とある魔術の禁書目録 自作ss保管庫

Part08

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第7話 アンタの彼女


 美琴が風紀委員の支部を飛び出してから15分後。
 走り疲れた美琴は額に汗を浮かべ、息を整えながら街中を歩いていた。

「はぁ…全然見つからない…なんかすぐに会えそうな予感がしたんだけどな…」

 予感はあくまでただの予感。
 この15分間、適当に走り回ってみたものの、上条を発見することはできなかった。

「もしかして佐天さんたちとどこか店に入っちゃったのかな…」

 だとすれば、見つけることは困難だろう。
 学園都市の中には何百、何千という店がある。
 仮に第7学区限定としても、相当な数であり、一軒一軒調べていてはらちがあかない。

「携帯は壊しちゃったから使えないし…でも諦めるわけにはいかないし……う~ん…」

 と、上条を探す方法を考えるも、いい手段が思いつくことはなく、美琴の気分は徐々に沈み始めていた。
 しかしいつまでも、ここで二の足を踏んでいるわけにはいかない。
 とりあえずいつもの公園にでも行ってみようかと思い、次の交差点を右に曲がると、

「あらお姉様。偶然ですわね。」
「へ?」

 交差点を曲がってすぐのところに立っていたのは、美琴のルームメイトである白井黒子だった。
 腕に風紀委員の腕章をつけているところから、まだ仕事中だということがわかる。
 また、今の黒子は普段と違い表情は真剣そのものだ。
 どうやらこのカラオケ店で何かがあったらしい。
 急に不安になった美琴は

「ど、どうしたのよ。今日は風紀委員の仕事があるって聞いてたけど、何かあったの?」
「ええ。本来するべき仕事とは別の仕事なのですが、このカラオケ店でもめ事があったそうで…」
「もめ事?つまり喧嘩ってこと?」
「まあそうなのですが、片方が一方的にやられたみたいですわ。なんでも1人の男子生徒が10人以上の女の子を引き連れて来店して、その女の子のうちの一人にやられたとか…」
「てことはその女の子は上位の能力者……ん?ちょっと待ってよ…10人以上の女の子を引き連れて?」

 危うく聞き逃すところだった。
 今黒子の口から発せられた重要な台詞、それは『10人以上の女の子を引き連れて来店』というものだ。
 そこから連想できる人物は1人しかいない。
 これだけ簡単なクイズも珍しいだろう。

(キター!!今日の私ってやっぱりついてる!絶対にアイツのことよね!)

 このカラオケ店に上条がいると確信した美琴は、小さくガッツポーズをする。

(これでアイツに解毒薬を飲ませられるし…万事解決よ!)

 後少しだ。
 後少しで上条を助け、ようやく交際をスタートすることができる。
 解決の糸口が見えたことで胸が高鳴るが、まだ問題はある。

「まあお姉様は一般人なのですから、この事件には手を出さないでくださいませ?」
「え…と……」

 そう、問題とは目の前の黒子である。
 風紀委員である彼女は、一般人ある美琴をこの事件に関わらせようとはしないのだ。
 では、どうやって店内に入るか。
 ぶっちゃけ強行突破してもよかったのだが、美琴にはある考えがあった。

「お姉様?わたくしの話を聞いt」
「黒子!私その犯人知ってる!!」
「ッ!?本当ですの!?是非とも教えてくださいまし!」
「もちろんよ。協力するのは当然だしね。でもその代わり…」

 美琴はそこで一旦言葉を区切った。
 そしてニコリと笑い、黒子に言う。

「私も一緒に中へ連れてってくれるのなら、教えるわよ?」



 ♢ ♢ ♢


 時間は少しだけ遡る。
 上条が美琴を抱きしめて幸せに浸っていた時、そして美琴が上条に抱きしめられて“ふにゃー”とかなっていた時、学園都市の空港に1台の小型ジェット機が着陸した。
 静かに扉が開き、その中から現れたのは、真っ赤なドレスを身にまとった一人の女性。

