とある魔術の禁書目録 自作ss保管庫

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ラブラブドッキリ大作戦!! 前編




 学園都市にもクリスマスの季節がやってきた。

 今日は12月18日、真冬ともあってかなり冷え込んでいるが、数日後にクリスマスイヴ&クリスマスという一大イベントを控えているせいか人々のテンションは高めである。
 また街中はクリスマスツリーやきれいなイルミネーションで飾り付けされ、プレゼントを用意したりケーキを注文する人で溢れていた。
 それらを販売する店員もサンタクロースの格好をしており町はクリスマス一色だ。

 そして高校1年生になった御坂美琴もクリスマスイベントを楽しみにしている1人。

「今年のプレゼントはどうしようかなー。」

 防寒対策のため制服の上に厚めだが可愛いコートを着た美琴は小さくそうつぶやいた。

 高校1年生の冬、ということは初めて上条との出逢い、悪夢の実験、イギリスのクーデター、第3次世界大戦、そしてハワイへ行ってからもう2年が経過したということだ。
 2年経ったことで美琴自身変わったところといえば、身長が少し伸び、プロポーションが母親の美鈴並みになっていた。

 そしてもう一つ大きく変わったことと言えば上条との関係。
 美琴が中3の時に上条から告白され今では学園都市に名を馳せるラブラブカップルとなり、さらには上条と同じ高校に通っているのだ。
 そんな大好きな上条にクリスマスプレゼントを渡したいのは当然だが、付き合い始めてからは誕生日や記念日など何かあるとプレゼントを渡していたので最近はネタが尽きてきていた。

(手作りのマフラーは去年のクリスマスに、手編みのセーターは今年のいい夫婦の日(11月22日)にあげたのよね。お揃いのアクセサリー系は何度も渡してるし…何か良いものないかなー。)

 というわけで今日は上条へのプレゼントを買いにきているのだが中々良い物が見つからない。
 そもそもどんなプレゼントにするのかは一週間以上前から考えているのだが全く良い物が思いつかないのだ。
 
 で、これだけ美琴がプレゼントについて悩んでいる間上条は何をしているのかというと……残念ながら補習だった。
 一昨日の16日からクリスマスイヴまで毎日遅くまで補習があるらしい。
 
 ちなみに上条の成績だが、付き合い始めた頃は美琴が付きっきりで教えてきたため校内でもかなり上位になるなど誰もが驚く成長ぶりを見せていた。
 しかし最近は2人きりで勉強するとついいちゃいちゃしてしまい全くと言っていいほどはかどらなかったため、このままでは卒業が怪しいということで冬休み前からクリスマスイヴにかけて集中補習を受けることになったらしい。まあ一応大学には推薦で合格している。

 で、補習期間は勉強の邪魔をしてはならないということで上条には会わないと決めているのだが3日目にしてすでにキツい。
 上条に会いたくて会いたくて仕方が無い。

「会いたいなー……ってダメダメ!!邪魔しちゃダメなんだから。それにクリスマスまで後1週間だから早くプレゼントを用意しないと。後は…パーティの準備もしなきゃいけないし結構忙しいわね。」

 パーティの準備、というのは3年前から、つまり美琴が中学2年生の時から毎年開催されるクリスマスパーティのことだ。
 パーティの主催者は上条の友人の土御門元春……ではなく以外にも打ち止め。
 というか打ち止めが『クリスマスパーティをやりたいっ!』と3年前に言い出し、お願いされた一方通行が半ば強引に人を集めたのが開催されるきっかけで、今では毎年恒例の行事となっていた。
 まあ毎年恒例、と言っても今年で3回目だが。

 そして参加者はというととにかく様々。
 さすがに魔術サイドの人間は参加できないが学園都市内の知っている人に片っ端から声をかけ過去2年多くの人が参加していた。

 またこのパーティが開催されるため美琴はイヴに上条と2人っきりで過ごしたことはない。
 24日の夜にスタートし25日の昼頃まで騒ぎっぱなしなので、クリスマス当日は疲れきって2人で過ごす時間等ないに等しい。
 途中で抜け出そうにも上条が終始参加者に捕まりっぱなしなのでそれも不可能。ちなみに上条は必死に抜け出そうとしているのだが失敗に終わった。
 そんなわけで24、25日両方とも2人きりで過ごせないわけだが美琴は普段から上条と一緒にいられるし、みんなで過ごすことも楽しいのでさほど気にしてはいなかった。

(まあ2人で過ごしたくない、って言えばウソになるんだけどね。さ、もうちょっとプレゼント探そっと。)


 その後美琴は様々な店を回り1時間ほど上条に渡すプレゼントを探し続けた。
 服を見てみたり、お菓子を買おうかとも考えたが結局これといって良い物を見つけることはできなかった。

 長い時間探してきたため太陽は完全に沈み、街頭によりほんのりと照らされた帰り道を1人でとぼとぼ歩いていた。
 暗くなるということは寒さが増すということで、美琴の吐くため息は白い息となって空中に消える。

「う~ん…やっぱり何か作ろうかな…でも時間もないし……あーどうしよ!!」

 プレゼントを考え用意する時間もなく、上条をがっかりさせてしまったらどうしようという焦りから思わず声が出てしまった。ちなみに辺りに人気は無い。
 しかし叫んでも問題が何も解決しないことくらいわかるので、美琴はまたため息をついてから自分の寮へと向かう。

 今美琴が住んでいる寮は学校から紹介してもらったワンルームマンションの一室なのだが、美琴は上条が好き過ぎるあまり普段は週6で上条の寮に泊まり込んでおり自分の寮に帰ってくることは1週間に1回帰れば多いほうだ。
 しかし上条が補習のため今週寮に帰るのは今日で3回目、こんなに自分の寮にいるのって久しぶりだなー、とか考えていると

「あれー?御坂さんじゃありませんかー。」
「ッ!!?」

 ふいに前方から声が聞こえた、がその場所にはちょうど街頭がなく真っ暗の暗闇のため誰がいるのかわからない。
 かと思いきや…

「こ、小萌先生ですか…びっくりしたー…驚かさないでくださいよ。」
「いやセンセーは驚かそうと思ったわけではありませんよー?」

 暗闇の中から現れたのは上条や美琴の学校の教師である月詠小萌。
 身長わずか135センチあまりの彼女は特注らしいピンク色のコートに身を包み、買い物の帰りらしく手には買い物袋を持っていた。
 
 美琴は急に声をかけられたことで一瞬びっくりするも、声で相手が小萌先生だとすぐにわかっていたのだ。

「それに驚かされたのは先生のほうですよ?いきなり道ばたで叫び声がしたので何かと思えばうちに学校の生徒さんだったのですからびっくりしたのですよ。」
「う…」

 小萌先生の的確なツッコミに返す言葉もなかった。
 というか叫び声を聞かれていたということがわかりかなり恥ずかしかった。

「それでどうしたのですかー?やっぱり上条ちゃんのことで悩んでいるのですか?」
「は、はいその通りです。クリスマスプレゼントをどうしようかと思いまして…パーティの準備もあるから今から何か作るのは時間がなくて…」

 美琴はまたまたため息をついた。それぐらい思い詰めているのだ。
 そんな美琴を見た小萌先生が

「…それならせんせーにいい考えがあるのですよ!」
「いい考え!?それって何ですか!?」」

 美琴は小萌先生の言葉に食いついた。
 本来なら自分で決めた物を上条に渡すのが一番だが、今回は期限が一週間ということとパーティの準備で忙しいこともありそうも言っていられない。
 すると小萌は自信満々な様子で

「それはですね…上条ちゃんにドッキリを仕掛けるのです!!」
「……え?ドッキリ…?」

 何か良いプレゼントを紹介してくれるのだと考えていた美琴だが、全く違うことを言われ少し困惑した様子を見せる。
 一体ドッキリがなぜプレゼントになるのか、そもそもドッキリってプレゼントととして成立するの?とか疑問しか生まれなかった。

「えーと…それは一体?」
「簡単なことですよ。上条ちゃんには内緒でイヴに2人きりで過ごす場をプレゼントするのですよ!!」
「ッ!!」

 またしても想像と全く違うことを言われたのだが、小萌の提案は美琴の心を的確にとらえていた。


「2人きりでイヴを……それいいですね!!」
「でもドッキリだけじゃありませんよ?御坂さんが手料理を振るまい、ちょっとした物をプレゼントすること全て合わせてクリスマスプレゼントということなのです。」
「なるほど……あ、でもそれだと打ち止めのパーティに参加しないってことになりますしみんなに悪いような…それに当麻だってみんなと過ごしたいかもしれませんし…」
「それなら気にしなくても大丈夫です!パーティに参加する皆さんにはセンセーの方から話しておきますから。それに上条ちゃんも彼女さんと一緒に過ごせるのだから嬉しいに決まっているのですよ!というか一度上条ちゃんと2人でクリスマスイヴを過ごすところを想像してみてください。」
「当麻とクリスマスイヴに2人きり…」

 小萌先生の言葉を聞いた美琴は実際に想像してみる。

 イヴの夜。
 部屋にいるのは美琴と上条の2人だけ。
 おいしい料理とケーキを食べ終わりとてもいい雰囲気。
 ソファに座りながら上条に寄り添いロマンチックな夜景を眺める。
 そして2人は―――

「御坂さん大丈夫ですかー?顔が真っ赤ですよ?」
「え、と、ま、まあ大丈夫です…」
「大丈夫ならいいですけど…それでどうするのですか?もしドッキリを仕掛けるのなら私も協力するのですよー!!」
「……えーと……お、お願いします…」

 こうして今年のクリスマスイヴには上条にドッキリ大作戦を行うことが決定した。


 ♢ ♢ ♢


 ドッキリ大作戦を行うと決めた翌日から美琴は大忙し。
 ドッキリを仕掛けるための場所を探したり、どんな料理にするのか考えたり、小萌先生の知らない人には自ら上条へドッキリを行うことを伝えなければないし、何よりイヴ当日に上手く上条へのドッキリを成功させるために打ち止めのパーティ参加者たちと入念な打ち合わせを行う必要があった。

 とりあえず普段あまり会わない人にはメールで作戦のことを伝え、身近な友人には直接伝えることにした。
 そんなわけで美琴が訪れたのは風紀委員の第177支部。

「―――ってわけで当麻にドッキリを仕掛けることにしたの。だからパーティには出席できないからごめんね。」
「いやいや気にしないでくださいよ!ね?佐天さん?」
「そうですよ!上条さんと2人で楽しんじゃってください!!」
 
 快く応援してくれているのは美琴の長年の友人である初春飾利と佐天涙子。
 中学3年に進級している2人は2年前と比べて身長も伸び大人っぽくなっている。
 しかし本日第177支部にいるのは初春と佐天だけではない。

「ドッキリって面白そうね。上条さんも喜びそうだし面白いプレゼントね。」
「頑張ってくださいね御坂様!」
「私たちにも協力できることがあればなんでもおっしゃってください!」
「まあわたくしがお手伝いすれば成功は間違い無しですわね。」
「協力するのー。」

