「それで、いつまでお姉様達はそんな恥ずかしいやりとりを続けるつもりですか、とミサカはため息をつきつつ突っ込みを入れてみます」
「へ?」
「キャ!」
突然かけられた声に驚いた二人は思わず立ち上がった。
「えっと……お前、みさ、か、い、もうと、か?」
上条は目を凝らして、声のした方に立っている人物を見た。
「はい、私はミサカ一〇〇三二号、あなたに御坂妹と呼ばれているミサカです、とミサカは簡潔に答えてみます」
二人に声をかけたのは御坂妹だった。
「へ?」
「キャ!」
突然かけられた声に驚いた二人は思わず立ち上がった。
「えっと……お前、みさ、か、い、もうと、か?」
上条は目を凝らして、声のした方に立っている人物を見た。
「はい、私はミサカ一〇〇三二号、あなたに御坂妹と呼ばれているミサカです、とミサカは簡潔に答えてみます」
二人に声をかけたのは御坂妹だった。
「え、えっと、それでお前はどうしてここにいるんだ?」
話すことが上手く思いつかなかった上条はとりあえず最初に浮かんだ疑問を口にした。
御坂妹は表情を変えることなく上条に答えた。
「どうしても何もここは臨床研究エリア、ミサカが現在治療を受けながら居住している場所なのでミサカがここにいることは至極当然なのです、とミサカは若干あなたを馬鹿にしながら答えます」
「ああ、そう言えば」
上条はぽんと手を叩いた。
以前培養液の中で治療を受けていた御坂妹を見舞ったことを思い出したのだ。あれもこの病院の中、しかも今上条達がいるエリアでの出来事だった。
「…………」
ただ同時に、その際に図らずも見てしまった御坂妹の裸も思い出していたが。
無言で顔を赤くした上条を見て何を考えているのかがわかった美琴は、もちろん思いきり彼の足を踏みつける。
「いって――!! 何すんだてめえ!!」
「フン。自業自得でしょ、このスケベ」
そっぽを向いた美琴は、上条の足を踏む力をさらに強くしていく。
「ぐ……!」
図星だったため美琴の仕置きに何も言い返せない上条。そのまま足の痛みに耐えながら悔しそうに歯ぎしりするのみだった。
「ほとんど人がいないとはいえ場所を考えて、できればもう少し静かにしていただきたいのですが、とミサカはやんわりと注意します」
「は、はい。すいません」
しかしここは病院、場所が場所だけに御坂妹に当然の如く注意された上条は素直に頭を下げた。
そんな上条を見た美琴はそっと彼の足から自分の足をどけた。
御坂妹はすっと美琴を指さした。
「それにしても相変わらずお二人は仲が良いのですね、とミサカは羨望の眼差しと共に口を開いてみます」
「わ、私とコイツのどこを見てそういうことを言うわけよアンタは。現に今だって――」
御坂妹の発言に思わず反論しようとした美琴だったが、御坂妹の指先が示す場所を見て言葉を失った。
「現に今だって、お姉様はしっかりと上条当麻の腕を掴んでいるではありませんか、とミサカは厳然たる事実を指し示します」
御坂妹は先ほど自分が声をかけたときからずっと上条の腕を掴んでいた美琴の手を指さしていたのだ。
美琴は慌てて上条の腕をふりほどいた。
「ち、ちょっとそんなんじゃないわよ別に! あんたも離しなさいよ!」
「お前が離さなかっただけで、俺は一度もお前の腕を掴んだりはしてないぞ」
「うるさいわね!」
二人は顔を付き合わせると、今日何度目ともわからない言い合いを再び始めようとした。
だが今回に限っては、そうは問屋が卸さなかった。
御坂妹が珍しく表情を露わにし、ジト目で二人をにらみつけたからだ。
「そうやってミサカを無視して、お姉様は嬉し恥ずかし二人だけの世界にまた行こうとするのですね、とミサカは非難の気持ちを込めて意見してみます」
「…………!」
御坂妹に指摘された上条と美琴はばっと離れるとやや距離を取って椅子に座った。
二人が離れたのを見た御坂妹は心の中だけでニヤリと笑みを浮かべた。
「おや、今度はいちゃつかないのですね、とミサカは安堵のため息をつきます」
「だ……!」
「誰がいちゃついたりするもんかよ、御坂……美琴なんかと!」
「なんですって? 私だってアンタとなんか願い下げよ!」
「そりゃこっちのセリフだ!」
「なんですって!」
「なんだよ!」
「…………」
結局御坂妹の言葉に反応して言い合いを始めた二人を見て、御坂妹は何も言わず天井を見上げた。
やがて口喧嘩の勢いが収まってきて、上条達はどちらからともなく椅子に座り直した。
その様子を見て御坂妹は口を開いた。
「それで、お二人はどうしてこのような場所にいるのですか、とミサカは当初の目的を思い出して尋ねてみます」
「えっとそれはね――」
美琴は簡単に自分たちがここにいる理由を説明した。
美琴の説明に御坂妹はうんうんとうなずく。
「なるほど、お姉様は傷ついた子犬を助けるという英雄的行動を取ったのですね、とミサカはお姉様を尊敬の眼差しで見てみます」
「そうそう」
「で、それを口実にして上条当麻といちゃつけるという報酬までも得たわけですね、とミサカはお姉様の説明をさらに突っ込んで理解してみます」