「おー!ここか学園都市か!初めて来たが……結構栄えてるじゃないか!!」

 彼女の名前は、キャーリサ。英国第2王女である。
 “外”の世界より2、30年科学が発達しているこの町を見た彼女は、無邪気にはしゃぎ目を輝かせていた。
 王女と言えど、一人の人であることに変わりはなく、珍しい物には興味があるのは当然のことだった。
 しかし、なぜキャーリサが自家用ジェットまで使って、学園都市に来たのかというと

「それにしても、あいつら私を置いて行くとは極刑ものだし。」

 あいつら=ステイル一行のこと。
 つまりキャーリサもみんなと同様、学園都市を観光したかったわけである。
 とはいえキャーリサは英国の王女、簡単に国と国を行き来できるわけがなく、今回はお忍びで来ているのだ。
 そのためジェット機は自動操縦、護衛も1人しか連れてきていない。
 その1名とは

「ちょっと…なんで私がお前に付き合わされなきゃいけないのよ…」

 神の右席が一人、前方のヴェントだった。
 詳しくは説明しないが、いろいろあって強制的に連れてこられたヴェントはいらついた様子でジェット機から降り、キャーリサに食ってかかる。
 だが、キャーリサは特に気にする様子も無く

「なんでって、護衛のために決まってるし。それくらいわかれ。」
「護衛って、カーテナの欠片持ってるやつに護衛がいるわけねぇだろうが!!それに私は科学の街が嫌いなのよ!!」
「そんなことは知らん。とにかくついてこい。」
「………ぶっ殺してぇ…」
「返り討ちにしてくれるし……と、言いたいところだが、今は学園都市を探索することが先決だし!よし、行くぞお供1号。」
「誰がお供1号だ!!」

 まさにコント。
 こうして学園都市に、一人の王女と最高峰の魔術師が解き放たれた―――

 ……なんで学園都市の空港にイギリスのジェット機が勝手に着陸できたんだよ、などのツッコミはなしの方向で。



 ♢ ♢ ♢


 ここは学園都市第7学区のカラオケ店。
 都市内で有名なチェーン店であるこのカラオケには連日多くの学生が来店し、文句無しの人気を誇っている。
 そして今日もいつもと同じように大勢の学生が足を運び、にぎわっているわけだが、

「ど、どうしてこうなった…」

 そのカラオケ店のパーティルーム、つまり普通より大きめの部屋の一番奥の席に座り、両手で頭をかかえ、悲壮感漂う様子でつぶやくのは、不幸少年上条当麻だ。
 今から30分前に風紀委員の第177支部で初春と佐天に会ってしまい、必死で逃げ出した彼だったが、いろいろあってカラオケ店にいた。
 カラオケと言えば友人と来ることが多い場所なのだが、上条は違う。

「ねぇ、ほら口を開けてくださいよ!アーンしてあげますから!」
「ちょっとダメだって初春!私がするんだから!!」

 と、店内で注文したパフェを上条にアーンさせようとしているのは、初春と佐天だ。
 好きな人無し、上条と会話したことありの2人は、完璧に『増強剤』の影響を受け上条に惚れてしまっている。
 そのため『アーン』をしようとしているのだが、当然上条は全力でそれを拒否。
 初めての『アーン』は何がなんでも美琴にしてもらいたいので、絶対にこの2人とするわけにはいかない。
 そんなわけで必死に交わしている上条だが、現在側にいるのはこの2人だけではない。

「じゃ、じゃあ私にアーンしてください!」
「シスターアンジェレネ、何を言っているのですか?当麻にアーンしてもらうのは私ですよ?」
「2人とも!引っ込んでやがりなさい!私が1番にしてもらうに決まってるじゃないですか!!」

