とある魔術の禁書目録 自作ss保管庫

上条さんと美琴のいちゃいちゃSS/未来からの来訪者/Part10

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~5th day まこみことうま~


麻琴がこの時代にやってきてから5日目。
昨日に引き続き連休で今日も学校は休み。普段ならゆっくりと過ごしているようなまた日が高い時間。
そんな時間に家主である上条は、彼にしては珍しく机に向かって勉強をしていた。
課題が出ている……というわけではない。課題は一昨日までにすでに終わらせている。そうでなければ昨日、美琴とデートなど

している余裕はなかったのだから。
では、なぜ勉強しているかといえば、明日の小テストのためだ。
この小テストで赤点を取れば、また補習となってしまう。だからこそ、赤点を取らぬように机に向かっているのだ。
まぁ、美琴が教えているのが彼のやる気に火をつけているのではあるが。

「この式をここに代入して、こうすれば……」

「あぁ、なるほど」

「そうしたら、この公式を……」

美琴に教わりながら、上条がペンを進めている。
なかなか順調に進んでいるようだ。
インデックスはと言えば、奥の部屋で猫(スフィンクス)の世話をしていた。スフィンクスも嬉しそうにインデックスに身体を預

けなされるがままである。
そして麻琴は、そんなインデックスとスフィンクスの戯れを時折羨ましそうに見つめつつ、漫画を読んでいた。
麻琴のいた時代から考えれば20年も前に出ていた漫画ということになる。古本屋でもなかなか見つからないものもあったりで、

物珍しさもあいまって、時間があるときは麻琴はこの時代の漫画を読みふけっていた。


それからしばらくして、上条家に一本の電話がかかってきた。
さすがに、美琴や麻琴が出るわけにもいかず、上条が手を止め電話に出る。

『もしもし? 上条ちゃんですかー?』

聞こえてきたのは彼の担任の月詠小萌の声。
上条の顔色が一瞬で青くなる。大抵こういう場合、追加の補習だの課題だのを言い渡されるパターンが多かったからだ。

「もしかして、追加の補習とかですか?」

恐る恐ると上条が尋ねる。
しかし、返ってきた答えは――

『いえ、違いますよー。実はですねー……』

「はい。はい。あぁ、なるほど。わかりました」

チラリと上条がインデックスの様子を伺う。
どうやら愛猫を抱えてテレビに見入っているようだ。

「インデックス! 小萌先生が食べ放題のチケットもらったから、これから行かないk「もちろん行くんだよ!!」」

上条が言い終わるより早く、インデックスが飛び掛らんばかりの勢いで受話器をひったくる。
今の今までテレビに釘付けだったはずなのに、物凄い早さである。

「うん。わかったんだよ。こもえのとこに行けばいいんだね」

そう言って受話器を戻すと、まさに神業とも思える速さで支度を済ませる。
そのあまりの速さに上条達三人はただただぽかんとその様子を眺めているしかなかった。

「こもえの所に行って来るんだよ。今日は夕飯もいらないかも」

そう言うや否や、スフィンクスを抱えて出て行ってしまった。
食が絡むと本当にすさまじい少女である。
実はこの誘いは、昨日上条と美琴の仲を知った小萌が、二人きりにしてあげようと気を利かせた結果であることには誰も気づい

ていなかった。


それから更に時間が過ぎた。時間は昼を少し回ったくらいだろう。
勉強も区切りがいいところまで行ったため、上条がペンを置き机に突っ伏す。
課題でもなく、ここまで勉強したのはもしかしたら初めてかもしれない。疲労と空腹に身体が重くなった気がする。
このままじゃいけないと、のろのろと身体を起こし、解きほぐすように腕を伸ばした。のだが、それがいけなかった。

