とある魔術の禁書目録 自作ss保管庫

Part02

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進路相談編


「いらっしゃいませ~」

 もうすぐ衣替えの時期という9月も終わりが近い平日の午後。
 ここは第7学区の表通りに面した瀟洒な喫茶店。
 その窓際のいつもの席。

「今年の大覇星祭も無事終わったわね」
「去年は散々だったからな。今年は何もなくてほっとしたってのが正直なところですよ」
「ねえ。――なんで今年は勝負してくれなかったのよ?」

 途端にゲホゲホと咳き込む上条。

「どうしたの? 大丈夫?」

 そんな上条を労わる美琴。と思いきや、

「あのさ……。俺、去年のでよくわかったんだけど、俺たちみたいな普通の学校が『五本指』に勝てるわけ無いよな?」
「ちぇっ。ばれてたか。今年も罰ゲームさせようって思ったのに……」
「いやいやいや。最初から罰ゲーム確定の勝負なんて勘弁して下さい。そもそもこのお嬢さんは可愛い顔して、裏ではそんなどす黒い陰謀を企んでたんですかぁー!?」
「えへへー、可愛いって私のこと?」
「おいおい、後半はスルーですか。そうなんですか? 否定しないんですね?」
「えーほら、きれいな薔薇には棘があるって言うじゃない?」
「言いましたよ、この子!? ていうか、上条さんに棘でなにをするつもりだったんですか?」
「罰ゲーム。大丈夫、痛くしないから♪」
「痛くしないってなんだよそれ。あーもう罰ゲームでも何でもしてやるから。もういいかげん勝負ってのは勘弁してくれよ」

 いつの間にか、勝負もしていないのに罰ゲームが確定した上条。
 そして今日もテーブルの下で、グッとガッツポーズを決めた美琴だった。




「ところで、アンタに聞きたいことがあるんだけど?」
「ん、何だ? 俺に勉強のことを聞いたって無理だぞ?」
「そんなこと最初からわかってるわよ。あのね、アンタの学校のことを教えてほしいんだけど」
「ああ? 俺の高校のことか? そんな大した学校じゃねえし、全部知ってるワケじゃないけどな……」

 まあ別にお前の頼みだったらいくらでも協力してやるけどさ、と小さく呟いた上条。

「――でもなんで? ウチみたいな底辺校のことなんて、常盤台のお嬢様が聞いてどうすんだ?」

 わからない、という表情の上条。
 そんな彼の様子に、――ふっ、と小さくため息を吐く美琴だった。

「――私もそろそろ進路を決めなきゃなんないのよ。だからいろいろ調べてるわけ」
「え、そうなのか? でもお前なら長点上機とか霧が丘とか、もっと上のレベルの学校からいくらでも引き合いあるんじゃねえの?」
「でもね、そういう学校って、実験やら研究やらで能力レベルでしか人を見てくれないのよね」

 そう言うと彼女は、カプチーノを啜るように一口飲んだ。
 その表情にどことなく憂鬱そうな面持ちを浮かべ、常盤台だってそうだし……となにやら愚痴をこぼすような言葉を呟く。

「――もうそんな学生生活なんてやだなって思ってね。私のことは『超電磁砲』としか見てもらえなくて、親しい友達も出来ないとかさ……」
「……」

 上条の脳裏にいつか白井から聞かされた話が甦る。
 それは、お姉さまは輪の中心に立つことは出来ても、輪に混ざることはできないという言葉。
 無能力者の上条には窺い知れない超能力者としての苦悩なのだろう。

「――アンタの学校に、月詠先生っているでしょ?」
「え? ああ、クラスの担任だけど?」
「前にね、ちょっとした講演会で知り合ったんだけど、私のことを『超電磁砲』じゃなくて、御坂美琴として接してくれたのよね」
「小萌先生らしいな。あの先生は俺たちのことを、ちゃんと一人の生徒として見てくれる人だよ」
「みたいね。あんな先生のいる学校だったらいいなって思ったのよ」

 小萌先生にはインデックスのことやらなんやらで、一番世話を掛けている自覚のある上条だが、そのこともあってか、彼女のことを最も尊敬しているのも彼なのだ。
 彼女の指導熱心な熱血ぶりや、姫神らの世話を焼いたり結標を居候させたりと面倒見の良さもピカイチであり、上条にとっては教師の鑑とも言うべき人物だから。

