とある魔術の禁書目録 自作ss保管庫

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ポニーテール



七月を迎えようとしていた学園都市。
上条当麻と御坂美琴にとって、交際半年を迎える時期でもあった。
だが、自室で扇風機の風を浴びながら涼む上条の顔はあまり浮かない。
暑さのせいもあるのだろうが、浮かない顔をしている理由は他にある。

――美琴はどうして、あんなことをしているんだろうな?

あんなこと――第三者の目から見れば、それは大したことではない。
実際、彼女と親しき人々にとっても、そのことを彼の様に疑問で気に止めている人物は少数だ。
そんな時、部屋の呼び鈴が鳴る。
ふう、と息を吐きつつ立ち上がり、自室の扉を開けた。

「当麻、お邪魔するわよ」

そこにいたのは、向日葵のような満面の笑顔を浮かべている、恋人の御坂美琴――なのだが。

「……なぁ、そろそろいいだろ? 教えてくれよ」

「? 何を?」

「何って……その、髪を伸ばしている理由だよ」

彼女の代名詞と言って過言ではなかったショートヘアーの髪型は、肩のやや下まで伸びたロングヘアーに今では変わっている。
その髪型は以前の活発な印象よりも、女性らしい淑やかさの印象を周りに与えているようだ。

「当麻はこういうの、嫌い?」

少し涙ぐんだ目で上目遣いをする美琴。
そんな仕草に当麻のハートがブレイクするのは必然なわけで。

「嫌いなわけないだろ」

左手で身体を抱き寄せ、右手で優しく、彼女の髪を撫でる。
その手触りは最高級の絹を思わせ、撫でる度にバニラエッセンスのような香りが当麻の鼻を擽る。

――だけど、気にはなるんだよな。いつも、のらりくらりと躱されてばかりだし。

そんな彼の心の声が美琴へ届いたのか。

「あと少しだけ、待っててね。教えてあげるから」

当麻の耳元で甘い囁きが聞こえた。
その真意を聞き返そうとした当麻だったが、美琴は彼の腕からするりと抜け出して、台所へと向かっている。
やれやれ、と肩をすくめて彼女の後を歩く。
美琴と過ごすこれからの一時を楽しみにしながら――。


数日後、七月七日。世間一般では七夕の日として世間に知れ渡っている。
この日、学園都市の各地で七夕関連のイベントが行われることになっていた。
勿論、当麻と美琴も二人で参加しようと決めていた。
涼を得る為に購入した、紺色の甚平服を着用しながら当麻は、自分の織姫――美琴の到着を自室で心待ちにしていた。

――彦星と織姫が会えるのは年に一回か。……耐えられないな。

七夕の二人に、自分と美琴の姿を重ね合わせて苦笑する。
今の環境が、七夕のように一年に一回のみとなってしまえば、発狂してもおかしくないのではないか、と当麻は思う。
そんな折に耳へ届く呼び鈴の音に心踊らされ、扉を開けた。

「こ、こんばんは」

緊張した声と同時に、愛しい織姫が姿を現す。
可愛らしい花柄をあしらった浴衣を纏い、かすかに頬を赤らめている。
それよりも驚いたのは、彼女の髪型だ。

「……ポニー、テール?」

昨日までのロングヘアーを肩より高い位置で結い、快活さと可愛らしさを兼ねている髪型。
知り合いの聖人のそれよりは短いものの、今までの美琴にない雰囲気を、当麻は感じ取っていた。

「へ、変じゃないかな?」

「変じゃないけど……急にどうしたんだ?」

「きょ、今日はポニーテールの日なんでしょ?」

「へ?」

「織姫がこの髪型だったみたいだから、そういう日らしいんだけれど……。似合わない、かな?」

彼女は先ほどよりも顔を赤くして、もじもじと手を合わせている。
自分の髪をこの日の為に伸ばし続け、手入れをしてきた。
その目的は、自分の愛する人に喜んでもらいたいという献身。
心遣いがどうしようもなく、いじらしくて、愛しくて。



「美琴。ありがとうな」

当麻は感謝の言葉を口にしながら、右手で彼女の頭を撫でる。

「だけど、無理をして自分の趣味じゃないような髪にしなくていいんだ。……ありのままの美琴が、俺は好きだから」

彼自身も恥ずかしいのか、最後の方になると声が消え入りそうに小さくなっていた。

「嬉しい……」

美琴はそう言うと、当麻の胸へ顔を埋める。
彼女の表情を見ることは出来ないが、ふにゃ~という声を漏らしていることから、漏電寸前まで緩んでいることは明白だ。
当麻はこの状況を、身動きが取れないという不幸なのか、恋人との濃密な時間という幸福なのかという判断に困り果てた。
それでも、一つだけはっきりしている思いはある。

――俺にとっての織姫は、美琴だけだよ。

心の中で、そう呟いた。



ちなみに、当麻が髪型に拘りがないことを知った美琴は、数日後に髪をショートヘアーに戻した。
そのことが原因で、美琴をフッたと勘違いした多数の人間から当麻は追いかけ回されることになる。
結末がどうなったかは、ここに記すまでもない。


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