「ぶふっ!?」

一息入れてもらおうと気を利かせ、上条たちに飲み物を渡そうとしていた麻琴に、タイミングよく、上条の腕がまるで裏拳のように直撃した。

「わ、わりぃ!」

「ちょっと、麻琴。大丈夫?」

うずくまる麻琴に、上条と美琴が慌てて駆け寄る。
飲み物は上条の裏拳が炸裂する直前にすでに机に置いていたので、こぼれることはなかったのが唯一の救いだろうか。

「だ、大丈夫、このくらい平気ぃっ!?」

「うがっ!?」

起き上がろうとした麻琴が、クッションを踏みつけ足を取られ、今度は麻琴の頭突きが上条の脇腹に突き刺さる羽目になった。
思いのほかクリーンヒットだったようで上条がゴロゴロと転がって悶える。
さすがに美琴も、この計算されつくしたコントのようなことを天然でやってのける父娘には呆れるしかない。
この数日で何度か見たとはいえ、この二人の不幸体質は本当に見事なものだ。

「アンタらはホントに……何やってんのよ」

「「不幸だ……」」

二人の声がぴったり揃う。
もう、なんと言うか、すぐそこで撮影してますよ、と言われても信じてしまいそうだ。

――ピンポーン――

そんな何とも言えない様な空気を壊したのはインターホンの呼び出し音だった。
まだ少し痛むのか、脇腹をさすりながら無言で美琴と麻琴に部屋の奥に隠れるように促す。
美琴や麻琴がいるのがばれたらさすがにまずい。特に級友であり悪友でもある土御門や青髪ピアスにでもばれたら明日学校で自らの身がどうなるか、考えるだけでも恐ろしい。
想像に身を震わせながらドアノブに手をかける。

「はいは~い。どちらさんですかー」

「よっ」

ガチャリと開けたドアの外にいたのはツンツンとした黒髪の見知らぬ男性。
まるでよく会う友人にするように軽い挨拶をしてくる。
まったく見知らぬ相手から……いや、上条はこの男性に見覚えがあることを思い出した。数日前に麻琴に見せてもらった画像に写っていた。つまり……

「未来の……俺?」

「あぁ。この時代から20年後の上条当麻だ」

「ってことは、そこにいるのは……」

上条が男性……いや未来の上条の横に寄り添うように立つ女性に顔を向ける。
肩あたりで切りそろえられた茶色い髪に整った顔立ち。

「未来の美琴?」

「そうよ。未来のアンタのお嫁さんの美琴ちゃんよん♪」

未来の美琴が茶目っ気たっぷりにウィンクしてみせる。
その仕草に思わずドキリとしてしまう。

「おいおい美琴。過去の俺に色目使ってどうすんだよ」

「あら何? 当麻ってばヤキモチかしら?」

少し不機嫌そうな口調の未来の上条を見て、未来の美琴が楽しそうに笑う。
上条から見ても、仲の良さそうな夫婦であるのは一目瞭然な二人だった。

「当たり前だろ。美琴は俺のなんだからな」

「言われなくても、私はずっとアンタのものよ」

未来の美琴が、ぎゅっと未来の上条に抱きつく。

「美琴」

「当麻」

「……あの、話し進めて貰ってもいいでせうか?」

目の前で未来の自分と恋人がいちゃつくのを見せ付けられそうになった上条が、割り込むように声をかける。
こうも甘い空気を目の前で、しかも未来の自分たちが展開するのはさすがに耐えられなかった。
麻琴からある程度は聞いていたとはいえ、自分がこんなにデレデレなバカップルの片割れになるとは……、その現実を今まさに

突きつけられて、なんだか呆れるやら情けなくなるやらな上条である。
とはいえ、すでに現在でもその片鱗を遺憾なく発揮しているのに本人たちは気づいていない。

「あぁ、わりぃ。ま、話を進めるっつっても、ひとつしかないけどな」

「とりあえず、あがらせて貰ってもいい? いつまでの玄関前にいて誰かに見られるのも……ね」

「それもそうだな、とりあえずあがってくれ」

上条に促され、未来の上条たちが部屋に入る。

「懐かしいな、この部屋」

「ホントね。何年ぶりになるのかしら」

未来の二人にとってはもうこの部屋にいたのは20年近く前なのだ。月日の流れを感じ、年はとりたくないものね、と未来の美琴が小さくつぶやく。

「やっぱり。お父さんにお母さん!」

未来に美琴たちが部屋に入ってくると同時に、隠れていたはずの麻琴が飛び出してきた。その後ろに美琴も姿も見える。どうやら、電磁波レーダーで誰が訪ねてきてたのか気づいたらしい。

