とある魔術の禁書目録 自作ss保管庫

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匿名ユーザー

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(無題)




科学の街、学園都市を華やかに彩るイルミネーション。
肌寒さを吐き出す息で実感しつつ、今だ来ぬ待ち人へ想いを馳せる少女。

「す、すみません、佐天さん!」

背後から投げかけられる、飴玉を転がしたような甘い声色。
口元から吐き出される息は白く、乱れた頭の花飾りを慌てたように整えるもう一人の少女――初春飾利は、その友人佐天涙子へと謝罪の声を投げかける。

「初春ぅ、寒かったよ、凍えるかと思ったよぉ?」

わざとらしく身体を震わせる佐天を、申し訳なさそうに見ることしか出来ない初春。
赤色のマフラーを起点に、暖色を上手く組み合わせた佐天の立ち姿は中々絵になるもので、初春の眼からすれば十二分に温かそうな格好ではあった。

「うぅ、白井さんの猛攻から逃れるのに時間が……」

初春は未だに制服にコートを羽織っただけの、やや肌寒そうな格好である。
というのも、つい先ほどまで『風紀委員』の支部で勤務――もとい、同僚である白井黒子の悲痛な愚痴を聴く仕事――をしていたからではあるのだが。

「あー、白井さん、確かに今日は荒れてるかもねぇ」

頬を掻きながら、佐天が納得したような声を漏らす。
一年上の崇敬すべき先輩であり、最愛のルームメイトである"御坂美琴"に対する白井の熱情は、佐天も十二分に理解している所ではあった。
クリスマス・イブという、この国に生きる全ての乙女にとって重大なイベントであるその日に、何故白井が初春へ必要以上に絡んでくるのか。
その理由に足るだけのものを、佐天も、そして目の前で困ったような表情を浮かべる初春にも検討くらいは付いていたのだ。

「何せ御坂さん、今日の誘いを"断ってる"からね――これは、もう間違いないでしょ」

佐天の口元が吊り上がるのと同時に、初春の頬が赤く染まっていく。
イブの日に、友人の誘いを蹴ってまで達成すべき事柄とは――少なくとも彼女達、年頃の乙女達の間では、その理由は一つしか絞り切れない。

「"男"だねっ!」

往年の名探偵たるや、という顔で、佐天が人差し指を立てる。
初春はやや慌てたように所在なさげに視線を彷徨わせるものの、周囲には男女の連れが多く、余計に『美琴とそのお相手』のクリスマス・イブ・デートのシーンが想起されてしまうのか、尚もその顔を赤く染めたままで唸り声をあげていた。

「いやあ、御坂さん、ちょっと前から"怪しい"とは思ってたんだけど……まさかイブのこの日に、こうもあっさり先を越されるとは……」

佐天が拳を作りながら、初春へと目線を向ける。
『まだ早いと思ってたんだけどなぁ……』などと呟く佐天に、初春は頬を抑えながら反論した。

「でっ、でもまだそうときまった訳じゃ……」

口ではそういうものの、初春の頭の中には、既に見知らぬ『王子様』と御坂美琴とのデートが始まっている。
愛の言葉を囁かれる御坂は頬を染めながらも、その男に更に身を寄せていく。
そうして二人は、やがて……。

「うー、いー、はー、るー?」

目の前で佐天が手を振っていることに気が付いたのか、初春ははっとした表情を浮かべて、慌てたように『何ですか?』と口にする。

「もー、だからさ、御坂さんに"偶然出会ったら"どうしようかって言う話なんだけど」

悪戯そうな笑みを浮かべて、佐天はそう初春へと切り出していた。
こういう時の佐天は、何処か『直感』めいた確信を抱いているものだ――と、初春は溜息を洩らす。
つまり、佐天は『御坂美琴は、デートで必ずここに訪れるに違いない』と踏んでいるのだ。



