とある魔術の禁書目録 自作ss保管庫

Part16

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海に行こう☆☆


本拠地に戻ってきた三人は、パラソルの下で休憩していた当麻、その隣にちゃっかり座っている19090号、いつの間にか戻ってきていた御坂妹と合流し、彼等を太陽の下に引きずり出すと大きな輪を作り、ビーチボールで遊び始める。

「それ!」
「っと、御坂妹」
「このくらい余裕です、とミサカ10032号は番外個体にパスをします」
「そっちのミサカ~」
「きちんと検体番号で呼んで下さい、とミサカ19090号は番外個体の適当さにムッとしつつ10039号にボールを回します」
「お姉様、どうぞ、とミサカ10039号はお姉様にパスをします」

 互いに声を掛け合い、緩やかにビーチボールを回していく六人。
 元々運動神経がずば抜けている彼等は、全く危なげない動きで次々と綺麗なアーチを描いていくのだが、

「……、……!」

 むぅ、と何かを考えるような顔をしていた10039号が突如何かを閃き、その口元を少しだけ上げる。
 どうやら彼女は、ビーチボールを回すだけでは物足りなくなってしまい、この場に新たな動きを与えるべく、思考を巡らせていたようだ。

(さて、これでどうなるかは分かりませんが…、最悪……、まあその時は大人しく処刑されるとしましょう)

 何やら覚悟を決めた10039号は、美琴に向けてビーチボールを返す。
 その軌道は彼女の右方向に逸れていくが、

「っと!」

 美琴は横っ飛びをしてそれを拾う。

「お?良く拾ったね。さすがお姉様ってところかな?」
「結構ギリギリだったけどね」

 パンパンと体についた砂を軽く落とし、苦笑いをしながら答える美琴。
 すると、

「お姉様、パスです、とミサカ10039号は体勢が整っていないお姉様に容赦なくパスをしてみます」

 今度は大きく左方向に飛んでいくビーチボール。

「ちょ!?………そりゃぁぁああ!」

 美琴は瞬間的に駆け出し、思いっきり飛びつく。
 すると、ズサァー!という砂を擦る音が聞こえ、ビーチボールが空中に舞い上がる。

「おお!それも拾いますか、とミサカ10032号は驚愕を顕にします」
「おいおい、いくら砂浜っていっても、あんまり無茶な事すんなよ?」
「大丈夫よこれ位」

 立ち上がった美琴は笑顔でそう返すと、10039号に向き直り、どんなもんよ?と言わんばかりの表情を向け、もっと来いと言わんばかりに手を動かして彼女を挑発する。

「カッチーン、とミサカ10039号はお姉様の挑発に乗ってみます」

 口ではそう言うものの、10039号にとってこの展開は願ったり叶ったりといった所だ。
 何故なら、彼女がもっと来いと挑発したという事は、主導権を握ったという事なのだから。

(フフフ…この状況なら何処を狙おうがお姉様は拾いに来ますね、とミサカは怒った表情を作りつつ内心でほくそ笑みます。
 さて、何処に落としましょうか…、とミサカ10039号は狙いを絞りつつこの先の展開を予測します)

