御坂姉妹の家出 3 1日目(お泊まり編)
「よしっ!!ここで一気にトップだってミサカはミサカはキノコダッシュ三連発!!!」
「ミサカの前には出しませんとミサカはここで赤コウラをぶつけます」
「ムキィィ!!何するんだ10032号!今のでコースから落ちちゃったじゃないってミサカはミサカは怒ってみたり!!!」
「ざまあみろですとミサカは悪態つきながらトップでゴールします」
「うわーん、お姉さま~下位個体のくせにミサカのこと虐めてくるよーってミサカはミサカはお姉さまに抱きついてみたり!!」
「はいはい、わかったからあっちで遊んできなさいって。あんまりくっついてると料理作れないでしょ」
「美琴も向こうに行って良いぞ。後は俺一人で出来そうだし」
「何言ってんのよ。こっちはタダで泊めてもらっているんだし、手伝うって言ってるんだからそっちこそ頼りなさいよ」
午後7時前
上条と愉快な御坂姉妹は家に戻り夕食の支度をしていた。
昼食の時に上条は手伝わなかったので美琴と御坂妹と三人で作ることとなった。
だが、その途中で打ち止めが『一人で遊ぶの飽きたあああ!!ってミサカはミサカはジタバタするーー!!』と喚き始めた。
今日は美琴特製のオムレツを作るということだったので美琴は抜けられない。よって上条と御坂妹でじゃんけんをして負けた方が打ち止めの面倒を見ることとなった。
なぜか右手でやるといつも負ける上条であったが、左手で相手をするとあいこなしで勝ってしまった。
御坂妹はわずかに嫌そうな顔をしながらも打ち止めと一緒にテレビゲームで遊ぶことにした。
もちろん日頃の恨みを込めて割と全力で。
「既にこのゲームではミサカが他の妹達よりも断然強いのでガキな上司に負ける気はしませんとミサカはどや顔で上位個体を見つめます」
「ううっ、このコントローラーがいけないから別のにするってミサカはミサカは他のを探してみたり!!」
「もう、打ち止め!そろそろご飯出来そうだからテーブルの上をこれで拭いてよ。遊んでばっかいないで少しは手伝いなさい!!」
美琴は水を絞った台ふきんを打ち止めに渡してテーブルを片づけるよう命じた。そして台所に戻って皿を揃え始めた。
「美琴、そろそろ盛りつけていくけどライスはこんなもんでいいのか?」
「どれどれ……うん、上出来じゃない。じゃあそれをこれに盛りつけて。打ち止めの分は少し減らしてね」
「はいよ。そんで後は卵をかければいいと思うけど、なんで卵焼きみたく丸めてんの?」
「アンタねえ、オムレツ作るんならこうやって丸めないと出来ないでしょ。……よし、じゃあこれをライスに乗っけて」
「乗っけて?」
「切れ目を入れて広げると!!」
「おお!!すげぇなこれ!卵がトロトロしててうまそぉ~。俺こんな作り方テレビでしか見たことないぜ!」
「どうよ?私だって常盤台に通ってこれぐらい調理実習で習ってんのよ。少しは私の評価見直しなさい」
「はあ~さすがですなあ。シャッターのこじ開け方からペルシャ絨毯のほつれの直し方までできる超電磁砲御坂美琴さん。
補習で忙しい上条さんの所にも一人欲しいところですなあ」
「!?!?ほし、欲しいってそれ、つまり、その………」
「ほらほら次の皿だぞ。早く卵乗せろって」
「え!?ああ、うん……」
上条の無自覚な発言はよく美琴を慌てさせる。だからその後二回連続で美琴は卵を開くときに失敗し、ちょっと肩を落としてしまった。
あらかじめ炒めておいた野菜とベーコンをオムレツの隣に添えて、美琴特製のオムレツが完成した。
「さあ、出来たから運んでちょうだい。ほら、ケチャップも持ってって」
「はーいってミサカはミサカは運んでみたり!!あれ、この崩れたオムレツは誰の?ってミサカはミサカは首を傾げてみたり」
「あ~、俺と美琴のやつだからそんな気にすんな。ほら美琴、いちいちしょげんなって。みんな同じオムレツだろうが」
「あうう……なんで一度も失敗したことないのに……」
四人はそれぞれの席に着き、食器を並べた。
「じゃあ、みんなで一緒に『いただきます』しようってミサカはミサカはウズウズする手を押さえて提案してみる!!」
「わかったわかった。そんじゃ手を合わせて、はい!いただきまーす!!」
「「「いただきまーす!!!」」」
四人全員で手を合わせて挨拶をする。上条と美琴はなんだか本当に家族と一緒に食事してるようで、懐かしい感覚が戻ってきた。
それから、四人とも一口オムレツに口を付けると、
「おお!!見た目は悪いが断然美味いなこれ!」
「もう!見た目のことはいいでしょ!!」
「さすがはお姉さま!こんなオムレツは食べたことがありませんとミサカはこの上ない賞賛を送ります」
「ホント美味しいねってミサカはミサカはトロトロした卵が気に入ったり!!ケチャップもかけちゃおってミサカはミサカは味付けしてみる!!」
とそれぞれ美琴のオムレツを褒めた。そして打ち止めがケチャップをつけ終わると御坂妹が打ち止めからケチャップをもらった。
「上条さん、ミサカはこのオムレツをさらに美味しくする方法を知ってますよとミサカは最近学んだ知識を披露します」
「ほー、んじゃあやってみてくれ」
「はい、では行きますよとミサカはケチャップの照準を定めます」
(なにする気なんだろう、この子?)
