とある幼馴染の星間旅行 3 後編
11 超電磁砲・幻想殺し
上条と美琴が公園に駆けつけたとき、朝凪は無意識の状態で、男達に弄られていた。
「なんだぁ、こいつ、全然起きねぇじゃねえか!」
「このまま簀巻きにしちまうかぁ!」
横では大神が、男2人に両腕をつかまれ、悲鳴を上げている。
「いやぁ!やめてぇ!やめてぇ!星海が!星海が!お願い!お願いだから!!」
泣き叫び、飛び出そうとする大神を押さえつけ、男達が不遜な笑みを浮かべている。
こちらに背中を向けているリーダー格らしき男が、さらにその様子を残忍な目つきで眺めていた。
あたかも獲物の品定めをする野獣のように。
上条は、この状況を見た時、このまま突っ込むのはリスクが大きいと感じた。
姿を隠すように、手前の茂みに姿を隠すと、その先を窺う。
こちらは奇襲要素があるとはいえ、人質が二人いる。うち一人は全く動けない状態にある。
まして相手の方が人数も多い。
――なら、方法は……。
目的は朝凪と大神を無事に取り戻すこと。隠れ場所から人質までの距離はおよそ20m。
傍にいる美琴に目をやると、隣の茂みに隠れ、上条の方を見ていた。
その目がいつでも行けると言っている。
上条は無言で自分を親指で指差し、次に大神を指差す。更に美琴を指差した。
美琴はうなづくと、表情を引き締め、視線を彼らに向けた。
上条も視線を戻すと、呼吸を整えた。美琴も同様だ。
2人の息が合ったとき、上条が茂みから飛び出した。
戦闘そのものはあっという間に終わった。
最初は大神の奪還だ。
上条が茂みから出ると同時に、美琴が立ち上がる。
男達からの至近距離で、かつ二人の人質に直接被害が及ばぬ場所に超電磁砲が着弾する。
閃光と爆発音は、さしずめスタングレネードのようだ。
男達の注意がそちらに向いた瞬間、背を向けた男に電撃を放ち、美琴は茂みから駆け出す。
何が起こっているのかわからず、男達が混乱する中、上条は大神の手をつかんでいる男の頬に拳を叩き込む。
怯んだ男が大神から手を離す。
すぐさまもう一人の男に蹴りを入れ、その手から大神を引き剥がす。
そのときすでに美琴が大神に駆け寄っており、手を引き男達から距離をとった。。
同時に大神を押さえていた男2人に電撃を食らわせ、失神させた。
こういった作戦に、格闘戦など、時間の無駄でしかない。
上条は既に朝凪の確保に向かっていた。
幸い、朝凪は地面に倒れており、美琴が男達の頭上めがけて電撃を打ち込んでいる。
上条は右手で、流れ弾を防ぎつつ、左手で朝凪を抱え込み、引きずり出した。
意識を持たない身体というのは、重いものだ。されどその場所から動かさないと、朝凪も電撃の影響を受けてしまう。
上条がなんとか距離をとったときには、全てが終わっていた。
男達は戦意喪失して逃亡するか、倒れていた。
12 朝凪星海・大神睦月
上条はぐったりと動かない朝凪を、脇の芝生の上に横たえることができた。
相当やられたのか、服のあちこちに土や蹴られた痕が付いている。
――服の下にも傷があるか……。
「美琴!救急車!!」
「あ、はい!『――もしもし……』」
救急車という言葉に、我に返った大神が、駆け寄ってきた。
「星海!星海!大丈夫……?大丈夫……?」
動かない朝凪の身体にしがみついて泣き喚く。
「死んじゃやだ……死んじゃやだよぉ……」
「大神さん、大丈夫だから。気を失ってるだけだし、頭はやられてないようだから……」
上条の言葉にほっとしつつも、大神の気持ちは止まらない。
「ねぇ…、返事してよぉ……、早く帰ってきてよぉ……、おいてっちゃやだよぉ……、お願いだからぁ……」
追いついてきた姫神が大神に駆け寄り、
「大丈夫だから。朝凪君。大丈夫だから。大神さんのこと。大丈夫だから」
大神の背中を抱くように勇気付けている。
「ふえぇぇん……姫神さぁん……」
その様子を心配そうに見ていた美琴が、上条に抱きついて来た。
上条は、美琴がつらそうな顔をし、涙を流していたことに気が付いた。
「どうした?美琴……」
「私、大神さんの気持ち、わかりすぎて本当につらいの。
あの時の私と同じ……だから。
当麻はいつも待たせる側だったから、分からないだろうけど……」
そう言って涙を拭き、大神に声をかけた。
「大神さん、彼のこと、信じてあげて。
絶対大丈夫だから。
私も同じような経験あるからわかるの。
こういうときこそ大神さんが信じてあげないとね……」
そんな美琴の言葉に、大神は泣きながらただうなづくだけだった。
その時朝凪の表情がピクリと動き、ぐったりとした身体に力が戻ってきた。
「う……う……ん……!!痛てててぇぇぇ!!」
意識が戻った途端、身体中の激痛に襲われた朝凪が叫んだ。
「うぎゃぁぁぁ、痛い痛い痛い……!!!」
その様子に4人とも、ほっとしたと同時に笑いがこみ上げてきた。
「「「「ぷっ……くっ……ぷはははは」」」」
「なんだよ……てめえら、人が苦しんでるのに」
朝凪が痛みに顔をしかめながら、むくれる。
「い、痛くて、身体が動かねぇ。なんでこんな怪我してんだよ?
