もし年齢が逆転してたら? お試し版
6月某日
「あぁん、聞いてんのか?」
-----別に彼ら(通行人)が薄情なわけじゃない
「おいおい、脅かすなって、怖がってんだろこいつ。ははは」
-----如何にレベル0とはいえ相手は7人もいるのだ
「てめえ、さっきから黙って、スカしてんのかぁ!!」
-----いくら能力が使えてもこの人数を相手にするなど難しいだろう
「ねえねえ、君常盤台でしょ。お金沢山持ってるんだろうねぇ」
-----知らない人間の不幸のために割り込んでくる人間なんていやしない
「ってか反応ないならちゃっちゃとやっちまおうぜ」
-----普段から慕ってくれている後輩ならこういう時は『何故か』時間を置かずに駆けつけてくれる
「おっ、それサンセー」
-----恐らく今回も気付いてくれるだろう。だから今やることは後輩が来るまでの時間を……
「アンタ達、なにやってんの」
それが常盤台中学校に所属する異色の無能力者『上条当麻』と学園都市で7人しかいないレベル5『御坂美琴』の出会いだった。
「アンタ達何やってんの?」
御坂美琴は不機嫌そうな顔で周りを見渡しそう言い放った。
たまたま今回は友人達との付き合いで遅くなったためにこの現場に居合わせたが、
そうでなかったらと考えると彼女はこの時間まで引っ張りまわした友人達に少しだけ感謝をした。
「なんだお嬢ちゃん。お嬢ちゃんが坊主の代わりに相手をしてくれるのかぁ?」
「お、そりゃいいねぇ。この子スタイルいいし可愛いし。満足させてくれそうじゃないか」
(ふんっ、下卑た発想ね。男って何でそんな事しか考えないのかしら)
助けに入ったのはいいが、早くも少年を囲んでいた男達に対して嫌悪感しか感じない御坂美琴は毅然と言い放った。
「くだらないわね。中学生の子どもを7人で囲むことしかできなくてその次は自分達の欲望を満たすために女の子を変な目で見る」
「何だとてめえっ。人が下手に出てればぬけぬけと。少し顔がいいからって調子にのってんじゃねえぞ!!」
「怒鳴れば相手を萎縮させることができると思ってるの?私はね、アンタ達みたいな輩が嫌いなのよ!!」
御坂美琴と7人の不良、どちらも剣呑な空気を出し始めたところに忘れ去られていた人物から声が掛けられた。
「あー、お兄さんお姉さん方や。喧嘩はよくありませんよ。ここは話し合いでですね……」
「「てめえ(アンタ)は黙ってろ!!」」
0.2秒で却下されたため、上条当麻は「俺、当事者だよな?」と呟きつつ、後輩が早く来てくれることを祈った。
「口で言っても分からないガキには身体で分からせてやるしかないようだな」
「ひゃはは、朝まで帰れないかもしれないけど気にしないでね」
「朝どころかいつ帰れるか分かんないけどなー」
男達の言葉を聞いてる御坂美琴のこめかみはヒクヒクとしていた。
子供を複数の大人で取り囲むようなのは嫌いな上、普段から近づいてくる下品な輩に辟易しているため我慢ももう限界なのだ。
「そう……アンタ達はいつ帰れるか分からない状態にしてあげるわ」
「お、その気になったか。最初からそうしてればいいんだよ」
リーダー格と思わしき金髪の男が御坂美琴の肩を抱き寄せて歩こうと動いた瞬間
「アンタら全員病院行きだぁーーー!!」
激しい電撃が男達を襲った。
