とある魔術の禁書目録 自作ss保管庫

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御坂姉妹の家出



「ない?ない!ないいいぃぃぃぃ!!!」

午前7:50
冬休みに入ってまもなく年の瀬を迎えようとしている学園都市。その第7学区にある常盤台中学の女子寮208号室の脱衣所から御坂美琴の絶叫が響いた。

「黒子!!アンタ私のパンツがなんでこんな紐なんかに変わってんのか知らない訳ないわよね!?」

美琴は脱衣所からバスローブを体に巻き付けて出てきた。

「はい、お姉さま。お姉さまのカエルのパンツは黒子が隠しておきましたの。
 その代わり先日黒子がプレゼントした紐パンを置いておきましたの。気に入っていただけましたか?」
「あんたね~、これのどこが下着なのよ!?ただの紐じゃない!それにこのブラジャーだって布が小さすぎて意味がないじゃない!」
「あら、お姉さま。という事は今の状態はバスローブ1枚しか着ていらっしゃらないってことですのね?グフフ…ではバスローブを飛ばしてしまえば――」

しかし黒子が手をかける前に美琴が電撃をまき散らし威嚇した。そうとう頭に来ているようだった。

「いい加減にしなさい黒子。今、私はまじめに聞いてんのよ。早く下着を両方とも返しなさい!!」
「だめですわお姉さま。そちらこそいい加減子供っぽいダサい下着なんて履くのをおやめくださいませ。そんなんでは常盤台のエースとして恥ずかしすぎますわ」
「い、いいじゃない!別に無理して見せびらかすようなものじゃないんだし、どんな物履いたって脱がされなきゃ意味ないもん」
「おおお、お姉さま!?まさか既に脱がされるところまでお考えに!この黒子以外の誰が脱がせられるとでも!?ひょっとして類人猿なんかじゃ――」
「ええい、うるさい!!ったく、しょうがない今日は別のパンツにするか」

美琴はそう言い、ベッドの下の下着の入った箱を取り出しふたを開けたが、

「な、なんじゃこりゃああぁぁ!!!」

そこには可愛いキャラクターがプリントされたパンツはなく、真っ赤なチョウチョの形のものや網タイツのようなもの、
布などなくただの紐でしかないものなど美琴が到底履きそうもない下着ばかりに入れ替えられていた。

「黒子!!ホント、いい加減にしなさい!!私の下着を全部返しなさい!!!」
「だめですわお姉さま!来年の春には中学の最高学年となられる方が未だにゲコ太だのケロヨンだのといったものに愛着を持たれてはエースとしての示しがつきません!
ここは一つ黒子がランジェリーショップで1時間粘って見つけたこのブラックスペシャルを――」
「そんなすけすけの網タイツ履ける訳ないでしょうが!!もういい!!」

そう言って美琴は脱衣所に行き鍵をかけた。
数分後、常盤台の制服に着替えた美琴が部屋へと戻ったが、下半身をモジモジとしていた。

「お姉さま?まさか黒子の選んだ下着が着れないからってノーパンしてきたんですの!?」
「た、短パン履いてるから平気よ。それにすぐデパートまで行けば普通の下着くらいすぐ見つかる訳だし」
「お、お姉さま!!黒子が、黒子が選びに選び抜いた下着が着れないと言うのですの!?
 ならば仕方がないですわ。このセクシーなブラックスペシャルを直接テレポートして―――」
「黒子!!ホントいい加減にしなさい!!!」

とうとうブチ切れた美琴は大きな声で黒子に向かって叫び、バンッ!!と思い切り机を叩いて黒子のテレポートをキャンセルした。
美琴のあまりの剣幕に黒子が怖じ気付いている隙を見て、美琴は大きめのスポーツバッグを取り出し、タオルやパジャマ、洗いたてのシャツなどのお泊まりセットをバッグに詰め込んだ。