 この状況が楽しくてたまらない10039号は、狙う位置によって彼女がどのような行動を取るのかイメージすると、その中から『当麻』が見たそうなものを選ぶ。
 そして…

「…そこです、とミサカ10039号はお姉様の後方を狙います」
「…!」

 美琴は瞬間的に反応すると、自身の後方に向かって放たれたボールの軌道を予測し、下がりながらジャンプをしようとするが、

「どうでも良いけど、水着って事忘れてない?あんまり調子に乗ってるとお義兄様の前で晒す事になるかもよ?」
「ふぇ!?…わ、わわ!?」
「美琴!」

 番外個体の発言を聞いた美琴は、ジャンプすることを瞬間的に躊躇い、そのままバランスを崩して尻餅をついてしまった。

「いたた…。ちょっと、突然変なこと言わないでよね」
「なんだよー、折角親切で言ってやったのに」

 それとも晒したかったのかよ?と番外個体が不満げにそう返していると、美琴の前にスッと手が差し出される。

「美琴、大丈夫か?」
「…あ、うん、大丈夫。ありがと」

 差し出されたその手をしっかりと握り、彼に引っ張られるように立ち上がる美琴。

「うぅー、砂が…」

 お尻に付いた砂を払い、少しずれてしまった水着に指を入れて直す美琴。
 それを正面で見ていた当麻はスッと視線を逸らすのだが、それを妹達が見逃す筈もなく… 

「お義兄様、顔が赤いようですが、どうかされましたか?とミサカ10039号は分かりきったことを白々しく聞いてみます」

 番外個体が余計な事を言った所為で自分の計画は破綻してしまったが、それよりも面白い事になった!と考える10039号はニヤニヤしながら当麻にそう話しかける。
 すると、当麻は一瞬ビクッとしてから、

「べ、別に何にもないですよ?」

 と、直感的にマズイと感じた当麻は、逃げるように妹達の面々から視線を逸らす。
 その反応に益々テンションの上がった妹達は、彼を追い詰めにかかる。

「嘘はいけませんね、とミサカ10032号はお姉様の不意打ちを食らってドキドキしているお義兄様にニヤニヤが止まりません」
「ふーん、お義兄様はそういうのが好みか。じゃ、たまにはミサカがサービスしてあげようか?」
「いえ、ここはミサカがやりましょう、とミサカ10039号はしゃしゃり出てみます」
「む!また抜け駆けですか!?とミサカ10032号は10039号を睨みつけつつもなんとなく流れが分かったのでノッてみる事にします」
「み、ミサカは……」

 怪しげな笑みを浮かべながら右手の指を目の前で遊ばせる番外個体と二人の妹達。
 19090号だけは少し恥ずかしげにしていたが、意を決したように右手の指を当麻に見せ付けるように遊ばせると、

「だぁぁあああ待てお前等!!ストップ!マジでストップ!!」

 この後、妹達が何をしてくるか理解した当麻が、大慌てで彼女達を止めようと動くのだが、

「遅い遅い、そんなんじゃミサカ達を止めるなんて無理だよ?」
「こっちです、とミサカ10032号はお義兄様を誘導します」
「おや?10032号を止めに行くというのならやはりミサカが、とミサカ10039号はニヤリと薄ら笑みを浮かべます」
「こっちには見向きもしないというのはどういうことでしょうか?とミサカ19090号は自身の魅力の無さにしょんぼりします」

 あっちを追えばこっちが挑発、といった感じでひらひらと逃げ回る四人に翻弄され、右往左往する当麻。
 そんな光景を目にした美琴は、

「何やってんのあんた等?」
「何でもない!何でもないから!!」

 水着の修正を無自覚で行った美琴は、彼等がどうして走り回っているのか全く理解できていないようだ。 
 そんな彼女に適当な返事をした当麻は、逃げ回る四人をひたすら追いかける。

「鬼さんこっちら~」
「ミサカを捕まえてみてください、とミサカ10032号は挑発を繰り返します」
「そんな無駄な動きが多くてはミサカを捕らえる事は出来ません。まずは一人に絞ってみてはどうでしょう?とミサカ10039号はアドバイスを送ってみます」
「一人に絞った所でミサカは捉えられませんよ?とミサカ19090号は絶妙な距離を保ちつつ後退します」

 完全に遊ばれてしまっている当麻だが、楽しそうに逃げ回る四人を見ると、

「馬鹿にしやがって~…。いい加減上条さんも本気出しますよ?」

 いっちょやってやるか!といった様子で妹達の挑発に乗り、持ち前の反射神経を生かして、妹達を追いかけ始める。

「おお!?中々素早いですね!?とミサカ19090号はお義兄様の本気に驚愕します」
「ですが、まだまだです!とミサカ10032号はちょっぴり本気を出します」
「ミサカは余裕~っと、こっちこっち~」
「くっそ!ちょろちょろと!」

 四人はギリギリの所で当麻の手をかわして距離を取り、その隙に別の妹達が接近するといった事を繰り返して当麻を挑発する。 
 そして、そんな事を暫らくやっていると、10039号が不意にその動きを止める。
 当麻はその動きが気になり、彼女の見ている方向へ視線を送ると、そこにはビーチボールを抱きながら、ぼーっと立っている美琴がいた。

(…美琴?)