 第177支部に友人大集合。
 固法は風紀委員第177支部所属なのでこの場にいても全くおかしくないのだが、風紀委員と関係のない湾内、泡浮、婚后、春上が支部にいることは珍しい。
 この日たまたま遊びに来ているらしく、一度にドッキリのことを伝えられてラッキー!、とか美琴は思った。

「みんなありがとね!!よーし!今日から1週間準備頑張らなくちゃ!!」
「……お姉様。」

 みんなに応援してもらえたことで喜んでいると視界の外から声がした。
 美琴を『お姉様』と呼ぶのは妹達と後輩の白井黒子のみ、そして今美琴を呼んだのは当然黒子である。
 黒子は今までイスに座りながら紅茶を飲み、黙って美琴の話を聞いていたので初の会話参加となった。

「パーティに参加できないのはよろしいのですが…ドッキリだけではあまりいいプレゼントとは言えませんわね。インパクトに欠けると言いますか…」
「え?そ、そう?」

 黒子は紅茶の入っているティーカップを机の上に置き美琴を見る。
 当然黒子も2学年進級し現在では常盤台中学3年となっているのだが、初春や佐天と違い2年経ってもあまり変わっていなかった。
 若干だが身長は伸びた。ほんとに少し。

 唯一大きく変わったところと言えば、美琴と上条の関係を壊そうとするどころか応援してくれる強い味方になっていることだ。
 2人が付き合い始めた当初は猛反発し幾多と上条を抹殺しようとしていたのだが、次第に美琴の幸せな顔が見られるのならば上条と付き合ってもいいと考えが変化したのだ。



「今のお話を聞く限り上条さんにドッキリを仕掛けるのはいいのですが…手料理を振る舞うことは日常茶飯事ですし簡単なプレゼントだっていつも渡しているでしょう?」
「う…言われてみれば…」

 黒子に指摘された美琴はドキリとした。
 小萌からナイスなドッキリ大作戦の提案があり、上条を喜ばすことができると思い浮かれていたので細かいことまでは考えていなかった。
 
「ど、どうしよ…何か良い案は…」
「落ち着いてくださいなお姉様、何も策がないとは言っていませんわ。工夫すればよいのですから。」
「工夫?」

 何か良い案を持ってますよオーラを醸し出している黒子に一同の視線が集まる。
 さらに美琴は座っている黒子に近づき
 
「工夫って何よ?隠し味とか?」
「まあ隠し味もいいですがやはり普段とは違う手料理を作ってはいかがですか?お姉様、様々な国の料理のフルコースを授業で習いましたわよね?」
「あ!習った習った!そうか…時間もかかるし普段は作らないけどクリスマスだから特別ってことで作れば…」
「そういうことですわ。でも2人で食事をしなければいけないわけですから作り置きしなければいけませんわよ?」
「あ、そうか…それもちょっと工夫しないといけないわね。」

 美琴はレンジで暖めると味が落ちるからダメよね、と独り言をつぶやいた。

「お姉様、残念ですがわたくしと初春と固法先輩はこれから風紀委員の仕事がありますのでここで失礼します。」
「あ、うん。黒子、いろいろとありがとね。すっごい助かったわ。」
「いえいえ。かまいませんわ。私はお姉様の笑顔が見られればよいのですから。それでは失礼しますわ。」

 黒子は恐ろしいくらい協力的だった。
 が、部屋から出て行く瞬間

「まあお姉様が悲しむようなことがあればあの方を全身全霊込めてぶっ殺しますけどね。」


 ♢ ♢ ♢


 美琴が黒子からアドバイスをもらってから1時間後、雲一つなくよく晴れた空の元を美琴は一人で歩いていた。 
 友人達だが、婚后、泡浮、湾内はこれから出かける約束を、佐天はアケミら友人と遊ぶ約束を、春上は『絆理ちゃんと遊ぶ約束してるのー』とか言い、みんなそれぞれ用事あるらしく第177支部から出た時に別れたのだ。

 その後食材の下見を済ませ、今現在はドッキリを行う場所を探していた。

「う~ん…以外と見つからないわね。」

 上条に悟られない場所という条件はなかり厳しく、今のところ見つかる気配がない。
 第7学区内には良い場所が無いのかと考え、他の学区へ移動を検討している美琴の元へ1人の少年がやってきた。

「あ、いたいた。おーい!」
「え?あ、半蔵さん。こんにちは。」

 道の向かいからやってきたのは上条の戦友である服部半蔵、今日も元気にいつもと変わらない忍者っぽい格好をしている。
 だが普段は上条に会いにくるならともかく、美琴に会いにくるなんてことはまずないため、一体何なんだろうか、もしかして当麻に何かあったのではないか、と瞬時にマイナス思考に走る。

「あの…“いたいた”って私を探していたんですか?」
「ああ、上条にドッキリを仕掛けるって浜面から聞いてさ。是非とも協力しようと思って探してたんだよ。」
「協力…ですか?ていうかもう知ってるんだ…」

 かなり以外な半蔵からの手助けの申し出、とりあえず上条に危険が迫っているわけではないので美琴は一安心する。

「まず一つ聞きたいんだけどさ、ドッキリを仕掛けるための場所ってどうするつもりなんだ?」
「あー…場所…ですか。まだ決めてませんね。個室サロンでも借りようかと最初は考えたんですけど問題があって…」
「問題っていうのは個室サロンだと当日案内するときに上条に怪しまれるってことか?」
「…その通りです。それに飾り付けする場合は個室サロンを何日も借り続ける必要もあるから無理なんですよ。だから今考え中ってとこですね。」

 そんな美琴の言葉を聞いた半蔵はニヤリと笑みを浮かべる。

「じゃあさ、俺の隠れ家を使わないか?」
「隠れ家?」

 隠れ家、というのは半蔵が学園都市内の至る所に大量に所有している住処である。
 段ボールハウスから高級マンションまで様々な隠れ家が存在し、そのことは上条を通じて美琴も知っており実際そのうちのいくつかに足を運んだこともある。



「いいんですか?」
「もちろんさ。それでどんな隠れ家がいいかいろいろ考えたんだけどマンションの一室なんてどうだ?キッチンがあるから料理もできるし、当日上条には一度打ち止めのパーティに来てもらってそこで『パーティに必要な物を忘れたから取ってきてくれ』とか俺が言えば大丈夫だろ?」

 名案である。
 半蔵の考えならば確かに上条に怪しまれないでドッキリ大作戦を成功させることができるだろう。

「じゃあお言葉に甘えてお願いします!」
「よし任せとけっ!じゃ、早速今から下見に行くか。」

 こうして美琴は半蔵が所有するマンションの一室へと向かった―――


 ♢ ♢ ♢

 
 それから1時間後、半蔵の隠れ家の1つであるマンションの一室を見せてもらい終わっていた。

 半蔵が紹介してくれたマンションは大通りに位置し、7階の部屋だった。
 また2LDKの広々とした部屋で、最近郭が持ってきたらしいソファや机などの家具が置かれており美琴と上条の2人でパーティをするのには丁度いい。

 唯一の欠点と言えば外の景色。
 マンションは大通りにあるため道を挟んだ向かいには大きなビルがそびえ立っており、決して景色が良いとは言えない。
 だがドッキリ大作戦決行時は夜なのでカーテンを閉めるしそこまで気にならないはずだ。
 よって特に問題がないため美琴はこの部屋を気に入り、ここで上条へのドッキリを行うことを速攻で決定した。

 そんなこんなで部屋を見終わりマンションから出てきたのだが、美琴と一緒に出てきたのは半蔵だけではない。
 一緒に出てきたのは茶髪でコートを着た少年と、ピンク色のジャージにもこもこの上着を着た少女の2人。

「いやーほんとびっくりしたぞ。いきなり入ってくるんだもん。」
「だもんじゃねーよ!!俺の許可無く勝手に隠れ家に入るんじゃねー浜面!!それから滝壺も!」
「だってさ、はまづら。」

 つまりどういうことかというと半蔵が美琴に紹介したマンションに先客がおり、その先客というのが半蔵や上条の友人である浜面仕上とその彼女の滝壺理后で、この2人が室内でいちゃついていたのだ。

 半蔵は勝手に隠れ家に入った2人に厳重注意。  
 注意を受けた浜面と滝壺は特に反省した様子もなく去って行った。 

「全くあいつらは……まあちょっと予想外のこともあったけどドッキリ実行場所はここでいいんだよな?」
「はいもちろんです!!」
「じゃあ今日からでも使ってくれ。あ、これ部屋のカギな。」

 半蔵から部屋のカギを渡され美琴のやる気はさらに上昇、絶対に上条を喜ばしてやろうという想いが強くなった。

「じゃあ俺ももう行くよ。当日は上手くいくといいな!」
「はい!ありがとうございました!!」

 片手を振って去って行く半蔵に美琴は深々とお辞儀をして見送った。

「よ~し!ドッキリを仕掛ける場所は決まったし後は…料理の練習しなきゃいけないから材料を買って……あ、その前に当麻の部屋から調理器具持って来なきゃ。」

 今のところ全てが上手く物事が進み、ご機嫌の美琴は上条の寮へと向かう。
 調理器具は美琴の寮にも一応あるのだが、上条の部屋で料理することのが圧倒的に多いため高価な調理器具は上条の寮に置いてあるのだ。
 もちろんそれは美琴が持ってきたものなので上条の調理器具もあり、美琴が持ち出したところで上条が困ることは無い。

 そして数十分後、美琴は上条の寮へと到着。
 エレベーターを使い上条の部屋がある階まで上がり部屋の前にたどり着いた。
 時間的に上条の補習は終わってるいるのでもしかして帰ってきてるのでは、と思っていたが部屋にはカギがかかっていることからまだ帰ってきていないとわかった。

「ま、まあ補習が終わるまで会わないって決めてるんだから別にいいんだけどね!」

 ただの強がりである。

 上条がいないのならば早く部屋から調理器具を持って帰ろうと思い、バックから部屋の合鍵を取り出そうとしたのだが

「あ、あれ?……ウソ!ない、鍵が無い!!」

 カギが無い、いつも上条の部屋の合鍵をしまってあるはずのカバンのポッケに入っているはずの部屋の合鍵が入っていなのだ。
 とてもとても大切な物なので絶対になくさないようカギには大きめのゲコ太キーホルダーをつけてあるのだが、カバンには自分の寮のカギと半蔵から受け取ったカギしかない。

 ぶっちゃけると美琴の能力さえあれば部屋には入ることができるのだが、彼氏の部屋にそんな物騒な方法で入りたくない。
 
「ど、どうしよう…もし無くしたって当麻にバレたら大事にしてなかったって思われちゃう…」


 暗くなり外に出る人が少なくなったためか風の以外の音が聞こえることはなく、その静かな状況が余計に美琴を焦らせる。
 カギを無くしたと上条に言っても嫌われることは絶対にないとわかっているが、『大事にしていなかった』と思われることは絶対に嫌だ。
 