「お、お姉さま?一体なにを――」
「あんたのその変態精神にもう耐えられないから出てく!新しい部屋が決まるまで外で泊まるから!!」

そう言ってバッグを持って、208号室から出ていってしまった。呆然とする黒子を残して。

「年内は慌ただしいから急な部屋替えはできないか…こうなると年越しは寮じゃ出来ないや」

美琴は寮監に申し立てをしたが今年中の部屋替えはもう無理だと言われた。野宿という訳にもいかないが、
寝泊まりだけするというのならホテルなんかより他の寮に泊めさせてもらう方がお得だろう。

「そうすると初春さんか佐天さんの所だけど、初春さんの所は春上さんもいるから狭くなっちゃうし…やっぱり佐天さんの所かな」

そう結論づけた美琴はデパートで下着などを数日分購入し早速目的地へと歩きだした。
デパートを出て数分後、美琴は壊れかけの自販機のある公園に着いた。ちょうど喉が渇いてきた所だ。

「少し休憩でもしよっと」

担いでいた荷物を地面に置き、いつものキックの体制に入った。そのとき、

「「お姉さま?」」

突然後ろから聞き覚えのある声が重なって美琴の耳に届いた。思わぬことに気を取られ、回転していた軸足を滑らしてしまった。

「わ、ちょっと!!きゃあ!!」

美琴はそのまま盛大に後ろにずっこけてしまい尻餅をついてしまった。

「いたたた…もう!何なのよアンタたち!!」

声をかけてきたのは美琴の体細胞クローンである『妹達』の少女とそれらをまとめ上げる『打ち止め』である。
妹達の少女は美琴となにからなにまで瓜二つであるが、
頭に磁力線を捉える軍用ゴーグルを着けていること、そして首にハート型のネックレスを身につけていることが違う点だ。
確か一方通行との実験の途中で上条当麻に介入され、生き残った娘の10032号だったはずだ。
かなり上条を慕うようになり、美琴との罰ゲームの時には割り込んできてあのネックレスを買ってもらったはずだ。
打ち止めと呼ばれる見た目10歳に満たない幼女は複雑な経緯があり、一方通行を慕い一緒に暮らしている。
いつもニコニコしておりその笑顔で様々な人を振り回しているが、今日はなんだか不機嫌そうにリュックサックを背負っている。

「お姉さま、そろそろ公共の場で回し蹴りなど恥ずかしいのでおやめくださいとミサカは忠告します」
「あの自販機もそろそろ最新型に交換すべきだよってミサカはミサカは学園都市のおケチっぷりに批判してみる」
「まあでも、お金が飲まれるよりかは全然ましでしょ。ていうかどうしたのアンタ達?こんなところで?」

どうも二人とも機嫌が良くない。なにか事件にでも巻き込まれただろうか。すると御坂妹(上条がそう呼んでいる)と打ち止めはが口を開いて話し始めた。

「はい、実は病院から家出しましたとミサカは報告します」
「ミサカも家出したのってミサカはミサカは宣言してみたり!」

同じ遺伝子を受け継いでいる為の性なのだろうか。ここまでタイミングばっちりに同じことをする妹達にある種の感動を覚えた美琴である。

         ☆

それは朝食が終わり、妹達が身支度を始めた時のこと。
第7学区の病院で調整を受けている妹達は10032号を含めて5人、それぞれがだいぶ個性を持つようになったことにより事件は起こった。
10032号はいつもの常盤台の制服を着てハート型のネックレスをかけようとした。だがいつもしまっている引き出しの中にネックレスはなかった。
不審に思った10032号はベッドの隅々を懸命になって探したが見つからなかった。
すると先に身支度を済ませた19090号(妹達の中でもいち早くダイエットに成功した娘)がいそいそと出かけるのを見た。そして見つけたのである。
その娘の首元に輝くハート型のネックレスを。

「!!待ちなさい、19090号!!そのネックレスはミサカのですとミサカは警告します!」

10032号は鞄からマシンガンを取り出し、銃口を19090号に向けた。

「ま、待ってください!ミサカも外でリハビリする際に使ってみたかったんですとミサカは許可を願います!!」
「良いわけありません!これはあの方がミサカにくださったもの、そんなに欲しければ直接頼めばいいじゃないですかとミサカは一般論を述べます!」
「で、でも不躾に頼み込むのは恥ずかしすぎますとミサカは暗に出来るわけないと述べます」

