とある魔術の禁書目録 自作ss保管庫

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とある妹達編の後日談(アナザーストーリー) 3



「さて、と。着きましたわよ。お姉様」
目的地に到着した美琴と黒子は、自販機の傍にある一脚の長椅子に腰を下ろした。
相変わらず美琴の表情には生気がなく、感情にも乏しい。
それでも、少しばかり、美琴の心境にも変化が表れたようだった。
それは、初春や佐天のような友達でも気付かないであろうほどの、ほんの些細な変化だった。
それはまさしく、白井黒子という存在が御坂美琴という存在に四六時中スキンシップを試みていた故の、結果だった。
それでもまだ、つい先日までの様子と見比べると大差ないというのが、黒子の心を締め付け、痛めつける。

解決する為の明確な方法を、黒子は持ち合わせていない。
黒子は何も言わずに、ただただ、美琴が口を開くのを待った。


10分とも、1時間とも取れるような、長く長く感じた空白の時間を経て、ようやく美琴が口を開いた。

「…わ、私…」
「…」
「…どうしたらいいのか…分からないよ…」
「…」
「…アイツが、目を覚ましたことがないって知った時…目の前が真っ暗になって…何も考える事ができない…」
「お姉様…」
「…アイツと私の間に起こったことは…例え相手が黒子であったとしても、話せないようなことなの…」
「そうでしょうね…。あれだけ初春や佐天さんと一緒に戦っておきながら、今更一人で抱え込んだという事は、それだけお姉様にとっても、私達にとっても危険な事。立場や力、のせいにはしたくありませんが、やむを得ませんわ」
「…ありがとう、黒子…」
「…」
「…」
「…」
「…それでね、その一件で…私は、この世界に、学園都市に、裏切られた…」
「…!!」
「…自分の力で何とかしようとしても、その都度邪魔が入ってね…鼬ごっこ、とでも言うべきかしら…。…とにかく、私一人ではどうしようもなかった…」
「そんな…」
「…黒子には信じられない話かも信じられないけれど…。私ね、死のうって思ってたんだ」
「…え…?」
「…もう、この状態を解決するには自分がこの世から居なくなるしかないって、そう、思ったんだ」
「…」
「…そんな時にね、アイツが、私を助けてくれたのよ」
「…」
「…ヤメテって、こっちに来ないで、って言ったのに、私には救いなんて無いんだから、そんなに事を終わらせたければ戦えって、戦わないならアンタなんか殺してやるって言って、本気の雷撃を何発も何発も直撃させたのに、さ…。その度に立ち上がって、戦わないって、何で私が死ななきゃいけないのかって、そんなのおかしいって言ったんだ…。それでさ、心臓が止まってたかもしれないような雷撃をまともに受けて、気を失って…。私、もうアイツは死んだって、そう思ったの」
「…」
「だけど、アイツは立ち上がった。私の考えもしないようなところから答えを示して、ね…」
「成功、したんですの?」
「ええ、それ自体は…。だから、今こうやって私は生きてるわけだし」
「と、いう事は…」
「…そう。私を闇の中から引っ張り出すだけ引っ張り出しておいて、一人で深みに嵌っちゃったのよ、アイツ…」
「…そ、そんな…」
「…私ね…まだ…『ありがとう』も、言えてないの…」
「…」
「…『ありがとう』って言って、またアイツと勝負したり、売り言葉に買い言葉でケンカしたり、したかったのにな…」

黒子にとって、衝撃的な会話であった。
美琴が死をも覚悟した、上条が美琴を助けた、そういった言葉が耳に流れてくるたびに、黒子の心は痛み、歯痒く思った。
また、美琴の中に居る上条の存在感が、最早自分ではどうしようもないくらいに大きなモノになっていたことも、黒子の心を掻き乱した。
前々から、美琴との会話を上条が占めるようにはなっていたが、流石にここまで来るともうどうしようもなかった。時が立てば解決するだろう、という甘い目論見は、脆くも崩れ去る事となった。

何故なら、上条に対して敵対心を持っている黒子でさえも、上条の存在が美琴にとってのヒーローに映ったのだから。
状況は既に八方塞、自分ではどうすることも出来ない状態に陥り、自らに残った選択肢は『死』のみ。
そんな状況のところに颯爽と現れて、自分の能力の持てる力全てを解き放った一撃を受けてもなお立ち上がり、事態を収束させたのだ。
こんなのはご都合主義的に仕組まれたモノと相場は決まっているはずなのに、それを平然とやってのけたのだ。

ただでさえ少女趣味な美琴が惹かれないわけがない。
ましてや、その相手はかねてから美琴が話題にするアイツこと上条当麻だ。
これは最早、運命と言う名の赤い糸で結ばれているなんてロマンチックな事を言ったとしても、誰も疑う余地は無いだろう。