「どうりでわざわざこんな所で集合を……」

露骨に溜息を洩らしながらも、内心では初春も期待に胸を膨らませていた。
あの学園都市第三位である御坂美琴を"射止めた"相手は、さぞかし理想の王子様然とした人間なのだろう。
こんな事を口にすれば、目の前の佐天には『初春は相変わらず乙女だねぇ……』などと言われるに違いない、と初春は小さく咳払いをして、妄想じみた思考を頭から追い出した。

「そんな事言っちゃって、初春も実は楽しみでしょ?
 あの『御坂美琴』を射止めた相手が、一体どんな人なのか、さ」

「そそそ、そんなことないですよ!」

心を読まれたかのような佐天の口振りに、思わず気が動転する初春。
そんな彼女の姿を見て、佐天は小さな笑い声を上げる。

「あたしには、何となく検討は付いてるんだけどね。
 多分お相手は――御坂さんの言う所の『アイツ』だと思うんだけど」

佐天の言葉に、初春も小さく頷く。
佐天が美琴をこの手の話題で突く度に登場する『アイツ』さんが、この近辺の何処かに居るかもしれない。
普段からそんな美琴のリアクションを目前にしていた二人にとって、今回の話は好奇心を満たすのには十分すぎる話題だった。
そして何よりも、

「友人の幸せを見て、あたし達も幸せな気持ちを分けて貰おうじゃないの、ねっ?」

という建前を掲げられると、初春も、むくむくと首をもたげる好奇心には逆らえなかった。

「そ、そうですね……"もし"出会ったら、ですけど」

消極的な賛成を繰り出す初春に満足したのか、佐天は『うんうん』と頷いている。
既に周囲には男女のカップルを初め、家族連れや、彼女達と同じ女性組――あるいは男性組も――で賑わいを見せている。
この人混みの中で御坂さんを探すのは、幾ら彼女が傍目から見て目立つとしても難しい。
ならばあくまでも、御坂美琴とエンカウントしてしまったならば、それは"偶然"であろう――そう、初春が結論付けたのと同時に、佐天が初春へと笑みを浮かべた。

「さて、それじゃあ……御坂さんを探しながら、その辺を歩きますか!」

佐天はそう言うと、初春の手をそっと手に取る。
ポケットへと収められていた佐天の手は暖かく、冷え切った初春の手を優しく包み込んでいく。
直接感じる温かさに、初春は自分の頬が熱くなるのを感じてしまう。

「……結局、御坂さんを探すんじゃないですか、もう」

あはは、と短く笑う佐天。
初春は一歩を大きく踏み出しながら、その佐天よりも前へ躍り出る。

「ちょっ、ちょっと初春、引っ張らないで! 後、手冷たい!」

初春に引かれるようにして、佐天の身体が前のめりになる。
自分から繋いできた癖に、なんて言い草だろう――初春はそんな事を思いながら自然、佐天へと笑みを向けていた。



*

「まさか、こんなに早く見つけてしまうとは……」

佐天の呟きに同意するように、初春も首を縦へと振った。
二人は、手を繋いでからわずか五分も経たないうちに、地下街の携帯ショップ前で落ち着き無さ気に立っている御坂美琴を発見してしまったのだった。
まさかこんなにも分かりやすい所に立っているとは思わず、佐天と初春は遠巻きに美琴の様子を伺っていたが、どうやら美琴がこちらに気づく気配は全くないようだった。

「御坂さん、全然こっちに気付いてないみたいですね」

初春の呟きに、佐天は短く返答を返す。
間に遮蔽物は無いものの、どうやら美琴の眼には佐天や初春は映っていない。
佐天が注意深く、美琴の仕草へと目を向ける。
カエル型の何時もの携帯を人睨みして、思い出したように顔をあげて忙しなく視線を動かすその仕草に――件の『アイツ』以外は目に映っていないのだろう――やや寂しい面持ちを感じながら、佐天は初春の手を引く。