19090号は比較的他の妹達よりも感情が発達しているのでよく顔を赤らめたりする娘だ。きっと上条の家に行く前に断念してしまうだろう。

「ならもう諦めなさいとミサカはネックレスを外しながら通告します」
「そ、そんな……ぐすっ…ミサカだって……おしゃれしたいです…とミサカは……うぅ…」

ネックレスを着けてウキウキしていた19090号は、それを取り上げられてしまい思わず泣いてしまった。
そのとき身支度を済ませた他の妹達3人も駆けつけてきた。
その光景は10032号が19090号を泣かした光景だったので3人はすぐに19090号を慰め、10032号を非難した。

「10032号!経緯はミサカネットワークで知りましたがあまりに横暴ですとミサカはすぐに謝罪しろと警告します!!」
「だいたいあなたはネックレスだけでなくあの黒猫だってあの方から頂いているではないですかとミサカは少しぐらい撫でさせろと要求します!!」
「泣かないでください19090号、あの方はみんな笑っていた方が可愛いぞと言ってましたとミサカは思いだし19090号を慰めます」

どうやら他の妹達も19090号に同情し、10032号を責め立てた。
思わずたじろいだ10032号だが、

「これはあの方がわ・た・しにくれたものですとミサカは強調します!!!もうミサカから何も奪わないでくださいとミサカは捨て台詞を残し逃走を開始します!!」

そう言って病院を駆けだした。もう二度と戻らないかのように一度も振り返らずに。

         ☆

「――と、ミサカは簡潔にまとめました」

御坂姉妹はとりあえず事情を知りあうためにベンチに腰掛けていた。
美琴のおごり(というより電撃で得た戦利品)の缶ジュースを飲みながら御坂妹の話を聞いていた美琴はやはり姉妹だと思った。

「しかしあのバカのせいでこんな事になるなんて、一辺シバかないといけないわね」
「あの方は関係ありません、むしろ19090号がいけないのですとミサカは訂正を求めます」

やはりあのバカにはもう一度本気の電撃を与えなければなさそうねと美琴は心に決めた。
御坂妹の話も美琴と大差ないあたり遺伝子はバカに出来ないと思ったが、打ち止めはどうなのだろうか。
確か一方通行からだいぶ過保護な扱いを受けているし、喧嘩する理由なんてないのではないだろうか。
そんなことを考えていると、

「じゃあ、ミサカも喋ってみるーってミサカはミサカは自分のターンにはしゃいでみる!!」

と言って話し始めた。

         ☆

「なンだァァァァこりゃァァァ!!!ヨシカワァァ!ヨミカワァァ!どういうことだァァ、こいつはァ!?」

とある高校の体育教師である黄泉川愛穂の家でそんな叫び声が聞こえたのは午前9時頃だった。
年の瀬も迫り少しずつ整理していくこととなったので、同居人の一方通行は書類を整理していた。
だが大量にある請求書や領収書の束を仕分けしていこうとした矢先、携帯電話の請求書に目が止まった。
しばらく目で数字を追いかけていくと、一方通行は黄泉川と芳川を両方呼び出した。

「どうした、一方通行?なんか問題でもあるじゃん?」
「愛穂、まさか飲み屋の請求書をいままで踏み倒してるとかじゃないわよね?」
「ば、バカ言うなじゃん!!ちゃんと鉄装と小萌先生…には……」
「……まあいいわ。そんなことより一方通行、その携帯の書類にミスでも?」
「あのクソガキのだ。なンでこンなに請求額が増えてンですかァ?
 ミスで片づけられればいいが、あのガキ、この間もずっゥーとケータイの液晶見つめっぱなしだったな?少しは自重しろっつゥの」
「あー何してるのーってミサカはミサカは黄泉川の背中にくっついてみたり!」
「打ち止めァァァ!!てめェのことだ、ドアホ毛!!!先月携帯で何してたんだ!!」