「そうだな。俺の学校の先生って、みんな良い先生ばかりだよ。他にも黄泉川先生とか、親船先生とか災誤先生とか色々いるしな」

 黄泉川愛穂が一方通行と打ち止め、番外個体の保護者であったり、親船素甘が親船最中理事の娘であることなどは上条も知らないことだ。
 そもそもそのような面々が、一介の無名高校に勤務していること自体、なにやら裏もありそうなのだが。
 だとしたら魔術側の多角スパイや第六位が在籍していたりとか、ある日突然に第一位が転校してきたとしても何の不思議もないだろう。

「だからアンタの行ってる高校だったら、私も普通の学校生活が送れるかなって思ってね」

 普通の学校生活ってのががどんなのか俺にはわかんねえよ、と普段の学校生活を思い出す上条。
 年中ドタバタ騒動が普通なのかねえと独りごちた彼の場合は、普通が普通でなくなってしまうことが一番の問題なのだが。




「つまりミコっちゃんは高校デビューをしたいってわけか?」
「言ってしまえばそういうことになるのかしらね」
「へえ。高校行ったら、彼氏を作りたいと……。 ま、お前ならどこへ行ってもそんな心配いらねえと思うぞ。十分可愛いと思うし」

(――えっ!? かっ、可愛いって……言われた)

 上条の言葉に、恥ずかしげに俯いた美琴。そのため彼の表情が、僅かに曇ったことには気づかなかった。
 でもすぐに上条はそれを面から消すと、言葉を繋ぐ。

「御坂が彼氏をねえ……」
「あのね、誤解の無いように言っときますけど、私、そのために高校行くんじゃないわよ?」

 ちょっとしみじみしたような上条の言葉に、反発するように美琴が言った。

「ん? そうじゃないのか?」

 上条がどことなくほっとしたようなトーンで尋ねていた。
 一方の美琴は内心で、彼氏にしたいのはアンタしかいないんだけどね、と思いながら答えていた。

「――違うわよ。私にだって目指す未来ってものがあるんだから」
「ならウチみたいなレベルの高校に来たんじゃ、大学進学が大変じゃないのか? お前ならこの先、研究とかやりたいことあるんだろ?」
「ん? 大学進学のことなら大丈夫よ。ウチじゃ、卒業時点で既に大学卒業ぐらいのレベルはあるし、すぐにでも研究職に就けるくらいの論文だって書いてるから……」

 義務教育終了までに世界に通じる人材を育成する、が基本方針の常盤台では進学は少なく、就職か研究職へ進む生徒の方が多いのだ。

「――高校なんて、どこへ入ったって同じなんだもん」
「サスガレベルファイブハチガイマスネ」

 進学はおろか、進級さえもやっとだった上条には耳の痛い言葉。
 そんな上条を斟酌せずに、――ただね、と言いかけて美琴がふっと息を吐いた。

「私、今、迷ってるんだ……」
「ん? どうした、御坂?」
「実はね、私の小さい頃からの夢は、筋ジストロフィーの治療のために私の能力を利用することだったの」

 それは彼女がまだ小さかった頃、筋ジストロフィー治療の研究に貢献しようと思ってDNAマップを提供したときからの夢なのだ。
 だがその願いは学園都市の闇に踏みにじられて、『妹達(シスターズ)』誕生の基となったことは言うまでもなかった。
 そのことを知る上条に、彼女に掛けてやれる言葉はまだ見つからない。

「……」
「だけど今はもう、筋ジストロフィーの治療に私の能力は必要なくなったのよ……」

 現在、筋ジストロフィーは全て薬剤治療が可能であり、すでに難病ではなくなっていた。

「――だから私はこれから、この先何を目指すべきかっていうのをゆっくり考えようと思ってさ」

 発電系能力者はその能力の多様性が真骨頂であり、あらゆる場面に応用が利くのだが、それゆえに自らが進む道というものに迷いが生じやすい。
 電気の世界でも、電子の世界でも、医学でも理学でも工学でもどこへ進もうとその頂点を目指せるがために、ひとたび目標を失うとそのまま迷路をさまようことになりかねないからだ。




「ふーん。そういう意味じゃお前も大変なんだな……」

 そう言った上条の目が、わずかに何かを探るような目付きをする。
 それはこれまでとは違い、自ら「求めるもの」を探り当てようとする意思の表れのような光が宿っているようにも見えた。

「――いっそ誰かのお嫁さんを目指すなんてどうなんだ?」
「げほげほげほっ!?」

 いきなりの彼からの言葉に、美琴が咳き込んだ。
 普段の上条からは聞けそうにない言葉に、彼女の心臓がどきんと跳ねる。胸の内を見透かされたのかと思い、美琴は繕うように彼の顔を睨みつけた。