 と、言い争うのは魔術サイドのアニェーゼとアンジェレネとルチアの3人。
 この3人は誰が上条にアーンをしてもらうかを、激しく争っていた。
 もちろん上条にはそんなことをする気はさらさらなく、なんとか言葉巧みに交わしている。

(マジでどうしてこうなった…。風紀委員の支部から逃げ出したのが間違いだったか?あそこで逃げないで土御門を待っておけばよかったんじゃ……)

 そう後悔しても、もう遅い。
 選択を間違えて外に逃げてしまったため、多くの知り合いの女の子に会い、カラオケBOXはハーレムと化していた。
 料理を持って来た店員(男性)が、かなり上条に嫉妬していたのは言うまでもない。

(はぁ…この5人はどう見ても影響受けてるな…他のメンバーは…)

 一体この部屋にいる女の子は誰が増強剤の効果を受け、誰が受けていないのか。
 上条は右から順番に、女の子に目を移していく。
 10畳ほどの縦に長い部屋の、一番右、アニェーゼやルチア側に座っているのは

  • 1人目:天草式十字淒教所属『五和』

「えと、あの、これどうなって…」

(五和はどうみてもこの状況に困惑してるな。ってことはいつも通りか。)

 その通り。
 普段から上条に好意を寄せている五和は、増強剤の影響を受けていなかった。
 知り合いのアニェーゼやルチアがおかしなことになっていることに戸惑い、話しかけたりしているものの、返事は返って来ていない。
 というのは3人が上条に夢中だからである。
 そのため五和は混乱する一方だ。

  • 2人目:上条の同居人『インデックス』

「ちょ、ちょっと!みんなとうまにくっつきすぎかも!!」

 五和のすぐ隣でさわいでいるのは、修道服をきたインデックスだ。

(インデックス……も、いつも通り。)

 五和と同様、普段から上条に好意を持っている彼女は普段となんら変わりない。
 ただ唯一おかしいところと言えば、目の前に初春たちが注文した料理があるにもかかわらず、全く手をつけていないところだ。
 これは上条に女の子が接近しており、食べ物を食べている場合ではないということなのだが、

(インデックスのやつ病気とかじゃないだろうな…)

 そのことを上条がわかるわけがなかった。

3人目:上条のクラスメイト『姫神』

「謎が。深まった…」

 と、五和とインデックスとは反対側に座っているのは、制服姿の姫神だ。

(……姫神もいつも通りっぽいな。まあ学校でも普通だったし影響を受けてないだろ。)

 無表情のようだが、いつもと比べると若干険しい顔をしている。
 当然、影響を受けてはいない。
 元々姫神は上条にこの騒動について尋ねようと思っていたのだが、それどころではないようだ。



4人目:イギリス清教所属『オルソラ』

「……」

 なぜか無言。
 オルソラは姫神の隣に座っているのだが

(……なんだろう…オルソラが怖い…)

 五和と同じく観光のため学園都市を訪れていたオルソラだが、普段と比べ何かが違う気がする。
 いつも通り笑顔なのだが、その笑顔がなんだか怖いのだ。

(これは……増強剤の影響を受けてるのか?でも初春さんやアニェーゼみたいに、態度には直接出てないし…)

 未だ言い寄ってこないところを見ると、影響を受けていないようにも思える。
 どちらなのかははっきりしないが、今のところ怖いだけで他に問題がないのでとりあえずそのままにしておくことにした。

 そして、この4人の女の子を見て上条が思ったことは

(……オルソラはともかく、みんな好きなやついるんだなー。)

 相変わらず鈍感な上条だった。
 全員が自分のことを好きだなんて思いもしない。

(まあこの4人は暴走することもないし、とりあえずほっとこう。)

 全てを説明するのは後でいい。
 今は一刻も早く、この場から立ち去ることが先決だ。
 しかし、この室内にはもう一人女の子が存在し、その女の子がいるため立ち去りにくいのだ。
 その女の子の名前は―――――