 と、すぐ側で静かにエレベーターの扉が開く音がした。
 まさか、と思い振り返りエレベーターから出てくる人を確認してみると

「あれ?美琴?どうしたんだよ部屋に入らないで。」

 愛しの彼、上条当麻だった。
 高校3年生になった上条は2年前より体つきがしっかりとし、身長も175センチくらいまで伸びていた。
 温かそうなコートを着て、昨年のクリスマスに美琴がプレゼントしたマフラーを首に巻いた上条は美琴に会えたことが余程嬉しいのか笑顔でこちらへ走ってきた。
 美琴もクリスマスイヴまで会えないと思っていたので嬉しいことは嬉しいのだが、カギを無くしたとあって複雑な心境だ。

「あ、いや、その…わ、私も今来たとことなのよ。」
「そうなのか?だったらいいんだけどさ。」

 そして上条はコートのポケットから自分のカギを取り出し部屋のカギをを開けた。
 何気ない動作だったが、美琴にはいつもと違うと感じられた。

「んー……あ!カギってカバンに入れてたんじゃないの?なんで今日はポケット?」
「あー…実はカバンの角に穴空いちゃってさ。カギとか入れとくと俺の不幸体質で落ちそうだからポケットに入れてあるんだ。」

 どうだ名案だろ、と上条にドヤ顔をされた。
 美琴はポケットに入れておいたほうが落としやすいんじゃないの?と思ったが言わないことにした。
 そんなことを考えている間に上条はドアを開けていた。

「ほら、早く入ろうぜ。」
「う、うん。」
 
 2人で部屋に入るときは上条がレディーファーストを心がけているため必ず美琴が先に入っている。
 そして靴を脱ぎきれいに揃え、部屋に上がり脱いだコートをたたもうとしていると

「わ…」
「会いたかったぞ、美琴。」

 とか言ってる上条に後ろから抱きしめられていた。
 まだ電気もつけていない真っ暗で静かな室内に2人きり、今美琴に聞こえているのは上条の呼吸音と鼓動だけだ。
 
「ちょっといきなり……ていうか私に会いたかったんだ…えへへ…」
「そりゃ今日会えなかったら3日目だったからな。ていうか美琴は俺に会いにきたんじゃないのか?」
「!!う、うん。私も会いたくなって…」

 上条からの質問に美琴は詰まりながらそう答えた。
 調理器具を取りにきた、と素直に答え『なんで?』と聞かれるとまた面倒くさいことになる可能性があるため『会いたかった』と言ったが、これは別にウソではない。
 実際上条に会いたくて会いたくて仕方が無かったのだから。

「やっぱりか~……っておい美琴、お前かなり冷えてるな。よし上条さんが暖めてあげよう。」

 そして美琴は上条にさらにギュッと強く抱きしめられた。
 こうやって2人でいちゃいちゃすることは今となっては日常茶飯事、しかしここ2日ばかり会えていなかったためいつも以上に幸せを感じられる。

「えへへー。もっと暖めて暖めてー♪」
「まっかせない!まったくこんなに冷えちゃって…それで美琴。」
「?何、当麻?」
「お前俺に何か隠してるだろ。」
「っ!!」

 美琴の体がビクッと動く。
 それはほんの一瞬、ほんのわずかだったが美琴を強く抱きしめている上条にははっきりと伝わっていた。

「やっぱりな…美琴の考えてることはなんでもわかるんだから。ほら白状しなさい。」
「え、えーと…」

 バレた。
 せっかく今日1日みんなに協力してもらい、上条へのドッキリを仕掛けるスタートラインに立ったというのに早くもバレてしまった。
 さすがにショックが大きく、美琴は黙り込んでしまった。

「言わないのか?言わないのなら上条さんがが言い当てちゃうぞ?」

 そして上条は美琴の耳元で  

「美琴……無くしただろ。」
「……え?」
「いやだからこの部屋の鍵無くしただろ。さっきの外で必死になってバックの中を探してる様子見てすぐわかったよ。」


 美琴は思った。
 先ほどバッグの中を調べているところを見られていてよかったと。

 が、まだ安心はできない。
 ドッキリについてはバレていないとわかったが、カギを無くしてしまったことについては早急に説明しなくれはならない。
 抱きしめられている状態でなんとか後ろの上条の顔を見ようと思い、美琴は顔だけ振り向き

「そ、そうなのよ。鍵無くしちゃって…でも雑に扱ってたわけじゃないのよ!?すっごく大切に持ってたんだけどどこかで落としたみたいで…」

 なんとしてでも上条に『カギを大事にしていなかった』と思われないように必死に無くしてしまった経緯を説明、美琴の心臓はバックバクだ。

 問題の恋人上条の反応は―――

「そんなことくらいわかってるって。大事にしてても無くすことくらい誰にでもあるさ。」
「ほ、ほんとにそう思ってる?大事にしてなったんだなー、とか思ってない?」
「思ってない思ってない。ていうか不安そうな美琴も可愛いなー。」
「可愛い……えへへ…」

 『カギを大事にしていなかった』と思われるどころか可愛いと言われ、改めて上条の優しさを感じる美琴だった。
 
「でもカギがないと不便だろうから明日複製しに鍵屋へ行ってくるよ。ちょうど青ピが補習の後に自転車の鍵を作りに行くからついてきてくれって言ってたしな。」
「え、いや私が無くしたんだから私が行くわよ。」
「いいよ、カギ屋にはどうせ行く予定だったんだし。まあできるのはクリスマスくらいだと思うけど…それより今日はもちろん泊まってくだろ?」
「え、今日!?今日はちょっと…」
「ダメなのか…?」

 誘いは嬉しいが今日は料理の練習がしたい。
 しかし料理の練習をしたいと上条に言うということはドッキリがバレる可能性がかなり高いので言うわけにはいかない。
 だから美琴は泊まりたい気持ちを必死に抑えながら、何か言い訳を考える。

「その……ほら!明日も補習なんでしょ?予習とか今日の復習とかしないとダメじゃない。」
「そんなこと気にするなよ。勉強より美琴と一緒にいることのほうが大切に決まってるだろ?だから泊まってけって。」
「えーと……でも毎日泊まらせてもらうのは悪いっていうか…」
「毎日泊まらせてもらうのが悪いって、ここ数日は俺の補習が忙しくて泊まってなかったじゃないか。」
「ま、まあそうなんだけどさ…」
「じゃ、いいじゃん。明日からはまた会えないんだろうし今日くらいは2人でゆっくりしようぜ。な?」
「……えと……ぅん…」
 
 美琴は小さくうなずいた。
 上条のために料理の練習をしたかったが、後ろからギュッと抱きしめられながら説得され続けたら断れるわけがないのだ。

(うん、料理の練習も他のドッキリの準備も明日から頑張ればよし!今日は久しぶりに2人で過ごそっと♪)

 最早美琴も完全に上条と一緒に過ごすモード。
 美琴にとっても上条にとっても、お互い一緒にいることが最上の幸せなのだ。
 こうしてこの日美琴は上条と甘く幸せな1日を過ごすこととなった。

 このように上条との幸せな生活を堪能しつつ、ドッキリをどうするべきかと考えている平和な状況からは想像もできなかった。
 ドッキリ決行当日にあんなことが起きるなんて―――――











ラブラブドッキリ大作戦!! 中編




 ついに迎えたクリスマスイヴ当日。
 この日も気温は低いながらもよく晴れ、大雪のためドッキリやパーティが急遽中止なんてこともなさそうである。

「ついに今日の夜…か。雪降らないかな…」

 クリスマスイヴともあって騒がしい街中で美琴はぽつりとつぶやいた。
 この日のために1週間念入りに準備を重ねてきた。
 自分の寮で上条にごちそうするための料理を何度も練習し、黒子や初春や佐天といった昔からの友人たちに手伝ってもらい半蔵に借りた部屋の飾り付けをして、それらが上条にバレないよう細心の注意を払ってきた。
 
 そして今日は最後、残すドッキリの準備はクリスマスツリーの飾り付けと料理の下準備を残すだけだ。
 しかし黒子ら友人達にはこの1週間かなり長い時間手伝ってもらっていたので、朝から呼ぶのは悪いと思い今日は午後から来て、と言ってある。
 とはいえ午後だけでは終わるとは限らないため今日は別の友人達5名に手伝ってもらうことになっており、今はそのメンバーと共にマンションへ向かっている途中だった。
 その友人5人とは…

「う~ん、でもこの空の様子じゃどホワイトクリスマスにはなりそうにもないわね。」
 
 まず1人目、左隣を歩く美琴の言葉に反応したのは上条のクラスメイトである、吹寄制理。
 2年時も3年時も上条と同じクラスだったのだが、受かった大学は上条より数ランク上らしい。
 また美琴と上条が付き合い始めたころに『吹寄も上条のことを好きだったのでは?』という噂が広がったが、後に吹寄から直接『応援するわ』と言われ今ではよき相談相手となっていた。

 そんな吹寄の右隣を歩いているのは

「まあ超いいじゃないですか。雪が積もったら積もったでいろいろ大変ですし。」
 
 『アイテム』の一員である絹旗最愛。
 かつては暗部として活躍していた絹旗もこの2年で普通に過ごすことが多くなり、友人もかなり増えていた。
 が、2年経ってもB級映画好きは相変わらずで友人たちに話し始めると止まらないところが困りどころだ。

 すると絹旗の後ろ歩いていた髪の長い少女が言う。

「でも去年は雪が積もったからみんなで遊べた。私としては降ってほしい。」
 
 絹旗に反論したのは上条のクラスメイトその2、姫神愛沙。
 吹寄と同じく姫神も2、3年両方上条と同じクラスで、吹寄と同じ大学への進学を決めていた。
 また姫神が上条のことを好きだったことは美琴も知っており、今では美琴と上条の仲を応援してくれる1人となっている。
 
 姫神の隣を歩くのは美琴に似た少女。

「ミサカも降ってほしいかなー。そのほうがいたずらとかいろいろ面白いことできるから☆」

 などと悪巧みするのは『妹達』の末妹の番外個体。
 他のメンバーと違い外見など2年経っても特に変わりはない。
 また今でも黄泉川のマンションに一方通行や打ち止めと共に暮らしている。

 そして最後の1人は白い修道服を着たこの人。

「私ももちろん降ってほしいんだよ!!シロップさえ持ってこればただでかき氷食べ放題だからねっ!」

 と、食欲全快な発言をしたのはイギリス清教所属の大食いシスターで上条の元同居人、インデックス。
 2年経ったことで少し大人びた彼女だが、大食いのところなど性格は特に変わっていない。
 美琴と上条が付き合い始めたことで上条との同居生活に終止符を打ったのだが、それ以降も学園都市に住み続け現在も姫神と同居しており、吹寄や姫神と同様に美琴の良き友人だ。
 
 以上個性的な?5人の友人(一人は身内)に美琴を加えた6名が上条にドッキリを仕掛けるマンションの一室へと向かっていた。
 本当は今日まで打ち止めのパーティの準備がある予定だったのだが昨日までに終わったため、急遽ドッキリの準備を手伝ってくれるようになったのだ。
 