「って、全然理解してないじゃない!」
美琴から思わず大声が出た。
しかし上条に静かにするようにとジェスチャーをされると、恥ずかしそうにうつむいた。
美琴は小声で御坂妹への抗議を続けた。
「だからなんでそういう解釈になるわけよ?」
「違うのですか、とミサカは不思議そうな顔をしてみます」
「違うわよ。だいたい全然いちゃついてなんかいないでしょ」
「あれでですか、とミサカは相変わらず素直になれないお姉様にため息をついてみます」「いちゃついてなんか、ないもん……」
頬を染めた美琴はぷいとそっぽを向いた。
話すことが上手く思いつかなかった上条はとりあえず最初に浮かんだ疑問を口にした。
御坂妹は表情を変えることなく上条に答えた。
「どうしても何もここは臨床研究エリア、ミサカが現在治療を受けながら居住している場所なのでミサカがここにいることは至極当然なのです、とミサカは若干あなたを馬鹿にしながら答えます」
「ああ、そう言えば」
上条はぽんと手を叩いた。
以前培養液の中で治療を受けていた御坂妹を見舞ったことを思い出したのだ。あれもこの病院の中、しかも今上条達がいるエリアでの出来事だった。
「…………」
ただ同時に、その際に図らずも見てしまった御坂妹の裸も思い出していたが。
無言で顔を赤くした上条を見て何を考えているのかがわかった美琴は、もちろん思いきり彼の足を踏みつける。
「いって――!! 何すんだてめえ!!」
「フン。自業自得でしょ、このスケベ」
そっぽを向いた美琴は、上条の足を踏む力をさらに強くしていく。
「ぐ……!」
図星だったため美琴の仕置きに何も言い返せない上条。そのまま足の痛みに耐えながら悔しそうに歯ぎしりするのみだった。
「ほとんど人がいないとはいえ場所を考えて、できればもう少し静かにしていただきたいのですが、とミサカはやんわりと注意します」
「は、はい。すいません」
しかしここは病院、場所が場所だけに御坂妹に当然の如く注意された上条は素直に頭を下げた。
そんな上条を見た美琴はそっと彼の足から自分の足をどけた。
御坂妹はすっと美琴を指さした。
「それにしても相変わらずお二人は仲が良いのですね、とミサカは羨望の眼差しと共に口を開いてみます」
「わ、私とコイツのどこを見てそういうことを言うわけよアンタは。現に今だって――」
御坂妹の発言に思わず反論しようとした美琴だったが、御坂妹の指先が示す場所を見て言葉を失った。
「現に今だって、お姉様はしっかりと上条当麻の腕を掴んでいるではありませんか、とミサカは厳然たる事実を指し示します」
御坂妹は先ほど自分が声をかけたときからずっと上条の腕を掴んでいた美琴の手を指さしていたのだ。
美琴は慌てて上条の腕をふりほどいた。
「ち、ちょっとそんなんじゃないわよ別に! あんたも離しなさいよ!」
「お前が離さなかっただけで、俺は一度もお前の腕を掴んだりはしてないぞ」
「うるさいわね!」
二人は顔を付き合わせると、今日何度目ともわからない言い合いを再び始めようとした。
だが今回に限っては、そうは問屋が卸さなかった。
御坂妹が珍しく表情を露わにし、ジト目で二人をにらみつけたからだ。
「そうやってミサカを無視して、お姉様は嬉し恥ずかし二人だけの世界にまた行こうとするのですね、とミサカは非難の気持ちを込めて意見してみます」
「…………!」
御坂妹に指摘された上条と美琴はばっと離れるとやや距離を取って椅子に座った。
二人が離れたのを見た御坂妹は心の中だけでニヤリと笑みを浮かべた。
「おや、今度はいちゃつかないのですね、とミサカは安堵のため息をつきます」
「だ……!」
「誰がいちゃついたりするもんかよ、御坂……美琴なんかと!」
「なんですって? 私だってアンタとなんか願い下げよ!」
「そりゃこっちのセリフだ!」
「なんですって!」
「なんだよ!」
「…………」
結局御坂妹の言葉に反応して言い合いを始めた二人を見て、御坂妹は何も言わず天井を見上げた。
やがて口喧嘩の勢いが収まってきて、上条達はどちらからともなく椅子に座り直した。
その様子を見て御坂妹は口を開いた。
「それで、お二人はどうしてこのような場所にいるのですか、とミサカは当初の目的を思い出して尋ねてみます」
「えっとそれはね――」
美琴は簡単に自分たちがここにいる理由を説明した。
美琴の説明に御坂妹はうんうんとうなずく。
「なるほど、お姉様は傷ついた子犬を助けるという英雄的行動を取ったのですね、とミサカはお姉様を尊敬の眼差しで見てみます」
「そうそう」
「で、それを口実にして上条当麻といちゃつけるという報酬までも得たわけですね、とミサカはお姉様の説明をさらに突っ込んで理解してみます」
「って、全然理解してないじゃない!」
美琴から思わず大声が出た。
しかし上条に静かにするようにとジェスチャーをされると、恥ずかしそうにうつむいた。
美琴は小声で御坂妹への抗議を続けた。
