八章 奪い合い Spectators_of_sadness
1 2/2 23:00
ミサカネットワークと言う特殊な力がある。
これは学園都市で七人しかいないレベル5の第三位、つまり超電磁砲のDNAから作られた軍用クローン「シスターズ」に備わっている能力であり、一種のテレパシーのようなものだ。超電磁砲の劣化版であるシスターズはオリジナルである超電磁砲の1パーセント程しか能力を発揮できないが、唯一オリジナルにない力がこのミサカネットワークである。おそらく超電磁砲もその気になればシスターズにリンクしてこの力を使うことが可能であろうが、どちらにしても脳波の関係で長時間は行使できないだろう。
シスターズ。学園都市でこの単語に聞き覚えがある者は多くはない。逆にこのキーワードを知っていると言うことは学園都市の闇を知る者と言うことである。非合法な人間クローンに留まらず、実験と評して一万人もの人間を平然と殺める学園都市の大きな闇を。
そして軍用クローンとして製造されたシスターズにはもちろん一切の自由がない。ただ実験のためだけに生まれ、ただ実験のために死ぬ運命に彼女たちはいる。どんなに嬲られ、蔑まれ、バラバラにされようとも彼女たちには何も言う資格がない。
しかしそれは彼女たちが実験動物だったときの話。今では普通の少女とまではいかないが、ある程度自由が与えられている。
「はぁ………はぁ………はぁ………はぁ………くぁ………」
シスターズの一人、検体番号10321号はとにかく走りまくっていた。明確な目的地があるわけではない。だがスカートがめくれ、縞々のパンツが丸見えになっても速度を落とすことはない。とにかく焦っているのだ。強いて言えば目的地はミサカネットワークが使用できるところ。彼女たちのミサカネットワークも万能と言うわけではない。電波が届かない場所になったらもちろんその力は行使できない。不幸なことにかなり広範囲に強力なジャミングが発生していたので使えなかったのである。だから、走っているのだ。
「たたた、た、大変です!!!とミサカは自分が見たものに驚きを隠せません!!」
ようやくミサカネットワークが使える(と感じた)ところに着いた10321号は自分の分身たちに事の成りを説明し始める。
「どうしたのですか、藪から棒に?とミサカ10032号は10321号の慌てぶりに若干引きつつ説明を要求します」
人は環境やストレスなど、各々感じる様々な刺激で違う性格に育つ。それは遺伝子レベルで同じ肉体を持ち、学習装置で同じ精神に組み上げられたシスターズにも言える事だ。元々はほとんど差はなかったのだが、少しずつ個人差が生まれ始めている。それは心身共に言える事で、何かと怒りっぽい性格の者もいれば、抜けているというか、ぼーとしている者もいる。体のサイズも様々で、彼女たちはそれを気にしている。しかし、やはり根本的に同じ心、同じ体なので一番最初に思うことや、気になることは大体同じなのである。
「あああ、『あの人』とお姉様のことです!!とミサカはあまりにも衝撃的な光景だったのでもう気絶しそうです!!」
「「「「「「「「!!!???い、一体何が!!??!?!?」」」」」」」」」
だから一様に、シスターズは自分たちを実験から救ってくれた『あの人』に好印象を持っている。シスターズだって肉体年齢で言えば14、
15歳とお年頃。仮にも命を救ってくれた恩人が自分たちと同じくらいの歳なら気になって当然のことだ。それに彼女たちに『男性』と
言うのは極端な3人の人間しかいない。
まず『自分たちを殺してきた者』。次に『体の調整をしてくれる者』。そして『救ってくれた「あの人」』。最初の一人目は歪な者だったが、実験が中止されたのを拍子に『守ってくれる者』に変わった。しかしだからと言って、その一人目に恨みがないといえば嘘になる。
実験の最中のシスターズは、何も全く感情がないわけではなかった。もちろん命令されれば言われた通り死んだし、どんな事でも文句の一つも零さず実行したが内心不満はあった。それに単純に「痛い」というのが一番辛いことだった。シスターズの思考は先も述べたように、ミサカネットワークで共有している。しかしそれは痛みも伴うことなのだ。つまり今まで一万回殺されてきた記憶が、生きている彼女たちの中に記憶されている。確かに自分たちを命がけで助けてくれている事には心から感謝している。しかしそれと同様に許そうとする心も「痛みの記憶」で押し殺される。
一番最初のシスターズ、検体番号00001号の時の記憶だってちゃんと覚えている。
「なんでこんな事をしないといけないのか、そもそも自分は誰だろう?」、そう00001号は思っていたようだ。
そして00001号が考えをまとめる暇もなくあっけなく殺され、次の00002号の記憶は00001号が殺された時の痛みに恐怖するものだ。そして再び襲い掛かる死と絶望。00002号は死の直前、恐怖のあまり心臓麻痺で死んだ。
