とある少年少女の衝撃発言(サドンインパクト)
学園都市の第七学区のとある公園で最早日常と化したやり取りを一組の少年少女が繰り広げていた。
一方はツンツンとした黒髪が特徴的で少し疲れた顔をしていた。もう一方は前髪にバチバチと火花を纏いながらを少年睨み付けていた。
少年は心底疲れたという声で少女に尋ねた。
「で?今日は一体何の用だ御坂」
御坂美琴。名門常盤台の超電磁砲(レールガン)。学園都市に七人しか居ない超能力者(レベル5)の第三位。最強の電撃使い(エレクトロマスター)。それが少女の肩書きである。
「上条さんは忙しいので、あまり構ってあげられないんですよってどわぁ!!?」
「だっ誰が!!構ってって言ったのよ!?」
尤も、少年の前では只の少女(時々電撃付き)でしか無かったが。
「アンタが!私が声を掛けてるのに気付かずスルーするからでしょ!!」
肩でゼーハーと息をしながら美琴は叫んだ。それに対して上条は右手を前に突き出して叫び返した(ちょっぴり涙目)。
「だからっていきなり雷撃の槍(ぶっそうなモン)を人に向けて放つヤツが在るか!!何度も受け止める俺の身にもなれ!!」
「何よ!どうせ効かないんでしょ!!」
「そういう問題じゃねえ!」
自身を上条さんと呼ぶ少年、上条当麻の右手には異能の力なら神様の奇跡すら打ち消す幻想殺し(イマジンブレーカー)が宿っている。先程から美琴の電撃を喰らわずに済んでいるのもそのお陰である。ところが、美琴にしてみればそれが気に食わないらしく、何かある度こうして電撃を放たれている。(と上条は思っている)。
実際は気になるアイツと一緒に居たいという乙女心全開な美琴が上条に近付く為の口実に過ぎなかったりする。だが、乙女心など知る由もない鈍感な上条には美琴の想いが伝わるはずもない。
筈だった。
美琴との言い合いに時間を大幅にロスしてしまった上条は、用事(タイムセール)に間に合うよう強引に話を切り上げるために、
「なぁ、毎日々々俺を追いかけ回して、そんなに俺が好きなのかよ?」
言ってしまった。
上条としては嫌いな相手に「好きか?」等と問われれば、美琴は怒って帰るだろうと考えて、少々のからかいも含めての発言だった。故に電撃の一つでも来るかと覚悟して右手を構えていたのだが、何時まで経っても電撃はおろか罵声一つ飛んで来ない。
恐る恐る美琴へと視線を向けてみるとそこには、
上条が抱いているイメージとはかけ離れた、
顔真っ赤にして、両手を胸の前で組み、
潤んだ瞳で見つめてくる、
上条の知らない御坂美琴(オンナノコ)の姿がそこに在った。
美琴と目があった瞬間、上条の心臓が大きく一つ跳ねた。抱きしめてしまいたい衝動に駆られる。無理矢理それを押さえ込んで上条は声を絞り出した。確かめなければならない、否、確かめたい事がある。
「…なあ…………御坂」
美琴がビクン!と反応した。
「あ……え、と…そう、なの…か?」
美琴は俯いたまま反応しない。
「違うなら違うって言ってくれ。馬鹿な男が勝手に勘違いしたってだけなんだから」
そう言って上条が美琴に一歩近づいた。
「……!」
ビクン!と美琴が再び反応して上条から一歩遠ざかった。
その反応を見て上条は胸が締め付けられた気がした。やはり自分の勝手な勘違いなのだと。美琴は自分が嫌いなのだと。こみ上げてくる何かに耐えながら上条は
「ごめんな。勝手に勘違いして。嫌いな男に好きか?なんて聞かれて不愉快だったろ?俺はもう帰りるから。さっきことは忘れてくれ。じゃあな」
そう言って公園の出口へ向かおうとした時、
「……………………じゃない」
美琴が言った。
「……え……?…」
「……じゃない…!」
「御坂…?」
「だから!勘違いじゃないって言ってんの!!何で分かんないのよ馬鹿!!」
そう叫ぶ美琴の顔はさっき以上に赤かった。
「勘違いじゃないって事は、その、俺の事…?」
「はあ…そうよ。私は、御坂美琴は、アンタが、上条当麻がすっすっすすっ好きなのよ。毎日々々アンタを追いかけ回してしまう位にね。」
美琴が落ち着いてから、二人は公園のベンチに腰掛けていた。それぞれの手には「ヤシの実サイダー」と「アポロドトキCン」が握られていた。無論上条が「アボロ~」(ビタミンCと秘密の成分を配合しているらしい。詳しくは知らない。知りたくもない)
上条は今まで見たことのない女の子な一面を知ってしまってから、妙に美琴を意識してしまう自分に困惑していた。自分を好きと言ってくれる。そんな美琴を上条は、「抱き締めたい」そう思ってしまった。
「え…?」
知らず言葉にしていたらしい。美琴が驚くのも無理はない。意中の男に突然そんな事を言われて驚くなと言う方が無理である。一方上条はと言うと美琴を抱き締めたいという衝動が押さえ切れなくなっていた。美琴の両手を優しく握ると、美琴を見つめて
「抱き締めたい。良いか?美琴」
と言い出した。美琴に拒否できる筈もなく、上条当麻による御坂美琴抱き締めタイムが始まろうとしていた。
二人は今ベンチでお互いに向かい合って座っている
「じゃ、じゃあ、い、今から抱き締めるけど。良いか?良いのか?なあ、本当に良いのか?」
そう聞く上条の声は震えていて、
「一々確認するな!良いから!さっさとやんなさい!」
答える美琴は緊張からか体が震えていた。
ゆっくりと美琴の肩に手を伸ばす上条。肩に手が触れた瞬間美琴がピクッと反応した。だが上条に最早美琴に気を使う余裕はない。
両肩から背中へ手を回し美琴をいざ抱き締めようとした時
「や、やっぱり駄目ーーーーーーーーー!!!!」
「痛ってぇぇぇえーーーーーーーーーー!!!!」
目に映るものが美琴の顔からすっかり日が沈んだ夜空へ。茫然としている上条の耳に「ごめん、また次の機会に!!その時までには心の準備をしておくから!!」と美琴の声。
美琴の走り去った方を見つめながら
「次の機会、か。待ってろよ美琴。我慢出来なくなったらこっちから行くからな」
そう呟いた。
尤も、タイムセールに間に合わず、寮に帰って頭蓋骨に穴が空きそうになったり、公園での出来事を巡回中の風紀委員に見られていたせいで鬼のような形相の風紀委員に鉄矢を持って追いかけ回されたり、尋常じゃない腹痛に苛まれたりして、結局御坂美琴を抱き締めることができたのはそれから約一月後の話。
完