「な、なな、なによいきなりっ!?」
「んん? 年頃の女の子だったら、誰かのお嫁さんになるって夢を持ってる子だっているんじゃないのか?」 

 睨まれた途端に彼女の顔から、ふいっと視線を逸らした上条。彼女の表情から「求めるもの」を読み取ることは上手くいかなかったのだろうか。
 美琴はそんな彼の仕草から、内心を見透かされなかったことにほっとしながらも、少し残念な気持ちになる。

「でも、さすがにそんな理由で志望校を決めるなんてこと、ありえないでしょ?」
「――そうか? 漫画だって、好きな誰かさんを追っかけて同じ学校を目指すってのもあるけどな?」
「なによ、そのベタベタな少女漫画的展開……」
「えー、いいんじゃねえか? 一途に想ってますってのも俺はポイント高いと思うぜ?」
「そんなの漫画の中だけよ。現実にはなかなかいないわよ?」

 美琴はそう言うものの、上条の言葉になんだかドキドキと胸が高鳴っている。

「――そうか? 俺はそんな一途な女の子がいたら、いっぺんに好きになっちまうんだけどな……」

 上条から放たれた衝撃的な発言に、美琴の胸が貫かれる。
 それは彼女の顔に視線を向けようともせず、ただぼんやりと窓の外を眺めている様子の彼から、何気なく口にした言葉のようにも思われた。
 だが、

「そ、そう……なんだ」

 その言葉に頬を真っ赤に染める美琴。

(こ、これって……もしかして……)

 内心のときめきを押さえることが出来ず、俯いたまま膝の上でもじもじと指を絡ませていた美琴だったが、ふと視線を上げたとき、彼女の疑問は確信に変わった。
 なぜなら彼女の目の前で、上条も同じように頬を染めていたから。
 この時美琴の心の中で、彼女の進路が決まったことに、果たして上条は気づいただろうか。




「――ま、まあ、あ、ありがとね。参考にさせてもらうわ」
「あ、ああ。お役に立てて何よりですよ」
「それじゃ、私からのお礼ということで……」

 そう言いかけると、彼女はちらりと上条の表情を伺う。
 すっかり普段のにこやかな顔に戻っている彼は何も言っていないが、美琴には明らかにその先の言葉を待っているように見えた。

「――今日の晩ご飯、奮発しちゃおうかな?」
「そんなのいいって。俺の方こそいつも世話になってるんだし。御坂が時々料理作ってくれるおかげで、食費だって結構助かってんだ。インデックスなんて、すっかり餌付け状態なんだぜ」
「あんなの私からしたら料理の練習だし、試食までしてもらってるんだから、気にしてもらわなくていいのよ。それにあの子にだって、栄養よく食べさせてあげたいじゃない」
「そう言われると面目ありません。御坂センセーには足を向けて寝られませんですはい」

 申し訳なさそうにしながらも、その表情に嬉しさを滲ませる上条だった。
 そんな彼の顔を見て、同じように嬉しさを隠せない美琴からの更なる提案。

「なんなら今度は、お弁当作ってあげてもいいわよ?」
「――マジで?」
「マジで!」
「いやでもさすがにな。お弁当ってのは……」
「大丈夫よ。私だって高校生になったらその必要だってあるんだし。今からお弁当作りの練習をしておかないとね」
「そっか、だから料理の練習ってのも……」
「そ。来年からはひとりで家事をしなくちゃいけないしね。だから練習させてって言ってるの」
「でもなあ……」
「さっき『私の頼みなら最初から断るつもりなんてない』って呟いてた人は誰でしたっけ?」
「あん!? あ、あれはお前、言葉のアヤみたいなもんで……」
「――ひどいっ。私にはそうやって嘘つくんだ。ぐすっ……」