そういう風に恐怖と痛みは積み重なっていき、09000号を越えたあたりで痛みは当然になっていた。しかし恐怖はどうにもならないくらい巨大になっていた。自分の番号が宣告されたときの絶望と悲しみと未練。いや、未練はない。むしろ未練がないことが未練なのだ。
この世に自分がいた証がない。誰にも愛されず、知られない。どんなに叫ぼうとも自分たちの慟哭と悲鳴は実験と言う絶対に掻き消され、無残にも『自分で自分を用済みとして焼却』する。死体が燃えるところを見ていると「いつか自分もこんな風になってしまうのだろうか・・・」と番号を数えては現実と言う壁にぶち当たる。そんな事を彼女たちは未だに悪夢としてみることが何度もある。
だから自分たちを救ってくれた『あの人』、上条当麻には感謝しきれないほど感謝しているし、出来ることなら一生そばにいて、必要とされる存在になりたいと願っている。
それが『恋』という感情だということに彼女たちはまだ気付いていない。だから『失恋』という感情もよく分からない。
「お姉様とあの人に赤ちゃんが出来たようですってかもう5歳くらいの元気なぐあああああああああ!!!!」
「「「「「「「「「「「「「な、なにいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!??!?!?!?!?!」」」」」」」」」」」」」」」
故にある計画が発動されようとされていた。
シスターズ。学園都市でこの単語に聞き覚えがある者は多くはない。逆にこのキーワードを知っていると言うことは学園都市の闇を知る者と言うことである。非合法な人間クローンに留まらず、実験と評して一万人もの人間を平然と殺める学園都市の大きな闇を。
そして軍用クローンとして製造されたシスターズにはもちろん一切の自由がない。ただ実験のためだけに生まれ、ただ実験のために死ぬ運命に彼女たちはいる。どんなに嬲られ、蔑まれ、バラバラにされようとも彼女たちには何も言う資格がない。
しかしそれは彼女たちが実験動物だったときの話。今では普通の少女とまではいかないが、ある程度自由が与えられている。
「はぁ………はぁ………はぁ………はぁ………くぁ………」
シスターズの一人、検体番号10321号はとにかく走りまくっていた。明確な目的地があるわけではない。だがスカートがめくれ、縞々のパンツが丸見えになっても速度を落とすことはない。とにかく焦っているのだ。強いて言えば目的地はミサカネットワークが使用できるところ。彼女たちのミサカネットワークも万能と言うわけではない。電波が届かない場所になったらもちろんその力は行使できない。不幸なことにかなり広範囲に強力なジャミングが発生していたので使えなかったのである。だから、走っているのだ。
「たたた、た、大変です!!!とミサカは自分が見たものに驚きを隠せません!!」
ようやくミサカネットワークが使える(と感じた)ところに着いた10321号は自分の分身たちに事の成りを説明し始める。
「どうしたのですか、藪から棒に?とミサカ10032号は10321号の慌てぶりに若干引きつつ説明を要求します」
人は環境やストレスなど、各々感じる様々な刺激で違う性格に育つ。それは遺伝子レベルで同じ肉体を持ち、学習装置で同じ精神に組み上げられたシスターズにも言える事だ。元々はほとんど差はなかったのだが、少しずつ個人差が生まれ始めている。それは心身共に言える事で、何かと怒りっぽい性格の者もいれば、抜けているというか、ぼーとしている者もいる。体のサイズも様々で、彼女たちはそれを気にしている。しかし、やはり根本的に同じ心、同じ体なので一番最初に思うことや、気になることは大体同じなのである。
「あああ、『あの人』とお姉様のことです!!とミサカはあまりにも衝撃的な光景だったのでもう気絶しそうです!!」
「「「「「「「「!!!???い、一体何が!!??!?!?」」」」」」」」」
だから一様に、シスターズは自分たちを実験から救ってくれた『あの人』に好印象を持っている。シスターズだって肉体年齢で言えば14、
15歳とお年頃。仮にも命を救ってくれた恩人が自分たちと同じくらいの歳なら気になって当然のことだ。それに彼女たちに『男性』と
言うのは極端な3人の人間しかいない。
まず『自分たちを殺してきた者』。次に『体の調整をしてくれる者』。そして『救ってくれた「あの人」』。最初の一人目は歪な者だったが、実験が中止されたのを拍子に『守ってくれる者』に変わった。しかしだからと言って、その一人目に恨みがないといえば嘘になる。
実験の最中のシスターズは、何も全く感情がないわけではなかった。もちろん命令されれば言われた通り死んだし、どんな事でも文句の一つも零さず実行したが内心不満はあった。それに単純に「痛い」というのが一番辛いことだった。シスターズの思考は先も述べたように、ミサカネットワークで共有している。しかしそれは痛みも伴うことなのだ。つまり今まで一万回殺されてきた記憶が、生きている彼女たちの中に記憶されている。確かに自分たちを命がけで助けてくれている事には心から感謝している。しかしそれと同様に許そうとする心も「痛みの記憶」で押し殺される。