 と、名前を発表する前に、ちょっと問題になっていることがあった。

 上条は総勢10人もの美少女を連れて来店したわけなのだが、これだけの女の子を連れて来店すれば嫌でも目立つ。
 そして、それを見たモテない男達が、嫉妬からこの部屋に押し寄せて来たのだ。
 しかもスキルアウトと呼ばれる無能力者集団だけではなく、能力者までだ。
 彼らは調子に乗っている(実際は困り果てている)上条をボコり、女の子を調達しようよいう考えをもっており、実際部屋に入って来るなり、上条に襲いかかろうとしたのだ。

 が、問題はそこではない。
 室内にいる女の子の中には戦闘に向いている五和やアニェーゼがおり、上条を襲おうとした哀れな少年達をフルボッコしたのは言うまでもない。
 中でも率先して男たちをボコっている女の子がおり、その人物こそが室内にいる最後の一人。

「どうです!当麻を襲おうとする不届きものは全員抹殺しておきましたよ!」

5人目:天草式十字凄教女教皇『神裂』

(……不幸だ…)

 この部屋最大の問題、それはバッチリ薬の影響を受けてしまっている神裂火織だった。
 普段とのギャップが激しく、この室内で中に就いて目立っている。
 世界に20人しかいないと言われる聖人ですら、増強剤にはかなわなかったようだ。

 また、神裂こそ上条をさらってカラオケに連れて来た張本人だった。
 道端で偶然出会ったかと思えば、光速で増強剤の影響を受けて上条に惚れた彼女は、強引に上条をすぐ側にあったカラオケ店に入店したわけである。
 どうしてあそこで神裂会ってしまったのだろうか、などと上条が考えていると



「当麻、聞いているのですか?」
「え?あ、ああ…ありがと…」

 上条は心配だった。
 神裂にやられた人々が、リアルに『抹殺』されていないだろうか。
 怖くて確認に行けない。

(……まあ大丈夫だということを祈ろう。それにしても……まだ誰も告白してこないことが奇跡だな。)

 吹寄や絹旗のように、影響を受けてからすぐに告白してこないのは、人数が多いからだろうか。
 お互いに言い争ったりしているため、告白の機会が無いのだ。
 だが、何かが引き金となり告白されるようなことがあれば、その場でいろいろと終了するだろう。
 このどうしようもない状況に、上条は大きなため息をつく。

(御坂に会いたい……ほんとあの時支部に残っときゃよかった…)

 もし初春と佐天が入ってきた時、固法の力を借りて2人を強引に押さえておけば、その後にやってきたであろう土御門から解毒薬を受け取り、今頃すべてが解決していたはずなのだ。
 しかし、いつまでも自分の選択ミスを悔やんでいるわけにはいかない。
 上条はなんとか気持ちを切り替え、

(さて…どうやってここから脱出すれば……絹旗の時と同じでトイレ作戦にするか。)

 上条では、これ以上の作戦を考えだせなかった。
 それに無い知恵を絞っている時間もないので、この作戦をとにかく実行あるのみだ。
 長居は恐れとも言うし、作戦実行のため上条が立ち上がろうとした時

「どこに行こうとしてやがるんですかーっ!」
「うおっ!は、離れろアニェーゼ!」

 上条の右腕に急に飛びついて来たのはアニェーゼ。
 ガッチリを掴み、上条を立たせないようにしている。
 それを皮切りに、女のが続々と上条に飛びついてきた。

「ちょっとずるいですよ!」
「ええっ!?ルチアも!?普段とキャラが違う…」
「あー!じゃああたしもあたしもー!」
「佐天さんもそんなくっつかないで!!ちょ、インデックス!姫神!何か言って……あれ?」

