づいていく。
「……親父、ありがとな」
「ん?いや、礼を言うのはこっちのほうだけど」
「俺も覚悟できたから、必ず護るって、一緒にいるって決めたから」
「―――――?よく分からないけど、頑張れよ」
当瑠はそう告げて黒い空間に一歩踏み出す。
「……私からはゴメンナサイって言っておくね」
「「はぁ?」」
次に話し始めた美詠の突然の謝罪に今度は上条と美琴は首を傾げる。
この二人はよく分からない、だが思春期の子供を持つ親の気持ちがよく分かった。
この二人はよく分からない、だが思春期の子供を持つ親の気持ちがよく分かった。
「あと、ありがとう、私も頑張る、ずっと大好きな人といるって」
「……そう、か、頑張れよ」
一体何だ、と思っている間に美詠も黒の空間へと足を向ける。
最後に残ったのは、美春だ。
最後に残ったのは、美春だ。
「ママ、みはるからプレゼント!」
美詠から袋を受け取り、大きなぬいぐるみとキーホルダーを取り出して美琴に手渡す。
一気に美琴の目が輝いていく。
一気に美琴の目が輝いていく。
「ゲ、ゲコ太!!!?あ、ありがとう!美春!」
そして、かつて無いほどに美春の頭を撫でる。
美琴が喜んでくれたのが嬉しいのだろうエヘヘと笑って、美春は軽快な足取りで空間に近づく。
美琴が喜んでくれたのが嬉しいのだろうエヘヘと笑って、美春は軽快な足取りで空間に近づく。
「じゃあな、親父、母さん」
三人を代表して当瑠が軽く手を挙げて、三人が時空の歪みの奥へと進んでいく。
これで、きっと後数年は会う事は出来ない、だからこそ声を掛けたい
繋がっていく言葉を最後に伝えたい。
これで、きっと後数年は会う事は出来ない、だからこそ声を掛けたい
繋がっていく言葉を最後に伝えたい。
「またな……またな!!」
安直だったが、必ず、会えると信じての言葉だった。
奥深く、未来にいる三人の愛する子供たちの笑顔が見えた気がした。
奥深く、未来にいる三人の愛する子供たちの笑顔が見えた気がした。
真っ白な光に包まれて、目を開けると、見慣れた景色が広がっていた。
空に浮かんでいる飛行船、吸いなれた空気、住み慣れた心地よい感覚。
空に浮かんでいる飛行船、吸いなれた空気、住み慣れた心地よい感覚。
「帰ってきたのか」
現在の、当瑠たちの住む、学園都市の風景が視界の全てを埋め尽くしている。
「何浸ってんのよ?」
背後から声をかけられる。
大して驚きもせず、むしろ嬉しさが伝わる声は当瑠にとって大切な人の存在を示してくれていた。
振り向いた先に美詠と美春が立っていた。
大して驚きもせず、むしろ嬉しさが伝わる声は当瑠にとって大切な人の存在を示してくれていた。
振り向いた先に美詠と美春が立っていた。
「もうちょい、感動しないか?こういうの?」
「知らないわよ、私が一番気になるのは、分かってるでしょ?」
気になること、それは実験がどうなったかだろう。
美詠の父と母、そして兄は無事か、そして実験は中止となったのか
それが気がかりで仕方が無いのだろう。
美詠の父と母、そして兄は無事か、そして実験は中止となったのか
それが気がかりで仕方が無いのだろう。
「大丈夫だよ、きっと」
気休めにしかならないのは分かっている。
だが、後は彼女が彼女自身の家族を信じるしかないだろう。
当瑠は不安げな表情を崩さない美詠の肩に手を置いた。
だが、後は彼女が彼女自身の家族を信じるしかないだろう。
当瑠は不安げな表情を崩さない美詠の肩に手を置いた。
「……そう……よね、あの人達ならきっと」
完全に安否を確認するまでは美詠の不安な表情は消える事は無い。
少しでも彼女に明るい表情をして欲しいと願い彼女との距離を近づける。
少しでも彼女に明るい表情をして欲しいと願い彼女との距離を近づける。
「何かあれば俺を呼べよ?すぐに駆けつけるから」
「うん……」
これ以上は干渉する事はできない。
そう判断して、隣でキョトンとしていた美春の手を握り美詠に背を向ける。
そう判断して、隣でキョトンとしていた美春の手を握り美詠に背を向ける。
「落ち着いたら二人で遊びにでも行こうな」
背を向けたまま約束をする。
日常を取り戻して欲しいから。
日常を取り戻して欲しいから。
「え?」
「デートだよ、いきたいところ考えとけよ?」
自分が彼女の支えになると決めたから。
「……」
護ると、何があっても彼女に日常にい続けさせるため誓った。
「ありがとう」
笑って、笑いあって、幸せにしてみせる。
「大好き」
大切な人のために。
当瑠と美春が去り、一人になる。
孤独感は無い、むしろ自分を待ってくれる人がいる事に幸福を感じていた。
私は一人じゃないと、支えてくれる人がいる
大切に思ってくれる人がいる、愛してくれる人がいてくれる。
とても素晴らしいことだと思う。
大好きな人が通っていった道を振り返る。
そこは暖かな陽射しが刺していて、生きていることを実感させる。
自分の通る道はどうだろう、振り返った体を進む道に戻す。
今までならばきっと、日陰で暗がりを作っていたはずだ。
孤独感は無い、むしろ自分を待ってくれる人がいる事に幸福を感じていた。
私は一人じゃないと、支えてくれる人がいる
大切に思ってくれる人がいる、愛してくれる人がいてくれる。
とても素晴らしいことだと思う。
大好きな人が通っていった道を振り返る。
そこは暖かな陽射しが刺していて、生きていることを実感させる。
自分の通る道はどうだろう、振り返った体を進む道に戻す。
今までならばきっと、日陰で暗がりを作っていたはずだ。
「……暖かい」
同じように、包むように陽が差していた。
進むべき道は光であると、絶望ではなく希望が待っているそう予感する。
一歩だけゆっくりと足を踏み出す。
すこしずつ、かみ締めるように、光を浴びて進んでいく。
進むべき道は光であると、絶望ではなく希望が待っているそう予感する。
一歩だけゆっくりと足を踏み出す。
すこしずつ、かみ締めるように、光を浴びて進んでいく。
「……帰るべき場所がある」
待っていてくれる居場所がある。
戻るべき、日常が、戻ってくる事が無いと思っていた日常がある。
愛した人に抱かれた時のように心地よい感覚。
手に入れられないと思ったのに。
受け入れてくれる事などないという叶わない幻想が形になった。
戻るべき、日常が、戻ってくる事が無いと思っていた日常がある。
愛した人に抱かれた時のように心地よい感覚。
手に入れられないと思ったのに。
受け入れてくれる事などないという叶わない幻想が形になった。
「やっぱり、そうか」
数歩進んで気付く。
信じていた人達がそこにいる。
信じていた人達がそこにいる。
「クソガキが、世話焼かせやがって……さっさときやがれ」
陽だまりが暖かく、優しく、手を広げた。
大切な、言わなければいけない一言を伝える。
大切な、言わなければいけない一言を伝える。
「ただいま」