美琴が首を傾げながら見ていると、御坂妹はケチャップで絵を描き始めた。一筆でさっさっと書き終えると上条と美琴に見せた。
「ぶっふぉっ!!?こ、これは!?」
「なっ、こ、これって!!?」
「はい、ハート型に書いてミサカの愛情を込めるのですとミサカはテレビで得たメイドカフェのケチャップのかけ方を真似てみます」
御坂妹がしたのはケチャップで上条のオムレツにハートを描いたのである。
これは10032号が偶然テレビで紹介されていたメイドカフェでの調理方法を発見してしまったことによる。
さらに、妹達はそれぞれ見たり聞いたりしたことをミサカネットワークによって世界各地にいる個体同士で共有することができるので、
既に打ち止めも一方通行に試したことがあり美味しいと評価された(ハートは約1秒ほどでぐちゃぐちゃにされてしまったが)。
だからミサカネットワーク上ではもはや定説となりつつあり、御坂妹にとっては全く悪気はない行為なのだが、
美琴にはどう見てもいちゃラブカップルのすることに思え不満が一気に盛り上がってきた。
「あ、ああああ、アンタってやつはあああ!!!!妹にこんなことさせやがってえええええええ!!!」
「ごご、誤解だああああ!!!こんなこと知らなかったし頼んでもいねえええ!!!!」
「表に出なさい!!アンタは一度本気で死ねええええええ!!!!」
「よ、よせ美琴!!!死体で年越しなんてごめんだああああ!!!!」
「逃がすかあああ!!待ってえええええ!!!」
がちゃん☆
「……どうするの10032号ってミサカはミサカは聞いてみる」
「…夫婦喧嘩は余程のことがなければ大丈夫ですのでほっときましょうとミサカは食事を再開します」
約20分後
傷だらけのボロボロな状態の上条と冬なのに滝のごとく汗を流している美琴が帰ってきた。御坂妹と打ち止めは既に食べ終わっていて食器を片づけている所だった。
「ぜえぜえ……御坂妹、食器は置いとくだけでいいから先に風呂に入ってこいよ。ついでに打ち止めと一緒に入ってもらえれば、俺と美琴もご飯食べた後ですぐに入れるからさ」
「わかりました。では上位個体、一緒にシャワー浴びましょうとミサカは促します」
「待ってよ10032号、このアニメが終わったらすぐ入るからってミサカはミサカはテレビに食いついてみる!」
「はあはあ……ダメよ打ち止め。さっさと入らないと今夜ちゃんと寝れなくなっちゃうわよ。早く仕度しなさい」
打ち止めは美琴から急かされながら着替えを持って風呂場に向かった。御坂妹は昼間買ってきた無地の薄いピンク色のパジャマを取り出していた。
「そういえば御坂妹、なんで二着も買ったんだ?」
「この花模様があるパジャマはお姉さまらしくとてもかわいいですとミサカは裏を返せばガキっぽいと暗に語ります」
「アンタ、私に喧嘩売ってんの?」
「いえいえ、だからこそあの19090号にとても合うとミサカは推測します。
つまりお姉さまが選んだこのパジャマを彼女にあげて仲直りの印としたいのですとミサカは提案しました」
「なるほどな。確かに美琴からのプレゼントを御坂妹から渡せば、他の妹達だって納得してくれるだろうな。
よし、それならそのパジャマをちゃんと包んでおくからその間に御坂妹も風呂に入って体も心もさっぱりしてこいよ」
「ではミサカもお先に失礼してお風呂へとミサカはそそくさと後にします」
がちゃんと脱衣所の扉が閉まった。今リビングには上条と美琴の二人しかいない。
「さてと、じゃあ早いとこ食べ終えるとしますか、御坂さん?」
「そうね。でもさっきまで暴れまくって食べる気しなくなっちゃったわよ…」
「…なんだよ、さっきのはお前の勘違いだったのにまだ根に持ってるのかよ?」
「うっさいわね~。もうわかったわよ。じゃあほら、私の分いいだけ食べていいから」
「えっ、お前は平気なのか?ある程度食べないと力出ねえぞ?」
「“いいだけ”って言ってるでしょ!半分くらいは食べるんだから残しておきなさいよね」
美琴はそう言って一応釘を差しておいたが、今の彼女にとって正直半分でも多い気がした。
上条は少し美琴の様子を気にしたが、今はだいぶお腹が減っていたので自分の分のオムレツをペロリと食べて美琴の皿のオムレツも半分ほど平らげた。
美琴もお腹は減っていたのだが先ほどの喧嘩でだいぶ疲れてしまい、上条が半分ほど残したオムレツでもなかなか思うように口の中に進まなかった。
季節は冬だ。もしかすると汗だくのまま外を暴れ回り風邪を引いたかもしれない。
心配になった上条は美琴を気遣うように話しかけた。
「御坂、大丈夫か?片づけとか後のことは全部俺がやるから、少し楽にしてていいぞ」
「あ…ありがと……」
上条は食べ終わった皿を持って台所まで行き、流し台に皿を置いた。
美琴もその間になにか手伝おうと思ったのだが疲れのせいで思った以上に体が重く、その場で動けなくなってしまった。
