とある魔術の禁書目録 自作ss保管庫

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どこまでが嘘?



日も傾き、明るいオレンジ色に染められた学園都市。
そんな中第七学区では完全下校時刻も近いということで、学生達が各々の帰路についていた。
ここはとある自販機の前。
普通はあまり待ち合わせの場所にはしないが、そこで誰かを待ち続ける少女がいた。
服装はベージュのブレザーに紺系のチェックのスカート、サラサラとした茶色い髪には花のヘアピンが付けられている。
彼女の名前は御坂美琴。学園都市でも五本の指にはいる名門校、常盤台中学のエースである。

そんなスーパーお嬢様な彼女だが、現在はいつもの堂々とした立ち振舞いは見られない。
代わりに顔全体をほんのりと赤く染めて、どこかモジモジとしているようだ。

「お、落ち着け私! 今日はエイプリルフールよ!!」

そう、今日は四月一日。世間一般では『嘘をついても良い日』だ。
そして美琴はこの日を利用してあのツンツン頭の高校生、上条当麻に『嘘の告白』をしようとしていた。
しかし美琴の上条への想いは決して嘘なんかではない。あくまでこれは本番に向けての予行練習という事にしていた。
だからもし仮にオーケーの返事が返ってきたとしても、嘘であることは言うつもりだ。
そんなもので告白が成功したとしても、初めから逃げ道を作っている様なものなので、美琴自身が許せないからだ。

そしてその時、向こう側からやたらと幸薄そうな表情をした高校生が、鞄を肩に担いで現れた。
万年補習まみれの無能力者、上条当麻である。

(き、きた……!! よし、言うわよ!!)

美琴はそれを確認すると、ぐっと拳を握りしめ覚悟を決める。
そして軽く小走りで正面から近づくと、無視できないように大声で呼び止める。

「ちょ、ちょっと! アンタその……にゃにしてんの!?」

(噛んだ………………)

散々心を落ち着かせようとした努力も空しく、恥ずかしさで顔を真っ赤にする美琴。
端から見れば可愛らしいものだが、本人としては大失態のようだ。

「は、はい? あぁ御坂か、どした?」

「えっ? え、あの……ね」

上条は美琴が噛んだことに気付かなかったのか、それともあえてスルーしているのかは分からないが、そのままいつもの調子で答える。
その事に逆に面食らった美琴は、思わず口ごもってしまう。
しかしここで何も言わないわけにはいかない。
美琴は一、二回大きく深呼吸をすると、じっと上条の顔を見つめ口を開く。

「ずっと前からアンタの事が好きでした!!!!!」

言ってしまった。
これは嘘だというのに、美琴の心臓はこれでもかという程高鳴り、顔は真っ赤である。
実は能力の方も暴走しかけで、必死に漏電しないように抑えていた。
予行演習でこんなだったら本番ではどうなってしまうのだろうか、と不安にもなる。

一方上条はというと、まさにポカンといった様子で呆然としていた。
しかしふと我に帰ると、上条は美琴にとって予想外な行動に出た。
なんと笑いだしたのだ。

「はははっ!! 御坂お前なーいくらエイプリルフールだからって、どうせ嘘つくならもっと現実味のある嘘つかねーと誰も騙せねえぞ?」

「なっ!!」

そう、上条は今日がエイプリルフールで、美琴の言葉も嘘であると見抜いていた。
というのも朝から色々な人達から嘘をつかれまくったというのが大きかった。
朝から茶碗一杯のご飯を食べただけのインデックスが「お腹一杯なんだよ」と言ったり、小萌先生には「上条ちゃん、留年決定です♪」などと言われたり……。
最初は騙されまくりでその度に驚かされていたのだが、今はそんな事もない。
さらに美琴がついた嘘なんていうのは、青髪ピアスのついた「三次元の彼女ができたんや!!」という嘘と同じくらい分かりやすいものだった。