 当麻はどうしたんだろう?と思いつつも、美琴に向かって大きく手を振る。

「おーい、そんな所で突っ立ってないで、美琴もこっち来いよ~」 
「…全くこの男は……まあ良いでしょう、とミサカ10039号半ば呆れつつもこんなもんかと納得します」

 会話の流れが分からずに混ざれるわけねーだろ、と呆れ顔で溜め息を付いた10039号は、一人立ち尽くす美琴に近付き、声をかける。

「お姉様も一緒に『鬼ごっこ』をしませんか?とミサカ10039号は誘ってみます」
「え?あ、う、うん」

 10039号が美琴の手を引こうと手を掴んだ時、御坂妹と番外個体が10039号の後ろからぬっと顔を出す。

「折角なのでそのビーチボールを使いましょう、とミサカ10032号は新たなルールを提案します」
「それいいね、じゃ、お姉様が『鬼』って事で」
「え?え?」

 まるで付いて来れずに頭に疑問符を浮かべている美琴から、ひょいっとビーチボールを奪った10039号は、

「では早速始めましょう、とミサカ10039号は促します」

 そう言いながら、美琴の顔目掛けてビーチボールを軽く投げると、彼女にぽむっと当たり、ビーチボールが砂浜に転がる。

「ちょっと、いきなり何すんのよ!」
「はっはっはっ、普段から能力に頼りきりのお姉様がミサカにボールを当てるなど不可能です、とミサカ10039号はお姉様を挑発しつつ逃げ出します」

 一目散に逃げる10039号に気を取られていると、更にぽむっと頭にビーチボールが当てられる。

「鬼、とミサカ10032号はドヤ顔で挑発しつつ退避します」
「ま、普段から電撃撒き散らしてるから鬼って言っても、全然違和感無いんだけどねー!きゃははは!」

 颯爽と逃げ出した三人に呆気を取られた美琴だったが、転がっていたビーチボールを拾うと、ふっと薄く笑みを浮かべる。

(全く、気の遣い方が露骨過ぎるのよ…でも、ありがと)

 結局何の話で盛り上がっていたのかは分からなかったが、彼女達の気遣いを感じ取った美琴は、心の中でそう呟くと、その表情をニヤリとしたものに替えて、

「上等!やってやろうじゃない!この美琴サマに喧嘩売ったことを後悔させてやるんだから!当麻も、そっちの妹も覚悟しなさいよ!」

 ビシィ!っと右手の人差し指で五人を指差した美琴は砂浜を駆け始める。

「げ!何で俺達まで!?」
「非常に理不尽ですがこれはこれで面白そうですね、とミサカ19090号は急接近してくるお姉様から冷静に距離を取ります」  
「これでも!食らえぇぇええ!!」