 現在の時刻は午前10時、一般人からすれば可愛い子揃いのため美琴はたちは注目を浴びていたが気にも留めず、今は『雪に降ってほしいかどうか』という話題でわいわいと騒いでいた。

「やっぱみんな降ってほしいわよね。まあインデックスはちょっとおかしいけど…」
「な、なんでなのかな!?雪が降ったらシロップをかけてかき氷みたいに食べたいと思うのは当然だと思うんだよ!」
「いや当然じゃないでしょ。さすがのミサカでもその考えはないわ……あ、今度降ったら第一位に食わせてやろ☆」 
「ていうか降ってほしくない私は超小数派ですか…そういえば御坂はなんで降ってほしいのですか?」

 と、ここでこの話題の元となる発言をした美琴に絹旗が質問をしてきた。


「え…そ、そりゃ姫神さんが言ったようにみんなで遊べるからよ。」

 本音を隠すのために話し始める時ほんの少し言葉に詰まってしまった。
 『本音』、美琴が雪に降ってほしい理由はもちろん上条とロマンティックなひとときを過ごしたいからである。
 そのことを素直に言ってからかわれても別にいいのだが、今この場には番外個体がいる。
 悪意の固まりである彼女に知られると誇張に誇張を重ねられありとあらゆる人に言いふらされること間違いない。

(よ、よし…感づかれてないっぽいわね。)

 うまくごまかせたかと思ったのだが、やはり番外個体はそこまで甘くなかった。 

「ふーんそうなんだー。ミサカてっきり雪が降ることにでお義兄様といい雰囲気になっていちゃいちゃエロエロなことしたいからかと思ってたんだけど☆」
「ッ!!?」

 番外個体による痛恨の一撃。
 いちゃいちゃまではよくてもエロエロには対応していない美琴はわかりやすく反応してしまった。

「ち、違うわよ!?そんなこと思ってないんだから!!ってなんでみんな『絶対その通りだろ』みたいな雰囲気になってるんですか!?」

 姫神たちが年上のため敬語で反論するも、周りの友人達は笑みを浮かべながら『うわ~そんなこと考えてたんだ~』みたいなかんじで見られてしまっている。
 美琴は『違う違う~!』と言いながら可愛らしく反論するも、顔が赤くなっていることをさらにからかわれてしまった。
 上条と付き合い始めてからはこういったようにからかわれることが多い美琴だった。


 ◇ ◇ ◇

 
 美琴いじりが加熱しているうちに半蔵の隠れがであるマンション前に到着。
 それほど長い距離ではなかったはずだがいじられ続けた美琴にはかなり長い道のりに感じられ、飾り付けを行う前にかなり疲れていた。

「もうヤダ…みんな私のことからかいすぎよ…」
「だってお姉様ってからかいがいがあるからしょうがない。」
「しょうがないんだよ。」
「しょうがないわね。」
「超しょうがないですね。」
「うん。しょうがない。」

 美琴は涙目になった。
 そんな美琴をさらにからかったりなだめたりしながら6人はエレベーターを使い、借りている部屋がある7階へ上がったのだが
 
「ん…?」

 と、ここで美琴はあることに気がついた。
 おかしい。
 部屋の中から気配がする。

「御坂さん。どうかした?」

 すぐ隣を歩いていた姫神は美琴の異変に気づいたらしい。
 心配そうな様子で美琴を見ていた。

「いや……半蔵さんから借りてる部屋に誰かいるみたい。4…いや5人ね。半蔵さんは今日用事があるって言ってからいないはずだし、黒子たちもまだ来てないはずなんだけど…」


部屋の中に誰かいるというのは美琴の能力でわかる。
 間違いなく室内には5人いるのだ。
 今までの陽気な空気が一変し不穏な空気が漂う中、絹旗が

「浜面も今日は滝壺と出かけるって言ってましたしあの2人ではないですね。」
「上条たち3バカでもないわね。この時間はまだ補習を受けているから。」

 今度は吹寄が腕を組みながらそう言った。
 3バカとは上条、土御門元春、青髪ピアスのこと、またこの3人が補習を受けているということは担任である小萌の可能性も消える。
 ひょっとしたら魔術サイドの人間ではないか、と美琴は閃いたがインデックスによりその線は否定される。

「ステイルや神裂でもないんだよ。今学園都市に来ている魔術師はいないみたいだし新手の魔術師ってこともなさそうかも。」
「魔術師でもない…じゃあ一体誰が中に…」
「『妹達』でもないね。ミサカネットワークによると今は上位個体は今夜のパーティに備えて昼寝してるし下位個体はみんな病院にいるからさ。」

 これで『妹達』の可能性も無し、身近な人の可能性が次々消滅し謎は深まるばかりだ。

「まずカギを持ってるのって私と半蔵さんだけだから他の人は入れないはずなんだけど……」
「そういえばそうか。じゃあお姉様と半蔵以外は入れないってことだから舞夏とかが来てる可能性はなさそうだし…まさか結標?」
「結標ってあのテレポーターよね。テレポートを使って他の人を連れ込んでいるって可能性がないとは言い切れないわね。」

 吹寄は相変わらず腕を組みながらそう言った。
 だが結標が中にいると決まったわけではなく、中にいる人が誰なのかは全くわからない。

「とりあえずドアが開いているかどうかだけ超確かめましょうか。」
「そうね。あ、吹寄さんたちは下がってください。」

 予想外の状況のためいつ戦闘が開始されてもいいように非戦闘員である吹寄、姫神、インデックスを後ろに下がらせ絹旗がドアが開いているかを確かめる。

「…開いてますね。超どうしますか?このまま乗り込みます?」
「う~ん…早く準備したいから突入しようかな……でもせっかく飾り付けしてあるんだから荒らしたくないのよね…」

 部屋に乗り込んで戦闘にでもなればせっかくの飾り付けがめちゃくちゃになることは間違いなく、この1週間の苦労が水の泡だ。
 ここは大事をとって引くべきか、それとも一刻も早くこの問題を解決するため特攻すべきか、ドアの目の前で真剣に悩んでいると

「大丈夫でしょ。ミサカと絹旗とお姉様がいればどんなやつがいようとも秒殺できるって。ってなわけでミサカ、行っきまーす!!」
「あ!ちょっと待って!!」
「待ったな~い☆」


番外個体は美琴を無視してドアを勢いよく開け、血気盛んに室内に突入。

「あのバカ!油断しすぎなのよ!!絹旗、インデックスたち見てて!!」
「え、あ、超ちょっと!」

 『超ちょっと』ってどんな日本語だ、とか今は気にしている場合ではない。
 中で乱闘騒ぎをされては困るという考えよりも、万が一番外個体の身に何か起こってはいけないと思いが美琴の中で先行し、躊躇無く室内へと飛び込んで行った。
 靴を履いたまま入ってすぐの短い通路を走り抜け、リビングとダイニングキッチンが一緒になった13畳ほどの広い部屋へと駆け込む。

(番外個体に何起こって無ければいいけど―――――)

 美琴の思考はそこで中断した。美琴に異変が起きたわけではない。
 入った室内で見たのが衝撃的な光景だったからだ。

「だァーからそれはそこじゃねェって言ってンだろうが!!さっきから何度も言わせンじゃねェよ!!!」
「えー…もうこの際どこでもいいじゃない。一方通行、細かい男は嫌われるわよぉ?それになんだか飽きてきたしぃ。」
「食蜂!!飽きてきたとはなんだ!!!こういう時こそ根性で乗り切るのことが根性だろ!!」
「おい軍覇、あんたもわけのわかんないこと言ってないで手を動かせっての。あ、垣根。私てっぺん届かないからアンタ能力で飛んでつけてきて。」
「待て待て麦野、てっぺんに飾る星は普通最後じゃないか?その前に周りの飾り付けをだな…」

 と、いったようにレベル5のみなさんがわいわい騒ぎながら、天井に届きそうなほど巨大なクリスマスツリーの飾り付けを行っていた。
 平和そのものだ。

「…………」
 
 予想の斜め上を行く展開に黙りこむ美琴。
 先に突入して行った番外個体はというと、一方通行が飾り付けをしているところを見て大爆笑、床を転げ回っていた。抱腹絶倒と言うやつだ。
 しかし美琴は全く笑えない。 

「これどういうメンバーよ…」

 美琴は誰にも聞こえないようなくらいの大きさの声でつぶやいた。
 一方通行、垣根帝督、麦野沈利、食蜂操祈、削板軍覇、下手すれば一国の軍隊を壊滅させることができるような恐ろしいメンバーが、どうしてここでクリスマスツリーの飾り付けをしているか検討もつかない。
 と、今の美琴の言葉がレベル5たちに聞こえたらしく5人は一斉に美琴のほうを見た。

「え?あ、御坂さんじゃな~い♪上条さんへのドッキリ作戦は上手く進んでるのぉ?」

 そんなことを言いながら美琴に近づいてきたのは5人の中で明らかに飾り付けに飽きていた食蜂。
 彼女は2年経ったことでプロポーションがさらに強化されており、今でも美琴は食蜂が少し苦手だった。

「ま、まあおかげさまで今のところは順調だけどさ、なんでアンタ達がここにいるのよ!!ていうかカギかかってたはずでしょ!?」
「カギなら私の能力で大家さんを操って開けさせたけどぉ?」
「な……!」


 食蜂の能力『心理掌握(メンタルアウト)』、他人を自由に操ることができる能力であり、何の能力も持たないマンションの大家くらいなら操ることなど朝飯前だ。
 ぶっちゃけ犯罪だが、犯罪とかを気にする食蜂らレベル5ではない。『へー犯罪なんだーうっかりしてたー』とか言ってことを終わらそうとするだろう。
 
「完全な犯罪じゃない!…ってそうだ、なんでここにいr」
「おせェンだよ来ンのが。もっと早く来れねェのか?」

 美琴の言葉を遮ったのはクリスマスツリーの飾りを持った一方通行、お前に言われる筋合いは無いと美琴は言おうとしたのだが

「そうだぞ!!お前にはやる気と根性がないのか!!」
「せっかくこの私が手伝ってやってるってのに当の本人がこんなに遅いとはね…上条も大切に思われてないわねー。」
「なあこれってどこに飾るべきだ?やっぱり真ん中らへんのが全体のバランス的にいいか…」

 なぜかわからないが口々に愚痴を言われてしまった。垣根以外に。
 当然愚痴を言われる筋合いは一切無いので美琴も反論に出る。

「いや私は時間通りに来たんだけど!?ていうか私の質問に答えなさいよ!それから麦野!!世界で1番大切に思ってるから!!」

 美琴は若干のろけながらもなぜここにいるのかと再度レベル5sを追求。
 すると5人は少し間を開けた後美琴を見て

「「「「「暇だったからに決まって(ンだろ?)(るだろ?)(るじゃないの)(でしょぉ?)(るだろ!!!)」」」」」

 美琴は思った。
 暇だったからといって人を操作してまでカギを開けて部屋に侵入するな、と。
 またこのままここに居座られても面倒なので『出て行け』と言おうとしたのだが

