とある魔術の禁書目録 自作ss保管庫

Part03

最終更新:

mtfs522

- view
だれでも歓迎! 編集


What's goin' on?


11月上旬―――

一端覧祭もあと2日に迫ったある日の夕方。
いつもの様にぎゃあぎゃあと河川敷で騒ぐ2つの影。
『いつもの様に』と言っても少し違う所がある。 それは片方はツンツン頭の少年、もう片方はツインテールの少女という事だ。
流石にうんざりしてきた上条は、中々諦めない少女に向かって叫ぶ。
「いい加減にしろって、白井!」
「ですから、先程から『良い加減に痛めつけて終わりにして差し上げます』と言っているでしょう?」
即座に返事が返ってくる。 が、それは期待していた内容とは程遠いものだった。
「そういう意味での『いい加減』じゃねー!!」
思わず振り返ってツッコミを入れた瞬間、白井の身体が消える。 それを見た上条は咄嗟に真横に避けた。
ヒュン、という小刻みに響く空を裂く音がする。
先程まで自分が居た位置を見やると、案の定白井が上空からドロップキックを放っていた。
次の瞬間、白井が再び消える。
(次は…!?)
必死の思いで左側へ構えると、案の定白井が左側面から現れ体当たりをしてきた。
寸での所でそれをブロックし、右手を白井の身体へ当てる。
幻想殺しで空間移動(テレポート)を抑えつつ、白井がこれ以上攻撃してこない、と感じた所で声を掛ける。
「これでお終いだ、白井。」
自分の空間移動を封じられた、とようやく諦めたのか白井はしばらくして離れた。
一応攻撃は止めてくれたようだが、その表情は依然として納得していない事を表している。
お互いが息を整え終わった辺りで質問が来る。
「…何で左から来ると分かりましたの?」
「うーん。 何で、と言われても… 勘とか?」
「クソ忌々しい回答ですわね。 やはり、その脳天をブチ抜いて差し上げましょうか?」
言うや否や、再び金属矢を構え直そうとしている。
「待て、落ち着けって! 今のは冗談だから!!」
「勝負の直後に冗談を言える、という所が人の気を逆撫でしているんですの。」
そこまで言った所で、これ以上相手にするのはバカバカしい、とでも言わんばかりに白井は溜め息をついた。
「真面目に話すとさ、さっきのやり取りで一旦俺の動きが止まったろ? そこから仕掛けるなら、俺の体勢を崩してくると思ったんだよ。
 そう考えるとまず、お前なら後ろからの不意打ちキック。 んで、もしそれが決まらなければ避けた方向を確認しつつ、体当たりでもして崩すのを狙うんじゃねえか?
 で、だ… 俺の体勢を崩した後も空間移動を使うなら、まず右手は避けて攻撃するだろうしな。」
そう言いつつ、上条はぽりぽりと頬を掻く。
「そりゃお前が本気で俺を倒しに来るなら、体内に金属矢を転送して傷付ければ一発だけどさ。 御坂の事を第一に考えるお前なら、そんな攻撃は今はまずしてこない。
 だとしたら… と思っただけだ。」
「完全に読まれてますのね、私の行動は。」
「いやいや… 普通のやつなら完全にやられてるだろ、あれは。」
「そうやって、何気なく『自分は普通じゃない』とアピールされるのはいかがなものでしょう?」
白井に言われ、ふと何故かここ数ヶ月の出来事を思い出してしまう。

(そういえば、10月上旬にはアビニョン上空からポイ捨てされたっけ…)
(それに、覚えてるだけでもここ数ヶ月で入院回数が…)

