とある魔術の禁書目録 自作ss保管庫

Part03-1

最終更新:

NwQ12Pw0Fw

- view
だれでも歓迎! 編集


EPISODE 2


Scene_1  【第7学区内のとある公園】

 気になるアイツが帰ってきた。
 戻ってきたいつもの日常。その事がたまらなく嬉しい。
 いつもの公園で、アイツにたまたま出会えた(30分以上ソワソワしてアイツを探してたけど……うん。会ったのは偶然だもん)ので、アイツを呼び止めた。
 いつものようにスルーされるかと思ったら、以外にもアイツは私の呼びかけに応えてくれた。
 だから……少し、素直になれる気がした。
 そして、思い切って告白した。

「アナタのことが好きなの。私は上条当麻が好きなのッ!!!」
「みっ、みみみ御坂さんっ!? そっ、それは一体……?」
「アンタが鈍感だから、真っ正面から言うしかないと思ったのよッ!!!」
「え……あ、あの~……」
「ウソじゃないわよ!! 本気なのッ!!! 御坂美琴は上条当麻が大好きなのッ!!!!!」
「う……あ……」
「答えを……聞かせて……」
「お、オレは……」
「聞こえない……」
「……」
「聞こえないって言ってるでしょ!?」
「……」
「え!?」
(口は動いてるのに……聞こえない?)
「──────」
「ねぇ、何て言ってるの!? アンタはなんて答えてるの!?」
「──────」
「ちゃんと言ってよ! 教えてよッ!! 答えてよォッ!!!」
「──────」
「聞こえない……聞こえないの!! どうして、どうして? ……一番大事なことがどうして聞こえないのよおぉぉッ!!!!!」
「……」
「えっ!? ドコに行くの? ねぇ、待って。返事を聞かせて」
「イヤッ、行かないで……また、私の前から居なくならないでッ!!!」
「イヤだ!! イヤだよォ~…… 居なくなるなんて……アナタに会えなくなるなんて……絶対にイヤぁぁぁああああああああッ!!!!!!!」

『ガバッ!!!』

「ハァッ……ハァッ……ハァッ……ハァッ……うッ……ううッ……うッ、うッ……ヒクッ……ぅわぁぁぁぁぁ……」

 今見た夢の恐怖に思わず泣いてしまう。
 声を殺すために、膝を抱えて……毛布に顔を押し付けて……。

(どうして……どうしてアイツの返事が聞こえないの……?)
(どうして、アイツの声が聞こえないの?)
(怖い……怖いよ……)
(アイツの返事を聞くのが怖い……)
(返事が『 YES 』ならイイけど……もし……)
(もし……万が一『 NO 』だったりしたら……)
(イヤ、イヤ……それだけは絶対にイヤ! だって、だって、だって私には……アイツしか……)

『だから、素直になりなさい。そして想いの丈を上条君に伝えなさい。でないとあの子に奪われちゃうぞ?』

(アッコさん……だけど、私……私……。やっぱり怖いよォ……)

 身体が震える。心が震える。
 肩を掴んで身体の震えを止めようとするけど、心の震えまでは止まらない。
 それどころか、恐怖に押し潰されるようにどんどん身体が縮こまる。
 胸が訳の分からない何かに『ギュウッ』と締め付けられるようで苦しい……。

(怖いよ、アッコさん……私、怖いよォ……)
(どうすれば良い? どうすれば良いの? 私、私は……このままじゃ……)

「うッ……ううッ……うッ、うッ……うぅぅ……」

 第七学区にある、常盤台中学学生寮208号室。
 この学園都市に7人しかいない、レベル5の第3位。
 御坂美琴は寮生全員が寝静まった深夜に、独りで隠しきれない嗚咽を漏らし続ける。
 そこに居る彼女は、恋に悩む独りの少女でしかなかった。


  Scene_2  【常盤台中学学生寮 208 号室】

『チュン、チュン……チチチチチ……チュン……チュン……ゲコゲコゲコゲコゲコゲコ……』

 小鳥たちの朝のさえずりと共に、無粋なカエルの鳴き声が響く。
(カエルじゃないッ!! ゲコ太!!! by 美琴)
 あ、はい。ゴメンなさい……。やり直します。

 彼女のお気に入り、限定グッズの一つである目覚まし時計から、カワイイゲコ太の声で起こされる。

 ……あの、コレでイイですか?
(うん、これならイイわよ。by 美琴)