「とにかく、そこのベンチに座って様子を見よう。
 幸いにも、御坂さんの待ち人はまだ来てないみたいだし」

二人が並んで腰を下ろしたベンチと美琴との間には、相変わらず遮蔽物はない。
だが地下道も相変わらずの人混みで、ベンチにも休憩がてらに語らう男女の姿が多く、地下道を流れる人も普段よりも遥かに多い。
今の美琴には、佐天や初春を視界に入れる余裕はないだろう――その佐天の判断に、初春も無言で頷く。

「しかし、御坂さん……挙動不審すぎますね……」

ベンチへと座る僅か一分ほどの間にも、美琴は携帯のディスプレイを睨みつけるように見つめながら、時折視線をせわしげに彷徨わせている。

「お相手、遅れてるのかなー。
 御坂さんを待たせるなんて、中々だよねぇ……」

怒りよりも寧ろ感心したと言わんばかりに、佐天がうんうんと頷く。
学園都市でも著名でありながら『美少女』と呼ぶに差し支えない容姿である御坂美琴――彼女の交際を望む男は、それほど山のように居るだろう――を、待たせているという事実。
美琴の方もやや怒りを顔に湛えてはいるものの、どちらかと言えば『本当に来るのだろうか』という心配をしているように佐天には見受けられた。

「確かに……大物なのかも知れません……」

初春も人混みの隙間から覗く美琴の様子に、佐天と同じ印象を受けていた。
相変わらず美琴は携帯を人睨みし、周囲へと視線を向けている。
見る人が見れば微笑ましいくらいに分かりやすいリアクションに、周囲の人たちも初々しい目を向けているのが伺える。
だが当の本人はまるで意に介せず、といった調子で、同じ動作を規則的に繰り返していた。



「ん……初春、あの男の人、そうじゃない?
 ほら、あの黒い髪を逆立ててる――今丁度、御坂さんの方へ小走りで近寄ってる人」

初春が佐天の指先を目で追うと、確かに、人混みに紛れるようにして学生服姿の、ツンツン頭の男の人が美琴の待つ携帯ショップへと向かっていた。
ただその姿は初春の想像していた『王子様』像とは異なるもので、初春は『うーん』と唸り声をあげる。

「おっ、あの人っぽいね――御坂さんも、どうやら気が付いたっぽいし……あ、怒ってる怒ってる」

人混みから抜け出したツンツン頭の少年へ、美琴は怒りを隠すことなく詰め寄っていく。
少年が慌てたように弁解の言葉を口にしている様子が、佐天や初春からも伺えた。

「うーん、御坂さん、デレデレだなぁ……」

「デレデレって……御坂さん、どう見ても怒ってませんか?」

佐天の感心したような声に、初春が素早く身を乗り出しながら反論する。
初春の眼には、どう見ても美琴が少年に対して怒りをぶつけているようにしか見えない。
だが佐天は『ちっちっちっ』と、指を振りながら初春へと向き直る。

「見たまえよ初春君……御坂さんのあの態度を。
 御坂さんをヤキモキさせた事にはちょっと怒ってるかも知れないけど……どうみても、あれは本気ではないね、うん」

言われてみれば、御坂さんも本当に怒っている訳ではなさそうだ、と初春は再度美琴へと目を向ける。
待たせた事に対する怒りはあっても、ある程度、彼が遅れて来ることに対して予想が立っていた――そう説明されれば、なるほどと頷ける程度の怒り具合なように思えるのだ。
その証拠に、少年の謝罪を受け入れたのか、御坂さんは不機嫌そうな顔で手を差し出している。

「みっ、御坂さん……いきなり攻めるなぁ、そう来るかぁ……!」

佐天の興奮したような声の後、少年がやや躊躇いがちに美琴の手を握る。
美琴の顔が傍目から見ても真っ赤に変わって、それでも顔を見られまいと美琴は少年から背を向ける様子が伺えた。

「御坂さん、ホントにベタ惚れじゃん――ああ、いいなあ、あたしも……」

「あっ、佐天さん、御坂さん移動しちゃいますよ!」

手を引っ張って歩きだす二人を捉えた初春が、急かすようにして佐天を揺さぶる。
先程のリアクションが効いたのか、どうやら初春も続きを"見たい"と感じたらしい――佐天の口元が、にやりと吊りあがる。

