御坂美琴は、上条当麻の胸に飛び込み、ありとあらゆる言葉と涙を,、感情のまま叩きつけた。
「………」
上条は何も言わず、左手で美琴をきつく抱き締め、右手で彼女の頭に触れたまま、黙ってその衝撃を受け続けていた。
美琴は、上条に抱きついた時から漏電を起こし、バチバチと放電していたのだが、上条の右手のおかげで周りには出ていない。
「美琴…」
もはや美琴が何を言っているのか、何と言っているのかは問題ではなかった。
彼女の叩きつけるような感情の波が、上条の首を絞めるように巻きついて来る。
―このまま縊り殺されても文句は言えねぇよな。
ただ彼女の想いだけを感じ、受け止めていることだけが、その時上条が出来るただ一つのことだった。
「………」
上条は何も言わず、左手で美琴をきつく抱き締め、右手で彼女の頭に触れたまま、黙ってその衝撃を受け続けていた。
美琴は、上条に抱きついた時から漏電を起こし、バチバチと放電していたのだが、上条の右手のおかげで周りには出ていない。
「美琴…」
もはや美琴が何を言っているのか、何と言っているのかは問題ではなかった。
彼女の叩きつけるような感情の波が、上条の首を絞めるように巻きついて来る。
―このまま縊り殺されても文句は言えねぇよな。
ただ彼女の想いだけを感じ、受け止めていることだけが、その時上条が出来るただ一つのことだった。
どれ程時間がたったのか、やがて上条は口を開いた。
「美琴…、ごめんな…」
泣いている美琴の肩がビクリとした。
「それと…ありがとう…」
その一言で、美琴の嗚咽が止まった。
「…えっく…、えっえっ…く…、…えっく…、…ふぅ…」
美琴はまだ俯いたままではあるが、肩の震えも少しずつ治まっているようだ。
やがて…
「当…麻…の…」
美琴はそれだけ言うと、上条の顔を見た。
美琴の泣き顔が上条の胸に突き刺さる。かつて、守ると約束した少女が流す涙が、上条の心を痛めつける。
上条を見つめる美琴の目がキッと強くなった瞬間…
「馬鹿ッ!」
パシィ!と乾いた音が響く。
上条は左頬に熱い痛みを感じ、思わず美琴を抱いていた手を離した。
上条は左手をその熱さを感じるかのように、頬に当て、真剣な面持ちで美琴の顔を見た。
「何で…、何であの時…、私の手を振り払ったのよ…」
―わかっていたさ。俺だって、本当は一緒に逃げたかったよ
「アンタ、何でいつも一人で抱え込もうとするのよ…」
―でもそれが、俺が知っているたった一つの生き方
「いつもいつもボロボロになって…
アンタは…それで満足かもしれない…
でもね…」
美琴の言葉が上条の首を更に締め付ける。
「そんなアンタを見ている私はどうしたらいいのよ…」
―………
「いやよ…
私、アンタが傷付いて、苦しんで、それでも…
笑っている顔なんて見たくないのよ!」
「美琴…」
「私はアンタに救われた。絶望の中から引っ張りあげてくれた。
そしてアンタに居場所を教えてもらったの。
生きててもいいって言われたの。
今のアンタによ!
昔のアンタじゃない。記憶をなくした後の上条当麻によ!
私はそんなアンタが好き。今の上条当麻が大好きなの…
当麻の笑った顔が大好きなの…
ううん、そうじゃない。記憶なんて関係ない。
アンタがいつ記憶を無くしたかはっきりとは知らない。
でも多分、私は記憶をなくす前のアンタを知ってる。
だから…今も昔も…上条当麻のことが大好きなの。
私はアンタの知らない上条当麻を知ってるのよ。
この嘘つき!偽善者!
わかってるわよ…。
アンタがどうして、どこで、誰と戦ってるかってことぐらい…。
今の私じゃ、アンタの力になれないことぐらいわかってる。
でもアンタの傍にいて…話を聞いてあげることなら…私にも出来るんだから…
なのに…どうして…いつもアンタはそうやって…
いつも本当の気持ちを隠し続けるのよ!
何もかも全部、ぶちまけて見なさいよ!