「ん……あ……もう、そんな時間か……うーーーんッ」

 この部屋の住人である、御坂美琴は大きく伸びをして目覚まし時計のアラームを止める。

 常盤台中学学生寮の朝は早い。
 午前七時までに起床して、以後三十分以内に身だしなみを見苦しくない程度に整える。
 午前七時三十分には食堂へ集合、点呼を取ってから午前八時までに食事を完了させる。
 それが休日も変わらないいつもの日課だ。

 時計は今、六時三十分を少し回ったところだ。
 美琴はチラッと隣のベッドを見る。
 ルームメイトである後輩はまだ寝ているようだ。

「先にシャワーを浴びちゃおっかな……」

 ぽつりと独り言を呟き、着替えとタオルを持ってシャワールームに入る。
 パジャマと下着を脱いで、少し熱めのシャワーを浴びる。
 昨夜の『夢』を洗い流すように……。

(アイツが帰ってきた……)

 その事を思い出すと、顔が自然に綻んでしまう。

(アイツがホントに帰ってきてくれた……。アイツが生きて帰って来てくれた……)

 昨日、私はほとんど自覚がないまま第七学区を彷徨っていたところをルームメイトの黒子に保護されたらしい。
 だけど……その時、私は無自覚に『能力』を暴走させてしまい、危うく黒子にケガを負わせるところだった。
 それを止めてくれた一人の女性。
 風見温子さん。通称『アッコさん』。私もアッコさんって呼んでる。
 キュートで明るくて、元気いっぱいの……でも、スゴい美人で優しくて厳しい喫茶店のママさん。
 見た目は20代にしか見えないんだけど……、ご主人であるマスターの話だと……もう、アラフォーに突入してるらしい。
 学園都市ってそう言う人が結構居るのよね。
 アイツの担任なんて……幼児にしか見えないし……。

 あんなふうに包み込んでくれた人は、お母さん以外では居なかった。
 だから、一杯泣いちゃった。
 そのお陰で少しだけ、楽になれた。
 お料理をご馳走になった。
 あの量はスゴかったけど……。
 なぜかあの銀髪シスターのことが頭に浮かんで、ムカついたのでそれを完食した。
 そしたら……
 いきなりアイツが現れた。
 顔を見た途端、全部吹っ飛んじゃって……抱きついて泣きじゃくって……。
 テンパっちゃって……告白したんだけど……邪魔された。
 私の告白をジャマした女。
 アイツの先輩だという『雲川』とか言う女の人。
 悔しいけど……美人だったな。
 私だって負けてないと思うけど、……でも、違うタイプで……美人で、大人って感じがした。
 ……なんかムカつく……。
 一番ムカついたのは、あいつの鼻の下が伸びてたからだけど……。
 『惚れてる』なんてあの女に言われて……。でも『意識したことがない』なんて……もし、私も言われたりしたら……怖い……。
 でもあのバカったら……あんなこと聞いてくるなんてさ……。
 ホント鈍感なんだから……。

「おっ姉っ様ぁ~ッ!!!」
『パチパチパチッ!』
「あ゛あ゛っ……おっ、お姉様の愛のムチ……今朝は、今朝は……一段と……」
「シャワー浴びてる時に、突入してくるなって何度言ったら分かるのよ!!! アンタはっ!?」
「く、黒子はただ、朝のスキンシップを……あ゛あ゛ッ……」
「ッたく、懲りない子ね……アンタって。シャワー浴びてたら水分が充満してるんだから、電気が通りやすくなってんのよ。少しは学習しなさいよね」
「……やっと、やっと……」
「えっ!? 黒子?」
「やっと、いつものお姉様に戻って下さいましたのね……」
「え……あ……ゴメンね、黒子……心配かけちゃって……」
「お姉様、お姉様ァ~……」
「黒子……ゴメンね。そして、今までありがとね……」
「お姉様、お姉様、お姉様ァ~~……」
「黒子……。ホントゴメンね。でももう……、ん?……ちょろっと……黒子? アンタ……どさくさに紛れて何しようとしてんのよッ!?」
「あ……いえ、こっ、これは……朝の、スキンシップが……あ゛あ゛あ゛ッ……」
「っとに……一瞬でも心を許した私がバカだったわ。しばらくそこで痺れてなさいッ!!!」
「ああッ……お、おね゛え゛た゛は゛…ぁぁぁ~~~ん……ガクッ」