脳裏に過ぎったこれまでの事を思い出し、上条は頭を抱えてしゃがみ込んだ。
気のせいか、どんよりとしたオーラが自身の周りを包み込んでいる気がする。
「どうしたんですの? 急に。」
「いや、今更ながらここ最近の環境に落ち込んでただけだ…」
基本的に自身に降り掛かる不幸には慣れきって、直接的なダメージに関してもやたら打たれ強いという自負は少なからずあった。
しかしいくら打たれ強いとは言え、今自分が置かれている状況とは出来れば手を振って別れたい。 が、考えれば考える程それはまだまだ先のように感じられた。
「―――何というか、不幸だ…」
このまま少し落ち込んでいたい気分だったが、白井が呆れた様子でこちらを見ていた。 仕方ないので無理やり気持ちを切り替える事にする。
立ち上がり、白井の方を改めて見やる。 今日も疲れているので早く終わらせるべく、
「それで白井、今日の勝負とやらは終わりで良いか? そろそろいつものアレを渡したいんだが。」
と切り出した。
「あら… あなたから切り出した、という事は負けを認めるおつもりでして?」
「相変わらずの減らず口だな、オイ… こっちは勝ち負けなんて拘ってないが、どうせお前も疲れてるんだろ?」
「私は疲れてなんておりませんわよ?」
と強がった答えが返って来たが言い返してやる。
「ウソつけ。 ここ最近、準備やら風紀委員で忙しいのか知らないが、明らかに日を追う毎に疲れた顔してきてるじゃねーか。」
「だっ、誰のせいでこうなっていると―――」
「はいはい。 どうせ上条さんが原因ですよー。」
適当にあしらいつつ、今日の分のメディアを渡す。 白井はそれを受け取ると、新品と開封済みの2つのメディアを上条に渡してきた。
「さて、そろそろ上条さんは帰るとしますか。 あっ!そうだ… お前も、パソコン部品なんて嵩張る物ばかり集めて余り御坂に迷惑かけるなよ? それじゃー。」
白井に手を振り、背を向けて帰る事にする。 呆気に取られているように感じられたが、気のせいだろう。
(特売には間に合わないだろうが、スーパーにでも―――)
買い出しの事を考えつつ歩き出した瞬間、ゴキィ!!という鈍い衝撃を後頭部に感じた。 自分の身体がゴロンゴロンと転がる。
「あ、あなたと言う人はっ! そういう余計な事は言わなくても結構ですの!!」
ドロップキック状態から見事着地した白井は、それだけ言うと怒って帰って行ってしまった。
そんな後姿を見送った所で、イテテッ、とようやく立ち上がる。
「御坂が動画(メッセージ)の中で迷惑がってたんで注意してやったんだがなぁ… パソコン部品なんて無駄にデカい箱に入ってたりしてるらしいし、一体何が気に食わなかったんだ?」
自覚無しに他人の触れて欲しくない部分を弄った事には勿論気が付かず、上条はしばらくそんな事を考えていた。

◆         ◇         ◆         ◇         ◆

同日夜 とある学生寮―――

あの後スーパーで買い物を済ませ、ようやく上条は寮へと帰ってきた。
薄っぺらな鞄をその辺に投げ、買って来た食材を冷蔵庫へとしまう。
するとそこへ三毛猫が足元にじゃれついて、『お腹減った! 待ちくたびれてお腹減った!』とアピールしてくる。
(そういや前は、帰ってきたらインデックスが腹を空かせて待ってて、とにかく急かされたなぁ…)
三毛猫の健気なアピールを見て、ふと少し前まで居た同居人を思い出した。
インデックスが居た頃は、帰宅して一息する間もなく夕飯作りをしていた。 空腹のまま放置すると、自分の頭に噛み付かれるという危険があったからだ。
(ま、あれはあれで今思い出すと楽しい毎日だったのかもな…)
すぐに噛み付いてくるのは勘弁して欲しかったが、会話相手が居た、というのはそれなりに楽しかった。
インデックスが向こうで寂しがっているのではないかと思い、上条が学園都市に戻ってきてから三毛猫を英国へと再び送ろうとした事が一度ある。
が、ケージに移そうとした所で盛大に引掻かれ逃げられた。
どうも、以前英国に送った際の事を三毛猫なりに思い出したらしい。 その一件で心を閉ざしてしまったらしく、数日間近寄ってさえもらえなかった。
そんな感傷に浸りつつ、キャットフードを専用の皿に出し足元に置く。 それを見た三毛猫は『待ってました!』と言わんばかりに食べ始めた。
「さて、それじゃ自分の分も用意しますか。」
やっと食事にありつけて幸せそうな猫を見つつ、上条は自分の夕飯作りを開始した。
夕飯作り、と言っても今日は少し遅くなってしまったので比較的簡単に作れるメニューだ。
豚肉の生姜焼きに洗ったレタスを適当に千切って添えたものと、エノキとマイタケのキノコ類に油揚げの入った味噌汁。
それらを慣れた手つきで作り、ささっと盛り付けをする。 あとはご飯が炊き上がるのを待つだけだ。
炊き上がるのを待つ、と言ってもそれ程待つ訳でもない。
適当にテレビを付け、明日の天気予報などを見ていた所で、ピィーと電子音が聞こえた。 どうやらご飯が炊けたようだ。 

上条は寝間着姿に着替えていた。
あれから夕飯を済ませて洗い物を終え、風呂にも入ってやっと一段落着いた所だ。
少々眠くなってきたが、日課となっている美琴とのメッセージのやり取りをどうするか考える事にした。
一昨日、一端覧祭が始まったらメッセージのやり取りを終えないか?と伝えていた為、こちらから送るのも今夜で最後となる。
(さて、今日は何を話せば良いだろう…?)
そんな事を考えつつコタツの傍に一旦座り、まずは今日白井から受け取ったメディアを携帯へと差込み中身を先に確認する。
中身は何と言うか… 今日も美琴は美琴らしかった。 少し寂しげだったのは気のせいだろうか。
最初にもらったメッセージこそ、「少し疲れているかな?」とは思ったが日を追う毎に元気にはなってきているようだ。
―――とは言っても、常盤台での周りの生徒との付き合いやら一端覧祭の準備やらで別の意味で疲れているようではあったが…。
(いつも通り元気にはなったみたいだし、無難に今日学校であった事にでもしておくか…)
ここ数日で一通りの事は話していた為、とりあえず無難に学校で起こった出来事などの話を携帯で撮り始めた。
話している途中で、適当に肘を付いた。 その瞬間、ドン、という揺れがコタツに走る。
すると、コタツの上でまどろんで居た三毛猫が目を覚ました。 三毛猫は、こちらを見つつフッー!と徐々に威嚇を始めた。
それはまるで『ちょいと兄さん! 人がせっかく気持ち良く寝てたのに邪魔しますか!?』と怒っているように感じられる。
気のせいですよね? その位じゃ怒りませんよね? という上条との願いとは裏腹に、三毛猫は早速襲い掛かって来た。
「だあぁっ! 不幸だあぁぁーー!!」
今夜も上条の絶叫が響く。