それに睦月、お前なんでそんな顔してんだ?」
上条が笑いながら答えた。
「こちらのお姫様が、王子様を助けたんだよ」
「え?なんじゃそりゃ」
こいつも上条なみに鈍感体質のようだ。
「朝凪君の。鈍感」
姫神があきれたように言い放つ。
「大神さんは。朝凪君を。いつも守ってたの。いつも待ってたの」
朝凪が大神に改めて目を向けた。
「睦月……お前……」
そう言うと震える手を大神に差し出した。
その手をぎゅっとつかみ、顔を赤くした大神が言った。
「私、星海のことが…『睦月、言うな』」
朝凪が大神の言葉を遮った。
「やっぱり……俺から言わないとダメなんだろうな。
待たせてごめんな、睦月。こんな……しょうもない……オタクな王子様でよければ……ん…ん!?」
――ん……ちゅっ……
朝凪の口が、大神の唇でふさがれた。
13 上条当麻・御坂美琴
スキルアウトどもは警備員(アンチスキル)に引き渡した。
朝凪と大神を乗せた救急車を見送り、姫神は1人で帰るとのことで、ここで別れた。
上条と美琴は先程の公園のベンチに並んで座っていた。
「――美琴、いろいろ助かったぜ」
「何よ、いつものことじゃない」
「いや今日は特にうまく連携がとれたなって」
「当然じゃない。私と当麻の仲だもの。これからもよろしくね」
「こちらこそだ。しかし……」
「ん?」
「あらためて……ごめんな、美琴」
「何よ、いきなり……」
「ん、朝凪と大神の姿がさ、俺とお前に重なって見えたんだ……」
そう言うと、上条は美琴の肩を抱き寄せた。
「俺がいない間、お前はあんな顔で待ってたんだろうなと思うとな」
「……もういいの。当麻はこうして私のところに帰ってきてくれてるから」
美琴は上条の肩に頭を乗せ、目を閉じた。
「こうして、一緒に居られるだけで、私は充分幸せよ、当麻……」
「美琴……」
傾きかけた柔らかな陽が、2人の影を長く引いている。
――やがて影は1つになった。
14 姫神秋沙
公園からの帰り道、姫神は高揚した気分でいた。
あの時のドキドキはまだ治まってはいない。
――今日は。いろいろあったけど。よかったかも。
あの瞬間の朝凪の赤くなった顔と、大神の恥ずかしげな笑顔が脳裏に焼きついている。
――2人とも。幸せそうだった。
――ああ私も。上条君みたいに。人の笑顔を守るって。好きかも。
『魔法のステッキ』を取り出すと、ちょっと振り回してみた。
――私も。なれるかな。
――そうだ。帰りに病院へ寄って。2人に会っていこう。
ただ、朝凪のことを思い出したとき、胸の中にかすかな痛みを感じた。
――そういえば。『スターマン・ジョーンズ』って小説。
――主人公は。ヒロインと。結ばれないんだよね。
――今度。朝凪君に。感想を聞いてみよう。
自分がそのヒロインになったような気分で、姫神は病院へ足を向けた。
--------------------------------------- THE END