「おぉ、麻琴。元気そうで何よりだ」

感動の再開……となるかと思いきや、なんだか軽いノリの未来の上条。
まぁ、過去で自分たちが体験しており、麻琴の安全も保障されているのは分かっていたのだから当然なのかもしれない。

「それにしても……」

未来の上条が急に真剣な顔つきになる。
突然に張り詰めた空気に上条と美琴も緊張に身体を強張らせた。

「中学生の美琴たんかわいいな~。もう上条さんは辛抱たまりませんよ!!」

そう言うや否や美琴の身体をぎゅっと抱きしめる。

「な、なななななっ!?」

突然のことに美琴も反応できない。
能力も未来の上条の右手がしっかりと美琴の身体に触れており使うことができない。まぁ、この出来事にすっかり動転してまともに演算できる状態ではないのだが。

「お、おいっ! 美琴に何すんだよ!」

その状況に誰より先に動いたのは上条だった。
未来の自分から奪い返すように引き剥がし、誰にも渡さない言わんばかりに胸に抱く。
これにたまったものではないのは美琴だ。
ただでさえ、未来のたくましくなった上条に抱きしめられてパニクっていたのに、今度は自分のものだと誇示するようにこの時代の上条に強く抱きしめられ、思考はとっくの昔に真っ白に染まっている。

「おーおー。怖い怖い。そんなに睨むな、過去の俺。自分自身から美琴を取るようなことはしねぇって。……そういえばこの後何かあったような?」

「何かって言うのは、これのことかしらね」

おどろおどろしい声に未来の上条が振り返ると、そこには怒りを無理やり笑顔にしたような表情を浮かべる妻の姿。

「あーそうそう。ヤキモチやいた美琴たんが俺に電撃を……ってちょっと待て、過去のお前だろ! 落ち着け、落ち着けって、ビリビリだけはぁbbb!?!?」

未来の上条の左手をしっかり握ってそこからビリビリと電撃を放つ。
さすがに幻想殺しのない左手からの電撃は打ち消すことはできず、素直にお仕置きを受けるしかなかい未来の上条だった。

「なんか……ごめん」

「いや、麻琴が謝る必要はないだろ、これは。ただ、ちょっと未来の自分が情けなくなったが」

両親のいつも通りの姿に、頭を抱える麻琴。
そして、上条は自分の未来の姿に、ため息をついた。
上条としては、もうちょっと、こう、落ち着いた大人の男になっているかと思っていたのに……

「騒がしくして悪いわね。それにしてもアンタ、さっきからずっと過去の私を抱きしめてるけど、中学生の美琴ちゃんはそんなに抱き心地がいいのかしらん♪」

彼女の母である美鈴のような、ニヤニヤとしたいたずらっぽい笑みを浮かべる未来の美琴。
はっと気づいて胸元に視線を向けると、幸せそうにとろけた顔の美琴の姿。
すっかりふにゃふにゃに脱力しており上条にもたれかかっている状態だ。恥ずかしいから離れてもらおうと思ったのだが、この状態では無理そうだ。