 ブン!っと勢い良く投げられたビーチボールが10032号目掛けて飛んでいくが、

「…!!甘いです!とミサカ10032号は緊急回避します!」
「あ!くっそ!中々やるわね!!」

 思いの他、風の抵抗で勢いが落ちてしまった事もあり、御坂妹にかわされてしまったが、ボールを拾うと、再度駆け出す。

「それ!」
「おっと、危ない危ない。もう少しで当たっちゃう所だったよー」
「く!何かむかつくわね!」

 棒読みの台詞にイラッときた美琴は、

「それ!」
「あ、くそぅ!」
「ちょこまかと鬱陶しいわね!!」
「むかつく~!」

 次々と狙っていくが、その全てがギリギリの所でかわされてしまう。

「お姉様の力はその程度ですか?とミサカ10032号はちょっぴりがっかりします」
「これも訓練の賜物ですね、とミサカ10039号は無い胸を張ってみますが…、……、自分で言ってショックを受けます」
「ミサカ達の勝利ですねとミサカ19090号は勝利に酔いしれます」
「う~ん、もう少し楽しめると思ったんだけどな~」
「あの~、俺、さっきから狙われてすらいないんだけど…」
「…あんた等、随分好き勝手言ってくれるわね…」
(…とは言え、このまま闇雲に続けてもこの子達は避けるわね。普段から訓練してる所為か、能力を使わない状態での動きだけなら私より上かも。…でも当麻を狙うのは何か悔しいし…)

 美琴は改めて妹達の立っている場所を見渡す。

(…一応遊びって事で、ある程度以上の距離は取らないみたいね。それに、誰かを狙うと、必ず他の子が接近してくる…)

 自分をおちょくってるのか、スリルを味わっているのかは分からないが、それらを逆手に取ってやろうと考えた美琴は、

「ちょっと本気出させてもらうわ…よ!」

 ダッ!!っと正面にいる御坂妹を目掛けて走り出し、瞬く間にその距離を詰め、ビーチボールを構える。

「なっ!?」
「もらった!」
「…っ!甘いです!とミサカ10032号は回避行動を取るべくお姉様の動きを冷静に分析します!」
「…っと見せかけて!」

 突如動きを止めた美琴は、自身の背後二メートル付近まで接近していた10039号に対し、振り向きながらビーチボールを投げる。

「…っ!」

 突然狙いが移った事と、美琴の速さに焦って付いて行っていた10039号は反応が一瞬遅れる。
 それでも体を強引に捻ってかわそうとしたが、あまりにも素早く投げられたビーチボールは彼女の左腕に当たる。

「…あう、当たってしまいました、とミサカ10039号は避けきれなかった事にショックを受けます」
「ふふーん、ま、この私がやる気出せばこんなもんよ」
「まだまだ修行不足ですね、とミサカ10039号は己の未熟さにしょんぼりしながらも鬼の中の鬼になることを心に誓います」

 いくぞー!と言わんばかりにビーチボールを高々と掲げた10039号は、ギラギラと目を光らせながら狩りを始める。

「まずは小手調べです!とミサカ10039号はお義兄様に向かってビーチボールを投げつけます!」

 ブン!と投げられたビーチボールは真っ直ぐ当麻を目掛けて飛んで行く。

「このくらい余裕余裕」

 目を瞑り、ボールの軌道上から回避するが、その瞬間、サァァ…っと浜風が吹き、ビーチボールの軌道が僅かに変わり…

「おぶっ!」

 そのまま顔面にヒットして、砂浜にぽとりと落ちる。
 そして、暫しの静寂の後、

「おいおい、もう終わりかよ、とミサカ10039号はあまりの出来事に衝撃を受けます」
「ちょっとー、何やってんのよー」
「いや待て!今のは違うんだ!」
「今、自ら当たりに行きませんでしたか?とミサカ19090号は鼻で笑います」
「普通に考えて今のは有り得ないね」
「ぶふぃー、とミサカ10032号は瞬殺されたお義兄様に思わず噴出します」
「……、…ひでぇ言われ様だな…」

 やれやれといった表情を浮かべる女性陣を見た当麻はそう呟くと、ビーチボールを拾い、顔を上げる。

「くっそー、お前等覚悟しろよー、好き勝手言ってくれたことを後悔させてやる」
「その台詞が既に負けフラグよね~。当麻が私達に当てれる訳ないじゃん」
「そうですね、とミサカ10032号は激しく同意します」
「まずはお手並み拝見っと」
「言ってろ…よ!」