「だからなんでそういう解釈になるわけよ?」
「違うのですか、とミサカは不思議そうな顔をしてみます」
「違うわよ。だいたい全然いちゃついてなんかいないでしょ」
「あれでですか、とミサカは相変わらず素直になれないお姉様にため息をついてみます」「いちゃついてなんか、ないもん……」
頬を染めた美琴はぷいとそっぽを向いた。
一方、上条は優しい眼差しで会話する二人を見ていた。
上条の様子に気づいた美琴は照れ隠しから上条に八つ当たりする。
「ちょっとアンタ、何ニヤニヤしてんのよ」
「え? いや、なんだかんだ言ってお前ら姉妹なんだなと思って。仲良く話してるお前ら見てるとなんだか嬉しくなってきてさ」
「なんでそんなことでアンタが嬉しくなるのよ?」
「うーん。だってさ、俺って自分がやりたいから勝手に人助けというか、人の手伝いというか、まあそんなお節介なことやってるだろ。別に人に感謝されたいとかそんなんじゃなくて」
「まあね、そこがアンタの良いところでもあるし悪いところでもあるわね」
「そんな流れでお前や妹達も結果的に助けたわけなんだけど、今のお前達を見てると俺のやったことは間違ってなかったんだ、と思えてなんかすごく嬉しくなってな。誰かを助けて、結果その人の笑顔が見られるって本当に嬉しいことなんだな。今だから言えるけど、俺、お前達助けて本当に良かった」
「…………!」
そう言って晴れやかな笑顔を浮かべた上条を見て美琴は顔を真っ赤にした。
そのまま美琴はあうあうと言葉にならない声を出しながらうつむいき、やがて絞り出すようにぽつりと呟いた。
「……その、わた、私も、あ、アンタに助けられて……って、何やってるのよアンタは?」
美琴はいつの間にか自分とは反対側の位置、上条の左隣に座っていた御坂妹をにらみつけた。
御坂妹はチラと美琴を一別すると何事もなかったかのように上条の左腕を抱きしめた。
「いつまでもお姉様にばかりおいしい思いをさせるのはさすがに腹に据えかねます、とミサカは不機嫌さを隠さずに答えます」
「な……」
「さらに言うと、この場合上条当麻に対して感謝の気持ちを示すのに一番ふさわしいのは、お姉様よりも直接命を助けられたミサカだと思うのです、とミサカは力説してみます」
御坂妹はぐっと拳を握りしめた。
「というわけで、ミサカは上条当麻にあのときの感謝の気持ちを込めてこういうお礼をしてみます、とミサカは頬を染めながら――」
そのまま上条の頬に御坂妹の唇がそっと押しつけられた。
「へ?」
「ふあ、くぅぁー!?」
その瞬間、待合いの空気が嫌な感じに凍り付いた。
「あ、あ、き……くか……あ、アンタは……何やってんのよ――!!」
怒髪天を衝いた美琴は噛みつかんばかりの勢いで御坂妹に詰め寄った。
バチバチと上条にとって恐怖の音が待合い中に響く。全身から溢れ出す電流の量がその怒りの程を如実に示していた。
上条の経験からすると美琴の怒りが臨界点を越えるまで後数分もかからないだろう。
やっぱりこいつらって仲良くないのかな、と思いながら上条は心の中でさっきの自分の発言を後悔していた。
だが当の御坂妹はしれっとした様子だった。ただその頬は傍目にもわかるほど朱に染まってはいたが。
「何、と言われましてもこれは感謝の印です、とミサカは内心の動揺を抑えながら表面上は冷静を装いながら答えます」
「なんで感謝の印で、その、き、キキキキススゥ、しなしななきゃいけないのよ!!」
「ゲコ太先生が上条当麻への感謝の気持ちを表すのならこういう方法もある、と教えてくれました、とミサカは理由を懇切丁寧に説明します」
「あんの馬鹿医者! 何下らないこと妹に教えてんのよ! アンタも、だからってそのまま実行するな! 意味わかってんのか! たとえ頬でも女の子にとってのキスがどれだけ大切か!」
「キスとはただ唇を押しつけるだけの行為、それが唇と唇であっても欧米では親愛以上の意味を持たないケースがあります、とミサカは客観的事実を述べます」
「ここは日本よ!」
「とは言うもののなぜでしょうか、先ほどからミサカの心拍数はかつてないほどに跳ね上がり続けており、体、特に顔の表面温度がどんどん上がっているのがわかります、とミサカは己に起こっている変化にとまどいを見せます」
御坂妹は心臓に手を当てて何度も深呼吸をした。
「しかし心拍数の変化と共に、こう心の中がぽかぽかと気持ちよい感覚に包まれてもいくのですが、とミサカは今日初めて知ったかもしれない感情に喜びを隠しきれません」
美琴は下を向き肩を震わせながら御坂妹の言葉を聞いていた。
「喜び、ねえ……。ふーん、そう。アンタ、コイツにキスできてそんなに嬉しかったんだ……。私だってまだそんなところまで行ってないのに、ふふふ、アンタ妹のくせに、何ちゃっかり私より先にやってんのよ!!」
美琴はキッと御坂妹をにらみつけると今にも飛びかかりそうになった。
「ヤバい、止めろ美琴!」
美琴の怒りが臨界点を突破したのがわかった上条は二人の間に立ちはだかった。