「おお!これは協力な助っ人なんだよ!!」
「そうね。レベル5が5人も追加で手伝ってくれるのだから。早く終わること間違いない。」
「ちょ…2人ともいつの間に…」

 いつのまにか室内に入ってきていたインデックスと姫神がレベル5sを手伝う流れにしてしまっていた。
 どうやら美琴が叫んでいる声が外まで聞こえていたらしく、安全だとわかったのでみんな入ってきていたようで、もう一方通行たちに帰れと言える雰囲気ではない。

 そして結局美琴と5人の友人、レベル5の5人、そしてお昼過ぎからは黒子ら友人名も加わり総勢19人でクリスマスツリーの飾り付けをすることとなった。


 ◇ ◇ ◇


 多くの友人に協力してもらうこと数時間、全ての準備が終わり遂にドッキリ大作戦決行の時がやってきた。
 現在の時刻は7時15分、太陽は既に沈んでいるため外は真っ暗になっており、街中はこの日のために飾り付けされたイルミネーションで明るく彩られていた。
 また特別な日を大切な人と過ごそうと考えている学生は多く、完全下校時刻をとっくに過ぎているにもかかわらず町はカップルで溢れている。
 もちろん美琴もこの世で最も大切な人、上条当麻と一緒にイヴを過ごすために半蔵に借りたマンションの一室でソファに座り上条が来るまで待機している最中だ。

「当麻まだかな……それにしてもツリーの飾り付けにあんなに苦戦するとは……予想外だったわね…」


結局飾り付けと料理の下準備が終わったのは午後6時過ぎ、普通ならば3時くらいまでに終わってもおかしくないのだが、人数が多いことが災いしてかなり時間がかかってしまった。
 まあメンバーがメンバーだったので仕方ないのだが…
 
 そんなこんなでいろいろと大変だったが無事に準備は終わり、今朝この部屋に入ってきた時とは違う箇所がいくつかある。
 みんなで飾り付けした大きなクリスマスツリー、台所には下準備を終えた料理、そして美琴の姿は私服姿から可愛いサンタの格好に変わっていた。

「は、恥ずかしい…これも予想外だったわね。まさか佐天さんがこんな服を用意してくるなんて…」

 美琴がサンタの格好をしている原因は佐天だった。
 当然最初は拒否したのだが、目を輝かせた番外個体と食蜂により強引に着せさせられたのだ。
 じゃあ今は誰もいないのだから脱げばいいじゃないか、と思うかもしれないが今朝美琴が来てきた私服を友人達が持ていってしまったため着替えるに着替えられない状態だった。

「はぁ…なんでこうなったんだろ……それにしても結構緊張するわね……ほんとにバレてないのかな…」

 全ての準備は万端だが唯一バレていないかだけが気になる。
 友人達が上条に話すことはないと思っていたが、今になって食蜂辺りが話してしまっていそうで怖い。
 万が一バラしてしまっていたら超電磁砲ぶっ放す、とか考えていると美琴の携帯が鳴った。

「ん?…あ、妹だ。」

 携帯を手に取ってみて見ると画面に表示されていた名前は『ミサカ妹』、彼女は今打ち止めのパーティへ出席しているはずだ。
 多分上条が向こうの会場を出発したという連絡だろうと思い、美琴は通話ボタンを押し携帯電話を耳に当てる。

『もしもしお姉様ですか?今こちらのの会場からお義兄様が出発しましたよ。何事もなければ後13分46秒後にそちらに到着する見込みです、とミサカはお義兄様の行動について説明します。』
 
 電話の向こうのミサカ妹はいつも通りの口調で、美琴の予想通り上条が出発したという連絡だった。
 2年経ちかなり表情豊かになったがミサカ妹だが、電話越しだとあまり変化はわからない。
 そんなミサカ妹からの電話なのだが、今の台詞の中に気になる単語あった。
 
「何事もなければ……だ、大丈夫かな…不幸体質で何か変なことが起こったりしないといいんだけど…」
 
 そう、美琴が今になり急に心配になったのは上条の不幸体質。
 ここに来るまでに何か不幸な出来事が起こらないとは言えない、というか高確率で何か悪いことが起こる。
 しかし上条を迎えに行ってはせっかくのドッキリ大作戦が台無しになってしまうためどうするべきか考えていると電話の向こうのミサカ妹が

『大丈夫です、とミサカははっきりきっぱりと言い切ります。』
「はっきりきっぱりって……なんでそこまで言い切れるのよ。当麻の不幸体質を考えると何かが起こってもおかしくないと思うんだけど…」
「護衛がついているからです。お義兄様に気づかれないようにメルヘンと番外個体がこっそりついていきましたから、とミサカは大丈夫と言い切れる理由を説明します。
「護衛にあの2人って……」

 逆に不安だったがそれは口にしない。してはいけない気がする。

「わ、わかったわ。教えてくれてありがとね。」
『いえいえお、お礼など必要ありません。お礼を言うくらいならお義兄様をミサカに譲ってください、とミサk』
「ふざけんな。」
『冗談ですよ。そこまで本気でキレなくても…まあ何はともあれ成功することを祈っています。それでは失礼したします、とミサカは応援することでお姉様の機嫌を治そうと考えつつ電話を切ります。』
「あ!ちょっと……って切れた。まったくあの子は…」


電話が切れたことにより再び室内は静かになり、後15分ということもあって美琴はさらにそわそわし始めた。

「あとだいたい15分で到着か…よし!もう1回確認しとこっと!!」

 すでに何十回と確認をしているのだが、美琴は再度室内の確認を行った。
 その後すぐに確認を終え、ソファではなく入り口のすぐ前でドキドキしながら上条の到着を待つこと約15分、ついにその時はやってきた。
 
 ガチャ、っと入り口の扉が音をたてドアノブが少しだけ回った。

「ッ!!き、来た…」

 部屋の鍵は空いているのですぐに扉は開くことは間違いない。

 この時点で美琴の緊張はMAXに達していた。
 本当に成功するのか、上条は喜んでくれるのだろうか、怒ったりしないだろうか、ていうか入ってくるのは本当に上条なのだろうか、直前になって不安が大きく膨らんだが上条はもうドアの前にいる。
 不安を振り払う間もなく、扉が開くと同時に美琴は手に持っていた3つのクラッカーの紐を引いた。

「メ、メリークリスマスっ!!」
「ッ!!?」

 クラッカーはパァン!!と大きな音を立て、中からは色とりどりの紐や紙ふぶきが飛び出し、部屋に入ってきた一人の少年に思い切りかかった。
 入ってきた少年は間違いなく上条、さすがにここで空気を読まず別の人が入ってきたりはしなかった。
 そして上条の反応は…
 
「な、なんだ敵しゅ…ってみ、美琴ー!?なんでここに!?ここって半蔵の隠れ家なんじゃ…?ってその格好可愛いなー!!何ココ天国?」

 上条は相当驚いたようで思ったことを次々声に出していた。
 目の前でおろおろと慌てる上条を見た美琴からは不安が一気に吹き飛び、にっこり笑って上条に抱きついた。

「お、おい美琴!これどうなってんだ!?」
「えへへ~ドッキリ大成功~♪」
「……へ?ドッキリ…?」

 数秒前まで『怒られないか』などと考えていたが、ほぼ1週間ぶりの上条を目の前にした美琴は抱きつかずにはいられなかった。
 というより怒られてもいいから久しぶりの上条に抱きつきたかった。
 1週間ぶりの上条を堪能すべく、美琴が上条の胸に顔を埋めていると

「あの美琴サン?…これってどういうことなんでせうか?ていうかその格好はヤバいだろ…」

 未だ状況が全く掴めていないらしい上条がちょっと変わった口調で質問してきた。
 その質問に答えるため美琴は上条に抱きついたまま顔を上げた。

「あのね、ドッキリっていうのはね…」


 美琴は上条にこの1週間のドッキリに関する出来事を全てを明かした。
 小萌先生が2人で過ごすドッキリを発案したこと、半蔵がこのマンションを貸してくれたこと、友人が協力してくれたこと、など全てだ。
 ちなみにさすがに説明が長くなったので、説明している途中に一旦美琴は上条から離れていた。

 そして説明を受けた上条はというと怒ってはいないがなんとも微妙な表情をしていた。

「マジか…じゃあ半蔵が忘れ物を取りに行ってくれって俺に言ってきたのはこのためだったのか。全然気づかなかった…」
「よかった気づいてなくて♪でもほんとにみんなすっごい協力してくれたんだから。」
「そっか…みんなにお礼言わないといけないな。それにしてもクリスマスイヴに美琴と2人きりで過ごせるなんて……夢みたいだ。ありがとな、美琴。」

 上条はお礼を言うとともに美琴に笑顔を見せ、頭を優しくなでてくれた。
 この行動により上条が全く怒ってない上かなり喜んでくれているとわかったことで美琴の心の端に残っていた不安が完全に消え去った。

「えへへへへ…じゃあほら、早く入って入って♪」
「わっ、待てって。今靴脱ぐからさ。」

 美琴は上条の右手を引き、クリスマスツリーが飾られている部屋へ上条を案内する。
 まあ案内と言っても3㍍ほどの短い通路を進めばすぐに部屋に到着できる。
 そして美琴が1週間近くかけて準備した室内を見た上条は
 
「おー、広いしすげー飾り付けだな。それに家具もそろってるのか。」
「でしょ?家具は最近郭ちゃんが持ってきたみたいで部屋を借りたときから置いてあったのよ。」
「そうなのか。じゃあこっちの部屋は?」
「あ!そっちは…」

 この部屋は2LDKのためダイニングキッチンとリビング以外に2部屋が存在するのだが、そちらは使用しないつもりだったので飾り付けはしていない。
 そのためその2部屋は見せないつもりだったのだが、そんなことを知らない上条はおかまい無しに右側の壁にある2つの扉のうち片方を開けた。

「ここは…寝室か?」
「そ、そうみたいなのよ…まあ最初は特に何もない殺風景な部屋だったんだけど一昨日の朝来たらベッド置いてあったのよ。」

 ベッド、それはこの部屋を借りた当初は無かった家具。
 しかし今は『美琴と上条2人で仲良く寝ろ』、と言わんばかりに豪華なダブルベッドが部屋に置かれている。
 先ほどの飾り付けの際にベッドを見ながら笑っていた番外個体や食蜂辺りが怪しいが、正確に誰が持ってきたのかはわからない。
 改めて“いったい誰が持ってきたんだろう”、と考えていると隣の上条が
 
「なんだ美琴。一緒に寝たいのか?」
「ッッッ!!?」

 完全な不意打ちだった。
 ここまで美琴ペースで話が進んでいたため、上条からの反撃ともとれる台詞に素早く対応ができない。
 自分では見えないが絶対顔が赤くなっている。

「い、いきなり何言ってるのよ!!」
「だってずっとベッド見てるんだもん。で、どうなの?」
「そ、そりゃ一緒に寝たくないって言ったらウソになるかもしれないけど……って、この話はもういいからさ!ご飯にしない?お腹空いてるでしょ?」