 朝のシャワータイムをルームメイトに邪魔されて少々不機嫌にはなったモノの、でも、自分を想ってくれる気持ちは嬉しく思う美琴だった。
 身支度を調えながら、昨日のことを思い返す。

 あのバカったら、あんなこと聞いて来て……。
 ホンッッッッッッッットに鈍感なんだから……。
 で、頭に血が上っちゃって……するつもりはなかったんだけど、電撃が出ちゃって……。
 やっぱり……『自分だけの現実(パーソナルリアリティ)』が壊れかけてるのかな?
 マジで、ヤバいかも……。
 その後……アイツに……(ポンッ!!!//////////)……エヘ……エヘヘヘ……抱き締められちゃった……。
 でも、ビックリして気絶したみたいで……気が付いたら、アイツに抱きついてた……(ポンッ!!!!!////////////////////)。
 どうしよッ!? どうしよッ!? どうしたらイイ!? どうしたらイイのッ!?
 今度アイツに会ったら……どんな顔すればイイのよッ!?(カアアアアア////////////////////////////////////////)

『だから、素直になりなさい。そして想いの丈を上条君に伝えなさい。でないとあの子に奪われちゃうぞ?』

 アッコさんからのアドバイス。
 私、本当に出来るのかな?
 素直になって、この想いをアイツに伝えたい。とは思うけど……。
 断られたら……。
 そう思うと……、どうしても怖くて……。
 もう一度、アッコさんに相談してみようかな……?
 アッコさんなら聞いてくれそうな気がするし、何か良い意見も聞かせてくれそうだし……。

 あ、そう言えば……昨日ご馳走になった晩ご飯のお代……払ってなかったんじゃ……。
 アイツが居て、テンパってたとは言え、私なんてコトしちゃったんだろ?
 今日、学校が終わったら行かなきゃ。

『コンコン』

 ノックの音がした。
 誰だろ?

「あ、はい」
「御坂、居るか?」
「りょ、寮監? あ、ど、どうぞ」
「うむ、入るぞ。『ガチャ』」
「あ、あの……何かご用ですか?」
「ちょっと聞きたいことがあってな……」
「聞きたいこと?」
「ああ。……それよりも、大分元気になったみたいだな」
「あ……、ご迷惑をおかけして申し訳ありませんでした。何とか……なりそうです」
「いや、確かに心配はしていたが、お前ならきっと元に戻ってくれると信じていたよ」
「そんな……ありがとうございます」
「ところで……」
「あ、はい」
「昨夜、お前を送ってきて下さった方のことなんだが……」
「え? あの……アッコさんのことですか?」
「アッコさん……というのか……」
「あ、本当は確か……風見温子さんと仰有る方で……第七学区内でご夫婦で喫茶店をやって居られる方です」
「風見……やはり……」
「あ、あの……ご存知の方なんですか?」
「あ、ま……まあな……。そうか、帰って来られたのか……」
「あ、あの……寮監?」
「あ、スマン。いや、古い知り合いに似ていたものでな……。どうやら間違いなさそうだ」
「寮監のお知り合い……」
「いや、すまなかった。ありがとう。……では、もうすぐ食事の時間だ。時間までに食堂に集合し、必ず点呼を受けるように!!」
「あ、……ハイッ!」
「うむ。宜しい。……では後ほど……」
「ハイ」

 そう言うと寮監は部屋を出ていった。

「アッコさんと寮監が知り合い……。世の中って狭いわ……」

 と、思わず私は独りごちた。
 あの寮監と知り合いって……どんな関係だったんだろう?
 ちょっと行きづらくなっちゃうかも?
 でも、それも知りたい気もするし……。もしかすると、寮監の弱みを教えて貰えるかも……?(ニヤリ)
 やっぱり、今日の放課後にお礼も兼ねて行ってこよう。
 そう考え、未だシャワールームで痺れているであろう後輩に一言声をかけて、私は食堂へと移動した。


Scene_3  【常盤台中学学生寮 食堂】

「御坂様、おはようございます」
「おはよう」
「おはようございます。御坂様。お元気になられたようで、安心致しました」
「ありがとう。心配かけてゴメンね」

 さっきからこの繰り返し。
 嬉しいことは嬉しいけど、さすがにちょっと……ね。
 逆に自分がどれ程酷かったのかって事を、改めて痛感させられる。
 そういう意味では、少々キツいわよね……。