美琴の怒りの矛先はそのまま上条に移った。
「邪魔しないでよ! この子には年功序列、妹としての心構えを一度ちゃんと教えた方がいいのよ!」
「馬鹿、落ち着けよ美琴! ここは病院だぞ、そんなに電気をバチバチさせていい所じゃないだろ!」
「アンタ相手じゃないんだから雷撃の槍とか使わないんだし大丈夫よ!」
「あんな規格外の代物といっしょにするな! ここが停電したら大変だろうが、とにかく電気止めろ!」
「うるさい! そもそもなんでアンタはこの子をかばってるのよ! そんなに妹キャラがいいのか! キスされてこの子に惚れでもしたか!!」
「だからそんなんじゃねえよ! 惚れてもいねえ! 冷静になれって言ってるだけだ!」
「なれるわけないでしょ! 何よ当麻の馬鹿――!!」
本当の意味で美琴の怒りが臨界点を越えてしまったのだろう、病院ということで能力を抑えていたはずの美琴の頭上に青白い電気がスパークし始めた。
このままだと本当に病院中に大電流が流れ、大惨事が起きるかもしれない。
「だから止めろっつってんだろうが!」
上条はぎゅっと美琴を抱きしめた。
「…………!」
ボンッと音がするほどの勢いで顔を真っ赤にした美琴はしばらく震えていたが、やがてくたっと上条にもたれかかった。
「ふ、ふにゃあぁ……」
「えっと、電流はなんとか収まったみたいだな」
上条は右手で美琴の頭を撫でながら、彼女の体から出る電流が消えたのを確認して安堵のため息をついた。
けれど安心した途端、自分が今何をしているのかを冷静に考えてしまった。そしてそのまま美琴と同じくらい真っ赤になる上条の顔。
「もしもーし、美琴さーん、美琴さーん……なんか気失ってませんかー?」
「ふにゃあ、えへへ……」
美琴を起こそうと上条は声をかけてみるが、美琴は起きるどころかそのまま幸せそうに上条の胸に顔を埋めていた。しかも上条が離そうとすると、気を失っているはずなのに今度は美琴の方から上条を抱きしめてくる。
「あー……」
上条は先ほどからの自分の行動を思い出してみた。
御坂妹からキスをされ、その感触が残っている内に美琴と抱き合っている。
なぜだか自分がものすごい節操なしに思えてきた。
「俺って最低だな……」
上条は誰に聞かせるともなく呟いていた。
「結局最後に勝つのはお姉様なのですね、とミサカは納得いかない結末に憮然とした表情をしてみます」
御坂妹の呟きも上条にはどこか遠くで聞こえる言葉のように思えた。
上条の様子に気づいた美琴は照れ隠しから上条に八つ当たりする。
「ちょっとアンタ、何ニヤニヤしてんのよ」
「え? いや、なんだかんだ言ってお前ら姉妹なんだなと思って。仲良く話してるお前ら見てるとなんだか嬉しくなってきてさ」
「なんでそんなことでアンタが嬉しくなるのよ?」
「うーん。だってさ、俺って自分がやりたいから勝手に人助けというか、人の手伝いというか、まあそんなお節介なことやってるだろ。別に人に感謝されたいとかそんなんじゃなくて」
「まあね、そこがアンタの良いところでもあるし悪いところでもあるわね」
「そんな流れでお前や妹達も結果的に助けたわけなんだけど、今のお前達を見てると俺のやったことは間違ってなかったんだ、と思えてなんかすごく嬉しくなってな。誰かを助けて、結果その人の笑顔が見られるって本当に嬉しいことなんだな。今だから言えるけど、俺、お前達助けて本当に良かった」
「…………!」
そう言って晴れやかな笑顔を浮かべた上条を見て美琴は顔を真っ赤にした。
そのまま美琴はあうあうと言葉にならない声を出しながらうつむいき、やがて絞り出すようにぽつりと呟いた。
「……その、わた、私も、あ、アンタに助けられて……って、何やってるのよアンタは?」
美琴はいつの間にか自分とは反対側の位置、上条の左隣に座っていた御坂妹をにらみつけた。
御坂妹はチラと美琴を一別すると何事もなかったかのように上条の左腕を抱きしめた。
「いつまでもお姉様にばかりおいしい思いをさせるのはさすがに腹に据えかねます、とミサカは不機嫌さを隠さずに答えます」
「な……」
「さらに言うと、この場合上条当麻に対して感謝の気持ちを示すのに一番ふさわしいのは、お姉様よりも直接命を助けられたミサカだと思うのです、とミサカは力説してみます」
御坂妹はぐっと拳を握りしめた。
「というわけで、ミサカは上条当麻にあのときの感謝の気持ちを込めてこういうお礼をしてみます、とミサカは頬を染めながら――」
そのまま上条の頬に御坂妹の唇がそっと押しつけられた。
「へ?」
「ふあ、くぅぁー!?」
その瞬間、待合いの空気が嫌な感じに凍り付いた。
「あ、あ、き……くか……あ、アンタは……何やってんのよ――!!」
怒髪天を衝いた美琴は噛みつかんばかりの勢いで御坂妹に詰め寄った。
バチバチと上条にとって恐怖の音が待合い中に響く。全身から溢れ出す電流の量がその怒りの程を如実に示していた。
上条の経験からすると美琴の怒りが臨界点を越えるまで後数分もかからないだろう。