「お、初春もノってきたねー、そうじゃなくっちゃ!」

『ち、違います!』と反論する初春の手を引いて、佐天もまた、二人の後に続くように雑踏へと紛れていった。



*

「これは、完璧な『デート』だね。
 間違いない、まごう事無き男女の逢引だねっ」

興奮を抑えられないと言った調子で、佐天が傍らの初春へと捲し立てる。
初春もそれに言葉無く頷きながらも、目線はしっかりと先を歩く美琴と少年に向けられていた。
二人は未だに手をぎこちなく繋いだまま――それでも佐天の眼には、美琴がやや少年に近付いているのが分かったが――仲良く、楽しそうに歩いている。
時折伺える美琴の表情は明るいもので、ややそういった機敏に疎いと言われる初春でさえも理解できる程に、そういう顔を浮かべていた。

「ねえねえ初春、相手の男の人って、年上っぽいよね!」

「高校生……でしょうか、制服もそれっぽいですし……」

佐天の言葉に、初春も同意する。
美琴へと向けられる少年の顔は、確かに、やや緊張の色を含むものの、穏やかで優しげな表情を浮かべている。
少年も美琴との『デート』を満更でもない、と感じているからなのだろう。

「くぅ、高校生かぁ……結構便りがいありそうな感じだし、顔も……」

佐天が楽しそうな声をあげて、歩調をやや速める。
目の前を歩く美琴と少年は、何処を巡るか物色するかのように周囲の店へと目を向けていた。

「ショッピング……ですかね?」

初春の疑問に、佐天も考えるように顎に手を当てる。
この地下街に並ぶのは基本的にアクセサリーやファンシーショップなど、女性向けのお店ばかりだ。

「うーん、彼氏さんに何か買って貰うのかも……御坂さん、よくこの辺り来てそうだし」

だからこそ、佐天も初春の意見に同意する。

「なるほど……プレセント選びをしながら『デート』ですか、なるほどなるほど……」

しきりに感心したような初春を尻目に、佐天は大体の店の『アタリ』を付けていく。
美琴が好みそうなファンシーショップは目と鼻の先ではあるものの――ここまで来て、見失った、というのではお話にならない。
佐天の考えを知ってか知らずか、美琴が『あそこがいい』と言うように一軒の店を指差した。

「やっぱりここか――行くよ、初春!」

ふぇ、と気の抜けた声をあげる初春を引っ張るようにして、佐天は人波を割るように店の前へと歩き出す。
店の自動ドアが音も無く開いて、美琴と少年を中に招き入れる姿を確認しつつ、佐天と初春も何食わぬ顔で店内へと入り込む。



「うわぁ……可愛いですね……」

ウッドタイルとオレンジ色の優しげな照明が照らす店内を埋め尽くすファンシーグッズに、初春が驚きの声をあげている。

「御坂さん、やはり『クリスマスゲコ太』を彼氏さんに買わせるつもりだったか……」

読み通り、と言わんばかりの佐天の口振りに、初春が呆れたような目線を向けた。

「佐天さん……こんな時ばっかり準備が良いというか……」

「む、こんな時ばっかりとは、どういう意味かなー?」

軽口をぶつけながらも、佐天はレジ前を通り過ぎる美琴の姿を既に捉えていた。
彼女のシャンパンゴールドの髪は、遠目から見ても直ぐにそれと判別できる。

「ほらほら店内だから、見つからないようにしないと」

中型のテディーベアを掴みながら、佐天が目線だけで美琴と少年を追っていく。
店奥へ迷うことなく進む二人は、佐天の予測通り、ゲコ太コーナーへと辿り着いたようだった。

「佐天さん、やっぱり御坂さんは『ゲコ太』を……?」

花飾りを揺らしながら、初春が棚陰からそっと顔を出す。
奥のストラップコーナーには似たような目的のカップルが数名いるらしく、美琴と少年はその空間に入るのを躊躇うように立ち止っている。