「御坂、御坂~」
「あ、舞夏」

 向こうからやって来たのは、私の友人であり、繚乱家政女学校の生徒でメイド見習いでもある土御門舞夏だ。
 いつものように、掃除ロボットの上にキチンと正座をしている。
 掃除ロボットはいつものようにクルクル回りながら進んでくるのだが、舞夏は気にも止めていない。
 しかも両手には4枚もの皿が載っている……。それが揺れもしていない。
 さすが、エリートメイド候補生。
 その上、どうやっているのかは分からないけれど、ちゃんと掃除ロボットを自分の行きたい方向にコントロールしている。
 一度私もやってみようかな?
 そんなコトを考えている間に舞夏は近づいてきた。

「元気そうだなー。ウムウム」
「何が『ウムウム』よ。でも、心配かけちゃったわね。ゴメンね」
「そんなコトは気にしなくても良いぞー。……ところで、もう会ったんだろー?」
「ヘッ!?」
「とぼけるな、とぼけるなー。あの『ツンツン頭』に会ったんだろー?」
「(ボムッ!!!////////////////////)……そっ、それはその……あのッ……えっと、……うん……。会った。……昨夜、会えた……(////////////////////)」
「そうか、そうか。会えたのかー。……で?」
「ヘッ!?」
「……で、どうしたんだー?」
「ど、どどどどど、どっ、どうしたって?」
「またまたぁー、感動の再会だったんだろー?」
「かっ、感動の再会って……そ、そんなんじゃ……無い……ゴニョゴニョ……」
「抱きついて、泣きじゃくって……。それから、それからー」
「なッ、何でアンタがそのコトを知ってんのよッ!?」
「そっか、そっか。抱きついたのかー。御坂にしては進歩だなー」
「まっ、舞夏!? アンタ、騙したわねッ!?」
「でも、それで終わりだったのか? もう一押しすればよかったのにー」
「えっ!? もう一押しって?」
「私も昨日の夜に上条当麻に会ったんだが、『御坂にまだ会えてないんだ。出来るだけ早く会いたいんだけどな』って言ってたんだぞー」
「ふぇっ!?」
「御坂に早く会いたい。って言ってたってコトは、何か思うところがあるんじゃないのかなー?」
「お、思うところって?」

 舞夏は掃除ロボットを微妙なコントロールで私にツツツと近づけると……
 耳元で、小さな声で……

「(愛の告白とかが有ったりしてなー)」

 と呟いた。
 そして、それだけ言うと……

「じゃあなー、また後でなー」

 と言って奥の座席の方に向かって行った。
 そして私は……

「こっ、ここ告白? あッ、愛のこここ告白ゥ~……? …ふッ……ふっ…ふ、ふにゃぁぁぁあああああ~~~(バリバリバリバリバリッ)」

 と、壊れかけている『自分だけの現実』をコントロール出来ず、漏電を起こしてしまった。
 寮監からのお説教は、まだ病み上がりと言うことで免れたけど……、結局その日一日は、寮に謹慎と言うことになってしまった。
 アイツじゃないけど……不幸だわ……。


Scene_3  【喫茶店エトワール】

『カランカランカラ~ン』
「いらっしゃ~い。……って、アラッ!? 美琴ちゃんじゃない!? また来てくれたの? 嬉しいわぁ!!!」
「あ、アッコさん。先日はどうもありがとうございました。……って、キャアッ!?」
「ん~~~。やっぱり美琴ちゃんはカワイイわぁ~」
「ちょ、ちょっと、アッ、アッコさんったら……、ヤダッ!? 変なトコ触らないでぇ~ッ!?」

 お店に入った途端、アッコさんからの強襲を受けてしまった。
 しまった。忘れてた……。
 そう思った時に声がした。

「……ッたく。……嬢ちゃん、アッコの首根っこを掴みな」
「えっ!?」
「イイから。早くしな」
「は、ハイッ」

 言われるままに、私に抱きついているアッコさんの首根っこを『ギュッ』と掴む。
 すると……

「ピギッ!?」

 途端に全身が固まってしまったアッコさん。
 あれ? ドコかで見たような気が……?