一番最初のシスターズ、検体番号00001号の時の記憶だってちゃんと覚えている。
「なんでこんな事をしないといけないのか、そもそも自分は誰だろう?」、そう00001号は思っていたようだ。
そして00001号が考えをまとめる暇もなくあっけなく殺され、次の00002号の記憶は00001号が殺された時の痛みに恐怖するものだ。そして再び襲い掛かる死と絶望。00002号は死の直前、恐怖のあまり心臓麻痺で死んだ。
そういう風に恐怖と痛みは積み重なっていき、09000号を越えたあたりで痛みは当然になっていた。しかし恐怖はどうにもならないくらい巨大になっていた。自分の番号が宣告されたときの絶望と悲しみと未練。いや、未練はない。むしろ未練がないことが未練なのだ。
この世に自分がいた証がない。誰にも愛されず、知られない。どんなに叫ぼうとも自分たちの慟哭と悲鳴は実験と言う絶対に掻き消され、無残にも『自分で自分を用済みとして焼却』する。死体が燃えるところを見ていると「いつか自分もこんな風になってしまうのだろうか・・・」と番号を数えては現実と言う壁にぶち当たる。そんな事を彼女たちは未だに悪夢としてみることが何度もある。
だから自分たちを救ってくれた『あの人』、上条当麻には感謝しきれないほど感謝しているし、出来ることなら一生そばにいて、必要とされる存在になりたいと願っている。
それが『恋』という感情だということに彼女たちはまだ気付いていない。だから『失恋』という感情もよく分からない。
「お姉様とあの人に赤ちゃんが出来たようですってかもう5歳くらいの元気なぐあああああああああ!!!!」
「「「「「「「「「「「「「な、なにいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!??!?!?!?!?!」」」」」」」」」」」」」」」
故にある計画が発動されようとされていた。
2/3 10:00
朝だ。特にいつもと変わらない普通の朝。強いて言えば二月にしては温かい朝だ。太陽が「今日も一日働くかー」と日光を出している。
しかしそんな普通の朝の中、エプロン姿の御坂美琴は普通ではなかった。加えて言うと台所も普通ではなかった。
(う………うへええわああああああああああ!!!!????ど、どうしよう………)
美琴はしゃがんだりくるくる回ったり頭を抱えたり、意味の分からない行動をしていた。
御坂美琴(上条美琴と本人は自称したい)はその傲慢無礼な性格からは全く想像できないが、そのまま嫁に出しても問題ないくらいに家庭スキルが高い。服を縫う事なんて朝飯前というか昨日の晩飯前くらいで、料理に関しては経験こそ少なく不慣れなところがあるが、それでも十分に食べる者を唸らせる程うまく作れる。掃除は誰でも出来るということで特にカウントしないが、強いて例を挙げるなら奇数の靴下を見ると落ち着かなかったり、本の並べ方の基準は種類別ではなく、本の大きさであったり~などなど。
何故これほどまでに家庭スキルが高いのか。周りの者に言わせたら「そんなのお姉様の才能に決まっていますわおほほ」だが、それは断じて違う。むしろ生来の美琴はその性格通りのオンチな女の子で、料理なんていざ知らず、お湯の沸かし方も分からない程の生粋の箱入りお嬢様だった。今の美琴があるのは彼女の並々ならぬ努力の賜物だ。ただ、それでも我が強い者は「お姉様の才能っつってんだろ?いっぺん死んどくか?あーん?」と言うかもしれない。だがやはりそうではない。それは周りの者が知らないだけで、美琴は血の滲むような努力を決して口にはせず、ただ黙々と誰も見ないような所で『なりたい自分』に近づくため一生懸命に努力してきたのだ。そんな美琴だからこそ人が集まるし、「あんな人になりたい」「あんな人になれ」と学園都市中でレールガンと尊敬され、畏怖されているのだ。
だがそんな美琴も完璧というわけではない。弘法にも筆の誤り。誰だって慌てたり、焦ったり、緊張したりすれば、得意なことでもミスの一つや二つくらいする。
今、美琴は昨日と同じく上条と美栄(みえ)のために遅めの朝ごはんを作っているのだが、何度やっても満足できる料理が作れない。それは美琴の判断基準が高すぎて満足できないのではなく、何度味見してみても明らかに不味いのだ。このままでは上条にレモンちゃんと正式に呼ばれるのも致し方ない程に。何故、腐ってもお嬢様で何気に努力家である美琴がこのようなことになっているかと言うと。
(ぐ、ぐべぼらべしゃああああああ!?!?!ア、アイツとキ、キスしちゃったああ!!?!?!?好きって言ってちゃったああ!?!??)
