エピローグ
帰る道すがら、上条は美琴に右手を差し出した。
「なあ、一応聞くけど返してくれるのか?」
「何を?」
「合い鍵。必要はなくなったはずだけど」
美琴はいたずらっぽく上条を見た。
「当麻はどうしてほしいの?」
上条はつまらなさそうにそっぽを向いた。
「……好きにすればいい」
「…………」
上条の態度を見て口を尖らせた美琴は、黙ってすっと上条の部屋の合い鍵を出した。
それを見た上条も黙ってその鍵を受け取ろうとした。
しかし、その鍵が上条の手に渡る寸前、美琴はそれを取り上げた。
「やっぱりやーめた」
「おい、そりゃどういう意味だよ」
「だって」
美琴は無表情に上条を見上げた。
「そんなに残念そうで泣きそうな顔してたんじゃ、鍵を返すわけにいかないじゃない。優しい美琴姫としては」
「え」
慌てて上条は顔中をぺたぺたと触ってみる。そしてそこまでしたところで、美琴がニヤニヤといやらしい笑みを浮かべていることに気づいた。
「み、美琴。お前騙したな!」
「へへーんだ! 実際残念がったのは事実でしょ! 心配しなくったって、当麻の部屋の合い鍵は持っててあげるわよ! どう、嬉しいでしょ!」
「う、ううう嬉しくなんかねえや!」
「はいはい、嘘をつくならもっと上手につきましょうね、当麻。嬉しいって顔に書いてあるわよ」
「だあ――! なんかすっげえ腹立つぞ!」
結局上条の部屋の合い鍵は、上条が高校を卒業し寮の部屋を出るまで、美琴が手放すことは決してなかった。
「なあ、一応聞くけど返してくれるのか?」
「何を?」
「合い鍵。必要はなくなったはずだけど」
美琴はいたずらっぽく上条を見た。
「当麻はどうしてほしいの?」
上条はつまらなさそうにそっぽを向いた。
「……好きにすればいい」
「…………」
上条の態度を見て口を尖らせた美琴は、黙ってすっと上条の部屋の合い鍵を出した。
それを見た上条も黙ってその鍵を受け取ろうとした。
しかし、その鍵が上条の手に渡る寸前、美琴はそれを取り上げた。
「やっぱりやーめた」
「おい、そりゃどういう意味だよ」
「だって」
美琴は無表情に上条を見上げた。
「そんなに残念そうで泣きそうな顔してたんじゃ、鍵を返すわけにいかないじゃない。優しい美琴姫としては」
「え」
慌てて上条は顔中をぺたぺたと触ってみる。そしてそこまでしたところで、美琴がニヤニヤといやらしい笑みを浮かべていることに気づいた。
「み、美琴。お前騙したな!」
「へへーんだ! 実際残念がったのは事実でしょ! 心配しなくったって、当麻の部屋の合い鍵は持っててあげるわよ! どう、嬉しいでしょ!」
「う、ううう嬉しくなんかねえや!」
「はいはい、嘘をつくならもっと上手につきましょうね、当麻。嬉しいって顔に書いてあるわよ」
「だあ――! なんかすっげえ腹立つぞ!」
結局上条の部屋の合い鍵は、上条が高校を卒業し寮の部屋を出るまで、美琴が手放すことは決してなかった。
美琴はかつて言った。マロンがいるからこそ今の自分達の関係があると。今の自分達の関係をくれたのはマロンだと。だからいつか自分達の関係は元のケンカ相手に戻るのだと。
本当にそうだろうか?
いや、そんなことは決してない。
偶然美琴に命を助けられた子犬、マロン。
そんなマロンの存在がきっかけとなって始まった今の美琴と上条の関係。
一ヶ月前とは確実に変わった二人の関係。
始まりは確かに偶然が重なったものだったが、そこから関係を深め、二人の刻を重ねていったのはあくまで美琴自身であり上条自身なのだ。
だから大丈夫。
きっかけであり始まりでもあるマロンが二人の側を離れても、二人の関係が元に戻ることはない。
そう。美琴に命を救われた子犬がくれた贈り物は、決して美琴を哀しませたりするものではないのだ。
なぜなら、贈り物は、相手を喜ばせるためにあるのだから。
本当にそうだろうか?