結局、美琴へのメッセージは近況報告の途中から猫との格闘&必死に猫を宥める内容へと変わっていた。
そんな自分の姿が少し情けなかったが、今更撮り直すのも気恥ずかしいのでそれで良しとする。
「明日くらいは白井も素直に受け取ってくれると、楽なんだけどなぁ…」
そうボヤいた所でふと思い出した。 ここ最近、心身共に疲れて後回しにしていたもの。

「…一端覧祭も自由に観て回る事もできないかもしれません。」

そう言っていた白井の言葉を思い出す。
一端覧祭の期間の直前過ぎて危ないかもしれないが、急いで携帯を手に取りある所へと電話を掛けた。
トゥルルル… しばらくコール音が響いた後、「もしもし?」と相手が出たのを確認する。
「あ、夜分遅くにすみません。」
『あら。 上条くんから電話してくるなんて珍しいわね。』
「少し話があるんですけど、御坂さん大丈夫ですか?」
『ええ、大丈夫よ。 どうしたの?』
美鈴はまだ寝ていなかったようだ。 上条は恐る恐る質問をしてみる。
「えっと、御坂さんて一端覧祭は観に来たりしますか?」
『大学の方もあるし、行くわよ? それに、久しぶりに美琴にも会いたいし。』
「マジっすか!? 良かったー。」
『どうしたの? そんなに喜んで。』
返答を聞き、思わず安堵の声が出る。 もし美鈴が一端覧祭に来ないようであれば、他の案は今の所思い浮かんでいなかったからだ。
安心した所で、上条は本題を切り出す事にした。
「実は今回、御坂さんにお願いがありまして…」
『お願い??』
「はい。 実は御坂… あぁ、美琴さんの事についてなんですけど…。」
『美琴ちゃんがどうかしたの?』
「今回の一端覧祭の期間中、どうも『学校での用事』が忙しいみたいで、自由に観て回れないみたいなんですよ。
 でも、本人は自由に観て回るのを楽しみにしてたらしいんで、せめて最終日だけでも御坂さんに連れ出してもらえないかな~? なんて思いまして。」
そこまで伝えた所で、美鈴の反応を待った。
『う~ん。 でもそれなら、私よりも上条くんが連れ出した方が早くない?』
「俺じゃ学舎の園の中までなんて入り辛いですよ。 寮の方も一応知ってますけど、俺が迎えに行ったとしても迷惑だと思いますし。
 それに、申し訳ないんですがクラス企画とか色々と忙しくて、中々抜け出せそうになくて。」
確かに美鈴が指摘したように、自分で連れ出すのが一番だとは思った。
だが抜け出した場合、クラスの連中(特に吹寄)からの制裁が怖かった。 他にも、担任の小萌先生との約束もある。
それに、抜け出して自分が迎えに行った所で美琴以外の寮生などからどんな目で見られるか分からない。 だからこそ美鈴に連絡した訳だが…
『なるほど、それで私の登場と言う訳ね。 …良いわよ、その役を引き受けても。』
「本当ですか!?」
少し間が空いたが、了解してくれたようだ。
『その代わりに、と言っては何だけど… 最終日の前辺りのどこかで、上条くんと会えないかしら? 日中が忙しいなら夜でも良いからさ。』
何だろう?と思ったが、美鈴と会う位でこちらのお願いを聞いてくれるのならそれに越した事は無い。
「分かりました。」
『それじゃあ、会う日は5日目辺りでどう? 待ち合わせの時間と場所は第7学区の○○駅に17時頃で良いかしら?』
「それで大丈夫だと思います。 もし何かあった場合は、改めて連絡入れますので。」
『おっけ~。 楽しみに待ってるわ。』
「それじゃ、夜分遅くに失礼しました。 お休みなさい。」
電話を切った後、何を楽しみにしているんだろう?と疑問に思ったが、上条はそのまま大人しく寝る事にした。