「しっかし御坂が俺の事が好きとか……くくくっ!!
 お前それなら、『白井黒子に彼氏が出来た』の方がまだマシだぜ? あー腹いてー」

「……………………」

なおも笑い続ける上条。終いには腹を押さえて、目にはうっすらと涙を浮かべている。
そんな上条の様子がとてつもなく気に入らないのは美琴だ。
今や明らかに不機嫌になっており、上条を睨んでいるのだが、本人は笑うのに忙しくてまったく気付かない。
しかし美琴としても怒ろうにも怒れず、ただ拳を握りしめてプルプルする事しか出来ない。

「あはははは、じゃあそろそろ俺は帰るな! エイプリルフールは色々散々だったけど、最後に笑わせてもらったよ、サンキュー!
 でも来年はもっとマシな嘘考えとけよー」

未だに笑いが止まらない様子の上条は、そんな事を言いながら美琴に背を向ける。
だがその言葉についに美琴の中で何かが切れた。

「…………じゃないわよ」

「ん?」

上条の背に向かって低い声をあげる美琴。
あまり大きな声ではなかったが、その重さが伝わったのか、上条も立ち止まり美琴の方を見る。
そこで美琴は大きめに息を吸い込んだ。不思議と最初の告白の時ほどの緊張はないが、それでもどうしても頬は染まってしまう。

「嘘じゃないって言ってんのよ!!!!!」

今度こそ言ってしまった。
美琴はこんな形で言うつもりはなかったのに、と少し後悔する。
しかし仕方がなかった。自分の事をちっとも女として扱わない上条にどうしようもなく腹がたったのだ。
そして次第に美琴の中に別の感情が渦巻いてくるのも感じていた。
それは恐怖。ここでもし拒絶されたら、もう今までの関係には戻れないんじゃないかと思うとどうしようもなく怖かった。
そんな感情が芽生え、美琴はその言葉とは裏腹にビクビクしながら返事を待っていた。

しかし上条の反応はというと…………。

「……ん? えーと、今度は嘘じゃないってのが嘘って事か? おいおい、上条さんはバカなんですから、もうちょっと分かりやすいので頼みますよ美琴センセー」

「ち、ちがっ!!」

「じゃあそろそろ帰らないとうるさいのがいるからさ。またなー」

今度の美琴の言葉は届かずに、さっさと立ち去っていく上条。
二回目の告白も嘘だと思ってくれたのは美琴にとって幸か不幸か。
それでもあそこまで言ったのに嘘だと処理されてしまうのは、上条の鈍感によるものもあるだろうが、エイプリルフールの魔力によるものも大きいだろう。
それならば…………。

(明日から……四月一日以外の日に毎日告白しまくる!! これならさすがに嘘だとは思わないでしょ!!! 覚悟しなさい!!!)

そんな事を決心した美琴は、上条が歩いていった方向を鋭い目でキッと睨む。
そしてその後、常盤台の寮へ向けて歩き出す。
その足取りはいつもよりしっかりとしていて、どこか力強くも感じることが出来た。


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一方そんな超鈍感男上条当麻は既に学生寮近くまで来ていた。
頭の中では、最近作ったものと被らない献立の内容を考えていた。同居人に飽きたなどと文句を言わせないためだ。
しかしそんな思考の中に、ふと先程の美琴の『嘘』が入り込んでくる。

『嘘じゃないって言ってんのよ!!!!!』

今思えばあの剣幕に、少々赤く染まった頬。
鈍感な上条の頭の中にも、「もしかしたら……」などという考えも浮かぶ。
しかしその瞬間、ぶんぶんと頭を振って無理矢理その考えを消去する。

(なーに考えてんだか俺は。だいたいアイツは中学生中学生)

数分後、上条の頭の中は再び今日の献立で一杯になっていた。
この時はまだ、明日から起きる不幸?には微塵も気付かずにいた上条当麻だった。


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