いや、そんなことは決してない。
偶然美琴に命を助けられた子犬、マロン。
そんなマロンの存在がきっかけとなって始まった今の美琴と上条の関係。
一ヶ月前とは確実に変わった二人の関係。
始まりは確かに偶然が重なったものだったが、そこから関係を深め、二人の刻を重ねていったのはあくまで美琴自身であり上条自身なのだ。
だから大丈夫。
きっかけであり始まりでもあるマロンが二人の側を離れても、二人の関係が元に戻ることはない。
そう。美琴に命を救われた子犬がくれた贈り物は、決して美琴を哀しませたりするものではないのだ。
なぜなら、贈り物は、相手を喜ばせるためにあるのだから。
ただし、
「残念がってなんかいねえよ! いいから返せ!」
「私のお金で作ったのよ! 所有権は私にあるに決まってるでしょ!」
「ちょっと待て、元々俺の部屋の鍵だろう! だったら所有権は俺にあるはずだ!」
「やだ! なんて言われようと絶対に渡さないからね! この鍵は私の物よ!」
「お前がそれ持ってて何になるってんだ!」
「一年三百六十五日、二十四時間、いつでも当麻に勝負挑むために決まってるじゃない!」
二人が素直になり今以上の関係になるは、もう少し時間がかかりそうではある。
「残念がってなんかいねえよ! いいから返せ!」
「私のお金で作ったのよ! 所有権は私にあるに決まってるでしょ!」
「ちょっと待て、元々俺の部屋の鍵だろう! だったら所有権は俺にあるはずだ!」
「やだ! なんて言われようと絶対に渡さないからね! この鍵は私の物よ!」
「お前がそれ持ってて何になるってんだ!」
「一年三百六十五日、二十四時間、いつでも当麻に勝負挑むために決まってるじゃない!」
二人が素直になり今以上の関係になるは、もう少し時間がかかりそうではある。
おまけその1
マロンが学園都市を離れていくらかの歳月が流れた。時は八月、まさしく夏真っ盛りといった感じである。
そんな中、ようやくの外出許可を得て実家に帰省している学生が二人。
「ねえ当麻。マロン、私のことちゃんと覚えててくれてるかな?」
「信じようぜ、なにしろマロンは電磁波我慢してまでお前の所に来てくれたんだぞ。な?」
御坂美琴と上条当麻である。
実家への道すがら心配そうな表情を続ける美琴に、上条は努めて明るく振る舞っていた。
「でも、だから心配なのよ。もしかしたらマロン、私達のこと恨んでるんじゃないかなって」
「俺達はあのとき、一番正しいことをやったんだ。マロンもわかってくれてるって。大丈夫だって」
「でも……」
「恨まれてたら恨まれてたで、じゃあどうするんだ? もしそうだったらそれこそきちんと謝って仲直りするしかない。せっかく夏休み使ってこっちに来たんだ、ちゃんと会おうぜ、な」
「……うん」
「ねえ当麻。マロン、私のことちゃんと覚えててくれてるかな?」
「信じようぜ、なにしろマロンは電磁波我慢してまでお前の所に来てくれたんだぞ。な?」
御坂美琴と上条当麻である。
実家への道すがら心配そうな表情を続ける美琴に、上条は努めて明るく振る舞っていた。
「でも、だから心配なのよ。もしかしたらマロン、私達のこと恨んでるんじゃないかなって」
「俺達はあのとき、一番正しいことをやったんだ。マロンもわかってくれてるって。大丈夫だって」
「でも……」
「恨まれてたら恨まれてたで、じゃあどうするんだ? もしそうだったらそれこそきちんと謝って仲直りするしかない。せっかく夏休み使ってこっちに来たんだ、ちゃんと会おうぜ、な」
「……うん」
そうするうちに、二人は上条の実家へと到着した。詩菜からの連絡によると、今の時間は上条家には詩菜と美鈴、そしてマロンがいるはずだった。
美琴は緊張しながら玄関のドアを開けた。
「お、おじゃましまーす。ま、マロンいます……か……?」
玄関から首を突っ込んできょろきょろと家の中を見回す美琴の目に、栗色の大きな固まりが映った。
「あれは、マロン……!」