「……あたしらから見れば、御坂さん達も違和感ゼロだよねぇ」

その機敏を察したのか、佐天がそんな愚痴にもつかない言葉を漏らす。
初春も漸く合点がいったのか『そうですねぇ……』と同意の声をあげていた。

「それにしても、その『クリスマスゲコ太』って、カップル限定商品なんでしょうか」

意を決したかのように互いにぎこちなく寄り添った美琴と少年を見やりながら、初春が疑問を口に出した。
ストラップを手にした一組のカップルがその様子を見やって、微笑ましげな顔を浮かべている。

「うーん、見た感じは……」

佐天の気の無い返事が途切れると同時に、美琴がストラップを手にして二人へと向き直ってくる。
目線は完全に手元に釘付けだが、このままでは自動的に鉢合わせになってしまうだろう。

「やばっ、初春!」

初春の手を引っ張って、棚の奥へと隠れるように移動しようとした佐天の肩が、不幸にも、棚へと衝突する。

「――!」

初春が咄嗟に手を伸ばすものの――連鎖的に崩れたテディーベアと縫い包みは無情にも、佐天の直ぐ横でバラバラと床へ落下した。
元々不安定に積まれていたのか、転がるようにして小さな縫い包みの一つが美琴と少年の方へと転がっていく。

「やばっ……」

慌てて転げた分を拾い集める佐天と初春は、転がった一つには気付かない。

そうして床に転がり出る縫い包みを拾い上げるのは、お人よしな何時もの少年。

「あのー、これも落ちましたよ」

少年からすれば、これは善意でも何でもない、習慣的な行動。
それ故に――佐天と初春は、少年の余りに自然な接近に気が付かなかった。

「あっ、どうもありがとうござい……まっ!?」

受け取った縫い包みを手に硬直する佐天に、少年は困惑の表情を浮かべる。
自分は何か彼女に失礼な事をしたのだろうか――それとも、自分の顔に何か付いているのだろうか。
見当違いな心配をしている少年へ、かけられる一つの声。

「ちょっとアンタ、待ちなさい……よ……って……」

表情豊かだった美琴の顔が、一瞬にして固まったように動かなくなる。
佐天の目線が傍らの初春に逃げるものの、初春もテディーベアを棚に戻した格好のまま動かない。

「……あのー、美琴さん?」

少年も何が何やら分からない、と言った調子で美琴へと顔を向けて来る。
見る間に真っ赤になる美琴が、つっかえながらも声をあげようと口を開きかけて、

「い、いやー、御坂さん、こんな所で会っちゃうなんて奇遇ですね!」

それに先んじるかのように、佐天が会話を切り出した。

「なっ……ななな、なんで佐天さんが……それに、うっ、初春さんまで……!」

あわあわという擬音が聞こえるような美琴の所作に、初春がバツの悪そうな顔で『すみません』と短く謝罪する。

「その……御坂さん達が偶然ここに入るのを見ちゃって、それでつい……」

流れるような佐天への追随。
佐天は内心で初春の黒さを再認識しながらも、困ったような表情を崩さない。

「いやー、それにしてもまさか御坂さんが『クリスマス・イブ・デート』だったなんて……彼氏さんに何を買って貰うんですか?」

ニヤニヤという擬音が聞こえるかのような佐天の笑みに、美琴の顔が更に赤く、トマトのように染まっていく。

「だだだだっ、誰がデートなんて!こっ、これは……そう、ストラップ、ストラップを買うための"フリ"で!」

「あれ、でも『彼氏』って所は否定しないんですか、参ったなぁ」

揚げ足を取るような佐天の返しに、真っ赤な顔であたふたとするばかりの美琴。
苦し紛れに少年へと目を向けた美琴だが、相変わらず、少年はとぼけた表情を浮かべたままで突っ立っている。



