とある魔術の禁書目録 自作ss保管庫

13-213

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小ネタ 心理掌握は縦巻きロールです common_souls.



「き、記憶のコピー?」
「そ、そうです」
 あろう事か、あの上条当麻が敬語で喋っている。
 少し取り作る様子で御坂美琴は、
「……っていうと、また『心理掌握』の所に行って頭弄くって貰わないといけない訳アンタ?」
「は、はい……『僕』を知ってそうな人を連れて来い、と……」
「……、」
 難儀だと思う。
 第三次世界大戦において行方不明なった上条は、学園都市とイギリス正教の共同捜査部隊によって一ヶ月後に発見された。しかし、本当の意味で上条は帰ってこなかった。
 再び記憶喪失になってしまったのだ。
 しかも今回は、思い出を司る『エピソード記憶』だけを失ったのではない。言語能力を司る『意味記憶』、運動の慣れなどを司る『手続き記憶』―――、つまり人が人として生きていく上で必要な知識や常識や能力、その全てが失われてしまっていた。
 発見された時の上条は、まるで獣のように部隊員を襲ったという……。
(……で、赤子同然のコイツを無理矢理ここに連れ戻して、うちの学校の『十手ナイフ』に常識と言語能力だけ植えつけてもらったと……)
 そんな感じなので今の上条は本当に脆い存在だ。ついでに小学生よりバカだ。

「インデックスさんでもいいんですけど、彼女の記憶の量は僕の小さな脳みそには入りきらないそうなので……」
「……。協力してあげたいのは山々なんだけどさ……」
 記憶のコピーて……、と美琴は思う。やはりこういう面で見ても、今の上条は常識に欠けている。
 こちとら女子中学生だ。
 つまり。美琴が懸念しているのは、
(別にご飯食べてる所とか歯磨いてる所の記憶くらいならコピーしてあげてもいいんだけど……)
 ぶっちゃけた話、トイレとか風呂の記憶が問題だ。いくらコイツのためだろうと、限度ってもんがある。それに、記憶の共有とはつまり、こちらの考えが全て筒抜けになるという事だ。
(……いやでも待てよ記憶の共有って事はうまくいけば告白しないで告白する事ができるわねそれだと今までの積もりに積もった空振りがいい感じに役に立つような立たないような)
「あ、あのー御坂さん?」
「うにゃ!? にゃ、にゃによ!?」
「いや、何かニヤけたりブツブツ独り言言ったり自分の世界にトリップしてたみたいなんで」
「う、あんま人の顔覗き見るんじゃないわよっ」
「す、すみません……」
 水面下、一体どうしようかと美琴は考える。確かに、『心理掌握が改めて考えた』知識や常識を植えつけるのにも限界があるだろう。当たり前でいちいち考えるまでもない思考に、必ず『穴』ができるはずだ。
 例えば、
(デフォで裸になっちゃったり)
 とか、
(ラップ口調になっちゃったり)
 とか、
(その、……男を好きになっちゃったり)
 とか。そういうのを平然とやり始めるやもしれん。挙げ始めたらキリがない。
 そう考えてみると他人の記憶をコピーするというのは決して悪い案ではない。それは知識としてではなく経験として刷り込まれるからだ。
 加えて、元の上条に近づけたいのならできるだけ上条を知っている人間の記憶をコピーするという意見にも納得ができる。
 そしてそれは別に、『元の上条』というフレーズに拘っている訳ではなく。上条の安泰を願っての事。
(まあトイレ風呂云々は除外してもらえばいっか。あの女王様ならそんなの朝飯前だろうし)
 完全にあのレベル5を信用したわけではないが、ここはあえて信用するとしよう。
「じゃあ、……わ、私の記憶でいいなら」
 常盤台管轄の研究所に足を運ぶ二人。


 数日後。


「―――待てやこら御坂! 卵パック一人一個限定サービスに付き合ってくれよ!」
「ちょ、アンタいいかげんにしなさいって! そんな馬鹿みたいに突っかかってこないでよ。私の人格が疑われるでしょ!」
「んなもん知るか! 俺はお前の記憶をコピーしてもらってお前の感情まで大体分かるようになっちまったからお前の事が気になって仕方がねーんだよ。いいから俺と一緒に来いよ! なんで逃げんの!? 俺の事好きじゃねーのかよ!?」
「うわあああ!! こんな街中でそんな小っ恥ずかしい事大声で言ってんじゃないわよ!! そそそそそれにアンタの事なんて好きじゃにゃい!」
「嘘つけ! テンパッてるのが丸分かりだ! つーかいい加減止まってくれ! これじゃ前と立場が逆じゃねーか!」
 なんだなんだと道行く学生達が美琴と上条に目を奪われる。美琴が上条を追いかけているのではなく上条が美琴を追いかけている構図なので、中には『風紀委員に通報しようか』などと言う生徒もいるが……、
 本当は、美琴としては実にいい気分なのである。止めてほしくない。
 ただ今の上条は上条じゃないというかなんというか……。

 記憶をコピーしたあの日、
『あら御坂さん貴方この殿方がお気になってるようですわねいつもお世話になってますし特別に貴方の記憶を全部この殿方に摺りこんであげますわおほほほほほほ』
 と心理掌握に弱みを握られ、上条には気持ちを知られ、今に至る。

「大体、俺はお前のあんな所やこんな所も全部知ってんだよ。なのに今更他の女に靡(なび)くとかそりゃお前に対して失礼ってもんだろが! それにもっと知りてえんだお前の事!」
「うわあああああ!!」
 なんて事言うのよやっぱり全部コピーしたんだなあのクソ女! と美琴は絶叫する。
 そして。
 美琴は足を止め、グバァ!! と勢いよく上条の顔を正面から見据えると、腹の底に思い切り力を込めて喜び混じりにこう一言。

「あー、もう好きだから止まってよ!」


 fin


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