「そのまま、嬢ちゃんの電磁波でそいつのソナーに干渉してやったら……面白いものが見れるぜ」
「あ、アンタ……にゃに、教え…てんにょ~~……みぃぃぃぃッ!?」
「え? お、面白いもの?」
「み、美琴ちゃん……やめて。お、お願い…だから……やめて……みみみぃ……」
「発電系の能力者なら、その部分が何の役割を果たしているかは分かるだろ?」
「あ……」
「みみみみみぃぃィ……」

 発電系能力者は好むと好まざるとにかかわらず、その身体から様々な電磁波を出してしまっている。
 もちろん、強度(レベル)によって強弱の差があるし、コントロールの幅にも差が出る。
 その所為で、電磁波を嫌う小動物達に懐かれないという欠点があるのだが、学園都市では動物に接する機会が少ないので余り問題にはならない。
 逆に、その電磁波を常にレーダー代わりに使っているのが普通だ。
 私もそうだし、アッコさんも発電系能力者であるのならそうだろう。
 そのレーダー代わりに使っている電磁波の後方の受信部が、ちょうどこの首根っこの後ろ側になる。
 実際私もこの部分を触れられることを極端に嫌うし、他の人が触れようものなら絶対に感電する。
 でも、相手が発電系能力者なら話は別だ。
 自分と同レベル、若しくはそれ以上の能力者に触れられた場合、感電しないどころか、逆にその部分に干渉される危険がある。
 マスターはそれを『やれ』と言っているのだ。

「あ……でも……」
「遠慮するこたぁねぇよ。第一、今お灸を据えとかねぇと、また同じ目に遭うことになるぜ」
「う……そ、それは、確かに……ちょっと……」
「みみみ……もう、しませんからぁ~~……み、み、美琴ちゃ~ん…勘弁してぇ……みぃぃ」
「アッコさん、ホント?」
「ホント、ホント、ホントだってばぁ~~……だから、お願みィィ……」
「じゃあ、今日のところは勘弁してあげます」
「あ~、助かった…「でも……」…えっ!?」
「今度やったら、こうですからねッ!!!」

『フオンッ!』

 アッコさんの首根っこを掴んだ手から伝わってくる周波数に合わせて、それに干渉するような電磁波を流す。
 すると……

「みみぃっ!?」

 途端にアッコさんが、全身の毛を逆立てたネコのようになり、全身が固まったかと思ったらその場にへたり込んでしまった。

「あ…アハ…アハハ……ハハ……もう、ダメェ……」
「え?」
「良く分からねえんだけどさ、どうも全身の電気が逆流するような感じになって、しばらく動けなくなるらしいんだよな」
「えっ!? あッ、ごっ、ゴメンなさい。アッコさん! だッ、大丈夫ですか!?」
「アハハ……美琴ちゃ~ん……酷いよォ~……」
「自業自得だ。ちょっとは懲りろ」
「アンタぁ~……覚えてなさいよォ~~……美琴ちゃんは気にしなくてイイからねぇ……ハハ……」
「あッ、でも……」
「イイって、イイって。気にしなくてイイって。元はと言えばコイツの所為なんだから」
「そ、それは……まあ……」
「ところで、今日はどうしたんだい? 何か食いに来てくれたのか?」
「あ……いえ、あの……先日は本当にありがとうございました。……あの、今日はそのお礼と、この前いただいたお食事の代金を……払うのを忘れてて……」
「何だ、そんなコトか。そんなわざわざお礼をして貰うようなことはしてねえつもりだがな」
「え……そんな……」
「それにあの食事だって、そこでへたってるのと一緒だったんだから、元々お代を貰うつもりなんて無かったんだぜ」
「そんなの困ります……」
「そいつが言ってたろ? 困った時はお互い様だってな」
「あ、で、でも……」
「それに、それを恩だと感じてくれるんなら、他の店に行く何度かに一度を、ウチにしてくれればイイよ」
「あ、……でも、それじゃあ私の気持ちが済まないんです。だから……つまらないものですけど……」