ぶち切れた一方通行は椅子から立ち上がり黄泉川の後ろにいる打ち止めのアホ毛をグイッと掴んだ。

「痛い痛い、やめて抜けちゃうってミサカはミサカは~~~」
「このアンテナブチ切ればケータイ出来なくなるなるだろォが!!芳川!ハサミ持ってこい!!そのアホ毛をぶち切るぞ!!」
「ええー!?、まさかの『そアぶ』!?ってミサカはミサカは有名すぎるキメ台詞をパクるあなたに失望してみたり!」
「ンなもン、どォうだっていいンだよ!!てめェ、こんなに沢山のメール誰としてた!?」

一方通行は強引に打ち止めのポケットに手を突っ込み彼女のケータイを取り出し、受信箱を開けた。すると、

「なンじゃァこりゃァ…カミジョー、ミコト、ウイハル、クロコ、サテン、マイカ、インデックス、アイサ、10032、19090、ワースト……」

どうやらロシアから帰ってきて上条や美琴から沢山の知り合いを紹介してもらったようだ。
妹達とは独自のネットワークで会話できるので比較的少ないが、カミジョーとミコトだけとのメール数は合わせて1000通を越えていた。
しかしそれ以上に一方通行を怒らせたのは、自分とのメールは10通程度しかないということだった。
中身も「今日はハンバーグだと」とか「早く帰ってこいクソガキ」など素っ気ないものだった。さらにいくつかはゴミ箱に捨てられており、他との扱いの差が明白だった。
だんだんと震えてくる一方通行の腕を見て、打ち止めは言い訳を始めた。

「で、でもね、あなたはロシアから帰ってきてこれからのことを考えて友達をいっぱい作れって言ったじゃないってミサカはミサカは思い出してみる。
 それにメールってミサカネットワークほどじゃないけどすごく便利なんだよってミサカはミサカは説得してみたり」
「その利便性をフルに活用したよォだなァ。お前、どォやったら月2万以上の請求書がくンのか言ってみやがれ!!」
「そ、それにミサカは携帯の無料ゲームしかやってないはずだからってミサカはミサカは再度請求書のミスを―――」
「無料ゲームってのはなァ、オプションで元が取れるようにできてンだアホ毛!!見たら、オプション商品をコンプリートしてンじゃねェか!!
 しゃァねェ、お前のその腐れ果てた金銭感覚を今から叩きなおしてやるぜェ、打ち止め!!!」

いくら第一位でも八兆円の借金を肩代わりしてようやくお金の大切さが身に染みたようだ。
だから打ち止めのことを思った親心(?)なのかもしれないが、一方通行はものすごい剣幕で打ち止めを追い詰めていった。
打ち止めはさすがに恐くなり、

「こ、ここはひとまず脱走だーってミサカはミサカは猛ダッシュ!!」
「逃がすか!!クソガキィィィィ!!!」

一方通行は椅子から飛び上がると、首のチョーカーに手をかけようとした。だがスイッチを入れる前に打ち止めが先手を打った。

「チートはさせるかーってミサカはミサカは能力ボッシュート!!」

一瞬、打ち止めのアホ毛がピクピクと揺れると一方通行はその場で倒れ伏せた。
どうやら能力だけでなくミサカネットワークからの補助を一切取り上げてしまい喋ることもまともにできない廃人となってしまった。

「~~~~~~~~!!!」
「あちゃーちょっとやりすぎたってミサカはミサカはちょっと反省してみたり。しかし、今の内に逃走準備ってミサカはミサカはバックを取り出してみる!」

打ち止めは大急ぎでリュックサックを取り出し下着や着替え、パジャマ、お泊まりセットを詰め込み、玄関に出た。すると黄泉川が飛び出した。

「待つじゃん、打ち止め!!どこ行く気じゃん!?」
「一方通行が恐いから家出するのってミサカはミサカは宣言してみたり!!能力以外は後で全部返すからってミサカはミサカは解放の扉を開けてみたり!!」