後悔というか、未知への航海というか。上条とのキス。それが原因だ。
昨日の『アレ』は計画的なものではない。本当は、ただ上条に自分があのワンピースを着ている姿を見せ、感想とか反応を聞いたり見たりしたかっただけで、あんなことするつもりはなかったのだ。だがフラフラと立ち眩みをしている無防備な上条を見たら、どうしても何かしたくなって気付けばキスをしちゃってました~、というわけだ。おまけに、その場の勢いで「好き」とか「キスして」とか自分の心の中を全て暴露してしまった。それは考え方によっては体の隅々を見られてしまうことより恥ずかしいことだ。美琴の顔はかーと更に赤みを増す。
まぁ「もう何であんな事したの!?」って感じなのだが、何もあの出来事をなかったことにしたいわけではない。むしろあれをなかったことにしてしまったら、もう一生キスなんて恐ろしいものできない気がするし、二度とああいう自分を上条に見せられないような気がする。それは少し嫌だなと美琴は思う。何よりなかった事になったら、私の勇気とか努力とかはどうなんだー!?って感じなのでそのままの現実にしておきたいのが本音だ。
「……にしてもアイツ……いつもあんなに優しかったらいいのになー……」
美琴は昨日上条が言ってくれた優しい言葉を思い出す。それは黄色で、水色で、黄緑で、オレンジで、ピンクで。嫌いな色が一つもなかった。
(………もっと素直になって、私の考えていること思っていることをアイツに伝えたい。難しいことかもしれないけど、少しずつでいいからもっとアイツの事を知りたい。あの時みたいになって、目の動き一つで思っている事が全部分かるくらい………って!ふわああ!!??な、何考えてんのよ私!!??そ、それより!!ア、アアア、アイツ、起きたらなんて言ってくるかしら!!!???も、もし変な女の子だと思われて軽蔑されたらどうしよう!!??)
美琴は起きてからというもの、そんなことばかり考えているので何にも集中できない。こんな状態で料理を作ろうとしているものだからうまい物が出来ないのも道理だ。
まず、材料の確認をしていない。砂糖と塩を間違えるのは当たり前。味噌と胡麻だれと間違え、胡麻だれ汁(味噌汁の類だと信じたい)を作ったり、仕舞いには米(ただしその100%が誤ってパンカスをこねた物である)を炊いたり、もうやりたい放題だ。
「………はぁ………はぁ………と、とりあえず、今は料理作んのに集中しろ私………これでご飯不味かったら本当に軽蔑されんぞ………」
これで何度目のトライか。美琴は失敗するたび同じようなことを自分に言い聞かせ、結局途中から「あ、あれ!?昨日何したっけ!?あれ!?どこまで!?キス!?キスまで!?」と過去を振り返るのに切磋琢磨になってしまっているのだ。それで出来上がるのがダークマター(暗黒物質)というわけである。アニメなどでよくある紫のヘドロみたいなものを想像してもらえばわかりやすいだろう。
「………………マ、ママ………おはよ………」
美栄が台所の入り口に立っていた。
「わっ………と………み、美栄か………おはよう………」
今美栄の着ているパジャマは昨日美琴が薦めた物でゲコ太シリーズの最新作だ。かなりグッドにハッピーにキュートだと美琴は思う。ちなみに美栄が未来から来たとき着ていた服は見たことがないゲコ太シリーズ(ゲコ太郎と言うゲコ太の子供にあたるらしいキャラクターがプリントアウトされている)で、改めてそう遠くない未来に思いをはせる美琴なのだった。実際その服は美琴が美栄の4歳の誕生日にくれた物らしい。そこまでは心暖まるファミリーストーリーだ。しかし美栄はやたら服の洗い方とか保存方法について厳しく指摘してくるのだ。まぁ大切にしてくれるのは嬉しいのだが、その指摘の度合いが小姑並みで正直美琴は滅入っていた。そのくせ、服は何かを零したようなシミがあるし、それを雑に洗ったような跡もあるし、色も所々落ちてるし、とても大切に使っているとは思えなかった。
美琴は昨日の夜のことを思い出す。
『ちょ、ちょっとママ!そのふくはべつにあらってよ!』
『え?どうして?』
『どうしてってどうしても!このふくはママがアタシの4さいのたんじょうびにくれたものだから!』
『あ、そ、そうなの?よく覚えてるわね……、んーわかったわ……じゃあ、先に洗うね』
『あーあーあーあ、ちがうちがう!これはむしてあらうとくべつせいなの!センタッキであらったらいろがおちちゃうでしょミコトさん!』
『……そ、そうですよね……、……すみません……。じゃ、じゃあ今のうちに乾燥機に入れとくから、美栄は先にお風呂入っちゃいなさいな』
『ぶうぃー!べつにいいんですよアタシはおふろにはいらなくても!だからママがちゃんとあらうかどうかチェックします!』
『……えぇー……(……そんなに大切な服なのかな……?……結構雑に洗われてるみたいだし、シワもあるし、シミみたいなのもあるけど……)』
『はやくはやく~』
………………………………。
(……ふっ……可愛いは正義……か。……恐ろしい……)
「……、あのねーママ?……ひっく」
ん?と美琴は改めて美栄の顔を見る。美栄の顔は遠くから見たら一見ただ顔が赤くなっているだけのように見える。しかしよく見てみれば泣いたような跡があった。涙の跡はサーカスなどで見るピエロのメイクの様に目の周りに拡散している。
「っ!?ど、どうしたのよその顔!?何かあったの!?み、美栄!?どこか痛いの!?」
ドダダダ!と美栄に近づいた美琴は慌てて美栄の体を弄りまくる。が、特に腫れているような所はない。
(んー?どこか攣ったのかな……でもそんな感じじゃないし……怖い夢とか……?)