間違いない。成長してかなり大きくはなっているが、確かにマロンであった。
美琴は緊張しながら玄関のドアを開けた。
「お、おじゃましまーす。ま、マロンいます……か……?」
玄関から首を突っ込んできょろきょろと家の中を見回す美琴の目に、栗色の大きな固まりが映った。
「あれは、マロン……!」
間違いない。成長してかなり大きくはなっているが、確かにマロンであった。
「ワン!」
マロンの大きな鳴き声に美琴はびくっと体を硬くした。
自分を警戒している、子犬の頃は吠えることさえ知らなかったのに、そう思った美琴の瞳から涙がこぼれそうになった。
「ワンワン!」
美琴が落ち込んでいると、なんとマロンは家の奥から玄関に向かって走ってきたのだ。
「え!? ど、どうしよう!?」
焦る美琴の気持ちなど関係ないと言わんばかりにマロンはどんどん美琴に迫る。
「いや……!」
思わず美琴が目を閉じた時、ドンとマロンの巨体が美琴に体当たりした。
マロンの大きな鳴き声に美琴はびくっと体を硬くした。
自分を警戒している、子犬の頃は吠えることさえ知らなかったのに、そう思った美琴の瞳から涙がこぼれそうになった。
「ワンワン!」
美琴が落ち込んでいると、なんとマロンは家の奥から玄関に向かって走ってきたのだ。
「え!? ど、どうしよう!?」
焦る美琴の気持ちなど関係ないと言わんばかりにマロンはどんどん美琴に迫る。
「いや……!」
思わず美琴が目を閉じた時、ドンとマロンの巨体が美琴に体当たりした。
「い……い……いや、くすぐったいよ、マロン!」
美琴に飛びかかったマロンはそのまま美琴の顔をペロペロと舐め始めた。ブンブンと大きく揺れるしっぽ。
マロンは美琴のことを覚えていてくれたのだ。
美琴に飛びかかったマロンはそのまま美琴の顔をペロペロと舐め始めた。ブンブンと大きく揺れるしっぽ。
マロンは美琴のことを覚えていてくれたのだ。
「マロン、会いたかったよ、会いたかったよ……」
涙を流しながらぎゅっとマロンを抱きしめる美琴。
そんな美琴の顔を舐め続けるマロン。
「あー、完全無視。相変わらず俺の立場って低いな。なあマロン、お前、俺のことは覚えてくれてるか……?」
苦笑いを浮かべながら、しかし優しい目で美琴とマロンを見つめている上条。
こうして美琴と上条は大切な「家族」に再会したのだった。
涙を流しながらぎゅっとマロンを抱きしめる美琴。
そんな美琴の顔を舐め続けるマロン。
「あー、完全無視。相変わらず俺の立場って低いな。なあマロン、お前、俺のことは覚えてくれてるか……?」
苦笑いを浮かべながら、しかし優しい目で美琴とマロンを見つめている上条。
こうして美琴と上条は大切な「家族」に再会したのだった。
おまけその2
日曜日の昼下がり。
とある家族がリビングに集まって、母親の昔話に聞き入っている。
「とまあ、こんなところかしら、私達の距離が縮まったきっかけは」
「じゃあマロンがキューピッドだったっていうのは本当なんだ」
「そうよ、前からそう言ってたじゃない。マロンがお父さんとお母さんのキューピッドになってくれたんだって」
「へー、偉いんだマロン。今じゃ食べることに命懸けてるみたいな、ただのボケ老犬なのに」
母親の話に耳を傾けていた男の子は、自分の側で寝ている雑種犬の頭をそっと撫でた。
とある家族がリビングに集まって、母親の昔話に聞き入っている。
「とまあ、こんなところかしら、私達の距離が縮まったきっかけは」
「じゃあマロンがキューピッドだったっていうのは本当なんだ」
「そうよ、前からそう言ってたじゃない。マロンがお父さんとお母さんのキューピッドになってくれたんだって」
「へー、偉いんだマロン。今じゃ食べることに命懸けてるみたいな、ただのボケ老犬なのに」
母親の話に耳を傾けていた男の子は、自分の側で寝ている雑種犬の頭をそっと撫でた。
「コラ、ボケ言わない! マロンだって好きで年取ったわけじゃないのよ」