やっぱりこいつらって仲良くないのかな、と思いながら上条は心の中でさっきの自分の発言を後悔していた。
だが当の御坂妹はしれっとした様子だった。ただその頬は傍目にもわかるほど朱に染まってはいたが。
「何、と言われましてもこれは感謝の印です、とミサカは内心の動揺を抑えながら表面上は冷静を装いながら答えます」
「なんで感謝の印で、その、き、キキキキススゥ、しなしななきゃいけないのよ!!」
「ゲコ太先生が上条当麻への感謝の気持ちを表すのならこういう方法もある、と教えてくれました、とミサカは理由を懇切丁寧に説明します」
「あんの馬鹿医者! 何下らないこと妹に教えてんのよ! アンタも、だからってそのまま実行するな! 意味わかってんのか! たとえ頬でも女の子にとってのキスがどれだけ大切か!」
「キスとはただ唇を押しつけるだけの行為、それが唇と唇であっても欧米では親愛以上の意味を持たないケースがあります、とミサカは客観的事実を述べます」
「ここは日本よ!」
「とは言うもののなぜでしょうか、先ほどからミサカの心拍数はかつてないほどに跳ね上がり続けており、体、特に顔の表面温度がどんどん上がっているのがわかります、とミサカは己に起こっている変化にとまどいを見せます」
御坂妹は心臓に手を当てて何度も深呼吸をした。
「しかし心拍数の変化と共に、こう心の中がぽかぽかと気持ちよい感覚に包まれてもいくのですが、とミサカは今日初めて知ったかもしれない感情に喜びを隠しきれません」
美琴は下を向き肩を震わせながら御坂妹の言葉を聞いていた。
「喜び、ねえ……。ふーん、そう。アンタ、コイツにキスできてそんなに嬉しかったんだ……。私だってまだそんなところまで行ってないのに、ふふふ、アンタ妹のくせに、何ちゃっかり私より先にやってんのよ!!」
美琴はキッと御坂妹をにらみつけると今にも飛びかかりそうになった。
「ヤバい、止めろ美琴!」
美琴の怒りが臨界点を突破したのがわかった上条は二人の間に立ちはだかった。
美琴の怒りの矛先はそのまま上条に移った。
「邪魔しないでよ! この子には年功序列、妹としての心構えを一度ちゃんと教えた方がいいのよ!」
「馬鹿、落ち着けよ美琴! ここは病院だぞ、そんなに電気をバチバチさせていい所じゃないだろ!」
「アンタ相手じゃないんだから雷撃の槍とか使わないんだし大丈夫よ!」
「あんな規格外の代物といっしょにするな! ここが停電したら大変だろうが、とにかく電気止めろ!」
「うるさい! そもそもなんでアンタはこの子をかばってるのよ! そんなに妹キャラがいいのか! キスされてこの子に惚れでもしたか!!」
「だからそんなんじゃねえよ! 惚れてもいねえ! 冷静になれって言ってるだけだ!」
「なれるわけないでしょ! 何よ当麻の馬鹿――!!」
本当の意味で美琴の怒りが臨界点を越えてしまったのだろう、病院ということで能力を抑えていたはずの美琴の頭上に青白い電気がスパークし始めた。
このままだと本当に病院中に大電流が流れ、大惨事が起きるかもしれない。
「だから止めろっつってんだろうが!」
上条はぎゅっと美琴を抱きしめた。
「…………!」
ボンッと音がするほどの勢いで顔を真っ赤にした美琴はしばらく震えていたが、やがてくたっと上条にもたれかかった。
「ふ、ふにゃあぁ……」
「えっと、電流はなんとか収まったみたいだな」
上条は右手で美琴の頭を撫でながら、彼女の体から出る電流が消えたのを確認して安堵のため息をついた。
けれど安心した途端、自分が今何をしているのかを冷静に考えてしまった。そしてそのまま美琴と同じくらい真っ赤になる上条の顔。
「もしもーし、美琴さーん、美琴さーん……なんか気失ってませんかー?」
「ふにゃあ、えへへ……」
美琴を起こそうと上条は声をかけてみるが、美琴は起きるどころかそのまま幸せそうに上条の胸に顔を埋めていた。しかも上条が離そうとすると、気を失っているはずなのに今度は美琴の方から上条を抱きしめてくる。
「あー……」
上条は先ほどからの自分の行動を思い出してみた。
御坂妹からキスをされ、その感触が残っている内に美琴と抱き合っている。
なぜだか自分がものすごい節操なしに思えてきた。
「俺って最低だな……」
上条は誰に聞かせるともなく呟いていた。
「結局最後に勝つのはお姉様なのですね、とミサカは納得いかない結末に憮然とした表情をしてみます」
御坂妹の呟きも上条にはどこか遠くで聞こえる言葉のように思えた。
「うーん、そろそろ話しかけてもいいかな? さすがに待つのもくたびれたんでね」
上条が自らの性癖について絶望していると、遠慮がちに冥土帰しが声をかけてきた。
上条は冥土帰しの声にぱあっと表情を明るくした。
「は、はい? あ、ああ先生、助かりました! 手術終わったんですよね? 待ってたんですよ!」
上条の言葉に冥土帰しは苦笑いを浮かべた。
「うん、待っててくれたようにはとても思えないけどね。で、悪いけどそれ以上の行為は家でやってくれると個人的には嬉しいかな? ここは病院だし」
