とある魔術の禁書目録 自作ss保管庫

Part04

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What's goin' on?


一端覧祭最終日 朝―――
常盤台中学学生寮、208号室。

時間はもうすぐ8時頃だ。 既に黒子は風紀委員の仕事で出ていて、室内には自分だけである。
美琴はベッドの上で枕を抱きしめ、考え事をしていた。
昨日、母の美鈴から連絡を貰ってからどうも落ち着かない。 その理由はというと、もちろん上条であった。
実際問題、昨日の話しではただ単に「明日は一端覧祭を一緒に観て回ろう」と約束しただけである。
美鈴と2人なら、上条の高校へと行く可能性は恐らく無いだろう。 だが、そうだと分かっていても、どうしても意識してしまう。
どうやって上条の高校へと行こうか。 どうすれば、上条の高校へと行く理由が出来るか。
と昨晩の寝る前、そして起きてからも考えていた。
一体どうすれば… と考えた所で、自分の考えが上条一色になっている事に気が付きハッ!とする。
今更ながら恥ずかしくなって、隠すように枕にぽふっと顔をうずめた。
その仕草を黒子が見ていたら確実に、
「きっとまたあの殿方の事を考えていたのですね! キッー!! あの類人猿め…」
とドス黒いオーラを出していた事だろう。
(はぁ。 母さんも一緒、ってのがなぁ… 下手に動くと、後でヘンに弄られそうだし。)
結局の所、どうなるのだろう?と期待と不安が入り混じる。 美琴はしばらくの間、1人ベッドの上で身悶えていた。

ベッドの上でゴロゴロと転がっていたせいだろう、せっかくセットした髪型も少し崩れていた。
しばらく悩んでいた美琴であったが、もう一度お風呂に入る事で気分を落ち着かせた。
風呂から出て髪を乾かし、身だしなみを整え直す。 これで、万が一出会ったとしても大丈夫だ。
一息ついた所で、携帯が細かく震えた。
まさか!? と思い確認すると、上条ではなく美鈴からのメール着信だった。
(やっぱり、そんな都合の良い事なんて起きないわよね…。)
軽く落ち込みながらメールを確認する。

 From : 母
 題名 : もうすぐ到着よん
 本文 : そろそろ学生寮に到着するので、準備が出来たら出てくるように。 近くで待ってるから。

携帯を閉じ、鏡の前で慌ててもう一度身だしなみのチェックを行う。
最後に鏡の中の自分に向かい、ニコッと笑顔を作り
(良し! これでもしもアイツと出会ったとしてもOKよね?)
自分の呟きに自信を持って答えられる事を確認し、美琴は自室を出た。

出発が少し遅いせいか、もう寮内には生徒があまり残っていないようだ。
ここ数日、「案内係(ガイダンス)をしている」というだけで寮生から労いや応援の言葉を貰っていた美琴としてはホッとした。
階段を下り、ロビーへと出る。 そのまま玄関へと向かおうとした所で、聞きなれた声に呼び止められる。
「おはよう、みさかー。 みさかは出かける準備は済んだのかー?」
「おはよー、舞夏。 出掛けるって言っても、今日は案内係じゃないわよ。」
「もちろん知ってるぞー。 良かったな、自由に観て回れるようになってー。」
と、素直に喜んでくれた。 その舞夏が居なければ、神経を余計にすり減らしていただろう。
「ありがとう。 昨日までの舞夏のサポート、本当に助かったわ。 感謝してる。」
にっこりと微笑み、舞夏に感謝した。
「そんな事はメイドとして当たり前だから気にするなー。 それよりもみさかみさかー。 1-○だからなー。 忘れるなよー?」
突然言われた、言葉に首を傾げる。 何の事だろう?
「1-○? 何それ?」
何の捻りもなく聞き返した美琴に
「何って… もちろん、上条当麻の居るクラスだぞー。 いやだなぁ、みさかはー。」
美琴から質問をしておいて忘れるなんて、ご冗談を。 とでも言うように、さも自然に舞夏が答える。
言われた美琴は、思わずブハァッ!と凄まじい勢いで息を噴出した。
思わず大きなリアクションをしてしまい、慌てて周囲を確認する。 他の生徒は見当たらない、それが救いであった。
「わ、わ、わたっ、私は別にアイツの高校に行くとか言ってないでしょ!? し、しかもアイツが何組でクラスで何をやるか、なんて興味ある訳無いじゃない。」
と言ってそっぽを向く。 だが、言い出しで思い切り噛んだのと、美琴自身から興味津々オーラがいっぱい出ており説得力が無い。
そんな様子を見て、舞夏はニヤリとしている。
「あれー、行かないのかー? 最終日の今日は、上条が… という話もあるからもし良ければと思ったんだが、興味無かったのかー。 残念だなー。」
気になる事を言うだけ言った舞夏は、そのまま食堂の方へと去ってしまった。 どうやら今日は、寮での仕事があるのだろう。
(はぅ… もうちょっと素直に聞けば良かったかしら…)
今更舞夏を追いかけて行って聞き出すのも気が惹けた。 それに美鈴も待たせている。
この一端覧祭でのアイツについて、舞夏はどこまで知っているのか。 それはそれで大変気になる事であったが、とりあえず美鈴と合流する為に玄関へと向かう。