「はーい」
母親に叱られた男の子はばつが悪そうに頭をかいた。
そんな男の子を見ながら、彼と一緒に母親の話を聞いていた女の子はけたけたと笑っている。
「やーい、叱られてやんの。だからいつも言ってるじゃない、アンタは口と頭と性格が悪いから直しなさいって」
「姉ちゃんうるせえよ! なんだよ、自分ばっかり良い子ぶっちゃって」
「だって私、良い子だもん! 勉強だって運動だってなんだって一番だし! 性格だって、えっと、『しんそーのごれーじょーみたい』って言われてるのよ。それに私はアンタと違ってマロンをボケ老犬なんて酷いこと言わないし。どんなに年を取っても食べることにばっかり一生懸命でも、マロンは私達の大切な家族なんだから。ね、マロン」
女の子はしなを作ってぱちりとウインクをした。
男の子はそんな女の子を見ながらつまらなさそうに口を尖らせる。
「……猫かぶり、外面美人、内面般若……いて!」
「あらー、誰かしらー、妙なこと言ってるのわ? それ以上言ったらグーでマジ殴りするわよ」
「ごめんなさい、この馬鹿で口が悪い弟が全面的に悪いんです、許して下さいお姉様」
「謝るくらいなら最初から言うな!」
「……相変わらずアンタ達のケンカっておきまりのパターンね。双子っていっても二卵性だとこうも違うのかしら」
土下座をする弟の頭を容赦なく踏みつける姉を見ながら母親は深く深くため息をついた。
「はーい」
母親に叱られた男の子はばつが悪そうに頭をかいた。
そんな男の子を見ながら、彼と一緒に母親の話を聞いていた女の子はけたけたと笑っている。
「やーい、叱られてやんの。だからいつも言ってるじゃない、アンタは口と頭と性格が悪いから直しなさいって」
「姉ちゃんうるせえよ! なんだよ、自分ばっかり良い子ぶっちゃって」
「だって私、良い子だもん! 勉強だって運動だってなんだって一番だし! 性格だって、えっと、『しんそーのごれーじょーみたい』って言われてるのよ。それに私はアンタと違ってマロンをボケ老犬なんて酷いこと言わないし。どんなに年を取っても食べることにばっかり一生懸命でも、マロンは私達の大切な家族なんだから。ね、マロン」
女の子はしなを作ってぱちりとウインクをした。
男の子はそんな女の子を見ながらつまらなさそうに口を尖らせる。
「……猫かぶり、外面美人、内面般若……いて!」
「あらー、誰かしらー、妙なこと言ってるのわ? それ以上言ったらグーでマジ殴りするわよ」
「ごめんなさい、この馬鹿で口が悪い弟が全面的に悪いんです、許して下さいお姉様」
「謝るくらいなら最初から言うな!」
「……相変わらずアンタ達のケンカっておきまりのパターンね。双子っていっても二卵性だとこうも違うのかしら」
土下座をする弟の頭を容赦なく踏みつける姉を見ながら母親は深く深くため息をついた。
「私達のケンカでは、さすがに踏みつけるまではしてないわよ……アイツの土下座まではしょっちゅうだったけど。ほらマロン起きて、アンタの出番よ」
母親に体を揺すられた雑種犬は大きく伸びをしながら起きると、姉の方へとゆっくりと近づいていく。そのままドンと姉の体にのしかかるとペロペロと彼女の顔を舐め始めた。
「ち、ちょっと止めてよ。またなのマロン! くすぐったいってば! どうしてアンタはそう女の子の顔を舐めるのが好きなのよ!」
「姉ちゃん聞いてなかったのか? お母さんが泣いてる時にその顔を舐めるのはマロンの役目だったって言ってたじゃないか。人の話はちゃんと聞かなきゃ。……それにしても助かったよマロン」
姉の足がどかされたことによってようやく自由の身になった弟は、首をグルグルと回して雑種犬に感謝した。
どうやらこの家で姉弟ゲンカの仲裁は雑種犬の役目ということになっているらしい。
母親に体を揺すられた雑種犬は大きく伸びをしながら起きると、姉の方へとゆっくりと近づいていく。そのままドンと姉の体にのしかかるとペロペロと彼女の顔を舐め始めた。