「はぁ、はぁ……あーもー最悪。こんな奴らに能力使っちゃうなんて」
回りを見渡すと、白目を向いて気絶している男達。
それを尻目に「何でこんなことになってたんだっけ?」と考えたところで
「あっ、やばっ!?ねえ、ちょっと大丈夫?」
助けるはずの少年をも巻き込んでしまったと慌てた彼女が見たのは
「……あ、あっぶねー。何だ今の。発電能力者か?」
右腕を突き出し、無傷で立っている上条当麻の姿だった。
「えっ嘘、今ので無傷なの?」
目の前で起きていることが信じられないのであろう。
大人ですら気絶するほどの電撃を放ったというのに自分より年下である少年は全くの無傷なのだ。
「なぁ……ビリビリ姉ちゃん。こんなことしてたら風紀委員に睨まれるぜ」
今まで15年間彼女が生きてきた中で、彼女の電撃をこうまで防いだ相手はいない。
「おーい、ビリビリ姉ちゃーん?」
それを目の前の少年はやってのけたのだ。
初めて遭遇する現象に、今まで御坂美琴が積みあげてきた自信は崩れようとしていた。
「…んで……」
「え?」
「なんでアンタには効かないのよっ!!」
そう言うやいなや、御坂美琴から放たれた電撃は上条当麻の突き出した右腕に向かって伸び……
「……嘘」
そのまま吸い込まれるように消えてしまった。
「……アンタ、常盤台よね」
「え、あぁ。常盤台普通科の2年だ」
(普通科……レベル3以上は特進に入れられるってことはレベル2以下ってこと?でもレベル2以下で私の電撃をああも防げるものなの)
彼の返答を聞いて考え込む御坂美琴。
イラッと来てつい電撃を出してしまったとはいえ、彼女にもレベル5としてのプライドがある。
そこらに転がっているような能力者にそうそう防がれてはたまらない。
意を決して彼女は次の質問を放った。
「アンタ、レベルは?能力名は?」
「俺?俺はその……システムスキャンじゃレベル0って判定なんだけども」
「………………え?」
ここで1つ補足を入れよう。
常盤台中学は2年前までは、卒業後にあらゆる分野で通用する人材を育成する超お嬢様学校だった。
だがそれも過去形、あくまで『だった』に過ぎない。
ここ6,7年、常盤台の成績(大覇星祭や統一模試など)は急激に落ち込んでいた。
学校側は躍起になってレベル5を迎え入れたり、特待生を増やし成績の底上げをしようと頑張ってみたものの結果は芳しくなく、
とうとう保護者達の声を受けて動いた統括理事会から、『お嬢様学校』の看板を取り外すように通達が出たのだ。
最初は学校側も反対したものの、常盤台の英才教育を残し復権を狙うために教育水準が以前と変わらない『特進科』(学び舎の園本校)と、
一般の生徒を受け入れる『普通科』の2つの科の設立、学び舎の園の外に普通科用の校舎を作ることを統括理事会に認めさせることに成功した。
今も尚『特進科』にはレベル3以上の女子が優先的に振り分けられ、成績優秀かつ高レベルの一部の男子を除いてほぼ全ての男子が『普通科』へと振り分けられることになった。
もっとも、元女子中学校ということもあり成績優秀かつ高レベルに振り分けられる男子は常盤台に来ないため、学び舎の園の中の『特進科』は共学化前と変わっていないのだが。
御坂美琴もレベル5というレベルの高さ故に3年前に常盤台へ迎え入れられ、3月に卒業したのだ。
だが目の前の少年は何と言った?
