if.御坂美琴と上条当麻の会合[後編] 3
8月21日深夜
御坂美琴は第7学区の大きい鉄橋の欄干に体を預けていた。
先日、上条当麻と分かれた後、自分のクローンを連れて“実験”について問いただした。
その結果、得られた情報は実験はまだ終わってないということだった。
「……」
その際、美琴はショックで一切言葉が出なかった。
泣くこともできなかった。
そして、美琴は決意した。
(あの子達を助けるためには、自分が死ぬしかない)
美琴自身が死ぬ。それによって『樹形図の設計者(ツリーダイアグラム)』の演算結果を狂わせてしまうことによって、実験を止めるのだ。
自分が死ぬことによって妹達が助かるのなら本望だ、と美琴は考えていた。
だが、
「……誰か……助けてよ」
泣いていた。そして助けを求めていた。
そんなことを願っても助けは来ない。涙は止まらないし、嗚咽も漏れる。
十分わかっていたが、美琴は願った。
そして、最初に頭に映った顔はあのツンツン頭の少年だった。
(そっか、私……でも、もう……)
そして美琴が何かを悟ったときだった。
「……助けてやる、助けてやるよ」
ありえないはずの声が聞こえた。
美琴はそちらに向くと、何も知らないはずの先ほど頭に浮かんだ少年が目の前にいた。
「……どう、して?」
美琴はあまりの驚きにそれしか口に出せなかった。
少年、上条当麻はその問いに答える。
「どうして、じゃねぇ。お前が救いを求めている。それを俺は成し遂げたいだけだ。だから俺は助けてやる。お前も御坂妹も、それが一方通行(アクセラレータ)であっても助けてやる」
「どう、して……」
疑問が口から出たがすぐに美琴にはわかった。
そうだった、こいつはこういう奴だった、と。
泣き崩れそうだった。いや、泣き崩れていた。
「あいつの場所を教えてくれ」
何もできないまま、上条に場所を教えた後、しばらくそこを動けなかった。
――――――――――――――――――――――――――――――――
8月22日昼過ぎ
とある名医のいる病院のとある病室の前。
美琴は考え事をしていた。
結果だけを述べると上条は学園都市第1位、一方通行(アクセラレータ)に勝利し、実験を中止させた。
なぜ、上条が戦ったというと、無能力者である上条が一方通行(アクセラレータ)に勝つことで演算結果が誤りだということにし、実験を中止させることになるというものだった。(上条の考えである)
だが、上条は体がぼろぼろになるまで戦い、妹達や美琴の協力があり、やっと倒せたのであった。
そして美琴はそのぼろぼろになり入院した上条の病室の前にいるのだ。
(伝えたいこと、聞きたいことがある)
そう美琴には上条に対して言いたいことがある。
まず、昨日気づいた気持ち。
そしてなにより気になるのは一昨日の上条の自分に対する反応だった。
(よし!)
上条の病室前でわりと長い時間(長くなってしまったのは気づいた気持ちを告げるかどうか悶えていたため)考えていた美琴だが決意をすると病室のドアをノックした。
中からどうぞ、と聞こえたので開けて入りながら第一声を発した。
「ど、どう? 元気にしてる?お見舞い持ってきたけど」
そう言う美琴は若干顔が赤かった。
「ああ、御坂か。まぁ、元気ちゃ元気だ。麻酔切れて少し痛むけど」
「ありがとう、妹達のこと」
「気にすんなって。俺がやりたくてやったことなんだし」
「そう……」
実験を止めたことのお礼を言うと美琴は早速切り出した。
「あのさ……聞いてほしいことがあるんだけど」
「ん? なんだ? 上条さんは何でも聞きますよ」
上条はあまり心構えなどはしていない様子だった。
それを見ながら美琴は、
「……わ、私、アンタが、上条当麻が好きなの……」
「へ? それはどういう――――」
「もうちょっと続きがあるから黙っててくれる?」
「……」
赤い顔で告白をした美琴。上条は間抜けた声を出した。
だが、美琴の次の言葉に真剣身を帯びていることに気づき黙る。
「こんなのを言い訳にするのも自分でどうかと思ってるんだけどさ。やっぱりアンタのこと好きだからアンタの事を知りたいの」
「……」
「……アンタ、もしかして記憶喪失じゃない?」
「――――ッ!?」
そこで、上条は美琴が今まで見たこと無い顔をした。
やはり、と美琴は思った。上条当麻は記憶喪失なのだ。
「……やっぱり。自販機の前で久しぶりに会ったときの上条は何かおかしかった」
「ああ、……俺は今、記憶喪失、正確には記憶破壊って言うらしい。もう記憶が戻ることは無いかもしれない。だから俺は“前”の自分を演じてる。」
上条の言葉は何か悲しさを帯びていた。
美琴は黙って聞いていた。
「お前と初めて出会ったときは少し気が抜けてたかなぁ。すぐに知り合いと分かれば隠し通していたんだけど……」
そう一人で語る上条は後ろめたさがある感じだった。
まだ美琴は何もリアクションを起こさない。
「それで、さっきの話だ。いいのか? 俺はお前の知る“前の上条当麻”じゃないんだ。それでも俺のことを――――んぐっ!?」
話続けていた上条の口が止まった。
美琴がリアクションを起こした。上条の唇を美琴自身の唇で塞いだからだ。
「ばか!そんなこと言わないでよ!私の好きな上条当麻は目の前にいる上条当麻。それだけでいいのよ!前とか今とか言わないでよ!アンタは……アンタなんだから……」
「……」
泣いていた。美琴は泣いていた。
それを見ている上条はすごく申し訳ない気持ちで一杯になっていた。
「ごめん。お前の気持ちも考えてやれてなくて。そして、ありがとな」
「……ばか……ごめんは余計でしょう」
二人は見つめあう。
「そうか。じゃあ……ありがとな、“美琴”」
「どういたしまして、“当麻”」
そして、お互いの唇を重ね合わせた。
その瞬間の美琴の顔は涙で濡れていたが、実験が続いてた時では信じられないような、とても幸せそうな表情だった。
☆おまけ☆
「ところでさ……」
美琴は見舞いに持ってきたりんごを切りながら上条に話しかけた。
「なんだ?」
「私たちってこ、恋人になったんだよね?」
顔を赤くしながら言う美琴。
「そうだな。俺は拒否しないぞ?」
「よかった……。でさ当麻は実験を知ってたってことは私の部屋に入ったわけよね?」
「え?な、なんのことでせう?」
上条はあきらかに動揺しきった声を出した。
「ほうほう。この彼氏は彼女に嘘をつくんだー。じゃあ、私も嘘付いて引っ張りまわそうかなぁ?」
「すいませんでしたー!」
上条は怪我の痛さも感じさせないほど、綺麗な土下座をベットの上でして見せた。
「まぁ、いいんだけどさ。そ、そのかわりさ、今度デート連れてってよ。アンタが内容考えてさ」
「ん?それでいいのか?それならこの上条さんに任せなさい?」
(や、やったー!)
さりげないデートの取り付けに奥手の美琴さんは喜んでいたとか。