 そう言って『学舎の園』で買ったケーキの詰め合わせをマスターに差し出す。

「じゃあ、有り難く受け取らせて貰うよ。但し、こう言うことはこれっきりだぜ」

 マスターはそう言って快く受け取ってくれた。
 そして……

「へェ……オイ、アッコ。これ『学舎の園』でしか売ってねえ限定ケーキみたいだぞ?」
「えっ!? ホントッ!?」

 『限定ケーキ』と聞いた途端、それまでへたり込んでたアッコさんが飛び起きた。

「キャア~ッ!!! 『パスティチア・マニカーニ』の限定ケーキばかりじゃないッ!? 一度食べてみたかったんだぁ~。……って、アンタ、何グズグズしてんのよッ!! さっさとコーヒーいれてよッ!」
「ヘイヘイ……。オイ、嬢ちゃんも一緒に食べなよ」
「えっ!? でッ、でも、それじゃあ……」
「このケーキはウチが貰ったもんだ。だから、ウチがどうしようがウチの自由……だろ? それにこう言うモノは大勢で食った方が美味いんだ」
「あ……ハイッ」
「飲み物、何にする?」
「えっと、どうしようかな……」
『カランカランカラ~ン』
「ぅ~……ダルい……こんにちは……」
「アラ、芹亜ちゃん、いらっしゃい」
「アッコさん、どーも……」
「どうした? 芹亜。エラく疲れてるじゃねえか?」
「…ちょっとね……。ッたく、あのジジイと来たら……」
「何かエラく不機嫌だな?」
「まあね……って、アラ? 御坂さんじゃない?」
「あ……あの時の……」
「雲川芹亜よ。また会えて嬉しいわ」
「あ……いえ、こ、コチラこそ……この前は失礼しました」
「そんなに畏まられても困るんだけど。……って、マスター! 何よそれッ!? 『パスティチア・マニカーニ』の限定ケーキじゃないッ!?」
「お、オマエも目敏いな……」
「ちょうど甘いものが食べたかったんだけど。ちょうど良いわ。まさかこの店でこんなイイものに巡り会えるなんて思ってもいなかったけど」
「何がちょうど良いんだよ?」
「イイじゃない。どうせ御坂さんがこの前のお礼に持ってきてくれたんだろうけど」
「さすがだな……その洞察力……」
「私も一つ欲しいんだけど……。ね、優しいマスターさん」
「わーったよ……。ッたく、こういう時だけ調子が良いんだから……で、どれにする?」
「あッ、芹亜ちゃん、イチゴは私のだからねッ!!!」
「アッコさん、ホントイチゴ好きねぇ……。もういい年なんだから、いつまでも子どもみたいに「イチゴ、イチゴ」って言うのもどうかと思うけど」
「放っといてよ。それに『いい年』ってどういう意味!?」
「はいはい、失礼しました。私が悪うございました」
「んッ……宜しい。アハハ……、それにしてもさすがに芹亜ちゃんよね。図々しいと言うか、何と言うか……」
「アハハ……そうでなきゃ、こんな店の常連やってられないけど」
「悪かったな、こんな店で……」
「まあ、確かにこんな店だけどね……」
「「「アハハハハハ……」」」

 さすがにココのノリは、私と言えど着いて行けないモノがある。
 ちょっと引いちゃうかも……。

「嬢ちゃんもさっさと自分のを選ばねえと、この二人にかかったら全部無くなっちまうぞ」
「あ、じゃあ、そのチョコレートのをお願いします」
「イチゴ♪、イチゴ♪」
「じゃあ、アタシはモンブランが欲しいんだけど」
「飲み物はどうすんだ?」
「アタシはムンドでオ・レが欲しい!」
「私はティピカ。ペルー・ティピカをメッシュで、軽くいれて欲しいんだけど」
「注文の多い奴らだな……。嬢ちゃんはどうする?」
「あの……、今の何ですか?」
「え? ああ、そうか。そりゃそうだわな。嬢ちゃんはコーヒーなんて飲まないんだろうな」
「あ、そんなことはないんですけど……。確かに、好んでは……」
「まぁ、また蘊蓄が長くなると、文句が出るだろうけど……」

 チラッと、アッコさんと雲川さんを見るマスター。
 二人の視線は『ジトッ』としてる。
 何でだろう?

「俺が喫茶店を始めたのは、コーヒーにハマっちまったからなんだよな」
「始まったわ……」
「始まっちゃったね……」
「えっ!?」
「美琴ちゃん、長くなるから聞き流してね」
「そうそう、でも放っといたって長いけど……」
「「ハァ……」」
「???」
「まずは、論より証拠って奴だ。嬢ちゃんのケーキはチョコ系だったな。だったら……本来ならグァテマラ辺りで行くんだが……」
「え? グァテマラって……国の名前ですよね?」
「その国が原産のコーヒーだよ。グァテマラは元来ボディがシッカリしていて、香りも旨味も酸味もあるから何にでも合うんだが……」
「ああ、コーヒーの種類……」
「ココは敢えて、芹亜と同じヤツにしてみるか。但しペーパーでな。その方が軽くて飲みやすいだろうし、理解しやすいだろう」
「え? え?」


ウィキ募集バナー