とある魔術の禁書目録 自作ss保管庫

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陽溜まりで2人



常盤台中学学生寮、208号室―――

「はぁ~…」
とある雨の日の夕方、自室で深い溜め息をつく少女が1人。
机に向かい、片手で頬杖をついて外を見るその姿はどこか寂しげでもある。
「明日から久しぶりに晴れるって言うのに、なんで今日も会えないのよ~…あのバカ…」
そうボヤきつつ、美琴は窓越しに見える雨模様の街並みから机の端へと視線を移す。
視線を移した先には、期間限定で発売された2体のゲコ太ぬいぐるみが置かれていた。 2体とも同じゲコ太なのだが、片方は良い具合に焦げている。
あれから何度かチャンスはあったのだが、まさかもう一度「ゲコ太ぬいぐるみを1日中抱きしめてなさい」とは言い出せなかった。 色々な意味で。
結局、機械を逃し続けたまま試験期間へと突入。 そして試験期間が終わったというのに、そのまま上条当麻(あのバカ)とは今も連絡を取れていない。

最初は余り気にしていなかったが、試験後一週間を過ぎても街中でその姿を見なくなった。
気になって、放課後の街中を時間の許す限り探す。 だが、上条が居そうな場所、寄りそうな場所のどこを探しても居ない。
学生寮を訪ねてみたが、上条が帰っては来る事は無かった。 ポストを確認すると、チラシが溜まっていてしばらくの間取り出した形跡も見受けられない。
不安になった美琴は、「それならば」と久しぶりに上条の学校からデータを参照する。 出席簿データを見ると、ちゃんと学校には登校しているようだ。
そして関連するデータを総合するに、上条は今回のテストで赤点を量産したらしい。
試験後、上条の放課後は補習でギッシリと埋まっていて、レポート提出にも追われている事が分かる。
『学園都市内に居る』というのが分かった安堵感と、『見かけなくなったのは、補習が原因』という見事なオチに思わずガックリと来た。
しかし、心の奥底ではどこか安心しきれていない。 補習後も寮に帰っていないのは、何か事件にでも巻き込まれているのではないか?
ついつい、良くない方向へと考えが独り歩きしてしまう。
結局、あの日のあの時以来、上条当麻の姿を実際に自身の目で見て確認しない限り、安心出来なくなってしまっているのだ。

寮に様子を見に行った日以降、「そんなに心配になる位なら直接連絡取れば良いのよ」と何度も連絡を取ろうとはした。
だが、いざ上条の登録番号を入力しても、最後に通話ボタンを押す所で緊張してしまい、電話掛けられずに終わる。
メールにしても、途中まで書いてはみたものの結局送信出来ずに保存。 と、送れないままのものが結構な数が溜まっていた。
(前はもう少し気軽にメールしてたハズなのになぁ…何でこんなになっちゃったんだろ…)
私も変わったわよね、と付けたしながら改めて焦げたゲコ太を見やる。
焦げた事で当初あった『良さ』は失われたものの、何となく上条の分身な気がして捨てられずにいるのだ。
思うように会えない、連絡できない今の想いをぶつけるかのように、焦げゲコ太の額を軽く指先で弾く。
(当麻から連絡してきてくれれば、こんなに悶々としなくて済むんだけどな~。 そんな都合の良い事、起こる訳無いわよね?)
久しぶりに晴れてスッキリとする週末。 二人でどこかに出かけられれば、と思っていたがこのままでは実現はしそうにない。
諦めて「気分転換に黒子達とウィンドウショッピングにでも出かけるか」と、考え直した所で―――