「はあ…、なんでだろ、こんな体が重くなるなんて……」
「ホント大丈夫かよ?ったく、しゃーねーな。ちょっと待ってろよ」
上条は皿洗いを手早く済まし冷蔵庫から牛乳を取り出した。
コップに半分ほど注ぎ電子レンジに入れてスイッチを押すと、上条は美琴のそばに向かった。
「今牛乳温めてるからそこに座って休んでろよ。御坂妹達もまだ風呂から出てきそうにないし、寒いんならほら」
上条はベッドにしかれてある毛布を美琴にかぶせた。
わずかにインデックスの匂いがしたが、最近はずっと上条が使っているので彼の匂いがだいぶ充満していた。
「それかけて、眼を閉じてじっとしてろ。明日から大掃除もするんだし、居候のくせに風邪こじらせて寝込まれても困るからな」
「う、うん……ありが…と……これ…いい匂い……」
美琴はベッドを背もたれにして眼を閉じた。先ほどの喧嘩の時に相当疲れてしまったのか、しばらくするとかすかな寝息をたてて眠り始めた。
「(可愛い顔して寝るんだなこいつ)…ギャップ萌えってこういうのを言うのかな……」
思わず感想を漏らしてしまった上条はテーブルの上を台ふきんで拭き終わると、御坂妹がプレゼント用に買ったパジャマを綺麗にたたみ包装用の紙袋の中に入れて封をした。
それからしばらくの間、温めた牛乳をテーブルに置いて美琴の隣に座った。
改めて美琴の寝顔をマジマジと覗き見ると、起きているときには絶対見れないであろうユルユルでしまりのない顔がまるで赤ちゃんのように見えてたまらなかった。
(…俺の部屋で二人きり……相手は無防備でスヤスヤ寝ている……つ、つまり…これは………ゴクリ)
いつもなら仲良く喧嘩しているのであまり美琴を女として意識していなかった。
だが、状況が状況なだけに上条の理性が邪な方へと揺らぎ始めた。
理性が興奮を押し留めようとするが、本能は野獣の如く美琴に襲いかかれとけしかけてくる。
今上条の頭の中では昼間のハーレムの時以上に混乱していた。
だが、そんな理性と本能の戦いに突然水を差された。
ピンポーン
玄関の方でチャイムが鳴った。
はっと起きあがった上条当麻は、すばやく、しかし美琴を起こさないように静かに走って玄関向かった。
「は、はい!どどっどちら様でしょうか?」
「宅配です。上条様のお宅ですね?お預かりした荷物です」
「あ?ああ、ゲコ太布団か。わかりました。今開けますよ」
上条はロックを外してドアを開けた。大きな箱が宅配業者の片隅に置かれていて業者は上条に紙を差しだした。
「こちらに受け取りのサインをお願いします」
「さっさっと、はいこれでよしと」
「ありがとうございます。ではこちらがお届けの品です。ではこれで失礼します」
「ご苦労様でーす」
業者は足早に去っていった。年末で忙しいのだろうな。上条はそう思いながら、大きな箱を家に入れてリビングまで運んだ。
「よっこいせっと。はあ~、結構重たかったなあ。御坂はこんなの持ち帰れるのかな~」
「重くても私は意地で持ち帰るんだからね」
「御坂!!?いつの間に起きてたんだ!?」
「ドアが開きっぱなしで外から冷たい風が流れ込んでたのよ。少しは考えなさいよ」
「あっ、そっか。それで気分はどうだ?」
「少し寝たらだいぶ楽になったわ。そろそろあの子達も出そうだし、お風呂の仕度するね」
「ああ……(起きたとたん表情が変わっちゃったな。なんか可愛かったし、写真にでも収めたかったな)」
微妙な未練が残った形になったが上条の理性はここでもしっかり働けたようだった。
美琴が毛布をどかすとテーブルの上に置かれたホットミルクを見つけた。
「この牛乳ってアンタの?」
「いや、お前が起きたときに飲んでもらおうと思ってたんだ。結構美味いぞ」
「そう、ありがとう。じゃあいただきます」
少し冷めたホットミルクを美琴はゴクゴク飲んでいく。お腹も減ってたようでがぶ飲み気味に飲み干した。
美味しそうに飲み干す美琴の様子を見て上条はもう大丈夫だと思い美琴にシャワーを浴びることを勧めた。
「……覗かないでよね」
「誰が覗くかよ。安心して入ってこい中学生」
やがて御坂妹と打ち止めがパジャマを着て出てくると、入れ替わりで美琴が脱衣所へと入っていった。
タオルで頭を拭いている打ち止めは届いたばかりの荷物を見つけた。
「この大きな箱はなあに?ってミサカはミサカは首を傾げてみたり」
「布団だよ。お前ら3人もいるとベッドだけじゃ収まらねえだろ?上条さんは別の所で寝るからお前らも喧嘩せずに――」
「なぜこの部屋を離れて寝る必要があるのですかとミサカは質問します」
「え、いや、だってほら、年頃の女の子達と一緒に寝れるわけねーだろ!だいたい俺みたいのがいるとお前ら気になって眠れなくなったりするかもしれないし……」
「ミサカはときどきあの人のベッドで一緒に寝ることがあるけどすごく安心して寝れるよってミサカはミサカは体験談を語ってみたり!