 腰や腕に抱きつかれ、困った上条は『影響を受けていない組』の2人に助けを求めた。
 が、

「とうま……どういうことなの?」
「え?いや、どういうことって…?」
「だから、なんでそんなに女の子に抱きつかれているの?かおりもみんなもおかしいし、どういうことか説明してほしいかも。」
「あ、それはだな。土御門が持って来t」
「けど、説明の前に…」
「え?……あの、インデックスさん、なんでそんな歯をガチガチと鳴らしていらっしゃるんで…?」
「簡単なことなんだよ。……とうまに噛み付くために決まってるかも!!」
「なんでっぇぇぇぇぇぇぇええええって痛い痛いお願い離れてくださいインデックス様!!!!」

 必死に命乞い(?)をしたが、そんなことは無駄だった。
 インデックスは上条の頭に噛み付いたまま、全く離れようとしない。
 さらに、インデックスが飛びついたのを見たことで、初春、アンジェレネまでが上条に飛びついた。
 さすがに増強剤の影響を受けていない、五和と姫神とオルソラは飛びついてこなかった。
 というかあまりに衝撃的な出来事に石化しているようにも見える。
 また神裂は上条と離れた位置にいたため、出遅れたようだ。
 離れた地点でわなわなと震えている姿が確認でき、キレないかが心配だ。
 だが、今は自分の頭が噛み砕かれないかの方が心配だった。



「お、おい!みんな離れろって!特にインデックス!!マジで頼むかr」
「絶対にイヤ(かも)(です)!」

 絶対に離れない、という姿勢を見せる女の子達、そして上条の頭に噛み付き続けるインデックス。
 頭は痛いし、体は重いしどうしようもない。

(こ、この場合どうすれば……何か逃れる方法は…)

 だが、この状況で回避する方法が思いつくわけもなく、完全に追いつめられたと思った時だった。
 バァン!!という大きな音が室内に響き渡った。

「な、なんだ!?」

 と、上条は口ではいったものの、入り口に目をやれば音の原因はすぐにわかった。
 ドアだ。
 入り口の扉が勢いよく開いたのだ。
 そして入って来たのは、店員でも上条に嫉妬した男たちでもなく、髪の短い少女とツインテールの少女。
 その片方の少女は、上条を指差し

「ちょ、ちょっと何やってんのよアンタ!!」
「え!?み、御坂、なんでここに…?」


 ♢ ♢ ♢


 なんだかカラオケボックスが大変なことになっている中、場面は変わってこちらは黄泉川のマンション。

「あーヒマだー!何か面白いことないのー!?」

 と、言いながらうつぶせの状態でソファにゴロンと寝転がり、足をじたばたと動かしているのは、一方通行や打ち止めの同居人である番外個体だ。
 一方通行もいない、打ち止めもいない、黄泉川もまだ帰ってきていない、芳川では遊び相手にならない。
 とにかくすることがなく、番外個体はヒマだった。
 ならばどこかへ出かければいいではないか、と思うかもしれないが、出かけたところですることもない。
 どの選択をしても、最終的には『ヒマ』に行き着いてしまうのだ。

(本気ですることがない…なんか大事件でも起こればいいのに…)

 番外個体がそんなろくでもないことを考えた時、無言でひたすらパソコンをいじっていた芳川が言う。

「ヒマなら外へ行ってみたら?掲示板に書き込みがあって、何か面白いことが起きているみたいよ?」 
「面白いこと?それってミサカでも面白いと思える?」
「……まあ多分。まあ町へ行けばすぐにわかると思うわよ?暇つぶしにはいいんじゃない?」
「じゃあ行くっきゃない!芳川、ミサカちょっと出かけてくるから留守番よろしく!!」
「いってらっしゃ~い。」

 適当に返事をする芳川、そんな彼女を背にし、番外個体はニヤついた顔のまま、黄泉川のマンションを飛び出した。
 そして一人になった芳川は静かに呟く。

「“ツンツン頭の少年に惚れる人が続出”って書き込みがあるけど……番外個体も惚れるのかしら?」



 ♢ ♢ ♢


 美琴は怒っていた。
 その怒りはかなりのものであり、体から漏れる電気、そして怒りに満ちた表情がそれを物語っている。
 それほど美琴が怒る理由、それは目の前の光景が全てを物語っている。

(コイツ……いくらみんなが増強剤の影響を受けてるからって、何も抱きつかれまくることはないでしょ!振り払うくらいしろっつーの!!)