♪♪~♪~

突然携帯から着信音が鳴り出した。 それは聞き間違えようのない着信音である。
もともとは着信音に何を設定しようか迷っていた時、たまたま耳にしたBGMだった。
時間にして3分14秒と設定するには少し長い気はしたが、その曲調は聴けば聴く程上条のイメージにピッタリだと思い設定した。
電話が切れないうちに、と慌てて携帯を取る。 途中落としそうになったが、何とか電話に出る事が出来た。
「は、はひ!御坂です?」
か、噛んでしまった。 しかも、声もうわずっている上に、慌て過ぎて何故か疑問形に。
恥ずかしさで耳まで真っ赤になるのを感じつつ、上条の声を待つ。
「御坂です?って俺に聞かれても困るんだが…お前、美琴で合ってるよな?」
穴があったら入りたい、とはこんな状況を言うんだろうなと思いつつ返事をする。
「あ、当たり前じゃない! …んで、かなり久しぶりな訳だけど、何の用?」
「あぁ、そうそう! 週末、って言うか明日の事なんだけどさ。
 …急で申し訳ないんだが、ちょっと付き合ってもらいたいんけど、空いてるか?」
実はアイツも、この週末は一緒にどこかに出掛けたかったんだろうか。 週末に併せて課題を急いで終わらせて、2人でどこかへ外出。
そしてその先、もしかすると、もしかして――― 美琴はこの先の展開に心躍らせた。

◆ ◇ ◆ ◇ ◆

翌日朝
とある学生寮―――

結局、上条の要件は「どこかへ二人で出かけないか?」といった美琴が期待した内容ではなく、出された課題のヘルプだった。
何処に誘ってくれるんだろう?と少しでも期待した自分が甘かったらしい。
それでも、「久しぶりに会えなら」と思い直して引き受ける事にした。 今までどうしてたのか?など本人から聞きいておきたい事も色々とある。
明けて今日、逸る気持ちを抑えきれず常盤台学生寮を早めに出る事にした。
昨日までは憂鬱に感じられた水溜りも、濡れたアスファルトも、今日は気のせいかキラキラと輝いて見える。
途中、水溜りで遊ぶ2匹の雀を見たが微笑ましく感じた。 こんな風に感じられるのも、心に余裕が出来たからなのかもしれない。
あれこれと考えているうちに、あっという間に上条の部屋へと到着してしまった。 少し緊張しつつ、インターホンを鳴らす。
インターホンが鳴り、少しして中からドタバタと何か慌てている音と「ハ~イ」と言う返事が聞こえてきた。
(そう言えば、第一声は何て声を掛ければ良いかしら。 考えて無かったな~…)
ここはやはり、「テヘッ。 来ちゃった♪」とでも言うのが定番か… でも、そんな仲まで進んでないし…
さて、どうしよう?と今更ながらに悩んでいる内にも足音はドアへと近付いて来る。 マズい、まだ切り出しを考えて無い。
ガチャリ、とドアが開き、上条が顔を出した。
「…テヘッ。 来ちゃ―――」
「お待たせしちゃってすみま――― って… ゲッ!美琴!?」
「ア~ン~タ~は~… せっかく人が手伝いに来てやったってのに、『ゲッ!』ってのは何よ!? 『ゲッ!』ってのは!!」
対応のヒドさに1発お見舞いしてやろうかと思ったが、いつもの様に上条の右手で抑え込まれてしまう。
とりあえず文句だけでも言ってやろうとした所で
「お願いだから玄関先でビリビリは止めてくれ! 昨日カギを交換したばかりで、今日またドアごと交換なんて事になると上条さんが更に居づらくなるから!!」
必死の懇願(少し泣きそうだったのは気のせいだろうか?)にしぶしぶと頷き、とりあえず部屋へと上がる事にした。