泥くそだろうがなんだろうが、アンタの汚いものも、何もかも全部受け止めてやるから!」
美琴の言葉が、上条の壁に突き刺さる。こじ開ける。叩き潰す。その強固な扉を。
美琴は再び涙を流しながら、上条の目を見つめ続けた。
「だから逃げるな!誤魔化すな!私の目を見なさいよ!」
御坂美琴が、上条当麻の奥底にある『何か』を叩き壊した瞬間だった。
「美琴…、ごめんな…」
泣いている美琴の肩がビクリとした。
「それと…ありがとう…」
その一言で、美琴の嗚咽が止まった。
「…えっく…、えっえっ…く…、…えっく…、…ふぅ…」
美琴はまだ俯いたままではあるが、肩の震えも少しずつ治まっているようだ。
やがて…
「当…麻…の…」
美琴はそれだけ言うと、上条の顔を見た。
美琴の泣き顔が上条の胸に突き刺さる。かつて、守ると約束した少女が流す涙が、上条の心を痛めつける。
上条を見つめる美琴の目がキッと強くなった瞬間…
「馬鹿ッ!」
パシィ!と乾いた音が響く。
上条は左頬に熱い痛みを感じ、思わず美琴を抱いていた手を離した。
上条は左手をその熱さを感じるかのように、頬に当て、真剣な面持ちで美琴の顔を見た。
「何で…、何であの時…、私の手を振り払ったのよ…」
―わかっていたさ。俺だって、本当は一緒に逃げたかったよ
「アンタ、何でいつも一人で抱え込もうとするのよ…」
―でもそれが、俺が知っているたった一つの生き方
「いつもいつもボロボロになって…
アンタは…それで満足かもしれない…
でもね…」
美琴の言葉が上条の首を更に締め付ける。
「そんなアンタを見ている私はどうしたらいいのよ…」
―………
「いやよ…
私、アンタが傷付いて、苦しんで、それでも…
笑っている顔なんて見たくないのよ!」
「美琴…」
「私はアンタに救われた。絶望の中から引っ張りあげてくれた。
そしてアンタに居場所を教えてもらったの。
生きててもいいって言われたの。
今のアンタによ!
昔のアンタじゃない。記憶をなくした後の上条当麻によ!
私はそんなアンタが好き。今の上条当麻が大好きなの…
当麻の笑った顔が大好きなの…
ううん、そうじゃない。記憶なんて関係ない。
アンタがいつ記憶を無くしたかはっきりとは知らない。
でも多分、私は記憶をなくす前のアンタを知ってる。
だから…今も昔も…上条当麻のことが大好きなの。
私はアンタの知らない上条当麻を知ってるのよ。
この嘘つき!偽善者!
わかってるわよ…。
アンタがどうして、どこで、誰と戦ってるかってことぐらい…。
今の私じゃ、アンタの力になれないことぐらいわかってる。
でもアンタの傍にいて…話を聞いてあげることなら…私にも出来るんだから…
なのに…どうして…いつもアンタはそうやって…
いつも本当の気持ちを隠し続けるのよ!
何もかも全部、ぶちまけて見なさいよ!
泥くそだろうがなんだろうが、アンタの汚いものも、何もかも全部受け止めてやるから!」
美琴の言葉が、上条の壁に突き刺さる。こじ開ける。叩き潰す。その強固な扉を。
美琴は再び涙を流しながら、上条の目を見つめ続けた。
「だから逃げるな!誤魔化すな!私の目を見なさいよ!」
御坂美琴が、上条当麻の奥底にある『何か』を叩き壊した瞬間だった。
―もう…だめだ…
―怖い…
―いやだ…
―見るな…そんな目で…
―もうだめだ…
―苦しい…
―やめろおおおおお…
―いやだあああああ…
上条当麻の胃の底から、何かこみ上げてくるものがある。
胸がムカムカする。吐きそうだ。
頭の中が真っ白になる。
そして扉が開く。
「なんでそんなこと言うんだよ…」
上条が搾り出すように口にした言葉に、美琴は一瞬立ちすくんだ。
「わかんねぇんだよ!俺にだって!」
上条の両目から涙がこぼれだした。
「俺だって…。俺だって…言いたいけど…
―なんて言ったらいいかわかんねぇんだよ!」
奔流のように流れ出したものに、上条は翻弄される。
膝を折り、泣き崩れた上条を、美琴は何も言わず優しく抱き締めた。
上条はただ泣くしかなかった。美琴の胸に抱かれながら。
何も言葉にならず、ただ声にならない声を上げながら。
さながら聖母マリアに抱かれた赤子のようでもあった。
―いやだ…
―見るな…そんな目で…
―もうだめだ…
―苦しい…
―やめろおおおおお…
―いやだあああああ…
上条当麻の胃の底から、何かこみ上げてくるものがある。
胸がムカムカする。吐きそうだ。
頭の中が真っ白になる。
そして扉が開く。
「なんでそんなこと言うんだよ…」
上条が搾り出すように口にした言葉に、美琴は一瞬立ちすくんだ。
「わかんねぇんだよ!俺にだって!」
上条の両目から涙がこぼれだした。
「俺だって…。俺だって…言いたいけど…
―なんて言ったらいいかわかんねぇんだよ!」
奔流のように流れ出したものに、上条は翻弄される。
膝を折り、泣き崩れた上条を、美琴は何も言わず優しく抱き締めた。
上条はただ泣くしかなかった。美琴の胸に抱かれながら。
何も言葉にならず、ただ声にならない声を上げながら。
さながら聖母マリアに抱かれた赤子のようでもあった。
やがて上条は少しずつ、美琴に話をはじめた。
自分の記憶をなくした日からのことを。
流れる涙を止めようともせず。
美琴は何も言わず、同じように涙を流しながら、それでいてやさしく、微笑みをうかべて上条の話を聞いていた。
「ありがとう当麻。話してくれて。
本当につらかったんだよね。
ずっと言いたかったんだよね」
「ああ…、やっと…言えた…気がする。たぶん…」
「今は全てじゃなくてもいいのよ。また言いたくなった時に言えばいいから。
私なら、いつでも聞いてあげるし、アンタの全てをいつでも受け止めてあげる。
言えない時は、また今日みたいに手伝ってあげるから。
でも当麻。今ほんとにすっきりした…いい顔…してるわ…
私しか知らない当麻の、本当の顔…よね」
「美琴…ありがと…。
でさ…俺…、もう一つ、謝らなければならないことがあるんだ…」
「知ってる。約束のこと、でしょ…」
「―知ってたのか…お前」
「『御坂美琴とその周りの世界を守る』だったよね」
「…ごめん」
「そんな約束、捨てちゃえば?」
「えっ」
「アンタが勝手に他人とした約束が、私を傷付けたらどうするの?」
―!