黒子は思う。
もしかして、いや、もしかしなくても、美琴は上条に恋をしているのであろう。

でも、恐らく美琴は気付いていないし、黒子もそれを気付かせるつもりはなかった。
この感情は、人を縛り付けるものになりかねないということを、黒子は知っている。
この感情は、人によって様々な模様を描く事も、黒子は知っている。
そして何よりも、この感情は、人に言われて気付くものではないと、黒子は知っている。


「お姉様…それは、とても辛いですわね…
「黒子…」
「まだまだ、あの殿方とお姉様にしか分からない事の方が多いのでしょうけれど、それも仕方ない事、なのでしょうし」
「…」
「ですが、お姉様、夏休みはあと一週間ありますの。その間に、しっかりと殿方…上条さんとの思い出に浸り、上条さんが何時目覚められてもおかしくないように、目覚められた時にはいつものお姉様が見せられるように、ご尽力下さいまし」
「…」
「九月に入れば、学舎の園も通常営業に戻ります。きっと、様々な方がお姉様をご心配になられると思いますの」
「そう、よね…」
「ですから、学舎の園ではいつものお姉様であって欲しい、と黒子は思いますの。その代わり、学び舎の園を一歩出れば、そこから先はお姉様の動きたいように動いてもらって結構ですの」
「…!!!」
「私から事情を掻い摘んで初春や佐天さん達にはお話しておきますわ。きっと、初春たちなら協力してくれると思いますの。ですから、日常生活の範囲では、私達が精一杯をお姉様をサポートしますの」

これが、黒子に出来る、精一杯の約束だった。
それでも、美琴の涙腺は我慢の限界を突破してしまったらしい。
黒子は、顔を両手で押さえて大声を上げて泣く美琴の正面に回り、その華奢な体を力強く抱きしめた。
黒子のサマーセーターが、まるで大雨が降っているかの如き勢いで濡れていく。
しかし、今の黒子にとって、そんな事はほんの些細な出来事にしか過ぎなかった。

どれ程の時間が経っただろうか。黒子がふと、空を見上げると、既に太陽は完全に昇りきっていた。
美琴は一頻り泣きじゃくった後、今に至るまでてグッスリと眠っている。
精神的な疲労も重なっているのだろうか、時折苦しそうな表情を浮かべる顔に、黒子の心は痛んだ。
黒子は自身の膝の上に美琴を寝かしていた。
いつもなら、こんな降って沸いた状況を逃がすわけが無いのだが、流石に今日ばかりはそうもいかなかった。
相変わらず人通りの少ない公園ではあるが、それでも何時何が起こるか分からないことに変わりは無い。

今、自分は何をするべきなのか。
美琴に対してどう振る舞い、接していくべきか。
そして何より、今、この状態を打破する為には、どうするべきか。
黒子の導き出した答えは、単純だった。
今のお姉様を街中に出すのは賭けに近い。
あれだけ上条の事を気にしているのだ、自然と足が病院に向かうはずだし、その後の展開は最早想像に難くない。
それならばいっそのこと、暫く寮内で隔離の方が良いのではないか、と黒子は思う。
割とアウトドア志向の強い美琴を寮内で拘束し続けるのは難しいかもしれないが、現状との選択であれば止むを得ない、といったところだろうか。

そうと決まれば話は早い。
黒子は、直ぐに寮監に電話を入れ、美琴と共に寮に戻る旨を告げた後、自分の持てる能力を最大限に活用して、寮へと歩を進めた。

寮へ戻った黒子はその足で美琴を自室へと送り、そのまま事情を説明する為に寮監室へ。
美琴はその覚束ない足取りのまま自分のベッドへと倒れこむと、そのまま頭から布団を被り、その中で体を丸めた。

美琴は、その後の夏休みの間、一度も自室から出ることは無かった。
ただただ、布団の中で体を丸めて、無力感や虚脱感に絶望感といった負の感情に支配された自分の心に、ひたすらに苛まれ続けていた。


~経過報告~
~さる8月21日より当院に入院している患者、上条当麻であるが、依然として意識は回復していない。
脈拍や呼吸などは非常に規則的であり、特に目立った外的損傷は見られないため、回復には時間の経過を見守るしかないものと思われる。
尚、数日後に一時データの取れなかった時間帯が存在しているが、これは患者を見舞いに来た後、一時的に精神に変調をきたした能力者の影響であるものと思われる。
その能力者であるが、精神に偏重をきたした翌日、同居人の手を借りて帰宅した後、消息が掴めておらず、学園都市内での目撃情報も一度として無い。
寮の自室に篭りきりになっていると思われるが、詳細は不明。~

月が変わった。
今日は9月1日。
学生にとっては夢のようだった夏休みが終わり、いよいよ二学期が始まるのだ。
時期、の話をするのならば、うだるような暑さから開放され、身を縮こまらせるしかなくなる冬へと向かう、そんな時期。