打ち止めはドアを大きく開けて出ていきピシャっと閉めた。

「くそ、待つじゃん!!――ッ!?ドアノブから静電気!!?」
「いや、今のは打ち止めが仕掛けたトラップね。能力でドアに触れないように電流を流しているんだわ。きっと超電磁砲が教え込んだのね」
「芳川!のんきに考えてないで対策を教えろじゃん!!」
「待って、うまく電流を外に逃がすようにするから。でも打ち止めは逃げちゃうわね」

芳川は工具箱を取り出しに行った。黄泉川はおてんばな彼女のことを考えながらこう言った。

「携帯にもあれだけ友達がいるんだし、何とかなるじゃん。あの子もなんだかんだで生き残っているんだし」

         ☆

「―――というわけなのってミサカはミサカは話してみたり!!」

打ち止めが喋り終わり美琴はだいたい理解できた。そして自分達姉妹の行動に共通点を見つけた。
(要は何か取られたり取られそうになったりして逃げ出したのか。なんだか呆れちゃうわね)
美琴はため息をついて自分のクローン達を見つめた。

「?どうしましたかとミサカは尋ねてみます」
「……いや、なんでもない」
「ところでこれからどうするのってミサカはミサカは聞いてみたり」

美琴はふと気づいた。初春を通して佐天と打ち止めは知り合っているのだが、御坂妹、というより妹達と佐天は顔も合わせたことがないし知られたら一大事であろう。
なのでこれから佐天の家に行こうとしたが、やめることにした。

「うーん、どうしようかなー。アンタ達が一緒だと限られるのよねー。それに3人も一気に押し掛けられるほどのお人好しの人なんて…」
「ならば行く場所は一つに絞られますとミサカは挙手しながら答えます」

御坂妹は美琴を見つめながら言った。そして美琴はドキッとした。同じ遺伝子であるなら今考えていることも同じであろう。

「え、ちょ、ま、まさか、行く場所って言うのは……」
「はい。命の恩人にまた借りを作るのは気が引けますがそれ以外にミサカの知り合いはいませんので即決ですとミサカはお姉さまの手を引き先導します」
「わーい、ミサカもあの人の家に行きたかったんだーってミサカはミサカはお姉さまの手を引っ張って急かしてみる!!」
「ちょ、やめて、手を引っ張らないで、ちょっとぉ~~!」

美琴は顔を真っ赤にしてイヤイヤしたが二人のパワーに負けてしまい、ズルズルと引っ張られてしまった。

         ☆

「我が世の春がキター!!」

真冬なのに春と叫ぶ上条当麻は遅い朝食を食べ終わり、部屋でのびのびとしていた。
同居人であるインデックスはクリスマスの時からイギリス清教の依頼でイギリスへと帰って行った。
よって上条は白い暴食シスターに費やすお金が浮き、自由奔放な生活を楽しんでいた。

「インデックスには節約節約と言い聞かせてきたが、寒い日は暖房ガンガンにして春のように過ごせば極上気分ですな!!
 今日も外は寒そうだし家の中でゴロゴロしてよーと!!」

上条は出席不足による補習をクリスマスまでにし終え、正月三が日が終わるまで補習なしと告げられた。
ここで冬休みの課題を進めるという発想が出てこないあたり3バカの一人だと思うが、補習の課題を必死にやり終えとにかく暇だった。

「考えてみれば今年1年(正確には7月に記憶を失ってから)禄なことがなかった訳だし、この平穏は神様がくれた今年最大の奇跡だよな~。
 明日からは大掃除で忙しくなるし、この平穏を有意義に過ごしましょー!!」

と自分に言いかけて、マンガを取り出すと勢いよくベッドに飛び込んだ。そしてマンガを開きかけたところで、
ピンポーンとドアベルが鳴った。

「こんな日に一体誰だ?動きたくないのに……そうだ、居留守して追い返してしまおう。上条さんは今日はゴロゴロするんです!!」

と決め込み、布団をかぶって黙り込んだ。
すると1分ほどしてからまた、
ピンポーンと鳴った。
ここでも上条は黙り込みやり過ごそうとした。だが、

ピンポ、ピンポ、ピピピピピ、ピンポーーーン!!!