それにときどきあの人無意識的に抱きしめてくることもあるけど、とっても暖くて寝心地もサイコーってミサカはミサカはあの夜を思い出しちゃってキャハッ!!」
打ち止めは何を思い出したのか知らないが顔を赤くして思わず手で覆った。
上条は改めて一方通行が重度のロリコンであることを認識して、そしてここは紳士な態度を崩さないでいこうと決め込んだ。
「あのな打ち止め、お前も見た目から言えば小学校の高学年に上がっていく年なんだぞ。
それなのに未だに誰かと一緒にいないと眠れないだなんて、自律が遅れてると思う。
俺や美琴なんかはお前よりも小さい頃に親元を離れて生活してきているんだし、
お前も一方通行にベッタリくっついているといつまでも一人前として見てもらえなくなるぞ。
今は少しずつでいいから付き添いがなくても寝れるようにしないとダメなんだ、わかったか?」
「そ、そっか、いつまでも男の人にくっついてちゃダメなんだねってミサカはミサカは噂の『説教』を浴びてなんだか共感してみたり」
「あの……でも、ミサカは――」
「まあそういうことだ。それに今夜は俺がいなくても美琴や御坂妹が一緒に寝てくれるから寂しいことはないと思うぞ」
「うん!!そんじゃ早速寝る準備しようよってミサカはミサカはベッドでピョンピョン!!!」
「そうはしゃぐなって、ベッドが壊れるだろ」
(ミサカはあなたと添い寝したかったのにとミサカは状況を考慮して発言を控えます……)
上条は納得したと思われる打ち止めが元気にはしゃいでいる姿を見て少し安堵した。ただ御坂妹はどこか不満そうに見えたが特に問題ないと思った。
寝る場所の問題が片づいたところで、上条は段ボール箱からゲコ太布団を取り出し始めた。
テープをはがして中の物を引っ張り出すと、店で見たときよりも大きく見えた。きっと目測を誤ったのだろう。
布団を広げてみてもリビングの4分の3を埋め尽くすぐらい大きかった。
「こりゃだいぶ大きかったな。美琴のやつ、ホントに持ち帰る気なのか?」
「それにしても布団の柄はとことんお姉さまの趣味ですねとミサカは大量のカエルを見てドン引きします」
「でもゲコ太って結構可愛いと思うし、いいんじゃないってミサカはミサカは布団の上でゴロゴロしてみたり!!」
「こら打ち止め、シーツも敷くからどいてどいて。御坂妹、そっちの端を持っててくれ」
「掴みましたよとミサカは報告します」
「じゃあ打ち止めはあっちの端を持って広げていってくれ。なるべくしわにならないようにな」
3人でシーツを広げて布団に被せたあと、毛布と羽毛掛け布団を広げて被せ、最後に枕を並べて寝る場所が整った。
すると脱衣所から湯上がりしたばかりの美琴が出てきた。布団に合うような緑のゲコ太を散りばめた子供っぽいパジャマ姿で、上条は普段の制服姿とのギャップに驚いた。
「キャー、ゲコ太だあああああ!!!私、今日からずっとここで寝よーっと!!」
「美琴さん……俺の部屋はお前のファンシーグッズ置き場じゃないんだからな。ちゃんと持ち帰ってくれよ」
「やはりレベル5は変人ばかりですねとミサカはお姉さまの徹底したセンスに驚きを隠せません」
「…ミサカも欲しいなあってミサカはミサカは指をくわえてみたり。あの人なら買ってもらえるかな…ってミサカはミサカは算段してみたり」
「ダメよん打ち止め♪アンタ、一方通行と喧嘩したんでしょ?ちゃんと頭下げに行かないと一方通行だって許してもらえないわよん♪」
先ほどまでの不機嫌そうな美琴さんはゲコ太にまみれてとてもご満悦のようだった。
時刻は午後9時を過ぎたところ。
寝る準備も整ったので上条は今日一日が終わるということに安堵のため息をついた。
「ふう~。じゃあ上条さんは風呂に入ってそのままバスタブで寝るからお前等もあんまり夜更かししないでさっさと寝ろよ」
上条がそう告げると今までゲコ太に浮かれていた美琴がピタッと動きを止めた。
そして上条の言ってる意味が分からないと言いたげな顔をして美琴が上条に迫った。
「はあ!?アンタ今どこで寝るって?」
「いや、居候が居たときのように風呂場で寝るって……」
「バカじゃないのアンタ!?だってあんな狭いとこで寝れる訳ないじゃない!!それにエアコンがあるわけでもないし、この季節だと寒さで死ぬわよ!!?」
「で、でも俺も他に毛布あるわけだし年越しまでなら何とか――」
「えーー!?アナタあんなとこで寝てたんだってミサカはミサカは大仰天!!