 強引に話題を晩ご飯へと変更、すると上条は腹を軽く押さえ

「そうだな、今日は夜たくさん食べようと思って昼ご飯も少なめだったし結構腹減ってるかな。もしかして晩飯も用意してくれてるのか?」
「もちろんよ!今日はすごい料理を用意してあるんだからっ♪」







ラブラブドッキリ大作戦!! 後編




 現在の時刻は午後11時半、上条が部屋に到着してからすでに4時間以上が経過しており、その間美琴は至福の時間を味わっていた。
 この4時間は常盤台の授業で習ったイタリア料理のフルコースを上条に振るまい、お互い食べさせ合ったりしたりして2人きりで過ごす初めてのクリスマスを楽しんだ。

 美琴の手作りイタリアフルコースを食べ終えた2人はここ数日間会えなかった鬱憤を晴らすかのようにいちゃついていた。
 ソファに2人で座り、美琴は上条の右腕に両腕を絡めて密着していた。

 こうして2人で過ごしたり料理を振る舞うことは普段と変わらない。
 今もここ数日間会えなかった間に起きた出来事を話しているくらいだ。
 だが『クリスマスイヴ』という一年にたった一度のイベントが美琴と上条の雰囲気を最高までもり立てていた。 
 室内飾られた大きなツリー、流れるクリスマスのメロディ、美琴のサンタ姿、恋人同士の2人とってはたまらないシュチュエーションだ。

 そんなクリスマスな雰囲気全開な空間で2人が寄り添い合って話をすること約1時間。
 
「あ、そうだ。当麻にプレゼントがあるの。」

 ちょうど会話が途切れたため美琴がそう切り出した。
 美琴の言葉を聞いた上条は少し以外、といった様子だった。

「プレゼント?ドッキリと料理だけじゃないのか?」
「うん。やっぱり形に残る物を渡したくて。えーと、ちょっと待っててね。」

 そう言って美琴は惜しみながら上条から離れ、室内にある収納扉の前へとダッシュで移動。
 そして扉を開け、その中からきれいに包装された一つの箱を取り出し、その箱を両手で大事そうに持ち上条の元へと素早く戻る。
 立ち上がってから上条の元へ戻るまでわずか10秒、美琴はとにかく今は上条から離れたくなかった。
 美琴はソファに座り直し、もう一つのクリスマスプレゼントを上条へ手渡す。
 
「はい!これが私からのクリスマスプレゼント!でも今回は手作りじゃないのよね…」
「手作りとかそんな気にするなって。美琴がくれるならなんでも嬉しいんだからさっ!じゃあ早速中身を拝見しようかな。」

 上条は本当に嬉しそうに鼻歌を歌いながら素早く包装を解き、箱を開けた。
 その中身とは―――――

「これは…カバン?」

 美琴が上条へのプレゼントととして選んだのはベージュ色の肩掛けカバン。上条は疑問系だったが誰がどう見てもカバンだ。
 一週間前上条の部屋に泊まった時、3年間使い続けたため穴が開くほどボロボロになったカバンが目に入ったことでこれをプレゼントしようと思いついた。
 そして3日前、空いている時間にデパートへ足を運び買ってきたわけだ。

「今使ってるカバンはもうボロボロだし、来年からは大学生になるんだから新しいカバンが必要かなー、と思って。……どう?」


 と、尋ねるも目を輝かせカバンに視線が固定されている上条を見れば喜んでいることは明白だ。

「ありがとな美琴!大切にするよ。でもこれ高かったんじゃないか?」
「そんなことないわよ。ていうか大切にするのはいいけどちゃんと使ってよね?」

 美琴が『ちゃんと使ってよね?』と言うのには理由がある。
 以前上条に服をプレゼントしたときも今日と同じように喜んでくれたのだが、もったいないとか言って使ってくれなかったことがあったのだ。
 だから美琴は上条に念を押したのだが、上条は特に気にした様子も見せず笑いながら言う。

「それくらいわかってるって。使わないわけないだろ?で、もちろんだけど俺からもプレゼントがあるんだ。」
「ッ!」

 上条からのクリスマスプレゼント、これは美琴も予想していた。
 過去のクリスマスや誕生日や記念日に上条がプレゼントをくれなかったことはないので今回も何かくれるのでは?と予想するのは当然。
 内心『キター!!』とか思っている。
 美琴にとって上条からもらったものはどんなのもので宝物なので、密かにだが今回は何をくれるのか楽しみにしてたのも事実だ。
 まあ『どんなもの』と言っても限度はあるのだが…

 そんなわけで何をくれるのだろうかと思いわくわくしながら待っていると、上条は自分の上着の右ポケットから小さな箱を取り出した。

「美琴、これを受け取ってくれ。」
「うん!ありがとっ!」

 笑顔でお礼を言ってから包装された縦横高さ4センチほどの小さな正方形の箱を上条から受け取りマジマジと見つめる。
 このように中身のわからない形で渡された時は中身を予想するのも一つの楽しみだ。
 そして上条はそんな美琴を見て楽しんでいるのだが、そんなことを知らない美琴は真剣に中身を考える。

(何かしらね…箱のサイズからしてネックレスとかアクセサリー類かな?でも良い夫婦の日にブレスレットもらったのよね。ていうと…宝石とか…宝石!!!)

 中身を予想するうちにたどり着いた一つの答え、『宝石』。
 美琴はそこから一つの物を連想する。

(ま、まままままさかクリスマスイヴってことで指輪を渡してプロポーズとか!?…いやいやそれはないって……でも…でもひょっとして…)

 それはないと自分自身に言い聞かせるのだが、心の底では期待してしまう。
 さらに頭の中はフル回転していたも『プロポーズ』という言葉が浮かび上がったせいで体がフリーズしてしまっていた。
 ちなみに美琴は現在16歳、法的には結婚できる年齢だ。


「美琴?開けないのか?」
「ッ!!」

 箱を両手の平に乗せたまましばらくフリーズしていたため、気づかないうちに上条が心配そうに顔を覗き込んできていた。
 驚いたせいで箱を落っことしそうになるもなんとか手のひらの上に止めることに成功、美琴は

「あ、ご、ごめん!い、いい今開け、開けるから!!」
「だ、大丈夫か?声裏返ってし震えてるぞ?」

 実際は声だけでなく手も震えていた。
 美琴は心配している上条に大丈夫の合図として無言で小さくうなずき、震える手で箱のリボンをほどいた。
 この時点で心臓がありえない早さで動いている気がするので(本当に早くなっている)一度深呼吸をして落ち着こうとするも全く落ち着くことができない。
 心臓のドキドキがヤバい状態のままふたに手をかけその状態で再び停止する。
 上条がくれる物なのなのだから中身が何でも嬉しい、それを再確認しゆっくりと開けた。

「これって……」

 美琴の目に映った箱の中身は光り輝く1つの指輪―――――ではなく

「…カギ……?」

 見間違いなどではない、箱に入っていたのは赤いリボンがついている1つのカギ。 
 確かに光り輝いてはいるが指輪と全く違う。

「えーと………」

 美琴としては上条からもらえるものはなんでも嬉しいのだが、さすがにこれはどういうことなのかよくわからない。
 なぜプレゼントがカギなのか、一体どこの部屋のカギなのか、それとも部屋のカギではなく何か別の物のカギでそっちが本命なのか。
 いろいろな思惑が頭の中を駆け巡ったもののこれといった答えは導かれなかった。
 かと思いきや、数秒かかって美琴は思い出し、とぎれとぎれに上条に尋ねた。

「あの、これってまさか、部屋のカギ…?」

 『部屋のカギ』、というのは上条の寮の部屋のカギのこと。
 美琴は宝物のように大切にしていたのだが、1週間前どこかで合鍵をなくしてしまっていて今は持っていないのだ。
 無くしてしまった日に上条が“新しく作ってくる”と言ってはいたがまだ受け取っていないため今渡されたカギが上条の部屋の合鍵である可能性は高い。
 返答を待つ美琴に上条から告げられた言葉は

「ああそうだぞ。クリスマスのプレゼントにはもってこいだと思ってさ。」

 と、上条は得意げに言う。
 これで確定した、上条からのプレゼントは『上条の部屋のカギ』だと。
 だが美琴は素直に喜ぶことができなかった。
 予想外のプレゼントに美琴は戸惑いの色を隠そうとしたのだが、美琴大好きの上条に隠し通せるわけがなかった。

「……美琴?ひょっとして嬉しくなかったのか?」
「う、ううん!すっごく嬉しい!ありがとね!」

 と、口ではお礼を言うものの正直納得いかない。
 せっかくのクリスマスプレゼントにこれはないだろう、というのが美琴の本音だ。
 しかし文句など言えるわけがない、口にすることができるわけないのだ。

(…そうよね…当麻は補習で忙しかったんだし、補習をすることになった原因も私なんだから仕方ないわよね…)

 美琴は自分自身にそう言い聞かせるのだが、箱を開ける前の期待が大き過ぎたためやはり落胆も大きい。
 
 すると上条は急に立ち上がり、窓の前へと移動をした。

「…どうしたの?」
「なあ美琴、ちょっとこっちに来てくれ。」

 一体何なのだろうか、美琴はそんな疑問を持ちながらソファから立ち上がり、窓の前に立ち手招きをする上条の元へと歩み寄った。
 するとズボンのポケットに両手を入れたままの上条が突然美琴に言った。


「美琴、お前今結構がっかりしてるだろ。はっきりとわかるぞ。」
「ッ!!?そ、そんなことないわよ!!プレゼントすっごい嬉しいんだから!!」
「ウソはいいよ。それに前にも言っただろ?美琴のことはなんでもわかるって。大方想像してたプレゼントと違ったからがっかりしてるんだろ?」
「あぅ…」

 本当に全て見破られていた。
 大方というより完全に上条の言う通り、美琴は上条への申し訳なさから一時言葉を失ってしまった。

「そう落ち込むなよ。まあとりあえずだな、外の景色でも見ながらもっと話でもしようぜ。」
「え?でもこの部屋からの景色はそんなに良くないわよ?まあ夜だから多少のイルミネーションは見えるとは思うけどさ。」

 美琴の言う通りこの部屋の景色は良くない、だからカーテンを引いてあるのだ。
 もし景色がよければカーテン全開で上条と夜景を楽しんでいただろう。
 だが上条は美琴の忠告を聞かなかった。
 
「ま、いいじゃん。よっと。」

 そう言って上条は目の前にカーテンに手をかけ、勢い良く横へ引いた。
 しかし外は真っ暗なため外の景色など見えるわけがなく、窓には美琴と上条が映っているだけだ。向かいの味気ないビルさえも見づらいくらいだ。

「うわー外が全く見えねーな。想像以上に真っ暗だ。」
「ね?言ったでしょ?下の方は明るいけどここは7階だからイルミネーションも見え…な…?」

 そこまで話したところで美琴の言葉が濁った。別に美琴や上条に異変が起きたわけではない。
 敵襲があったわけでもないし、友人達が部屋に入ってきたわけでもない。
 では一体なぜ美琴の言葉は濁ったのか、理由は簡単。