「み、美琴?」

「ふにゃー」

一応声をかけてみたが、返ってきたのは気の抜けた声音の意味を成しているとは思えないもの。どうやら意識は別の場所に旅立ってしまっているようだ。

「まったく。このくらいで意識を飛ばすなんて今思うとこの頃の私って本当に初心だったわよねぇ」

「よく言うな。今のお前だって大して変わってねぇじゃねぇか」

いつの間に復活したのか、未来の上条がジトッとした視線を未来の美琴に向ける。

「な、何言ってんのよ!? 私はもう大人の女なのよ、いつまでもこんな初心な訳ないで「美琴、愛してる」しょって……へっ、あの、えっと、その…………ふ、ふにゃー」

真剣な顔つきで愛してると言われた未来の美琴が、見る見るうちに顔を真っ赤に染めると視線が泳ぎだす。そしてあっという間

にキャパシティを超えてしまったのか、結局ふにゃって未来の上条にもたれかかる。
年をとっても美琴は美琴だったようだ。

それからしばらくして――

「で、話を戻すけど、未来の俺と美琴は麻琴を迎えに来たってことでいいのか?」

「迎えに……」

美琴が誰にも聞こえないような小さな声でつぶやく。どこか寂しそうな声色。何かに堪える様にきゅっと結ばれた唇。そのこと

に気づいたのは未来の美琴を除いていなかっただろう。

「それで、結局あたしがこの時代に飛ばされた原因ってなんだったの?」

麻琴がこの時代に飛ばされてきてからずっと考えてた疑問を口にする。
何の予兆もなしに突然この時代に飛ばされたのだ。

「まぁ、まだ詳しく分かってないこともあるんだが、原石の能力者の仕業だったんだよ」

「今まで何の力があるのか、まったく分かってなかったんだけどね。どうも、非常に限定的な発動条件になってたようなのよ」

未来の上条の言葉に未来の美琴が続く。

「限定的?」

「そ、あらゆる能力を打ち消す幻想殺し(イマジンブレイカー)を中心とし、数億ボルト以上の莫大な電気エネルギーで周囲の空間を固定、そうやって生成された空間を特定の時代に飛ばす……って能力らしいわ」

「えっと……それって」

「まぁ、ほとんど麻琴と私達への限定能力よね」

未来の美琴が肩をすくめる。
幻想殺しを持つ上条当麻、その欠片を持つ麻琴を対象にしたときにしか前提条件のない能力。
しかもその発動に必要な莫大な電気エネルギーを発生させられるのは、レベル5の電撃使い(エレクトロマスター)である美琴、そして母の異名を継ぐほどの電撃使いとしての能力を有する麻琴のみである。
要するに、麻琴、もしくは上条と美琴がセットになって初めて発動条件が揃うというものなのだ。
そんなもの、そもそも分かるはずもないだろう。

「あれ? でも能力によるものなら何で俺も転移できるんだ?」

未来の自分たちの説明に上条が首を傾げる。
たとえどんな能力だとしても、あらゆる能力を打ち消す右手が含まれていては転移させられないはずなのだ。
実際、空間移動(テレポート)も転移させる対象が右手を含んでいるので上条をテレポートさせることはできない。

「そこがちょっとあやふやなところでもあるんだけど、あくまで転移させているのは電気エネルギーで作られた特殊空間。だからその中にいて二次的に巻き込まれたって形になるらしいわ」

「まぁ、麻琴がいなくなって数日しか経ってねぇからな。まだ調べ切れてないところも多いんだよ」

「ふぅん。そう言えば帰りは? その能力者も来てるのか?」

「いや、帰りはこの時代に飛んだときと同じような特殊空間を作れば自動的に元の時代に引っ張られることになって帰れるらしい」

「何つーか、ずいぶんご都合主義な気もするな……」

「世の中そんなもんだろ。それに俺らの不幸体質考えれば……な」

「それを言われると、ものすごく納得できるわ……」

不幸体質を持つ三人がげんなりとした表情を浮かべ、ため息をつく。
不幸な目にあうために、どんなとんでもないことでも起こり得るのがこの三人なのだ。
こんな突拍子もないような出来事が身に降りかかるのも、悲しいことだがすでに慣れてしまっている。