やっぱり貧乏人はたくましいのねってミサカはミサカはお金の大切さを実感してみたり!」
「ていうか貧乏というより不幸の上でこんなことになったというか――」
「ミサカ達タダで泊めてもらっている者達だけが部屋でノビノビと寝ていて良いはずがありませんとミサカは正論を述べます。
この際です、大きな布団もあるわけですし一緒に寝ましょうとミサカは提案します」
「おい!さっき俺が言ったことは完全無視ですか!?お前らと一緒だと精神衛生上マズ過ぎだろうが!!」
「いいじゃない!アンタだって疲れてるんでしょ。特別に許してあげるからこっちで寝なさいよ。
ただし、私を含めて誰かに手を出したらその場でハチの巣にするから覚悟しなさいよ」
「結局それですか……はあ、なんか、とっても……」
“不幸だ”という前に脱衣所へと逃げ込んだ。さすがにこんな女の園で寝ることを“不幸だ”などと言ったらその場で3人からの電撃を浴びる羽目になるだろう。
それにどうやらまだ今日という日はこのまま続きそうな気がしてならないので余計な体力は使いたくなかったのだ。
上条は風呂場で悶々としていた。このあとあの3人と一緒に寝るのかと想像したからだ。
素直に風呂から出て布団に寝ころんだところですぐには寝付けないと思うし、下手に動けば美琴の不興を買ってしまう。
逃げ場のない布団の中で超電磁砲を食らえば一晩どころか1ヶ月はベッドで横になっていなければならないだろう。
「どうやってこの状況を乗り切ればいいのか……
…ん?まてよ。……そうか!うるさい三姉妹にはとっとと寝てもらおう。
美琴さんだって打ち止めのことをちゃんと考えてそうだし、一時間ぐらい粘ればアイツらきっとグッスリだ。
俺も長湯でのぼせる訳にはいかないから脱衣所でじっとしてよーっと」
打開策を打ち出した上条は風呂から上がると早速脱衣所で御坂姉妹が寝るのを待ち始めた。
といってもただ脱衣所でボーっとしている訳ではない。上条は普段洗剤などをしまっている棚を開けると、中からマンガ本を取り出した。
いつもインデックスにベッドを奪われているとき、バスタブで寝てる上条はよく風呂場や脱衣所でマンガを読んでいる。
同居人が早めに寝るとき、あるいは同居人の怒りを買ってしまったとき、ここに隠れて本や雑誌、マンガを読んでいるのだ。
タオルで体の水気を拭き取って、戸棚を開けてマンガを探す。
いつもなぜかコンビニで既にボロボロになっているが、しっかりビニール袋に包んでいるので湿気でダメになっていることはなかった。
とはいっても、何度も読んでるマンガはサクサク読み進めてしまい、結局30分もつのがやっとだった。
仕方ないので上条はうるさい3人が夢の世界で遊んでいることを願いながらそっとドアを開けた。
そして上条は驚愕の光景を目にすることとなった。
「………………何してんだお前ら」
もしここに上条の友人である青髪の変態委員がいたらそれを“天国(パライソ)”とでも表現するかもしれない。
美琴のルームメイトであった変態風紀委員がいたらテレポートで身体に着ている全ての衣服を脱ぎ捨てそこに飛び込んでいったかもしれない。
そのぐらい強烈で官能的な光景が目の前に広がっていた。
「…なにと申されますとじゃれあいですとミサカは答えます。
強いて言いますとどちらがより女性的かどうかを測ってましたとミサカはさらに状況を詳しく説明します」
「あ、いや、その、べ、別にふ、深い意味はないわよ!!