 ダッ!っと本気モードになった当麻が五人に向かって走り出し、逃げ回る彼女達を追い回し始める。

「きゃー、お義兄様が怖いですー、とミサカ10039号は危機感を醸し出しつつ逃げ惑います」
「あんた相変わらず適当よね。つか、そんなんでよくかわせるわね」

 両手を挙げた状態で、当麻の攻撃をあっさり避ける10039号に思わずツッコミを入れる美琴。

「そりゃ、ミサカ達には電磁波センサーがあるからね。それに、投げる時にあれだけ無駄があったら余裕で避けれるって」
「ちょっと、遊びで能力使うってずるくない?」
「お姉様に言われたくありませんね、とミサカ19090号は先程のお姉様の所業について指摘します」
「…やっぱりバレてた?」
「当然です。しかも、ミサカに接近する時は、移動速度まで上がってましたね、とミサカ10032号はやりすぎだろと内心で愚痴ります」
「いいでしょ?これは私の力なんだから。そんなに言うならあんた達も身に付ければ良いのよ」
「それもそうですね。では、そちらも後日教えて下さい、とミサカ10039号はあの能力いいなぁと羨望の眼差しを向けます」
「はいはい、心配しなくてもちゃんと教えてあげるわよ」

 その言葉にぱぁぁっと表情を明るくした(ような気がする)10039号は、

「さすがはミコト先生。大好きです。一生付いていきます、とミサカは溢れんばかりの喜びを全身で表現します」
「棒読みで言われてもねぇ…。ま、悪い気はしないけど」

 素っ気なく返す美琴だが、10039号の言葉が嬉しかったのか、その顔は少し笑っている。
 だが、そんな彼女に御坂妹が首を傾げながら、

「…?お姉様?何の話ですか?とミサカ10032号は二人の会話が理解できずに問いかけてみます」
「ん?…あぁ、この子が強くなりたいって言うから、私が講師をするって話よ」
「…な!?」

 美琴の言葉を聞いた御坂妹と19090号は、くるくる回りながら当麻の攻撃を避けている10039号をキッ!っと睨みつけると、

「この野郎!また抜け駆けですか!?とミサカ10032号は勝手な行動をする10039号を糾弾します!」
「あなたは自重という言葉を知りなさい!とミサカ19090号は憤りを隠しきれずに声を荒げます!」

 またしても一人だけ良い思いをしようとする彼女に怒りをぶつけるのだが、当の本人は完全に知らん顔をしている。
 その様子にぐぬぬ…と更なる怒りを燃やす二人に番外個体が、

「ま、そのミサカは妹達の中でもレベルアップに熱心な方だからね、それくらい目を瞑ってあげたら?」
「努力は認めますが、それとこれとは話が別です!とミサカ10032号は裏切り者を睨みつけます!」
「そうです!大体あのミサカはいつも独断で行動しすぎなのです!とミサカ19090号は10039号の素行について厳しく批判します!」

 ぎゃあぎゃあと騒ぎ出す二人に番外個体は心底迷惑そうな顔をすると、

「だーうるさい!あんまり駄々こねるならミサカが相手になってやろうじゃん!」
「ちょっとあんた達!喧嘩はやめなさい!」
「ですが、10039号ばかり特別扱いされてはミサカ達の立場がありません、とミサカ19090号は少し寂しげに語ります」

 19090号の言葉に、何でこうなるのよ…と溜め息を付いた美琴は、事態の収拾を図るべく彼女達に言葉をかける。

「別に特別扱いしてるわけじゃ無いって。あの子を介して、あんた達にも教えた内容は伝わるでしょ?
 それに、あの子はしっかりしてるあんた達と違って、危なっかしい所があるから、ちゃんと見てないと駄目なのよ。
 そう言う意味では、あんた達の方を信頼してるから、そんなに怒んないでよ、ね?」
「…ミサカは信頼されてないのですね…、とミサカ10039号は超ショックを隠しきれずに落ち込みます」
「あーもう!話がややこしくなるからあんたは少し黙ってなさい!」