 変わったのだ、目の前の光景が。

「わ…何これすっごい大きなクリスマスツリー…」

 数秒前まで窓の外に見えていたのは暗黒の世界だったはずだが今は全く違う世界が広がっている。
 向かいに建っている味気ない鉄筋コンクリート造りのビルはイルミネーションによって全長15メートルはあるだろうかという巨大なクリスマスツリーへと変貌を遂げているのだ。
 緑が樅の木を表し、赤、オレンジ、青、などの光が飾りとなり、てっぺんには星が黄金に光り輝いている。
 またツリーは下のほうの部分が横に広がっているので、隣の店にまでイルミネーションは広がっている。つまりそれくらい巨大なのだ。
 そんなツリーを前にした美琴は沈んでいた気分がウソのように元に戻っていた。

「わぁ…きれい…ねぇこれってどこかのお店のイルミネーションなのかな。」
「ん……それはだな、ほら文字が出てきただろ?読めばわかるよ。」
「文字…あ、ほんとだ。」

 話している間にクリスマスツリー中央にイルミネーションによって英語で文字が浮かび上がっていた。
 美琴は上条に言われた通りにその文字を読み上げてみる。
 
「えと…“Merry Christmas Mikotho (メリークリスマス 美琴)”………え?」

 美琴は自分の目を疑った。
 見間違いだろうか、いや見間違いに決まっている、自分の名前が書かれているなんてありえないことだ。
 
 美琴はもう一度イルミネーションでできた文字を読み返してみるが

「見間違いじゃない…何…これ?ど、どういうこと?」


 全く状況がつかめない美琴は隣の上条に説明を求めた。
 すると上条はにっこり笑って

「何って、俺からのプレゼントさ。」
「プレゼント…?え?え?だからどういうことなの?『俺からの』ってことは当麻が準備したってこと?でもこの部屋のことはさっき知ったはずなのにどうやってこの部屋に合わせて準備を…?」

 美琴の言う通りこの部屋で2人きりで過ごすということを上条は先ほどまで知らなかったのだから、向かいのビルに美琴に見せるためイルミネーションでツリーを作るなんてできるわけがない。
 だが上条は相変わらず笑っていた。
 
「ふっふっふ…それはだな…」

 先ほどとは違う笑みを見せ言葉を一旦そこで区切った。
 そして上条はポケットから少し大きめのクラッカーを取り出したかと思うと

「ドッキリ!!大成こ~う!!!」
「わっ!」

 その台詞とともに美琴に向けてクラッカーが発射された。
 中からは紙吹雪やカラーテープとともに『ドッキリ大成功!!』と書かれたテープも飛び出している。

「…………へ?ドッ…キリ…?」
「おう!!いやーよかった成功して!どうだ!?びっくりしたか!?ドッキリしたか!?」

 そんなことを言われても今の美琴には目の前で上条がはしゃいでいるということ以外全く状況を理解できない。
 とりあえず美琴は頭の中で今まで起きた物事や状況を一つひとつ整理してみる。

 ここは半蔵に借りているマンション
 上条に対してドッキリを成功させたはずだ
 プレゼントも渡した
 が、上条からのプレゼントは少し残念だった
 しかし今外の向かいのビルにはイルミネーションで作られた大きなクリスマスツリーが
 しかも自分の名前入り
 そして上条からクラッカーを鳴らされた

 以上のことから考えられることは―――――

「美琴たーん?上条さんとしてはそろそろ何か反応がほしいんですけど…」 

 美琴が固まり続けること約1分、最初ははしゃいでいた上条もあまりに美琴からの反応がないので心配そうに見つめていた。
 そして美琴は動き出す。

「………………ええええええええええええええええええええええええええッッッッッッッ!!??!?ド、ドドドッドドドッキリって一体どういうことよ!!!!!??」
「うおっ!!」

 頭の中で予想外過ぎる展開が起きていると認識したため思わず立ち上がり叫んでしまった。
 動揺してる感がハンパない上、若干電気が漏れている。
 こんな時は上条の右手の出番。

「うぉおおお電気はマズい!!お、おち、落ち着け美琴たん!!ちゃんと説明してあげるからっ!!」
「あぅ。」

 上条は瞬時に美琴の頭の上に右手を置い、とりあえず電気は治まった。
 そして上条に『まず座って深呼吸でもしなさい』と言われ即実行、5分かけて落ち着くことに成功した。
 
「落ち着いたか?」
「うん……でも、ど、ドッキリってどういうこと…?」
「そのままの意味さ。俺が美琴にドッキリを仕掛けたんだ。で、美琴がドッキリに引っかかったってわけ。」
「え?当麻が私に?でも私が当麻にドッキリを仕掛けたんだけど…」
「だからそれもドッキリの一部だって。」

 今美琴の頭の中はクエスチョンマークで埋め尽くされていた。
 全くわからない。
 一体今自分がどういう状況におかれているのだろうか、理解することができない。

「そ、その、当麻が私にドッキリを仕掛けたって言うならどこからがドッキリなの!?」
「全部。」
「ぜ、んぶ……?」


 想像を絶するような返答に美琴は次の言葉が出て来なかった。。
 しかし話さないことには何が起こっているのかを知ることができないので、とにかく思いついたことから質問してみることにした。
 
「で、でも部屋に入ってきたときすっごく驚いてたじゃない!」
「うん。だって何回も何十回も何百回も驚く練習したもん。」
「……えと、“驚く練習をしてた”ってことは私がドッキリ仕掛けようとしてること知ってたの…?」
「いやだからそれ今言ってたじゃん。それに知ってたっていうか俺が小萌先生に頼んだんだよ。“美琴に俺にドッキリを仕掛けるように言ってください”ってな。」
「え…」
「だから全部ってのはな、この1週間のこと全てさ。」

 美琴はまだ頭が追いつかなかった。
 ドッキリと言われてもあまりにスケールが大き過ぎる。
 一体どこからがドッキリで何がドッキリでないのかもうわからない。

「ちょっと待って…全部ってそこから?ドッキリは当麻が考えたことだって言うの?」
「ああ。この二重ドッキリを思いついたのは2週間前だったかな?思いついた時はみんなの協力がいるから無理かと思ったんだけど。」
「そ、そうなんだ………あのさ、今みんなの協力って言った?ひょっとして補習の間みんなが当麻のドッキリを手伝ってたとか…?」
「えーとだな…まあそれも含めて説明するよ。とりあえずソファに座ろうぜ。」
「う、うん…」

 そしてソファに座り、上条は美琴にさらなる詳しい説明を始めた。

 まずこの1週間あったという補習がウソだったと言うこと。
 その補習があると言って美琴と会っていなかった間にイルミネーションのクリスマスツリーを作ったりとドッキリの準備を行っていたということ。
 そして美琴のドッキリを手伝ってくれていた友人達、黒子達昔からの友人、マンションを貸してくれた半蔵、吹寄や絹旗などの女友達、さらにはレベル5s達はみんな上条の指示で美琴を手伝っていたということ。
 またさっき部屋に入ってきたときドッキリを仕掛けてきた美琴超可愛いと思ったこと、以上上条は一つひとつ丁寧に話してくれた。
 
 上条から全ての真相を明かされた美琴は

「……やられたわ……準備初日の段階でドッキリを仕掛ける場所まで決まるなんて上手くいき過ぎてると思ってたけど…まさかみんなが当麻の指示で動いてたとは…準備してた時はこんなことが起きるなんて全然予想できなかったわ…」
 
 どうしてもっと不思議に思わなかったんだ、と言わんばかりに大きなため息をついた。
 反対に上条はしてやったりといった様子だ。

「いやほんとこの部屋の向かいで準備してるわけだからバレないか毎日ドキドキだったよ。」
「うぅ~……せっかく私のドッキリが成功したと思ってたのに…ていうかなんでわざわざ小萌先生に頼んでまで私にドッキリさせたの?普通にドッキリ仕掛ければよかったんじゃ…」
「だって二重ドッキリのほうがが面白いじゃん。」
「面白いって……でもこの部屋の飾り付けも私が作った料理も全部知ってたんでしょ?それじゃ私のプレゼントが半減してるような…」
「いや俺は美琴が準備を始めてからはこの部屋に入ってないし料理の内容も知らなかったぞ?」
「あ、そうなんだ…」


 上条が室内の飾り付けと今日の料理内容を知らなかったということがわかり一安心。
 ようやく気分が完全に落ちついた美琴はにっこり笑って

「あの…ありがとね。」
「ん、ああ。ていうかお礼を言ってもらえるとは…実は怒ってないかドキドキしてたんだよ。」
「怒るわけないじゃない。当麻は私のためにドッキリを考えてくれたんだから。まあさっきはプレゼントがカギだけかと思ってたけどツリーまで…最高のクリスマスプレゼントよ。」

 上条が自分のために頑張ってくれたことが本当に嬉しかった。
 いい雰囲気だしキスくらししてほしいな、と思って上条に寄り添ったのだが

「いや……カギとツリーだけじゃないんだよ。」

 などと言い出した。
 それを聞いた美琴は寄り添ったまま上条の顔を見る。

「だけじゃないって……まだ何かプレゼントがあるの?」
「ある…っていうかさ、美琴気づいてないだろ。」
「気づいてない?どういうこと?」

 上条の言っていることの意味がわからない。
 “気づいていない”ということはもうすでに上条が何かプレゼントを渡してくれている、もしくは室内に置いてあるということなのだろうが美琴にはそのプレゼントがどこにある何なのか全くわかならない。
 頭から煙が出るくらいもう一つのプレゼントが何なのか考えていると見かねた上条が

「やっぱりわからないよなー。絶対わからないようなプレゼントだもん。」
「わからないようなプレゼント……わざとわからなくしてるってこと?」
「その通り!!だから答えを教えてやるよ。」
「う、うん。あの、一応聞くけどこの部屋の中のどこかにある物なんでしょ?」
「いやこの部屋の中にある物っていうか……」

 上条はそこで一旦区切った。
 美琴は『ていうか』何なんだろうと思い、上条をジーと見ていると

「プレゼントはな、この部屋なんだ。」
「………………は?」

 上条の言葉を聞いた美琴は自分の耳を疑った。
 今上条はなんと言ったのだろうか。
 さすがにそれはないだろうと思い頭の中で今上条が言った台詞を何度も繰り返す。
 
 数十回繰り返した。聞き間違いではない。
 確かに今上条の口から『この部屋』と発せられていた。

「えと………言ってる意味がわからないんだけど…」
「いやだからこの部屋が俺からのクリスマスプレゼント。」
「だからそれがよくわからないのよ。だってここは半蔵さんの隠れ家なんでしょ?それに私には自分で借りてるマンションがあるんだからここには住めないわよ。冗談はいいからほんとは何なの?」

