とある魔術の禁書目録 自作ss保管庫

306

最終更新:

NwQ12Pw0Fw

- view
だれでも歓迎! 編集

貴方の為に



「あ、起きたわね。台所使わせてもらってるわよ」
「……美琴?」
上条当麻がベッドで目を覚ますと台所に立っていた御坂美琴が振り向いた。
「驚いたわよ。約束の時間を1時間過ぎても当麻が来ないどころか連絡がないんだもの」
「あー、わりぃ。体がだるくて……」
「汗かいてたしうなされてたし、さっき熱測ったら38度もあったじゃない。もっと体をいたわりなさいよ」
軽く頬を染めながら「あ、あんただけの体じゃないんだし……」と小さな声で呟いていたが、
意識の朦朧としている上条当麻はそれには気づかなかった。
「あ、起き上がらなくてもいいから当麻は寝てなさい。この美琴さんがお世話してあげる」


日差しが少しずつ暖かくなり始めてきた3月初めの日曜、御坂美琴は恋人である上条当麻とのデートのため待ち合わせ場所である公園にいた。
「んー、暖かくなり始めてきたって言ってもまだ少し寒いわねぇ。もう少し厚着してくるべきだったかしら」
校則で決められた常盤台の制服、ではなく高校一年生ももう終わりという時期に入った御坂美琴は
(少し薄着過ぎたかな?)と反省していた。
中学3年間も私服については考える必要も薄かったため、彼女にとってこの時期の最適な格好というのはまだ模索中のようだ。
「それにしても当麻遅いなぁ……約束の時間30分も過ぎてるわよ。遅刻はともかく……愛しの彼女に連絡の1つもないってのはどういうことよ」
2人が付き合い始めて1年半ほど経つが、どうも好きだ、とか、愛してる、という言葉は彼女にとっては未だに恥ずかしいらしい。
「ったく、少しは、私の気持ちも、考えなさいよっ!!」
と気合一閃。彼女のキックが自動販売機に吸い込まれ
「あー、肌寒いのに『氷結!!レインボーマンゴー』とかどんなイジメよ。…不幸ね」
出てきた飲み物を見て、彼女は恋人の口癖を呟いた。

更に30分後

(おかしい、いくらなんでもおかしいわ。当麻が私のことをここまで蔑ろにするわけがないし、いつもの不幸に巻き込まれたとしても連絡ぐらいは……)
約束の時間から1時間。
ようやく彼女もおかしな事態になっていると認識し始めたようだ。
むしろここまで時間が経つまで、おかしな事態だと思い至らないのに普段彼女の恋人がどんな目にあっているのかが伺える。
「……電話にも反応はなし。呼び出し自体はされるから携帯が壊されるような事態には陥ってないわね」
そう彼女は冷静に分析すると、彼女の恋人の部屋の合鍵が財布に挟んであることを確認して恋人の部屋へと向かった。
(これで何もなかったら、レールガンの1発や2発じゃ済まさないんだから!!)

「で、部屋に上がってみたら当麻の様子がおかしかったから、看病してあげたのよ。分かった?」
「済まんのう美琴さんや。上条さんが不甲斐ないせいで迷惑かけちまって」
「何よそのえらく白々しい台詞は」
ギロッと御坂美琴に睨まれると、上条当麻は形勢不利と見て布団の中に隠れた。
愛する恋人に心配をかけてしまったので場を和ませるために冗談交じりで言ってみたのだが、どうやら御坂美琴には不評だったらしい。

もっとも、部屋に上がった御坂美琴が上条を最初見たときは大泣きして
「やだっ、当麻どうしたのっ!?だめ、当麻が死んじゃったら私どうしたらいいの!!」
と、取り乱した挙句
「やだよぅ…当麻ぁ、起きてよぅ…グスッ」
恥も外聞も捨てて大泣きし始めて10分ほど彼が熱でうなされていることに気付かなかったのだが。

「はい、タオル。もう動かないでよ。ほらタオルが落ちたじゃない」
上条当麻が少し状況を把握しようとしてみると、意識がハッキリとしてなかった間に感じていた体の不快感が消えていたのが分かった。
「美琴、ひょっとして着替えさせてくれたのか…?」
「さすがに下着は替えなかったけど、寝間着を交換するついでに体も出来る限り拭いといてあげたわ」
どうやら意識がない間にあんな姿やこんな姿を彼女に見られたらしい。
「…うぅ、上条さんは穢されてしまいました」
「ばっ、な、何言ってんのよ!!あああアンタの裸なんて見慣れてりゅっ!?」
焦ってしまい墓穴を掘った上に噛んでしまう御坂美琴。
涙目になりながら顔を真赤にして口を抑えてる彼女を見て、
(やはりコイツは可愛いなぁ)
と上条当麻は思っていた。
「しかし上条さんとしては、そんな大声出さなくてもいいと思うのですよ。隣に土御門いたら大変だし」
「あー、ごめん……」
上条当麻の隣人、土御門元春。その妹土御門舞夏。
この二人には上条当麻も御坂美琴もやり込められることが多く、
恋人同士の二人の間で秘めておきたいことも気付けば隣人たちに筒抜けという、上条家の誇る素晴らしい防音能力の前では無駄な努力であった。

「そ、それよりもさ、当麻…お腹空いてない?」
時計を見ればもう15時過ぎ。
昨晩に夕食を摂ってから体もろくに動かせない状態で半日以上寝たきりの上条当麻の体は、腹の音が自己主張をするほど栄養を欲していた。
「減ってる……けど食材もロクになかっただろ。悪いけど缶詰とか買ってきてくれないか?」
「馬鹿っ!!何言ってるのよ。そんな体でちゃんと栄養取らない気?ふざけたこと言ってんじゃないわよ」
と一喝され再び上条当麻は布団の中へ。
御坂美琴の一喝で反抗心を失うとは、どうやら上条当麻は彼女に逆らえない体になっているらしい。
台所に向かった御坂美琴が何かを持ち上げると、そのままベッドの横の机まで運んできてこう言った。
「ほら、当麻のために卵粥作ってあげたわよ」
どうやら先程台所にいたのはこれを作っていたかららしい。
上条当麻が食べるために器を受け取ろうとすると、御坂美琴は彼から器を遠ざけた。
「あの美琴?レンゲと取り分けた小皿がないと俺食べれないんだが……」
「え、何言ってるのよ。まさかこのシチュエーションで自分で食べる気なの?」
早く食事をしたい上条当麻を、御坂美琴はコイツ正気か?というような目で見つめていた。
「こういう彼女が彼氏の看病をしてる時は…その、あ、アレに決まってるでしょ!!」
自分の発言に照れながらレンゲに掬った粥を、口で息を吹きかけて少し冷ますと上条当麻に向き直り
「はい、当麻。あ、あーん」
「あ、あぁ…あーん」
上条当麻は差し出されたお粥を頬張り、しっかりと味わった。
「うめえ、うめえよ美琴!!……そのもっと食べたいから、食べさせてもらっていいか?」
「あ、当たり前じゃない」
そう言うと御坂美琴はレンゲで粥を掬い、生涯目の前の恋人にしか見せない満面の笑みで


「当麻、私の…その……愛情いっぱいのお粥食べて早く元気になってね」


愛しの恋人の口元へとレンゲを運んだ。


ウィキ募集バナー