「ちょろっと、辛気臭い空気にしないでよ。仕方ないわねぇ、美琴センセーが景気づけにおいしいもの作ってあげるわ。過去の私、手伝って」

「え? あ、うん」

未来の美琴を追ってこの時代の美琴もキッチンに向かう。

「お母さん、あたしは?」

「三人も並んだら狭いでしょ。麻琴はそっちでくつろいでていいわよ」

そう言いながら、未来の美琴がテキパキと調理器具をそろえていく。

「あ、当麻」

「ん?」

「アンタじゃなくて昔の当麻よ」

「俺?」

「冷蔵庫の食材使ってもいいのよね」

「あぁ、どうせ後で買出しに行く予定だったし、今あるやつなら」

「じゃあ、これとこれと……」

それを聞いて、未来の美琴が冷蔵庫を覗き込み使えそうな食材を取り出していく。その手際のよさに感心しながらも、現在の美

琴も負けじとその食材からレシピを考え、下ごしらえを進めている。改めて美琴の調理スキルの高さが伺える出来事だった。
キッチンに入れない三人は、外野からその様子を見て感心しきりである。

「ところでアンタさ。麻琴がいなくなるのが寂しいけど我慢しなきゃ、とか思ってるでしょ」

調理を進めるさなか、未来の美琴が突然に口を開いた。それはまさに図星であり、その言葉に美琴の腕がぴたりと手が止まる。

「そ、そんなこと……」

反論しようとするが、どこか弱弱しい。

「あのね。私は未来のアンタなのよ? 隠してたってちゃんと覚えてるんだから無駄なの」

「……」

「心配かけたくないのは分かるけどね、辛いならさ。アイツを、当麻を頼りなさいよ。アイツならちゃんとアンタを支えてくれるんだから。私だって幾度も支えられてきたんだからね」

「でも……」

「でも、じゃないの。アンタだって、アイツが苦しんでたり悲しんでたら支えてあげたいでしょ」

「当たり前よ!」

部屋でくつろぐ三人には聞こえない程度の声で、しかし強い口調ではっきりと言い返す。

「アイツも同じ。アンタが辛いなら支えてあげたいって思ってるんだから。何せ本人からそう聞いたんだもの。辛ければ、苦しければアイツを頼ってめいいっぱい甘えちゃいなさい。そうすれば互いにすごく幸せになれるんだから」

そう言って未来の美琴が微笑む。
それはなんだか本当に幸せそうな、優しい気持ちになるような笑みだった。

「甘える……」

「そうよ。恥ずかしいかもしんないけど、慣れればたいしたことないわよ」

「……慣れすぎも問題な気がするわね。さっきのアンタ達を見ると」

この部屋にやってきてすぐイチャつき始めた未来の二人の姿に苦笑を浮かべる。

「そう? いいもんよ。当麻とめいっぱいイチャイチャするのも」

「なんて言うか、アンタが未来の私なんてたまに信じられなくなるわ」

少し皮肉混じりに言いながらも、気分が少し晴れやかになった美琴であった。

二人の美琴がそんな話をしているとき、不幸体質三人組は料理ができるまでの時間をつぶすために、上条と麻琴がこの数日の出来事を未来の上条に話していた。

「あぁ、そうだそうだ。そういうこともあったなぁ。さすがに20年も前となると覚えてないもんだ」

二人の話を聞いて懐かしそうに、未来の上条が頷く。

「そういや、麻琴。お前この時代の美琴に料理習ってるんだって? 今までそんなことしたことないのにどういう心境の変化だ?」

「んー? ただ、同じ年のお母さんに負けてるのが悔しかっただけだけよ」

「美琴は料理うまいからなぁ……」

付き合い始めてこの数日。
何度か食べた美琴の手料理は上条にとてつもない衝撃を与えた。記憶を失っているとはいえ、身体に染み付いた技術もあって自

炊していた上条のスキルも決して低くはない。
しかし、美琴の作る料理は食べるとどこか心が暖かくなるような満たされるような、とても幸せになれる感じがするのだ。

「だなぁ。しかも知ってるか、過去の俺。美琴のやつ、俺においしい料理食べさせたいからって結構気合入れて習ってたらしいぞ。いやぁ、ホントいい嫁さんを上条さんはもらいましたよ」