 美琴は上条の言うことを冗談だと思い丁重にお断りした。
 きっぱり断られた上条は不満そうに言う。
 
「えー…住まないの……?」
「当たり前でしょ!!そんな悲しそうな顔しても人の部屋なんだから絶対にダメ!全く何考えてるんだか…」

 美琴はふいっと上条と正反対の方向を向いた。これは早く本当のことを言え、という思いからの行動だ。
 そんな美琴を見た上条は少し悲しげな声で言う。

「そうか…せっかく美琴と2人で住もうと思ってこの部屋用意したのに。」
「だからそんなこと言っても絶対に住まな…………え」


 美琴の首は180度回り上条の方を向いた。
 すると悲しそうな声とは反対に上条はものすごくニヤニヤしながらこちらを見ていた。
 美琴は聞き間違いかと思いキョドりながら尋ねる。

「ちょ、え…?い、いい今なんて?」
「いやだから美琴と2人でここに住もうと思ってこの部屋をプレゼントしようと思ってたのに……2人で住みたくないのか…上条さんショック。」

 と、上条は全くショックを受けてなさそうに言った。
 そんなことを言われれば美琴の脳内はパニックである。

「え、あ、よ、その、す、住みたくないわけないでしょ!?で、でででもここは半蔵さんから借りてる部屋だから勝手に住んでいいわけ……ってまさかこの部屋半蔵さんから買ったの!?」
「いや半蔵から買ったりしてないぞ。元から俺が借りてる部屋だし。」
「へ?」

 美琴がまぬけとも言える声を出した時だった。
 上条は再びポケットからクラッカーを取り出しかと思うと

「これぞドッキリ第2弾!!『一緒に暮らそうぜ大作戦』大成功!!」

 そう言うとともに先ほどと同じようにクラッカーの音が室内に鳴り響き、飛び出した紙吹雪などが美琴に降り掛かっていた。
 しばらく何が起こったのかわからなかったが、すぐ目の前でニコニコ笑っている上条を見て

「あ、あの……まさかとは思うけど…この部屋は当麻が借りてた部屋で一緒に住もうってこと…?それからさっきくれたカギもこの部屋のカギ…?」
「その通りさ!で、どう?住むだろ?住むよな?ていうか住まなきゃ泣くよ?」
「そ、そりゃ一緒にだったら住むけどさ!説明してくれる!?半蔵さんがここを紹介してくれたのよ?」
「だからこの部屋を借りてから俺が半蔵頼んだんだよ。『美琴にこのマンションの部屋をお前の隠れ家だって言って紹介してくれ。』ってな。」

 上条の言葉に美琴は再び混乱する。
 半蔵の隠れ家ではない?
 上条が元から借りていた部屋?
 急にそんなこと言われても信じられるわけがない。
 と、ここで美琴は最初に部屋に来た時のことを思い出した。

「で、でも最初この部屋に下見に来た時は浜面さんと滝壺さんがいたわよ!?」
「ああ、それも俺の指示な。」
「え…また!?」
「うん。ドッキリを成功させるために『半蔵の隠れ家』って印象を強くしなきゃダメだと思って浜面と滝壺に“部屋にいてくれ”って頼んだんだよ。あ、それから俺の部屋のカギ無くしたって言ってたけどさ。」
「な、何よ…」
「美琴のカバンからカギ盗ったの浜面なんだよね。もちろん俺の指示で。」
「はぁッ!!?」

 美琴は思わず劈くような大声を出した。
 隣の部屋に聞こえるのではないかというほどの大きな音量の声だったが上条は特に気にせず説明を続ける。
 
「美琴がこの部屋を夢中で下見してる間にカバンからこっそりと盗っといてって頼んだんだ。」
「な、なんでそんなことさせたのよ!!私がどれだけ困ったか知ってるの!?」
「ごめんごめん。だって美琴が俺の補習が終わるまで意地でも会わないみたいな雰囲気だったからさ、カギを盗っておけば無くしたって言うために俺に会いに来るだろうと思って。」

 あっはっは、と笑う上条。
 美琴は怒るに怒れなかった。
 
「そ、それだけのために……」
「いや一応カギをプレゼントした時すぐにこの部屋がプレゼントって気づかれないようにする効果もあったんだけどな。」

 言われてみれば。
 確かに美琴はプレゼントされたカギを上条の部屋のカギだと完璧に勘違いしていた。
 美琴は『結構うまいこと考えているんだ』、と少し関心していたが一つ気がかりなことがあった。

「ていうか私がカギを無くしたことをメールで連絡したらどうするつもりだったのよ。浜面さんにカギを盗らせた意味なくない?」
「それはそのとき考える予定だった。………一応聞くけど怒ってる?」
「………まあ私に会うためだったんだから許してあげるわ。」

 カギを盗ませた理由が『困った美琴の顔を見るため』とかだったら怒りの電撃が炸裂していただろう。 
 と、ここで美琴は『カギ』の話題から一つ思い出した。

「そうだ!カギって言えば私もう持ってるんだけど!」
「え?」
「ちょっと待ってよね…えーと…」

 美琴は側に置いてあったカバンから半蔵より渡されていたこの部屋のカギを取り出し、これが証拠だと言わんばかりに上条に見せつける。

「ほら!半蔵さんからもう渡されてるんだけど!これってドッキリ失敗じゃない?詰めが甘いわよん♪」


 美琴はしてやったりといったように言った。
 ここまで完全に上条のドッキリに引っかかっていたので一矢報いることがなんだか嬉しかった。
 だがそんな喜びもつかの間。
 
「ああ、それならもう使えないぞ。」

 上条はさらっとそう言った。
 この発言によって美琴の勝ち誇りタイム終了、再び質問する側になった。

「え?な、なんで?」
「昨日のうちに俺が新しいカギに変えといたから。だからさっきプレゼントしたカギでしかこの部屋は開かないんだよ。残念だったな美琴!」
「う、ウソ…でも今朝はちゃんと入れたわよ!?」
「いや今朝はカギ使って入ってないだろ。だってあいつらがここにいたんだし。」
「あいつら………あ。」

 美琴は今朝のことを思い出した。
 上条が言う『あいつら』とは美琴を除くレベル5達のことであり、確かに今朝は一方通行、垣根帝督、麦野沈利、食蜂操祈、削板軍覇、といった人格破綻し…もとい個性豊かなメンバーが美琴をお出迎えしてくれていた。

「そ、そうだった……あの、まさかそれって…」
「もちろんあいつらがこの部屋にいたのは俺の指示。個性の濃いメンバーをあらかじめ部屋にいさせることで美琴の注意をカギから遠ざけようって考えさ。現にカギ穴が変わってるなんて全く気がつかなかっただろ?」

 上条の言う通り、今朝は全く気づかなかったし友人達が帰った後もカギをかけていなかったので今日一日美琴がカギを触ることがなく、気づくきっかけがなかった。
 さらに上条は得意げに説明を続ける。

「当然番外個体が勝手に部屋に飛び込んで行ったのも俺の指示な。そうでもしなきゃ美琴が中に入らなかったり、アンチスキルとか呼ばれる可能性もあったからな……って美琴たん?なんか不機嫌に
なってない?」

 上条の目の先にはいつの間にか顔を下に落としている美琴がいた。
 そんな美琴はどこか寂しげに言う。
 
「…だって……もう何がほんとで何がドッキリなのかわかんないんだもん…」

 もう美琴は上条のことを信じられなくなってきていた。
 と、言っても怒っているわけではない。
 ここまで素晴らしいくらい完璧に上条の作戦に引っかかっためただ拗ねているだけである。
 だが上条にとって美琴に拗ねられることは大問題だ。


「あー…ちょっとややこしくしすぎたか…まあとにかくだ、一緒に暮らしてくれるか?」
「一緒に暮らしてくれるかって……どうせそれもドッキリなんでしょ?もう引っかからない「美琴」わ…」

 美琴の言葉が上条によって遮られた。
 今度は一体何を言い出すんだろうと思いながらもとりあえず顔を上げ、上条を見てみる。
 そんな美琴に対し上条はこの日1番の笑顔を見せながら言う。

「一緒に暮らそう、な?」

 短い言葉、だが美琴にはそれだけで十分だった。
 上条の笑顔を見ればその言葉を信じることができる。
 
「……うん…ありがと…」

 美琴はお礼を言って上条に抱きついた。
 最高にロマンティックな雰囲気の中美琴の顔はどんどん緩んでいく。
 上条はそんな美琴を見れたことが嬉しかったらしい。

「おお、ようやく喜んでくれたみたいだな。さっきから喜ぶ仕草が全くなかったからちょっと焦ってたんだよ。」
「ご、ごめん。いろいろあったから中々実感が湧かなくて……でもこんな広い部屋で2人で暮らせるなんて夢みたい…準備してる時にはこうなるとは思ってもなかったからすっごい嬉しい。」

 その言葉に偽り無く、美琴は心の底から嬉しかった。
 自分のために大きなツリーを用意して部屋までプレゼントしてくれるたことで上条からの愛をひしひしと感じていた。
 上条は顔を赤く染めて言う。

「…そりゃ将来的には、その、なんだ、結婚してここで一緒に暮らしていこうみたいな…」
「ッ!!!そ、そ、そうなんだ……そんなこと考えてたんだ……えへへへへへへへ…」
「ま、まあな。だから将来を見据えて家具も全部用意したんだぞ?」
「え…この部屋の家具は郭ちゃんが……ってそれもウソなのね、ベッドも当麻が?」
「もちろん!家具は俺が完璧にそろえたから今からでもここで暮らせるぞ。」
「うん!もちろん今から住みたい!………それと、さ。私としては…結婚も今すぐにでもいいんだけど…?」

 美琴は今すぐにでもプロポーズしてくれ、と言わんばかりに上条に抱きついたまま上目遣いでそう言った。
 だが上条から返ってきたのは予想外の台詞。

「何言ってるんだよ。俺も結婚したいけど法的にまだ結婚できないだろ?ほら、美琴はまだ16歳なんだから18歳になるまで待ちなさい。」
「いや、私は16歳だから結婚できるわよ。」
「は?だから16歳じゃ結婚は無理だろ?」
「………まさかとは思うけど…女の子は16歳から結婚できるって知らない?」
「え……マジ?」
「マジよ。」

 衝撃の事実を知った上条は隣で地蔵のように固まってしまった。なんだからショックを受けているように見える。
 美琴は一旦上条から離れ、なんて言葉をかけてあげよう、と迷っていたが上条は以外と早く復活した。

「………女子も18歳だと思ってた…………美琴。」
「わっ!な、何?」

 美琴は上条に両肩を掴まれた。少し痛いくらいの力の強さだ。
 そして上条は真顔で言う。

「愛してる、結婚しよう。」

 ここでまさかのプロポーズ。
 明らかに計画性の無い唐突なプロポーズの上、当然指輪もない。
 だが上条の表情は真剣そのもの。茶化すわけにはいかない。

「あ、あの…えと…………うん。す、末永くよろしくお願いします…えへへへへ…」

 そして時刻が深夜12時を回り日付が変わる時、外に大きなツリーが見える前で美琴は上条と誓いのキスをかわした。
 初のクリスマスイヴには上条の二重ドッキリ作戦に本格同棲というプレゼント、さらに唐突なプロポーズととびきり幸せな思い出を作ることができた。
 こうして聖夜は過ぎていく。
 だが愛し合う2人の夜はまだこれからである―――――









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