とある魔術の禁書目録 自作ss保管庫

13-827

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二人の 1



季節は冬、現在は雪が大絶賛セール中とでも言うかと
思うほどの大雪だ。街ゆく人は白い息を吐き、マフラー、手袋、耳あてなどの
寒さ対策をしている。だが、そのほとんどの人の防寒具には、
どうも商品とは違った仕上がり具合を見せていた。
明らか手編み、と断定できるだろう。
何故なら、そこにはハートマークがついており、
本人の名前らしきものが編んであったからだ。
いかにも、『彼女から手編みもらいましたよ俺!』的な事をアピール
しているかのように思えてならない。
そんな幸せ満面の人達の笑顔を見て、一人ため息をつく者がいた。
「不幸だ・・・」
上条当麻。彼の手にはいかにも百円均一の臭いプンプンする
手袋があった。
しかしそれは、彼の特殊な右手のせいで所々破けていた。
その間からは辺り漂う冷気が入り込み、手袋の
意味がなくなっている。
買い直せばその手も幸せだろ、という声が
どこからか聞こえてきそうだが、彼は無能力者なので
学園都市から来るお金も少なく、何より家にいる
ブラックホールイーターことインデックスが大量に
彼からお金を食べ物に両替してしまうために、彼の
残金は少なく贅沢さえできないのだ。
(俺も彼女がいたらな手編みなんかもな、まぁまず出会え──)
と考えていたら、後ろからエルボーアタックが
とんできた。
ドゴ!!というコミカルを超越したシリアスな音
が聞こえ、彼は道端へと倒れる。
「ばっ、何すんだお前ら!」
「カミやんの事だにゃー、どうせ道行く人の手編み防寒具を見て
出会いが欲しい、とか思ったんじゃないかにゃー?」
「そうね、カミやんの事やからそうにちがいなかったで」
推測から殴られた上条は何とも理不尽(推理は当たっていたが)な
事に腹を立てた。
「なんだよお前ら!俺が幸せを願うくらいいいだろうが!そもそも
俺に彼女なんてありえないね!百歩譲っても」
と言いかけたところで、また二人から奇妙なプロレス技を喰らった。
「そろそろ自覚しないといけまへんでカミやん、一つフラグを回収する
くらいせえへんと」
フラグってなんだよ!、と言おうとしたが、青いサングラスの奥から
光る眼によってさえぎられた。
「そうだにゃー・・・、早くフラグを回収しないと後先
大変な事になるぜよ」
と、土御門は必要悪に所属しているある聖人を思い浮かべながら言った
「フラグフラグって・・・、お前らクラスメイトといいこの上条さんにフラグ
が立つと思ってんのか!?もしそんなのあったら全力で回収してやるね!」

しばしの沈黙。

(・・・あれ?上条さんは何か変な事いいましたか?)
「カミやん、さっそくですたい」
は?、と顔を強張らせる上条に土御門は続ける。
「今、目の前にいる女の子のフラグを回収してきたらいいぜよ」
目の前?、と言われて上条は言われたとおりに見た。

そこには何かの包みを大切そうに持っている、──御坂美琴がいた。



時は遡る、御坂美琴は常盤台中学の寮内にいた。
自分が作った、手編みのマフラーを見つめながら。
(つ、作ったとこまではいいけど、どうやって渡すのよ!?)
それなりのシミュレーションは考えていた。
『アンタ不幸で防寒具さえ持っていないからあげる、感謝しなさいよ』
──と考えたが、これは却下だ。
なにより、彼は鈍感大魔王こと鈍感の中の鈍感だ。
それを信じてしまい、きっと『なんだよそれ、まぁサンキュー』と
終わってしまうだろう。
今回渡すこの、黒子の目を盗み、一週間の時間をかけた、
思いが詰まったマフラーを、そんな結果で終わりにしたくない。
もっと自分に素直になり、相手に思いが伝えられるような
言葉と共に送りたい。
しかし、それが出来ないから苦労しているのだ。(ベットでうずくまりながら)