◆         ◇         ◆         ◇         ◆

一端覧祭 5日目 夕方―――

未だに減りそうも無い人混みの中を上条は第7学区内のとある駅へと走っていた。

―――すみません。クラスの片付けと明日の準備で時間より少し遅れると思います。

と、前もって美鈴に連絡は入れておいたものの、出来るなら遅れたくはない。
急いで用事を済ませたものの、人に当たって起こるかもしれない不幸(トラブル)を回避する為に特に人が多い場所では走るのは避けた。
最後の角を曲がり、待ち合わせの駅を目指す。 何とか当初の待ち合わせ時間位には到着出来たようだ。
息を整えつつ、美鈴が何処に居るのか確認する。 と、柱の影にその姿が見えた。
「お、お待たせしました。」
「あら! 急いで来てくれたのね。 嬉しいわー。」
ニッコリと笑い、美鈴は切符を渡して来る。
「上条くん、夕飯はまだよね? せっかくなんで一緒に食べに行きましょ。」
「ええ、OKですよ。 そんなに高くない所であれば大丈夫でしょうし。」
「それじゃ早速、移動しましょうか。」
何処へ向かうのか教えてくれないのが少し怖かったが、上条は着いて行く事にした。


2人は第4学区の繁華街へと移動してきていた。
今居る第4学区は食品関連の施設が多く並ぶ学区で、専門店も多い。
専門店が多い、という事はやや価格帯の高い店も多かったりする。 店に入るには第15学区の繁華街よりも気を付けたかった。
(うぅ… 気のせいか、高そうなお店に向かっている気がする。 どの店に入るんだろう?)
念の為を考えて、それなりに持って来てはいた。 が、もし足りなくなったら?と考えると不安になる。
あれこれと考えていると、ようやく美鈴が店の前で立ち止まった。
店の看板を見ると「しゃぶしゃぶ・京懐石 ××亭 △△店」と書かれている。
(こ、これは! なけなしの食費が飛んでいくフラグか!?)
どうしよう? と内心穏やかでなくなって来た所でそんな上条の見透かしたかのような言葉が来た。
「今日は私が奢ってあげるから大丈夫よん。」
「いや、申し訳ないです…」
「いいのよ、お金は気にしないで。 それに、いつぞやのお礼もまだちゃんとしてなかったし。」
これ以上の意見は受け付けないわよん、と言わんばかりにさっさと美鈴は店の中に入って行ってしまった。
仕方が無いので慌ててその背を追いかける。
美鈴が名前を告げると個室の座敷へと通され、向かい合う形で座る。
「み、御坂さん。 こ、こんな高そうな所でご馳走になっちゃって本当に良いんですか?」
「男の子なら、いつまでも細かい事は気にしない! それと『御坂』じゃなくて、『美鈴』って呼んで。
 聞いてて何だか言いにくそうだし、私としてもそっちの方が気楽で良いわ。 もちろん、美琴ちゃんの方もね。
 それと、私も『当麻くん』って呼んでも良いかしら?」
「ええ、もちろん良いですよ。」
そんな会話をしていると、店員が先付・お造り・季節の八寸… と料理をテーブルに並べ始めた。
「とりあえず、まずは料理を楽しみましょ。」
出てきた料理の豪華さに驚いている上条に、そんな嬉しい提案を美鈴はしてきた。

最後のデザートが出され、食事も一段落着く頃である。
「そんなに美味しそうに食べてくれると、誘った方としても嬉しいわ。」
と、美鈴が嬉しそうに話した。
「さて、っと… 食事も一段落着いたし、それじゃお話に入りましょうか。」
美琴を連れ出す件でも話すのだろうか?と上条は首をかしげる。
「私としては、最終日に美琴ちゃんを連れ出すのは全然問題は無いんだけど… 少し気になる点があるのよねー。
 その点について、3つ程質問させてもらっても良いかしら?」
何を聞かれるんだろう、とつい身構える。
「…答えないとダメですか?」
「答えたくなかったら、別に無理に答えなくても良いわよん。 ただその場合、最終日に美琴ちゃんに『な・ぜ・か』会えない気がするなー。 私。」
そういって、ニコッと美鈴は微笑んできた。 微笑む、と言ってもその笑みには他意があるのが手にとって分かる。
(こ、これは逃げられそうに無い気が…)
そう諦め、上条は素直に答える事にした。
「俺の負けですよ。 俺が答えられる範囲でなら、答えようと思います。」

「流石ねー。 それじゃ早速1つ目の質問。 当麻くんは美琴ちゃんと仲が良いみたいだけど、どういう風にして知り合ったのかしら?」
いきなり困った質問から来た。 美琴とは記憶喪失になった以前から出会っていたらしいが詳しくはまだ知らない。
仕方無いので、以前美琴から聞かされた話を思い出し、自分の記憶と併せて繋いでゆく。
「夏休みの頃… 美琴と出会ったんですよ。 実は俺、ちょっと特殊な能力がありまして。
 それで美琴が放った電撃を無効化したのが気に入らなかったらしくて、それからは色々と勝負とか… してました。」
「うちの子が高校生の子と知り合うってのも、どういう偶然なのかな?って思ってたんだけど… 中々強烈な出会いだったのね。 何と言うか、うちの子らしいわ。」
(そんな出会いから、何であの子は惚れちゃったのかしら? ますます気になるわね。)
と、一番聞きたい事に関して美鈴は興味が大きくなりつつあった。 その思いを抑えつつ質問を続ける。