 怒りを抑えられない美琴は、無意識のうちに体に電気を纏い、奥に座っている上条へと近づく。
 すると問題の上条は女の子に抱きつかれた状態で、

「ま、待て誤解だ御坂!!」
「わかってるわよ!みんな増強剤の影響を受けてアンタに惚れてるんでしょ!?」
「あ、わかってるんだ…それでなんでここに?」
「え?あ…それは……その…」

 急速に怒りが消滅した美琴は、上条から目を逸らし言葉を濁した。
 なぜならば、“私はアンタの彼女だから、アンタを助けようと思って”とか言いたかったからだ。
 言いたかったのだが、めちゃくちゃ恥ずかしかった。

(……こんな大勢の人がいる前で…まあ2人きりでも恥ずかしいけどさ……で、でもみんな薬の影響を受けてるなら……)

 先ほど風紀委員の支部を飛び出す前に、ほんの少しだけ土御門に説明を受けたのだが、解毒薬を上条に飲ませ元の状態に戻せば、女の子達の記憶は消えるらしい。
 と、いうことは、この場で上条の彼女宣言をしても問題はないはずだ。
 悩んだ末、美琴はちょっとだけ勇気を出して

「だ、だ、だ、だって、わ、私は、アンタの彼女なんだから!ここに来るのは当たり前でしょ!」
「ッッ!!?」

 上条にそう言い放った後、美琴は瞬時に俯いた。
 俯く直前に見えた上条の驚いたような表情だった。

 その後に体上条はどんな反応をしてくれるだろうと思い、ちょっぴりドキドキしながら顔を上げると

「御坂、マズい、それは本気でマズいって…」
「…え?」

 上条は嬉しそうな表情をするどころか、青い顔をしてこちらを見ていた。

(な、なんで…?もしかして、嫌だったの…?)

 そんなわけはない。
 普段の上条なら飛び上がって喜ぶだろう。
 しかし、今上条には素直に喜べない理由があるのだ。
 その理由とは

「ちょっと…とうま。どういうことか説明してほしいかも。」
「ええ。説明してほしいのでございます。」
「つ、つ、つ、付き合ってる…?」
「…そんなこと。聞いてない。」

 そう、この部屋の中にいる女の子たちの存在である。
 影響されてないグループの4人は、驚いたり、怒りの感情を見せているようだ。
 また、影響を受けているグループは、美琴に鋭い眼差しを向けていた。
 神裂に至っては、腰の刀に手をかけていた。
 そんな女の子たちを見た美琴は



「ああ、マズいってそういうことね。」

 自分が“アンタの彼女”と言ったことに対し、上条が嫌がっていなかったとわかり安心しながらも、

(…みんな怒ってる…よね?)

 『上条の彼女』と言ってしまったことで、やはり怒りを買ったらしい。
 室内にいた女の子は皆、殺気立っており今にも美琴に襲いかかってきそうだ。
 が、美琴だって引くわけにはいかない。
 引いてしまえば、上条を取られることになるのだから、襲いかかってこられても、美琴は応戦するつもりだった。

(佐天さんと初春さんには絶対当てないように…ていうか誰にも当てちゃダメか。てことは威嚇に電撃を撃って応戦しつつ、アイツにこれを飲ませないと…)