とメチャクチャ不規則にドアベルが鳴った。
これ以上鳴らされるとホントに壊れてしまいそうなので、上条は仕方なく玄関に向かった。
ドア穴から外を覗くとそこには常盤台中学の制服を着た女の子が一人いた。何かあったのかと思い上条は鍵を外し、ドアを開けた。

「どうしたんだ、ビリビリ?」
「ビリビリじゃない!!御坂美琴よ!!少しは人の名前ぐらいしっかり覚えなさいよね!」

玄関にていつものようなやりとりをして挨拶を済ませた。美琴はドアベルを無視され少し不機嫌なようだ。
彼女の足元には大きめなスポーツバッグが置かれているだけで周りには他に誰もいなかった。
上条は頭をポリポリと掻きながら美琴に話しかけた。

「そんで、何しにきたんだ?常盤台だって大掃除で忙しいだろ?」
「いや、実はね、寮を出てきちゃったの」
「は?何でだよ?つかその大荷物って…」
「うん。お泊まり一式なんだ……それで友達の家とか回ったんだけど事情があって行けなくなっちゃったんだ。寮の方も黒子とケンカしちゃって戻れないのよ。
 だからいろいろ決まるまで泊めさせてもらえない?」

上条は美琴の事情を大体察した。しかしこう答えた。

「でもな、明日から大掃除で忙しくなるし、帰省はしないから三が日も家にいるけど年頃の女の子と一緒に年越しっていうとなあ……」
「家のお手伝いとか炊事洗濯ならやってあげるわよ。アンタに迷惑かけないからさ………やっぱり、ダメ?」

美琴は必殺の泣き目ウルウル上目遣いを繰り出した。どんな男でも悩殺するこの技は当麻に対しても効果が抜群だった。
当麻は興奮で鼻血が出るのを押さえて答えた。

「ワ、ワカリマシタミサカサン…ヘヤヲカタヅケマスノデチョットマッテイテクダサイマセ……」

一度ドアを閉めて部屋の中を片づけに行った。
五分ほどで大体片づき、隠したいものは納戸の奥にしまった。
そして服装と顔を整え直しドアを開けた。

「御坂、部屋が片づいたから入ってもいいぞ」
「わーい!ミサカが一番乗り~~ってミサカはミサカは突撃ッ~~~!!!」

はい??
と上条は固まった。
階段の所に隠れていたと思われる打ち止めと御坂妹がぞろぞろと部屋に入り始めたのだ。

「お邪魔しますとミサカはお辞儀します」
「えーと、これは一体??」
「ねぇー、年頃の男の子が持つという『エロ本』ってどこーってミサカはミサカは初めてのお部屋を捜索開始!!」
「上位個体、ここはマンションですのであまりバタバタしないでくださいとミサカは注意を促します。
 それと今日からよろしくお願いしますとミサカは再度頭を下げます」
「あ、ああ、よろしくな御坂妹…って美琴さん?あなた一人のはずでは??」

予想外の事に慌てる上条は一番最後に部屋に入った美琴に説明を求めた。

「え、えーとね、実は彼女たちにも事情があって家出しちゃって行く場所がなかったのよ。
 打ち止めは小さいからともかく、私と同じ格好の妹達が一緒にいちゃ立場がやばいでしょ?
 だから絶対能力進化実験の一連のことを知ってるアンタの所に来たのよ」

上条は呆然とした。美琴一人ならまだ余裕だったのだが、姉妹一同でこられるとかなり狭くなるのだ。
それに上条は健全な年頃の男の子である。女の子と一対三になると心拍数がマラソンする時よりも上がってしまうほどドキドキした。
この三人と年越し……先ほどまで楽園だったはずの上条の部屋に大型の強い台風が襲いかかったような気分だった。
そしてやはり自分にはこれが一番似合っているかのように呟いた。

「不幸だ………」


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