美琴の手料理の味を思い出したのか、顔を綻ばせ幸せそうにたたずむ男二人。若干その様子が気に入らないのか、麻琴がじとーっとした視線を向ける。
しかし、そんな幸せな状態で終わらないのがこの男たちの不幸体質である。

「あら? 手料理を食べさせてあげたい相手ができたんじゃなかったの?」

「は?」

未来の美琴が調理を続けながら特大の爆弾を投下した。
意味が分からず麻琴はきょとんとした表情を浮かべる。しかし父親たちに与えた衝撃は計り知れなかったようだ。

「ま、ままま、麻琴? そ、それは本当なのか? か、彼かれれれれ!?」

「ま、麻琴に、そ、そんな馬鹿なことがあるわけ、幻想だ幻想……」

上条たちはこの爆弾のあまりの衝撃にすっかり狼狽してしまいパニック状態だ。

「何言ってんのお母さん! あたしにそんな相手はいないって!」

「え~。だってあの子から聞いたわよ。最近仲のいい年上の男の子がいるって」

慌てて訂正する麻琴だが、未来の美琴から矢継ぎ早に次弾が投下されてしまう。

「なっ!? た、確かにアイツとはよく遊びに行ったりするけどそんな仲じゃないもん! 大体相手は高校生よ。中学生なんてそんな対象に見てくれるわけないでしょ」

「あら。私と当麻も中学生と高校生のときから付き合い始めたのよ。この数日でよく分かってるでしょ」

「そ、それはそうかもしれないけど……あ、あたしとアイツはべ、別にそんなんじゃ……」

当のアイツの顔を思い浮かべ、麻琴の体温が少し上がる。顔が赤くなっているような気がする。
自分とアイツはそんな関係でないことは間違いないし、互いにそういう想いはないはずだ。
そのはずなのだが、なぜだか心のどこかがそれを否定しようとする。それが語尾の勢いを失わせてしまう。

「お、お父さんたちからも言ってよ。こっちのお父さんには言ったでしょ、あたしにそんな相手はいないって!」

麻琴が自分だけではどうにもならないと悟ったのか、上条たちに助けを求める。
しかし、なんら反応もない。

「あ、あれ? お父さ……ん? だ、大丈夫?」

麻琴が顔を向けると、そこには真っ白に燃え尽きた未来と現在の上条が倒れていた。
どうやら以前のように妄想が暴走し始め、その妄想に精神が負けてしまったようだ。
なお、上条たちが気がついたときには、やはり記憶は抜け落ちているようで、元通りに戻っていた。この記憶の抜けが原因で、現在の上条も、またこの未来の上条のように振らなくていい話を振って自爆するのだろう。

「へぇ~。麻琴の好きな人ねぇ。私も興味あるわね、どんな人?」

「こっちのお母さんまで!?」

上条たちが気を失ったことで有耶無耶になるかと思った話題だったが、年頃の女の子として、そして未来の母として気になった

ようで、美琴が話しに乗ってくる。
さすがにこれは予想外だったのか麻琴は驚きの声を上げた。
しかも、どうやら料理の準備はすべて完了してしまっているようで、麻琴を逃がすまいと未来と現在の美琴が両脇に陣取っている。

「白状しちゃいなさい。お母さんたちが麻琴の恋のお手伝いするわよ」

「だからそんなんじゃないわよ! ただの友達なの!」

ニヤニヤとした笑みを浮かべる未来の美琴に、頬を赤く染めながらも強く反論する。

「そっか。違うのか」

「そうそう、ただの友達よ。友達」

あっさりと引き下がった未来の美琴の様子に、ほっと胸をなでおろす。

「でも、キスをしてみたいとか思うんじゃない?」

「キッ!?」

油断していたところに特大の爆弾。
つい、そのシーンを想像してしまい、麻琴の顔が熟れたトマトのように真っ赤に染まる。
頭の中からその想像を追い出すことができず、麻琴の脳内をそれ一色にしてしまう。
初めての現象に、麻琴の思考はぐちゃぐちゃに乱され、混乱具合に比例するように体温は上がっていく。