「それじゃあ、2つ目の質問。 当麻くんは、美琴ちゃんと勝負したり話したりするのは嫌だった?」
その質問に対し、上条は少し困っていた。 普段そんな事を改めて考えた事など無い。
少しの沈黙の後、
「どちらか? で言うなら… 嫌、ではないかな。 ただ、街中で急に電撃を放ってくるのは勘弁してもらいたいですけどね。」
と苦笑しつつ答えた。
(きっと、素直に話しかけたいのに照れてつい電撃攻撃しちゃう。 って所かしら? はぁ… うちの子の健気さに聞いてて涙が出てくるわね。)
答えを聞いてその際の我が子の様子を容易に想像出来てしまい、美鈴は同情した。
そしてふと思った点について、上条に更に突っ込んでみる。
「いきなりそんな事されたりするのに、嫌では無いの? まさかっ!? 当麻くんにはそんな趣―――」
「いや、断じてそんな趣味はありませんからっ!!」
言い終わる前に即答される。
更に、「何を言いたいか、上手くまとめられないかもしれませんけど」と前置きを付けつつ上条が答える。
「実は俺、小さい頃から不幸を呼び寄せてしまう体質があるんですよ。 そのせいで学園都市(ここ)に来るまではいじめられたりとか色々とあって…。
 でも、学校の連中はそんな事も全部まとめて笑いとばしてくれるんですよね。 だから俺も『不幸だー!』って言って流す事が出来てる。
 だからそんな連中との普段のやり取りも楽しくて… って、あー。 いつの間にか、友達の話になってるな…」
そこまで言うと上条は頭をガシガシと掻き、必死に言葉を紡ぎ出そうとした。
「何ていうかその… 美琴と話したり、勝負したりしてると、学校の連中とはまた違う意味で楽しいというか… 楽になれるような気はします。
 うーん… やっぱり上手くまとめられそうにないです。 すみません。」
「謝らなくても良いわよ、別に。 急な質問だしね。」
(とりあえず、美琴ちゃんに対して嫌な印象は持ってない。 かな? でも、当麻くん自身は美琴ちゃんの事をどう見てるのかしら…)
必死に言葉にまとめようとする姿を見て、興味が更に沸いてくる。
その姿が適当にごまかそうとしているものではない、と自然と伝わってくるのも、美鈴には印象が良かった。

「それじゃ最後、3つ目の質問ね。 そんな当麻くんがそこまで美琴ちゃんの心配をしてくれている理由は何かしら? 出来ればで良いから、聞かせて欲しいな。」
そう言って優しく美鈴は微笑んできた。 その微笑は先程のとは違い、母親として娘へ向ける愛情が感じられるような気がした。
(急に「あの約束」を美鈴さんに言うのも何だしな… 言って変に美琴に伝わるのも避けたいし。 参ったな…)
どう答えたら良いのか思いつかず、上条は考え込んでしまう。
少しの沈黙の後、
「敢えて言うなら……… 美琴が悲しむ所はもう見たくないから、だと思います。」
と、あの夏の日に感じた事を思い出しつつ答えた。 これなら「あの約束」を出さずとも外れない。
だが、「えっ!?」っと美鈴が聞き返してきた。 少し驚いているように見える。
変な意味に取られただろうか?と焦り、上条は更に続けた。
「知り合って半年も経たないような間柄ですけど、偶然もあって美琴の色々な面を見てきたんですよ。
 まあその中には、俺の不幸体質に巻き込んで… ってのがあったかもしれないのは否定出来ませんけど。
 ただ、色々と見てきて思ったのは、美琴はやっぱり笑ってる方が合ってるかな。 って事ですかね。」
自分の柄に合わない事を言ってるかも、と言って上条はバツが悪そうに頭を掻く。
「あっ! 俺が余計な事言ったとかがバレると、後で強烈な電撃攻撃(ビリビリ)されそうなんで、今言った事は出来ればオフレコで…」
「大丈夫よ。 美琴ちゃんには今日の事は話さないから、安心して?」
そう言って、美鈴は街中で急に飛んでくる電撃攻撃の怖さを思い出したらしい上条を安心させる。
「それに、今日は私の質問にちゃんと答えてくれてありがとうね。 当麻くんのお願い通り、美琴ちゃんもちゃんと連れ出してあげるから。」
と付け足した。 そこまで話した所で、
「あら! 気が付いたらデザートのアイスが溶けちゃってるわ。 残念…。」
話に夢中でいつの間にか半分程溶けてしまったアイスを発見し、美鈴は少し落ち込んだようだ。
「そうだわ! ちゃんと食べれないのも悔しいから、アイスお代わりして出ましょうか。」
が、落ち込んだのとは打って変わって、良い事思いついた!と云わんばかりの笑顔に上条も思わず笑みがこぼれる。
上条は美鈴の提案を素直に受け、2人でアイスに舌鼓を打つ事にした。