リビングに案内され、上条が飲み物を取りに台所に戻った所でコタツに入る。 程なくして、美琴専用マグカップで紅茶が出された。
自分のコップを美琴の向かい側に置き、上条もコタツに入る。 落ち着いた所で早速話を切り出した。
「んで? 手伝いに来てくれた人に対して『ゲッ!』ってのは失礼だと思わない?」
「いや、あれはだな… 普通、驚くだろ。 10時から約束してる相手が、まさか8時前に来るとは思わないし。」
「う゛…… うるさいわねっ! どうせアンタの事だから、寝坊でもするんじゃないかと思って、お越しに来てあげただけよ!」
「寝坊なんてする訳ないだろう? そんな事してたら、一人暮らしなんて出来ませんの事よ~。」
「ま、他にも最近見かけなかったから気になってたしね…」
「ん? 上条さんの姿を見かけないのがそんなに気になったのか?」
「も、もちろん気になるに決まってるじゃない! 確かまだ、アンタに罰ゲームの貸しがまだ残ってたハズだし。」
「どんだけ俺に罰ゲームをさせたいんだよ… 美琴は……」
ポロリと口から出てしまった本音を何とか別の方向で誤魔化した。 何とか誤魔化せはしたが、これでまた想いが伝わるのが少し遠のいた気がして悲しくなる。
「とりあえず、イヤでも毎日顔合わせてたのが見かけなくなったら、気になるもんでしょうが。
 それにさっき、『昨日カギを交換したばかり』とか更に気になる事もチラっと言ってたしさ。 カギを交換って、最近また何かあったの?」
実際は偶然でもなく、美琴が毎日上条を待ち伏せしてたのだが、それは勿論言わない。
先程の上条の気になる発言と、ここ最近どうしてたのかを聞く事にした。

「あ~… 別に何か事件に巻き込まれた、とかじゃないから安心してくれ。 実はさ―――」
上条の話をまとめてみればこうだった。
今回の試験で赤点を順調に大量生産してしまった上条は、放課後は補習三昧。 と、ここまでは調べた通りである。
そんなある日、補習後に玄関のカギを無くしている事に気が付いた。 気が付いてはみたものの、既に時間は夕方で陽は落ちかけている。
いつ、どこで落としたかも分からず教室で途方に暮れた末、無理を言ってクラスメイトの部屋を転々としていたらしい。
転々とする間、何とか管理人に話を付けてドアの鍵を交換してもらい、やっと新しい鍵を受け取ったのが昨日だったという訳だ。
相変わらずの不幸っぷりに呆れると同時に、あれだけ心配していた自身がバカらしくなる。
とりあえず、すぐに自分を頼らなかった事とせっかく考えていた週末の予定を潰される事に対して怒るべきだろうか。
と言う訳で、そこから上条を正座させての説教が少しの間あったのは言うまでもない。

◆ ◇ ◆ ◇ ◆

同日昼前―――

リビングにあるコタツに向かい、暇つぶしがてらに参考書をめくる美琴の姿がそこにあった。
大分落ち着いたものの、まだ怒りは収まりきっていない。
向かいには、少しビクつきながら課題を黙々とこなす上条の姿もある。
説教ついでに今度カギを無くした場合は真っ先に自分を頼る事。 その際は予備として自分もカギを1つ預かる事を勢いで了承させた。
今度同じ事があったら、合鍵ゲット!の確約を取り付け、美琴自身少し落ち着いた所で今日の本題へと入った。
いつものように今回の課題と、上条が詰まっているという部分を確認。 その上で上条の理解が進むように解説をする。
最初こそ真剣に話を聞き、課題に取り組むのだが、決まって最後まで集中力が続かない。
事件などの中心に居る時は凄い集中力と機転の速さを見せるのだが、それも普段はどこ吹く風である。
そろそろ飽きる頃だと思っていると、案の定声が掛けられた。
「今日は久しぶりに晴れて外も暖かいみたいデスヨネ…」
「そうね~。」
「こんな暖かい日はどこかにでも出掛けて、ポカポカ陽気でも堪能しませんか?」
「…アンタの部屋(ここ)に来るまでに、少しだけど堪能して来たから。」
「………」
こんな時は冷たく接するに限る。 話に乗ると、調子に乗っていつまでも課題が終わらない。
「たまにはどこかに出掛けて気分転換でもしませんか、と上条さんは恐る恐る提案してみます…」
「………」
「あの~、ミコトさん?」
「………」
「もしも~し?」
「ったく、少しは集中しなさいっ!! 私だって、久しぶりの良い天気なんだからどこかに出掛けて気分転換したいわよ。
 でも昨日電話で、『課題が終わらないんで、また助けてくれませんか?』って泣きついてきたのはどこの誰だったかしら?」
「うぅ… それを言われてしまうとごめんなさいとしか、と上条さんは困ってしまいます。」
「ったく、もう少し頑張れば終わりも見えるんだから集中しなさいよね。 そ・れ・と、その妹口調も止めなさい。」
「はい。」
集中力が切れだした上条を今一度引き締める。 こうなった場合、もう少し頑張れば課題が終わるという事も示していた。
何でそんな事が分かるのか?と言えば単純明快。 経験の積み重ね、以外の何物でもない。
以前街中で途方に暮れている姿を見かけた際、声をかけてみれば課題が間に合わないとの事でヘルプを頼まれた。
上条と一緒に居る公式(オフィシャル)な理由が出来る、という事で協力を名乗り出たのがきっかけだが、ヘルプを頼まれる頻度が多いというのもどうだろう?
そこまで考えた所でふと見れば、上条も何か別の事を考えているのか手が止まっている。
「ほら、そこ~。 上の空になってないで、さっさと集中する! もう少しで終わりも見えてくるんだから。」
「へ~い。」
もう一度上条が集中してくれれば、昼食を家で済ませて午後から出掛けられる。
そうすれば、当初二人で出掛けたかったイベントにも十分間に合うだろう。