「う……」
「まあとにかく御坂君は眠っているようだから今の内に言っておくけど」
冥土帰しは小声で上条にささやいた。
「わかっているよね、あの子犬に関していつまでもなあなあにはできないってことは。その辺は年長者である君がちゃんと考えてあげるんだよ?」
真面目な口調の冥土帰しの言葉に、上条は黙ってうなずいた。
「じゃあ、あの子の様子を確認してみるかい?」
「は、はい。おい、美琴、いい加減起きろよ」
上条は美琴の頬を軽く叩いた。
「ふにゃ? なーに、当麻?」
「何寝ぼけてんだ、手術終わったってよ。あの子犬、見に行くぞ」
「手術? ……子犬? ……子犬!? 終わったの、どこどこ!」
ようやく脳が覚醒した美琴はきょろきょろと周りを見回した。
上条はゆっくりと美琴を立たせるとその手を右手でぎゅっと握った。
「落ち着けよ、まだ手術室かどっかだろ。それにさっきは怪我であの子犬も電磁波どころじゃなかったろうけど、ちゃんと治療してもらった今は電磁波抑えてた方がいいだろ。こうしていっしょに行った方がいい」
「う、うん、ありがと……」
美琴も上条の手をそっと握り返した。
体から常に発生している電磁波で動物から避けられることの多い美琴。それを防ぐ最も簡単な手段は、上条の右手で自分の体のどこかに触れてもらうことによって電磁波の発生そのものを抑えることなのである。
美琴と上条は手術室の近くにある冥土帰しの私室に入った。それに続く冥土帰し。ちなみに美琴ほどではないにせよ、やはり欠陥電気能力のため電磁波を発している御坂妹は入ってきていない。
美琴と上条は私室の隅にある小動物用の簡易キャリーを見て目を輝かせた。
そこには全身を包帯でグルグル巻きにされて横になってはいるが、確かに生きて眠っている子犬の姿があった。
「よかった、この子、助かったんだ」
美琴は瞳を潤ませながらじっとキャリーの中を見つめた。
「ほんと、よかったな」
美琴ほど大きいリアクションを取っているわけではないが、上条も嬉しそうに子犬を見ていた。
「まだ麻酔が効いてるからピクリとも動かないけど、もう大丈夫。治療は完璧だよ」
「そうですか」
美琴はほっと胸をなで下ろした。
「怪我の状態から考えるに、おそらくその子犬は爆風で吹き飛ばされたんではなくて、爆風で飛んできた石か何かに当たったんじゃないかと思われるね。骨なんかにはほとんど影響はなくて、切り傷がほとんどだったからね。だから出血はそこそこあったけど、傷口さえ縫合すればそれで後は大丈夫だったんだよ」
冥土帰しの言葉に美琴も上条も黙ってうなずいた。
「内臓へのダメージもないし、傷口自体もそうだね、一週間。一週間後には抜糸というか縫合用の金属を外せるよ」
「一週間、ですか。あの、それでこの子はその間……」
美琴は不安そうに冥土帰しを見た。
「うん、君たちは二人とも学生だろ? ずっと家にいるわけじゃないからね、抜糸するまでの一週間はこの犬はこちらで預かろう」
「本当ですか?」
美琴は安心したような表情を見せた。
「ただし」
冥土帰しの目がすっと細くなった。
「ここで預かることができるのはそこまでだ。傷が完全に治るまではだいたい一ヶ月くらいだと見ているけど、残りの三週間までこちらで預かることはできない。ここも一応人間用の病院だからね。わかるだろ?」
「そんな……」
先ほどの表情から一転、美琴の表情が一気に暗くなった。
しかし冥土帰しは妥協する様子を見せない。
「わかるね?」
辛そうな表情のまま美琴は上条を見上げた。
「どうしよう、当麻? あの子、ここでは預かれないって」
「どうしようって言われてもな。でも、先生だって抜糸するまでの絶対安静の一週間は預かってくれるんだぜ。それ以上を求めるのはわがままだろ」
「それはそうだけど、でもじゃあどうすればいいの?」
そう言ってうつむいた美琴だったが、急にばっと顔を上げた。
「決めた、私の部屋で面倒見る」
上条は馬鹿にしたように美琴を見た。
「却下」
「なんでよ!」
「あの規則規則で固められた常盤台の寮で動物なんか飼えるわけないだろう。普通に考えてみろ」
「そ、それはそうかもしれないけど。じ、じゃあ!」
「言っておくが、俺の部屋だって無理だぞ」
「なんでよ! 規則なんてないでしょ、アンタの部屋なんて!」
「そりゃ確かに猫を飼ってたことはあるけどな、周りに内緒で」
「じゃあ!」
「だからといって犬、それも怪我の治療中の犬を飼うなんて普通にできると思うのか? 俺たちはこれでも学生なんだ、昼間は家にいないんだぞ。それに勝手に出歩く猫と違って犬は散歩もさせなきゃいけない、そういうこととかもお前はちゃんと考えているのか?」
「う、ううん。今言われて初めて、気づいた……」
落胆した様子の美琴を見てさすがに良心がとがめた上条は左手をぽんと美琴の頭に置いた。
「とにかく、一週間は先生が預かってくれるんだ。その後のことはこの一週間でちゃんと考えよう、な」
「う、うん」