「キキキキs……ふにゃー」

ぽふっと湯気でも出しそうなほど、殊更に顔を染め上げた麻琴は、そのまま目を回して倒れてしまった。
ふにゃーと倒れた割りに放電しなかったのは、麻琴の持つ幻想殺しの欠片のためだろうか。

「麻琴もまだまだねー」

「アンタ、わざとやったでしょ」

娘をいじって遊ぶ未来の美琴に、現在の美琴があきれた表情を浮かべる。

「だって、いじりがいあるじゃない。麻琴って」

「なんだか母そっくりね……」

自分の母、美鈴を思わせるような未来の自分。
こうはなるまい、と思っていたはずなのだが結局は血筋ということなのだろうか。
どうせ美鈴に似るならば、性格だけでなく胸も……と思ったのは秘密である。
なんせ未来の美琴は、年齢から見れば非常に若々しいのだが、その分胸の大きさも……なのである。
現実を見せられた美琴がそんなことを少し思ってしまっても仕方ないはずだ。

楽しい時間というのは早く過ぎるもので、食後、色々と話しているうちにすでに空は赤く染まり始めていた。
今、五人がいるのは人気のない川原。未来の美琴が目を閉じて演算に集中している。
ここにいる理由は麻琴たちが未来に帰るから。美琴と上条はその見送りに来ていた。

「よし、これで準備はOKよ。いつでも帰れるわ」

バチリと未来の美琴が独特の小さな電撃を走らせる。
どうやら、電撃による空間の固定が済んだようだ。

「この時代に急に飛ばされて右も左も分からないところに、お父さんたちに会えて本当によかった。ありがとう」

「いや、俺たちも麻琴と一緒に過ごせて楽しかったぞ」

「うん。ただでさえ、当麻と恋人同士になれて幸せだったのに、麻琴のおかげでもっと幸せなことがあるんだって知れたし。私たちの方が感謝したいくらいよ」

上条と美琴が、その感触を確かめるようにぎゅっと麻琴の手を握る。
一瞬、麻琴の脳内に美琴と上条からの暖かな気持ちが伝わる。
電撃使いである美琴のためか、麻琴のためか、はたまた両方なのか、ほんのわずかな間だけだが、心がつながった気がした。

「麻琴。そろそろ時間だ。帰るぞ~」

未来の上条が手招きをしている。いよいよ帰るときが来たようだ。

「は~い。今行くわ」

するりと滑るように手を解き、未来の、本来の両親の元に駆け寄っていく。

「それじゃ、こっちのお父さん、お母さん。じゃあね……じゃなくて、またね!」

くるりと振り向いて輝くような笑みを浮かべる。
別れではなく、再会のための言葉。

「またね、麻琴。アンタが生まれてくるの待ってるわ」

美琴も負けじと、大きな声で、間違いなく気持ちが伝わるように。
次の瞬間、バチリと一筋の電撃が走り、辺りを照らす。そして、その場はまるで元から誰もいなかったかのような静寂に包まれた。

「帰っちまったな」

ほんのわずか前まで麻琴たちがいた場所を見ながら上条がつぶやく。

「……うん」

美琴はうなずくと、顔を伏せたまま上条の胸に押し付けるように抱きついた。
顔を見られまいとぎゅうっと抱きつく。

「ごめんね。急にこんなことして。でも、もうちょっとだけこのままでいてもいい?」

「あぁ、ちょっとと言わずにいつまでも。俺はずっと美琴のそばにいるから」

小さく震える美琴の身体を、上条が優しく抱きしめた。


――数年後――

「くそっ、遅くなっちまった」

悪態をつきながらも足は止めず、上条はただひたすらに目的地へと走っていた。

「上条さん、廊下は走らないでください!」

看護師の女性がそう叫んでいる気がするが、今の上条に止まるという選択肢はない。

「今は止まるわけにはいかねぇんだ。美琴。すぐに行くからな!」

今、上条がいるのは、彼がよくお世話になっていた病院。
ここの医者や看護師ともすでに顔なじみである。
廊下の突き当たりを曲がるとある病室の前で、かつての同居人である銀髪のシスターが上条の到着に気づき声を上げた。その後ろには上条と美琴の母親である上条詩菜と御坂美鈴の姿も見える。