玄関を通り外へと出る。 何処に居るんだろう?と探そうとしたが、美琴を見つけたのかすぐに声をかけられた。
声がした方を振り向くと、そこには手を振って何故か機嫌が良さそうな美鈴が居た。
「おはよー。 って、朝から機嫌が良さそうね? 何か良い事でもあったの?」
「おはよう、美琴ちゃん。 んー? いつもなら何かあれば準備万端の美琴ちゃんが、今日は出てくるまでに少し時間があったから。 かしら。」
「何でそれで機嫌が良くなるのよ?」
言いたい事が今ひとつ分からず、ジト目で自分の母を見やる。
すると、そんな視線は何処吹く風と言った感じで美鈴が答えてきた。
「あら、だって~。 も・し・か・し・て… 『誰かさん』に見られても良い様に、出掛ける直前に入念に身だしなみの再チェックでもしてたのかな?って。」
「そ、そんな訳無いでしょ!? 単に、出てくる途中で友達に話しかけられてただけだって…」
自室での行動を的確に予想され、ギクッ!と一瞬固まりかける。
「そう? 残念ねー。 ま、いいわ… それよりも、美琴ちゃん。 朝食はもちろん済ませてるわよね?」
「済ませてるわよー。 昨日までの疲れで、危うく寝過ごしそうだったけどさ。」
「またまた~。 『疲れ』で寝過ごしそうだったんじゃなくて、『誰かさんの事を考えてたから』じゃないのー? 例えば、『どうやって誰かさんの学校まで行こう?』とか♪」
「なっ!? 何を言い出すのよ、このバカ母ッ!!」
言うと同時に、美鈴の頭をスパン!と叩く。 そんな美琴に対して、わざとらしい抗議の声を上げた。
「やーん、美琴ちゃんに叩かれたー。 …でもあれよ? そんなに母親に対して乱暴にしてて、良・い・の・か・なー?
 この後実は、ある人と会ってもらいたいのよねー。 その人って多分美琴ちゃんにとっても、『気になる人』だと思うんだけどなー。」
「うっ… 気になる人、って誰と合流する予定なのよ?」
「さーて、誰でしょうねー。 誰なのか?は、もちろん後でのお楽しみよん。」
そこまで言ってふふっと意味ありげに微笑んだ後、美鈴は歩き出した。
(気になるって、誰よ? …まさかアイツ、とか? でもそんな訳無いか。)
すぐにでも確認したかったのだが、とりあえず美琴は付いて行く事にした。