もっとも、学園都市に居る大多数の生徒は、能力者で有る無いを別にして、新学期に胸を膨らませていた。そう、二学期といえば、行事である。
今月の大覇星祭を皮切りに、(誰もが嫌がる中間試験を挟んで)11月には一端覧祭、(これまた嫌がる期末試験を挟んで)12月にはクリスマスが待っている。
そういった個別の用事を抜きにしても、部活動を嗜む生徒は最上級生が去った後の新体制のスタートでもあるし、最上級生は最上級生で自分の輝かしい未来を切り開く為の努力を始める時期でもある。
学園都市のあちらこちらで、生徒が一生懸命に何かに取り組む姿が次第に目に付くようになる。そんな時期なのだ。

しかし、そんな学園都市の青々とした空に似た明るい展望を持った生徒達の中で、一人極寒の地へと心を飛ばされたままその心が戻ってきていない少女が居た。
御坂美琴、その人である。

結論から言えば、美琴の心は、約一週間の回復期間をもってしても一向に回復しなかった。

流石に能力制御が出来るくらいには回復しているのだが、如何せんそれも諸刃の剣。
黒子が美琴の望むがままにゲコ太グッズの大人買いをしてみたり(お財布は勿論美琴から)、初春、佐天らが遊びに来たりしたのだが、結果は決して芳しいとは言えなかった。
というか、寧ろ悪化の一途を辿っていた。
流石にゲコ太グッズではそうではなかったものの、美琴の思考の中心が上条一色になっているがゆえに、結局の所、どんな話をしても「アイツなら…」と美琴が考えてしまい、「あ、そうだった」と思ってドツボに嵌る、悪の無限ループに陥っていたのだ。
次第に会話での解決は困難と言うよりも不可能に近い状態にあり、時が経つか上条が意識を戻して元気になるかという、全く先の見えない二択を選ばざるを得ない状況になっていったのだ。

そんな精神状態である。
夏休み中に、黒子は美琴と自分が本来行く予定だったアメリカ・学芸都市行きのキャンセルを申請したのだが、それは受け付けてもらえなかった。
といっても、実際にキャンセルが認められなかったのは黒子だけである。
美琴に関しては常盤台外部寮長からも同様の申請があったことがあり認められたのだが、黒子に関してはわざわざその看病の為に残るというのは出来ない、不安であるのならば一時的に精神病院にでも隔離させれば良いだけだとの通知が来た。
当然黒子はそれに反発しようとしたのだが、その過程で初春と佐天が一緒に学芸都市に行くということを知り、何やら予感めいた不安を感じたことも手伝って、渋々学芸都市行きを決めている。

黒子としては、夏休み明けすぐに学芸都市に行かなければならないということが不安で不安でしょうがなかった。
何せよ美琴が精神に変調をきたして以来、自分の知っているお姉さまな美琴を見ていないのである。
出来れば出発前の二日間位、外面的にでも良いから元に戻ったお姉さまを見ておきたい。そう思っていた。

しかし、神は美琴に残酷であり、非情だった。
常盤台の始業式のイベントとして、超能力者によるデモンストレーションが行われることとなったのである。
外面は常盤台生の学習・開発意欲向上のためだが、実際には休みボケで気合が入っていなかったり、無駄に浮かれていたりする生徒を引き締める目的がある。
常盤台生といえど、所詮は子供。どうしても始業式には浮かれてしまうのだ。
だからこそ、教師が怒るよりも強烈な一撃で生徒の目を覚まさせよう…と考えていたわけだ。

勿論、その役目を任されたのは心理掌握ではなく、美琴である。
目に見えない心理掌握とは違い、超電磁砲は目に見える。単純では有るが、分かりやすい理由である。
美琴は体面を繕い、スッと超電磁砲を放つ体勢を取った。
後はコインを指で一旦真上に弾き、落ちてきたところで正面に向かって放つだけ。
いつもと同じ様に標的に視線を向け、コインを右手の親指と人差し指で挟んだ。

その時だった。
「…え…う、嘘…」
美琴の視界の中の標的が消え、その位置に上条当麻の姿が見えたのは。
8月21日の夜、大の字を作り、美琴の電撃を正面から受け止めたあの体勢。
その姿のまま、凛とした顔で立つ上条の姿が、はっきりと美琴の目に見えたのだ。

「…そ、そんな…そんなこと…」
刹那、美琴の動きが止まった。
微かに手が震えたかと思うと、コインがその手が滑り落ちていった。
そして、コインが地面に落ちたのを一つの合図として、美琴は泣き崩れた。
突然美琴を襲った異変に、その場に居た誰もが身動きを取る事もできないまま、ただただ呆然としていた。

美琴の現状を知っている、黒子一人を除いて。

「まさかの事態、ですの」
黒子は即座に美琴を回収すると、保健室へと駆け込み、そのままベッドで横にした。
まだショックが有るのか、今は少し気を失っている状態である。
「しかし、あんなことになるなんて…」
一頻り落ち着いた頃合いを確認して、黒子は思う。
多少威力に変化はあるかもしれないが、それでも何とか大役はこなせるだろう、と考えていたのだ。
事実、今日ここまでの美琴は見事なまでに今までの御坂美琴を演じきっていたのだ。
「ここまで完璧でしたのに…どうされたのでしょうか…?」
黒子ですらも美琴を襲った謎の感情の変化に、戸惑いが隠せなかった。
しかし、黒子の心を支配したのは、そんな事ではなかった。
お姉様が周りから慕われなくなるのでは、とかそんな事でもなかった。

美琴の心は、もう元に戻れないのではないか?