「とうま。遅いんだよ!」

「わ、わりぃ。渋滞にはまった上、電車まで止まっちまって……」

荒い息を整え、汗をぬぐう。

「美琴は?」

「美琴ちゃんなら中で待ってるはずよ。早く行ってあげて」

美鈴に背中を押され、病室のドアを開け中に入る。

「当麻、来てくれたんだ」

「当たり前だろ。遅れちまって悪かったな。本当はずっとそばにいてやりたかったんだけど」

ドアの音に気づいたらしく、上条の姿を見つけた美琴が嬉しそうに微笑んだ。
やや疲れているようだが、何事もなく元気そうな美琴の顔を見て、ほっと安堵に胸を下ろす。

「仕方ないわよ。私たちのためでしょ。それに近くにいなくてもずっと当麻が見守ってくれてたような気がしたの」

そう言ってくすりと笑う。心から幸せそうな笑顔だった。

「それに、この子にも早く会いたかったからね。がんばっちゃったわ」

美琴が愛おしそうに隣に眠る新しい家族に視線を移す。
上条もそれに釣られるように視線を移動させる。
そこにいるのはつい先ほど生まれた、小さな命。上条と美琴の新しい家族。
眠っている様子に上条の頬も自然と緩んだ。

「はじめまして。それと、また会ったな、麻琴」

「んぅ」

上条の声に反応したのか小さく声を上げる。

「ごめんねー、麻琴。パパったらうるさいわよねー」

小さな声で我が子をあやす美琴。その光景は、本当に幸せで、本当にかけがえのないもので、何よりも上条が守りたかったものだった。

――――――
―――――
――――

「眠い。朝日がまぶしい……」

どこか危うげな足取りでふらふらと歩く麻琴がぼそりとつぶやく。
その顔には覇気がなく、気を抜いたら今にもその場で眠ってしまいそうだ。

「未来に帰ってきて精密検査を受けるのはいいわよ。でもなんで一晩中かかるのでせうか……。しかも翌日から学校ですよ」

とほほ、と肩を落としながらも歩みは止めない。
むしろ立ち止まったら寝る。というか独り言をやめても寝そうだ。
精密検査が終わってまもなく登校、寝る暇さえ与えられていない。もう、色々限界なのだ。

「あぁ、不幸だ。上条さんは不幸だ。てかあれよね。きっとこの不幸のために、あたし過去に飛ばされたのよね」

うふふふふ、と不気味な笑いを浮かべる。

「マコ。おはよ……ってどうかしたの」

そんな麻琴に声をかけてきたのは、麻琴の幼馴染の少女である。

「あぁ、琉璃。お休みな……じゃなかった、おはよ」

「いやいや、マコ。あなた大丈夫なの?」

今にも倒れそうな親友の様子に驚く。

「大丈夫なのかと言われると、上条さんは眠い、眠いんだよ、眠いんですよの三段活用!! ……ふぁ~んぅ。あぁ、テンションあげてもダメみたいだわ。琉璃、後はよろしくぅ……」

そう言うや否や、麻琴はふら~っと琉璃の肩にもたれかかると、そのままくぅくぅと気持ちよさそうに寝息を立て始めた。

「はァ!? ちょっとマコ。しっかりして! こンなところで寝ないで! えェ、これどうすンのよ。私が連れて行くの? こういう目に会うのは、マコとおじさンの役目じゃないの!? あァもゥ、不幸だァー!!」

ゆすっても起きない麻琴に予想外の出来事を押し付けられた少女の叫びがこだました。