◆         ◇         ◆         ◇         ◆

一端覧祭最終日 午前―――
とあるホテル内。

あれから2人は、第7学区内のとあるホテルへと移動してきていた。
美鈴に連れられエレベーターに乗り、目的の階へと到着する。
そのままとある部屋の前まで移動した所で、美鈴がカード型キーを取り出しドアへと差し込む。
ガチャリ、とロックが解除される音を確認しドアを開ける。 どうやら、美鈴はここに宿泊していたようだ。
美鈴と美琴が室内へと入って行くと、1人の女性が出迎えてくれた。
「すみません、お待たせしちゃってー。」
「いえいえ、気になさらないで下さいな。 それじゃ揃ったみたいですし、早速ですけど…」
美琴の方をチラリと確認した女性は、そう美鈴へと話しかけた。
「そうしましょうか。 それじゃ美琴ちゃん、座りましょ。 気楽に、そこのベッドの上辺りで良いから。」
そう言って美鈴は奥にある椅子に腰をかけた。 続いて、女性もその正面の椅子に腰をかける。
他に椅子は?と辺りを見回したが、どうやら2脚しかないようだ。 仕方なく、美琴は近くのベッドの端へと座る事にした。
出迎えてくれた女性と、美鈴を見ているとどうも知り合いのようだ。 その慣れたやり取りに、誰だろう?と考える。
どこかで出会った事があるような… と必死に記憶を辿ると、9月末の大覇星祭の事を思い出した。
「あの… 確か、上条さんの…」
「あらあら。 こんなおばさんの事、覚えていてくれたのね? 嬉しいわ。」
「おばさんだなんて、そんな! でも、何で家の母と?」
いつの間にそんなに仲良くなっていたのだろう?と、疑問に思った事を聞いてみる。
「上条さん。 あれから家の近くに越してきたみたいで、ある日通ってるジムで詩菜さんと再会したのよねー。 それからというもの、良くして頂いてるわ。」
美鈴は「世の中って、意外と狭いもんよね」と一人頷いている。
詩菜の方を見ると、こちらも同じように頷いていた。
「私こそ、美鈴さんには色々とお世話になってしまって。 あとは… うちの当麻さんが美琴さんにご迷惑をおかけしていないか心配ですけど。」
「そのことについてなら、大丈夫だと思いますよ? ね~、美琴ちゃん♪」
「何こっち見てニヤついてるのよ! べっ、別にあのバカとは何も無いし、何とも思っ…」
ついいつもの口調で「あのバカ」と言ってしまったが、すぐに後悔した。 いくら本人が居ないとはいえ、その親が居るのである。
申し訳ない気持ちになってそっと詩菜の方を見ると、それまでとは変わり真面目な顔つきとなっていた。
「ご、ごめんなさい。 『あのバカ』なんて言い方、失礼でした。」
「いえ、その点については気にしないで。 呼び方ですけど、もし良ければ『当麻』と呼んでやって下さい。
 それと、私の事は『詩菜』とでも呼んで頂ければ良いので… 2人とも苗字では話にくいでしょう?
 あと、出来れば私も『美琴さん』って名前で呼ばせてもらいたいのですけど、それでも良いでしょうか?」
「ありがとうございます。 私の呼び方は、『美琴』で構いませんので。」
「ありがとう、美琴さん。 さて… お互いに話しやすくなった所で本題にでも入りましょうか。」
詩菜は美琴に微笑むと、そう切り出して来た。

突然「本題」と切り出して来た詩菜に、美琴は戸惑いを感じた。
その言い方にあまり良い予感がせず、我慢しきれずに美琴から質問という形で話を繋げる。
「あの、本題って何の事についてでしょうか?」
「実は、美琴さんに話しておきたい事があります。 それは… うちの当麻さんについての事です。」
詩菜がわざわざ来た、という事はやはり当麻に何かあったのだろうか。 それとも、これからなのか。
少しの間を空けて、詩菜が続ける。
「唐突な話で申し訳ないですけど、もしまだ美琴さんが当麻さんと関わりを持っているのであれば… もう当麻さんに関わらないで頂きたいの。」
「どっ、どうしてですか!?」
予想もしなかった言葉に、思わず単純な形でしか質問の言葉が出なかった。
何かの冗談だろうか?と思いたかった。 しかし、真剣な眼差しで詩菜は美琴を見つめている。
(急に「もう関わらないで」なんてどうして? やっぱり、今までの当麻への接し方が悪かったとかかな…)
表情が曇り始めた美琴に、詩菜はゆっくりと言葉を続ける。
「もしかしたら、既に経験しているかもしれないけど… 当麻さんには『不幸を呼び寄せる』という特異な体質があります。
 それによって、周りから虐げられてきた悲しい現実も。 小さい時には、それが原因で理不尽に包丁で刺された事もあるの。
 今はまだ、大事には至ってないかもしれないけれど… 今の状態がいつまで続くか、そしていつ大事が起こるかは分からない。
 そしてあなたは、この学園都市でも貴重と言われるLEVEL5という存在。 ましてや、LEVEL5の前に中学生の女の子でもあります…」
そこまで言うと、改めて美琴を見据え
「だからもし、『中途半端な気持ち』で傍に居るというのであれば、これ以上関わりを持つのは止めて欲しいの。 当麻さんの為にも。 そして何よりあなたの為にも…」
そう伝えた詩菜は、最後は諭すように優しかった。
美鈴は?と様子を伺うと、詩菜と同様に優しい眼差しでこちらを見つめている。
だが、その優しい表情が美琴にとっては逆に胸を締め付けた。
ここで自分が何も言わないと、どうなってしまうんだろう?と自問自答する。 考えれば考える程、想像はイヤな方向へと進み苦しくなる。
段々、その状況に耐えられなくなって立ち上がり
「わ、私はっ… 決して中途半端な気持ちなんかで当麻の傍に居る訳じゃありません!!」
最初こそ言い淀んでしまったが、何とか最後まで言い切った。
それは先程まで、美鈴に聞かれても否定していた事であったが、そんな事は今更関係無かった。
一度自分の気持ちを言ってしまったら、楽になれた気がする。 あとはありのままを言葉にして続けるだけだ。
美琴は詩菜の目を見て
「実はこの夏、誰に協力を求める事も、まして相談さえも出来ない辛い事が起きました。 本来ならきっと、一人で解決しなければならなかった事です。
 でも一人で苦しむ日々の中で、出会って間もない当麻だけが… まるで、心の叫びを聞きつけた私だけのヒーローのように助けに来てくれて。
 その出来事は結局、当麻にしか出来ない方法で解決してくれました。 それからは、それまでよりも私の中で当麻の存在が段々と大きくなって…
 そしてある日、当麻が心身共にボロボロになりながら… それでもどこかへ駆け付けて何かをや遂げようとしている姿を見て改めて実感したんです。