 肩を落とす10039号にそう言い放った美琴は、二人に向き直ると言葉を続ける。

「…そう言う訳だから、ここは私に免じて許してあげてくれないかな?」
「……むぅぅ……分かりました。お姉様がそう言うのでしたら仕方がありません、とミサカ10032号は渋々引き下がる事にします」
「10039号、お姉様に感謝することです、とミサカ19090号は10039号に吐き捨てます」

 当然納得など出来ていない二人だが、これ以上揉めて彼女を困らせるのは良くないと判断し、大人しく従う事にしたようだ。

「…全く、お姉様はそのミサカに甘すぎです、とミサカ19090号は問題児を甘やかすとろくな事ないぜと注意喚起をします」
「分かってるわよ。だから私が『教育』するって言ってんの」
「…!?」
「…ひっ!」

 ニヤリと黒い笑みを浮べた美琴の表情を見た二人は、昨晩の説教(全妹達に公開済)を思い出し、背筋に冷たい物を感じた為、逃げように彼女から意識を外す。
 多少強引な方法だったとはいえ、なんとか事態の収拾がついた事に一息付いた美琴は、

(はぁ…私が何かする度にこんな風になっちゃうなら、この子達との接し方も少し考える必要がありそうね…)

 と、事ある毎に喧嘩を始める妹に頭を痛めていると、突然その顔にぼむっ!っとビーチボールが当てられる。

「あ…」
「あーあ、やっちゃった。知ーらないっと」
「やれやれ、無防備なお姉様を狙うとは外道ですね、とミサカ10039号は心底呆れ果てます」
「今のお姉様にあんな事をするとは…とミサカ19090号は無言で震えているお姉様の不気味さに怯えます」
「ここは逃げた方が得策かもしれません、とミサカ10032号は震えながら後ずさりします」
「お姉様に恨みでもあるのでしょうか?とミサカ10039号は顔面にぶち当てたお義兄様の行動について推測します」
「違っ!今のは事故であってわざとじゃないんだ!」

 そう、当麻は決してわざと当てた訳ではない。
 彼は先程からビーチボールを当てようと奔走していたのだが、何事もないかのように会話をしながら避ける彼女達に成す術がなかった。
 その為、半分諦めつつやけくそ気味にブン投げた一投が、丁度立ち止まって考え事を始めた美琴の顔面に当たってしまったというのが真相だ。

「ふ、ふふ…」
「み、美琴?」

 俯いたままワナワナと震えている美琴に当麻が恐る恐る話しかけると、彼女が顔を上げて当麻を睨みつける。

「事故?わざとじゃない?……乙女の顔に思いっ切り当てておいて謝りもしないのかアンタは―――!!」
「だぁぁああ!?ごめんなさい――!?」
「こらぁ!逃げんなぁ――!」

 美琴が怒ってしまったのを理解した当麻は、彼女に背を向けて逃げ出す。
 すると、当麻のその態度が気に食わなかった美琴は、ビーチボールを拾って彼の背中を追いかける。
 そして、ぎゃあぎゃあと喚き散らしながら追いかけっこをする事数分……

