とある魔術の禁書目録 自作ss保管庫

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三月って地味に寒いですわよね? ね?



「うぅ……寒ぃ」
 毛布に身を包む上条当麻は自分の寝床(ふろば)で身を縮めながら震えていた。
(も、もう三月なのに何でこんな寒いのですかぁ)
 寒いなら暖房を付ければ良いじゃないか、という至極真当な理屈は上条に通用しない。何故なら彼は貧乏学生だからだ。
 せめてベッドの上で寝かせてくれ、という儚い願いも叶わない。何故なら同居人・インデックスがそこを占領しているからだ。
(うう、せめて風呂場にコタツを持ってこれたら。姿勢が悪くなっちまうけど温もりには変えられねぇ)
 などと愚痴っても体温が上がる訳ではない。
 上条は毛布の中の熱を逃さぬようにうまく毛布を密閉状態にした後、ぐっと力強く目を瞑った。


 目が醒めたら足が凄く冷たかった。
「うっぅぅううううううう、さっみぃ~!」
 三月なのにこの寒さは異常だと上条は何となく思う。毛布を重ね込むにも薄いもの一枚しか上条家にはないのだ。
 彼はインデックスのご飯を作った後、学園都市には似つかないおんぼろノートパソコンをガシ!! と開いて起動ボタンを押した。
(ダメだ寒い。もうこの寒さには耐えられねえ。……最近のネット通販はポイント制もあるみてえだし、毛布の一枚でも買っちまうか)
 予算は二〇〇〇円前後だ。二〇〇〇円もあれば服を重ね着するほうが幾分効率が良いのでは? という意見もあるが、上条はそれは無効だと思う。
 何故ならば。
(重ね着するとするとで息苦しいし、ちっとばかし暑くなりすぎんだよな)
 そこらの調整はその日の気温にもよるので本当に難しいものだ。靴下を履くのには大賛成であるが、重ね着すると深夜に目が覚めたり、翌朝汗を掻いていたり、色々面倒である。
 パソコンが立ち上がった所で上条はインターネットのショートカットをトントンとクリックして、
(毛布毛布。安いのでいい。……できれば一五〇〇円くらいで布地が分厚いのが欲しい。そうなると、)
 差し当たって、まず『毛布』。
 パチパチパチ、カンカンとリズミカルな音を立てながらキーボードにワードを入力して検索する上条。
 しかし、
「あれ? タイピングミスったか。検索ワードがうまく変換されてねーな」
 素早く打とうとしたせいか、そこには誤ったワードがこう表示されていた。

 もふもふ、と。

「……。自分で打っといてなんだけど、なんか優しいイメージの単語だな。聞いただけで暖かくなってきた」
 もちろん、気分だけ暖かくなっても仕方ない。
 上条は誤った検索ワードを一度削除して『毛布』と今度は正確に打ち込んだ。その後その手のサイトへ突撃し、サイト内を徘徊する。
(んー、どれも一五〇〇円はすんのか。最悪、キャンプ用の寝袋でも良かったんだけど意外と高い―――って、ん?)
 目に付く項目が一つあった。
 それは、
「湯たんぽ? なんだそりゃ」
 ボトルなどの中にお湯を入れて布団の中でそれを抱きしめてぬくぬくする商品だ。紀伝が古いレトロな物であり、外の世界より一歩も二歩も技術が進んでいる学園都市ではさほど必要のない物である。
 と、その辺の事情と、そもそも湯たんぽという単語を上条は知らない。記憶喪失の件もあるが何だかんだで都会育ちなのだ。
(湯たんぽ、か……。お湯を入れてぬくぬくする感じか?)
 なかなか良い線をズバリ当てる上条。
 彼は左手で机をトントンと叩きながら、
(……、これは俺の直感だが、この商品は安くてかなり実用性があると見た)
 カチカチ、と『湯たんぽ』をダブルクリック。
 そこにあった湯たんぽこそ、上条の人生のターニングポイントだった。
 それは―――――――。



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 数年後の一二月某日。
 今年の冬は日本史上を記録するほどの寒さだそうだ。
 外を見れば……雪が横薙ぎに降っていた。
 小さな会社に就職した穿つ上がらぬサラリーマン上条当麻はかつて御坂美琴と呼ばれていた妻をベッドの中で後ろから抱きしめながら、
「うぅ……寒ぃ~!」
「そ、そうね。き、きききき、今日はちょろーっと寒いわねっ」
「つ、強がってんじゃねぇよ。ち、ちくしょー、お前が漏電さえしなければエアコンもストーブも壊れる事もなかったのにガチガチガチ」
 美琴は『自分の股から胸の下辺りにあるもの』を抱き締めながら、
「うっ、うるさいわね。アンタがいきなり、そ、その、チュウしてくるから悪いんでしょうがガチガチガチガチ」
「それはこっちの落ち度だけどオメェもいい加減あんくらい慣れてくれよ」
 わっ、悪かったわねと返事は返ってきた。
 寒さに耐え切れず、上条は美琴をさらにぐっと引き寄せて、
「……こうしてると思い出すよ。数年前までは『お目覚め美琴柄 もふもふミニ湯たんぽセット』を使ってたのに今は本物のお前と抱き合えてる」
「どうしたのよ急に。走馬灯?」
 な訳ねぇだろーがと否定する上条。
 そんな上条へ、美琴は訝しげにしながら『自分の股から胸の下辺りにあるもの』に身を擦り合わせて夫の体温を求めてゆっくり後退する。