◆ ◇ ◆ ◇ ◆

同日昼過ぎ―――

「さて、っと。 課題も無事終わった事だし、どっかに出掛けない? さっきアンタも出掛けたがってたみたいだし。」
食事を終え、一段落着いた所で提案してみた。 上条もどこかに出かけたそうな雰囲気だったので話には乗ってくるハズだ。
「お、良いな。 それじゃ適当にぶらつきながらウィンドウショッピングとかどうだ? その帰りに、久しぶりにゲーセンで勝負もできるだろうし。」
「ん~… 今日は『Seventh mist』が良いかな~。」
「『Seventh mist』は雨の日でも行けるだろ?」
「晴れの日だからこそ、行ってもいいじゃない。 とにかく、今日は『Seventh mist』に行きたい気分なんだから!」
当初の目的を達成する為にも、是が非でも今日は『Seventh mist』に出掛けたい。
さて、何と言えば納得させられるか?と考えていた所、上条も何か考えていたらしい。
頭に「ピコーン!」と電球に光が灯ったかのように、何かに気が付いた素振りを見せる。
何故にこう、妙な所で気付いて欲しく無い事にはすぐ気が付くのだろう。 気付いて欲しい事には未だ気付いてくれてないというのに。
「オイ、まさかゲコ―――」
「そ、そんな訳無いでしょ! アンタとイベント観覧して、限定アイテム2個ゲット♪、なんて考えてるハズ無いじゃない!!」
……あ゛… 思わず言ってしまった。
「とりあえず、『Seventh mist』は却下で。」
「イヤ! どうしても行きたくない、って言うなら勝負よ。 負けた方が勝った方が行きたい所に絶対付き合うの。」
「ま、このまま話してても平行線だろうからな。 勝負でOKだよ。 んで? 勝負は何にする?」
「ん~。 ジャンケン、ってのもつまらないし…」
一瞬、罰ゲームで上条が負けている分の貸しを使おうかと考える。 確か1回分の権利をまだ履行していない。
権利行使の誘惑に駆られたものの、イベント後の本当の目的の為に取っておこう。 今ここで使ってしまうと、後々の重要な場面で泣きを見る。
「ネタはちょっと古いけど、『10回クイズ』で勝負なんてどうだ?」
「古いけど、他に浮かばないしそれで良いわ。
 それじゃルールは… 10回繰り返すのを言い間違えたらアウト。
 すぐに答えを言えなかったり、答えを間違えた場合もアウト。 っていうのでどう?」
他にパッと思いつく良い勝負の案も無い。 ここは上条の提案に素直に乗る事にした。
「分かった。 それで受けて立とうじゃねえか。」
「オーケー。 開始は提案したアンタからで良いわ。」

