とある魔術の禁書目録 自作ss保管庫

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もふもふこう

バレンタインネタの「それでも舞夏は廻っている」の続きみたいにしてますが、読まなくても大丈夫です。


「連絡がない……スルーする気かしらアイツ」

 とある日曜日。明日はホワイトデーである。
 色々と不本意な点はあったが、1ヶ月前、「アイツ」にチョコを渡すことはできた。
 そうして数日前から期待に満ち溢れていた御坂美琴の心は、……今や焦り一色に染まっていた。

 もちろん本番は明日なのだから、焦る必要はない。しかし、明日が平日である以上、今日それなりのアクションはあって然るべきと思うのだ。
(くっそー……アイツだけはホント思い通りになんない……)
 美琴は、ぐるっと部屋の中を見渡した。
 後ほど、佐天涙子と初春飾利がお茶会という名目で遊びにやってくる。そのために掃除をしていたのだが、元々片付いた部屋なので、掃除といっても大した手間もかからなかった。
 白井黒子は仕事中だがもうじき終わる予定で、二人と合流し、飲み物など買って帰ってくるとの事だ。

 実際のところ、今日の遊びは断りたかったところである。「アイツ」から今日連絡が来るかもしれないと思うと、とても集中して遊べないし、呼び出されたらマズイことになる。
 だが断る理由が見つからず、ズルズルとこの部屋で遊ぶことを了解してしまった。
 ただこうやって掃除をしている分には、落ち着かない気分が紛れるというメリットはあるわね、と美琴は結構大掛かりに掃除を行っていた。


(ラストは足元、っと)
 ベッドの下から「きるぐまー」を引っ張り出し、埃を落とすべくぱんぱんと叩く。
「……うーん……、」
 このぬいぐるみには隠しポケットが多数付いており、香水などを美琴はここへ隠して仕舞いこんでいる。
(そろそろ、限界ね、これ)

 少なくとも、一緒に抱いて寝る事はできなくなっていた。中の固形物で、むしろ抱くと痛いぬいぐるみになってしまっている。
 もちろん、捨てるとかそういう選択肢は無い。
 あらゆる偶然や奇跡が重なって、あの呪われた実験から救われた自分。救い出してくれた「アイツ」は、このぬいぐるみに隠していたレポートを見つけ、駆けつけてくれた。
 そんな重要な役割を担ってくれた「きるぐまー」だが、抱きつく対象として引退の時期が来ている気がする。

(かといって、ねえ……)
 新しいものを買うのは、「きるぐまー」に申し訳ない気分になってくる。
 また、いい加減そういう事から卒業しなきゃ、という思いもある。オトナになりたいという思いと少女趣味が矛盾してますわよ? と何かの拍子に黒子から指摘されてグサッと心に刺さったのを思い出す。

(……まあ今考える話じゃないわよね。さて! 他にやり忘れたことは……)
 ベッドの下を掃除機で吸込み、また「きるぐまー」をしまい直した。
 黒子側のベッドの下も掃除し、今度こそやることが無くなったかな、ともう一度見渡す。

 そこで美琴は一つ、思い出した。
「あっ、アレ返さないと」
 そうつぶやいた美琴は、本棚から一冊の本を抜き出した。
 前回、初春が持ってきた本で、そのまま美琴が借りたのだ。

『好きな人の顔を思い浮かべながらティッシュを裂いてひもが100本出来たら100%願いが叶う』
 こういったような事が延々と書き連ねられている、おまじないの本であった、が。
 借りてはみたが、いくら『「起こりえない」ことを「起こる」と信じて』レベル5に到達した美琴でもお手上げの内容であった。あまりに根拠がなさすぎた。
(好きな人の髪の毛を、イニシャルの形に組んで白い紙に挟んで、枕の下にしいて、その人の夢を見たら両思いになる……とかさ。完全にオカルトだわねえ……)

 まあ初春飾利もあれだけデジタルに近い人間だ、ほとんどネタのつもりで貸してくれたのだろう。
 返す前にもう一度、とばかりにパラパラッとページをめくる。
「これなんて凄いわよね。『携帯の裏を上に置いて置けば、好きな人から電話が掛かってくる』なんて。これで掛かってくるなら苦労しないわよ」
 美琴は苦笑いしながらつぶやき、本を閉じた。……そしておもむろに机の上の、表向きに置いてあった携帯をひっくり返した。

