if.御坂美琴と上条当麻の会合[中編] 2
8月20日
場所は自販機近く。
ここ3週間ほどの出来事が原因で美琴はかなり疲労が溜まっていた。
まず虚空爆破(グラビトン)事件に始まり、木山春生による幻想御手(レベルアッパー)事件と色々あった。虚空爆破事件ではあのツンツン頭、上条が変な能力を使い助けに入り、そのうえ助けたと名乗り出なかった。少しいけ好かないと感じた。
そして、今、絶対能力進化(レベル6シフト)実験というものに直面していた。
自分が人の役に立つならと思い提供したDNAマップ。それが自分のクローンを作り、そして殺して、学園都市第1位をレベル6にするために悪用されるようになっていた。
美琴はそれを止めるために、研究所をいくつも潰して周った。途中わけのわからない連中とも戦った。
そして最後の研究所が手を引いていたため実験は終わったと思い今に至る。
(もうあの子達は死ななくても大丈夫よね?できることならもうあの子達とは会いたくない)
美琴は今、自分のクローンに会うと実験をやってるんじゃないかと心配になってくる。そして、こんな実験のためにDNAマップを提供した自分は会う資格ないとも感じていた。
(はぁ、最近黒子達とまともに会話できてないなぁ。上条とも会ってないなぁ。会いたいなぁ、って何言ってんのよ私はぁぁあああああ!?あんないけ好かない奴と会いたいなんてぇぇええええ!!ってあれ?)
自己嫌悪している途中で美琴は自販機の前で何かやっている人物に気がついた。
その人物はツンツン頭が目立つ高校生だった。
「あっれー?おかしいな、金は入れたぞ?なんで出ないんだ、ちくしょう不幸だー!」
美琴はちょうどのどが渇いていたので、その知り合いであろう少年に声をかけることにした。
「ちょろっとー?私も飲み物飲みたいから、上条そこどけてよー」
美琴はその少年をどかすと小銭を財布から出し、自販機に入れようとした。
そこで少年はおかしなことを口走った。
「ああ、すいません……って誰だ?常盤台のお嬢様?」
「……はぁ?アンタこの暑さで頭おかしくなっちゃったんじゃないでしょうね?御坂よ。御坂美琴。アンタ、上条でしょ?上条当麻」
「あ、ああ、すまん、そうだったな」
美琴の知り合いであるその少年は変だった。
美琴から見た目でも少年、上条当麻は変だった。
だが今はいろいろなことがあったのであまり深く考えないようにするのだった。
「……たくっ、ちゃんと覚えておきなさいよね。後、この自販機、お札は飲み込むわよ」
「な、なんだってー!?俺の財布の全財産がぁ……」
「ぜ、全財産!?いくら自販機に入れたのよ?」
「……うっ!」
上条は明らかに動揺した声を出した。
美琴はさらに問い詰めることにした。
「いくら入れたの?笑わないから、言ってみて」
「……2千円」
「は?」
「2千円だー、ちくしょう!」
「……く……あっははははははは!やめてよ、笑い死んじゃいそう!」
美琴は笑わないといったが、上条の発言に耐えられなかった。
「笑わねぇっていたのに……どうせ上条さんは不幸ですよー!」
「ご、ごめん、ごめん。そんなに自暴自棄にならないでよ。2千円くらいなら貸してあげるわよ。なんなら飲み物も奢るわよ」
「え?ホントですか御坂さん!」
「う、うん。本当だからそんなに迫らないで」
「あ、悪ぃ」
上条に近づかれた美琴だったが、そんなに悪くは思わなかった。
どうして悪く思わなかったかも、気にならなかった。
それが上条へ対するある感情だと美琴はまだ気づいていない。
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自販機で飲み物を買った二人は近くのベンチまで行き座っていた。
このとき自然と美琴は上条に近寄っていた。
だが二人ともそんなことには気づかない。
「2千円札なんてよくあったわねー。すっかり絶滅してるかと」
「うるせぇ、これでも上条さんの全財産なんだぞ。絶滅したとか言うんじゃねぇ」
「あーはいはい。2千円借りる相手にそいう態度なのね。もう要らないって事か」
「すいませんでした、御坂さん!」
上条はすぐさま土下座モードに移行した。
そんな上条を、美琴はジュースを飲みながら楽しげに見ていた。
「お姉様?」
そこに美琴には聞きなれた、上条には聞いたこと無い声がかかった。
美琴はその声の主に気づき、瞬時に固まった。
「ん?誰だ?」
上条は声の主のほうに向き当然である疑問をその人物に投げかけた。
「あらあら、お姉様じゃありませんの。まぁ、こんなところで」
「……無視か。ん?お姉様?お前、妹がいたのか!?」
上条が驚いて美琴に聞くが、いまだに美琴は固まったままだった。
「私は白井黒子と申します。お姉様の露払いをしていますの。どうぞ以後、お見知りおきを」
白井と名乗った少女はいかにもお嬢様らしく、スカートの端をつまんで上条に一礼した。
上条は、「なんだ妹じゃないのか」、などと呟き自分も名前を名乗った。
「それにしても……まぁまぁ、最近帰りが遅いと思ったら、お姉様はこんなところで殿方と密会なさってるなんて。この方は彼氏なんでしょうか?」
上条が彼氏というのを否定しようとしたら、いきなり美琴が目を見開き、顔を真っ赤にさせ、叫びだした。
「あ、アンタは、こ、こいつが私のかかかかか彼氏に見えんのかァァあああああ!!」
美琴は慌ててビリビリしながら否定をした。
上条は電撃を見て驚いていたが、違うことが上条の気にかかり、「叫び声を上げて否定することは無いだろう」、と呟いていた。
「おっほっほ。そうでしたか。ですがお姉様。密会はほどほどにしてくださいまし」
「密会でもないわよ!!黒子ぉ!!」
美琴は赤い顔で電撃を飛ばすが、白井は、「では」、と言い残し空間移動でその場からいなくなった。
美琴はその赤い顔のまま、「か、彼氏……」、と呟いていた。
もちろん、上条には聞こえていなかった。
「お姉様?」
そうこうしているところへ、また美琴をお姉様と呼ぶ声が美琴の後ろから入ってきた。
上条は、「新手か!?」、とよくわからないことを言い、美琴のほうを見てみた。
そこには美琴がいた。
美琴が〝二人″いた。
「ほ、本当に妹!?しかもそっくり双子さん!?」
上条は現状が理解できていないようだった。
「アンタ……なんでここにいるわけ?」
美琴は極めて冷静にその〝妹"に質問した。
だが上条に見えない美琴の顔には汗が流れていた。
「ミサカは今、研修中です、とミサカは現在の自分の状況を説明します」
上条は、「変なしゃべり方だな。しかも一人称が御坂って」、と一人何も理解できないままゴチていた。
しかし、美琴はまったくそんなことはなかった。
「そう。じゃあ、ちょろっと私に付き合ってもらおうかしら?ということで上条とはここでお別れね。さようなら」
美琴の声は据わっていた。
上条は美琴の様子がおかしいことはわかっていたが、なにも答えれなかった。
「じゃあ、行くわよ。付いてきなさい」
「いえ、ミサカにもスケジュールが……」
「いいから」
「来なさい」
美琴はさっきとは違い明らかに怒気の混じった声で妹を黙らし、手を引っ張って、早足で上条から見えなくなるまで遠ざかった。
「……なんだったんだ……?」
結局、上条はなにもわからなかった。
だが、上条はこの後、美琴の〝妹″がどんな存在かを知ることになる。