「ふっふっふ…、さーて、覚悟は良いかしら?」

 浅瀬で足を取られて転んでしまった当麻にそう告げた美琴は、ビーチボールを構える。

「ま、待て!話せば分かる!」
「問答無用!これでも食らえぇ!」

 さっきの仕返しといわんばかりに当麻の顔にビーチボールを投げつけた美琴は、拾っては投げ、拾っては投げを繰り返す。

「タンマ!ちょっとタンマ!」
「それ!それぇ!」
「くっ…、いい加減に…しろ!」

 顔面をガードして攻撃を耐えていた当麻は、彼女の隙を突いてパシャリと海水をかける。

「きゃ!…この!やったわねぇ!」
「ぶわー!おまっ!少しは加減しろって!」
「ちょっと!当麻こそ少しは加減しなさいよね!」

 バシャバシャと海水をかけ合う二人。
 そんな二人の姿を少し離れた場所から見つめる四人は…

「やれやれ、すっかり二人の世界に入ってしまいましてね、とミサカ10032号は溜め息混じりにじゃれ合う姿を眺めます」
「まぁまぁ、その方が見ていて楽しいので良いではないですか、とミサカ19090号は10032号に返答をします」
「つーかお姉様は怒ってるように見えたけど、案外そうでもなかったみたいだね。顔笑ってるし」
「…二人とも楽しそうですね、とミサカ10039号は目を細めながら二人に視線を送ります」

 笑いながら海水をかけ合う二人の姿に、どこか満足そうな笑みを浮かべると、

「…さて、このまま邪魔するのもアレなので、ミサカ達は退散しましょう、とミサカ10032号は三人に提案します」

 御坂妹の言葉に頷いた三人は、聞こえてくる二つの笑い声に背を向けて歩き出す。
 すると、その様子に気が付いた美琴が、

「ちょっとー、あんた達何処行くのよ――?」  

 大きく手を振りながらそう声をかけると、振り返った御坂妹が言葉を返す。

「ミサカ達は少しばかり休憩を取る事にしますので、お二人はそのまま遊んでて下さい、とミサカ10032号は返答します」 
「えー、そんな事言わずにあんた達もこっち来なさいよー」

 美琴の言葉に、顔を見合わせる御坂妹と19090号。
 恐らく自分達が気を遣って離れようとしている事を見抜いているだろうが、だからといって二人の邪魔をするのは気が引ける。
 そんな事を考えながら、どうしたものかと困っていると…

「ではお言葉に甘えてミサカも参戦させていただきます!とミサカ10039号は全速力で突撃します!」

 ザッザッザッ!っと二人の元に走って行った10039号は、二人の目の前でダイブを敢行し、バッシャーン!っという大きな音と共に水飛沫を上げる。

「ぶわぁぁああ!?」 
「わひゃあ!?」

 10039号の上げた水飛沫をモロに食らった二人は、思わず悲鳴を上げる。

「ぬおぉ…海水が鼻から…不幸だぁ」
「ちょっと!アンタいくらなんでもはしゃぎ過ぎじゃない!?」

 苦しむ当麻の横で、美琴が抗議の声を上げると、10039号は体を起こして、その場に座ると、 

「…ぐぅ…顔面を強打してしまいました、とミサカ10039号は調子に乗りすぎたことを後悔します」

 言いながら自分の顔を撫で始める。
 どうやらダイブした時に、激しく打ち付けてしまったらしい。
 そんな彼女に呆れたような顔をした美琴と当麻は、

「ったく、大丈夫?馬鹿なことやって怪我したら元も子もないんだからね?」
「……、ま、それくらい元気があった方がお前らしくて俺は好きだけどな…っと、ほれ」

 その場に座り込んでいる10039号を立たせる為に手を差し出すと、彼女は『申し訳ありません』と謝罪をしながら二人の手をしっかりと掴み、立ち上がる。
 するとそこに…

「くそっ!すっかり出遅れてしまいました!とミサカ10032号は自身の判断の遅さについて悔しさを滲ませながらも突撃します!」
「10039号ばかりずるいです!とミサカ19090号は二人にちやほやされる10039号に嫉妬の炎を燃やします!」
「いやっほ――!!」

 出遅れた三人が次々と接近し、10039号と同じように海水に飛び込む。

「ぶはぁ!?…ぐぉお…ま、また鼻に…」
「けほっ!けほっ!…あ、あんた達ねぇ…」
「ぎゃははは!それそれ!!」

 再び海水を浴びせられ、咳き込む二人を番外個体が容赦なく追撃する。

「あいつはガキかよ、とミサカ10032号は番外個体の行動について冷静に意見を述べ――」
「日頃の恨み、今ここで晴らします、とミサカ10039号は10032号に海水を浴びせます」
「やってくれまし――」
「ミサカは恨みなどありませんが、10032号は妹達の中でもエラそうなので今ここで沈めます、とミサカ19090号は下克上を狙ってみます。
 ですが、これは決して10039号に協力してる訳ではなく、今だけ利害が一致しているだけです、とミサカ19090号は補足説明しつつも攻撃の手は緩めません」
「み、ミサッ、ミサカがっ…何をしたと!?…おのれ!このままやられ――ちくしょう!」