「ちょっ、ちょっとアンタも、アンタも何か言いなさいよ……!」

少年はやや困ったように『何を言えっていうんだよ……?』と小声で呟いた。
それを拾うかのように、佐天が更に追撃をかけて来る。

「あたし、佐天涙子っていいます。御坂さんの一個下で、よく御坂さんにお世話になってるんです」

「わ、私は初春飾利です。えっと、佐天さんの友達で……白井さんと御坂さんには、同じくお世話に……」

それを受けての自己紹介に逆らわず、少年も名前を告げる。

「そっか。俺は上条当麻っていいます。御坂とは……なんていうか、まあ、複雑な関係というか」

その歯切れの悪い答えに、佐天がワザとらしく『キャー』と小さな声を上げる。
初春も良からぬ想像をしたのか『ふぇぇぇ?!』と声を漏らしていた。

「やっぱり、御坂さんと今日はクリスマスデートを……?!」

ずい、と身を乗り出す佐天に押されて、少年、上条は気押されるようにして――やや恥ずかしそうに目線を逸らしながら――口を開いた。

「えっと……御坂からは、そう、聴いてるけど……」

決まりだ――佐天の口端が吊り上がる。
この二人はまだ『彼氏・彼女』の関係ではないが、故に、この先の展開がどうなるのかは分からない――その予想が固まった佐天が、満足そうに頷いた。
佐天の視線の先にいる美琴は顔を伏せるように立っているものの、耳の先まで真っ赤に染まっている。
それは佐天の隣の初春も同じなのだが、初春は佐天を突いて『あんまり邪魔しちゃ悪いですよ』と真っ赤な顔を向けていた。

「ホントはもっと突っ込んで聴きたいんですけど、これ以上の邪魔は野暮ですよね――御坂さん、今度、詳しく話を聞かせてくださいね!」

軽い会釈と共に、佐天が初春の手を引く。
慌てたように会釈をすると、初春もそれに従って店の出入り口へと歩いて行った。

「……み、みら、見られ……見られ、た」

――やっぱり、御坂さんと今日はクリスマスデートを?
――えっと、御坂からは、そう、聴いてるけど。

先程の会話が、美琴の頭の中で繰り返される。
目の前の少年は、このシチュエーションを、正しく『デート』だと理解していたのだ。
友人に見られた、という恥ずかしさと、上条が美琴との『デート』を認識していたという嬉しさが混じって、頭の中がスパークしそうになる。

「ちょっ、御坂さん、電気漏れてる!漏れてるって!」

慌てたように、上条は右手を美琴の頭へと伸ばして――美琴は、今度こそ完璧に、身体の力が抜けるのを感じた。


*

「御坂さん、あんなに顔真っ赤にして……可愛かったなぁ」

耳まで真っ赤にしていた美琴の姿を思い浮かべる度に、佐天は顔がにやけるのを止められないでいた。
相変わらずウブな彼女のことだ、あの後、互いに互いを意識してよりぎこちなくなる所まで想像して、佐天は思わず笑みを零した。

「もう、佐天さんってば……あんまり笑っちゃダメですよ!」

初春が窘めるように言うものの、佐天の笑みは止まらない。

「でも、良かったです。御坂さん――凄い、幸せそうで」

初春がぽつりと、そんな感想を漏らす。
幸せそうで――その意見には、佐天も同意せざるを得なかった。
だからこそ、この先、あの二人が上手くいってくれることをただ、佐天としては祈るしかない。

「御坂さんに彼氏が出来たら……白井さん、大丈夫かなぁ」

あはは、と初春が乾いた笑いを零す。
佐天はそんな初春へと向き直って、そっとその手を握った。

「よーし、それじゃあ、一人身同士――パーティーでも開こっか!」

息巻く佐天を、初春は呆けたような表情で見つめていたが、やがて。

「そう……ですね、それじゃあ、行きましょう!」

気を取り直したように、佐天の手を握り返す。

「何時か、あんな素敵な恋が出来るといいね!」

佐天の屈託の無い笑みに、初春はそっと、笑って答えた。







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