こくりとうなずく美琴を見て、冥土帰しが口を開いた。
「彼氏の言う通り、この一週間ゆっくりと考えてくれたらいいよ。それからこれは子供の頃犬を飼ったことのある老婆心からなんだけどね、抜糸をしたといってもまだ怪我が治りきっていない子犬だから広いところで散歩をさせたりする必要はない。むしろ運動なんてさせちゃいけないね。それに元々子犬はケージの中で遊ぶくらいで十分運動になるよ。それから社会人と違って学生の君達だから、家に帰るのは結構早いんじゃないのかな? 上手く時間さえ調整すれば、ね?」
「あ」
美琴は思わず声を漏らした。
「じゃあ、もう今日は遅いから早く帰りなさい。それから明日からもこの子の見舞いには毎日来ていいから。この部屋の鍵は開けておくから見舞いのためなら自由に入ってくれていい」
「は、はい、ありがとうございました!」
その後、病院の会計を使うわけにもいかなかったため、今日の治療費を直接冥土帰しの口座に振り込む手続きをした美琴は、上条と手を繋いだまま病院を後にした。
冥土帰しは美琴達を見送った後、ぽつりと呟いた。
「一応言っておくけど、怪我をした動物を見つけて上条君と仲良くなろう、とかいうことは止めてくれよ」
「そ、そんなことは思っていません、とミサカは平静を装って答えます」
「装ってるんだ……」
冥土帰しは苦笑いを浮かべた。
上条が自らの性癖について絶望していると、遠慮がちに冥土帰しが声をかけてきた。
上条は冥土帰しの声にぱあっと表情を明るくした。
「は、はい? あ、ああ先生、助かりました! 手術終わったんですよね? 待ってたんですよ!」
上条の言葉に冥土帰しは苦笑いを浮かべた。
「うん、待っててくれたようにはとても思えないけどね。で、悪いけどそれ以上の行為は家でやってくれると個人的には嬉しいかな? ここは病院だし」
「う……」
「まあとにかく御坂君は眠っているようだから今の内に言っておくけど」
冥土帰しは小声で上条にささやいた。
「わかっているよね、あの子犬に関していつまでもなあなあにはできないってことは。その辺は年長者である君がちゃんと考えてあげるんだよ?」
真面目な口調の冥土帰しの言葉に、上条は黙ってうなずいた。
「じゃあ、あの子の様子を確認してみるかい?」
「は、はい。おい、美琴、いい加減起きろよ」
上条は美琴の頬を軽く叩いた。
「ふにゃ? なーに、当麻?」
「何寝ぼけてんだ、手術終わったってよ。あの子犬、見に行くぞ」
「手術? ……子犬? ……子犬!? 終わったの、どこどこ!」
ようやく脳が覚醒した美琴はきょろきょろと周りを見回した。
上条はゆっくりと美琴を立たせるとその手を右手でぎゅっと握った。
「落ち着けよ、まだ手術室かどっかだろ。それにさっきは怪我であの子犬も電磁波どころじゃなかったろうけど、ちゃんと治療してもらった今は電磁波抑えてた方がいいだろ。こうしていっしょに行った方がいい」
「う、うん、ありがと……」
美琴も上条の手をそっと握り返した。
体から常に発生している電磁波で動物から避けられることの多い美琴。それを防ぐ最も簡単な手段は、上条の右手で自分の体のどこかに触れてもらうことによって電磁波の発生そのものを抑えることなのである。
美琴と上条は手術室の近くにある冥土帰しの私室に入った。それに続く冥土帰し。ちなみに美琴ほどではないにせよ、やはり欠陥電気能力のため電磁波を発している御坂妹は入ってきていない。
美琴と上条は私室の隅にある小動物用の簡易キャリーを見て目を輝かせた。
そこには全身を包帯でグルグル巻きにされて横になってはいるが、確かに生きて眠っている子犬の姿があった。
「よかった、この子、助かったんだ」
美琴は瞳を潤ませながらじっとキャリーの中を見つめた。
「ほんと、よかったな」
美琴ほど大きいリアクションを取っているわけではないが、上条も嬉しそうに子犬を見ていた。
「まだ麻酔が効いてるからピクリとも動かないけど、もう大丈夫。治療は完璧だよ」
「そうですか」
美琴はほっと胸をなで下ろした。
「怪我の状態から考えるに、おそらくその子犬は爆風で吹き飛ばされたんではなくて、爆風で飛んできた石か何かに当たったんじゃないかと思われるね。骨なんかにはほとんど影響はなくて、切り傷がほとんどだったからね。だから出血はそこそこあったけど、傷口さえ縫合すればそれで後は大丈夫だったんだよ」
冥土帰しの言葉に美琴も上条も黙ってうなずいた。
「内臓へのダメージもないし、傷口自体もそうだね、一週間。一週間後には抜糸というか縫合用の金属を外せるよ」
「一週間、ですか。あの、それでこの子はその間……」
美琴は不安そうに冥土帰しを見た。
「うん、君たちは二人とも学生だろ? ずっと家にいるわけじゃないからね、抜糸するまでの一週間はこの犬はこちらで預かろう」
「本当ですか?」
美琴は安心したような表情を見せた。
「ただし」
冥土帰しの目がすっと細くなった。