 私は『上条当麻の事が好きなんだ』って、『上条当麻の力になりたいんだ』って…

 この気持ちは自分がLEVEL5だからという訳ではありません。 例え私が今、この瞬間に能力を無くしたとしても、その想いが変わる事もありません。
 当麻は確かに不幸体質で、それに巻き込まれたりした事もありました。 だけど当麻となら、そんな不幸すら一緒に笑い飛ばせる事だって出来るから。
 今はまだ、当麻にこの気持ちは届いてないですけど… でも、いつか絶対に届けたいと想ってるんです! それが例え、詩菜さんが反対しているとしても…」
と自分の想いを包み隠さず伝えた。
そして今なら言える。 「自分の気持ちは誰にも負けない」とも。
ただ、それを言ってしまうと言葉だけでなく、熱いものも込み上げてきえしまいそうだったので止めておいた。
自分の気持ちを伝えた今、詩菜はどう考えているのだろう。
これでも反対すると言うのであれば、それに応じてこちらも考えなければならない。
少しの沈黙の後、詩菜が口を開いた。
「あらあら。 こんな素敵な子にここまで想ってもらえているなんて… うちの当麻さんは何て幸せ者なんでしょう。
 美琴さん… 当麻さんはあなたに比べれば色々と至らない点もあるとは思いますけど、どうか宜しくお願いしますね。」
てっきり、まだ反対されると思っていた。 だが予想外の詩菜からのお願いに美琴は思わず、「へっ!?」と間抜けな声が出てしまう。
「あれっ?? 詩菜さんは… 私が当麻の傍に居る事に反対だったんじゃ……」
「試すような言い方になってしまって、ごめんなさいね。 でも決して… 美琴さんがうちの当麻さんと一緒に居る事について反対を言いに来た訳ではないのよ。
 先程も言った様に、あの子は特異な体質を持っています。 だからこそ、一緒に居たいと願うのであれば『中途半端な気持ちではダメ』とお話しておきたかったの。」
「そ、そんな…」
聞いてみれば案外単純であった『答え』に、思わずへなへなとベッドに座り込んだ。
「実はね、美琴ちゃん。 詩菜さんから『当麻くんとお付き合いする際の心構えとして』、って事で話を聞いて欲しかったんだけど… 既にそこまで惚れ抜いてたとはね~♪
 ま、何にせよ… 私は美琴ちゃんの気持ちに反対どころか大いに賛成だし、協力もしてあげるから安心しなさい! 当麻くんなら、安心して美琴ちゃんを任せられるからね。」
先程までの優しい表情とは打って変わり、美鈴はニヤニヤとしている。 後で絶対に、この事で弄られるに違いない。
すると、詩菜も
「あらあら。 美鈴さんがそうおっしゃるのであれば、私は自分が言った事を早速一つ訂正しないといけませんね。
 さっきは美琴さんに『詩菜』と呼んで、と言いましたけど… どうやら『お義母さん』と呼んで頂く方が正しいみたい。」
困ったわ、といった仕草で右手を自分の頬に添えた。 だがその表情は、困ったというよりむしろ喜んでいる。
「あら! それじゃ私も当麻くんに『美鈴』じゃなくて、『お義母さん』って呼んでもらうように訂正しないといけないかなー。 今度それとなく話しておかないと…」
そう言うと、美鈴と詩菜は2人でくすくすと笑った。
2人の意見の一致具合と、冗談とも本気とも取れる台詞に美琴はどこから突っ込んで良いか分からなくなった。
美鈴と詩菜の気持ちは嬉しかったが、まだ当麻がどう思っているかは分からないのだ。
「お義母さん、だなんてまだ早いですって! それに、いくら私が当麻の事を好きでも、当麻が私を好きになってくれるとは…」
「うちの当麻さんはね、不幸にも負けずに本当に良い子に育ってくれていると思います。 親バカだとは思いますけれど。
 でもね… 逆に不幸に慣れ過ぎてしまって『自分が幸せになっても良いんだ』とまでは思えなくなってるみたいなの。
 うちの当夜さんもあんな調子だったから、私も大変でしたけど… 当麻さんはそれに輪をかけて不幸というのもあります。
 だからこそ、あなたの気持ちや行動に対しても中々気が付かないかもしれない。 でも、鈍感だと諦めてしまってはダメよ?」
当麻の父親である当夜とも大覇星祭の時に会っていた。 確かにこの親にしてこの子有り、と感じた人物である。
そんな男性を射止め、そして結婚した女性だからこそ、詩菜の言葉が心に沁みた。
美琴は頷きでそれに答えようとしたが、美鈴が横から口を挟む。
「あぁ… 多分、詩菜さんも同じ事考えてるとは思いますけど、その点ならきっと大丈夫でしょー。」
突っ込みはやはり美鈴にも必要なようである。