その疑念だけが、黒子の心を掻き乱していた…。

そんな黒子の不安をよそに、時は流れていく。
常盤台中で精神に変調をきたした美琴を連れて帰った黒子は、美琴に無期限静養が通達された事を知った。
当然ながら、翌日に予定されていたシステムスキャンの無期限延期も、である。
黒子は仕方ないと思う反面、僅か10日間ほどの間に現れた美琴の『異変』に、今まで自分の知らなかった美琴を見た気がして、ショックを隠せなかった。
同時に、美琴の全てを見た気になっていた自分に対して、恥ずかしさや悔しさ、憤りなどの混ざった複雑な感情をぶつける事しか、出来なかった。

舞台は半年間進んで、上条が寝ている病室へと戻る。
美琴は、涙でぐしゃぐしゃになった顔をそのままに、半年間の出来事を思い出していた。

この半年間、様々なイベントがあった。
広域社会見学に始まり、大覇星祭、一端覧祭、クリスマス、正月、そしてバレンタイン…。
イベントは多々あれど、その毛色は前三つと後三つで大きく異なる。
公私で分けるとすれば、前三つは『公』、後三つは『私』と取る事が出来るからだ。
広域社会見学は『学園都市の代表』として派遣されたわけで、大覇星祭や一端覧祭では『常盤台中のエース』、『超能力者の超電磁砲』といった看板を背負っていく必要がある。
逆にクリスマスやバレンタインは、『寮監の監視の目を如何にして潜り抜けるか』になる上、正月は届けさえ出せば帰省を含めて一切の自由が利く。
勿論、黒子や柵川中組をはじめとする、学園都市に住む大多数の人間は、(ジャッジメントの仕事など、一部を除けば)そういう縛りも皆無であり、充実した半年間を過ごしていた。

ただし、こと美琴に関しては話が異なっていた。
9月1日、常盤台中学から無期限静養を言い渡されたあの日から、美琴の足は寮の自室と上条の眠る病室を行き来するだけのものと化してしまった。
朝、皆が登校準備をしている間に寮を出て、寮に帰ってくるのは寮の門限2,3分前。
誰も、何も言わず、ただその美琴の行動を黙ってみている他無かったのだが、思いの外事態は良い方向へと転がった。
黒子達が広域社会見学から帰ってきた時には、どことなく影を感じるのは否めなかったが、それでもお盆前位までの時期の、あの美琴が戻ってきていた。
本人のやりたいようにやらせること、その重要さが、少しずつ形となって『御坂美琴』を取り戻しつつあった。


そんな中で迎えた大覇星祭。
初日から美鈴・旅掛と合流した美琴は、ひょんな事から上条刀夜・詩菜夫妻と遭遇する。

「おや、御坂さんではないですか」
「上条さんですか。こんにちは」
「え?ママ、知り合い?」
「ええ、そうよ、美琴ちゃん。こちらは、上条詩菜さん。同じフィットネスクラブに通ってて、子供さんを学園都市に預けたってところから意気投合しちゃって」
「そうでしたわね。あ、上条詩菜といいます。貴女が噂の美琴さん…」
「はい。御坂美琴と言います。よろしくお願いします」
「礼儀正しいお嬢さんだな。私は、詩菜の夫の上条刀夜という者です。よろしく」
「上条…刀夜…?…!ああ、イギリスの時の!」
「ん?そういう貴方は、もしかして…」
「ああ、御坂旅掛と言うものだ。あの時は世話になったな」
「いえいえ。こちらこそ」
「え?…う、嘘、パパも知り合いなの?」
「ああ、酒場で色々とあって、な。私とあそこまで意気投合できた漢は刀夜さん以外に知らないな」
「そ、そうなんだ…」
目の前で色々と起こる事態を飲み込めず、軽く混乱する美琴。
しかし、その美琴を現実に引き戻る一言が、刀夜の口から出た。

「御坂さんのお宅は早くもお嬢さんと合流できて何よりですね。ウチなんて、当麻の姿を見かけないんですよ。ま、色んなことに首を突っ込みたがる子ですし、中々見つけられないのも納得ですが」

その瞬間、美琴の顔色が変わった。
上条当麻、その名前には心当たりがある、どころの話では済まされない。
同姓同名と言う線も考えられるが、性格まで近いものを持った同姓同名の人間がもう一人居るとは考えられなかった。