 美琴はわざと涕目を装って上目遣いに上条を見る。
 彼女からの上目遣い攻撃にたじたじとする上条だったが、それでも零れている喜びの感情は隠せなかった。




「あーわかったわかったからっ!じゃ、条件ひとつだけ」
「なあに? とりあえず言ってみなさいよ」
「――ゲコ太の弁当箱だけは勘弁してくれ」
「ええーっ。いいじゃないゲコ太。可愛いのに」
「いやいや、男子高校生がそんな弁当箱持ってったんじゃ、クラスメイトにからかわれるだけならまだしも、上条さんの場合、命にかかわりますからねっ!」
「ちぇっ。じゃ、アンタの弁当箱貸してよ。――せっかくだから他のフラグへし折っておこうと思ったのに……」
「なんですか、そのフラグって。上条さんにはそんなフラグなんてものは存在しませんのことよ!」
「はいはい、わかったから。じゃ、今からアンタん家行って、弁当箱回収するわよ。で、今夜は何食べたい?」
「えーと、麻婆豆腐? 今日のセールは豆腐とひき肉だったかな、たしか」
「それだけじゃ栄養も偏るから、なにかもう一品考えるわね。それにせっかくだからデザートも作っちゃおう」
「……」
「――? どうしたのよ、アンタ」
「なんかさ、お前本当に世話焼きスキル高いよな。やっぱりすぐにでも嫁に行けるんじゃね?」
「よよ、よ、嫁ってなによ!? 私まだ中学生なんだからねっ!」

(で、でで、でもアンタの嫁にだったら、今すぐにでもっ!)

 なぜか頬を朱に染めて、俯いたままぶつぶつと呟いている美琴。
 当の上条はというと、彼女の想いを知ってか知らずか、ニヤニヤとしながら、

「――でも女の子って、16歳になったら結婚できるんじゃねえの?」

 更に爆弾を投下した。
 カァーッと真っ赤になる美琴。

「なに赤くなってんだ? 御坂」
「ア、アンタが急に変なこと言うからよ。――バカ」
「あーそっか、すまんすまん。お子ちゃまなミコっちゃんには刺激が強すぎたか?」

 そう言ってまたニカリと、からかうように笑う上条。

「もうっ! からかわないでよっ! それにミコっちゃん言うな!!」

 ぷうっと膨れた美琴に、上条がふっと真顔に戻る。

「――ま、お前ならいくらでも嫁の貰い手はあるだろうけどな」

 上条はそう言うとふっと横を向く。美琴には、彼のその表情がどことなく寂しげに見えた。
 そんな上条の表情に、きゅんっと胸を切なく締め付けられたように感じた美琴は、

「あのね、もしね……」

 ついさきほどの進路相談への答えのようなものを、ぽろりと口走ってしまった。

「――他にいい人いなかったらアンタ、私のこと貰ってくれる?」




「――えっ!? み、御坂……」

 それまで年上の余裕を見せていた上条が唖然としたが、急にその意味を悟ってか顔が真っ赤になる。
 それを見ていた美琴も、自爆発言に気がつくと、顔を真っ赤にさせて慌てて言った。

「え、いや、あのその、だからその、ほ、保険よ保険! わ、私だっていつかは結婚するんだろうけど、あ、あ、相手がいなかったらダメだから!」
「あ、ああ、そ、そうだよな。あ、相手がいなかったら、けけ、結婚なんて出来ないしな。保険だよな保険! お、俺も掛けとこうかな、保険! い、いつも病院のお世話になってるし!」
「そそ、そうよね。アア、ア、アンタいつも入院ばっかりだもんね。保険必要よね! かか、掛けときなさいよ、保険!!」
「そそ、そうだよな。ほ、保険必要だよな!!」

 なにやら訳のわからない方向へと話は向いたが、二人の顔も同時に全く別の方向を向いたまま。
 パタパタと手のひらで赤くなった顔を扇ぎながら――今日もまだまだ暑いわね、と独り言を言う美琴。
 上条はぽりぽりと、赤く染まった頬を掻きながら、さーて今日のセールは何時だったかなと呟いている
 ドキドキと高鳴る胸の音が、相手に聞こえやしないかとひやひやしている上条と美琴。
 そんな沈黙が支配する気まずい空間をなんとかしようと、上条がグラスの水をごくりと飲む。
 美琴の方は照れ隠しに携帯を取り出すと、時間を確認するかのように画面を開く。
 と、

「あ! もうこんな時間! アンタ、セール始まっちゃうんじゃないの!?」

 美琴の声に、上条は慌てたように自らの携帯を取り出すと時間を確かめた。

「やべ! 急がなきゃ! 御坂、行くぞ!」
「ア、アンタ先行ってて。お会計済ませておくから!」
「お、済まねえ、後で払うから! ならお前のカバン持って先行くぞ!」
「お願い! すぐに追いつくから!」

 ばたばたと喫茶店を出て行く上条を、レジ前に立って横目で見送る美琴の姿は息もぴったりで、まるで長年付き合ったカップルか夫婦のよう。
 今日もこうして距離を縮めた二人だった。

「ありがとうございましたー」

 そこは2人の馴染みの喫茶店。

――ちなみにこの半年後、美琴が上条の高校に入学してきた時の出来事はまた別の話。


 ~~ To be continued? ~~






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