「ねー美栄?何があったの?ママに話してごらん……?」
「……ふぇ……ぐす……とみせかけて!ひっく……………だ、だいすきー!!」
そういって美栄は美琴のお腹に飛びつく。笑っている。いや、泣いている。いや。笑いながら泣いている。こういう表情は何というのか。美栄は喜んでいるのも確かようだが、涙も流れていてどこかぎこちないものを連想させる。食べ物に例えるならさしずめラーメンの上にチョコレートケーキがドンッと乗っかっているような感じだ。
「?????………………ホントどうしたのよ美栄?………………なんか変よ?」
「カ、カミジョーさんはママがだいすきなのです!ひっく………………」
「………??う、うん………み、美栄………?嬉しいの?悲しいの?」
「う、うれしいもん!ひっく………」
「………………?だ、大丈夫????」
美琴は美栄の背中をよしよし~と撫でる。
2分。
美栄はすぐに泣き止んだ。
「……よしよし…………美栄?もう大丈夫?」
「……う、うん……ごめんなさいママ……」
「い、いや、別に謝らなくてもいいのよ。泣きたい時は泣いたっていいのよ(5歳ってそういう……、泣くほど母親に甘えたい年頃……だったっけ……)」
美琴は勝手に推測しつつ美栄の泣き跡を顔の汚れをエプロンで拭う。泣き止んで落ち着いてきた美栄が美琴のエプロンをぎゅっと握り締め上目遣いで美琴をうるうると見つめ、
「………あのね、ママはアタシのことすき?……きらい?」
「え?」
「………………………きらい?」
「え!?あ、いやいや!好きに決まってんじゃない!美栄が私を好きな1000倍以上好きだってば!」
美琴は美栄を抱きしめている腕に更に力を込める。美栄はそれに満足なのか嬉しそうに美琴のお腹にグルングルンと顔を埋める。
「…………、じゃあパパは?」
「にょわわ!?な、なんでよ!?」
「……、きらいなの?」
「あ……い、いや、き、嫌いじゃない………………す、好き……だけど……」
「………プ………あははははは!!ママかおあかーい!!」
「ふぇ……?って、こ、こら!からかわないでよ!」
「あはははは!そ、そ、それよりなにつくってるの……ププフ………なんかすごいことになってるね!」
「もう………。ま、まぁ………そ、そうね………凄い事になってるわね………」
『すごい物』を作っていたのは本当だ。今台所はかなり際どい匂いが漂っており、キッチンはどす黒い液体があちこちに飛び散っている。普通の神経の持ち主がこの状況を見たら、衛生法ギリギリの化学工場か魔女の工房を連想するだろう。それほどひどい有様だ。これを綺麗にするにはかなりの時間が必要とされるだろう。恐らくそんなことをしていたら料理の途中で上条は起きてしまう。結論を言うともう凝った料理は作れない。
「ちょっと張り切っちゃって……ね……あは、あはは……」
(……できれば見られたくなかったけど……もうパンでいいかな……でも昨日あんな事しちゃったし……その翌日にパンってどうかしら……?適当なやつとか空気読めないとか……アイツに思われたりしないわよね……?)