「ち、ちょっと止めてよ。またなのマロン! くすぐったいってば! どうしてアンタはそう女の子の顔を舐めるのが好きなのよ!」
「姉ちゃん聞いてなかったのか? お母さんが泣いてる時にその顔を舐めるのはマロンの役目だったって言ってたじゃないか。人の話はちゃんと聞かなきゃ。……それにしても助かったよマロン」
姉の足がどかされたことによってようやく自由の身になった弟は、首をグルグルと回して雑種犬に感謝した。
どうやらこの家で姉弟ゲンカの仲裁は雑種犬の役目ということになっているらしい。
「まあ、こういうのも仲が良い証拠なのかしらね」
母親は自分の子供達と愛犬のじゃれ合いを目を細めて見つめている。
「ね、あなた」
そして目を閉じ、今この場にいない夫の姿に思いを馳せた。
彼は現在アフリカ大陸で彼の義父の仕事を手伝っている。義父曰く、不幸ということを除けば根性と胆力の固まりである彼女の夫は仕事上のベストパートナーらしい。
母親は自分の子供達と愛犬のじゃれ合いを目を細めて見つめている。
「ね、あなた」
そして目を閉じ、今この場にいない夫の姿に思いを馳せた。
彼は現在アフリカ大陸で彼の義父の仕事を手伝っている。義父曰く、不幸ということを除けば根性と胆力の固まりである彼女の夫は仕事上のベストパートナーらしい。
「あー、お母さん! またお父さんのこと考えてニヤニヤしてる!」
その時、子供達が母親の様子に気づいてはやし立て始めた。
結婚してもうかなり経つのにこういうことに対する免疫が少ない母親は、慌てて両手をわたわたと振る。
「な、なな何言ってんのよ! そん、なこと、してるわけないじゃない!」
「だって美鈴さんが言ってたもん。『美琴ちゃんはいつまで経っても当麻くんにメロメロなのよ。目を閉じて物思いにふけってたらまず間違いなく当麻くんのこと考えてるわね』って」
「あ、あんの馬鹿母親! 小学生の孫になんてこと教えてんのよ!」
「美鈴さんって、お母さんやお父さんのこと、たくさん教えてくれるんだよ。すっごく面白いんだ!」
「面白くないわよ!」
「詩菜さんも色々教えてくれるのよ。この間教えてもらったのはね、お母さんが私達の見てないところでお父さんにどんな風に甘えて――」
「お義母さんまで!? ていうか何考えてんのよ、あの母親達は――!!」
とうとう母親は大声で叫びだした。せっかくの美人が台無しである。
その時、子供達が母親の様子に気づいてはやし立て始めた。
結婚してもうかなり経つのにこういうことに対する免疫が少ない母親は、慌てて両手をわたわたと振る。
「な、なな何言ってんのよ! そん、なこと、してるわけないじゃない!」
「だって美鈴さんが言ってたもん。『美琴ちゃんはいつまで経っても当麻くんにメロメロなのよ。目を閉じて物思いにふけってたらまず間違いなく当麻くんのこと考えてるわね』って」
「あ、あんの馬鹿母親! 小学生の孫になんてこと教えてんのよ!」
「美鈴さんって、お母さんやお父さんのこと、たくさん教えてくれるんだよ。すっごく面白いんだ!」
「面白くないわよ!」
「詩菜さんも色々教えてくれるのよ。この間教えてもらったのはね、お母さんが私達の見てないところでお父さんにどんな風に甘えて――」
「お義母さんまで!? ていうか何考えてんのよ、あの母親達は――!!」
とうとう母親は大声で叫びだした。せっかくの美人が台無しである。
上条美琴、二十代後半。
今年七歳になる二卵性双生児の姉弟と、大型犬としてはかなりの高齢になるがまだまだ元気な愛犬マロン。そして中学生の時からの想いを叶え結ばれた夫、当麻。
愛する家族に囲まれた彼女の人生はこれからも続いていく。
今年七歳になる二卵性双生児の姉弟と、大型犬としてはかなりの高齢になるがまだまだ元気な愛犬マロン。そして中学生の時からの想いを叶え結ばれた夫、当麻。
愛する家族に囲まれた彼女の人生はこれからも続いていく。