「よし、掃除機返してこよっと。あとは軽く拭き掃除して……」
 掃除機をえいやっと担ぎ、ドアノブに手を掛けた、その時。

――ゲコゲコッ ゲコゲコッ


 机の上の携帯が、鳴り出した。

 ◇ ◇ ◇

 上条当麻は、悩んでいた。
 ものっすごく、悩んでいた。

 ホワイトデーのお返し、これは結構悩むものである。……贅沢な悩みとも言えるが。
 上条はバレンタインデーに結構収穫があり、当然そのお返しはそれなりの量となっていた。

 クラスの女の子たちへは、返しやすいと言える。大仰なものはなかったので、気軽に返せば問題ない。
 問題は2つあり、吹寄制理&姫神秋沙の合同チョコと、御坂美琴の高級チョコ、これの返し方が難しい。
 だが、前者は昨日解決した。
 土御門元春と青髪ピアスとで相談し、3人合同でお返しすることとし、相当不安はあったが青髪ピアスが選んでくることとなったのだ。

 そして、後者。美琴のチョコが、上条をずっと悩ませていた。
 彼女の喜ぶものが、思いつかない。
(財力が違いすぎる……)
 こっちが頑張っても、「ふ~ん、こんなのか」で済まされそうな。もちろん、表面上でそう言うとは思ってないが、本心から納得して貰わないと意味が無い。
 下着などのネタ系で攻める手もあるが、……普段の関係から考えられないほどに、貰ったチョコが正統派チョコであったがために、真面目に返さざるを得ない雰囲気なのである。


 そうして、悩みあぐねた結果、上条は。
 スーパーの前で、一日張っていた。入り口を、じっと見据える。

 そこでは、福引の抽選会が行われていた。
 上条も買い物をしてやってはみたが、前のイタリア行きのようには行かず、ポケットティッシュが貰えたのみだった。不幸属性では当たるはずもなかった。
 ならば、とばかりに上条は物陰でじっと待つ。

 1時間半ほどが経過した、正午ごろ。
 ガランガラン鳴り響くハンドベルの音に、上条当麻は意識を集中する。
「おめでとうございますっ! 2等大当たりです!」
 大きなナイロン袋を下げた女の子が、ガッツポーズをとっていた。


 その女の子は、肩をチョンチョンと叩かれて、振り向いた。
 振り向くと、ツンツン頭の高校生らしき少年が、両手を合わせている。
「はい……?」
 福引のおねーさんから景品を貰い、両手にばかでかい袋を持つことになった少女は、首を傾げる。

「すみませんっ! その景品を売ってもらえませんかっ! お願いしますっ!!」


 ◇ ◇ ◇

「ふ~~っ」

 第一関門をクリアし、上条は一息ついた。
 簡単に事情を話すと、女の子は快く譲ってくれ、それどころかスーパーの中に入りなおし、プレゼント用に再包装する所までつきあってくれた。
「いいなあ、プレゼントだなんて、うらやましい……」
「こういう手に入りにくいものなら、と思ってさ。本当に助かったよ、サンキュー! 本当に3000円でいいのか?」
「当てた時は嬉しかったですけど、正直ぬいぐるみだと知ってガクッときてましたし。喜んでもらえるなら、タダでもいいぐらいですよー。ま、でもタダだとプレゼントの気分も変わってくるでしょうし、あえていただきます」
 ……といったやりとりもあって、何とか手に入れたのである。

 次の関門は、当の相手だ。
 どういうシチュエーションがいいか、しばし悩む。

 が、別に改まるほどの関係でなし、呼びつけて渡せばいいかと結論づける。
 上条は携帯をピピッと操作して、耳に当てた。

 8回ほどのコールで、ようやく相手は出てくれた。
『も……もしもし』
 なぜか彼女は出るのが遅い。いつも忙しいタイミングなのかもしれないが。
「おー、御坂。ちょっといいか?」
『な、何よ。私これから友達と遊ぶ約束あるんだけど?』
「あ、そうなのか。じゃあ、いいかな……」
『何よ、とりあえず言いなさいよ』
「いやさ、バレンタインデーでお前、チョコくれたじゃん? 一日早いけどお返ししようと思ってさ、今出てこれるかな、てな」
『――――!』
「荷物でかいから、明日の学校帰りはつらいかなと思ったんだよ。でもまあ約束あるなら――」
『ま、ままま待って! え、えーと。すぐ行くから、どこ行けばいい?』
「……友達はどうすんだよ」
『あと1時間ぐらい後に部屋に来る約束だから、それまでにケリつけりゃいいだけよ。だから場所どこ!?』