 バシャバシャと海水攻撃を食らう御坂妹。
 反撃の機会を窺うも上手い具合に交互に浴びせられている為、呼吸もままならない状態だ。
 そして、そんな彼女達のすぐ横で、番外個体が美琴と当麻に海水を浴びせ続けている。

「きゃははは!!」
「くっそ!調子に乗ってんじゃ…ねぇ!」
「ぶわ!?」

 バシャ!っと、当麻が番外個体に海水を浴びせると、彼女は突然の攻撃に怯む。
 その隙に体勢を整えた美琴は、番外個体に逆襲をすべく、当麻に話しかける。

「当麻!この子達を完膚なきまでに叩きのめすわよ!」
「おっしゃ!任せとけ!」
「げぇ!お義兄様とお姉様が結託しやがった!?10039号!ヘルプ!」
「む!分かりました!とミサカ10039号は日頃の借りを返すべく番外個体の支援に回ります!」

 御坂妹への攻撃を止めた10039号は、標的を二人に移し、両手を水中に入れて放水体勢を取る。
 そして、さあ攻撃開始といった所で、ジト目をした美琴と目が合う。

「へぇ…アンタは私より番外個体を選ぶって訳なのね、そうなのね?…あーあ、折角可愛い教え子が出来たと思ってたのになぁ」
「覚悟は良いですか番外個体!とミサカ10039号は番外個体に向かって攻撃を開始します!」

 その一言によって、10039号は間髪入れずに向きを変えると、番外個体に海水を浴びせ始める。

「うお!?もう裏切りやがった!つーか10039号にその言葉を使うのは反則でしょ!…くっ!こうなったらミサカ一人でも切り抜け…ぶはぁ!?」
「それそれ!もっとやれ妹!そっちの二人も二人だけでやり合ってないでこっち来なさいよ!」

 忠実な僕(10039号)を従えた美琴は、番外個体に集中攻撃をしつつ、相変わらずやり合っている二人を自分達の輪に入れるべく声をかける。
 すると、二人は一旦手を止めると、

「了解です、とミサカ19090号は10032号への攻撃を止めてそちらに合流します」
「もうこうなったら何でもアリです、とミサカ10032号は散々やられてやけくそになります」
「ちくしょぉぉ!!こうなったら10039号だけでも道連れにしてやる!!」

 御坂妹、19090号が合流し、乱戦状態になりつつある中、集中砲火を浴びていた番外個体が突如姿勢を低くし、10039号に突撃する。
 そして、ガシッ!っと彼女の腰に腕を回すと、

「どりゃぁぁぁああああ!!」
「…!?うおぉぉオオオオ――――!?」

 そのまま彼女を思いっ切り海水に押し倒すと、ドッパーン!!という激しい音がし、辺りに水飛沫が舞い上がる。
 美琴と当麻が飛沫を食らって軽く悲鳴を上げていると、立ち上がった番外個体が、邪悪な笑みを浮かべながらばしゃばしゃと二人に反撃を開始する。
 更に、御坂妹と19090号が誰でも良いから食らえ!といった様子で、暴走を始める。

「…うお!?お前等ぁ!少しは加減ってものをだなぁ…!」
「ぎゃはははは!!沈め沈めぇ!!」
「ミサカの本当の力を見せてやります!とミサカ10032号は息巻きつつ海水をばら撒き続けます!」
「目が!目がぁ~!!とミサカ19090号は海水が目に入ってしまい目がシパシパします!」
「あはは!そ~れ!」

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