ただこの子がいきなり胸見てニヤニヤしていて、それに打ち止めが『お姉さまよりもミサカ達の方がおっぱい大きいね』なんて言うから
『んなわけないでしょ!私の方がお姉さんなんだから』って言い返したら、
『言いましたねお姉さま』ってこの子が突然言ってきて、いきなり服を脱がして胸を揉みしだいてきて――」
「美琴さん、も、もういいから!!……その、まずはちゃんと服を着てくれませんか?今のあなた達正直“ヤバすぎ”ですよ?」
今の御坂姉妹は先ほどまでだいぶ暴れていたせいかパジャマが乱れていて、美琴や御坂妹は胸のあたりのボタンが全部外れていた(辛うじて乳房の部分はなんとか腕で押さえていたが)。
打ち止めに至ってはなぜかパジャマが脱ぎ捨てられていて下着しか着ていなかった。
「だってお姉さまが『打ち止めは私が10歳の時よりも小さいと思うけど、一方通行からちゃんとした食事されてるの?』って言ってくるからって
ミサカはミサカは証明しようと身体を突き出して――」
「だああああ!!違うでしょ打ち止め!!私はただもう少し身長が足りてないんじゃないかと思って言っただけで、胸とかウエストのことじゃない!!!」
「なあああんでもいいからお前らとっとと服をちゃんと着ろ!!!ここは俺の家だぞ!!少しは自重した行動をしてくれえええ!!!!」
結局上条の作戦はあっけなく失敗した。こんな賑やかな三姉妹がそう簡単に寝ることなんてある訳ないのだ。
自分の計画が崩された上条は、男の部屋であまりに自重しない3人に対してイライラとムラムラが頂点に達した。
そして上条は、ロシアでしつこく露出してきた少女の時と同じように恐怖のお説教をグチグチすることとなった。
午後11時
上条は得意の説教をノンストップで続けていったのでさすがに喉が乾いてしまった。
台所まで行き、コップに水を注ぎ込んで喉を潤す。上条がそうしてる間、三姉妹は身も心も疲れ果ててしまい布団に突っ伏していた。
「こ、これがお説教……ど、どうしてこんなに話が続くのってみ、ミサカはミサカは半泣きしてみたり……」
「こ、これほど心を抉りとるようなものだったとは、ミサカも甘く考え過ぎでしたとミサカは長時間の正座で足が痺れてしまいました…いたた…」
「あ、アンタたちが悪いのよ。いつまでも寝ないではしゃぎまくるから、私までとばっちり受けたじゃない…」
美琴の言葉に反論したかった御坂妹と打ち止めであったが、その気力もなくなってしまい聞き流すぐらいしかできなかった。
しばらくして上条が戻ってきたので、ようやく寝ることとなった。
「そんじゃ、寝るとすっか。そういえば寝る場所決めたのか、お前ら?」
「私はこの布団で寝るの!私のなんだし当然じゃない!」
「そっか。んじゃあ御坂妹は?」
「私はいつもベッドで寝ているので、慣れない布団よりベッドで寝たいですとミサカは希望します」
「ん~~、じゃあ俺と打ち止めは布団かな?この布団結構大きいし三人でも余裕だろ」
「ちょっと、ミサカも布団よりベッドで寝たい!ってミサカはミサカは勝手に決めようとするアナタに憤慨してみたり!!」
「いや、だってさ、どうみても布団よりベッドの方が小さいだろ。打ち止めはまだ小さいし、ベッドより布団の方が寝やすいだろ」
布団とベッドの大きさは大体2:1の割合である。ただ、ベッドには御坂妹だけでもまだゆとりがあるので打ち止めぐらいなら一緒に寝れそうである。
「だってそっちのベッドの方が寝心地良さそうなんだもんってミサカはミサカはふかふかの掛け布団が気に入ってみたり」
「う~ん、なら、打ち止めはそっちのベッドにする――」
「待ってください!ミサカの意見も聞いてくださいとミサカはスルーされ気味になっていることに不満になりつつ、提案します!」
御坂妹がそこで待ったをかけた。
「このクソガ……もとい、上位個体は絶対にミサカの安眠を妨害するはずですとミサカは予測します。
よってミサカはその被害を受けたくないのでやっぱり布団で寝ますとミサカはしぶしぶ方針を転換します」
「ちょ、ちょっと!!アンタね、打ち止めと一緒に寝なさいよ!!そっちのベッドだってまだ余裕があるんだし、アンタだってベッドがいいって言ったじゃない!」
「いいえ、よくよく考えてみたらお姉さまと上条さんが一緒に寝ますと上条さんの安眠も妨害されるとミサカは今までのお姉さまの行動パターンより予測します。
そこでミサカが間に入れば危険な電撃を防ぐことができるはずですとミサカは枕を移しながらお姉さまと上条さんの間に割り込みます」
御坂妹は素早く枕を美琴と上条の間に並べた。しかもできる限り上条の枕のそばに寄せて美琴との距離を置くようにずらした。
美琴は再び不機嫌な顔に戻ってしまい、猛烈に反論し始めた。
「ああああ、アンタはラブラブカップルでもないのに枕を並べてんじゃねええええ!!そんなにくっついたら何されるかわかったもんじゃないんだからやめなさい!!