 携帯を閉じ、包装されたプレゼントに視線をやった上条は、ため息をついた。――こんなの喜ぶのは、アイツだけかもしれん、と思いながら。

 ◇ ◇ ◇

 上条当麻はベンチに座りながら、なかば呆れた目で、目の前の少女を見つめていた。

「はーっ、はーっ、……」
 美琴は思いっきり駆けてきたらしく、肩で息をしている。
「ま、とりあえず落ち着いて、座れ」
 上条がうながすと、美琴はベンチの端っこに座り、息を整えるべく深呼吸などし始めた。

「……時間ないとこに、悪かったな、じゃあ手短に」
 上条は紙袋からプレゼントを取り出し、両手で美琴に差し出した。
「チョコありがとな。ホワイトデーには一日早いけど、これ……」
「…………、」
 美琴は隣に座った上条から、おずおずとそのプレゼントを受け取った。

「……ぬいぐるみ?」
「ああ。気に入ってくれりゃーいいけど」
 美琴は唾を飲み込みながら、包装の紐を外し、テープを外して紙の包装を丁寧に剥がし始めた。そうしてビニールに包まれたそのブツが姿を現し、美琴は目を見開きながら、それを取り出した。


「ひ、非売品の……プライズ『もふもふゲコ太』……!」
 美琴の変化は明らかだった。目がキラキラと輝き、口元がどう見てもニヤけている。
「ど、どうしたのよコレ! これゲーセンでも超難度モノで、何千円かけても無理だったのに!?」
「まあ、色々とな。……その様子なら、受け取ってもらえるようですね?」
「きゃああ、ゲコ太~~~!」
「…………、」
 まあ喜んでるのは一目で分かるし、とりあえず選択は間違ってなかったようだと、上条は安堵のため息をついた。

「……しかし、そんなにいいものなのか?」
「『もふもふ』がポイントなのよ。すっごい肌触り良くて、抱き心地いいんだって。……うわあ、まさか手に入るなんて……」
 カエルの肌触りがいいってものすごく抵抗感あるんですが、というツッコミを口には出せなかった上条である。

 美琴はビニールの口を丁寧に開き、ゲコ太をひっぱりあげた。
 そしてすぐさま、ゲコ太を抱きしめて、もふっと胴のあたりに顔をうずめる。
「……………………」
「……………………」
 美琴の無言は恍惚中、上条の無言はこの子どうしよう? 俺帰っていい? 状態である。

 美琴はちょっと顔を離すと、幸せそうにつぶやいた。
「はあー、こりゃいいわあ……」
「ふーん、……ちょっと貸してくれ」

 上条はゲコ太の両脇に手を差し込んで、美琴から受け取った。全長は50センチほどか。重さも適度だ。
「ああ、確かに肌触りいいな」
「でしょ」

 上条はゲコ太の背中あたりに顔を当てて、スリスリしてみた。
(ああ……、こりゃいいな。抱き枕ってこういう世界なのかね?)
 もふもふっ、もふもふっと感触を確かめて、美琴にゲコ太を返した。……いや、返そうとしたのだが。

 何故か御坂美琴が、頬を赤らめて固まっている。
「ん、どした……おい、御坂?」
「え? あー、あ、はいはい」
 美琴はようやくゲコ太を受け取ると、そのまま元のビニールに包みこみ、包装はせずに足元にあった紙袋に戻した。

「友達と約束あるんだろ? わざわざ来てもらってすまなかったな。んじゃ帰るか」
「ま、まだ時間は余裕あるけどね……じゃ、じゃあね。ま、またね」
「ああ」
 視線を合わせず、美琴は紙袋をひっつかんで走り去ってしまった。

「何だアイツ? 急にヨソヨソしく……?」
 上条は美琴の態度が少し変わった事に首を傾げる。
「ま、いいや。俺も帰ろう……インデックスも腹減らしてるだろうし、よく考えたら俺も朝からろくに食ってねえや」
 つぶやきながら帰途についた。

(ふー、しかし肩の荷が降りたな。アイツにああいう趣味があって助かった……喜んでたよ、な?)