先程から、美鈴の言葉にはちょいちょいと引っ掛かる点が有り過ぎる。
「って、さっきからちょっと待て母ッ! 当麻に『美鈴』って呼ばせてるとか、いつの間にか更に新密度を上げてるみたいだし、『きっと大丈夫』って一体どういう訳なのよ!?」
「あれ~? 気が付いちゃった? ………テヘッ♪」
「テヘッ♪じゃないっ!! ったく、何を企んでるんだか…」
本当は再び頭を叩きたかった所だが、今は止めておく。 わざとらし過ぎる美鈴のボケに、思わず頭を抱えたくなった。
すると、まあまあと仲裁するかのように詩菜がフォローを入れてきた。
「あのね、美琴さん。 昨日、電話で美琴さんが『何で案内係(ガイダンス)の事を知っているのか?』という様な質問をした際、美鈴さんが何て答えたかは覚えているかしら?」
「えっ? えーっと確か… 『私が忙しいらしい、って事を知り合いから聞いたから』とか言ってたかと…」
「そうね、それで合ってるわ。 じゃあ、それを踏まえての質問をしますね。 美琴さんが忙しい事をわざわざ教えてくれた知り合いの方、って『誰の事』だと思います?」
詩菜の問いに、一端覧祭前に家の母に連絡してまで知らせてくれる人物、連絡先を知っている(であろう)人物を考えてみる。
パッと最初に思い浮かんだのは、黒子・初春さん・佐天さん達が協力し、連絡先を調べて美鈴に伝えてくれた可能性だった。
だが、美鈴も詩菜さんも『知り合い』を1人と限定するような話し方である。 そこからすると、それは違う気がした。
それらの面々が該当せず、他に美鈴の連絡先を知っている人物は?と考え、今更ながら残り1名の名前が浮かぶ。
「まさか、当麻がっ!? …でも当麻は―――」
「そう、その当麻くんから私にわざわざ連絡をくれたのよ。 一端覧祭前に電話をくれてね… どうしたのかと思って話を聞いたらこう言うじゃない?
 『美琴がどうも学校の用事で忙しくて一端覧祭を自由に観て回れないみたいなんです。 でも、本人は観て回るのを楽しみにしていたみたいで。
 そんな状況を知っても、自分では力になってあげられない。 それに自分だと迷惑かもしれないから、御坂さんにお願いできないですか?』ってね。」
(知らない間に、当麻は私の為に動いてくれたんだ…)
恐らく、私が忙しい事を知ったのは黒子からなのだろう。 だがその情報から彼なりに判断し、美鈴に協力を取り付けてくれたと思うと嬉しかった。
「例えば美琴ちゃんの事を本当に何とも思って無かったら… 何を聞かれるか、どう思われるか分からない事を覚悟してまで、私に頼み事をするかしら。
 そう考えたら例え今はまだ『好き』とまでいかなくても、十分可能性は有ると思わない? 当麻くんの中でも、美琴ちゃんの存在は大きくなってきてるって。
 だから美琴ちゃんも、『自分だけを見て欲しい』って願うのであれば、貴方のペースで、貴方のやり方で良いから… 確実に振り向かせてあげちゃいなさい!」
「私と美鈴さんは、別に急かしたり、無理に貴方たちをくっつけようとはしないわ。 でもね… 必要としてくれるなら、いつでも美琴さんの味方で居るから安心して。」
にっこりと微笑んだ美鈴と詩菜の言葉に
「ありがとう、母さん。 そして詩菜さん。」
美琴はとても心強く感じ、素直に感謝の気持ちを伝えてお辞儀をする。
今はまだ、すぐに気持ちを伝えられないかもしれない。 だが、自分を応援してくれる人が居る、というだけでも頑張れる気がした。
そして、詩菜を交えてした話は美琴にとってとても有意義な時間だと思えた。
改めて美鈴に感謝しようとした所で、美鈴が背伸びをしつつ
「さて、っと… 本当は美琴ちゃんの事を弄り倒して色々と話を聞こうかと思ってたんだけど… ここまで綺麗に話がまとまっちゃったら、それも出来そうに無いわね。」
「……そういう事はわざわざ口に出さなくて良いのよ。 ったく。」
「まあまあ、美琴さん。 それじゃぁそろそろお出かけしますけど、その前に『ちょっとした準備』をしてからにしましょうか。」
はぁ、と深い溜め息をついた美琴をとりなすように詩菜が提案をしてくる。
「準備って何ですか?」
「それはね…」
詩菜は美琴の傍に寄り、そっと耳打ちした。