大体アンタは私と同じ乙女なんだから、もう少し恥ずかしくないような行動してよ!!!」
「(お前は乙女には程遠い小娘だけどな)……あー、そんなに御坂妹とくっつくのがイヤなら俺は別にどこでも寝れるからさ、やっぱり風呂場に――」
「「それはダメ!!!!(とミサカは即答します)」」
「………はい」
睨み合って喧嘩するぐらいなら抜けると気を利かせたつもりの上条であったが逆に二人から同時に怒鳴られてしまった。
上条が理解できないところで繰り広げられる乙女(?)の戦いは次第に熾烈になってきた。
これ以上続いたらホントに眠れなくなると察した上条は苦し紛れにこんな提案をした。
「じゃ、じゃあさ、こういうのはどうだ?俺が美琴と御坂妹の間に寝る。
不安ならこのクッションを境界線にしておけばいいだろ。そしたら美琴も御坂妹も文句ないだろ?」
「「………………」」
美琴と御坂妹はじっと上条の顔を見つめた。
いつかの偽デートの時のホットドックを見比べるようにして二人は真剣に見定めていたのだ。
そして、何か不満そうな顔をしながら美琴が口を開いた。
「はあ……、まあ、アンタらしい意見よね。じゃあそれでいいわよ。アンタもそれでいいわよね?」
「この状況に置いて最善の選択でしょうとミサカは解せぬところもありますが上条さんの意見に従います」
「??……まあ、とにかく決定だな。じゃあ、クッション持ってくるから枕並び換えておけよな」
上条はあるだけのクッションや座布団をかき集め始めた。美琴と御坂妹は枕を等間隔に並べ直した。
そして御坂妹は美琴にこう呟いた。
「一緒に寝たいのなら素直にそう言えばいいじゃないですかとミサカは相変わらずのお姉さまのツンツンに苛立ちを感じます」
「私はいつだって素直に生きてるわよ!ただアンタが恥じらいを知らな過ぎてるから言ってんのよ!!
大体そんな恋人でもないのに…くっついちゃったら……恥ずかしいじゃない……」
「ならいっそのこと恋人になればいいではないですかとミサカは提案しますが…」
「………もう寝なさい。アンタ明日病院行って他のみんなに謝らなきゃいけないんだから体の調子落とさないように早く寝ないとね?」
「……はい、お姉さまとミサカは布団に潜り込みます」
わかってる。結局素直になれてない。ただの片想いなんだ。
美琴は心の中で御坂妹の言いたいことにそう返事をした。
上条が部屋のあちこちでかき集めたクッションや座布団で三等分にされたゲコ太布団が準備できた。
「さてと、じゃあ電気消すぞ。打ち止め、トイレ行ったか?」
「むう~~、あなたでさえもいつまでもミサカのこと子供扱いするぅ~ってミサカはミサカはおねしょなんかしたことないって抗議してみる!!!」
「いや、おねしょのことよりも夜中に一人でトイレに行けないんじゃないかと思って言ったんだが……」
「はいはい、打ち止めももういいでしょ。早く寝なさいよね」
「じゃあ改めて電気消すぞー。いいなー?」
「おっけーですとミサカは布団に潜りながら返事します」
パチッ
上条が電気のスイッチに手をかけると今まで明るかった部屋が一瞬で真っ暗となり、カーテンから差し込む月明かりだけとなった。
「うわーん、こわーいってミサカはミサカは真っ暗で何も見えな~い!!」
「あれ、打ち止めって真っ暗は苦手か?」
「だっていつもは少し明るくして寝るからってミサカはミサカは言い訳してみる…」
「そういえば私もよく黒子が風紀委員の書類で夜遅くまで仕事してるからあんまり真っ暗の中で寝たことないわね」
「ミサカは病院内が一斉に消灯しますので暗闇には慣れてますとミサカは語ります。
ただ布団で寝たことがないのでこのような感覚は新鮮ですとミサカは病院のベッドと比べてみます」
「そうよね。布団で寝たこと私だってあまりないからドキドキするわ。
でもアンタは明日は病院のベッドで寝なさいよ。ほかの子達だって心配してるんだから、明日ちゃんと謝って妹達の所に帰んなさい」
「わかりましたとミサカはお姉さまの言葉を受け入れます……」
御坂妹がそう答えるとみんな黙ってしまった。先ほどの喧噪とはうってかわって水を打ったような静寂が部屋を支配した。
やがてベッドの上から微かな寝息をたてる打ち止めの呼吸が聞こえた。
布団からベッドの上の様子を見ることはできないが、耳を澄ませてみるとその安らかな呼吸の音によって可愛い寝顔が想像できた。
上条はそんな打ち止めの寝顔を想像して熟睡したと判断し、自分も寝ようと瞼を閉じようとしていた。
すると突然左の方から上条を呼びかける小さな声がした。
「……上条さん、上条さんとミサカは起きているかどうか確認をとります」
「んあ………御坂妹?……お前まだ起きてたのか?」ネムー
「寝ていたのなら起こしてしまい申し訳ありませんとミサカは謝罪します。……あの…実は、その…」
「俺はまだ起きてたから平気だよ。それでどうしたんだ?具合でも悪いのか?」
暗くてはっきりと彼女の表情を捉えられないが、こちらを向いて何か困惑しているような感じであった。
「健康状態は良好ですとミサカは答えます。実は相談がしたいのですとミサカは要望します」
「相談?何だよ一体?」
「やっぱり不安なのですとミサカは話し始めます。
明日他の妹達に謝って許してもらえるかどうか、そして今まで通りの輪の中(ネットワーク)に戻れるかどうかとミサカは不安要素を述べあげます」