 ◇ ◇ ◇

(~~~~~~~~~~~~!)

 顔を赤らめながら、御坂美琴はずんずん歩いていた。

 欲しかった『もふもふゲコ太』が手に入ったこと。
 そして、初めて上条からプレゼントを貰ったこと。

 本来、この2点だけでも、舞い上がるには十分な条件であった、が。

(~~~! はやく、早く、部屋へ……!)


 ◇ ◇ ◇

 脇目もふらず自分の部屋に飛び込んだ美琴は、早速ゲコ太ぬいぐるみを紙袋からひっぱりあげ、もどかしげにビニールをベリッと剥がしてしまった。
 ぬいぐるみを両手に持ち、自分のベッドに乗り込むと、ぬいぐるみをうつ伏せに――ゲコ太の顔が下方向に、美琴の枕の上になるようにセットし。
 美琴自身は、ベッドの上で正座した。

(あ、アイツが、ココを、もふもふしてたよね……)
 もし、ここで。
 このゲコ太の背中をもふもふすれば、必然的に、間接的に、上条と……

(お、落ち着け。く、黒子じゃあるまいし、私がそんな……)
 美琴はブンブンと首を振った。
「そ、そうよ、そういう意味じゃない。あ、アイツやっぱデリカシーないわね。普段抱きつくものに、顔くっつけるなんてさ。ほんと、困ったヤツだわ、まったく!」
 頭の中で考えていると暴走しかけてるような気分になって、美琴は小さくつぶやきだした。
「だ、だから、今のうちに、あ、アイツが触っちゃった部分をなんていうか上書きしないと、気分的に使いにくくなるから! 今、やっとかないといけないことなのよ! やましい気持ちなんてこれっぽっちもない! うんうん!」

 ごくっと生唾を飲み込む。
「あー……、顔洗ってこよ」
 美琴は洗面所に向かい、蛇口を捻ってばしゃばしゃと冷たい水で顔をしっかり洗った。
 タオルで押さえるように飛沫をぬぐい、鏡をちらりと見る。
 どうみても、鏡の中の少女は、口元がニヤケている。
「な、何笑ってんのよ私。ま、まあプレゼント貰って嬉しくないわけないか、あははは……」
 言い訳するようにつぶやきながら、改めてベッドの上に戻る。

 あれ? ゲコ太をじっと見つめた美琴は、あるものに気づいた。
(あ、髪の毛が……)
 自分の地毛ではない、黒い毛が2本、ゲコ太にくっついていた。上条のものだろう。

『好きな人の髪の毛を、イニシャルの形に組んで白い紙に挟んで、枕の下にしいて、その人の夢を見たら両思いになる』
 あのおまじない。
 美琴はそれをつまむと、机の上の白いメモ用紙を二つ折りにし、上条の髪の毛を挟み、机の上に置いた。紙が飛ばないよう、携帯を上に乗せて。
(す、捨てるのはいつだってできるわけで……そ、それよりも!)

 これでもう、阻むものは、ない。顔も清めた。時間も確認して……大丈夫だ、約束の時間まで20分ほどある。
(で、では……)
 ごくり。
 禁断の果実を食べるとはこういうことか。
(い、いや! こんな事考えてる時点でおかしいのよ! 普通に、普通に扱うだけ! た、ためらう必要なんかない!)
 正座をやや崩した格好で。目を瞑り、口を引き結ぶ。
(わ、私は単に、もふもふするだけ。そう、ゲコ太にもふもふするだけよ!)

 美琴は、ゲコ太を持ち上げ……もふっと顔を押し付けた!


「……………………、」
 美琴は、そのままベッドの上で仰向けにぶっ倒れた。ばふっ、と羽毛布団に包まれる。
 そのまま強く、強くゲコ太を抱きしめ、顔をすりつける。
(ふにゃあ~~~)
 頭の後ろあたりがジンジンする。
 脳内麻薬が出まくっているのが、分かる。
(こ、こんな……!)