 と、考えるも、『相手に電撃を当てないとう応戦しつつ、上条に解毒薬を飲ませる』、というのはそんなに簡単なことではない。
 むしろかなり難しい部類に入る。
 相手が悪人ならともかく、普段は皆上条の友人なのだから、傷つけるわけにはいかないからだ。
 なんとも言えない緊迫感、相手が先に動くか、それとも自分から行くか、絶妙な間合いの中美琴が考えていると

「ま、待てみんな!ちゃんと説明するから、だからちょっとだけ待ってくれ!」

 と、上条が周りの女の子達に言った。
 その一言が効いたのか、女の子たちは臨戦態勢を解除し、美琴は自分に向けられていた殺気が消えたことがわかった。

 上条はまだ抱きついていたアンジェレネと佐天を引き離してから立ち上がり、慌てて美琴の側へ駆け寄る。
 美琴の発言で怒りが優先していたためか、上条にくっついていた2人の力は揺るんでいたらしく、簡単に引き離せたようだ。
 そして美琴の側にやってきた上条は小声で、

「お、おい御坂、何しに来たんだ?危ないから早く逃げたほうが…」
「いや、あの、アンタに渡したいものがあるのよ!」
「渡したいもの?だから今はそれどころじゃ…」
「だから、この状況を解決できる物なのよ!」

 そう言って、美琴は持っていたカバンの中から、土御門より預かったきた解毒薬を取り出した。
 “何それ?”みたいな反応をしている上条に美琴は

「ほらこれ!土御門のお兄さんから預かってきたんだけど、これを飲めば全て元通りになるんだって!」
「何ぃ!?ほんとか!?」

 上条の顔が急激に明るくなった。
 余程今までの出来事がつらかったのだろう。
 上条からは嬉しさがにじみ出ており、解毒薬を見る目は輝いていた。

「おお…これが……ありがとな御坂!」
「お、お礼なんていいわよ。だ、だって私はアンタの…か、かの、かのj」
「ん?なんだって?はっきり言ってくれないと聞こえないんだけど。」
「……やっぱりなんでもない…あ、そうだ。黒子、別に事件とかじゃ……あれ?黒子?」

 いない。
 一緒に入って来て、後ろに立っているはずの黒子の姿がないのだ。

(な、なんで?ひょっとして中にいたのがコイツだから帰っちゃったとか?)

 しかし、黒子が自分に言葉をかけずに帰ってしまうだろうか、なんて美琴が考えた時

「え?」

 シュン!という音。
 その音が連続で聞こえたとき、室内に神裂の姿はなかった。ホラーとかではない。
 神裂は能力によって別の場所に飛ばされたのだ。


「ふふふふふふ……上条様は絶対に渡しませんわよ!!」
「黒子ッ!?」

 そう、白井黒子の『空間移動(テレポート)』によって。

「ちょっと黒子!アンタ一体何して…」

 美琴が黒子を止めようと思うも、黒子は話を全く聞こうとしない。
 テレポートを繰り返し、次々と室内の女の子をどこかへ飛ばして行く。

「え!?何が起こっt」
「テレポートってことは。上位の能力s」
「ちょっととうm」
「まあ…人が消えるとは一体どうy」

 順番に五和、姫神、インデックス、オルソラと消えていった。
 そして、その後すぐに佐天、初春、アニェーゼ、ルチア、アンジェレネらも黒子のテレポートによって、どこかへ飛ばされてしまった。

 室内に残されたのは美琴、上条、そしてようやく落ち着いたのかテレポートを止め、上条の近くに立つ黒子の3人のみ。
 騒がしかった室内は、急激に静まり返り、聞こえるのは設置されているテレビの音だけだ。

(黒子まで…なんか黒子は影響されないって気がしてたんだけど…)

 そんな言い訳をしている場合ではない。
 今はなんとかして黒子を止めなければならない。
 だが、実力行使というわけにもいかないので、なんとか話し合おうと思った美琴は