◆         ◇         ◆         ◇         ◆

一端覧祭最終日 午前―――
とある高校にて。

今日は遂に一端覧祭最終日。
しかし、最終日とてその忙しさは変わらない。 当麻も他のクラスメイト同様、朝から準備に追われていた。
部活や同好会などで抜けるメンバーも居る為、準備は持ち回り制となっている。 が、残念ながら帰宅部の自分には、『休み』という言葉とは無縁だったようだ。
もう7日目だというのに、クラスの客足は途絶えない。 途絶える所か、それなりに人気にもなっているらしい。
自分としては、教室で気楽にレジ担当でもやりたかったのだが
「カミやんは呼び込みでもやって来い! たまにはその特性をクラスのみんなの為に活かすんや!!」
「そうだにゃー。 カミやんなら、多くの客を引っ張って来られると思うぜい。」
と青ピと土御門に言われ、渋々と校内を回っていた。
(呼び込みして来いって言われても、流石に学校の敷地内を当ても無く歩きっぱなしってのは疲れるな。)
などと考え、まだ手の中に僅かに残るチラシを見てウンザリとする。
もちろんここまでの間に、友達同士で観に来ていた女子高生、進路決定の参考にとでも観に来ていたらしい母娘。
更には、同じように呼び子をしていた先輩の女子などにもちゃっかりと新たなフラグを立てていた。
それは青ピと土御門的には正に狙い通りなのだが、上条自身はその事に気が付いていない。
流石に歩き回るのにも飽きてきて、「この後どうしよう?」と考え出した所で携帯がヴヴヴヴッ!と震える。
戻って来い、という連絡だろうかと携帯を確認すると、美鈴さんからのメールだった。
メールの内容は、というと

 From : 御坂美鈴
 題名 : 到着
 本文 : 正門にて待つ! 急いで来るように。

とだけ書いてある。
自身の都合は確認してくれないのだろうか?と思うと少しやるせなかったが、美鈴さんに確認しておきたい事もある。
結局、上条は正門に向かう事にした。