 ―――数年前のある日の事だった。
 美琴柄のもふもふ湯たんぽセットを購入して充実した睡眠ライフを送っていた上条はその数日後に空き巣に入られた。
 元々金目の物など皆無だったので大した被害もなく、特に何も盗まれなかったが何分部屋が散らかって酷い有様だった。
 何人かの友人に協力を要請して部屋の整理を手伝ってもらう事に。
 それがまずかったのである。
(……、まさか土御門のヤツに湯たんぽセットを発見されるとはなぁ。風呂場は何ともなかったし、そのまま放置してた訳だけどさ)
 その後土御門が『カミやんこれは何かにゃ~ん?』と湯たんぽをリビングへ持って行き、御坂美琴を始め、多くの人に上条の寝具事情を暴露した。
 美琴は美琴で上条に意識されてると思い込み、その場の勢いで上条を享受。
 上条としても特に断る理由もなかったので二人は付き合う事になった。
 今となっては良い思い出である。
 お目覚め美琴柄 もふもふミニ湯たんぽセットは上条家の思い出の品だ。

 怪訝な美琴へ、上条は少々意地の悪い笑みを浮かべてこう言う。
「なぁ美琴。今夜は寒いしさ……熱くなる事、しねえか?」
「ぶぼぉ!?!?!? あ、アンタねぇ! いつも唐突すぎんのよ! だいたい、」
 ―――しかし。
 しかし、なのだ。
 美琴と上条が大切にしている湯たんぽは現在彼らに使用されていない。
 ならば、美琴が抱きしめているものはなんなのか?
 心地良い温度を放出し、なおかつ柔らかく、美琴の眠りを穏やかにするものとは一体なんなのか?
 そう、
「美鼓(みこ)がいるじゃないのよ。起きちゃったらどうするわけ?」
 結婚して一年後に生まれた上条家の一人娘だ。
 かつて上条と美琴が使用していた湯たんぽは美鼓の物となり、現在彼女に抱き締められている。
「んー、パパとママはラヴラヴです、でいいんじゃねぇの?」
 馬鹿、と美琴に一括を食らう上条。
 そんなご機嫌な夫へ、しっかり者の妻は頬を染めてこう告げる。
「……あのさ、今日産婦人科行ってきたんだ」
「また随分話がトリップしたなオイ」
「いいから黙って聞いてなさいよ。……そ、それでね、今三ヶ月目だった」
「……。っつー事はあん時の汗だくプレごぶ!?」
「アンタの頭の中はそればっかかぁ!?」
 魂の肘鉄を食らった上条は割とマジで呼吸困難に陥るがすぐに回復する。
 その後上条は今後の事と、それから感謝の意を美琴に伝えた。
「差し当たって、名前どうすっか」
「まだ気が早いんじゃない? でも……そうね。女の子だったら楽器ネタがあまり思い浮かばないから困るわね。別に執着してる訳じゃないんだけどさ」
「美鈴、美琴、美鼓、だからな。俺としてもここまで来たら一貫してーよ」



「男の子だったら『トウ~』シリーズかしら? アンタ、なんか候補ある?」
 上条はシリーズって何だよと笑いつつ、
「刀夜、当麻……。トウミだと女の子みてーだし、トウコトは語呂が悪ぃし、トウキンはなんかの菌みたいだろ?」
「何で私の名前から無理に引っ張ってくんのよ?」
「子供に名前を付ける時、大体の夫婦は最初に自分達の名前をくっつけようとするらしいぞ」
 へぇと感嘆を上げる美琴を抱き締めて上条は美鼓が抱き締めてる湯たんぽをそっと触る。
「名前はじっくり考えるとして、湯たんぽはどうすっか。美鼓がこれ気に入ってるから、産まれてくる子用に新しいの買うか? それとも俺が美琴を抱いて、お前は美鼓は抱いて、今湯たんぽを抱いてる美鼓は産まれてくる子にそれを譲って、」
「……アンタの中で湯たんぽがどんな物になってんのか問い質したいわね。何でベビー用品並に重要視してんのよ」
「上条家を語るのに湯たんぽは避けて通れぬ一品だと思うのですがぁ?」
「そりゃそうだけど……。あーこの話はめんど臭いからもうおしまい! おやすみ!」
 俺のピュアな心をメンドクサイで片付けられたッ! と上条がショックを受けていると美琴は最後に、
「……。ねえ、おやすみのあれ……やって」
 そう言った。
 私達がいつまでも仲良くいられるようにと、美琴が取り決めた上条家の挨拶みたいなものである。
 上条は慣れた様子で、
「わーったよ。今日は寒ぃから一晩中やらせてもらうぜ」
「……好きにしなさいよ」
 上条は美琴に言われた通り、それを実行に移す。
 まず彼は、美琴と自分の娘をきつく抱き締めた。
 その後己の腕に強弱をつけて、何度か、ぎゅ、ぎゅっ、といつもより力強く愛を表現する。
 そして、
 上条当麻はにっこり笑って、

 もふもふ、と。
 美琴の耳元で囁いた。







       劇中に使用された『お目覚め美琴柄 もふもふミニ湯たんぽセット』を完全再現!!



       ――――快適な眠りを貴方にお送りする―――



                     ――――肌寒い三月の風にこの一品―――
 



            ――――湯たんぽは、一生ものだから――――




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