しかしもうそれしか選択肢がないのは事実。仕方なく美琴は冷蔵庫の中にあったパンをトーストに放り込む。
「はぁー……昼で挽回するしかないわねこりゃ……」
一応材料はまだかなりある。あと2,3日は何も買わずとも大丈夫だ。しかし美琴のそんな様子を見ていた美栄は美琴のエプロンの裾をくいっとひっぱり指をくわえる可愛い仕草で「……ママー?ごはんないのー……?」と呟いた。正直時間がないので、やや罪悪感はあるが仕方ないものは仕方ないのだ。
「い、いやあるわよ………?パンだけど………」
「えぇー……」
明らかに不満そうだ。どうもこの美栄と言う少女。かなりの美食家のようだ。昨日の朝美琴が作った渾身の朝ごはんにも60点くらいの顔をしていたし、遊園地でハンバーガーを注文したら「こんなジャンクなものたべられないー」とか平然と言ってのけていた。それは暗に将来自分の料理の腕が相当なものを示すと言うことなのだろうだが、どこか納得できないと言うかなんと言うか。そういうくせ、クッキーやカロリーメイト、チョコレートなどの甘そうなお菓子はよく好んで食べている。美栄の服のポケットには常に何かしら食べ物が入っており、やはりそのほとんどがお菓子だ。甘いものが好きなのは美琴も同じなので強くはいえないが、親心から美栄には可愛い女の子になって欲しい美琴としてはあんまりそういうものは食べて欲しくない。太るし、腫れ物が出来たりするので程ほどにして欲しい所なのだが何度止めても一向にやめようとしない。一回「そんなに食べると太ってパパみたいな人と結婚できないぞー?」と忠告したら「ええ!?うそ!!で、でも!こっちにいるあいだだけだもん!かえったらやめるもん!!」とそれでも食べ続ける美栄に美琴は本気で心配になった。
そう思い出したらやっぱり無理やりにでも取り上げるべきかと美琴は迷ってきた。
(………うーん………。それにしても………帰る、か………。まぁ………いつかはその日が来ちゃうんだよね………)
美栄が来てからと言うもの美琴の時間は光り輝いていた。でもそれには制限時間がある。それに未来の自分たちだって、何とか美栄を探そうと必死だろう。美栄は「………て、てがみおいてきたからだいじょうぶだよ………?たぶん………」と言っていたがそれが未来の自分たちにとってどれくらい気休めになるか。
しかしそんな普通の朝の中、エプロン姿の御坂美琴は普通ではなかった。加えて言うと台所も普通ではなかった。
(う………うへええわああああああああああ!!!!????ど、どうしよう………)
美琴はしゃがんだりくるくる回ったり頭を抱えたり、意味の分からない行動をしていた。
御坂美琴(上条美琴と本人は自称したい)はその傲慢無礼な性格からは全く想像できないが、そのまま嫁に出しても問題ないくらいに家庭スキルが高い。服を縫う事なんて朝飯前というか昨日の晩飯前くらいで、料理に関しては経験こそ少なく不慣れなところがあるが、それでも十分に食べる者を唸らせる程うまく作れる。掃除は誰でも出来るということで特にカウントしないが、強いて例を挙げるなら奇数の靴下を見ると落ち着かなかったり、本の並べ方の基準は種類別ではなく、本の大きさであったり~などなど。
何故これほどまでに家庭スキルが高いのか。周りの者に言わせたら「そんなのお姉様の才能に決まっていますわおほほ」だが、それは断じて違う。むしろ生来の美琴はその性格通りのオンチな女の子で、料理なんていざ知らず、お湯の沸かし方も分からない程の生粋の箱入りお嬢様だった。今の美琴があるのは彼女の並々ならぬ努力の賜物だ。ただ、それでも我が強い者は「お姉様の才能っつってんだろ?いっぺん死んどくか?あーん?」と言うかもしれない。だがやはりそうではない。それは周りの者が知らないだけで、美琴は血の滲むような努力を決して口にはせず、ただ黙々と誰も見ないような所で『なりたい自分』に近づくため一生懸命に努力してきたのだ。そんな美琴だからこそ人が集まるし、「あんな人になりたい」「あんな人になれ」と学園都市中でレールガンと尊敬され、畏怖されているのだ。
だがそんな美琴も完璧というわけではない。弘法にも筆の誤り。誰だって慌てたり、焦ったり、緊張したりすれば、得意なことでもミスの一つや二つくらいする。
今、美琴は昨日と同じく上条と美栄(みえ)のために遅めの朝ごはんを作っているのだが、何度やっても満足できる料理が作れない。それは美琴の判断基準が高すぎて満足できないのではなく、何度味見してみても明らかに不味いのだ。このままでは上条にレモンちゃんと正式に呼ばれるのも致し方ない程に。何故、腐ってもお嬢様で何気に努力家である美琴がこのようなことになっているかと言うと。
(ぐ、ぐべぼらべしゃああああああ!?!?!ア、アイツとキ、キスしちゃったああ!!?!?!?好きって言ってちゃったああ!?!??)
後悔というか、未知への航海というか。上条とのキス。それが原因だ。
昨日の『アレ』は計画的なものではない。本当は、ただ上条に自分があのワンピースを着ている姿を見せ、感想とか反応を聞いたり見たりしたかっただけで、あんなことするつもりはなかったのだ。だがフラフラと立ち眩みをしている無防備な上条を見たら、どうしても何かしたくなって気付けばキスをしちゃってました~、というわけだ。おまけに、その場の勢いで「好き」とか「キスして」とか自分の心の中を全て暴露してしまった。それは考え方によっては体の隅々を見られてしまうことより恥ずかしいことだ。美琴の顔はかーと更に赤みを増す。
まぁ「もう何であんな事したの!?」って感じなのだが、何もあの出来事をなかったことにしたいわけではない。むしろあれをなかったことにしてしまったら、もう一生キスなんて恐ろしいものできない気がするし、二度とああいう自分を上条に見せられないような気がする。それは少し嫌だなと美琴は思う。何よりなかった事になったら、私の勇気とか努力とかはどうなんだー!?って感じなのでそのままの現実にしておきたいのが本音だ。
「……にしてもアイツ……いつもあんなに優しかったらいいのになー……」
美琴は昨日上条が言ってくれた優しい言葉を思い出す。それは黄色で、水色で、黄緑で、オレンジで、ピンクで。嫌いな色が一つもなかった。
(………もっと素直になって、私の考えていること思っていることをアイツに伝えたい。難しいことかもしれないけど、少しずつでいいからもっとアイツの事を知りたい。あの時みたいになって、目の動き一つで思っている事が全部分かるくらい………って!ふわああ!!??な、何考えてんのよ私!!??そ、それより!!ア、アアア、アイツ、起きたらなんて言ってくるかしら!!!???も、もし変な女の子だと思われて軽蔑されたらどうしよう!!??)