 念願のゲコ太、彼からのプレゼント、そして彼のささやかな残滓。
 加えて抱き枕的な接触部分の心地良さと、羽毛布団に包まれて、……幸せ要素が詰まりまくったこの状況に、美琴は完全にトリップしてしまっていた。
 自分のやっていることに恥ずかしくなり、一層強く顔を押し付ける。そうするとまるで彼に顔を押し付けてるような気分になって、耐えられなくなって顔を離したくなる。するとまた真っ赤な顔が晒けだされて、恥ずかしいので押し付けて……の無限ループである。


 そんな、トリップ状態の常盤台のエースを、……呆然と見下ろしている3人娘がいた。

 ◇ ◇ ◇

「この分だと、15分ほど早く着きそうですわね」
 白井黒子は時計をみながらつぶやいた。
「佐天さん、それにしてもいっぱい買って来ましたねえ~」
「へっへーん。新商品ばっかりだよー!」
 佐天涙子は初春飾利に大きなナイロン袋を見せつける。
 初春は佐天からナイロン袋を受け取り、軽いですねえ、これなら持ちますよー、とそのまま握りしめてしまった。

「それでさー、今話すともったいないから後で御坂さんも揃ってから話すけど、スーパーでいい事あったんだよねー」
「へえ~」
「ほんと羨ましい話。やっぱホワイトデーを楽しむためには、事前にバレンタインで仕込んでおかないとなあ、って思っちゃった」
「そういえばお姉様はお返しどうなさるのかしら?」
 等と話しながら、常盤台寮へむかう。

 そうして黒子を先頭に、寮に入って2階の部屋へ。
「お姉様の性格でしたら、掃除はとっくに終わらせて、ご本でも読んでいらっしゃるでしょうねえ」
 勝手知ったる自分の部屋、黒子は普通にドアを開けた。

 黒子は固まった。
 緑色のカタマリ……それが巨大ゲコ太であることはすぐわかったが、それがベッドの上で仰向けで、頭部がこちらに向いている。
「おじゃましま~~、す!?」
 佐天と初春も固まった。

 いち早く立ち直った初春が、黒子に小声でささやく。
「み、御坂さんは……なにをしていらっしゃるんですか?」
 一歩ふみ出せば、そのゲコ太の下に、美琴がいるのはすぐわかった。しかし、ぬいぐるみにヒップアタックを食らって倒れているように見える状況の、意味が分からない。
「分かりませんし、あんなぬいぐるみ、今朝の今朝までお姉様は持っていなかったはず……」

 しかし3人は何となく感じ取っていた。別に声も匂いも何もないのだが……その、フェロモンと名付けるしか無いような、何かが。
 自分に向けられたものではない、その気配に黒子は怒りを覚えた!
「お姉様! 何をしてらっしゃるですの!?」

 ビクッ! とゲコ太が震えた。
 ゆっくりとゲコ太ぬいぐるみが持ち上がり、……やや身を起こして真っ赤な美琴の顔が、3人娘に向けられる。
 次の瞬間、美琴は羽毛布団の下に潜り込んで、ゲコ太ごと隠れてしまった!

「ちょ、ちょっとお姉様!? 何隠れてるんですの! そのぬいぐるみは一体!?」
「いやああぁぁぁぁ! 何も聞くなああああああ!」
 ひっぺがそうとする黒子と、そうはさせまいとブロックする美琴の後ろで。

 佐天涙子はニタアと笑っていた。

(そーゆーことですか、御坂さん……!)
 あのぬいぐるみで全て繋がった。
 スーパーで出会ったあの少年。無我夢中で抱きしめられたゲコ太ぬいぐるみ。……まあ何故後ろ向きだったのかは謎だが。
(今日のお茶会は、楽しくなりそう……うっふっふー)


 初春飾利は、この展開に戸惑いながら、キョロキョロ見回し、お菓子の詰まったナイロン袋を黒子の机に乗せた。
(何でしょう、この状況は……あら?)
 何の気なしに美琴の机の上を見ると、貸していたおまじないの本があった。
 その横にある、二つ折りの白い紙。

 おまじない。白い紙。……あの本の内容を全部そらんじている初春は、まさかという思いで、その紙を覗き込む。
 そこには、ここにいる面子ではない長さの、黒い髪が二本。

 初春飾利も、ニタアと笑う。
(そーゆーことですか、御坂さん……!)


――御坂美琴が、上条当麻から貰ったプレゼント。それは、「もふもふゲコ太」だけでなく「不幸の星」も付いてきていたのかも、しれない。

fin.


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