中学2年の時に特進科に振り分けられた後に新設された普通科の噂も聞いたことはあった。
だが御坂美琴の知る限りレベル0、無能力者が常盤台に入学したと聞いたことはない。
彼は2年と言ったがそれが本当なら自分が在籍していた3年の時に何かしら話題に挙がっていたはずだ。
そのように御坂美琴が頭を回転させていると
「じゃあなビリビリ姉ちゃん。姉ちゃんも早く帰ったほうがいいぜ。あと助けてくれてサンキューな」
と、上条当麻が遠くから声を掛けながら走って帰っていった。
「ま、待ちなさいよアンタ!!」
御坂美琴は逃がすまいと追いかけようとするが時既に遅し、上条当麻を見失った彼女はその場で地団駄を踏み周りの通行人を怯えさせていた。
そして時は流れ7月17日の夜。
「待てって言ってんでしょがぁー!!」
「か、勘弁してくれよビリビリ姉ちゃん」
「ビリビリじゃない、私には御坂美琴って名前があるって言ってるでしょ!!」
待ちで上条当麻を見つけた御坂美琴は、ここ最近日課にもなりつつある上条当麻との勝負のために追いかけまわしていた。
「そんなに電撃まき散らしてるんだ、ビリビリ姉ちゃんで十分じゃないか」
「だ、黙れこのガキィー」
中学生の言葉に簡単に挑発される御坂美琴。
日中に普段の彼女を見ている知り合い達がこの姿を見たら、本当に同一人物なのか疑うほど驚くだろう。
「大体姉ちゃんいつまで追っかけて来る気なんだよ」
「決まってるじゃない!!私がっ、アンタにっ、勝つまでよっ!!」
「ふ、不幸だあー!!」
二人が追いかけっこを始めて約30分。
巻き込まないために人の居ないところを目指して走ってきた上条当麻は、川辺に寝転がっていた。
「はぁ、はぁ……しつこすぎるぜ……」
如何に夜とは言えども、夏が本格的に始まってきているため気温は高い。
そんな時期に全力で走り続けていた上条当麻は、全身汗だくで今にも意識を手放して寝てしまえそうなほど疲れていた。
さすがにこんなところで寝るわけにもいかないので周りを見てもう誰も居ないことを確認して帰ろうとした矢先
「見つけたわよ!!さあ、勝負しなさい」
やっと追いついてきた御坂美琴に発見されてしまった。
「まだ諦めてなかったんかよビリビリ姉ちゃん」
「だからビリビリ言うなぁっ!!」
「うぉわっ、あぶねっ」
急に御坂美琴から放たれた電撃も右腕のガードが間に合い難を逃れる上条当麻。
しかしそれを見た御坂美琴はより不機嫌になっていった。
「なんなのよそれ……電撃を何の苦も無く打ち消せるとかふざけてるってレベルじゃないわ……」
中学生である上条当麻としては、明日も学校なので早めに家に帰りたいところ。
だが目の前の御坂美琴をどうにかしない限り今日は帰れそうにもない。
意を決して上条当麻は疑問を口にした。
「で、どうなったら終わるんだ、ビリビリ姉ちゃん」
「人の話を聞けぇっ!!……どうしたら終わるかって?そりゃ勿論私が勝ったらよ!!」
勝つまでやめない。
余りにも分かりやすい答えが帰ってきたため上条当麻はいい加減腹を括るべきだと観念した。
「分かった、分かったよビリビリ姉ちゃん。ちゃんとやればいいんだろ」
「っ!?そうよ、やっとやる気になったのね」
今までの追いかけっこで分かったことといえば目の前の少女がとんでもない能力者だってことだったが、
勝負するという手以外にこの状況を切り抜ける術を思いつかなかった上条当麻は、やる気満々の御坂美琴を見て早くも後悔し始めた。
「準備はいいかしら、行くわよ」
「いいぜ、来いよビリビリ姉ちゃん」
その言葉が発端となり御坂美琴から数多の電撃が上条当麻に向かって伸びるが、上条当麻の突き出した右腕にかき消されてしまう。
(やはり飛ぶ電撃は効かない。もしこれもダメならひょっとしてコイツの能力は……)
「やっぱ電撃は効かないじゃんかよ。もうこの辺りでやめにしねえ?」
「何言ってるのよ。私はまだ力を使ってないわよっ!!」
そう言いながら駆け出した御坂美琴の手には、黒い剣がいつの間にか握られていた。
「ちょっ、獲物は反則じゃねーのかよビリビリ姉ちゃん」
「残念、これは私の能力を使って作った砂鉄の剣よ。触れるとちょっと血が出て痛いかもしれないけど……ねっ!!」