「美琴ちゃん?どうかしたの?」
美鈴がそう尋ねてきて、美琴ははっと我に帰った。しかし、時既に遅し。
旅掛の視線は鋭くなり、家族サービスをする父親のそれではなくなっていた。
他の三人も、例外なくこちらを心配そうに見ている。
美琴の豊な感情表現は、既に上条夫妻にも伝わってしまったようだ。
美琴は一瞬誤魔化そうかとも考えたが、旅掛が居るという事情もあり、ありのままを正直に話すことにした。

「あのね、私、学園都市に利用されてたの」
「私のクローンを作られて、それを実験材料として利用されてた。私一人で止めようとしたけど、出来なかった」
「でも今はもう、その実験は行われてない。その実験を中止させる為に、私の代わりに敵と戦ってくれた人が居るの」
「私を一人の『中学生の女の子』として見てくれた。そんな人は学園都市では初めてで、凄く嬉しかった」
「実験を中止させた時だって、死ぬしかないって思って、絶望してた私の前に現れて、来ないでって、構わないでって、助けようなんて思わないでって叫ぶ私の前に立ちはだかって、私の持てる全力を出した電撃をその身で受け止めて、それでも私を地獄から引っ張り上げてくれた」
「それが、私の知ってる上条当麻君」
「当麻君は、実験を終わらせる戦いが終わった後からずっと寝たきり。ただ単に意識が戻っていないだけなのだけれど、何時戻るかも分からないって、お医者さんは言ってる」
「私ね、その事を知ってから、「自分だけの現実」が確立できないの。心の制御が出来なくなって、友達や後輩に迷惑ばかりかけてて…」

そこまで言って、美鈴が美琴の口を塞いだ。
ふと周りを見てみると、詩菜は何がなんだかといった表情をしており、旅掛は怒りを身に纏っていた。
美鈴や刀夜は、なにやら思案顔だったが、二人の頭の中は似たような物で、美琴が当麻の事を好きなのではないか?と言う事を考えていた。
ただ、まだその感情を出来ていないであろう美琴には、それを話すのは拙いというのも察していた。
美琴が、幼くして学園都市に預けられ、努力で超能力者にのし上がった学園都市唯一無二の存在だということは有名な話であり、この二人も当然ながら、それを知っている。
だからこそ、の思案であった。

人間の感情は人によって異なる。
100人中99人が同じ考えだったとしても、残りの1人が違うといえば、それは感情としては万人に共通と言い切れる訳ではないということを意味するのだ。
だからこそ、美鈴は思う。
『当麻君の事で何か思いつめているとしても、「自分だけの現実」の確立が出来なくなるというのは、美琴ちゃん的には考えにくいのよね…。一時的に取り乱すことで、心の制御が難しいというのはあるかもしれないけど、予め確立できてる物を崩されるまではいかないはず。無意識の内に当麻君のことを好きになっているのに、それを認めることが出来ない、と言ったところかな?それなら、美琴ちゃんには『好き』って言う感情を身をもって知ってもらわないとね』

『当麻がそこまでやるとは、恋愛感情とかそういうのは一切抜きにしても、美琴さんの事を好意的に見ていたのかもしれないな。ただ、当麻は万人に対して優しい反面、自分に向けられる愛情や好意にはかなり疎い。美琴さんも似てるのかもしれないし、私が口を挟む必要は無いだろう』
と、刀夜も漫然と考えていた。

そんな感じで、一時的に重苦しい雰囲気になってしまったものの、その後は皆で当麻の病室に見舞いに行き、当麻の分までと言わんばかりに、一週間にも及ぶ祭りを満喫した。
後日、学園都市上層部と日本政府の間に緊張が走った事は、公然の秘密である。

一端覧祭については特記することがない。
単純に御坂・上条両家とも学園都市に来なかったのだ。
美琴も、ほぼ上条の傍に付きっ切りの状態であったし、周囲の喧騒を他所に、普段と何も変わらない空間を作り上げていた。

年末、クリスマスから正月にかけても同様である。
美琴は帰省申請を出さなかったし、美鈴が学園都市に来るということもなかった。
美鈴や詩菜は美琴の及び知らぬ所で将来の伴侶を決める大事な話し合いを行ったていたのだ
大覇星祭の一週間の間に急激に加速した両家の関係や美琴の感情、学園都市を囲む環境など、色々な事を考えた結果として、先に外堀を埋めるだけ埋めてしまっておいて、後は本人達の自由に任せよう、というスタンスを取ることにしたわけである。
勿論、話がトントン拍子に進んだことは言うまでも無い。

「…」
現実に戻ってきた美琴、しかし、一言も言葉を発しない。
そして、自分の右手を見る。
超電磁砲、結局今日行われたシステムスキャンでも本気で使用できなかった能力。
全力を出したいという葛藤と、全力を出せる相手が居ないという現状が、美琴を苦しめていた。