「ここで預かることができるのはそこまでだ。傷が完全に治るまではだいたい一ヶ月くらいだと見ているけど、残りの三週間までこちらで預かることはできない。ここも一応人間用の病院だからね。わかるだろ?」
「そんな……」
先ほどの表情から一転、美琴の表情が一気に暗くなった。
しかし冥土帰しは妥協する様子を見せない。
「わかるね?」
辛そうな表情のまま美琴は上条を見上げた。
「どうしよう、当麻? あの子、ここでは預かれないって」
「どうしようって言われてもな。でも、先生だって抜糸するまでの絶対安静の一週間は預かってくれるんだぜ。それ以上を求めるのはわがままだろ」
「それはそうだけど、でもじゃあどうすればいいの?」
そう言ってうつむいた美琴だったが、急にばっと顔を上げた。
「決めた、私の部屋で面倒見る」
上条は馬鹿にしたように美琴を見た。
「却下」
「なんでよ!」
「あの規則規則で固められた常盤台の寮で動物なんか飼えるわけないだろう。普通に考えてみろ」
「そ、それはそうかもしれないけど。じ、じゃあ!」
「言っておくが、俺の部屋だって無理だぞ」
「なんでよ! 規則なんてないでしょ、アンタの部屋なんて!」
「そりゃ確かに猫を飼ってたことはあるけどな、周りに内緒で」
「じゃあ!」
「だからといって犬、それも怪我の治療中の犬を飼うなんて普通にできると思うのか? 俺たちはこれでも学生なんだ、昼間は家にいないんだぞ。それに勝手に出歩く猫と違って犬は散歩もさせなきゃいけない、そういうこととかもお前はちゃんと考えているのか?」
「う、ううん。今言われて初めて、気づいた……」
落胆した様子の美琴を見てさすがに良心がとがめた上条は左手をぽんと美琴の頭に置いた。
「とにかく、一週間は先生が預かってくれるんだ。その後のことはこの一週間でちゃんと考えよう、な」
「う、うん」
こくりとうなずく美琴を見て、冥土帰しが口を開いた。
「彼氏の言う通り、この一週間ゆっくりと考えてくれたらいいよ。それからこれは子供の頃犬を飼ったことのある老婆心からなんだけどね、抜糸をしたといってもまだ怪我が治りきっていない子犬だから広いところで散歩をさせたりする必要はない。むしろ運動なんてさせちゃいけないね。それに元々子犬はケージの中で遊ぶくらいで十分運動になるよ。それから社会人と違って学生の君達だから、家に帰るのは結構早いんじゃないのかな? 上手く時間さえ調整すれば、ね?」
「あ」
美琴は思わず声を漏らした。
「じゃあ、もう今日は遅いから早く帰りなさい。それから明日からもこの子の見舞いには毎日来ていいから。この部屋の鍵は開けておくから見舞いのためなら自由に入ってくれていい」
「は、はい、ありがとうございました!」
その後、病院の会計を使うわけにもいかなかったため、今日の治療費を直接冥土帰しの口座に振り込む手続きをした美琴は、上条と手を繋いだまま病院を後にした。
冥土帰しは美琴達を見送った後、ぽつりと呟いた。
「一応言っておくけど、怪我をした動物を見つけて上条君と仲良くなろう、とかいうことは止めてくれよ」
「そ、そんなことは思っていません、とミサカは平静を装って答えます」
「装ってるんだ……」
冥土帰しは苦笑いを浮かべた。
帰り道。思い詰めた様子だった美琴は、突然ぴたっと立ち止まった。
「ねえ。やっぱり、アンタの家であの子飼えない?」
「だからそれは――」
「だってゲコ太先生が言ってたことって、工夫次第ではアンタの家で飼えるってことと同じでしょ!」
「それはそうかもしれないけど」
「それしかないじゃない! ねえ、私もできる限り、時間の許す限りあの子の面倒見るから、お願い!」
美琴はぱんと両手を合わせて上条に頭を下げた。
しばらく空を見上げていた上条だったがやがて大きくため息をついた。
「……わかったよ。とにかくあの犬が完治するまでな。その後はまたちゃんと考えなきゃいけないんだぞ」
「本当? やった! ありがとう!」
美琴はがばっと上条に抱きついた。
「うわ、や、止めろ御坂! くっつくな、顔が近い! あー! なんか柔らかい物も当たってるし、離れろ! うわ、マジで柔らけえ――!!」
上条の叫びは秋の夜空に吸い込まれていった。
「ねえ。やっぱり、アンタの家であの子飼えない?」
「だからそれは――」
「だってゲコ太先生が言ってたことって、工夫次第ではアンタの家で飼えるってことと同じでしょ!」
「それはそうかもしれないけど」
「それしかないじゃない! ねえ、私もできる限り、時間の許す限りあの子の面倒見るから、お願い!」
美琴はぱんと両手を合わせて上条に頭を下げた。
しばらく空を見上げていた上条だったがやがて大きくため息をついた。
「……わかったよ。とにかくあの犬が完治するまでな。その後はまたちゃんと考えなきゃいけないんだぞ」
「本当? やった! ありがとう!」
美琴はがばっと上条に抱きついた。
「うわ、や、止めろ御坂! くっつくな、顔が近い! あー! なんか柔らかい物も当たってるし、離れろ! うわ、マジで柔らけえ――!!」
上条の叫びは秋の夜空に吸い込まれていった。