美琴は考える。
もし、自分が素直になれて、彼が喜んでくれるような言葉と共に
送れたなら。
きっとそのいつもの、ビリビリしてくる、攻撃的、お子様、などと
いったイメージの看板を無視して、一人の御坂美琴を見てくれるはずだ。
きっと彼の優しい性格、気遣いから自分の手を握ってくれるだろう。
あたりの寒い気候から逃げるように二人は距離を縮め、その心と体は温まる。
そして二人はいつもと違うそれぞれをみつめ、最後には二つの影の距離がゼロになり──、
(──って!何考えてるのよ私は!!)
ブンブン!!、と首を思いっきり横に振る。
しばらくすると、入念にセットしていた髪型が崩れている
事に気付き、鏡を見ながらチェックした。
(・・・でも)
一人の少女は、頬を赤らめる。
その表情はその話の中の少年にしか向けない、特別な表情だ。
彼女を知っている知人なら、それを見たらビックリするだろう。
超電磁砲、レベル5とかそんなものは全て吹っ飛び、一人の恋する
少女と変貌しているからだ。
そして、その頬の熱が冷めることはなかった。
彼への思いは日に日に募るばかりなのだ。
彼の事を考えると、まるで底なし沼から底を見つけるかのような
感触になり、その思いは尽きることはない。
そんな事を自覚せずに、彼女は未だに頬を赤めたまま、雪が降る窓から
空を見つめ、
「素敵、だな・・・」
素直に、自分の幻想に憧れを持ったことを呟いた。
彼の手には幻想を全て殺す右手がある。
だが、そんな彼が自分に心温まる幻想を持たしてくれたのも確かだ。
むしろそっちに特化しているのでは、と美琴は少し微笑み、自分の胸に手
を当てて考えた。
そんなことを考えていると、胸が詰まる思いになった。
キュン、キュン、とまるで心にある一つの感情が
風船みたいに膨らみ、自分の心をはみ出てしまったかのような。
胸が苦しい、だが、心地よいものだ。
その胸の苦しさがどんどん膨らんでいく。
それに耐えきれなくなった彼女は、もう一度自分が編んだマフラーを
見つめ、決意を改める。
(自分の心に素直にしたがって、うん!そうすればアイツも・・・!)
意を決して、彼女は場所も分からない彼を探しにいった。
部屋の隅で悶えている、同僚の存在を知らずに──。



話を戻そう。
今そんなこんなで意を決した彼女が、上条の目の前にいた。
だが、いつもなら『勝負よ!勝負しなさいビリビリィ!』とでも
言いたげな表情で来るのだが、彼女はまるで借りてきた猫のように大人しい。
そして何よりいつもと違う。今の御坂美琴は、体をモジモジさせ、時々上条を見つめ、
目があうと地面へと目を移して、とループを繰り返してた。
その彼女は胸に両手をあてており、体を少しばかりか縮めているように見える。
そしてトドメに、真っ赤に染めた頬だ。
誰もがそれを見たら、まぁ、・・・察するだろう。
だが、上条本人は調子が悪いのだろうか、とこのうえない鈍感っぷりを発揮していた。
一方、そんな彼女を見た青髪ピアスは、ギャーッ!!、と街中にも
関わらず叫んだ。
「カミやん病末期や!!あんな純粋な乙女みたいな素振りをなんで
カミやんはさせられんねん、それに比べ僕はどうや!女の子に
話しかけても目つきが冷たいんや!出会いさえのぞめへん!僕みたいな
子羊になんで神はミニスカサンタをプレゼントしなかったんや!!」
と、青髪ピアスの演説が終了する。
それはお前が清らかではないからにゃー、と土御門は心にでた
発言を控えておく。今暴走状態の青髪ピアスと
討論(もとい拳を交えた会話)をするはめになるのは面倒だ。
そして少し土御門は考えると、上条に話しだす。
「なぁカミやん、俺らはいいからその子に付き合ってあげたらどうかにゃー?
何か用事あるみたいだしにゃー」
「え?確かこの後ゲーセンいくんじゃ・・・」
確かこの後の用事を思い出し、上条はとっさに言ったが、
「いいからいいから、俺たちは男二人でいってくるぜよ」
そう言うと、土御門は青髪ピアス(今も演説中)を引きずり、あっという間に
人ごみの中へと消えていった。
『わいは神に見捨てられたルシフェルなんや!!』と聞こえたが
無視しておこう。
「まったく・・・、なんなんだよアイツら。・・・ん、そう言えば美琴」
いきなり名前を言われた事にドキィ!、と
心を高めながらも、彼女は絞り出すように返事をする。
「な、なに・・・?」
瞳を潤ませ、首を傾げながらの上目づかい。
少しの不意打ちに純情少年上条当麻は、心をトキめかせながらも
話を続ける。
「・・・お前俺に用事でもなんか、あるのか?」
「え、う・・・うん」
とまた絞り出されたような声で返事をする。
無意識に、自分の持っている包みに力が入っていた。

「その、ね」
──この一歩が、彼らの距離を大きく変えた。


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