とある魔術の禁書目録 自作ss保管庫

Part01

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序話


――ああ。どうして、あんな言い方しちゃうんだろ……。

常盤台中学の学生寮、208号室のベッドで御坂美琴は自己嫌悪に陥っていた。
その原因となっているのは、美琴自身と『妹達』の恩人――上条当麻に対する言動と行為である。
上条と顔を合わせる度に、口にしようと決めていた言葉は雲散し、言いがかりとしか思えない発言と電撃を行使した態度が出てしまう。
半年近くも同じような行動をとってしまうことに対して、素直になれない自分の強情っぷりに美琴はため息をつく。

――言葉にしたくても出来なくて、構って欲しくて能力を行使する……。あはは。これじゃ、アイツが私のことを『子供』としか見ないわけよね……。

今現在まで続いている自らの行いを振り返ってみると、赤ん坊や幼児が親に対する感情表現のそれと非常に似通っているように思える。

――どうやったら、私のことを『子供』じゃなくて『女の子』として見てくれるかな……?

その答えを頭では理解している。意地を張らないで、ありのままの心情を言葉にして伝えればいい。
しかし、そのことを伝えたらどんな反応を上条は示すのか。
受諾か。拒絶か。それとも無視か。
仮に、拒絶か無視という結果に終わってしまったら、未来における自分と上条との関係を想像しただけで恐怖に震える。

――怖い、怖いよ。ほんの少しの言葉で、今まで続いてきた日常を壊してしまうのは……。

無意識のうちに涙が頬を流れていく。
未来が悪い結果になるとは決まっているわけではない。だが、良い結果よりも悪い結果の方を考えてしまう人間は多い。
そして、自分に自信が持てない人間ほど、悪い結果が来てしまうと考えてしまう。

――レベル5の第3位っていう自分の能力に自信はある癖に、アイツのことになるとてんでダメね。常盤台のエースなんて、ただの臆病者よ。……自分の感情から逃げ続ける、ね。

超電磁砲。常盤台のエース。美琴をそう呼ぶ人も少なくはない。しかし、美琴は心の中で自嘲する。
天邪鬼、傍若無人。自分に相応しいのはそういったものではないか、と。

――明日も、また、喧嘩になっちゃうかな? そうなったら、イヤ、だな……。

美琴の意識が睡魔によって暗転する刹那、彼女は願った。もう自分の気持ちに、嘘はつきたくない。


――不幸、だ。

自室のテーブルで、担任の月詠小萌から満面の笑顔で手渡された課題を静かに解きながら、上条当麻は日常の口癖を心の中で呟いた。
最近、『不幸』と声に出せば、不幸の実感が自分自身にとってより痛感すると思い始めたからである。
トラブルに巻き込まれやすい体質の上条は、諸々の事情で高校を欠席することが多く、その為出席日数や必修単位が不足しがちである。
放課後の補習授業や。課題でそれを補うわけだが、お世辞にも頭の出来が良いとは言えない上条にとって、これもまた闘いの一つであった。
唯一、とんでもない量の食事を請求してくる同居人のシスターを、小萌が預かってくれたのは不幸中の幸いである。

――しっかし、今日の時間消費は痛かったな……。特売セールは諦めがついたが、課題が終わるかどうか微妙すぎる……。

流石に、このままでは進級そのものが危ういという事態に直面しているのは察しがついている。
留年決定なんて事態になってしまっては、担任の小萌はおろか、両親にも顔向けできない。

――それにしても……。何でアイツは毎回毎回、俺に絡んでくるんだ?

今日、補習授業を終わらせて帰宅の途につく上条のことを呼び止めた人物が頭に浮かんでくる。
名門常盤台中学、学園都市に七人しかいないとされるレベル5の能力者の一人、御坂美琴。
半年前に起きた一件で、上条は彼女を絶望から救い出した。彼女の生体情報から造り出されたクローン生命、『妹達』の命も。
それからというものの、美琴はやたら上条と接触してくるようになった。
ただ内容は殆ど、『アンタに今日こそ勝ってやる!』という喧嘩に発展してしまうのだが……。

――『付き合って』とか言っていて、『何に?』って聞き返したら、急にどもって『しょ、勝負よ! 勝負!』だからなぁ……。

女性からのアプローチに超鈍感な上条は、美琴の『付き合って』という言葉が何を意味しているのか、全く理解できないでいるのだ。
その時、赤みがさしている表情をしていたという事実も、体調が優れないのだろうと勝手な推測をしている。

――アイツは……本当にどう思っているんだろうな、俺に対して。

問題を解く手を止めて、天井を仰ぐ上条。
今までに泣いた顔も見た。怒った顔も見た。笑った顔も見た。それらの表情を思い出すと、心の何処かが温かくなる。

――あれ? じゃあ、俺は……どう思っているんだ? 御坂に対して……。

自分自身のことの筈なのに、高校の授業や、補習授業で出された問題、課題よりもわからない。
考えれば考えるほど、上条が美琴に抱いている感情が何なのかが言葉に出来なくなる。
一つだけわかったことは、護るという正義感とは別の思いが、自身の中に芽吹いていることだった。

――おいおい。しっかりしろよ上条当麻! とにかく、最優先すべきはこの課題を終わらせることだけ、だ……?

ふと、テーブルの上に置いていた電子時計に目が行く。日付は既に変わり、時計は午前一時半を表示していた。
小萌から渡された課題はまだ、半分近く残っている……。

――はは。今日は、生きて学校を出られるかな。

眠気覚ましの珈琲を一気飲みすると、上条は静かに問題と相対するのだった。闘いはまだ、決していない。


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