「う~ん、昼間にも言った通りお前が反省してて、その気持ちが妹達にちゃんと伝わればあいつらだってわかってくれると思うけどな」
「で、ですが、私は19090号に冷たくしてしまいました。
それに帰ったとしても私が他の妹達よりもあなた方に接している機会が多いのは変わりません。
だから、もしかすると他の妹達からずっと妬まれるかもしれないのですとミサカは怯えます。私は…これからどうすれば……とミサカは……」
御坂妹の声はわずかに震えていた。暗くてわからないがもしかすると泣いているかもしれない。
昼間の時点で自分の非を認めた10032号であったのだが、また元のミサカネットワークの中に戻れるのか、
そして喧嘩の原因となった19090号と仲直りができるかどうか、不安でたまらなかったようだった。
上条はそんな御坂妹の気持ちをしっかりと捉えきれていなかった。
だから、時折布団の中から鼻を啜る音をたてる御坂妹に何を言うか戸惑ってしまっていた。
「……まったくうっさいわね、アンタ達」
突然、上条の右隣から声が聞こえた。そして布団から起きあがるような音がすると、御坂美琴が御坂妹の枕元まで歩いてきた。
最初は不機嫌そうな声を出していた美琴は御坂妹のそばに行き、御坂妹を起こすと優しい口調に切り替えて話し始めた。
「アンタねえ、昼間の時からずっとイジイジしすぎなのよ。だからもっとシャキッとしなさい、シャキッと」
「お姉さま……」
美琴は涙で目を潤ませている御坂妹を抱きしめていた。御坂妹の顔を自分のパジャマに押しつけて、優しく頭を撫でる美琴。
それはまるで自分の子供をあやすような母親に見えた。
「大体みんな私のクローンなのよ。私がそんな誰かのことを妬んだりしたことあると思う?」
「……いいえ、ないとミサカは思います」
「なら心配ないじゃない。みんなアンタが正直になって謝れば分かってくれるよ。
それにさ、私はアンタ達が仲良く幸せでいて欲しいからさ、そんなにクヨクヨしないで胸を張ってちょうだい。いいわね?」
「…はい、ただミサカはお姉さまのクローンなので張るほど胸はありませんがとミサカはあいたっ」
御坂妹が返事をしてると美琴のチョップが頭に当たった。胸の話題はタブーのようだ。
「まったく、この妹は……さっ、もう寝なさい。冗談も言えるようならもう大丈夫よね?」
「………最後のは冗談だったのか?お前、中学生だし見た目からして全然胸なんてあべべべべべべべべべべべえべ!!!!!」
「ええい!もう黙れバカ!!さっさと寝ろ!!」
さすがの上条も不意打ち気味に飛んできた電撃を避けることはできなかった。右手も間に合わなかったので全身ビリビリされて動けなくなった。
「kcw涙rdjscdhbwcd(御坂さん、あんまりですよ)……」
「何言ってるか分かりませんとミサカはついに言葉までなくした上条さんを見下します」
「どっかの天使の言葉でも使ってんじゃないの?このふぁあかは」
「眠そうですね、お姉さまとミサカは気遣ってみます」
「アンタね、もう日付変わってるのよ。さっさと寝なさいよ」
「お姉さま、こっち見てくださいとミサカは呼びかけます」
「なによ………ってアンタは~~~!!!」
美琴が見たのは境界線を大きくはみ出して上条の左腕にくっついている御坂妹であった。そのオリジナルを元にした慎ましい胸を押しつけるように腕にしがみついていたのだ。
「こうしてると自然に安らかな気持ちになって寝心地いいですよとミサカは見せびらかします」
「もう!いい加減にしなさいよ!!そんなことしてコイツに何されるか分からないわよ!!」
「大丈夫ですよ。先ほどの電撃で気を失っているし、痺れて動ける感じではありませんからとミサカは安全性を保証します。
お姉さまもどうです?抱きついてみたらとミサカは素直じゃないお姉さまを誘ってみます」
「~~~~!!!アンタってやつは~~!!もう分かったわよ!だ、抱きつけばいいんでしょ。抱きつけば………」
美琴は意を決して境界線をまたいで上条の右隣についた。そしてドキドキしながら上条の右腕にしがみついてみた。
普段から右手を出して様々な能力を打ち消してきた右腕。それはがっちりとしていて、所々に傷があるけど、なぜか頼りがいがあって自然と落ち着けた。
次第に美琴の意識もうつらうつらとなってきた。御坂妹は既に体全体を上条に寄せて気持ちよさそうに寝ていた。
(もう、あの子ったらアンナに抱きしめて……まあ、今日はもういっか。それよりコイツって結構暖かいなー。いい匂いもするし、もうちょっと抱いてみようかな)
美琴としては遠慮しているつもりだが、もはや体は家に置いてあるきるぐまーと同じように抱きしめていた。
(なんか今日一日でだいぶ疲れたなー。明日からもコイツと一緒に生活するのよね……。まあ居心地いいし、コイツと一緒なら悪くないかも…。おやすみ……)
美琴は誰に告げるという訳ではないが心の中でそう呟き、目を閉じて意識を落とした。時折モゾモゾと上条の方へ身を寄せて、顔を無意識に上条の頭に近づけていった。
年の瀬の冷たい風が吹き抜ける学園都市。
その第7学区に位置している学生アパートに同じ顔した3人の少女は寒さに凍えることなく満足そうに寝ていた。
家出して行き場のなくなった少女達は最も心安らぐ場所を得てとにかく幸せであった。