「そんなの勝手じゃない。
私の世界は私のものよ。
アンタのものでもソイツのものでもないわ。
そんな勝手にされた約束が、本当に私と私の周りの世界を守れるって思うの?」
「しかし…」
「しかしもくそも無いわよ…」
美琴は笑いながら言った。
「残酷なようだけど、私の世界は、ソイツとは何の関係も無いわ。
思ってくれる気持ちはありがたいけど、自分勝手な想いの押し付けは、私にとっては迷惑なだけ。
私の世界なんて、一体どれだけ知ってるっていうのよ、ソイツが。
ならアンタとじゃなくて、直接私とするべきじゃない。
勝手に人の世界を決めてくれるなってのよ」
「美琴…」
「だったらアンタが私としなさい。ソイツとじゃなくて。
私との約束は、厳しいわよ。
私の世界は、私の大好きな上条当麻が中心にいるの。
上条当麻が今のような笑顔で、私の前にいてくれることが、今の私の世界なの。
その世界を、本当にアンタ、守れる?」
「ああ、守るとも。必ず…」
パシン!
「嘘つき!」
美琴の手が再び上条の左頬に飛んだ。
自分の記憶をなくした日からのことを。
流れる涙を止めようともせず。
美琴は何も言わず、同じように涙を流しながら、それでいてやさしく、微笑みをうかべて上条の話を聞いていた。
「ありがとう当麻。話してくれて。
本当につらかったんだよね。
ずっと言いたかったんだよね」
「ああ…、やっと…言えた…気がする。たぶん…」
「今は全てじゃなくてもいいのよ。また言いたくなった時に言えばいいから。
私なら、いつでも聞いてあげるし、アンタの全てをいつでも受け止めてあげる。
言えない時は、また今日みたいに手伝ってあげるから。
でも当麻。今ほんとにすっきりした…いい顔…してるわ…
私しか知らない当麻の、本当の顔…よね」
「美琴…ありがと…。
でさ…俺…、もう一つ、謝らなければならないことがあるんだ…」
「知ってる。約束のこと、でしょ…」
「―知ってたのか…お前」
「『御坂美琴とその周りの世界を守る』だったよね」
「…ごめん」
「そんな約束、捨てちゃえば?」
「えっ」
「アンタが勝手に他人とした約束が、私を傷付けたらどうするの?」
―!
「そんなの勝手じゃない。
私の世界は私のものよ。
アンタのものでもソイツのものでもないわ。
そんな勝手にされた約束が、本当に私と私の周りの世界を守れるって思うの?」
「しかし…」
「しかしもくそも無いわよ…」
美琴は笑いながら言った。
「残酷なようだけど、私の世界は、ソイツとは何の関係も無いわ。
思ってくれる気持ちはありがたいけど、自分勝手な想いの押し付けは、私にとっては迷惑なだけ。
私の世界なんて、一体どれだけ知ってるっていうのよ、ソイツが。
ならアンタとじゃなくて、直接私とするべきじゃない。
勝手に人の世界を決めてくれるなってのよ」
「美琴…」
「だったらアンタが私としなさい。ソイツとじゃなくて。
私との約束は、厳しいわよ。
私の世界は、私の大好きな上条当麻が中心にいるの。
上条当麻が今のような笑顔で、私の前にいてくれることが、今の私の世界なの。
その世界を、本当にアンタ、守れる?」
「ああ、守るとも。必ず…」
パシン!
「嘘つき!」
美琴の手が再び上条の左頬に飛んだ。