◆ ◇ ◆ ◇ ◆

しばしの沈黙の後、上条が出題する。
「それじゃあまず、『that』って10回言ってくれ。」
「that、that、that、that、that、…that!」
「『これはペンです』って言ってみてくれないか?」
「そんなの簡単よ。 『This is a pen』!」
「ん~。 日本語でそのまま『これはペンです』って言えば良いんだけどな。」
「くっ… い、今のはアナタにハンデをあげただけよ。」
迂闊だった。 変に余裕を出していると足元をすくわれるかもしれない。
(確か、目的のモノと似たモノを最初に印象付けて、それで間違わせるんだっけ… それなら…)
「よし、決めたわ。 『シカ』って10回言ってみて?」
「シカ、シカ、シカ、シカ、シカ、…シカ。」
「それじゃ、サンタクロースが乗ってくるのは?」
「ふっ、引っかかるかよ! 正解は『トナカイ』だ!」
「ぶー! 正解は『ソリ』でした~♪ トナカイに乗ってくるワイルドなサンタクロースなんて、初めて聞いたな~。」
「くっ…」

見事に引っかかってくれた。
これで1対1のドローである。 勝負はまだ始まったばかりで、後は次に上条がどのように仕掛けてくるかだ。
「次、いくぞ。 『ヒマラヤ』って10回言ってみてくれ。」
「ヒマラヤ、ヒマラヤ、ヒマラヤ、ヒマラヤ、ヒラマヤ…
 !? ヒマラヤ、ヒマラヤ、ヒマラャ、ヒマラャ、ヒマラにゃっ!」
途中、言い間違えたが何とか持ち直し、そのままラストスパート! と行きたい所だったが、噛んでしまう。
上条が少しニヤけそうなのを我慢してるのが分かるのが気に食わない。
「……世界一、高い山は?」
「エベレスト!!」
「正解。 …でも途中で『ヒラマヤ』って、言ってませんでした?」
「うっ! い、言ってないもん…」
「それじゃ、それでも良いや。 でも、勢いで答えてゴマかそうとしてたけど、最後確実に『にゃ!』って言ったよな?」
「…ズルい!」
「ズルいも何も、美琴が『繰り返しも言い間違えたらアウト』って自分から言ったんだろ。」
「うぅ…」

自分で追加したルールに、自分で引っかかってしまうとは少し自分が情けなくなる。
そして、このまま負けては夢の『上条ゲコ太再び!』が再び遠のいてしまう。 それだけは何としても避けたい。
ヒマラヤのように一見聞いただけでは、繰り返しの言いにくさに気が付かないもの。 どんな言葉をチョイスすれば良いだろうか。
ここまで考えた所で一つの事に、改めて気付いた。
『回答者は、出題者が言う言葉を必ず繰り返して言わなければならない。』
当たり前と言えば当たり前、このゲームの根幹的なルールである。
と言う事は、私が「愛してるを10回言って」と言えば上条は言わなければならない。 こ、これはひょっとして…。
思わずすぐに出題しそうになったが、それに続く肝心な問題部分が思い浮かばない。
ならば他には?と考えだそうとするが、一回意識してしまうとその良案が気になって仕方ない。 気になるというよりも、是非一度言わせてみたい。
ええいっ!後は、言い終った後に何とか誤魔化せれば!と、結局採用する事にした。
「今度は私の番よ~。 アンタなんか、言い間違えちゃうかもしれないんだから。」
これからアイツが「愛してる」と言うかと思うと、止めようと思っても自然と口元が緩んでしまう。
もちろん、出題前にポケットに入れている携帯を録音モードにしておく事も忘れない。 後は上手くアイツの声を録音してくれますように祈るのみとなった。
「やってみなきゃ分からないだろ? で、問題は何だ?」
「まず、『愛してる』って10回言ってみて…」
「ハッ… そんな言葉、俺が言い間違える訳無いだろ。」
ドキドキが止まらない。 アイツも何を出題されるのかと、緊張していたのだろうか。 深呼吸している。
落ち着いたらしい所で、上条が「愛してる」を10回繰り返し言い始めた。
「愛してる、愛してる、愛してる、愛してる…」
繰り返している口調に、いつだか見たような真剣な眼差し。
自分に向けて言ってくれていないのは残念だが、いつかこんな形ではなく自然に言ってくれる日がくるだろうか。
そんな事を思いつつアイツを見ていると、ふと視線が合った。
すると、何を思ったのかアイツはこちらをジッとみたまま言葉を更に続ける。
「愛してる、愛してる、愛してる、愛してる、愛してる、愛してる!」
「………、」
(ズ、ズルイ! そ、そんな眼差しで私を見つめて言ってくるにゃんて、今日予定してた事が狂ったのとか怒れなくにゃっちゃうじゃにゃいの~…)
今日は目的を達成するまでは、そしてまずはこの勝負に勝つまでは気を抜けないと身構えていた。
が、あっさりとそれを乗り越えられた。 アイツの訳の分からない能力は、心にまでも有効なのだったのか。
言い終わっても尚、自分の心に染み込んで来るアイツの眼差しと言葉に、凄い速さで自分の思考が回らなくなってくるのが分かる。
「よっし! 問題は!?」
「ふ…」
「ふ?」
「ふにゃ~♪」
「ふにゃ~、じゃねぇぞぉぉぉぉぉぉ!!」
(あぁ、また能力を暴走させちゃったな… でも、アイツが居てくれるなら… 安心だよね?)
遠のく意識の中で近付くアイツの気配を感じつつ、美琴は身を委ねる事にした―――