今、目の前で寝ている少年が健在であったなら、そんな事考えなくても良かったのに

そう考えて、美琴は顔を顰める。
最近、上条の事を思えば思うほど、胸が痛むのだ。
真綿で胸を締め付けられているようなその感覚は、8月のあの日、鉄橋の上で感じたあの感覚と一緒だった。
息も出来ないような苦しさを感じるのは、あの日上条と一方通行の戦いを見た時と一緒だった。
「もしかして、アンタが二度と起きないんじゃないか、なんて考えちゃうからなのかな…」

今まで、胸に秘めていた思いが、ポロリと美琴の口から零れる。
その言葉が引き金となり、堰を切ったかのように、上条への思いが溢れ出す。

「ねぇ、アンタ、早く起きなさいよ…!早く起きて、また私の相手をしてよ!ううん、相手なんてしてもらわなくても構わない。なんでもない他愛の無い話もしたいし、肩を並べて寄り添って歩いてみたいし、膝枕もしてあげたい!」
「…」
「それに…もっと私の事を見て欲しい!誰よりも素直になって、真っ直ぐに物を言えるような子になって、アンタと一緒にこの街を歩きたい!」
「…」
「もう…限界だよ…。早く、早く起きてよ…。アンタの居ない生活なんて、もう耐えられないよ…」

そこまで言って、美琴ははっとする。
今自分が紡いだ言葉は何だったのだろう、と。
もしかしたら、今までも同じ事は思っていたのかもしれない。
だとすれば、押さえつけられていた思いが出てきたことになる。
この感情が何なのか、美琴が考えるまでもなかった。

「そっか…私、アン…当麻の事が、好きなんだ…」

そう思った瞬間、美琴は大声を上げて泣き出した。
上条の事が好きだと自覚した瞬間、胸の中にあった感情が爆発したのだ。
堪えきれなくなった感情の奔流が、形となって美琴を濡らす。
視界がぼやけていく中、上条の顔が少し苦しげに写ったようにも見えた。
美琴はそのまま、疲れ果てて眠ってしまった。

美琴が目を覚ました時、時計の針は午後6時を指していた。
美琴が一旦病室を出てお手洗いに行き、また戻ってきてみると、そこには二人の見知らぬ男女が居た。

「あ、あの…」
「あ、10年前の私だわ。やっぱり私は可愛いわね」
「ああ、そうだな。10年前の『美琴』は可愛いな」
「もう、『討魔』ったら酷い!」
「悪かったな。『尊』」
「あ、あの!」
「あ、ゴメンなさい。10年前の私」
「へ…?」
「私の名前は神上尊。御坂美琴が上条当麻と結婚して、絶対能力者…所謂レベル6になった姿、と言ったら良いかしら。能力的には電撃使いがベースだけど、そっちはカンストしちゃってるから、黒子の空間移動をサンプルにしてデュアルスキルにした事で上のレベルに上がれたってところね」
「え?…レベル…6…?」
「枝先さんの件でも、一方通行の件でも構わないけれど、『神ならぬ身にて天上の意思に辿り着くもの』ってのを知ったはずよ」
「ま、まさか…」
「そう、そのまさか。まあ、私はコイツと色々あって、その結果として付いてきた物だから、アイツらの実験とは全く関係ないけどね」
「コ、コイツってなぁ…素直じゃない尊たんもなかなか…」
「だからたん言うな」
「へいへい。あ、俺は神上討魔。元は上条当麻って名前だったんだ。要はそこで寝てるやつの10年後って訳だ」
「…」
美琴は何も言えなかった。目の前の超常現象に混乱していたのだ。

取り合えず、二人をよく観察してみる。
神上討魔と名乗る男性は身長175cm位だろうか。適度に筋肉が付いており、一見するとただのスポーツマンの様に見える。ただ、その顔や首筋にチラホラと見える傷痕が、歴戦の勇者っぽい何かを想像させる。
一方、神上尊と名乗った女性。身長は165cm位だろうか。体系的には自分よりも母である美鈴に近い印象を受ける。出ている所の自己主張が激しいが、出て欲しくない所は全く出ていない。理想的な体型と見える。髪を留めているヘアピンのセンスは確かに自分に近い物があるし、口調や性格も似ている気がしないでもない。
一応、相手の言うことがあっているという前提の元で、話を進めることにした。

「それで、職業は?」
「いきなりそれから入るのか…。俺は今は学園都市統括理事長をやってる。巷じゃ『神ならぬ身にて天上の意思に辿り着くもの』って言われてるらしいけど」
「所謂SYSTEMってやつね。というかアンタ、ローマ正教やイギリス清教を配下にしておいて、よくそんな能天気で居られるわね…。本来なら暗殺候補筆頭じゃない…。で、私は専業主婦。家事は元々好きだし、『討魔』のお給料って私でも目が飛び出るくらい有るから、やりたい事が何でも出来るのよね。それに、主婦だから自分の時間が結構取れるし。勿論、『討魔』との間に子供を授かってるから、その子のお守りもしてるんだけど」