宿泊先のホテルへと戻ってきた美鈴はベッドへと腰を下ろした。
(上条当麻くん、か…)
そして、先程まで一緒にいた少年を思い出す。
最初にその姿を見たのは大覇星祭の初日。 我が子を探していて見つけた時、傍に居た子だった。
娘と一緒にぎゃあぎゃあと騒ぐその光景は、最初こそ『青い』とも思ったが見ている内に段々と『微笑ましい』とも思った。
親バカと言われてしまうだろうが、自分の娘は普通のレベル以上には可愛い、という自負もあった。
確かにガサツな面や子供っぽい面などもまだあるが、普段はそれをおくびにも出さない。
だからこそ、言い寄ってくる男の子はそれなりに居るだろう。

「常盤台のお嬢様ってのと、レベル5ってので興味本位で言い寄ってくるバカが多くて困るのよねー。」

と溜め息交じりでウンザリと話していた事もある。
だからこそ、彼にも年相応の下心がそれなりにあると思っていた。
が、返って来た答えは予想外だった。
(悲しむ所はもう見たくない、か…)
その言葉を発した際の彼の表情。 きっと、彼自身もまだ気付いてないであろう。
それはまるで、自分の彼女を見守るかのような答え。 しかも、それが当たり前のように。
(あんな言葉をサラっと言う割りに、美琴ちゃんの事を好きとか思ってなさそうなのも意外よね。)
上条当麻の母親である詩菜とは家が近所という事もあり、良くスポーツジムや互いの家などで話をしていた。
その際、彼の特異な体質やそれが元で起こった事件、更には彼についての人となりなども話として聞いていた。
自身の不幸など気にせず、自分よりも周りを気遣い、そして助ける。
実際、大覇星祭の直後に美鈴は彼に助けられていた。
その時襲ってきた相手(スキルアウトと言ったっけか?)に言い放った言葉。 勝負の後、血まみれになっても倒れなかった彼の姿。
そして、更に今日の言葉である。
…何となく、我が子が彼に惚れた理由が分かった気がした。
あんな姿を見せられたり、言葉を聞いたりした、としたら確かに惚れてしまうのかもしれない。
あの時はただ護衛のような事を願ったが、今は違う思いで言える。
(当麻くんが美琴ちゃんの事を彼氏として守ってくれたら嬉しいんだけどなー。 でも、鈍感そうなのが問題よね…)
そう考えた所で、彼とのやりとりをふと思い出した。

「…御坂さんに連れ出してもらえないかな~? なんて。」

(確か「連れ出して欲しい」とは言ってたけど、「何処へ」とまでは言って無かったわよね?)
そこでまで考えた所で、とある事を思いつく。
(美琴ちゃん弄りも久しぶりに出来そうだし、これは面白くなりそうだわー。)
ふふっ、と笑みを浮かべると、美鈴は何やら携帯を操作し始めた。

◆         ◇         ◆         ◇         ◆

一端覧祭 6日目 午後―――
常盤台中学学生寮、208号室。

「あー、今日も疲れたわ…」
そう呟いてベッドへと倒れ込む。
美琴は一端覧祭が始まって以来、1日に午前・昼過ぎ・午後の3回、常盤台中学の案内係(ガイダンス)をしていた。
3回、と回数だけ聞けば少なく感じるが、1回に案内する人の量は多い。
通常だと、限定的とはいえ常盤台中学の校内が公開される日となる為、常盤台への進学を考える本人とその親族が見学のメインとなる。
そんな期間中に、学園都市に7人しかいないレベル5の第3位が直々に案内をしている。 となれば、冷やかしで来る者も自然と増えた。
美琴だけであれば、そんな客達のマナーの悪さに問題を起こしていたかもしれない。
だが、何人か居るサポート役の内の一人として土御門舞夏が入り、美琴を特に手助けしてくれていた為に目立った問題も起きず無事6日間経った。
(舞夏には本当に感謝よねー。 これで後は、あの馬鹿の様子を把握出来れば問題無いんだけどなー…)
しばらく交換していた動画(メッセージ)のやり取りで、上条の方も何とか元の生活に戻っている事を知り安心した。
そして、やり取りはこのまま続くもの、と思っていた。 だがそれも、一端覧祭間際に上条からの提案で終わってしまった。
本当は期間中も続けたかったのだが、引き伸ばす為の理由が思いつかなかったのが悔しい。
しかし一方で、そのまま続けるというのも協力してくれていた黒子にも申し訳ない、という思いもあって素直に応じた。
一端覧祭期間中は風紀委員の仕事も忙しくなるだろう。 その邪魔はしたくなかった。
今までの状況からしてみれば、こちらの我侭に上条が付き合ってくれただけ良かったのかもしれない。
(あっー、もう仕方無い! また動画でも見直すか!!)
同室の黒子は今居ない。 学校に居るか風紀委員の仕事だろう。 ゆっくりとメッセージを見直すのであれば今の内だ。
美琴は起き上がって机へと移動し、PDAを立ち上げる。
起動が完了した所で、どれを観ようか考える。 少し迷った後、結局一番お気に入りの動画を選択した。
その動画の内容は、上条が話し途中で猫に引掻かれ、そのまま必死に猫を宥めているものだった。
話自体も面白い内容だったが、上条の寝間着姿も知る事が出来た。 猫を飼っているという事も分かった。
他に、一つ気になる点もあった。
(最初の動画に比べて、してなかった湿布とかあるしそれが多いのよね…。 ひょっとして、また何か巻き込まれてたりしないでしょうね?)
そこまで考えた所で、美琴はこれ以上心配するのは止めた。
黒子も、
「お姉さまが心配されているような事は何も起こってませんわよ? 安心して下さいな。」
と言っていたではないか。
とりあえず、今は動画で気分転換でもしよう。 と改めて観始めた。

