とある魔術の禁書目録 自作ss保管庫

Part03

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上条当麻は走っていた。
向っていた。あの日と同じように。
そこに居るであろう、女の子の元へ。

人通りが途切れつつあった通りの物陰から目に前に飛び出した人影。
一瞬身体が構えを見せたが、すぐに警戒を解いた。

「かみやん、お疲れさんだったぜい」
「土御門…」
「今から行くのかにゃ?」
「…そうだ」
「で、かみやんはこちらを選ぶと?」
「…許してもらえるかどうかも含めて」
「んにゃ?」
「俺に選択の余地は無い…しな」
「フラグメイカーの名は伊達じゃなかった、ってとこかにゃ」
「それはどういう意味…」
「ま、言葉通りだぜい。最近は女の子だけじゃないみたいだしにゃ…」
「え?」
「北極からのお帰りがバージニア級で、こっそりポーツマスへ上がるたぁ、ちょっと演出がきついぜい…」
「うっ…」
土御門の目が一瞬細くなったように見えた。
(何があったかはわからねぇが、ま、しょうがないか。いずれは、ということか…)
土御門が言葉を繋ぐ。
「ところで、かみやん」
「なんだ…」
「今夜、ご入用のものは、新聞受けにでも入れておくからにゃ。」
「何のことだ?」
「まぁまぁ、俺とかみやんの仲だぜい。まかしとけって」
「お前一体何を…」
「さーさー、王子様はお姫様をお迎えに行くんだぜい。がんばれ、かみやん」
「…ありがとうな、土御門」
「さっさと行けってぇの。彼女に恥かかすんじゃないぜい」

上条はさっと右手を上げると、再び駆け出した。





十六夜の月は、学園都市の上にかかりつつあった。
川面に映るその光は、満月のようにも見える。
しかしそれは満ちていく月ではなく、これから闇に向って欠けていく月なのだ。

ときおり川風が美琴の顔を撫ぜていく。

あの日の川風は、まとわりつくような、ねっとりとした湿り気をはらんでいたが、今日のそれは熱気は無く、鋭く透明感のあるナイフのような冷たさに変わっていた。

美琴にはその冷たさが、自分の心の表面に傷をつけていくように感じていた。
なのに今日は不思議とこれまでのようにチクリとした痛みや、ザラリとした苦さを感じることも無かった

――アイツがいなくなってどのくらいたつのかな
――もう昔のような気もするし、でもついこの間だったような気もする…
――最後に見たアイツの顔、ぼんやりとしか思い出せなくなっちゃったな
――アイツ、きっと帰ってくるよね。でないと私…

――でもなぜかな。今日はいつもより気持ちが楽になってる…
――もしかして、アイツ、私の傍に帰ってきてるのかな
――それって、もしかして…ううん、気のせい?
――でもなんとなくそうじゃないかって気もしてる…

――アイツ、バカだから、多分自分が今どこにいるかわかってないんだと思うな
――もしかすると帰る先さえわかっていないのかも
――私、アンタが帰ってくるまでいつまでも待っているから
――さっさとやらなきゃならないこと、すませてしまってよね

――もし本当に帰る場所がわからないのなら、私、アンタを見つけに行くから。
――うん、きっと大丈夫。今夜はアイツのこと、信じていられる。


風に乗って、人が駆ける足音が聞こえてきた。

過去に何度も聞いた覚えのある懐かしい音…

御坂美琴がその方向に目を向けた瞬間…思わず息を呑んだ。頭の中が真っ白になる。

手が震え、口が渇き、喉がつまり、胸のドキドキが一気に早くなる。

遠くの街の明かりに照らされたシルエットは、ツンツン頭の少年。

愛しい気持ちと、なんとも言えない安堵感と、爽やかな高揚感がこみ上げてきて、

少女は、まるで何かに縛られたように動けなくなった。

少女の前まで駆け寄ってきた少年は、しばらくの間、下を向いてはあはあと息を整えていたが、大きく息をしたかと思うと少女に向かい、口を開いた。

「ただいま、美琴」

「お…か…え…り…、と…う……まあああぁぁぁぁ」

青白い月に照らされた少年の顔は、紛れも無く上条当麻だった。
彼の声を聞き、その顔をみた美琴の視界はぼやけた。
その瞬間、彼女の感情は一気に弾け、唸るような、泣くような、声にならない声を上げて上条の胸の中に飛び込んでいった。
美琴は溢れる涙を拭おうともせず、顔をくしゃくしゃにして泣きじゃくった。
まるで身体中の水分が全て出てしまうかと思われるほどに。
頭の中は相変わらず真っ白なままであったが、それでも喜びが心から湧き続ける。
美琴は胸の奥に秘めていたものを、上条に向って全て吐き出していた。


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