美琴は起きてからというもの、そんなことばかり考えているので何にも集中できない。こんな状態で料理を作ろうとしているものだからうまい物が出来ないのも道理だ。
まず、材料の確認をしていない。砂糖と塩を間違えるのは当たり前。味噌と胡麻だれと間違え、胡麻だれ汁(味噌汁の類だと信じたい)を作ったり、仕舞いには米(ただしその100%が誤ってパンカスをこねた物である)を炊いたり、もうやりたい放題だ。
「………はぁ………はぁ………と、とりあえず、今は料理作んのに集中しろ私………これでご飯不味かったら本当に軽蔑されんぞ………」
これで何度目のトライか。美琴は失敗するたび同じようなことを自分に言い聞かせ、結局途中から「あ、あれ!?昨日何したっけ!?あれ!?どこまで!?キス!?キスまで!?」と過去を振り返るのに切磋琢磨になってしまっているのだ。それで出来上がるのがダークマター(暗黒物質)というわけである。アニメなどでよくある紫のヘドロみたいなものを想像してもらえばわかりやすいだろう。
「………………マ、ママ………おはよ………」
美栄が台所の入り口に立っていた。
「わっ………と………み、美栄か………おはよう………」
今美栄の着ているパジャマは昨日美琴が薦めた物でゲコ太シリーズの最新作だ。かなりグッドにハッピーにキュートだと美琴は思う。ちなみに美栄が未来から来たとき着ていた服は見たことがないゲコ太シリーズ(ゲコ太郎と言うゲコ太の子供にあたるらしいキャラクターがプリントアウトされている)で、改めてそう遠くない未来に思いをはせる美琴なのだった。実際その服は美琴が美栄の4歳の誕生日にくれた物らしい。そこまでは心暖まるファミリーストーリーだ。しかし美栄はやたら服の洗い方とか保存方法について厳しく指摘してくるのだ。まぁ大切にしてくれるのは嬉しいのだが、その指摘の度合いが小姑並みで正直美琴は滅入っていた。そのくせ、服は何かを零したようなシミがあるし、それを雑に洗ったような跡もあるし、色も所々落ちてるし、とても大切に使っているとは思えなかった。
美琴は昨日の夜のことを思い出す。
『ちょ、ちょっとママ!そのふくはべつにあらってよ!』
『え?どうして?』
『どうしてってどうしても!このふくはママがアタシの4さいのたんじょうびにくれたものだから!』
『あ、そ、そうなの?よく覚えてるわね……、んーわかったわ……じゃあ、先に洗うね』
『あーあーあーあ、ちがうちがう!これはむしてあらうとくべつせいなの!センタッキであらったらいろがおちちゃうでしょミコトさん!』
『……そ、そうですよね……、……すみません……。じゃ、じゃあ今のうちに乾燥機に入れとくから、美栄は先にお風呂入っちゃいなさいな』
『ぶうぃー!べつにいいんですよアタシはおふろにはいらなくても!だからママがちゃんとあらうかどうかチェックします!』
『……えぇー……(……そんなに大切な服なのかな……?……結構雑に洗われてるみたいだし、シワもあるし、シミみたいなのもあるけど……)』
『はやくはやく~』
………………………………。
(……ふっ……可愛いは正義……か。……恐ろしい……)
「……、あのねーママ?……ひっく」
ん?と美琴は改めて美栄の顔を見る。美栄の顔は遠くから見たら一見ただ顔が赤くなっているだけのように見える。しかしよく見てみれば泣いたような跡があった。涙の跡はサーカスなどで見るピエロのメイクの様に目の周りに拡散している。
「っ!?ど、どうしたのよその顔!?何かあったの!?み、美栄!?どこか痛いの!?」
ドダダダ!と美栄に近づいた美琴は慌てて美栄の体を弄りまくる。が、特に腫れているような所はない。
(んー?どこか攣ったのかな……でもそんな感じじゃないし……怖い夢とか……?)