途中で一時停止したりスロー再生にしつつ動画を眺めていると不意に、ズバンッ!と勢い良く扉が開かれた音がした。
急な来訪者に、急いで操作していたプレイヤーを終了させる。
「みさかみさかー。 入ってもいいかー?」
「ちょ、ちょっと舞夏! こっちが答えても居ないのに入るんじゃないわよ!!」
PDAを急いで終了させつつ後ろを確認すると、入って来たのは土御門舞夏だった。
「どうせヒマ潰しをしてただけだろー? 例えば、何かの動画でも観てたとかー。」
思わずビクゥッ!と美琴の背筋が伸びた。
「なんでそこまで詳細に言い当てるのよ…」
「メイドたる者、使える主人の行動や考える事などは事細かに予想・把握していないとダメだからなー。」
あなたの予想は正解です、と思わず告げてしまっている事は気にせず、えっへん!と得意げな舞夏を見やる。
舞夏は手元にビニール袋やら箱やら色々と持っていた。
「で? 何か持ってきたみたいだけど、どうしたの?」
「みさかは最近寮で暇してるんじゃないかと思ってなー。 だから、今日は面白い仕事(モノ)を持ってきたんだぞー。」
そこまで言うと、ビニール袋の中からジャージを1セット取り出し美琴に渡した。
今ひとつ状況がつかめず、ジャージ?と首をかしげる美琴に舞夏は続ける。
「実は全部で3セット分あるんだが、そのうちの1セット分のジャージの裾上げと、腕の部分のカットなどをお願いしたいんだー。」
「それって、私がやらなくても舞夏なら十分こなせるんじゃないの?」
「確かに私なら簡単に終わるけどなー。 最近、みさかは同じ事の繰り返し気味でつまらないと思うから気分転換に良いと思うんだがー。
 それに、素直にやった方が良いと思うけどなー。」
気のせいか、舞夏はニヤリと笑みを浮かべている。
その怪しげな笑みが気になったが、動画を観る以外の気分転換をするのもたまには良いかもしれない。
「良いわよー。 確かに舞夏が言うように、何か気分転換したかった所だし。」
美琴は素直に提案を受けた。 早速裁縫道具を取り出し、作業を始める事にする。
「作業するなら、黒子の机とか使っちゃって良いわよ。 もし問題があったら、後で私が伝えておくから。」
「おぉ、流石は話が分かるなみさかー。 股下の長さとか細かい指示はその都度伝えるから、よろしくなー。」
そう言うと、舞夏もビニール袋から自分が作業する分と裁縫道具を取り出し、白井の机で作業を始めた。

作業を始めてから小一時間程経った頃、美琴は言われた分の作業を終えて舞夏の作業を見ていた。
途中、色々と指示はあったが別段これと言って難しいものは無かった。
「舞夏、本当にそっちは手伝わなくて良いの?」
「私ももうすぐ終わるから待ってろー。 しかし流石はみさかだな、それだけ綺麗に出来れば安心してお嫁さんになれるなー。」
急に良く分からない褒め方をしてくる舞夏をいぶかしむ。
「何を急にバカな事言ってるのよ。 常盤台じゃこの位出来て当たり前じゃないかしら。 あと、そんな褒め方しても何も出ないわよ?」
「よし、こちらも完成だー。 いやいや、本心を言ったまでだぞ? それに、それだけ上手ならきっと上条も喜ぶぞー。」
美琴は思わずブハァ!!!! と凄まじい勢いで息を噴出していた。
「なっ! なっ、なんでそこであの馬鹿の名前が出てくるのよっ!?」
「あー。 実はさっき頼んだジャージ、みさかの大好きな上条の衣装なんだぞー。 先に言うと、素直に手伝ってくれなそうだったからなー。」
質問に答えた舞夏は、ニヤリと悪戯な笑みを浮かべている。
アイツの衣装? 何でアイツと舞夏が? 衣装って何に使うの?などと色々な疑問が浮かんだ。
が、その前に一つ引っかかる点に突っ込みを入れた。
「ちょ、何が何だか…… って! だ、誰があの馬鹿を大好きなのよっ!?!!」
舞夏に「大好きな上条の」と言われた時点で、ボンッ!と顔だけでなく耳まで赤くなってしまっている事に美琴自身は気が付いていないようだ。
「あれー? 違ったのかー?」
でもなー、と舞夏は続ける。
「夏休み最後の日にわざわざ寮の眼前で抱きついたり、大覇星祭でもわざわざフォークダンスに誘ってた所を見ると好きだとしかー。」
「そっ、それは確かにやったけど… でも、それにはちゃんとした理由が別にあって……」
美琴は恥ずかしさで俯いた。 徐々に声も小さくなり、最後はごにょごにょと聞こえなくなってしまう。
「ちゃんとした理由ってなんだー?」
追い討ちをかけるような質問が飛んできた。
(うぅ…… どうやって答えれば…)
あたふたと理由を考え始めた所で、
「お!気が付けばもうこんな時間かー。 すまんみさか、急いで衣装を届けないといけないんでまたなー。」
と言うや否や、美琴が仕上げたジャージを受け取る。 そのまま大急ぎで荷物をまとめ、舞夏は部屋を出て行ってしまった。