◆ ◇ ◆ ◇ ◆

少しして―――

自分の頭に感じる、妙な感じ。
(ん~? 何かしら、今の感じ… あれ? 今はどこに?)
普段寝ている時には無い感覚で、目が覚める。
目が覚めると言っても、怖くて目はすぐに開けない。 と、頭の上辺りから聞きなれた声が聞こえてくる。
「よ~し… 気付いて無い、気付いて無い。 もう少しそのまま寝ててくれよ~…」
その言葉の後に、自分の頭が微妙な力加減で持ち上げられる感覚。 と、そこまで何があったかを思い出した。
(そっか… 当麻の家に来てから、途中でまた能力を暴走させちゃったんだっけ…)
バレないように片方の目をうっすらと開けると、当麻のものと思しき脚が見えた。
どうやら、能力を暴走させて倒れた私を当麻は膝枕してくれていたらしい。 今は、起きる前に枕辺りにでもすり替えておこう。 という辺りだろうか。
気が利いているような、気が利いていないような。
そんな複雑な思いにさせられると同時に、「膝枕をしてもらっている」という事をどうしても意識してしまう。
目をつぶっている分、今回は何とか暴走は抑えられそうだ。 当麻が頭に右手を添えてくれてる、というのもあるだろう。
枕にすり替える難しさを痛感したのだろうか。 しばらくして、頭に当麻の脚の感触が再び戻ってきた。
直後、当麻が何かをしているのか頭が微妙に揺れる。 揺れが収まった所で、自分の身体に何かがかけられた。
フワっとした肌触りと、いつか感じた当麻の香りが自分を包む。 毛布を掛けてくれたらしい。
暖かく自分を包み込む毛布はまるで、当麻に抱きしめられているようでもある。
(私、何考えちゃってるんだろ…)
自然と口元が緩んでしまうのが分かる。 が、分かっても止められそうに無い。
(起きてるの、バレちゃうかな?)
そう思った所で、
「ったく… そんなに嬉しそうに寝てたら、起こせないじゃないかよ。」
当麻の独り言が聞こえてきた。
一見呆れているようなそぶりだが、いつもより更に優しさを帯びているのを気のせいだとは思いたくない。
(いつもはふざけあってばかりで、意味もなく攻撃しちゃったりするけど… たまには、こうやって甘えても良いよね? 当麻…)

今日はもうイベントに間に合わないだろう。
が、たまにはこんなゆったりとした時間を2人だけで過ごすのも良いのかもしれない。
そう思い直し、身体だけでなく心も温まりそうなこの遑(いとま)に身をゆだねる事にした。


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