「ねー美栄?何があったの?ママに話してごらん……?」
「……ふぇ……ぐす……とみせかけて!ひっく……………だ、だいすきー!!」
そういって美栄は美琴のお腹に飛びつく。笑っている。いや、泣いている。いや。笑いながら泣いている。こういう表情は何というのか。美栄は喜んでいるのも確かようだが、涙も流れていてどこかぎこちないものを連想させる。食べ物に例えるならさしずめラーメンの上にチョコレートケーキがドンッと乗っかっているような感じだ。
「?????………………ホントどうしたのよ美栄?………………なんか変よ?」
「カ、カミジョーさんはママがだいすきなのです!ひっく………………」
「………??う、うん………み、美栄………?嬉しいの?悲しいの?」
「う、うれしいもん!ひっく………」
「………………?だ、大丈夫????」
美琴は美栄の背中をよしよし~と撫でる。
2分。
美栄はすぐに泣き止んだ。
「……よしよし…………美栄?もう大丈夫?」
「……う、うん……ごめんなさいママ……」
「い、いや、別に謝らなくてもいいのよ。泣きたい時は泣いたっていいのよ(5歳ってそういう……、泣くほど母親に甘えたい年頃……だったっけ……)」
美琴は勝手に推測しつつ美栄の泣き跡を顔の汚れをエプロンで拭う。泣き止んで落ち着いてきた美栄が美琴のエプロンをぎゅっと握り締め上目遣いで美琴をうるうると見つめ、
「………あのね、ママはアタシのことすき?……きらい?」
「え?」
「………………………きらい?」
「え!?あ、いやいや!好きに決まってんじゃない!美栄が私を好きな1000倍以上好きだってば!」
美琴は美栄を抱きしめている腕に更に力を込める。美栄はそれに満足なのか嬉しそうに美琴のお腹にグルングルンと顔を埋める。
「…………、じゃあパパは?」
「にょわわ!?な、なんでよ!?」
「……、きらいなの?」
「あ……い、いや、き、嫌いじゃない………………す、好き……だけど……」
「………プ………あははははは!!ママかおあかーい!!」
「ふぇ……?って、こ、こら!からかわないでよ!」
「あはははは!そ、そ、それよりなにつくってるの……ププフ………なんかすごいことになってるね!」
「もう………。ま、まぁ………そ、そうね………凄い事になってるわね………」
『すごい物』を作っていたのは本当だ。今台所はかなり際どい匂いが漂っており、キッチンはどす黒い液体があちこちに飛び散っている。普通の神経の持ち主がこの状況を見たら、衛生法ギリギリの化学工場か魔女の工房を連想するだろう。それほどひどい有様だ。これを綺麗にするにはかなりの時間が必要とされるだろう。恐らくそんなことをしていたら料理の途中で上条は起きてしまう。結論を言うともう凝った料理は作れない。
「ちょっと張り切っちゃって……ね……あは、あはは……」
(……できれば見られたくなかったけど……もうパンでいいかな……でも昨日あんな事しちゃったし……その翌日にパンってどうかしら……?適当なやつとか空気読めないとか……アイツに思われたりしないわよね……?)
しかしもうそれしか選択肢がないのは事実。仕方なく美琴は冷蔵庫の中にあったパンをトーストに放り込む。
「はぁー……昼で挽回するしかないわねこりゃ……」
一応材料はまだかなりある。あと2,3日は何も買わずとも大丈夫だ。しかし美琴のそんな様子を見ていた美栄は美琴のエプロンの裾をくいっとひっぱり指をくわえる可愛い仕草で「……ママー?ごはんないのー……?」と呟いた。正直時間がないので、やや罪悪感はあるが仕方ないものは仕方ないのだ。
「い、いやあるわよ………?パンだけど………」
「えぇー……」
明らかに不満そうだ。どうもこの美栄と言う少女。かなりの美食家のようだ。昨日の朝美琴が作った渾身の朝ごはんにも60点くらいの顔をしていたし、遊園地でハンバーガーを注文したら「こんなジャンクなものたべられないー」とか平然と言ってのけていた。それは暗に将来自分の料理の腕が相当なものを示すと言うことなのだろうだが、どこか納得できないと言うかなんと言うか。そういうくせ、クッキーやカロリーメイト、チョコレートなどの甘そうなお菓子はよく好んで食べている。美栄の服のポケットには常に何かしら食べ物が入っており、やはりそのほとんどがお菓子だ。甘いものが好きなのは美琴も同じなので強くはいえないが、親心から美栄には可愛い女の子になって欲しい美琴としてはあんまりそういうものは食べて欲しくない。太るし、腫れ物が出来たりするので程ほどにして欲しい所なのだが何度止めても一向にやめようとしない。一回「そんなに食べると太ってパパみたいな人と結婚できないぞー?」と忠告したら「ええ!?うそ!!で、でも!こっちにいるあいだだけだもん!かえったらやめるもん!!」とそれでも食べ続ける美栄に美琴は本気で心配になった。
そう思い出したらやっぱり無理やりにでも取り上げるべきかと美琴は迷ってきた。
(………うーん………。それにしても………帰る、か………。まぁ………いつかはその日が来ちゃうんだよね………)
美栄が来てからと言うもの美琴の時間は光り輝いていた。でもそれには制限時間がある。それに未来の自分たちだって、何とか美栄を探そうと必死だろう。美栄は「………て、てがみおいてきたからだいじょうぶだよ………?たぶん………」と言っていたがそれが未来の自分たちにとってどれくらい気休めになるか。
上条がいた。