舞夏が出て行った後、美琴はどうにか立ち直り机に向かっていた。
夕食の時間までの暇つぶしに、再び動画でも観ようかと思ったが止めておく。
もしも誰かが突然入って来ても良い様に、今度は写真を見ていた。 これなら音も無い。
写真はもちろん、上条とのツーショット写真―――ペア契約を結んだ際に撮ったものだ。
(はぁ… あの時、もうちょっと素直になれてたらなぁ…)
ぎこちない表情で写る自分と、何かに少し怯えたような上条がそこには写っていた。
恐らく、黒子のドロップキックに怯えているのだろう。
(ってか、冷静に考えるとアイツとの写真もこれだけなのよねー。 今度、何か考えないといけないわね…)
今度、不意打ちで写真撮ってみるって手も…。 などと考えていると、美琴の携帯が鳴り出した。
ディスプレイには、『母』と表示されている。
あれ?電話って普通に繋がるんだ。 という疑問と、考え事を邪魔された気持ちで複雑になりつつ電話に出る事にした。
『やっほ~。 美琴ちゃん元気にしてたー?』
「元気にしてたわよ。 それで? 何か用?」
無駄に元気そうな美鈴にゲンナリしつつ、適当にあしらう事にする。
『あら… 何だか冷たい気がするなー、今日の美琴ちゃん。 …あ。 ひょっとして、上条くんの写真とか見てたの邪魔しちゃったとか?』
突然の美鈴の推理に、美琴はゴフゥッ!と思わずむせてしまう。
『どうしたの? 急に咳き込んで。』
「な、何でもないわよっ! それに、そんな事してないから!! 夕飯まで暇だったから、明日の練習でもしてたのよ。」
『ふ~ん。 お母さんの推理はハズレちゃったか… 残念だなー。』
一応否定はしてみるものの、見透かされているような気がして何だか気まずい。
少しでも話を逸らそうと、もう一度質問してみる事にした。
「で… もう一度聞くけど、今日は何の用なの?」
『実は今、大学の用事も兼ねて学園都市に来てるんだけど… 明日一緒に一端覧祭を観て回らない?』
「へ?」
急な提案に、思わず間抜けな声が出た。
『大学の用事はもう済んだから、最終日くらい一端覧祭を一緒に観て回りましょうよ。 ね?』
「でも、こっちは明日まで学校で用事があって…」
『あー、常盤台中学の案内係(ガイダンス)の事でしょ。 それなら大丈夫よ、心配しないで。』
いつの間に、どうやって知ったのだろう? などと思ったが、美琴は素朴な質問をしてみた。
「何で案内係の事知ってるの?」
『今年はどうも美琴ちゃんが忙しいみたい、っていう話を「知り合い」から聞いてねー。 それで学校側に確認してみたら、最終日まで案内係をやるって話じゃない?
 だから学校に、「お宅の学校は、親子水入らずで一端覧祭を観て回る事すらさせてくれないのか?」って話してみたのよ。 そしたら、最終日は案内係やらなくてOKだって。』
学校にわざわざ掛け合ってくれたのか、とその行動力に驚いた。
今回は自由に観れて回れない、とすっかり諦めていたので美鈴に感謝する。
「あ、ありがとう…」
『ごめんね。 観て回れるのは1日だけだけど… どう?もし良ければ一緒に一端覧祭を観て回る?』
「うん!」
その心遣いが嬉しくて、美琴は素直に了解した。
『それじゃあ、明日寮まで迎えに行くわね。 時間は9時頃で良いかしら?』
「分かった。 待ってるわ。」
『明日、寮に着く少し前辺りで連絡入れるわね。 それじゃー。』
電話を切った後、ベッドへと移動し腰をかけた美琴は早速明日の事へと思いを馳せる。
(アイツと観て回れれば一番良かったけど… でも、1日自由に観て回れるってだけで上出来よね?)
これでやっと解放されそうだ、それだけでも嬉しい。
そんな事を考えていると、カチャッ、と部屋の扉が開く音がした。
「ただ今戻りましたの。」
「お帰りー、黒子ー。」
とにかく明日は楽しもう。 そう考えつつ、美琴は黒子を明るく出迎えた。


ウィキ募集バナー