あれから、正門へと移動してきた当麻は辺りをキョロキョロと見回していた。
おかげで、ここに来るまでに残りのチラシは全て捌けたが、肝心の美鈴さんの姿が見当たらないのだ。
「どしたのよ? アンタ、さっきからキョロキョロしてるけど… 思いっきり挙動不審者よ?」
「ん? いや実はな… 美鈴さんを探してるんだけど、見つからなくってさ。 確認しておきたい事もあったんだけど、居ないみたいなんだよなー。」
「……確認したい事って、ひょっとして私の事だったりしない?」
「おー、そうそう。 良く分かったな。 ってあれ? ひょっとしてそのこ―――」
その声は美琴か?と言おうとしたが、途中で横から激しい衝撃を受けた当麻はバランスを崩して倒れた。 その痛みにすぐには立てず、その場にしゃがみ込む。
自分が居た場所をみやると、美琴が攻撃した構えを解く所だった。
「げっ! 美琴サン!? うぅ…… 電撃攻撃(ビリビリ)じゃなかったとはいえ、お願いですから不意の鉄山靠(テツザンコウ)は止めて頂けませんでせうか?」
「そこ! 『げっ!』ってのは一体何っ!? ったく、普通に会話成立させといて私と認識してなかった、ってのはどういう事かしら?
 そ・れ・に、少しの間会わなかっただけでしょ! 何でそうアンタのスルー能力(スキル)は斜め上にレベルが上がってんのよ!!」
涙目(少しの演技込み)で抗議してみたものの、見事にスルーされたようだ。
スルー能力と言われても… と思ったが、言わないでおく。 これ以上の攻撃、ましてや電撃攻撃が飛んできてもたまらない。
まだ痛さは残るものの、立ち上がり
「美鈴さんから連絡が来て、美琴がここに居る。 って事は、一応今日だけでも自由に観て回れるようになったんだよな? いやぁ、良かった。」
美琴を見て安心した気持ちを素直に口に出した。
「アンタが母さんに頼んでくれた、ってのは聞いたわ。 ……ありがと。」
最後まで言い切る前に、美琴がプイッと横を向いてしまったのと、微妙に声が小さくて良く聞き取れなかった。
(最後はありがとう、って言ったんだよな?)
どう美琴に伝わったのかは分からないが、とりあえずこうしてここに居る。 それだけでも、美鈴さんに電話して良かったと思えた。
美琴の態度は相変わらずな部分もあったが、気のせいかいつもよりも大人しい。
ふと違和感を覚えたが、余り余計な部分に触れて機嫌が悪くなっても困る。 無難に話の方向を変える事にしてみた。

「改めて聞くけどさ、美鈴さんも来てるんだよな? どこに行ったんだ?」
「見ておきたい所がある、って途中から先に行っちゃったから分かんないわよ。 『とりあえず当麻くんは呼んどいたから、2人で校内でも観てきなさい』だって。 …どうする?」
「んー、まあ俺もちょっと飽きて来た頃だったし… 良いぞ、一緒に観て回るか。」
クラスの呼び子という任務もあったが、頼まれていたチラシも配り終えたので問題はないだろう。
そんな事を考えていると、視界の端で美琴がササッ!と一瞬だが動いた気がした。
「ん? どうしたんだ?」
「な、何でもない… 何でも。 アハッ、アハハッ。」
(良くやった! 私っ!!)
美琴はわざとらしい返事と笑顔でごまかす。 上条が視線を外した隙を見て、思わず胸の辺りで両手を握り締めていたのだ。
それを慌てて元に戻した所だった。 我慢できずに喜びをポーズにしてしまったのが、どうやら少しだが見られたらしい。
だが幸いにも、何をしていたという細かい所までは完全にはバレなかったようだ。
密かにしてきた(と言っても、美鈴にしてもらったのだが)ナチュラルメイクの事や、香水の事に付いて触れてくれないのは残念だった。
しかし、美鈴と詩菜という大きな味方が出来たからだろうか。 いつもよりは素直に話せている事に美琴は感謝していた。
「と、とにかくっ! 早速いきましょ? さっきパンフ見てたら、気になった所もあったし。」
そう言うと、有無は言わさないとばかりに上条の手を取り歩き出す。
さて、どれから観て回ろう?と悩みかけたが、今日は何でも楽しめそうだ。
何故なら、隣には当麻が居て2人で一緒に観て回れる。 諦めていた希望が叶ったのだから。


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