「黒子!あの、ちょっとだけ話を」

 そこまで言った時、美琴の目の前に広がっていた光景はカラオケの店内ではなかった。
 目に映るのは多くの人と商品。
 周りを歩く人はなんだか驚いているようだ。

「…………あれ?」

 一体何が起こったのか、理解するのに少し時間がかかったものの、

「ここ……デパート?よね…?」

 どこのデパートかはわからないが、周りの様子から大型の店であることは間違いない。
 つまり、

「………また飛ばされた……もうちょっとだったのに~!!」

 本日2度目の強制テレポート。
 上条も不幸だが、この日限りは美琴も負けないくらい不幸なのだろうか、せっかく上条を救えると思ったのに、また振り出しに戻ってしまった。
 さすがにショックは大きく、美琴はがっくりとうなだれた…かと思いきや

「……でも、彼女って言えた……えへへ…」

 妙なところで幸せに浸る美琴だった。



 ♢ ♢ ♢


「ちょ、ちょーと落ち着け白井!頼むから来ないで!!」
「止めませんわ!上条様はわたくしの物なのですから~ん♪」

 場面は戻って、こちらは美琴がテレポートによって飛ばされた後のカラオケ店内。
 『増強剤』の影響を受けた黒子は、いつも美琴に迫っているようなかんじで上条に襲いかかろうとしていた。
 上条も自らの貞操に危険を感じ、室内を逃げ惑っていたのだが、黒子のテレポートから逃げられるわけがなかった。
 今では部屋の隅に追い込まれ、鉄の矢で服を固定され身動きがとれない状況にあった。

(いかーん!!これはいかんぞ!!本気でマジで冗談抜きでシャレにならん!!)

 目を不気味に光らせ、このときを待ってましたかと言うように、黒子が近づいて来る。
 このままでは、やられる。
 美琴との輝かしい未来のためにも、なんとかせねばと思うのだが、鉄の矢によって完全に動きを封じられているためどうしようもない。

(こんなところで俺は終わるのか!?頼む!奇跡よ起これ!!)

 まさに神頼み。
 上条は目をつむり、ただひたすら祈った。
 なんでもいい。
 何か起こってくれ、今後補習ならいくらでも受けるから、とか思いながら目をつぶり続けていたのだが

(……ん?)

 おかしい。
 目をつむってしばらく立つのだが、黒子が何もしてこない。
 それに黒子が近寄って来る気配が無くなった気がする。
 本当に奇跡が起こったのか、上条はおそるおそる、ゆっくりと目を開けた。
 するとそこには―――

「お、お、お姉様……わたくしはお姉様に大変なことをしてしまいましわた…」
「…………ん?白井?」

 黒子の様子が違う。
 いや、正確には『普段通り』と言った方がいいかもしれない。
 なぜ元に戻ったのかはわからないが、黒子からいつもと同じような雰囲気がするのだ。

 何はともあれ助かった。
 と、思ったのだが……

「あのー白井さん、正気に戻ったのならこの矢を取ってくれま」
「お前が全部悪いんじゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああああああああ!!!!!!!!!!!!!」
「ぐぼぅっふう!!??!?」

 全然助かっていなかった。
 上条は理不尽な理由で、黒子から渾身のドロップキックを顔にくらい、妙な声をあげた。
 そして上条を蹴り終わった黒子は

「お、お姉様、今黒子が参りますわー!!」

 自分で飛ばしておきながらそんなことを叫び、テレポートを使用してカラオケ店から去って行った。
 再び静まり返る室内、残された上条は呟く。

「……な、なるほどな…好きな相手が同性の場合は、こういうこともあんのか…」

 土御門も予想していなかったであろうパターン。
 もう1回会うとどうなるのか、そんなことも考えた上条だったが

「……御坂可愛かったな…“アンタの彼女”か、できれば、もう1度言って、ほし、かった…」

 上条は壁に貼付けにされた状態で、無惨な死を遂げた。(注:本当は気絶しただけです。)






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