相手が中学生でも今は敵だと1回、2回、と容赦なく剣を振るう御坂美琴。
しかし上条当麻はどんな体勢からも紙一重で避けていく。
「このちょこまかと……当たりなさいよっ」
「無茶言うなっ!!」
横薙ぎの一撃を前転で避けると、そんな攻撃には付き合ってられないと距離を離す上条当麻。
「(後ろを向いた、今だっ)…逃げても無駄よ。こいつにはこういう使い方もあるのよっ!!」
「なっ、伸びたっ!?」
ここぞとばかりに伸ばした剣を鞭のようにしならせて叩きつけるが、振り向いた上条当麻の右腕に無効化された剣はただの砂鉄となり大気中へと拡散してしまった。
(ここまでは予想通り……欲を言えば今ので決まってて欲しかったけど、でもこれで布石は打った)
「あ、あぶねー……ビリビリ姉ちゃん、もう今ので勝負あっただろ」
「さあ、それはどうかしらっ!!」
「大気中の砂鉄まで操る!?ビリビリ姉ちゃんどんな出鱈目な能力してんだよ」
御坂美琴から電気が走ると流された砂鉄を上空に集まり上条当麻に向かって叩きつけられる。
「こんなこと、何度やったって同じ結果じゃねえかっ」
砂鉄に向かって右手を薙ぐことによって難を逃れる上条当麻。
コントロールを失った砂鉄で一瞬視界が閉ざされるが、すぐに拡散したため御坂美琴の位置を把握しようと前を見る。
「いないっ、何処へ」
次の瞬間、後ろで泳いでる右手に柔らかいものが触れたため上条当麻が後ろを見るとすぐ側に御坂美琴がいた。
「飛んでくる能力は防げても、ゼロ距離からの能力は防げないでしょ!!」
「……ぁ」
(嘘っ!?電撃が流れていかない。ううん、能力自体が使えない)
電撃を流そうと力を込めるが、握った手から先に電撃が流れていかない。
それどころか能力自体の発動がしないことに戦慄を覚える御坂美琴。
すぐに致命的な隙を見せていることに気付き距離をとろうとするが、彼女が見たのは拳を振りかぶった上条当麻ではなく顔を真赤にして硬直している彼の姿だった。
「ア、アンタ何止まってんのよ。私のこと舐めてんの!!」
「……だよ」
「は?何よ?」
「だから!!……ゴニョゴニョだったんだよ」
「聞こえないのよ、もっとハッキリ言いなさい!!」
「あーもー、姉ちゃんみたいな綺麗な人に手繋がれたのも、こんな近くで顔見たのも初めてだったんだよ!!」
「へ……え、綺麗?初めて?」
自ら認めざるを得ないような隙を見せても彼が何もしてこなかったことに御坂美琴は憤りを覚えるが、彼の口から放たれた言葉は彼女の予想の斜め上を行くものだった。
上条当麻の言葉を聞いて今の状況をよく見てみると少し手を引くだけで彼の体が自分に密着しそうなほど近づいており、夜の川原で男女2人きりで手を繋いでるというシチュエーションは
今まで男性と付き合ったことのない御坂美琴にとっても少々刺激の強いもので、彼女の顔が真っ赤に染まるのに時間はかからなかった。
「えと……これはその……そう、勝負よ勝負。だから仕方ないのよ!!」
そう言い訳しながら御坂美琴は手を離して離れるが、少し寂しそうな顔をする上条当麻を見てわずかに胸が痛んだ気がした。
(何よその顔……なんかこっちが悪いことしてるみたいじゃない!!……年下っぽくてちょっとかわいいって何考えてんのよ私は)
うあーと髪を掻きむしり顔の火照りが取れないことに御坂美琴は苛立つが、すぐさま気を落ち着けて上条当麻の方を向く。
「さ、さあ、勝負の続きを始めるわよ!!」
「か、勘弁してくれよ。なんかそういう空気じゃなくなってるしさ」
まだ勝負はついてないと言いたげに再開を唱える御坂美琴だが、上条当麻の言葉を聞いて先程まで滾っていた戦意が消えていることに気付く。
彼の方も同じなのだろう。
先程までの真剣な表情ではなく酷く疲れた顔を見せたため心配して近寄った御坂美琴だが、急に倒れてきた上条当麻に巻き込まれて一緒に転んでしまった。
「ちょ、ちょっと!!急にもたれ掛かってきてセクハラ…よ……って寝てるわね」
御坂美琴の胸に顔をうずめた上条当麻に文句を言おうとしたが歳相応の寝顔を見てしまった彼女は起こすに起こせず、
彼の頭がずり落ちないように軽く抱きしめると先程までの能力の行使による疲れと背中から感じる原っぱの心地良い感触から少しの間だけ意識を手放した。