もう何がなにやら、である。
美琴は、一つ溜息をつくと、本題へと切り込んだ。

「それで、お二人は何故ここへ?」
「んーと、当麻を起こす為、かな」
「え…?」
「結局のところ、俺が昏睡状態だった理由は解明されないんだ。だから、美琴の可能性に賭けるしかない」
「私の…可能性…?」
「そう。今日は2月21日。時間は午後6時過ぎ。私の記憶が確かなら10年前の私は、この少し前に『当麻が二度と起きないんじゃないか』って言葉に出してしまって、そこから出てくる思いを抑えきれずに『当麻が好き』って事を自覚したはずなの」

これは間違いない。何故なら、自分でもそう思ったのだから。

「だから、『当麻が二度と起きないんじゃないか』っていう私の幻想をぶち殺してもらうの」
「俺も詳細は良く知らないんだが、要は美琴と10年前の俺の頭を撫でてやれば良いんだと」
「そういう事。だって、『討魔』は神よりも上の存在。どれだけ神が当麻と10年前の私で弄ぼうとしたって、パワーバランス的にはこちらの方が上になるから、絶対に『幻想』はぶち殺されるの。そして、『感情』だけが残るのよ」
「…え?…え?…え?…」
「そうよね、やっぱり混乱するわよね。でももう大丈夫。本当に半年もよく頑張ったね。もう安心して良いよ。当麻は必ず意識を取り戻すから」

そう言うと、『討魔』と『尊』は視線を交わし、首を縦に振ってから、『討魔』がこちらに近づいてきた。
かなり密着に近い状態で、『討魔』は2,3秒美琴の頭を撫でると、そのまま当麻の方向かい、同じ様に2,3秒頭を撫でた。

「これで大丈夫。仕事も終わったし、私達はもう帰るわね。もう少ししたら、当麻は目覚めるわ。後は自分に素直になるだけよ。10年前の私」
「え、えっと、今更聞くのもどうかなと思うんですけど、どうやって時間移動したんですか?」
「『神上』って苗字はね、神の上に立ってるから貰えたの。後は空間移動でも超能力者になれたってところかな」
「えっ…」
「黒子が空間移動をフル活用すれば100kg位のものを時速300km位で運べるわよね?それの上位互換になるから、光よりも速いスピードで空間を移動することが出来るの。後はそこに超電磁砲を技術を応用する事が出来れば、時間を遡ることが可能って訳」
「ま、これにも限界ってのがあって、時間を遡れば遡るほど『尊』への負担は大きくなるし、そんなに長居することも出来なくなる。こういう会話の時間を含めると、この日が時間移動で遡れる限界って所だな」
「そういうこと。じゃあ、そんな訳で私達は帰るわね。バイバイ」
「あ…」

トンでも理論をぶちまけられた挙句、あっさりと未来へ引き返そうとしている二人にあっけに取られていた美琴だったが、それでも何とかお礼だけでもしようと声を掛けようとするのだが、『尊』に
「後は、貴女が今出来る精一杯の愛情表現を彼にしてあげること。唇にキスなんかどうかしら?」
と耳元で囁かれてしまい、美琴はただただ顔を真っ赤にしたまま立ち尽くすしかできなかった。

バタン、という扉の閉まる音で我に返った美琴は、ベッドに寝る上条の方を見やった。
確かに、顔色が少し良くなっているような印象を受けるし、これなら『尊』の言うような展開も期待できるかもしれない。
そう考えた美琴の動きは早かった。
上条の頭の横まで来ると、あの絶望を味わうこととなった夏の暑い日の様に、上条の顔へと自分の顔を近づける。

刹那、音も無く、二人の顔が一つに重なった。

実際には数秒の事であったが、美琴にとっては一分にも、十分にも感じる時間だった。
美琴は上条から顔を離すと、そっと自分の唇を指で撫で、その感触に酔いしれた。

と、ここまでは良かったのだが、ここで美琴ははっとした。
何故か目覚めていないはずの上条の心拍数が上昇しているし、心なしか顔が赤い様な気がする。
「まさか、自分がキスをする前に目覚めていたのでは?」と思い、恥ずかしさや八つ当たりで感情がごっちゃになった美琴は、思いがけず電撃を放つ準備をしていた。

その時だった。
上条の目が開いたのは。

「み、御坂さん…?」
「あ、アンタ…何処から起きてた…の…?」
「え、えっと、誰かが近づいてきた時には…」
「こ、この…」
「ちょ、ちょっと、ストップストップ!」

そんな、体を動かせないにも拘らず、何とかしようと慌てる上条を見て、美琴も少し冷静さを取り戻す事が出来た。
そして、一歩間違えば病院に大損害を与える事になっていた事実を認識し、少し顔を青ざめる。

