とある魔術の禁書目録 自作ss保管庫

Part05

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~エイント・ノー・リバー・ワイド・イナフ~


二人は歩きながら夜空を見ていた。


その日の夜空には天の川が横たわり、宝石箱をひっくり返したようなきらめきを見せている。


七月七日。七夕と呼ばれる日。



「・・・・・綺麗ね」


「・・・・・そうだな。」



上条の右手には花火や短冊などの荷物が、左手には美琴の右手が。


二人は、美琴が計画した七夕パーティーの会場へと向う途中だった。



しかし、時間にはまだだいぶ余裕がある。



「それにしても、アンタのほうからあんな言葉が出るなんで思わなかったわ。」


「・・・普段わたくしめはいったいどんな評価をうけているのでせう?」


「えっと・・・・・・・鈍感ばか?」



本当ならそれぞれ会場に集合するはずだったのだが、


『多分ふたりっきりになる時間なんかないだろうから、先に二人で天の川でも見ないか?』


という提案が上条からあったのだ。


普段が普段なだけに美琴はすこし驚いたが、それを上回る嬉しさのあまり、二つ返事で了承したのだ。

「・・・とりあえずたちっぱなしもなんだし、公園にでもいって、座って見るか。」


「そうね。そうしましょ。」



月と星が夜闇を照らす中を、二人は並んで歩いていく。


七月七日の夜。天に流れる大河を見つめて、二人は何を思うのだろうか。


大河の岸辺に佇むであろう牽牛と織女に、何を願うのだろうか。




              ―とある少年の猛烈恋慕その4―
               ~エイント・ノー・リバー・ワイド・イナフ~


「・・・本当はは旧暦の七夕のほうが天の川は見やすいらしいけど・・・晴れてよかったわね。」


「日ごろの行いのおかげかな。

流石にそんなところまで上条さんの不幸も対応してないようで。よかったよかった」


「またそんなこといってると、会場でなにがあるか分からないわよ?」


「うっ・・・痛いところを・・・」



とある公園のベンチに腰掛けて、二人は星を見ている。

他愛無い会話や、星座にまつわる話をしながら、ゆっくりと二人きりの時間を堪能していた。


「・・・で、あれが、琴座のベガ。織姫ね。」


「すると、あっちのが彦星の・・・えっと、鷲座のアルタイルか。」


「あら、アンタにしては冴えてるわね。
で、その二つに白鳥座のデネブを足して、それぞれを結んでできる三角形が・・・」


「夏の大三角だな。流石に上条さんもそのくらいは分かりますよ。」

ベンチに座って寄り添い夜空を見上げ、星々をつなぐように指でなぞる。


「・・・なぁ御坂。あれはなんか星座なのか?」


「え?どれどれ?」


「あの真上のやつ。あそこがあーなってさ」


空の頂点を指差して、くるくると指を回す。


「ああ、あれ?あれはね・・・・」


美琴が答えようと首を上げた、そのとき。

ゴキッ


「痛ッ!?」


「御坂!?どうした?」


「・・・首、痛めちゃったみたい。」


長時間見上げたままの姿勢で急に動けば、無理もない。

なみだ目になりながらうつむき、首の後ろあたりをさする。


「・・・・しょうがないな。」


「え?」


肩をつかまれ、ぐいっと引き倒される。


次の瞬間には、美琴は上条の膝を枕にして横になっていた。


「ちょ・・・!いきなりなにすんのよ!」


「いいからじっとしてろよ。いつかのお返しってことでさ。」



真っ赤になって抗議するが膝の上に寝たままの美琴を、上条は優しく撫でる。


星の輝きと一緒に、愛しい彼の優しい眼差しが美琴の目を射抜く。


その視線だけで、美琴のきもちはふわりと綻んでしまう。


「あ、ありがと。」


星の光を映してきらめく美琴の瞳が、上条を見上げる。

それだけで、顔が熱くなる。

目の前の少女が、たまらなくいとおしい。


「・・・どういたしまして。」


照れ隠しのそっけないやり取り。お互いの心のうちは手に取るように分かるのに。


「ふふ・・・」

「ははっ・・・」


それがおかしくて、笑ってしまう。
学園都市は、夜になってしまえば外を出歩く人間はほとんどいない。


二人に聞こえるのはお互いの声と息遣いと、茂みで鳴く虫の声だけ。


「・・・T~♪ n~♪ m~♪ h~♪ e~♪・・・」


ふと、美琴が歌いだす。


「A~♪ n~♪ l~♪」

「A~♪ n~♪ w~♪」

「T~♪ f~♪ g~♪」


二人の世界に、歌が響く。


「・・・・なんて言ったんだ?」

「秘密よ。知りたかったら補習常習犯から抜け出すことね。」


「・・・・それっ」


「きゃっ!」


急に手で目隠しをされ、あたりが見えなくなる。次の瞬間、額に熱いものを感じた。


目隠しが外されると、さきほどより近い位置に、上条の顔があった。


「・・・・・素直じゃないですな美琴たんは。」


「な、何の話よ!っていうか、い、いきなり何を―」


いいかけて、手で口を塞がれる。


「英語は分からないけど、御坂の考えてることは分かるぞ。」


「――俺だって、同じだよ。」


「天の川に阻まれるようなことがあっても、美琴を離さない。」


「ずっと、一緒にいたいって思ってる。」


上条はそう言って、もう一度美琴の額にキスをする。

美琴はうっすらと涙を浮かべながら優しく微笑み、上条の頬にキスを返す。

そして、腕を首の後ろへ回した。


「―――――いいのね?本当に離さないわよ?」


「今更何言ってんだよ。というか、こっちがはなしてやるもんか。」


「天の川にのまれちゃったらどうするのよ」


「泳ぎきってみせるさ。」


牽牛と織女は本分をわすれ恋におぼれた為に、天帝に天の川の対岸へと引き離されたという。


たとえば天帝が二人を見たとして、同じようにするだろうか?


きっと、しないだろう。


現実を知っているがために、恋におぼれきることが出来ない二人なのだから。


年に一度の逢瀬を許す慈悲が天帝にはあるのだから。


それにこの二人の前では天の川など、些細な障害に過ぎないはずだから。

「・・・・そろそろ行くか?」


「わかってるくせに。・・・もうすこし、このままでいさせて?」


「・・・ああ。」



川は、多くの場合障害として見られてきた。

しかし見方を変えるならば、水路、つまり道として見ることもできる。


この場にいる不幸な牽牛と、素直になれない織女ならば、そう見るだろう。



月夜になるたび、天の川に三日月の船を浮かべて、夜毎の逢瀬を重ねるだろう


年に一度なんてけち臭い話より、こちらのほうがよっぽどロマンチックだ。そうは思わないだろうか。


毎夜、星々の川の上を月の船で滑り、愛を育む。そんな欲張りな幻想があってもいいはずだ。


今は幻想でも、いつか現実に。


牽牛と織女に、そう祈ってもバチはあたらないはずだ。


今日は七月七日。人々が、星に願いをかける夜。



              ―とある少年の猛烈恋慕その4―
               ~エイント・ノー・リバー・ワイド・イナフ~     おわり。


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