しかし、そんなのもつかの間の事で、結局は上条が目覚めたことが嬉しくてたまらず、上条へと飛びついた。
ベッドが軋み、何やら警報音らしき物が鳴った様な気がするが、今の美琴にはそんな事は何も問題ではなかった。

「当麻…当麻ぁ…」

上条が目覚めた事が嬉しくて嬉しくてたまらなかった。
耐えることが出来なくなりつつあった今の生活に別れを告げられる事が、この上なく幸せだった。
上条に対して素直に表情を出すことが出来た事が、喜びだった。
自分自身の事をどうすることも出来ずに苦しみ、仲間に迷惑をかけ、家族に心配させてしまった。
それ以外にも、この半年間で味わった感情の奔流が、美琴を駆け巡る。
何時の間にか、美琴の目からは大粒の涙が溢れ出していた。

上条は、いきなり抱きついてきて泣き出した美琴を、どうする事も出来なかった。
ふと、視線を横にずらすと、デジタル時計の日付は自分が記憶している最後の日から半年流れている。
上条はそれを知って、半年間も寝たきりだった、という事実に愕然としながらも、それでも目覚めれたのは自分の身体の上で泣く少女のおかげだろうか、と考えた。
多少記憶が曖昧だったとはいえ、唇に暖かい感触が来た事は間違いない。
それに、先ほどから自分の目の前で見せる美琴の表情。
一瞬、嬉しそうな顔を見せた時はそうでもなかったが、今はチクリと心が痛む。

あの日、あの橋の上で、俺は御坂を泣かせないと決めたのではなかったのか?
御坂には笑顔が似合うから、御坂がいつも笑っていられるようにしたいと思ったのではなかったか?
なら、何故今御坂は泣いている?
今まで俺が寝ていたからではないのか?
そうだとしたら、俺はどうすれば良い?

そこまで考えていると、美琴が口を開いた。
「バカ、バカバカ!寂しかった、辛かった、苦しかった!もう限界だったんだから!」
「み、美琴さん?」
「アンタがどんな気分で寝てたかなんて知らないけどさ、私は、私はもう、アンタの居ない生活に耐えられなかった!アンタの事が好きで、好きで、大好きで、もう周りの事なんてどうでも良いくらいに!」
「…え?」
「そうよ、私は、アンタに助けられたあの日から、アンタの事が好きで好きでたまらなかったのよ!今までは素直に言えなかったし、アンタが好きだなんて認めたくも無かったけど、もうそんな意地張るようなことしない!アンタにも真っ直ぐに、ど直球で行くって決めたの!」
「…」
「…大好き、当麻。だから、もう絶対に、どこにも行かないでよ…」

上条は愕然とした。
目の前の少女が発した言葉の一つ一つが、寝起きの体に強烈なボディーブローを浴びせてきたのだ。
おまけに、「好きだから、何処にも行かないでくれ」と言われたのだ。
ノックアウト必至の美琴渾身の一撃に、上条も色々と考えを巡らせる。
不幸な出来事ばかり、今まで自分の身に起こったせいか、相手が自分の事を好きだと言ってくれるなど露にも思っていなかった。
でも、美琴から発せられた言葉を受け止めて、自分の中でもパズルのピースが嵌っていく音が聞こえた。

そうだったのか。
俺が御坂には泣いていて欲しくない、いつも笑っていて欲しいと願っていたのは、俺が御坂の事を好きだったからなのか。
お互いがお互いの事が好きだったなんて、なんて幸運な事だろうか。
もしかしたら、今までの不幸の詰め合わせは、全てこの一瞬の幸運の為だけにあったのではないだろうか。
だとすれば、今、自分が選ぶ道は一つしかない。

御坂美琴というこの華奢な少女と、一緒に道を歩んでいく。

彼女は自分にとって高嶺の花なのかもしれない。
もしかしたら彼女にも自分の不幸が舞い降りてくるかもしれない。
でも、それがどうしたと言うのだ。
そんな物、全て、自分の力で切り開いていけば良い。
絶対に諦めずに、最後まで全力を出し切れば、必ず願いは叶う。
あの日、超能力者に無能力者が勝ったように、この世に不可能なんて言葉は存在しないのだから。


静寂立ち込める空間の中で、上条がおもむろに口を開いた。
「この半年間、御坂の身に何が起こったかとか、学園都市でどんな事が起きたのかとかは何も分からないから、今から知って行くしかないわけだけどさ…」
「うん…うん…」
「俺は御坂美琴と共に歩む。そして、御坂美琴とその周りの世界を守る。そんな幻想だけはぶち殺させねえ、必ず現実にしてやるって、今決めた」
「うん、大好き、当麻ぁ…」

もう一度、二人の顔の距離が近づく。
今度は上条の目も開いている。
距離が0になる寸前で、美琴が目を閉じた。
上条は、少しの笑みを浮かべると、自分も目を閉じ、美琴との距離を一気に縮める。

改めての二人のキスは、ちょっとだけしょっぱい感じがした。

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